Muv-Luv UNTITLED   作:厨ニ@不治の病

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Muv-Luv UNTITLED 16

2003年 5月 ―

 

 

日本。

帝都・帝都城内。

 

佳く晴れた日だった。

気温も日中は25度を超え、早くも夏の到来を予感させるそんな日。無論実際にはその前に梅雨を過ごさねばならぬけれど。

 

 

僅か明るく青成す黒髪、薄明の紫を湛えた瞳。政威大将軍・煌武院悠陽。

臙脂色に黒の縦縞の二つ揃い。最近の行幸は身軽さの演出も兼ねてか洋装が多く、随分と着慣れても来た。

 

 

広い執務室は半洋風の設え、大きな黒檀の机。

午後の公務 ― 近県での行幸、日帰り ― から戻った悠陽は、疲れた素振りも見せず着替えもせぬままさらに幾つかの決裁事項を済ませる。

 

 

今年の暮れで二十歳に成る。

一般世間でも若年とされて差し支え無かろうし、さらに為政者としては、否、実際に政に携わるでは無いにせよ、国家の顔としては未だ余りに若い。

ただその分、体力には余裕があり。

日々の活計に思い悩む國民と、彼らと此の瑞穂の国を護らんと身命を賭す兵士らと。

結果として乍ら今尚この身の為にその生涯を擲たせている妹の事を想えば ―

疲れた等と弱音を吐く事等許されぬと、悠陽は以て自らに任じて居た。

 

 

そして形式のみとは云え、目を通し花押落款の一つも押さねばならぬ書面は山と在る。

どの道口の端に乗せる事も出来ぬにせよ、疑問を抱かざるを得ない様な内容の決裁は以前に比べてうんと減りはした――が、逆に今は、ともすれば世論の後押しに依り、政が軍なり斯衛なりに寄り添いすぎる方向へ流れていくのを注視せねばならぬ。

 

 

何かに付け…斑鳩公は良きに計らってはくれますが……

 

悠陽の瞳には僅か、憂慮の影。

それが心の奥底から失せる時は無い。

 

 

総てはあの、来たり得ると云う地獄の未来に備えんが為。

 

合成蛋白洋上設備の増設、在東南亜細亜諸国に始まる工業施設群の再整理・整備等々。

民間との円滑な連携も以て、着々と進む其れ等の幾つかは既に形に成って。

 

然し水清ければ魚棲まずとも云う様に、必ずしも其れ等総てが清廉潔白の下に行われているとは云えまい。機を見るに敏にて成り上がった者も居れば重工等に代表される大企業 ― 所謂既得権者達。

癒着とまで言わずとも正当な束脩を得る傍らで旨味を享受する者も居よう、意気に感じて働いてくれた者にも何らかの形で報いねばならないし、抑抑皆が皆高邁な志のみを恃みに霞を喰ろうて生きる訳では無い。限度は有れど酒食での饗応のみ成らず富に色にと持て成す事とて。

 

其れ等の多くが或る種見て見ぬ振りやら許されているのは一昨年来続く帝国の勝利と。

世界に冠たる我等が帝國、其の象徴と元勲として軍とそして摂家と同一視される斯衛への、民の信望が厚きゆえ。

大逆未遂以来表面的な熱狂は収まったとはいえ、逆にそれを以て民が内包する様に成った自尊の意識が行き過ぎはせぬかと云うのが悠陽の懸念の一つ。

 

 

しかし…

 

斯様な思慮なぞは、彼の政威軍監にはとうに考え及ぶ処の筈。

悠陽は捺した玉璽を置いて印箱を閉じる。

 

 

斑鳩公崇継は紛う事無き傑物。

故に悠陽は本音を申せば、退位なり譲位なりで至尊の位なぞ譲りたかった。

数年前迄夢想だにし得ぬ其れはしかし、現在ならば。

御役目から逃げ出したいのでは無く、己より斑鳩公がより帝国が為に優れるが故に――

 

 

併し乍ら其の故にこそ、今はまだ。

 

 

小さく執務室の扉が叩かれ、書類を捲る手を止めて悠陽はちらと時計を見た。午後五時三十分。

長くなった日はまだ高かれど夕餉は通年定時で午後六時、呼びに来た近侍の麗人衛士・赤服の月詠真耶に応えて席を立った。

 

「欧州派遣軍はどのように」

「は、未だ報告は御座いませぬ」

「そうですか…」

 

目下の懸案事と云えば其れ。

彼の芬蘭の地と帝国の時差は7時間。早朝よりの作戦開始とは聞いては居る、逐次軍と斯衛上層には連絡が入っていようが、其れが将軍に迄都度上げられる事は無い。

 

 

そして其れを何より遣る瀬無く思い、身を持て余すのが――

 

 

「――待たせましたね」

「いえ…」

 

真耶を引き連れ執務室を出た悠陽が入った和室は敢えてこぢんまりとした設え、中には拝跪し俯く冥夜が居た。今宵は夕餉を共にする予定。

 

洋装の悠陽に合わせたのか、冥夜も市井の娘が如き洋服。それも能く似合っていて、しかし身体を動かし汗をかいて湯浴みをしたのだろう。悠陽より僅か濃く青成す黒髪は未だやや湿っていた。

 

 

冥夜が直ぐに面を上げるのも、平伏せぬ様に為ったのも暫く前に漸く。だが其れすらも、気楽に安く接してはくれまいかとの悠陽の願いに応えての話。悠陽が済まぬと云う度、許せと詫びる度に却って冥夜は恐縮して仕舞う。

 

ゆえに互いの気持ちが通ずる感触を抱けてはいても、悠陽はもどかしさが拭い切れぬ。

 

此岸に生まれ落ちた順が僅かばかり違ったが為に引き離された姉妹の時間には、最早容易には埋め難い隔たり。そして恐らくはそれは終生滅する事は無いであろうと云う予感。

結局は己の将軍なる立場が、冥夜の其の身を日陰から影へと移したに過ぎないと云う事実は、悠陽にとって認めざるを得ずも然りとて易くは容忍し難い現実。

 

 

座卓に対座し、真耶が運ぶ食事に揃って箸を付ける。

炊いた白米、味噌汁に鰤の照焼。茶碗蒸しに玉子焼。食の好みが似ているのは嬉しかった。

 

御飯を除いて他は合成食品。

現代に於いては将軍とて平生から豪勢な食事をしている訳では無い。

量として悠陽には十分乍ら厳しい鍛練を欠かさぬ冥夜には明らかに足りない、其処は増加食を用いているらしく、悠陽は申し訳なくも思う。

 

彼是と会話し乍ら食事をするのが市井の常とは聞くものの、姉妹の食卓に言葉は少ない。

囀り過ぎは品を失するし、互いを想う気持ちは通じていても、然りとて共通の話題がそう有る訳でもなし。それでも、

 

「気になりますね」

「…はい」

 

ふと掛けた言葉に冥夜が肯んじるも。

言葉面は同じでも、その意味と重心とが異なる事を悠陽は理解していた。

 

悠陽は国権の代表として、軍民ら総てを。然し冥夜が案ずるのは、極論すれば只一人。

常より務めて私情を見せぬ様振る舞うのは、何も悠陽に限った話では無し。冥夜の表情こそは今も平静なれど、深海の如き瞳には押して殺すも荒れ狂う葛藤。

 

本当は、共に戦陣に立ちたいのだろう。厳しい訓練を共にした仲間も出征したと仄聞した。

彼の衛士の出立ちには鑽火をして送ったと月詠の真那の方から聞いたが、座して銃後を守るのみとは終ぞ願わぬ筈。

 

 

彼の、帝国最強と謳われる「双刃」。黒を纏う斯衛。

 

野心も無ければ欲も無く、只只管に異星種討滅のみを追い求めるとか。

 

悠陽も幾度か言葉を交わしたことは有るが、儀礼に終始し然して印象に残るでも無く。

 

 

とは云え…この冥夜が想うのです…

 

今の儘では、報われる事は無いと知り乍ら。

為ればこそその相手は一廉の者であろう、いやそう在って欲しい。

そう悠陽が願うのは、純粋に肉親の情として。喩え金輪際、冥夜とは、市井は元より並の武家の如くにすら易くは触れ合えぬ間柄だとしても。

帝都城へ入る迄其の半生を奪い、今尚影武者として利用し暗い地下へ閉じ込め日陰の身へと貶め続ける自分には、口が裂けても幸せに等と言の葉にも載せられぬ。

 

 

真那が案ずるが如く、彼の者が散華すれば冥夜は酷く哀しむであろう。

誰一人とても悟られぬ様、然し身も世も無く慟哭するに違いない。

しかしそれ以上に、彼の者が戦陣に傷つき或いは我が身を酷使して半死半生、廃人の如くに成って仕舞えば――冥夜には、とても見捨てられまい。即ち一生を縛り付ける枷と柵と化す。

 

 

故に何卒天運と、そして武運を。

冥夜と彼の者とに与えられん事を、悠陽は天土の神々に冀う。

 

最愛の妹を秤にかけて尚、今は退けぬ此の身の立場ゆえに。

 

 

「…」

 

共に食事を終えれば、室外の真耶でなく同席の冥夜が御茶を淹れてくれる。

大膳課の配膳役はこの場には居ない、然し其処へ襖の外から。

 

「失礼致します。殿下、冥夜様」

 

掛けられた声の主は、真那。

食事の気配が終わるのを待っていたのだろう、だが冥夜の空気は堅くなる。常には無い呼び掛けは吉報か、其れとも――

 

