Muv-Luv UNTITLED   作:厨ニ@不治の病

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Muv-Luv UNTITLED 33

 

 

 

 

 

浮き世憂き世も閻浮の夢と 鴉 大狼 ひき連れて

 

肩も鯔背に風を切り そぞろ歩かば勿来の関か

 

四方八方槍衾 三界無安の因果な渡世 鬼も来る来る剣が峰

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 2003年 6月

 

 

旧ソ連カレリア自治ソビエト社会主義共和国。

マティゴラ西3km。

 

 

変わらぬ厚い曇天 ― いや膨大な放射熱量により局所的に発生していた光線属種積乱雲(レーザークラウド)の発生源が断たれてなお、小型核並の破壊力を持つS-11*8の大爆発が激しい交戦における砲煙に戦術機の排気煙・さらには使用されたAL弾幕による重金属粒子それらを地表の粉塵と共にまとめて高く高く巻きあげたがため陽光はさらに遮られ黄昏と見まがう明度――

 

その下の現代のユーラシアとしてはある種ありふれた荒野、すなわち植物も動物もおよそ生あるものがなにひとつとして存在しない死の世界 ― つまり人類に敵対的な異星起源種・BETAによる災禍の結果が同じようにただひたすら広がる北辺の地。

 

 

もっともこの地・ソビエト連邦共和国といえば、そのBETA禍による失陥前の国土面積は2240万㎢に及ぶ広大さで当時世界最大、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)比で約90倍・日本帝国比でも約60倍にもなる ― だがその一方というべきかその分というべきか、人口密度では14人/㎢未満と両国比でそれぞれ1/16・1/24という低さだったらしく。

 

おまけにソ連共産党(ボリシェヴィキ)集団農場(コルホーズ)政策やら都市集中型工業化(五カ年)計画やらで人口の都市部への集中はより顕著になった上、それらのついでにお金持ち農家とか少数民族とかの「反ソビエト的」なひとびとはそんな彼らによりふさわしいお仕事のためのキャンプ地に連れて行かれたりあるいは連れていかれるその途中やらで最大200万人くらいがいなくなったりしたらしいしさらに自称・鋼鉄の男たる猜疑心の塊みたいな往時の最高指導者の下では控え目にいってもその10倍程度は粛清やらその他諸々で現世から強制的にお別れさせられたそうなので、要するにBETA禍以前からソ連支配地域の大半以上がおよそ欧州西側先進国の基準からすると想像しがたい域の荒漠さの無人地帯が広がっていたという ―

 

 

そんな人民民主主義の名を騙る圧政国家「ゾヴィエトライヒ(ソビエト帝国)」が存在していたこの地にて。

 

 

『――こちらソビエト連邦軍北方艦隊統合戦略コマンド・第8492戦術機甲大隊スィストラー。協定に基づき貴隊支援に急行中』

 

助けに来たとかいうわりに。

通信回線にそう自動通訳を通して聞こえた声は、冷厳かつ無機的な管理主義国家の軍人のイメージそのままで。

ドイツ連邦共和国陸軍第44戦術機甲大隊・ツェルベルス所属のヘルガローゼ・ファルケンマイヤー少尉は乗機EF-2000のなか内心の憤りにしかし微量の恐怖が入り混じるのを自覚していた。

 

「支援って…今さら?」

「お前な…」

「…イルフィ、貴女のその脳天気さが今は笑えませんの」

「な、なによ!」

 

熾烈な戦闘とそれに続いた英雄の生還劇の熱冷めやらぬ帰還開始直前、とはいえその高い練度を示すが如くに弛緩しきる事はなく破壊の嵐が過ぎ去った荒野の上で一路帰還の途に就くべく縦型(トレイル)を組みつつあった群狼 ―

 

その内でも率直かつ単純かつ浅慮にすぎる訓練校以来の金髪の僚友イルフリーデ・フォイルナーの漏らした感想を、同じく僚友の腹黒淑女ルナテレジア・ヴィッツレーベンと揃ってちくりと腐すも。

 

 

現地点よりおよそ50km北北東のミャグレカ沖群島付近に「出現」したソ連軍戦術機部隊。

その数36、大隊定数きっかり。

 

発見した司令部からの一報を経てまだ多少の距離は ― とはいえ戦術機それも第3世代型機の快足を以てすれば残りの40kmを飛んでくるのに4分までもかからない。

 

 

「――こちら有志連合討伐隊(コアリション・オブ・ジ・ウィリング)代表アイヒベルガー。目標の無力化は完了」

 

代表してソ連軍人との通信に応じる大隊長があえて感謝の辞を述べなかったのも宜なるかな、しかし。

 

『目標の沈黙は確認している』

「了解。よってこれより我々は帰投のため当域を離脱する」

『それは認められない』

 

平板なままの共産国家の軍人の声は北の大地の冷たさで。

 

「 ― その理由は?」

『貴隊には今作戦における我が軍との協定に対して重大な違反の嫌疑がある。即時聴取に応じられたし』

「Scheiße! 来やがったよ」

 

平生から粗野な素振りの先任ブラウアー少尉が吐き捨てる、その思いはヘルガとて同感だった。

 

 

予想をしていなかった――わけではないが。

 

その場その場の直感と直観に頼りすぎな傾向があるイルフリーデに比べれば幾分かは冷静かつ慎重なつもりとはいえ、正直なところ解決すべき目の前のミッション ― 700kmも機体サイズギリギリの隘路を爆装状態の機体を引きずり低空曲芸飛行で抜けしかるのちにわずか2中隊未満の戦力だけで巨大光線属種・超重光線級2体を討伐せよ(しかもどちらもぶっつけ本番) ― が無理難題を通り越して目もくらむような内容で、前代未聞の長駆攻撃作戦ゆえにその成功確率は算出不能なレベルに低く生還率もまたそれと等号で結ばれていただけに、「その後」の事まで考えていられなかったというのが正しい。

 

いやさらに正直にいってしまえば、敬愛する大隊長 ― 鉄血の軍人にしてグロスブリタニア防衛戦「七英雄」が筆頭たるヴィルフリート・アイヒベルガー少佐と怜悧なるその補佐役ジークリンデ・ファーレンホルスト中尉のお二人ならば、常に深い思慮がおありだろうしいかなる事態に陥ろうともきっとなんとかして下さるだろうと――

 

 

「信頼の名を借りただけの思考停止だったと言われれば、たしかにそうだ…」

「けれど他に手段はありませんでしたもの。負うべきリスクの類でしたの」

 

2体の超重光線級のすみやかな撃破は欧州連合(ウニオン)にとっての至上命題。

損失は折り込み済み、最初から無傷での作戦遂行は見込まれていなかったのが現実。

 

 

むろん本作戦の立案と遂行にあたり欧州連合軍並びに日本帝国両軍司令部は、ソ連軍が掌返しである程度までの強硬手段に訴えてくる可能性も考慮していて、戦術機戦力を出し渋る素振りのソ連軍北方艦隊主力が交戦予測地点から200km超という比較的遠方の白海上に展開している以上、より近隣のどこかに伏兵を忍ばせることくらいはしてくるかもしれないとそのための隠蔽ポイントの走査程度は試みていた。

 

それら事前の調査は70年代後半からのBETAによるソ連領北西部地域劫掠の後にも戦力を隠蔽しうる程度の構造物なり地下施設なりが残存している可能性の高い場所 ― すなわちソ連軍北方艦隊の旧母港たるムルマンスク州・閉鎖都市セヴェロモルスクについてはやや距離があるものの白海沿岸の原潜建造の中枢だったアルハンゲリスク州・セヴェロドヴィンスクなどは比較的近傍とあって、それら大規模拠点跡を主な対象として行われはした。

 