「聞きましょう」

「は。政威軍監閣下より報告が御座いました。申し上げます、我が軍の欧州派遣部隊は芬蘭の地、甲08号・ロヴァニエミにて作戦通り超重光線級2体の討伐に成功致しました」

「そうですか…」

 

ほう、と。

襖越しの報告に、本来隠す必要等無い安堵の吐息、然し其れを悠陽は内心に、一方冥夜は外に漏らして。

何れにせよ二人の僅かな弛緩は室外で低頭する真那と真耶にも伝わったろう。

 

「時差が御座いますれば。現地時刻本日早朝よりの作戦開始にて、以後は甲08攻略の欧州軍本隊を待って外郭防衛に当たるとの由」

「…時間がかかりましたね?」

 

夏時間の芬蘭の地との時差は7時間で在ったろうか。

悠陽はそう軍事に明るいと自らを過信しては居ない、とは云え予め聞かされた作戦計画からすれば、巨大種の排除自体にそう時間はかからぬ筈で。

 

「は。目標撃破後、巨大種麾下の重光線級群の掃討に手間取った故にと」

「そうですか……損害は?」

「我が軍は極めて軽微にて。戦死も皆無と」

 

胸を撫で下ろした風の冥夜を他所に。

 

「…我が軍『は』?」

「は、政威軍監閣下は左様に。残余の光線級排除には少数で助勢したとの由に御座います」

「…」

 

暫しの、悠陽の無言。

 

言い振りからして欧州の友軍らは幾許かは痛手を被ったと云う事。

帝国の派遣部隊が精強なるに疑いは無く彼らは怠慢や怯懦とは無縁の筈、だがそれは列強たる欧州の精兵らとて。

 

意図的なものか…? 質したくもありますが…

 

室外に控える真那とて其れ以上を聞いてはおるまいし。

後程詳報も上げられようし、今是れ以上踏み込む事は悠陽が自らに定めてきた分を超える行い。だが――

 

「…冥夜、どう思いますか?」

「は? い、いえ、私等には…」

 

よもや問われるとは思っていなかったのであろう、冥夜は僅か狼狽えるも。

 

「赦します」

「…、は。では恐れながら…従前の策通りに目標撃破の由、まこと慶ぶ可きかと」

「ああ、其方の訓練生仲間でもありましたね、美事と申しましょう」

「恐悦至極に御座います。彼女らも喜びましょう」

「して、その後に就いては如何か」

 

問えば冥夜は、はは、と更に畏まった様にしつつも。

 

「助勢が少数に留まった点、詳細は判りかねまするも…抑抑狙撃班直掩で前面展開するは斯衛二個中隊と事前に仄聞致しました」

「ええ、そうでしたね。…ああ、それで」

「は。派遣本隊は後方待機であった筈、直様取って返せたのは直掩の斯衛らのみかと」

「とは云えならば二個中隊を少数と」

「全機では無かったものかと」

「助力を惜しんだと申しますか」

 

丈夫達が、我が身惜しさな筈もあるまい。成れば己等の力に驕った自尊ゆえか。

 

僅か、悠陽の心の芯は冷え。

其れを察した筈の冥夜は、

 

「恐れ乍ら――」

 

しかし面を上げた。

 

「光線級吶喊は至難の業に御座います。況して数百に及ぶ重光線級相手等本来凡そ沙汰の外。斯衛はじめ派遣隊は精鋭成れど、皆が皆達人の域とまでは」

「フム…」

「確かに轡を並べる輩を支えるは衛士の本分、為れど其れとて卑近の同胞を先んずるも戦陣の道理。況して今作戦での我が軍は超重光線級排除が第一義、其れを成した後続いての光線級吶喊等と余儀にも過ぎましょう」

「…」

 

対座する冥夜の終ぞなかった長口上、其の意思に触れて悠陽の勘気もやや下がる。

 

「併せて申し上げますに僭越乍ら私、派遣隊その最精鋭の長たるが内の一人、神宮寺少佐殿を多少なりと存じ上げて居りまする。武人軍人の鑑が如き方にて、故なく剣先を鈍らす事は先ず…更に斯衛の篁殿も勇猛で鳴る使い手」

「譜代は崇宰一門の…其程ですか」

「あの剣の冴え、斯衛でも彼女に優るは月詠二人を入れて尚五指に及びますまい」

 

その冥夜の評に襖の外の真那・真耶からも異論は無く。

 

「殿下の大御心は真誉む可き、友邦に損耗あらば遺憾為れど然し遙けき北欧の地で勝利の為の血の要脚を先ず納める可きは当地の兵達の務め。また其れこそが彼等の誇りとの由、愚考致しまする」

 

言い切った冥夜の表情にも瞳にも迷いは一切無い。

確かに、西洋の騎士道もその様な志向と仄聞もする。

 

「……よく解りました。ですが冥夜、申したでしょう?」

「は?」

「『殿下』は止して欲しいと」

「は、…は、も、申し訳ございません、あ、姉上様」

 

畏まったままの冥夜に、少し悪戯に咎める視線を送れば。

照れくさげに頬を染めて改めた冥夜に悠陽も笑んだ。

 

鉄原にて戦陣を共にした衛士らを誹られたと感じたのか、懸命な冥夜の姿を見られて悠陽は素直に嬉しくもあった――が。

 

しかし苛烈な…

 

御剣の家は、確かに冥夜を見事長じさせた様なれど。

血の対価を厭わぬのは勇ましくも危うい。武威によって勃興したものは、矢張り力による制圧統治を試みがちに成る。

悠陽の憂慮も正に其れ、昨今の日の本を覆うのも又そうした武断に過ぎる雰囲気。其の中には愛する妹、この冥夜ですら。

 

 

だが、それでも――

 

 

斑鳩公が云う様に、煉獄の試練が此の八州に訪れるなら。

其の時に将軍位に在る事こそが、恐らくは我が天命。

 

斑鳩公の冷徹は、自他の別なく死を恐れぬ。

なれば来たりし其の時に、その公の手から零れ落ちる民が居るなら一人でも多く救わねば。

其の為には喩え御飾りに過ぎぬと雖も、日本帝国全権代理の位に在らねばならぬ。実に於いて劣る自分が斑鳩公を掣肘するには、名を採る他無い故に。

 

地獄の現に帝国が君臨するが為の財で無く、人を。

終末の世に覇を競わんとする為の力で無く、命を。

 

民の生命を優先し帝国の力を削いだと後に非難されるならば、其れこそは甘受しよう。

民を救えた結果で在るなら喩え刑場の露と消えようとも寧ろ本望、然してその後にこそはより優れた真成る象徴 ― 否、若しかすれば民の先導者として ― 斑鳩公崇継に起って貰えば良い。

 

たとえ斑鳩公その人が、英傑たるより梟雄たり得んと露悪趣味を発揮して、その実悠陽と同じ様に自らを帝国の人身御供にと考えているとしても。

 

 

然りと雖もその折に、冥夜が己と運命を共にする様な事だけは有ってはならぬ。

 

用済みとして、影から闇へと処断される様な事だけは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅い春を迎える旧フィンランド・ロヴァニエミ。

動植物 ― およそ生物と呼べるものの気配は何一つとして存在しない広大な荒野。そこに聳え立つ地表構造物は地上高600mの威容を誇り、周囲の雪に霜混じりだった大地は、日中10℃を超えるようになった気温と巨大な異星種の脚痕と低空を舞う戦術機の噴射炎とにかき乱されて醜く泥濘の園と化していた。

そしてその至るところに撃ち抜かれまた斬り捨てられた小中大型問わないBETA共が屍をさらす一方で、その中に人類側戦力たる戦術歩行戦闘機の残骸がないのは損耗の無さを示すのではなく、単に撤去回収されたからに過ぎない。

 

 

北欧国連軍と共に欧州連合軍が中心となるここ地上8番目のハイヴ攻略作戦は、日米軍の支援を受けて遂行された。

 

総兵力60万。

地上洋上合わせての支援火砲の乏しさを補うべく投入された戦術機は各軍合計で1500機を超え、うち6個連隊相当がハイヴ突入に先立つ事前の地上制圧に当たった。

 

そして最大の難関と目されていた超重光線級は、事前想定の最悪に近く2体同時の出現となるも遠く極東の地より来援した日本帝国軍特務部隊の手により無事排除されたが――共に出現した重光線級群が超重光線級の撃破に伴いあたかも散兵戦術が如くに小隊未満で戦域に散開。

これによりただでさえ乏しい支援火力での殲滅はより困難となり、また同種の同時出現数としては甲20号・鉄原ハイヴ攻略戦時をさらに上回る観測史上最大規模のそれらは400体に及び、そのまま過去に例のない規模での光線級吶喊が求められる事態となった。

 

そして西ドイツ軍と北欧国連軍からなる事前制圧部隊は、激戦の末相応の犠牲を払いつつもこの困難な任務を完遂。

 

 

以降英国軍を中核とする西ドイツ・アメリカ軍を伴った突入部隊はハイヴ本体の攻略に着手。その後の戦闘は概ね順調に推移し、7日後には最下層・反応炉を制圧。

 

 

これにより欧州連合は、旧西側勢力圏からのハイヴ一掃に成功した。

 

新時代の戦略物資たるG元素源の確保に加えて、「G弾攻勢による祖国壊滅」という喫緊の危機をも回避し――たように見え。

 

悲願たる大陸奪還の完遂は未だ見えずとも、少なくともひとたび矛を休める暇は手に入れたと……多くの者達は、そう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同年 同月 ―

 

 

ボスニア湾南端、バルト海・オーランド諸島。

ファスタオーランド前線基地。

 

 

砂塵舞う荒野、遠く見はるかす地上構造物。

しかし眼下の地平には、埋め尽くすBETAの群れ。

地上15mの低空を鋭い機動で切り裂きながら、ヘルガローゼ・ファルケンマイヤー少尉のEF-2000は突撃の軌跡を描く。

振り上げるは巨大な斧槍 ― BWS-8 フリューゲルベルデ。

 

「ローテ06、出過ぎよ!」

「いや…ッ、まだだ!」

 

後方からの支援機・ローテ12 ― イルフリーデ・フォイルナー少尉の制止に構わず、敵陣内へと突入したヘルガはさらに自機を前へ出す。

 

突っ込みが足らない…っ!

 

濃色の髪を結いあげ、凜とした美貌に眼差しは鋭く。

強化装備に身を包んで管制ユニット内で操縦桿を握り締め、乗機を操りながら隊の先鋒を担うヘルガは自らを叱咤する。

 

 

その脳裏に描くは ―

東方より来たりて鬼を繰り、舞うが如くに異星種を屠るサムライ達の姿。

 

 

条件はもう、同じはずだ…!

 

戦術機の運動性を大きく底上げするという特殊装置。

その試験と慣熟はすでに1週間、最初期こそ戸惑いはしたがもう半ば以上はものにしたという手応え。

 

「イエッツ!」

 

ヘルガは正面、要撃級と衝突直前に跳躍ユニットAJ200の片肺を停止、錐揉み回転してフリューゲルベルデを振りかぶった。

突撃の勢いに重量武器の慣性力、さらに遠心力も上乗せしたその一撃でまとめて要撃級2体の尾節を斬り飛ばし、3体目の前腕衝角に当たって弾かれた瞬間、逆らわず逆回転に持ち込んで反対側からその1体も斬り捨てた――

 

 

 

 

 

JIVES ― 統合仮想情報演習システムでの訓練を終え、シャワーで汗を流し制服に着替えて後。西ドイツ陸軍第44戦術機甲大隊・ツェルベルス第2中隊は、同大隊他中隊と共にデブリーフィングを行う。

 

 

昨年来、この前線基地内にて彼らに宛がわれたこの部屋 ― 今は、半数近くが空席。

 

2週間前のハイヴ前地上制圧戦。その最終盤で実施された光線級吶喊において、欧州連合ドイツ軍部隊最先鋒を担ったツェルベルスは大きく損耗した。

大隊定数36機、前哨戦にての4機脱落から、さらに14機…今回は全員が戦死。

ヘルガら第2中隊ローテも定数半分の6機を残すのみとなり、これにより隊にはリヨン以降の新人はほとんどいなくなった。

 

そして半壊した部隊はハイヴ攻略どころか地表防衛の任からも外され、再編のため他部隊に先駆けて前線基地へと戻されていた――

 

 

「焦りすぎは…」

「…解っている」

 

所定通りのルーチンを終えて。

部屋を出たところで、ヘルガに声をかけたのは金髪の同期・イルフリーデだった。その後ろには常の柔らかな表情をしかし少しだけ曇らせたルナ ― ルナテレジア・ヴィッツレーベン少尉。

 

慣熟と訓練の成果は確実に上がっているも、まだ満足にはほど遠い。

 

 

今般、ライヒから欧州連合への供与の運びとなった件の「特殊装置」 ― XM3。

ここファスタオーランド基地に欧州連合参加各国軍より選抜された衛士が集められ、その慣熟教練が行われていた。

 

実際の導入には装置自体はライヒから、さらに管制ユニットへの据え付けにアメリカのマーキン・ベルカー社へのライセンス料支払い等が必要らしいがそれは政治が考えること。

 

長く前線を担ってきたツェルベルスにしてみれば、ようやくという思い。

 

しかしシミュレータと異なり実機を使用するJIVESでの訓練、どうせ機体を使うなら同時にBETAも殺せる実戦試験をせよとはツェルベルス常の物言いながらも、大作戦での損耗の後・しかも複数他国軍との合同とあってはあまりに乱暴な真似はできない。

それにここ前線基地よりバルト海をまたいで120kmほど東岸の旧フィンランド南部にはたしかにまだBETAがそれなり以上にいるだろうが、そこは旧共産圏と目と鼻の先。そんなところでまだ試験供与段階の特殊装置装備機が被弾故障問わず擱座したりして、万が一にも「行方不明」になってしまえば連合軍の面子が潰れるどころの話では済まなくなってしまう。

なにしろロヴァニエミハイヴの攻略は成功し、現状ではBETAと旧東側陣営どちらの情勢も比較的落ち着いているとはいえ ― 偵察衛星によればロヴァニエミ南東・ヴェリスクハイヴにはすでに20万を超えるBETA群が滞留しているというし、表面上動きがないソ連軍も今後北上も予想されるそのヴェリスク発のBETA群に関しては「旧領域の主権は残置されるのが国際的に周知された原則なれども領域外へ出たBETAに関してはその限りではない」と平然と言い放って事実上放置する一方で、東方では戦力再編を進めているとかいう話。

 

実際欧州連合を取り巻く情勢が劇的に好転したわけでは決してなく、それを証すかの如くに、ハイヴ地下茎構造最下層の反応炉制圧直後に連合軍にあったのは歓呼の叫びというより安堵の吐息だった。

アメリカ軍によるG弾攻撃での国土死滅という当面の危機を回避し戦略物資たるG元素も入手したものの、損耗が想定内に収まったハイヴ内攻略戦はともかく、それ以前の地上制圧に至るまででの総喪失数が本来の許容範囲を超えてしまい、しかも同ハイヴ制圧により新たに防衛線が一箇所追加される現実が連合軍にさらに重くのしかかる。

 

現時点では北欧国連軍の部隊に加えて、なんとか司令部と連合政府が話をつけたらしくライヒの派遣部隊にロヴァニエミ南東200kmにて警戒を担ってもらってはいるものの、とりわけ旧フィンランド東側国境外の旧ソ連領域内は先々も遠望して偵察するのみに留まるほかなく、米軍の増派も成ったリヨン東の防衛線と合わせて、少なくとも短期の将来的にも日米の支援なくしては各防衛線の維持には困難が予想される。

 

 

それら総てを鑑みてのこの合同訓練。

連合軍・北欧国連軍あわせて90機近い参加数。

 

ともあれ欧州連合軍の最新鋭機・EF-2000 タイフーンに新たに搭載される特殊装置は、遠く北米ユーコン国連軍基地においてすでに同機種へのマッチングが済んでいるもの。

というのもかの基地には今年初頭より、EF-2000がまだ技術実証機段階だった94年当時から同機を実戦運用してきたユーロファイタス社編成・現在は欧州連合軍特務教導隊「レインダンス中隊」の一部が赴いて調整が続けられてきたためという。

 

色々と世事に詳しいルナ曰く、それもこれもユーコン基地にてプロミネンス計画総責任者を務めるハルトウィック閣下のご尽力あってのことで、一概に装備の優劣に起因するものではないにせよ現実的に今次作戦での欧州連合軍機の損耗率は日米を上回ってしまっていて、その事実もまた連合軍の導入慎重派の重い尻を蹴飛ばすのに一役買ったとのことらしいが――しかしそれでも、

 

「高機動下の近接戦こそXM3の真骨頂だろう。習熟の実感はあるが…」

 

前衛配置として。

自らの力不足にヘルガは正直に悔しさを滲ませる。

 

 

先のハイヴ攻略戦・超重光線級排除の後、行われた光線級吶喊。

 

欧州連合軍精鋭らの奮戦によりその任務は成し遂げられたと ― 大まかな話としては、たしかにそうだが。

 

 

あの時 ― 戦域に小規模群に分かれて散逸していく重光線級を、ツェルベルスは吶喊2個大隊のうちの1として待機していたハイヴ西側から追った。

 

戦域に入るや、中隊単位での作戦行動。

 

そも通常戦術機の運用は基本分隊2機から、陣形や連携、編成による効果が大きくなるのは10機以上中隊程度から。

ゆえに重光線級排除を命じられた大隊長・アイヒベルガー少佐の判断は間違っていなかったし…しかし、同時にそれ以外の方策がなかったのも事実。

 

というのも精鋭部隊と謳われるツェルベルスを以てして、しかしリヨン以降の新任たちは才能と資質とを見込まれてのこととはいえ、同隊では新参の部類のヘルガらから見てなお促成もいいところ。

それを最精鋭が担う戦場でそれに見合う即戦力とするために、まさに実戦とその合間の訓練という限られた時間で基本となる中隊での戦術機動・作戦行動を中心かつ重点的に叩き込んできたが ― それでもやはり、既存の隊員との差は歴然としていた。なにしろ今のツェルベルス古参といえば、投射砲の導入以前から最前線に立ち続け、さらにあの地獄のリヨン攻略戦から生きて還った事を意味する。

そんな古強者らから見れば危なっかしいことこの上ない新任らを小隊単位に分散させて、ただでさえ困難な光線級吶喊という任務、それも戦史上例を見ないほどの規模の重光線級群の掃討に充てるなど無謀というほかはなく…かといって命令は大隊での吶喊。それに出だしから新任らすべてを置いていくには、手持ちの火力はあまりにも足りなかった。

 

その結果――10機程度中隊規模の戦術機部隊で、戦域に散らばる数体ごとの重光線級を逐一追い。通常なら数的優位の観点からも問題となるはずもなかったが、相手の総数が多すぎた。

 

四方八方至る所から虎視眈々と狙ってくるのは重光線級の死の光条、EF-2000のセンサが捉えて発する予備照射警報には1秒以内での対応が鉄則。一瞬たりとも気を抜けない、襲い来る要撃級要塞級を遮蔽にしつつの吶喊行。終わりの見えないその反復は、ただでさえ相対的には乏しい新任らの技量と、それを下支えする気力も集中力も奪っていった。