しかしなにしろBETA禍以降長距離レーダー網など無いに等しい欧州連合軍、むろん航空偵察など出来るはずもないしおまけに作戦地域は元々分厚い機密のベールに包まれていた文字通りに鉄のカーテンの向こう側たるソ連領域。

ゆえに今作戦の要諦の一つでもあった運河跡を利用した半坑道戦術に必須の地形データ自体もソ連から提供を受けねばならなかったくらいなわけで、隠蔽地点の捜索にせよ展開中部隊の監視にせよそれらすべてを低軌道偵察衛星に頼らざるを得ない。

だがそれらはその高コストゆえに地上を這いずるBETA相手だけでも十全とは言えない程度の数しか飛ばせていないのが現実で、そこに加えて人類同士の監視・しかも沖合までも含む海上さらに海中を進むため元から極めて隠密性が高い潜水艦部隊に対してまで万全にこなせるわけがない。

 

さらにもっとも致命的だったのは、なにより作戦の策定から開始に至るまでの時間自体がほとんどなかったことだった。

 

ゆえにたとえば当作戦域内に未知の地下戦略核ミサイル(I C B M)サイロ ― 分厚いコンクリート内壁とパラフィン充填された頑強きわまる鋼鉄製の蓋により守られたソ連式のこれは340気圧以上の衝撃波圧力つまり同じ戦略核兵器による直撃レベルでなければ破壊が不可能、よって仮にBETAに「中身」が喰われてしまっていても「筒」の構造体自体はある程度残っている可能性がありまた同軍式の地下サイロ発射型ICBMは主にコールドローンチであることから弾道弾本体がキャニスターに包含され格納されている都合上サイロ内直径がホットローンチ式のそれに比して大径化する傾向(R-36(サタン)のものなら約6m)のため戦術機の外形上で最も幅を取る両肩部装甲を副腕による保持という構造を利用して「跳ね上げ」れば暫時の格納は可能と推定 ― が存在しないかとか、ソ連軍の保有の確認はとれていないが米軍・日本帝国軍が有するソードフィッシュ級ないし81式潜行ユニット等やそれらに類似する潜水兵器を使用するとか、はたまたかつてのプロイェクト621 ― 大型強襲揚陸潜水艦の末裔が実在してそれを利用するのではないかとか疑い出せばキリがなかったものの、既述の如くにそれら総てを確認する手段も時間もなく――

 

 

結局のところおそらくは(どこか近くまで潜水艦を使うなりはしたのかもしれないが)「夜陰に紛れて出撃して島の影に隠れる」という、最も原始的かつ安価でありながら効果的な手段、ある意味きわめてソビエト式 ― あるいはロシア的な手法によって兵を伏せていたらしい。

 

 

「Putain! やっぱり狙ってたのねコミー共、le troisième larron(漁 夫 の 利)とはよくいったものね展開が間に合わないとかって話はどこ行ったのよ」

 

だいたい今はこんなとこで時間食ってる場合じゃないのにと、乗機を失いながらも強化装備で通信網に残ってはいるフランスの女琥 ベルナデット・リヴィエール大尉が緊急脱出(ベイルアウト)後で薄暗くなった管制ユニットの中その細い腕を組んで怒りを示す。

一刻も早く後送したい「負傷者」がいて、短躯に秘めた苛立ちを隠さぬ彼女は指先まで保護被膜に包まれていなかったら爪を噛みだしていたかもしれない。

 

「にしてもアンクルサムの衛士がいないからってずいぶんなりふり構わないじゃない、どうあってもこのプチ・コフレ(XM3)が欲しいってわけ?」

「ということは…事前交渉ではXM3の提供までは決まっていなかったということですか」

「そうなるんじゃない? そもそもまだユニオンで生産できてるわけじゃないし…」

「ハ、ウチの外交屋共も大概だけどさすがイワンの恥知らずっぷりは一枚上手だったわね」

「空手形のつもりでエサをちらつかせた相手は残念ながらグリズリーだったのですわ」

「フン、ソ連領域にはもういないはずだけど言い得て妙ね、屍 肉 食(スカヴェンジャー)であり狩 猟 食(プレデター)であり」

「ええ、レールガンの『前科』もございますし」

「…たしかに最初から現物を押さえるつもりだったのかもな…」

 

エイス・ダンベルクール両少尉含むフランス軍衛士の会話に混ざったルナの指摘にヘルガも臍を噛む思い ― いくら手練れを集めたといえどあの巨大BETA2体を相手に損害なしで済むとも考えにくく、そもそも欧日の最新鋭機ばかりの編成でもあるのだから撃墜なり損傷擱座機なりが出たらソ連軍が接収に動いてくるのはある意味当然とはいえ。

 

「それにアイツの機体も。たぶん一点物の実験機みたいなモンでしょアレ」

「…ええ。サンプルとしての価値は相当にあると思いますわ」

 

だが欧州連合軍としては本当に「他にどうしようもなかった」、ゆえにその英雄として今日これまで欧州の守護者たりえた黒の狼王も鋼の堅さで応じていて、

 

「協定内容の履行についての疑義ならば正規のルートで申し立てを願う。現場の指揮を預かる身として最善を尽くしたことを証言する用意はある」

『貴隊は我が軍のきわめて重要な戦略資産を損壊せしめた、これが事実だ』

 

しかし取りつく島もないとはまさにこのこと。

 

「なによ、私たちがやっつけるまで隠れて待っていたくせに」

「その、『やっつけた』のが問題なんだがな…」

 

イルフリーデの憤慨こそが皆の素直な思いとはいえ。

まあ実際のところ相手の言い分に、理がまるでないかといえばそうでもない。

 

 

今や各国がその争奪に血眼になっているBETAの巣・ハイヴのその中枢にあたる反応炉 ― その疑似器官とも目される超重光線級がその腹に抱える準反応炉、貴重きわまるサンプルになるに違いないそれを事実上の敵勢力となる東側・さらにその盟主たるソ連にむざむざくれてやる必要はなかろうとして、協定の詳細部分にして実はもっとも肝要な部分がある種玉虫色なのをいいことにヤーパンライヒが謹製のカミカゼランツェ・刺突爆雷でもって2つとも主体節の大部分ごと粉々に吹き飛ばしてさしあげたのはつい先ほどのこと。

 

つまり元々うまくいっていない国家同士で面倒なところは全部有耶無耶なまま見ない振りをしてとりあえず本当にごくごく直近の利害の一致だけをテコに組みあげたのが今回の作戦協定だったのが実際なわけで、その文面はともかく込められた意思まで含めて誠実に遵守するつもりが端からなかったのは欧州連合側も変わらない。

 

 

ゆえにカンカンになった(あるいはそのフリをして)共産主義者連中が因縁を付けてくることくらいは想定内 ― ただその絡みっぷりが予想よりも周到かつ大胆だったところに加えて、こちら側の都合としても至難きわまるミッションを奇跡的にも戦死ゼロでそれもほぼ理想的な形で達成したのはいっそ信じがたいほどの僥倖だったがその内実は苦闘の末の薄氷の勝利にすぎなかったから、

 

「イルフリーデ、推進剤の残量は?」

「23%。国境まで220km、フェリー飛行なら保つけど…」

 

作戦策定時から余裕はなかった航続距離の問題がやはり。

 

 

さっさと飛んで逃げようとしないのもそれが理由、1000kmを超える照射圏を持つ超重光線級は撃破済みとはいえここがBETA支配地域なことには変わりがない、ゆえに対光線属種への警戒込みかつ高速で追ってくるソ連軍機から逃げ延びるために燃費最悪の全速匍匐飛行をしたら確実に途中で墜ちる。

 

だからと機密情報をすべて消去した上で搭乗機を捨てて逃げるというのもまったく現実的ではない、そもそも元からからほとんど人が住んでいなかったような荒野なのにBETAに加えてコミュニストまでもが目を光らす地帯を数百kmも身一つ徒歩で移動して無事に離脱できるなどと考える方がどうかしている。

 

 

『被撃墜機に負傷者が出ていることも確認している。救護と医療の提供を含めた補給の用意はある、我が隊の誘導に従われたし』

「…逃げられないことも解っているわけだ」

「当然ですわね。問題は、私たちの扱いですけれど……」

「目的がXM3なら…捕虜になっても…解放はされる、わよね?」

「と…思いたいところですわ。やりすぎれば『火事』が大きくなりすぎますし…」

「らしくねえ甘ぇぞ08、連中の案内する先なんざルビャンカ(拷問室)ラーゲリ(収容所)に決まってる」

「アラスカの寒さはシベリアよりはマシだろうが、いずれにせよ御免被りたいね」

 

ブラウアー少尉の悪態に隻眼の蛇女・ベスターナッハ中尉がため息をつけば、

 

「たしかに最悪の場合ですと『私たちは』そうなるかもしれませんわ、特に……」

「気遣いは必要ありませんヴィッツレーベン少尉」

「申し訳ございません『后狼(ケーニギン)』」

「それって…人質ってこと? 軍のやること、それじゃまるでマフィアじゃない!」

「とんでもない、マフィアでしたら自分の組織の人間を2000万人も殺しませんもの」

 

ルナの皮肉もやや自棄気味に。

 

 

ソ連は55年にジュネーヴ諸条約に批准しているからそれ以前の東部戦線(バルバロッサ)における両軍の捕虜ほどに劣悪かつ過酷きわまる待遇にはならない――と考えたいが、いや逆にそれがあるだけにたとえ殺されずに済んだとしてもまともな扱いを受けられると考える方が楽観的に過ぎる。

 

たしかに連合発行の軍広報誌(パレード)あたりにも幾度となく取りあげられて知名度の高い番犬部隊、その風聞はやや盛られてはいても実力自体に疑いはないしなにより強奪したXM3の元・持ち主でもあるわけで、しばらくはそのテスト要員として働かされる可能性はある。

 

わけて誰より「黒 き 狼 王(シュヴァルツァーケーニッヒスヴォルフ)」― 彼ならばその優れた衛士としての技量よりもさらにむしろ、実際に赤化教育(オ ル グ)できるか否かは別として親ソの転向者として党広報誌(プラウダ)に載せるなりプロパガンダ・トレインに乗せるなりできればその利用価値は計り知れない。

 

ゆえに明言されたこと自体はなくともその王と公私にわたる関係の深さが半ば公然の事実として世間一般にすら知れ渡っているのが「白 き 后 狼(ヴァイスヴォルフ)」であるならば ― 連邦国家保安委員会(K G B)なり参謀本部情報総局(G R U)なりのサディスト達が舌なめずりして美しき王妃の到着を心待ちにしているに違いない。

 

 

ただそれらはすべてウニオン側に限った話で。

むしろ今現在この場にいる衛士らの中で最も高い社会的な立場や地位に影響力を持つ者といえば――

 

「ヘルツォーク・フォン・イカルガ」

「なにかな狼王殿」

 

一命を拾ったばかりの瀕死の部下を含む臣下の者らを気遣う風にはしながらも実際には何事も起きてはいないかの如く、だらりとタイプ74・サムライソード(74式近接戦闘長刀)を提げて佇む青の鎧武者タイプゼロ(00式)・タケミカヅチの中。

同色の強化装備に身を包む貴人はその秀麗な眉目の口の端には常の笑みを浮かべたままで。

 

ライヒの英雄、とは聞いてはいたが…

 

ヘルガもその容貌くらいは報道ベース程度になるがもちろん知ってはいた、だがむしろ注目していたのは軍の記録映像などに記されていたその清冽かつ流麗鋭利な戦術機動剣技の方で。

 

 

タカツグ・イカルガ ― セイイグンカンなる聞き慣れない役職あるいは官職に就く彼は、ヤーパンライヒの全権代理人たるショーグン・ジェネラルを補弼する立場だという。

 

本来ライヒが立憲君主制に依って立つ以上、あくまで国の舵取りの実権は国民の選良たる議会からさらに選ばれた行政の長にして立法の一員でもある首相が司るはずで、その強弱はあるにせよ世襲や姻戚関係によってのみその地位を保持継承しているブケなどという明らかな特権階級の出身者はあくまで象徴的な存在ないしは地位にとどまるべきもの。

実際ライヒにおいても先の対米戦争での敗北を経てその傾向は顕著になって、BETA大戦下での過酷な日々のなか各国ともにより国民と国家の統合の象徴としての存在が重要視されるようになっていてもなお、ブケの長たるショーグンはあくまでそうしたシンボルとしての立ち位置を崩していないと ― 聞いていた。

 

だがそこに現れたこの男は卓越した指導力と余人を寄せつけぬ武力・さらに異性同性問うことなく目を引く容姿までをも持ちあわせた異才。

選挙という民主制の洗礼を経ずして高みに登りしかし同時に民の圧倒的な支持をも受ける、ある種民主制の大敵のような男 ― まさに乱世のカリスマ、ゆえに本来名誉職に過ぎなかったかもしれないその地位を以て今や世界3位の軍事大国・ヤーパンライヒの事実上の指導者と目されている。

 

しかもサムライの誇りを継ぐライヒ、なかんずくその精神性の塊ともいえる斯 衛 軍(ヴァッハリッター)を率いる彼は揮官先頭・率先垂範の伝統を体現するがの如くにBETA相手の最前線に立ち続け、2度にわたるハイヴ攻略を成し遂げた上に今回もこれほどまでに危険度の高い作戦に当然の如くに参加していて正直ここにまで至るとユンカーの裔を自認するヘルガ含むツェルベルスをしてなお大時代的というか時代錯誤的というかで率直に言って理解が難しい。

 

 

そして今作戦にて実際に目にしたそんないと高きお方の力量は、確かにサムライマイスターの名に恥じぬもの ― どころかあのタカムラ中尉をしてすらさらに頭一つならずも上回っているのではとさえ思え、加えて何よりあの黒の衛士を従えているという一点だけでも恭敬するに価する。

 

 

だがそれほどの猛者、いや間違いなく今代最優の域にある衛士のはずなのに。

 

対面して判ったことだがなぜか彼には――覇気や剣気といったものをほとんど感じない。

 

 

生まれながらの高貴と富貴を身に纏い、切れ長の眼に宿す光はどこか気怠げ。

こんな戦場よりむしろ美姫を侍らせ不夜城を奢侈に練り歩いている方が似合いそうな。

 

貴公子然たる容姿に東洋的な雅さはまぎれもなく支配者の風格を放ってはいるがその一方で、怠惰ささえ入り混じってみえる茫洋たる眼差しのせいなのかとても世界屈指の使い手とは思えないという、言うなれば情報と感覚との甚だしい乖離。

 

とすると、これは――

 

 

「…どうお考えで」

「そうさな、弱ったものだが」

「…」

 

大隊長の問いに応えたその言葉面とは裏腹に、どこか乗機の右主腕に握らせたカタナをひらひらと弄んでいるかのようで。

狼たちの王の鋼鉄の慇懃さに確かな疑念が生まれたことがヘルガにも判った。

 

たしかにあれは、冷静さゆえの落ち着きというより。

 

 

洋の東西を問わず ― 王なり皇帝なりが戦場において敵の手に落ちたこともなくはない。

その中にはそのまま落命した者もいたが少なくとも一命は保って戻った者もいたし、さらにこの現代社会における国家指導者級・しかも世界有数の軍事大国のそれである彼が大したいわれもなく獄死なり刑死なりの憂き目に遭うとも考え難い。