わずか制限高度を逸脱してレーザーに灼かれ。回避機動を誤り要撃級の衝角前腕に潰され要塞級に溶解液を噴射され。

隊内の通信には鳴り響く照射警報の間に間に、とうに殻は取れていたはずの新任たちのどうにもならない助けを求める悲鳴と断末魔の絶叫とが充満して、1機また1機と撃墜されていく煉獄の様相。

そしてツェルベルスと同時期に吶喊していた北欧国連軍1個大隊もまた、この困難な任務に当たって最終的にやり遂げはしたものの7割近い損耗を出し事実上壊滅状態に陥った一方――

 

――ハイヴ南方では全く異なる戦況が展開されていた。

 

ティープ・ヌル ― タケミカヅチ。

ヤーパンライヒス・ヴァッハリッターが駆る、鬼の一団。

 

単独戦闘、もしくは分隊での突撃近接戦に長けた彼らは、精鋭中の精鋭をさらに選りすぐったのか10機足らずの少数ながらも湧出BETAに紛れて高速で侵攻するや平然と敵中散開し、驚くべき短時間でまさに草でも刈るようにそれぞれが数体 ― 合わせて30体以上の重光線級を狩り殺して鮮やかに離脱していったという。

 

 

かたや2個大隊70機ほどで300体。かたや2個小隊未満わずか7機で30体超。

キルレシオ自体は大差ない、しかし損耗の差が違いすぎた。

装備に加えて基本となる戦術・用兵思想の差違、運が左右した戦況のミスマッチとはいえ、

 

「私では、まだ到底リッターには届かん…!」

 

相変わらず照明の乏しい廊下で、ヘルガは血が滲まんばかりに拳を握る。

しかしその彼女にルナは、言外にも意を込めて諭すようにした。

 

「実戦運用期間の長さが違いますもの、『東』発祥といわれるレーザー・ヤークトですけれど、すっかりお株を奪われた形ですわね。それに向こうは開発国ですわ」

「もしかして本国版と輸出仕様に差があるの?」

「さあ、それは…でも元々がライヒス・ラングシュヴェルト・ドクトリンが前提で開発されたはずですし」

「やはり地表での巴戦か…試してみてはいるのだが我々はアメリカ軍ほど砲撃戦偏重ではないにせよ、フリューゲルベルデも本来一撃離脱が基本だしな…連続使用は機体への負荷が大きすぎる」

「ティープ・フィア・ウント・ズィーツィヒ 『カタナ』の優秀さがよくわかりますわ。習熟にコストは必要ですが、扱う機体込みでの設計ですのね」

「機動砲撃戦での伸びしろも大きいけれど」

「運動性の向上と各種挙動の円滑化の恩恵ですわ……逆にいえば、衛士が操縦に未習熟であっても」

 

間違いなく生残性の上昇は見込めるはずで。それが3者ともに抱く同じ思い。

呟くように足したルナに、イルフリーデはやや顔を伏せたがヘルガはあえて表情を固めた。

 

 

これがもし、もう3ヶ月、いや2ヶ月早く手に入っていれば。

彼や彼女、あの子らも死なずに済んだかもしれないのに。

 

 

「でも基幹部分はブラックボックスなんでしょ?」

「例の『ゲハイムニス』か…」

「あれは、恐らくは属人的なものですわ」

 

大隊長に提出したレポートには書きましたけれど、と気持ちを切り替えながらもルナは溜息をついた。

 

 

ゲハイムニス・マニューバ・アインザッツリュトメン。

「ザ・シャドウ」が見せたあの戦術機動術の極北。

 

推測値ながら衛士のG負荷は常人の許容範囲を優に逸脱。

サドガシマやチョルォンでのハイヴ攻略戦においての実績から連続戦闘での堅牢性も十分に実戦証明されているゼロをして、極めて短時間で過稼働に陥り自壊に至るほどの超機動。

 

 

「間接思考制御の洗練のために強化されたCPUとはいえ、非公開部分含めてハードウェア的なキャパから推測してもどうやってリミッター全解除状態の機体をギリギリで制御しつつその高速機動下で衛士を補助しているのか、わかりませんの」

「その…薬物強化って話は?」

「それが事実としてもあの機動だ、元々の耐G適性が相当に高くとも操縦自体ままならないのじゃないか?」

「ええ。ですので…」

 

あくまで推測の域を出ない、ルナはそう断り置いて。

 

「間接思考制御や入力予測の一切をカットオフして、強化CPUの演算出力を全部感覚欺瞞に回しているのかもしれません」

「は…? じゃあ完全に手動で操縦してるってこと?」

「馬鹿な…あの高機動下であれだけの緻密な操作をあの反応速度でか?」

「ええ。だから属人的と言いましたの」

 

およそ信じがたい推論に唖然とするイルフリーデとヘルガに、ルナは我らが大隊長ですら一朝一夕には真似ができない、と呟いたと告げた。

 

「仮に適性含めて才能があったにせよ、想像を絶するほどの修練を積んだはずだと」

「しかし感覚を騙したところで負荷が実際に消えるわけでは……そうか、そういうことか」

 

 

限界を超えた機体が崩壊するのが先か、負荷に耐えかねた肉体が折れ砕けるのが先か。

 

あの掲げられた黒の双刃は、まさに魂削り骨肉を削いでまで研ぎあげた剣。

 

振るうたびBETAのみならず、自らの命数までをも確実に刈り取る呪われた刃だ。

 

 

「承知の上…なのだろうな…」

 

あれほどの衛士が、それほどまでに積みあげた鍛練の成果を自らの黄泉路を照らす薪として焼べて。ヘルガを惹きつけるヤーパン ― ニホンの文化、その精神性の根幹の一たる、ブシドーに殉じるつもりなのだろうか。まさに死ぬことと見つけたりと。

 

「でもそれほどの訓練って…彼は私たちと年もそう変わらない、若年志願で実戦経験も豊富だとは聞いたけど飛行時間がそう長いはずも…」

「それが解れば苦労はしませんわ。当のライヒだってそうでしょう」

「たしかに…アレが敷衍できるならとっくにやっている、か」

 

ヘルガの応えにルナが頷く。

 

それがたとえ、衛士に命を対価とするほどの過大な負荷を求めるとしても。

かの国のサムライたちなら、戦機に際してはためらわないだろう。

 

 

そして次のスケジュールまでは少しの時間、士官食堂へ向かう道すがら。

出会したのは波打つやや色の濃い金の長髪に強気の青い瞳。

短躯をフランス軍の制服に包む、ベルナデット・リヴィエール大尉。

 

「久しぶりね」

「は。昇進おめでとうございます、大尉殿」

「よしてよ。ドイツ人の世辞は肌に合わないわ」

 

かけられた声に襟元の階級章を見逃さず揃って敬礼、イルフリーデの英語での挨拶に返されたのはドイツ語。

 

「え、っと…じゃあ…フランス軍の合流は一昨日だったって」

「まあね。仲間外れにされなかったことは感謝すべき?」

「うーん、衛士には関係ないんじゃないかしら」

「そう。そういう単純さは嫌いじゃないわよ」

 

そこそこに親しいとはヘルガも聞いてはいたが。

イルフリーデとリヴィエール大尉との褒めているのか貶しているのかわからないやり取り、しかしそのフランス軍大尉の後ろには2人の部下。共に少尉の階級章の金髪の女性衛士。

 

片や肩口で切りそろえたナチュラル・ボブ、もう一方はウェーブのかかった優雅な長髪と違いはあれど、ドイツ語は解らないのか唐突に外国語でしゃべり出した上官には面食らっているようだった。

 

「ああ、ごめんなさい。そちらは?」

「あー。ほら、自己紹介」

「は、はッ。フランス陸軍第13戦術竜騎兵連隊・第1大隊エレン・エイス少尉であります」

「同じくジョセット・ダンベルクール少尉でありますっ」

 

英語に切り替えられて。

小さく「あの」ツェルベルスだ、と年は同じくらいだろうがまだどこか初々しく規律正しい敬礼に、メグスラシルの娘たちもまた。

ルナだけは小さく、ジョセット少尉の姓を反芻していたようだけれど。

 

アメリカの援軍を得たとはいえ情勢厳しいフランス軍、そこからリヴィエール大尉と共に派遣されてくるということは、ルーキーに近く見えても彼女らの腕は確かなのだろう。

 

「ま、よかったわ。いけ好かないサムライ連中に力の差を見せつけられて意気消沈してるかとも思ってたんだけど」

「まあ、ね…」

「…」

 

流れとして共に食堂に入り。

大テーブルを占有し、席に着いたリヴィエール大尉はエイス少尉が差し出したコーヒーを一口含んで飲むのを止めた。うぇ、と小さく舌を出すのはなんとか堪えたらしい。

 

同じテーブルにつきつつそれを見やるヘルガは、しかしその軽口には乗れず。

 

「大体の話は聞いたわ、オンピアにグロ・エスカルゴの始末をつけてもらったあげく連合軍最精鋭を謳われた部隊は残党排除に手間取ったうえ大損害」

 

かくて番犬部隊の名声は地に落ちたと。

 

「でも支援部隊を出し渋ったって? 存外性根が悪いのね、ジャポンの連中も」

「我々の力が足りなかっただけです…」

 

やや行儀悪く片手を拡げたリヴィエール大尉に、ヘルガは自分に半ば自分に言い聞かせるようにした。

悪意があったとまでは言わないが、たしかに助力を惜しまれたのではと…それも、勝手な言い分とは思う。

 