 

ゆえに少なくとも「彼だけは」、この事態に陥ってなおその生命自体が積極的におびやかされる可能性は限りなく低い。

 

だからこその余裕?――いや、生きて虜囚の辱めを受けずとまで云われたサムライの末裔にして長たる彼が命惜しさに自分だけ生き延びようとするだろうか。

 

そもそもそんな生き意地の汚い人間であれば地位や家格などには一切忖度しないBETA相手の戦線に立つなんてことはしないだろうし、大体そんな事態になってしまえば彼の権威は地に落ちたも同然になって政治的にはほぼ終了 ― するだけでなく、ライヒの国家としての威信にすら傷がつく。

 

 

とすると実は共産主義に傾倒していて亡命の機会を窺っていた、なんてことは…

 

消去法でいうならなんとそれが一番あり得なくはないのだろうが、畏れながら言葉を選ばずいってしまえば元からシニカルな言動をなされる方のご様子であってとりわけ今はどこかそう――

 

悪巧みがうまくいった子供のような ― だとすれば。

 

「…最初から…これが目的で…?」

「ヘルガっ」

 

思わず零した呟きは恐らく同じ推論に至っていたのだろうルナがしかし不敬と小さく咎めるも。

本人の耳にも届いてしまっていたのか心なしかそのアルカイックな笑みがより深まったような、喩えるなら序夜黄金の狡知神(ローゲ)の如く。

 

そしてそのどこか漠とした色を湛えるやや青みがかった黒い瞳の奥底を覗き込んだとき、ヘルガは唐突に猛烈な危機感 ― あるいは恐怖 ― を覚えた。

 

 

たとえばそう、それは底なしの。

 

真っ黒に開いて永遠に続く深淵を、迂闊に身を乗り出して覗いてしまった時のような。

 

 

――この方は…!

 

 

世界最古の王朝の國に生を受け。

その至尊の位にもほど近く。

文に通じて武に秀で。

 

衆庶を能く治めては数多の強者をも統べる、まさに古賢曰くの鷲の勇気に蛇の知恵をそなえたübermensch ― その頂にすら手を掛けながら。

 

民が望むなら応えよう。世が願うなら叶えよう。

だがそれがゆえにか生に倦み、弄ぶはTodestrieb(デストルドー)

手すさびにひとつ賭事にて気散じ。

 

その掛銭(チップ)とは――己すら含む世界の命。

 

 

「公…!貴方という方は…!」

「クク、そう怒るな。魔女殿の言に篁の見立てをまるで信じぬではないが――」

 

紅いゼロに乗る硬質の麗人・ツクヨミ中尉がその鋭い眥をさらにつりあげれば、今度こそ青の貴人はその妖しげな笑みを深めて。

 

「――何事も、この眼で見てみねば済まぬ性でな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とんでもないことになった。

 

曇天の下の地平、およそ何もないその荒野の向こうから。

地上にて立つ乗機EF-2000のレーダーに匍匐飛行してくるその機影群が映ったということは、すでに20km近くにまで迫ってきているということ。つまりあと2分足らずで「接敵」する。

 

イルフリーデは急な喉の渇きを自覚した。

 

 

「01より全機。残弾確認、各自の判断で交換を許可」

「ヤーボール」

「こちらリヴィエール、D o D(ペンタゴン)方式でデータ消去完了、エイスっ」

「ウィ・マム、120mmHESH装填・発射準備よし。ジョゼ、早く大尉を!」

「02より各機、我々も鹵獲の危険性を察知した場合は速やかに全データを消去なさい」

「了解。08より提案、跳躍(ジャンプ)ユニットの出力パラメータをモード9へ」

「許可する。傘壱型(ウェッジワン)、前衛は01・02・06・11、ゲルハルト後衛の指揮を。フランス軍は下がれ」

「了解である」「りょ、了解です」

「ただし命令するまで発砲は禁じる、砲も向けるな」

「ヤー。……司令部のお偉方の判断が連中の120mmより速けりゃいいんですがね」

「02より全機、絶対に相手の挑発に乗らないように。冷静な行動を」

「ヤーボールフラウ。おい11、始まったらお前が最初に撃たれな。骨は拾ってやる」

「っざっけんな小隊長、俺は死なねえっての」

「その意気だ。……死ぬんじゃないよ」

「…ああ。あんたもな」

 

 

戦史に残るBETA討伐作戦を成し遂げたはずが。

その直後に唐突なAH戦――しかも実戦。

 

欧州最強の名を欲しいままにしてきた地獄の番犬ツェルベルスをして ― おそらくは初めて経験する種類の戦闘――人類同士の、殺し合い。

 

 

「公! 此処迄の事態を推知して居られたのなら何故に ― 」

「彼の巨大種相手に他に手段が在ったのかや。其れに揣摩憶測と誹られれば其処迄よ」

「然れども御身の御立場を真に辨えておいでならば…!」

「異星種討伐の序でに敵情検分迄も出来るのだ、勿怪の幸いであろ?」

「また其の様な御為倒しを! 今回ばかりは何時もの戯れでは済みませぬぞっ」

「執拗いな月詠、猟犬はもう黙ったぞ。不服あらば蘇聯の連中に申し立てよ」

「……閣下。スィストラーなる名にはユーコンにて聞き覚えが」

「それは重畳、では当たり籤という訳かな ― 鎧衣少尉、其奴の容態はどうかね?」

「は、はい、強化装備が再起動できて投薬も…ですが、一刻も早く」

「フム、では横浜隊と真壁龍浪は下がっておれ。()()()()()、そう長くはかからんよ」

 

 

礼節を最低限守りつつも憤懣抑えがたき様子のツクヨミ中尉相手にも余裕の表情を一切崩さぬヘル・イカルガ、そして言いたいことは総て呑み込みちらりと停まったままの黒の機体へと万感を込めた惜別の視線を送ってから一度眼を伏せ次いで開くや総ての覚悟を決め終えたのか一切の表情を消して刃と化した黒髪黒瞳・玉鋼のタカムラ中尉 ― 彼を守って死ねるならそれでいいとか心底本気で思っていそう。

 

 

「イカルガ閣下……」

「狼王殿、まあそう悪いようにはせぬ…と云いたいが、それも連中次第よな?」

 

通信回線内、声音で明らかに自重を求めた狼王に対してもわずか引きつるような笑みを漏らす青は至極楽しげ、

 

「私が居ると知った上で出てきたのだ、余程に自信があるのだろうて」

「…閣下の剣技は確かに拝見致しましたが」

「いや狼王殿、其処な少尉が先程申しておったであろ」

「…?」

「付け火はしても大火にする気は更々無いのよ、精々が小火程度で留め置こうとな」

「それは解りますが…、む」

「然り然り。連中、縦え私が抗おうとも傷一つ付けぬままに組み敷く自信があるのよ」

 

無論卿も卿の隊もだ、実に面白かろ? と。

 

「其の有様を世界に向けて喧伝しようと云うのであろ、『赤軍に勝る者なし』とな」

「…では機密データ消去の上投降するという手段は」

「其れも言うておったろ、私や卿は放免されるであろうが部下等はどうなる。彼奴腹の胸先三寸次第で女達は慰み者にされ男共は極地送りぞ」

 

貴国程迄の規模では無いが我が國も露人とは此処百年で三度砲火を交えておる故その遣り口は知っては居るわとは極東の大国の指導者の顔。

 

「部下思いの卿ならば国と天秤に掛けた上での苦渋の決断ではあろうが ― 私も彼奴と彼奴の機体は渡せぬのでな」

 

そう、響いてくる聞き慣れない跳躍ユニットの排気音が愈々大きくなる中――

 

「まあ如何なるにせよ――楽しまれよ」

 

その美しき笑みはしかして高貴なる者の頽廃の極みにも見え。

 

 

「人の世の終わりの始まりを、特等席で観られるやもしれぬのだ」

「――!」

 

 

その日本語での発言が瞬時に自動翻訳されて伝わるや、鋼鉄の狼王とても流石に表情筋のさらなる強ばりを隠せない。

そして同じくそれを聞かされる羽目になったイルフリーデは、初陣を迎えた新兵の如く堅くなっていた己の掌、さらにはこめかみからも汗が流れたのを自覚して。

管制ユニット内はともかく強化装備は空調機能付なのだから暑くもなければ熱くもない ― 冷や汗だ。

 

じょ、冗談よね…!?