 

超重光線級の排除を担う特務部隊とその護衛を除けば、ライヒ派遣軍の本隊は戦域外で待機中だった。それゆえに支援の光線級吶喊を行ったのは引き続きの任務となった護衛のリッター達で、貴重極まる大型レールガンの退路も守らねばならず、少数だったのもそのためだし負ったリスクはあるいは自分たち以上だっただろう。だが――

 

感情が納得するかは、また別の話で。

死んでいった新任たちの中には、明らかな敬慕の念を向けてくれた者たちもいたからだ。

 

 

「いいえヘルガ、我々の装備に戦力からすれば上々の結果でしたわ。それにこの際ですから言いますけれど、我々古参が生還している以上新任の彼らにはツェルベルスの名は重すぎたのでしょう」

 

カップとソーサーでもなく無骨なマグ、それを楚々たる挙措で口元へ運んで。

 

「そんな言い方…」

「…ヴァルハラへ先んじるのは時間の問題だったと?」

「戦場は選べませんもの、それに私たちが配属される以前の、隊の死傷率をご存知?」

「…」

 

不味いコーヒー、それも承知でルナは目を閉じ桜色の唇をつけた。

 

突き放したルナの物言いも…解る。

あの明るく振る舞う軽薄な隊の先達・ブラウアー少尉は、その着任早々最初の任務で小隊の先任が全員戦死したという。

 

西ドイツ最強、欧州最精鋭。

それだけに、元来過酷な任務に放り込まれるのは必定の大隊。他ならぬヘルガら自身、初のハイヴ攻略戦となったリヨンでは頼れる先任の大半を目の前で喪った。

 

「新参の練度の問題は他人事じゃないわね、でもそれだけに手練れ揃いがニホン軍ならもっと前に出すべきだったんじゃない?」

「『火消し』に有効だからとハイヴ到達前から使いすぎましたわ。リッターが疑心暗鬼になるのも仕方ないかと」

「へえ、同情的なのね」

 

思い人がおりますの、片想いですけれど。

そう嘯いたルナにリヴィエール大尉はふぅん、とだけ言った。それ、人じゃないですから。

 

「ま、突撃と殿と墓の下にだけ美学を見ていた連中も少しは成長したっていうわけ?」

「彼らにしてもそれだけの授業料を払った結果だと思いますわ、大尉。それに吶喊部隊の指揮を執っていたのはそのリッターですもの、多少は鼻が利いたのかと」

「ハン、どこでも政治を気にするのがシュヴァリエだったらこれからはアンクルサムのマリーン連中の方がアテにできそうね。あいつらなにかにつけすぐF○ckFu○k言う以外は戦場であれこれ立ち位置考えたりしないもの」

「がさつが過ぎる点が私はちょっと、ですの」

「英雄志願は時に美点よ、二ション」

 

諫めているのか煽っているのかわからないルナと皮肉げなリヴィエール大尉、話題の米海兵に毒されたのか上官のスラングまじりを新米少尉二人は聞こえないふりをしていた。

 

「ま、『サムライ・ショウダウン』 ― あんたらのガンカメラも多少は見せてもらったし。ルージュ・ゼロの部隊とか、わりに普通じゃない」

 

リヴィエール大尉はさすがの慧眼。しかし本人が聞いたら落ち込みそうな事実を指摘して、

 

「それこそ『ニンジャブレード』ノワールにジョーヌの『ライトニングソード』みたいな化け物ばかりじゃなくって安心したわ、スケジュール後半はDANCCTでしょ」

 

 

DANCCT ― 異機種・異国籍部隊間連携訓練。

 

しかも今回は、対BETAのみならずAH ― 対人類戦闘をも想定したプログラムが用意されている。その際の敵役 ― 要は仮想イワン ― は、「密集高機動近接戦」を得意とする部隊こそがふさわしく――

 

 

「一泡吹かせてやる、極東の島国連中に大陸の味を教えてやるわ」

 

短躯のフランス麗人衛士は、端正な横顔にしかし獰猛な笑み。

それは慣熟の遅れをものともしない古参の凄味だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――と、息巻いたまでは良かったけれど。

 

 

明くる週。

 

衛士の教練には、入念な座学は欠かせない。

本格的なAH戦を想定するとなれば尚更。

 

 

BETA大戦後の世界 ― それが人類の勝利で訪れれば、だが ― には、何十年ぶりかに戦闘機の時代が来ると言われている。

しかしそのエアプレーン・レコンキスタの前には、大量に生産されだぶついた戦術機を用いた力の駆け引きの時期が発生することもまた、必定とされている。

 

その際に主眼となるのが、まずステルス。そしてミサイルである。

 

2003年現在本格的にステルス戦術機での作戦能力を獲得しているのはアメリカ軍のみで、BETA大戦後の一強体制はまず揺らがない。

そしてミサイル技術に関してもまた、航空機の時代のミサイル万能論の終焉からBETA大戦勃発と光線属種の出現を経てなお、F-14 トムキャット に搭載されたAIM-54 フェニックスにみられる他、ヘリまたは艦載対地、そして対空兵器(空から襲ってくるBETAはいないが…)として地上配備型のものも含めて、アメリカを筆頭に各国でもその開発と検証とはある程度ながら続けられてきた。

なお戦術機への搭載はF-14と同じく肩部へのホリゾンタルマウントや背部兵装担架を利用してのバーチカルマウントなどが考案されていて、前者はステルス性能への影響が少なく後者は大型弾の採用や携行弾数の比較増が見込まれている。

 

いずれにせよ ― BVRにアクティヴレーダーホーミング。長大な射程に高い誘導性能、さらに音速の4倍に及ぶ弾速からして、空対空・地対空ミサイルはその飛行速度が音速には到底届かない戦術機には必殺に等しい兵器となる――

 

 

――かしらね?

 

JIVES、愛機ラファールの管制ユニット内。網膜投影の情報ウィンドウ、左上のレーダー表示にその下の戦術マップ。便宜上赤い光点で表示される敵部隊1中隊を「視界外に捕捉」して、ベルナデットはトリガーを引いた。

 

途端火を吹く兵装担架のミサイルコンテナ、左右3発計6発。

鶴翼に広く編隊を組みデータリンクで繋がる中隊12機からも同様で、合計72発の誘導弾が噴進炎を曳いて宙空へ飛び出した。

彼我の距離約40km、着弾までは40秒を切る。

 

 

レーダー上の敵部隊は、教導役のシュヴァリエ・デ・ラ・ギャルデご一行。

 

連中はJIVESならでは、各色に塗り分けられた肩を除いてグレー地にスカイブルーとダークブルーのアグレッサー塗装を施され、ご丁寧にレッドスターまで描き込まれたゼロとチープ・ドゥ。

そのうちの、かの精鋭ブランシェ・クロ。

 

ロヴァニエミハイヴ南に設定された防衛線から片道800kmほどをフェリー飛行にて大隊近くの総数30機程度ではるばるお越し。

前線基地の欧州連合軍の衛士たちにはおおむね非友好的な視線と空気で出迎えられるも、肩で風切る様子にて。それこそ過密スケジュールゆえ早朝到着となる強行軍もどこ吹く風と、粛々と任務へ精励なさる。

 

 

衛星偵察や配備レーダー網に加えて、展開した戦術機によるAWACS圏を巡る攻防。BVRAAMの応酬。そして長射程極超音速兵器 ― レールガン系兵装の有無と活用もあるが、なんにせよそれらを踏まえるがゆえに、ステルス機は圧倒的に有利だろう。

 

 

つまんない戦いね…

 

レーダーマップ上を高速で敵群へと迫り行く、発射したミサイルの光点を目で追いつつ。ベルナデットは内心に毒づく。

 

そもそもがAH戦なんて気に食わないし、ンなことやってる場合かと思うんだけど。

 

 

おまけに今撃ったミサイルにしたって、ジャポンのミツビシ Type-99Re. AAM-4B。

対抗馬たるアメリカはライセオン AIM-120はコンパクトなつくりながら肩部マウントが中心で、大型ブレードベーン装備のラファールには装甲の換装が必要になる。

そして我らがユニオンMBDCのミーティアだとかはまだ完成自体してないらしくて、それにもまたげんなりさせられる。

 

 

しかしまだ敵 ― オンピア部隊は撃たない。

 

「ミサイル警報は?」

「ありません!」

「センサーの故障?」

「いえ大尉、異常なしです!」

 

なに…?

 

初っぱなも初っぱな、JIVES第一回ということで、ミサイル発射の訓練も兼ねてということだろうか? ――いや、まさか。

 

「敵部隊散開っ!」

「ECM検知、チャフ撒いてます」

「3,2,1…、着弾…――ッ!?」

「――!」

 

避けた! いや、迎撃した!?

 

確かにレーダー上からこちらが放ったミサイルの光点は総て消え。

健在な敵部隊12機の赤いマーカーが残る。

 

やる…!

 

ぞわりとベルナデットの背筋が粟立つ。

 

 

――要するに、ミサイルが来たら撃ち落として接近すれば良いのね!――

 

懐かしの訓練校を思い出させるかの如く、丸一日費やして詰め込まれたレクが終わり。

ちゃんと聞いてたかと黒髪の同僚に問われたフォイルナーは少し考えて、晴れやかにそう言った。

その時ベルナデットはこいつ座学は寝るタイプだなきっと今回もそうだったに違いない、それでも実戦じゃなんとか辻褄あわせてあの腕前なのだから、よほど才能には恵まれているらしいと巨大な呆れの中にも妙に感心したものだったが。

 

 

確かに――戦術機の高度化された遠近データリンクシステムはAWACSとして機能し、さらに地上から低空域までの三次元機動能力では他兵器の追随を許さない。そこへ日本帝国・ヨコハマ発の特殊装置が洗練を加えた上に、その高速演算能力がもたらす弾道予測は最大4門の36mm高速機関砲と120mm多用途滑腔砲という重武装を以て基本単純な軌道を描く空対空・地対空ミサイルの迎撃すらも――条件次第では、可能だろうとはいえ。

 

 

やってくれるわ!