 

だが国家指導者級の人が言うと本当に洒落で済まない。

 

 

一目見た時から――どこか不気味な方だとは思っていた。

 

それは彼の本質が軍人というより他人に内心を悟らせないのが常の為政者 ― 政治家だからなのかとも。

でもまさかあの真面目がすぎるとさえ思っていたヤーパンライヒの人たちの、その統治者がこんな愉快犯じみた刹那主義の破滅主義者だったなんて!

 

 

日ソ対立 ― 冷戦から熱戦へ ― アメリカの動向 ― BETAの侵攻 ― 各方面の防衛線は ―

 

軍事力世界第2位と第3位の国同士でもし戦争が始まればどのみちただですむはずがない、衝突の規模の大小や戦局の推移がどうなるにせよ対BETA戦への影響は必至。

 

身勝手な言い分になるが現状ライヒ単独の戦力にすら依存しているウニオンにとってさらにアメリカの助勢までもが削がれる事態になってしまったらリヨン・スエズ・ユトランド・ロヴァニエミの4防衛線の維持なんてかなうわけがない。

 

大幅な戦線の後退 ― もしアメリカがライヒとソ連の戦争には深入りを避けたとしても、ライヒが抜けたユーラシアの対BETA戦線の状況が著しく悪化すれば――G弾を使うかもしれない。

 

 

いやそれ以前に――目の前の状況として。

 

人を殺すか ― あるいは殺されるか。

 

命があっても…捕らえられて嬲りもの―――絶対イヤよ!

 

 

逡巡しつつ慄くイルフリーデの網膜投影、その情報視界の中。

薄暗い曇天の下に最初に視認した点、そこへオートでズームがかかって望遠に ― 禍々しいそのフォルム。

 

あれが――

 

実機を目にするのは無論初めて、極北の狗鷲・Su-47 ビェールクト。

白色基調の大型の機体、さらに著しく張り出した両肩部ブレードベーンには赤い星 ― クラスナヤ・ズヴェズダ。

同じく大型の両主脚が伸び主腕と兵装担架にはそれぞれA-97突撃砲を提げた重装、1個大隊36機。

 

その威容に数的有利を誇示するかのように広めのウィング(鶴翼)陣形、砲口こそこちらへ向けてはいないが離脱方向となるはずだった西側を塞いで半包囲するかの如くに迫るやそのまま高圧的に着地した。

手練れを示す緻密な機動、相対距離50m。

 

そして繋がった近距離広域回線に現れたのは ― 冷たく厳めしい顔の共産主義国家の軍人。

陣形中央の機の搭乗衛士。

 

「武装解除を要請する。その上で我が隊の誘導に従われたし。なお逃走及び除装以外の搭載機器への操作は敵対行動と認識する、留意されたい」

「我々は現在欧州連合軍スカンジナビア司令部隷下にある。よって貴官の要請に従う謂れはないが、敵対の意志もない。貴国並びに貴軍との間で合意済みの作戦内容に基づき帰投する」

「先程も伝えたが貴隊には本作戦協定において重大な違反の嫌疑がある。また連邦法第58条に基づき聴取の必要を認めるため原隊への復帰はその後となる」

 

のっけから威圧的態度を隠そうともしないソ連軍人に急激に高まっていく緊張感。

やりとりをする大隊長の聞き慣れているはずの声に耳をそばだてる中でごくりと飲み込む唾の音にすら普段との違い。

 

「操作禁止って…どう確かめるのよ?」

「どうとでも言える難癖さ、それと鹵獲後にデータが消えてたらタダじゃおかない、と」

「それに冗談じゃありませんわ58条といえば反革命罪じゃないですの」

「ケッ、なにが原隊復帰だでっち上げの適当な罪状でアラスカ送りにするつもりだぜ」

 

隊内のみの通信でさえ声を抑えて疑問を投げれば小隊長の声もやや硬く。

ルナのやや早口での囁きにブラウアーが毒づけば、ただでさえ暗かった目の前がさらに暗くなる。

 

 

話しあいは平行線――当然だが。

 

では ― 戦いになる? 殺しあうのか、人間と ―

 

 

ちらと目をやる網膜投影・情報視界の左下、並ぶ仲間たちの顔も努めて表情を消しつつしかし隠しきれない緊張は、至難の戦場を多く越えてきたツェルベルスをして味わった経験のないもの。

 

 

それはそうだ――

祖国と人類を護るためにBETAと戦う、厳しい訓練に耐えて技を磨いてきたのはすべてそのためなのにこんなところで同じ人間に殺される?

だからといってこのまま大人しく従えば、たとえ殺されなくてもどこの誰とも知らない男たちに辱められて一生どこかの檻の中 ― このままだとかなりの可能性でそのどちらかになる。

 

そして敵の技量は不明だけれど手練れなことには間違いがない、さらに戦力差は圧倒的に不利。

しかもこちらは長距離長時間飛行に続いての高機動戦闘を行ったあとで衛士も機体も疲弊していることは否定できないうえ乗機喪失者を乗せた非常用タンデム機に重傷者までも抱えていて。

 

逃げられない、戦っても負ける、そうなったら殺されるかもっと酷いことになる ― なら。

 

 

「――まあ待て」

 

割り込んだのは涼やかな日本語。

 

「閣下、ここは」

「良いではないか、貴官、名は」

「ガヴェーリン少佐であります、Ваше сиятельство Ikaruga(斑鳩閣下)。貴下にも武装解除と同行を要請する」

 

外交上一応の尊称こそつけたらしいがそこは赤色テロルの尻尾、貴人だからと諂うことなくいやなおさら獄吏の如くに言い放ったが、

 

「断る」

 

青の応えは簡潔で。

 

「我等は皇軍ぞ。皇帝陛下より天下國家の全権能を委ねられし将軍殿下、其の御下命に依ってのみ動くもの。貴官や貴軍の要請等聞かぬし通じぬ」

 

しかもいつもの薄笑みすらも――いやそれは常よりさらに高貴さを ― 云う成れば隠すことない傲岸さを伴って。

 

「況して砲一門から血の一滴に至る迄貴官等に渡す物など何一つとて無い」

 

高所より人民を睥睨しつつ、其れ等がささやかな日々の糧を得んがために汗する労苦を鼻で嗤ってまこと小さき事よと扇子の向こうに隠した口の端で嘲弄しているかのような。

 

それは明らかな挑発 ― 一瞬緩んだかに思えた緊張が、一拍置いてかえって高まったのがイルフリーデにも判る。

 

な、なにしに出てきたのよ…!?