 

「敵部隊ミサイル発射!」

 

そして返礼とばかりに迫り来る、同じく72本の超音速の牙。

 

「散開!」

「了解っ!」

「ECM発振! チャフ散布、乱数回避!」

 

こちらと同じAAM-4Bのはず、AIM-120よりやや大型のそれ。そのアメリカ製と同等もしくはそれ以上にECCMにも優れる ― らしく電子欺瞞が通じない。

 

ベルナデットは一瞬に満たない時間で行動を選択した。散開を開始した味方機に――遅れること5秒、無論故意。やってみせてやる。

 

んなろ…ッ!

 

引きつけた。早めの回避機動は逆にミサイルの追尾を容易にする。

そして身に染みついた衛士の性か、上昇ではなく急降下を採り真っ逆さまに高度を代価に速度を稼ぎ、迫り来る再現された地表と襲い来る疑似感覚のG負荷をまるきり無視して、追ってくるだろうミサイルへと――6発か!

 

「当たれッ!」

 

4丁拳銃、今は2門しかないが。

それでも火を吹く4つの砲口からそれぞれ36mm HVAP 高速徹甲弾と120mm CS 散弾がベルナデットの視線照準に応えて虚空へと連射され、6発のAAM-4Bをその指向性破片弾頭を炸裂させる前に撃ち落とした。

 

「ッ――く、損害報告!」

「撃墜4、中破2!」

「半分喰われたか…、…後退する」

 

レーダーの動きに見はるかせば接近の動きを見せる敵部隊、事前策定に基づけば。

まず開幕にミサイル戦、しかし事前に火力差が判明すればその時点で後退。

始めたところで結果不均衡が生じたら、追撃を受ける前にやっぱり後退するのが基本。

 

ともあれ、いの一番に手痛い一撃を受けて見せるのが役どころだったとか。

 

結果も面白くなければ内容的にもつまらなかったが、演習とあれば仕方ない。

逆に演習だったればこそ、部下は死なずに済んだわけで。

 

再戦の機会もまだまだあると、大人しくベルナデットは隊を退いた――が。

 

 

その後の展開も、大して面白くはなかった。

 

 

前衛砲兵、その二つ名は剣の間合いでの大立ち回りがあってこそ。

なのにミサイル戦で結果が互しても接近戦が得手の部隊に近づくことなど愚の骨頂と基本を徹底、こちらの展開自体は遠間でのガン・ファイト。

 

ジョンブル連中がこれ見よがしに背負ってる、要塞級殺しだかいう名前負けのBWS-3は飾りか重石にすぎないとしてもボッシュ共は長柄のBWS-8を普段から振り回してんだし、ラファールにだって私は使わないにせよ大鎌フォウが用意されてる。ピザ用EF-2000のクトー&フォシェットはともかくとして、ハナからCQBは除外ってのもどうなのよ。

 

そこへオンピアの教導部隊もいちおう近接戦を仕掛けようとはしてくるものの、まさに教本通りの戦術機動、同じくセオリー通りに対処する。たしかにそりゃ、実際にはイワン共だって白兵偏重ではないでしょうけど。

でも呆れたことにあの「ニンジャブレード」までもがごくごく普通の戦闘機動でやって来る、おまけに揃ってかの国軍機の装備を模してか突撃砲のほかにはモーター・ブレードに見立てたダガーを使うばかりで、お得意のエペ・ロングは持ってもいない。

 

そうしてお互い数機にでも損害が出た時点で、間合いを計って引き退がる。

 

 

ブリーフィングからJIVES教練、デブリーフィングの繰り返し。

参加部隊を変えつつスリーローテーションで初日は終わる。

 

 

ミサイル戦にもすぐ慣れ始め、3戦目に当たったルージュ・ゼロの部隊を後退させてベルナデットはシャワーを浴びた。

 

こんなもんなのかしらね…

 

正直、消化不良気味だ。

虚実入り混じっては数々の戦場伝説を引っさげる極東の小さな島のサムライ部隊、その鼻明かしてやらんと手ぐすね引いたヨーロピアンは、ただただプログラム通りに訓練相手を務めるジャポネたちにはとんだ肩透かし。

 

AH戦ならあんなもんだろうとのしたり顔、剣振り回すなんていつの時代だと訳知り顔に、中にはやっぱり噂は噂に過ぎないなと嘲る連中すらもいて。

それには乗らないベルナデットだが、欧州とていつかは敵対するかもしれない相手だと、オンピア軍は手の内を隠すつもりなんだろうか。

 

 

そしてその夜。

 

「スコール!」

 

古びてはいるが基地内の広いレセプションルーム、その壇上にて。

国連軍制服姿の大柄なスウェーデン人基地司令が乾杯の発声をすると、場内には多言語でまばらな唱和の声。

 

始まった席はインフォーマルにビュッフェ・スタイル。

しかし100人を超える衛士らは各々の国の軍服に身を包んだのを証とばかりにおおむね自国部隊のみで席について動かない。

 

 

歓迎の意味で行われるこの席も、盛り上がらない雰囲気。

少なからずテンション高くて距離感のおかしい連中がいる、ヤンキー共がこの場にいないのも大きいかも。長靴型の某半島の男性衛士の何人かはちょろちょろしてるが、あれらの吶喊目標は国籍問わずとはいえ目ぼしい異性だけ。

 

 

ベルナデットは目前の会場中央ビュッフェボードに並ぶ料理を手際よく前菜から取り分け、うち一皿をダンベルクール少尉に渡してやった。恐縮する彼女に今回の糧食 ― じゃなくて食事の準備を担当したのは世界に誇る我が軍主計科隷下だと教えてやればほっとした表情。

 

彼女とそしてもう一人も、リヨン東防衛線での入隊から日は浅いがやはりセンス自体から悪くない。今日の演習の際にも、光るものをよく見せていた。

ふたり揃って軌道降下兵選抜の狭き門を潜り抜けたのもダテじゃないらしい。

 

 

猛者として名高かった軌道降下兵団も昔日の勢いはなく、なにしろレールガン戦術の登場でハイヴ直上への強襲降下の必要性が薄れたところに超重光線級の出現で、ハイヴへの軌道降下戦術自体がそれ以前の生還率20%どころかほとんど自殺と同義になって、同兵種が単なる遠隔地への戦力投射の手段へと窓際化してくれたおかげで使える新人が回ってきたことには素直に感謝したい。

 

フランス・ヌーベル・コンティネンタル ― 再建国の父のおひとりの娘だろうが、そのお友達で友邦カナダからの志願兵だろうが、ベルナデットには関係ない。そうした毛並みは関係なくて、求めるのは手並みだけ。

 

 

一見つっけんどんだが意外に気の利く小柄な上官はそう考えて、すでに思考の大半は残る演習期間より祖国の防衛線へ戻ってからのことに割いていた。

 

まあ元々、なにがあるって思ってたわけでもなし…

 

考えてみれば ― やや沈静化した戦況が、増援のアメリカ軍に少し任せて前線を一時離れよという上の命令を可能にしただけ。

手持ちの機体が強化できると聞いて飛びつかない衛士はいないだろうし、そのための訓練と演習プログラム。

 

 

ただその一方で、なにか漠然とした期待感のようなものを抱いていたような気も――

 

 

アホらし。

 

ベルナデットは短躯に薄めの胸を反らし、小さく鼻で笑った。

 

大方あきらめのついた心境。

あのデカブツが出てきてしまえばどうにもならないことには変わりがないにせよ、当面現実的な敵たるBETAへ対抗する力は増すことができるのだし。

 

ベルナデットは隊の仲間と同じテーブルについて、しばし時間は進み。

返礼とばかりに気を遣ったエイス・ダンベルクール両少尉が運んでくる皿をコースの如くに楽しんでいると、

 

「――失礼する」

 

会場前方、先に基地司令の立っていた壇上。

 

黒衣の軍服に同色の外套を羽織り。浅黒い肌に銀髪、鋭い目の偉丈夫。

「黒き狼王」ヴィルフリート・アイヒベルガー少佐。

 

 

失墜した元・精鋭部隊の隊長。そう侮る者は、この場にはいたとしても多数派ではなく。

これまでの戦歴を知らぬ者は居ない。そして閲覧可能なデータ・類推できるその戦況からして、任務を遂行した上半数を生還させたこと自体が驚異的だと同じく手練れを自認する者たちには容易に理解できていた。

 

 

そしてその傍らには ― しかし常の如く「白き后狼」ジークリンデ・ファーレンホルスト中尉ではなく。

明るめのマルーンの長い髪を後ろで結い、オンピアの軍服に身を包んだ――

 

「あの人…」

「知ってるのジョセット?」

「ちょっと人に聞いてね、F-4系列機でのキルスコアはアジアトップクラス。人呼んで」

 

「ラビドリー・ドッグ」マリモ・ジングウジ。

 

へえ…

 

部下ふたりの会話を聞きつつ、ベルナデットは碧い双眸を眇めた。

襟元の階級章はメイジャー、とすればオンピア部隊の指揮官機に乗っていたのは彼女か。

 