 

まこと不敬ながらもそう憤らざるをえない、仮に相手を怒らせて先に手を出させて「その後」を有利に運ぶつもりなのだとしても、向こうの方が圧倒的に数は多いのだから彼以外はそのままここで殺されてしまうかもしれない。

 

「…要請を拒否する場合は命令にせざるを得ない」

「命令だろうと変わらぬな」

 

ガヴェーリン少佐の声のトーンが低く下がる、まるで威嚇して唸る獣のように。

対してイカルガ閣下は変わらぬその高みから。しかし見下ろし流す柳のように。

 

「言葉で済んでいるうちに従うことを勧める。我々の善意も無限ではない」

「おや翻訳機が壊れたか? 火事場泥棒が常の共産主義者に善意等は端からなかろ」

「自分の身だけは守られると思っているなら間違いだ。有産階級は国家の敵だ」

「貴官や貴官の飼い主の事かや、赤い貴族が聞いて呆れる」

 

 

高まり続ける緊張感、肌にひりつく戦の気配――そして。

 

 

「最後の忠告だ。全世界に恥を晒す前に投降しろ、得意の剣も我々には通じない」

「――ほう?」

 

 

!!

 

 

その刹那 ― 反応は劇的。

突如瞬間噴射をかけたガヴェーリン機が後退する、

 

 

「クク」

「!?」

 

 

だがぴたりと離れず追尾したかの如きその笑みに。

狗鷲はさらにもう一度今度は主脚をも用い地を蹴りつけて大きく退がった。

 

 

Гла――(少――)

Чт――(な――)Что случилось!?(なにが起きた!?)

|Я не знаю,(わ、わからん) TSF сами этим(機体が) занимаются!(勝手に…!)

 

 

一瞬の混乱赤い星をつけたソ連軍部隊の長機は都合100m後退しその過程で砲を展開それに同調し群れの怪鳥共も一斉に砲を向けてきたが ―

 

 

「――どうしたね?」

 

 

佇む笑みの青の貴人と彼の操る鬼神は不動のまま――いや、何も持たない空いた左主腕だけがいつの間にか持ち上がっていて。

 

Nicht schießen(撃つな)― それは紛うこと無き支配者の所作、もっとも瞬間的にそれに応じて砲を構えるのさえも止められたのは歴戦の狼たちの反応と練達があってのこととはいえど、

 

な、なにが――!?

 

すんでで止まれたイルフリーデも混乱していた。

 

 

確かに一触即発の空気には間違いなかった。

 

けれどイカルガ機は「なにもしていない」のに、ガヴェーリンのSu-47が飛び退いた。

 

それに口調こそは挑発的でもヘル・イカルガには――「ひとかけらの殺気もなかった」のに。

 

 

「操縦の誤りかね少佐。それとも若しや ― ()()()使()()()()()()()()()()()()()()かな?」

 

おっと貴官等共産主義者にとっては正教会も抑圧弾圧の対象ではあったなと。

くぐもった嗤いにつりあがる口の端、常にもやや増すそれはまるで誰かの秘事を今や自らの掌中の珠と成し得て弄ぶ上位者の愉悦。

 

「顔色も優れぬし ― 何やら揃って大筒の()()()()が私に向いておる」

「…っ」

「矢張り其れこそ万邦に向け再度暴力革命不可避論とやらを喧伝するかや?」

「……我が隊の誘導に従ってもらう」

「貴官も頑固よな」

 

36機の敵性部隊から計288もの砲口を向けられながら。

それら総て等無いも同然と振る舞う貴人は笑みをさらに深めつつ。

 

「どれ、ひいふうみい…フム。七…いや欲張って八としようか」

 

…?

 

相も変わらず軽い調子で、まるでビュッフェで取り放題のトルテを前に指折り数えているような。

 

「篁の。卿はいくつかな?」

「……三、というところでしょうか」

「遜譲の要はない、()()()()であろ。手心等と吝嗇なことは云わぬ思い切りやって良い」

「…では五」

 

そんなイカルガ閣下から声をかけられたタカムラ中尉は変わらぬ玉鋼の気配と声音。

しかしイルフリーデには応えを返すや半眼に落ちたその黒瞳の底に帯電しては小さく爆ぜる刃の電光が見えた気がして、

 

「今一声行けそうではあるがな。では月詠、卿はどうだ」

「公…」

「四方や親藩紅にして武門の筆頭が譜代の山吹に引けを取るとは申すまい?」

「……、。五…と。致します」

「何だ先刻迄の直諫の勢は何処かや、まあ良いわ」

 

もう一方のツクヨミ中尉は内心で業を煮やし尽くして怒りの向こう側まで行ってしまったのか得も言われぬ能面のような表情になるも、イカルガ閣下は見えた釣果に独り言ちるようにして。

 

「なべて十八、半分とはちと寂しいが彼奴も居らぬしそんな処か」

「…S-11も用いますれば今少しは連れていけましょう、彼方の機体にも御座いましょうし」

「左様であったな、自爆誘爆御用心とは云うたものよ ― 何だ月詠其の顔は」

「……最早呆れ果てて二の句が継げませぬ」

「ほう。傍付城内詰めで餓えておった卿の剣、此度の戦で随分艶めいて見えたは私の僻目か?」

 

だが呼吸すらも憚られるような張りつめた空気の中 ― 三色三機は態度こそはそれぞれながらも、揃い揃って「その決断」自体は平然と終えたらしい。

 

ほ、本気で…

 

戦うつもりだ。

しかも生還することなんて微塵も考えてない ― 斬れるだけ斬って、ここで死ぬ。

 

 

曲者トイフハ勝負ヲ考ヘズ、無二無三ニ死狂ヒスルバカリナリ ―

 

 

「……無駄な抵抗はやめろ。武装を解除し、我が隊の誘導に従」

「最後の忠告とやらは先刻聞いた」

 

そして氷の軍人の言を遮り。

 

「さあ少佐。青史に私と貴官の名を刻もうぞ ― 史上最悪の愚者としてな」

 

青の鬼神は挙げていた左主腕を下ろした。

 

「なに、巷間人語に上るもそう長い間ではない。皆直に我々の後を追う」

 

次いでゆっくりと持ち上がる右主腕の刃の鋒 ―

 

「人に流れは変えられぬ。さすれば早いか遅いかだけの話よ。ならば――」

 

ぴたりと止まったその切っ先が無間地獄を指すのだとしても。

 

「――是非に及ぶまい」

 

 

その刹那 ― いや虚空で。

 

 

――!

 

 

()()が拡がる。

 

 

「ッ――」

「な…!」

「…っ」

 

 

物理的圧力さえも伴ったような()()のおそらくは余波に過ぎないだろう部分 ― しかしそれだけですらなお浴びた歴戦の狼たちは息を呑み。

 

直截に向けられたのであろう通信ウィンドウの中のソ連軍少佐がその細い目を驚愕に見開いているのを目にしたイルフリーデもまた結い上げた髪から解れたうなじそして強化装備・保護被膜の下に至るまで総てを一瞬で総毛立たせられていた。

 

 

な、なんて殺気……!

 

 

戦士であるならこの凄まじさが判らないはずがない、況んや手練れの衛士をしてをや。

研ぎ澄まされ尽くしたタカムラ中尉の殺意や一点の曇りも無い鏡の如きツクヨミ中尉の剣気とも違う、それはあまりに巨大で強烈な。

 

そして同じく通信内に見た青の貴人のそのどこか眠たげにも見えた眼はより落ちて半眼 ― しかしそこには常の漠たる光は既に無く、透徹した静けさの――更に向こう。

 

あの眼は ―

 

「やはりか…!」

「っヘルガ?」

「ライヒスリッターの剣の極北とは不動智…すなわち滅尽定の境地に常住する事と聞いた。タカムラ中尉が『真の一刃』を放つあの一瞬 ― あの極致の領域に、イカルガ閣下は常に…!」

 

これほどまでに膨大な ― その寂静の苑に秘められ高められていた戦気の巨大さたるや一帯の空気すら軋ませ震わせるようで隊内のみの通信ですら声を潜めざるを得ない――先ほどまでの緊張感ですらまだ緩かったと気づかせるほどに。

 

 

そして本能的に察する ― 「斬ろうと思えばいつでも斬れた」のだ、この方は。

 

目の前のソ連軍機などは、それこそ殺気の欠片ひとつとて見せることもなく。

 

 

斑鳩崇継 ― 万能の天才と名高い当代最高峰の衛士の一人。

 

しかし人斬りの王はやはり人斬り。

すなわちその天与の資の最たるものとは人類がその生存を賭けてBETAと戦う今の此の世に最も不要で忌避されるべき――「同属殺し」。

 

斃すべき龍を奪われた英傑は無用の長物と化した黄金の剣と共に独り虚無だけを抱え、その巨大に過ぎる才能を泡沫に消えゆく三世に遊ばせてきたのだろうか ―

 

 

「…」

「…」

 

誰も言葉を発しない。軋み続ける空気の中で。

仄暗い戦場の荒野には生命の影一つとて無く。

乾いて吹く風もまた、今はその動きを止めて。

 

破裂寸前の固体化したその大気の中を ―

 

「――Halt」

 

黒き狼の王が動く。

 

「ソ連軍部隊へ告ぐ」

 

敢えてであろうゆっくりと、だが力強い歩み。

 

「我々は状況のエスカレーションを望まない」

 

昂然とかつ悠然と進める歩はその鋼鉄の眼差しと共に揺るぎ無く、対峙する両陣営の只中へまで進み出で空手のままの右主腕を横へと広げた ― 撃つなら私から撃て、と。

 

「だが貴隊の行動は重大かつ極めて危険な挑発行為だ。よってここで退かねば国連憲章第51条に基づき独日両軍は双方の合意の下に集団的自衛権を行使する――総員、構え」

「Ja…, Jawohl! Bataillonsführer!」

 

その敬愛する大隊長の命ならば、如何なる煉獄の戦場とても駆けて抜けるが番犬部隊。

 

こうなったらやるしかない、ツェルベルス全機は鋼鉄の牙の統率の下一糸乱れぬ動きでStuG(突撃砲):GWS-9を構える。

 

 

ルナ提案のモード9はリッターとの異機種・異国籍部隊間連携訓練(D A N C C T)での戦闘経験から構築されたパラメータ、空対空高機動戦闘用だから初撃120mmをばら撒いて距離をとりつつ機動砲戦に持ち込んで――

 

相手の生死なんて考慮に入れるな顔も名前も覚える必要などない、ただひたすらに目の前の敵を噛み千切り引き裂き打ち砕いて仲間を助けて生きて帰るそれだけを目指して ―

 

Nun Wölfe, steh’ auf,(さあ狼共立ち上がれ) und Sturm, brich los! und Sturm, brich los!(そして嵐よ吹き荒れよ!)

 

 

「おや狼王殿。卿も乗るかね」

「…王侯の愉しみを阻礙した事には謝罪を。しかし友軍の危機とあらば、まして孰れは別離が宿命と云えど戦友の危機であれば尚更」

「友とは斯く在りたき者哉。こればかりは彼奴に肖りたいものよ」

 

およそ鉄火場には似つかわしくない変わらぬイカルガ閣下の軽やかさ、それをよそに居並び角突き合わせる東西の手練れの衛士らが皆一様にまばたきを止め固唾を呑んで操縦桿を握りトリガーに指をかけて狙うは破滅への扉を開くその瞬間。

地獄へのドアを蹴り開けるに他ならないその一瞬を相手方よりたとえ0.01秒でも先んじて捉えようと ―

 

始まる…!

 

最高潮へと至る超高圧の対峙下 ― イルフリーデが見る通信ウィンドウ内のガヴェーリン少佐の目線はまったく動かないまま――

 

「…」

 

いやだからこそ。

入っていたらしき通信指令にごく小さく「Понятно(了 解)」と薄い唇を動かしたのは、おそらくは故意だったに違いない。

国際共通規格の網膜投影・左側最下部の通信アイコンに視線を送るべくそこへ眼球を動かす等していたら、それがきっかけになってどちら側かの誰かが砲を開いていただろう ―

 

「…日欧軍部隊へ告ぐ。30分以内に我が国領域内より退去せよ」

 

そう一方的に言い捨てるや砲はこちらへ向けたままながら全機一斉に地を蹴って、100mほど警戒を解かぬ様を見せつけるように後進噴射したのち反転・素早く縦型を組んで鮮やかに離脱していく ― 南東へと。

そしてSu-47の速度性能はかなり高いらしくあっという間に見えなくなる――急転直下の、唐突な幕。

 

た…助かった、の……?

 

その実感はまだないままで。だがじわりと広がりゆく安堵。

我知らず脱力したイルフリーデはコネクトシートに頚・腰・両下腿と4点固定されていながらも、わずかながらずり落ちるようにしてからひとつ大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――フム。まあ、先ず先ずの見世物であったろ?」

 

抜き身のままの長刀 ― 斑鳩機が下ろしただけのそれはなぜか澄んだ音を立てて鯉口から鞘に収まったかのようで。

 

同時にソ連軍機が退いてなおまだ残っていた強い緊張感というか圧迫感が一瞬にして消えたことは、武芸の心得についてはいささか心許ない国連軍横浜隊小隊長・榊千鶴にも確かに感じられた。

 

…お、終わった…?

 

ずるずると崩れるように。

乗機94式不知火弐型の中コネクトシート上にやや沈みゆけば同じくかけた眼鏡も力なくずれて。

 

「よかった…」

「…、さすがに」

「…じゅ、寿命が縮んだね…」

 

小隊内通信の俊敏なる前衛・彩峰慧に矮躯の後衛・鎧衣美琴 ― 彼女は自機ではなく救護看護のために移乗している00式改型の中からだが ― らからも揃って明確な安堵が漏れる。

それも当然といえば当然で、今回戦場を共にした居並ぶ欧州連合の強者たちも同様に大きく息を吐いているほどなのだから。

 

なにしろ自分たちの生命尊厳のみならずすわ世界大戦の引き金かという場面に居合わせたのだし ― そんな中で、「戦端ガ開カレタラ改型ヲ伴ヒ全力デ後退セヨ」と背を向けたままの篁機から受け取っていた光音声でのその指示を、実行せずに済んで何よりではあった――が。

 

「公……本当に貴方と云う方は……一歩罷り間違えば…!」

 

ふつふつと沸騰する怒気というものがあるなら、それは今の月詠中尉を指すはずで。

硬質の美貌はまさに柳眉を逆立て声音こそ低く抑えてはいるがその内心は彼女の機体と強化装備の如くに真っ赤になっているのだろうが、そんな主家への忠義に生きる武門の麗人に対してさえも斑鳩公はまさにどこ吹く風といったご様子で、

 

「遊びよ。遊びは危険な程面白かろ」

「遊びですと……幾ら何でも…程が御座いますぞ!!」

「そう大きな声を出すな…ああ疲れが増したわ、続きは閨の中でなら聞いてやろうぞ」

「徒事を! 私は公の四番目の手懸に等成る心算は髪の毛程も御座いませぬっ」

「残念乍ら今だと五番目になるな」

「いい加減御簾中を御迎えなされッ」

「生憎私は器量の狭い男でな、北政所なぞ設けたら他の女を平等に愛してやれぬ」

「単なる漁色を一々潤色めされるなっ。摂家筆頭当主の御自覚は奈辺にお有りかっ」

「真壁の心労が判ったかや」

「公が仰るか!」

 

流石に途中で堪忍袋の緒が切れるどころか弾け飛んだのか声を荒らげた月詠中尉を言を左右にして適当にあしらう様はほとんどどこかの放蕩無頼な若旦那のよう、そんな殿上人同士の妙に程度の低い口論こそは表向き聞こえないふりをするのが市井の者のマナーといえどもその一方。