「紹介にあずかった神宮司だ、今回は貴官ら欧州の精鋭と共に演習に当たれる事を光栄に思う」

 

ドイツなまりの狼王に継いで、ゆっくりめではっきりした発音の英語。

ジングウジ少佐の表情こそは引き締められていて厳しい。しかしおそらく元来の目元は柔らかそうで、優しげな雰囲気に変えて民間人に紛れ込まれたら見分けがつかないかもしれない。

 

「率直に言って、新装置への貴官らの習熟の早さは想定以上だ。開発国としては参ったと言っておこう」

 

小さく肩を竦めたジングウジ少佐に、会場にわずかな笑いが。

しかしその、本来の意味を ― 使いやすく、造ってあったのだろうと ― 類推する者たちは、幾重かの皮肉か自慢とも取って同じく笑ったり或いは眉間に皺を寄せたりしていた。

 

そして女少佐は会場を見渡し――

 

「先々ミサイル対応は必須となる。まずはそちらに集中させた方が良いと思っていたが、それも予想以上の成果だな。…たしかに、小手先の技術はあるらしい」

 

小さくも鼻での笑い、そのその明白な嘲弄に場の空気が一気に張り詰めた。

静まりかえった室内、しかし平然とその緊張感と敵意すら含んだ数々の視線を受け流し。

 

「だが時間は有限だ。そして肯んじがたい任務でも、遂行するのが軍人だ。ゆえに明日以降の時間を有効に使うためにも、我々は多少打ち解ける必要がありそうだ。幸い――」

 

そこへ音もなく脇から進み出る山吹色の女士官。

その手に捧げるトレイに載った、透明な液体を満たしたショットグラス。

 

「我が国には、無礼講という言葉があってな」

 

そして「狂犬」の異名を取る女少佐は。

務めて表情を消した風なその士官から受け取ったそれを、小さく掲げるや一気に干し。

 

「我々衛士は時代の徒花、戦術機と共に」

 

顔色一つ変えることなく。

 

「そうかもしれんが現時点では人類の切っ先だ。そして切っ先がゆえに鋭さを欲する…」

 

しかしその呼気に籠もった熱が、その声の響きと共にベルナデットの耳朶を打つ。

 

 

歯を食い縛って高Gに耐え、「敵」をレティクルの中に捉えてトリガーを引く。

 

異星種を倒すがために牙を研ぎ、人類がために技を磨いて。

絶えざる緊張の連続の中で戦場を渡り、死線を越えて飛び走り続けてきた。

 

なのにそれを同じ人間に向けねばならず、やがては遺物として置き去りにされる。

電子機器が遙か水平線の向こうに見つける、記号化された目標へとミサイルを導くゆえに。

 

 

「だから気になるのだろう?」

 

 

半生を、いや人生すべてを捧げてきたがため。

戦いの中に斃れる前に、いや或いはそれが不要と断じられる前に。

 

明かしておきたい。証しておきたい。

 

 

果たして己は、どれほどに迅いのか。そして――

 

 

「我々と貴様等――」

 

 

――本当は、どちらが強いのか。

 

 

「精鋭中の精鋭たればなおさら…まったくもって度し難い。因果な話だ」

 

 

だがそれが衛士という人種、おそらくは万国共通の価値観。

 

 

「基地司令閣下の御厚意だ、レクリエーションの用意がある」

 

 

身体が、魂が闘争を求めるなら。

 

 

「我こそはと思う馬鹿は、格納庫へ来い」

 

 

そして会場には、山のように余った料理に肩をすくめる基地司令だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我々は長物は使わん、だが構わんぞ好きな得物を持ってこい。

 

三十路前らしいが無駄のひとつとてない肢体を強化装備に包んで。

イルフリーデが見上げるハンガー内搭乗用キャットウォークの上、ジングウジ少佐は傲慢ささえ漂わせて言い放った。

 

その彼女の傍らには ― ノウ・マスクめいて無表情なリッターたちが、黒く塗りつぶされたが如くに闇を背負ってその眼光だけが光を放ち、指揮官と同じくこちらを睥睨して……いや、中には一人開いた左手で顔を覆って低く笑いながら「封印を解く時が来たか…」とか意味のわからないことを言っている清十郎、そして引きつった笑顔を浮かべる小柄なタツナミ中尉(昇進していたらしい)。

 

並み居るウニオンの衛士たちは戦意に燃えて、しかしどうせやるなら同数同士。

屈強な彼に彼女らは隊の代表を出すやシェーレ・シュタイン・パピエでじゃんけんぽん、各国ルールの細かな違いを巡ってちょっといさかい、先に決めておくべきでした。

 

 

「少佐殿…少々煽り過ぎでは?」

「ユーコンでの経験からこうするのが手っ取り早いと言ったのは貴官だぞ」

「それはそうですが…」

「私のような平和主義者には理解しがたいがな、ところで中尉はどうした?」

「その、腕比べには興味がない、と…」

「なんだと? まったく、らしいといえばらしいが…金看板がいないとサマにならん、誰か行って連れて来い。龍浪中尉」

「え、俺ですか? いや…無理ですよ」

「使えんな。なら篁中尉、色仕掛けでもなんでもいいぞ」

「一番不得意な方法です…」

「なら私が行くが」「いえ僭越ながら」「私が参ります」

「…微力を尽くします」

「頼む、衛士全体の強化はBETA殲滅に繋がるとかなんとか言いくるめて連れてきてくれ。ああそのまま同衾して貴官も来ん、というのが一番困るからな」

 

 

何やら日本語で言いあう頭上のリッターら、その隅でなにがどうしたか小さい身体をさらに小さく丸めてキノコを生やしていじけるタツナミ中尉。

 

とまれ一番槍の栄誉を勝ち取ったツェルベルス、ちなみに代表に出たのはララーシュタイン大尉。なんとなくだけどブラウアー少尉じゃきっと負けていたと思う。

 

 

 

そしてJIVES ―

創造されたは隆起した地形が半径200kmでもって円状に広がる空間。

その赤茶けた地表は蒼空で散った衛士の血を吸ってか。

 

 

所詮は余興としての競い合い、しかし誇りを賭けての凌ぎ合い。

 

そして即興ゆえに策も無く、互いに恃むは腕ひとつ。

 

まさに円卓、此処には上座も下座も無い。

 

交戦規定はただ一つ――生き残れ。

 

 

 

「来やがった、突っ込んでくるぞ!」

 

ブラウアー少尉が警告を発するもレーダーにはとうに、しかしそれはお互い様。

対向する敵部隊の先陣を切って襲い来るのは――

 

ヤーパンライヒス・ドッペルクリンゲ。日本帝国の黒き双刃。

 

「ヤツだ!!」

「単機とは恐れ入る」

「ようやく本気か…待っていたぞ」

「先走るな、数を利用しろ。巻き狩りだ」

 

狼王に率いられるは古参の番犬、死に損ないの戦友共が18機。

本来の塗装に戻されたライヒスリッター「ザ・シャドウ」を追い詰める。

単体での機体の格闘性能には劣っていようともこの数の差、さらには打ち合わせなどなくとも共に超えた死線の数が、阿吽の呼吸で牽制からの射撃統制。

 

「よし…もらったぞ! ――なに!?」

「あれを!?」

「やはり躱すか!」

「噂通り背中にも目がついてるようだな!」

 

しかし紺碧を斬り裂くは漆黒の絶刀、二重に構築された包囲網すら潜り抜け。

錐揉み機動からぱっと四肢を開くや貫くはずの火線を躱し極小噴射で突撃軌道に微少の変化、僅かも速度を低下させずにこちらの偏差射撃は空を切らされ。

詰まる相対距離、狙撃のために落ちたこちらの速度を見切ったかそのまま端の包囲機へと稲妻の動きで喰らいついた。

 

「入られたぞ! CIWS用意っ!」

「間合いが近――、ぐあッ!」

「な――、踏み台にした!?」

「おのれ…っ、ちぃ、疾い! なんて機動だ!」

 

双刃が襲うは手近なEF-2000から、しかし迎え撃つのも地獄の業火でさんざんに揉まれたうえに特殊装置にもほぼ習熟した番犬達。長柄武器での対処が難しいとは瞬時に悟るや前腕ブレードでの防御優先に切り替える――も、黒の襲撃者は撃墜自体が目的ではないとばかりに瞬撃の一太刀二太刀を浴びせては体勢の崩れた番犬機を蹴りつけ足場にし、即座に次の得物へと襲いかかる。

 

まさにライヒに伝う英雄譚、ハッソー・ビートがそのままに。

 

「包囲を緩めるなッ!」

「後ろを取れ!」

「馬鹿真後ろは――」

「ぅおわッ!?」

「言わんこっちゃない、誘いだぞ!」

「影すら踏めん! どうなってる!」

「空気が重い…!? これがヤツの飛ぶ空か!」

 

だが目的は攪乱、その程度の察しは即座に。

 

しかして遠景すればライヒ部隊はまだ遠く、いやまるで高みの見物とばかりにゲルプの隊は一定距離を保ってゆるりと ― と、遂にローテが率いる11機のヴァイスが動き出す、それをゲルプ達は遊弋を続けながら見送っている。

 

あたかも未だ狩りには不慣れな若き弟鷹を見守る姉鷹らの如くに。

 

「舐められてんなァ…オイ!」

「! ローテ11!」

 

ブラウアー少尉が怒気を発し、最前衛を翻弄する双刃に突っかけ――ると見せて、担いだ計3門のGWS-9を素早く起動するや向かってくる深紅と白のゼロ部隊へと掃射して牽制、ゼロ達はぱっと素早く散開するもその突撃行には僅かな遅滞。

 

「そろそろであるかな」

「ヤー。頃合いでしょう、中隊長」

 

イルフリーデが見る網膜投影の隊内通信、中隊長ララーシュタイン大尉はそのモノクル顔のカイゼル髭をぴぃんと弾いて。

首肯した隻眼のメドゥーサ・ベスターナッハ中尉が檄を飛ばした。

 

「目が覚めたか番犬共! 自虐と慢心のカクテルの二日酔いにはさぞかし効いたろう! さあ手を動かせ! 足で捌け! 機械に頼るな目を使え!」

「ヤ、ヤボール!」

「グート。ではこれより第2中隊ロートは旧交を温める。相手はライヒのエリート新人さんだ、少しは戦場の味を知ったようだが本物のユーラシアの流儀を教えてやるぞ」

「ヤボール・フラウ!」

 

動き出す、わずか6機の第2中隊。

 

「…」

 

その機先を制せんとばかりに黒い影が鋭角の機動を描くも――

 

「――!」

「させん」

 

その軌道上、数瞬先の位置へ。

滑り込んだは同じく闇色を纏う漆黒の――EF-2000。

三頭獣の大隊長機、そのBWS-8の長柄で双刃を受け止めた。

 

「…」

「久しいな、リヨン以来か。部下への調練には感謝する。が、ここまでにしてもらおう」

「…『黒き狼王』…」

「慣れん呼び名だ。しかし卿ほどの衛士に知られるならば悪くはない」

 

作為か否か、僅かの混信。

アイヒベルガー少佐は跳躍ユニットAJ200を噴射して拮抗状態を創り出す。

 

「02、シュヴァルツを預ける。デュオンのブラウとでゲルプのゼロを抑えろ」

「了解ですわ、では大隊長?」

「ああ。私は少し、彼に教練を願うとする」

「はい。ふふ、貴男の良いように」

「勝手を言うな、すまん」

「いえ、どうぞお楽しみになって、マイン・ケーニッヒ」

 

純白の機体の中、くすんだ金髪の后狼は典雅な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かってきていたゼロの部隊、しかしこちらの数を見て取るやその半数はあらぬ方向へ飛び去った。おそらくは他所への援軍、さては合流果たせぬフランス軍の所へか。

ともかくこれで数は同数、しかし概算ながら機体性能では機動力はほぼ互角ながら運動性では勝ち目がない。同じゼロでもローテは元よりヴァイスですら、あのシュヴァルツ・ゼロより上位機と聞く。

 

だが、それでも。

演習だからなどとの甘えなどなく、イルフリーデは隊と共に突進した。

 

「清十郎っ!」

「む…」

 

高域周波での発振、応え聞こえたのは言い淀むかのような ―

 

「フォイルナー少尉……4年の時を経てまだ…我が力尚至らず、許し等乞えぬ。身命を賭して危地に赴かんとした貴女達をむざむざ…私はまた、見ていることしか出来なかった」

「は? あー…ああ…うん。それは…もっと手伝って貰えれば、嬉しかったわ。でも、あなたが死んでも、私は悲しかったと思うから」

「そんな……、やはり私では未だ、戦陣を共にするに錬磨が足りぬと」

「え? えー、と…、違うわよ、そうじゃない。一緒に戦えればそれが一番だけれど、それでも知り合った、大切な人に生きていてほしいと思うことは、普通じゃない?」

「その言葉、痛み入る…」

 

隊の軌道が交錯した。

 

赤が率いる極東の鬼、計6機。そして同じく赤が率いる西欧の動甲冑も、同じく6機。

だがまだお互いに手出しをしない、武士と騎士との無言の了解。

 

「だから今は手加減なしよ! 世紀の吶喊を成し遂げた私たちの力、見せてあげるわ!」

「……、栄光のツェルベルスと相対する等願ってもない! 手合わせ願おう!」

「でも同数でなんて100年早いわ、本気のドイツァ・オルデンを半熟サムライに止められるかしら。待ってあげるから呼び戻したら?」

「笑止! 是れまで独逸騎士の戦い様はとくと見せて貰った、一度見た業は斯衛には通じん、これは最早常識! そして我が鋭鋒を以てその証とせん!」

 

 

片や百戦錬磨の番犬部隊。

誇り高きユンカーの末裔たち、未だ奪還ならぬハイマートの地に恋い焦がれ。

欧州絶対防衛線・「地獄門」の守護獣にして、斃れた友の死肉を相食んででも立ち上がり、傷つき血を吐きなお頽れぬ。

 

対するは「未熟兵による特殊装置の実戦試験」、あるいは戦果以上に何人生還するかを重要視して知らぬままに試されている経験浅き若武者の群れ。しかし確かに新進気鋭、熱き血潮を燃やしてはその装備にも習熟し。

 

 

「いいわ、なら正々堂々と――勝負よ!」

「応!」

 

 

かくて少年の声は、男のものに成り。

 

 

「でも詫びだなんて言質を取らせてしまうのが清十郎君のまだまだなところですわよね」

「まあな、だが貴族だろうがブケだろうが誰もが最初からお前ほど腹黒なわけはあるまい」

「イルフィもますます勘違いさせてるみたいですし、また面白、いえ困りましたわね」

 

迎え撃つ外野も等しく武器を構える中へ、

 

「やるぞ焔狼共…!」

 

紅の鬼が鋭く高度を上げた。5機の白がそれに続く。

 

「む…っ」

「な、なに?」

 

見上げる番犬たちが咄嗟に身構える中。

 

「絶えたし血と肉と骨の痛み、此処に解き放たん…」

 

深紅の00式。眼光覗くその面を覆う左掌、

 

「高天原より舞い降りし鹿島神、天之尾羽張より生まれ出でし剣神――」

 

水平に伸ばされた右主腕が握るはこの夜にこそ現れた74式長刀。

 

「大いなる戦神にして雷神よ、その朱き電光にて我が黒き魂を清め給え――今!」

 

その全身に配された水色に輝くセンサーが――

 

「拘束制御術式、解放ッ!」

 

――光を発した!

 

「なにィ!?」

「こ、これは…!」

 

その威に圧されたが如きEF-2000、

 

「いや普通にXM3起動するだけだよな?」

「前から考えてたのかな、あの口上」

 

対して若武者らは口々に空惚けた事を言いながら。

しかししっかり高度の利をば手に入れて。

 

「オイ上を取られたぞ」

「気を逸らされた、やるねあの大尉どのも」

「…狙ったのかなあ」

 

それに抗する番犬部隊は無駄口を叩きながらも。

 

「しかしやはり手加減していたのか…」

「リッター(除清十郎君達)の突撃戦は圧倒的ですもの、なんでもアメリカの教導団ですら近接戦では負け越しだとか」

「教導…F-22がか!?」

「噂では。CQBからCQCのみ、なんて実際にはまずあり得ない設定でのお話だそうですけれども。まあ今日が初日ということもあってまずは様子見、明日以降から徐々にという腹積もりだったのでしょうがあちらもこちらも衛士はせっかちですものね、ジングウジ少佐は時間短縮を選ばれたのでしょう、ただミサイル回避は全力だったかと……そうか、そうですわ。それこそ回避時は操縦補助をオプションにしてプライマリは弾道予測に振り分けたのかも開発国ならではの裏技でしょうかいえでもそういえば演算リソースについてはたしかに分配不可能とはどこにも書いてなかったかもしれませんわむろん可能という項目もございませんでしたがあのクソ分厚いあらごめんあそばせとても親切なマニュアルを作成した人間の性根がお察しですわねああでも今はようやくゼロのおそばにっどれほど枕を濡らしてお待ちしたことか前線基地の予備パーツにも近づくことすらできませんでしたもの仮想構築の再現度はどれほどなのでしょう高いとよいのですけれどとにかくさあもっと近づいて微に入り細に入り拝見しなくては!」

「こらルナ、ローテ08、後衛が前に出るな!」

 

上方から圧する焔狼中隊、しかしローテ中隊6機は素早く散開してその鋭鋒を受け流して見せるやあっという間に乱戦に持ち込み、戦場のペースを手に入れた。

 

「囮か!」

「くっ、やはり手強い…!」

「当たり前だ! 性能差は忘れろ、分隊を崩すな! 胸を借りるつもりで行くぞ!」

「おう!」

「おいお前ら、そういうことならウチで一番はそのローテ08ルナテレジア、ヴィッツレーベンだぜ。たぶんズィーツィヒ・ゲー…えーとライヒじゃなんていうんだ?」

「kwsk」

「俺の見立てじゃトップは99の、アンダーは72だな、うん」

「Hであります先任少尉殿」

「速ぇなw よしお前さんにはムッツリ侍の称号をぅわ危ねッ!」

「誤射ですわ♡」

 

誤射ってお前直撃コースじゃねえかIFFはどうなった、あらうふふおかしいですわね故障でしょうかと心温まる会話を隊内通信で交わしながら。

 

 

 

 

 

戦いの空に夜は更けていく。

 

人類のため、世界のため、そして己と仲間のために。

生死を分かつその一瞬を飛び越えんと爪を研ぎ牙を磨いて翼を拡げ、その青春を捧げてきた若人たちが今この時にその成果と証を以てさらなる高みへと駆け上がらんと、切磋琢磨し競い合う――

 

 

その中の、唯一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつも評価・ご感想下さる方々ありがとうございます

一月以上空いちゃいました、ごめんなさい
他ならぬ私が話を忘れいえなんでもありません

相変わらず話の収拾がつかなくなって中途半端なところで…
しかも中二成分が足りませんでした
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