 

「やれやれ。して篁の、彼のガヴェーリンなる男だが」

「は、ユーコンの折に面識程度乍ら。優れた『軍人であり兵士』ではあったかと」

「となれば…正に魔女殿の言に卿の見立て通りであったな。疑った訳ではないが、許せ」

「滅相も御座いません、勿体なきお言葉に…」

「申してみよ」

「は。閣下の無拍子を間近に拝見できた等と身に余る光輝」

「おっと手の内見せ過ぎたかや。何やら首筋辺りが薄ら寒いわ」

 

おそらくはほとんど独断だったろう後退指示を出した当人・篁中尉といえば。

楽しげに笑う斑鳩公と同じく抜き身の剣を鞘に収めたが如くに戦闘の気配こそは引っ込めたもののその目元はいまだにどこか鋭く、少し離れた暗がりから凝とこちらを見ているような ― 正直いって、気軽に声をかけられる雰囲気ではないし、

 

斑鳩公…やっぱり、危険すぎるわ。

 

今この時点、ひとまずは確実に胸を撫で下ろしつつも千鶴の懸念は晴れるどころかいや増して。

 

 

元々個人的な感情からすれば ― 父の死には何らかの形でほぼ間違いなく関わっていただろう人物なわけで、そこには恨みとまではいかないにせよ疑いに近い思いくらいはある――きっと…助けようと思えば助けられたはずなのに。

 

ともかくたしかに王侯貴族の愉しみなどよくわからないしその苦労だって知る由もない、加えて公は国民どころか軍と兵士のその先頭に立って誰より危ない橋を渡り続けているのも事実だけれど。

でもそれにしたって退屈しのぎの面白半分で国の命運をオモチャにされてはたまったもんじゃない、いくらおそらくは「そうはならない」可能性の方を高く見積もっていたのだとしても。

 

ただものすごく厄介なことに、今回のBETA討伐作戦にせよついさっきの軍事衝突未遂にせよ――おそらくは斑鳩公がいなければ、前者はそもそも成功したかどうかが怪しく後者もまた無事に納まったかどうか判らない。

 

そこにこれからさらに国内で増していくだろう彼と武家の人気と名声を思えば。

こんな化物相手に小粒さばかりが際立つ今の政治家たちで、果たして十分に互していくことができるのだろうか ―

 

 

そんな千鶴も含めてようやく就く帰路、勝利の凱歌というよりむしろ疲労と安堵の中にもまだ残る焦燥の一方人の上に立つ者らに求められるのはやはり次の展望なのか、

 

「――イカルガ閣下。僭越ながら欧州連合軍を代表して感謝申し上げます ― 超重光線級討伐に加え()()()()についても」

「礼には及ばぬ…が。ならば代わりに狼王殿、卿ら()彼の赤鷲共については元より既知ではあったのかな?」

「…は。知己(ハルトウィック)より推論混じりの概要は多少…ですが実在には懐疑的でしたし、率直に申し上げて、今回は助けて戴いたと」

「何、単に得手不得手に向き不向きもあろうし此度は卿等の装備もな。それに我等にしてもあれは相当に難儀よ、月詠篁程の使い手が山と居るなら話は別だが…方策は練らねばならぬ」

「成程…つきましては帰投後、今少し情報の共有をお願いできればと」

「フム。友邦衛士同士の誼として幾らか胸襟開いて語り合いたくもあるがな」

「それでしたら閣下、お話中失礼致します、もし機会を賜れましたら此度の戦勝を祝しまして私共より誠にささやかではございますが宴の席など設けさせて頂きたいと…」

「おお后狼殿。そうさな、いくさばかりでちと渇いても来た」

「でしたら是非ご招待させて頂きたいですわ。それに仄聞致しましたところ閣下は我が国産のワインについても常よりご高覧賜り、深いご理解とご見識とをお持ちでいらっしゃると」

「そう煽てても何も出んよ。半可通の単なる左党と云うだけでな」

「まあご謙遜を。此方アイヒベルガー不調法者ではございますがワインの蒐集に関してましては専門の方々からも多少なりとご評価を頂戴しております、きっと閣下のお気に召す一本をお選び頂けるかと」

「其れは何とも有り難き誘い哉。実は先日其方よりの彼奴宛の逸品は相伴に預かる前に猟犬の鼻に嗅ぎつけられてしまってなあ」

 

死線を共に潜った者同士の連帯意識に気安さを感じさせつつもどこか迂遠で韜晦の匂いが入り混じるのが貴族外交というものなのか、千鶴はすべてを黙って聞きつつ外部から閉じた隊長級のみの通信に木っ端も木っ端の自分が入れられたことの意味まで含めて必死に思考を巡らす。

 

香月副司令に…伝えろってことよね…?

 

それで間違いはないはず、だがそのためには確実に生きて帰らなければならないしその前に一刻も早く中尉殿の後送をと思ったその矢先に全隊通信にそう大きくはないが狼狽に近い困惑が隠せない美琴の声が飛び込んだ。

 

「中尉の体温が低下中っ」

 

彼女は同乗する00式改は自律稼働に任せたまま、目を閉じぴくりとも動かない黒の衛士が横たわるコネクトシート脇に寄り添いながら。

開いた傷からの出血に赤く染まりきっていた頭部の包帯はすでに取り替え終えて、テキパキとしかし同時にどこか甲斐甲斐しい手つきで彼の顔に残る流血の跡を拭き清めつつバイタルデータを見ていたらしい。

 

「失血の影響?」

「それもあるとは思うけどどうしてこんなに…、…そうか強化装備を!」

 

 

衛士が戦術機搭乗時に纏う強化装備 ― 機体との接続及び間接思考制御含む操縦の補助・加えて耐熱耐冷耐衝撃の各種保護に投薬やカウンターショック機能までをも備える必需品だが、つい先ほど彼のものについては一時的だったとはいえ過負荷による機能停止状態に陥ったがゆえに人力で蘇生措置を施すため緊急時の措置として体表面を大きく覆う特殊保護被膜に対して内蔵分解液を使用してしまった。

 

そのため再起動かなった頸部肩部等ハードプロテクター兼主要電子装備部位は稼働中でかつ実際に引き裂いて肌を露出させたのも身体前面の胸から腹部程度と全体表面積の18%程度にすぎないものの、そもそも全身の保護被膜自体がその主たる機能であるデータスキン機能と共に体温調節機能をも喪失してしまっていた。

 

さらにまずいことに戦術機 ― というより管制ユニットの気密性は各種シーリング材やガスケットによりけして低くはないものの完全気密とはとてもいえず水に沈んだらやがて漏れて浸水してくる程度であって、そもそもが与圧を必要とする高高度での運用を想定した兵器でもないうえ気密装甲兜と併用すれば簡易宇宙服すらたりえる高機能さを有する強化装備があったがために、管制ユニット内部の温度調節については最初からほぼ考慮されていない。

 

 

そんな中で現地点は北緯64度超 ― アラスカやユーコンにほぼ等しい高緯度地帯でしかも内陸部へ向かう最中、真夏ですら平均気温は13℃程度にしかならないのに数日来の厚く垂れ込める曇天の下の陽光乏しいまだ6月ときて湿度こそあるが9℃ほど。

 

ゆえに低高度のフェリー飛行とはいえミスナールの計算式に基づけば機体前面の装甲表面に受ける温度は-10℃に近いはず、それで今のように淡々と長距離を直線飛行していればなおさら徐々に内部にまで冷気が浸透してくるのは自明の理 ― それでか回線に向かう美琴の息もすでに白い。

 

「エマージェンシーキットの保温シートで……、ダメかな、体幹温度が」

 

一同が息を詰めて見守る回線、何かないかとシート付近をがさごそとあちこちまさぐる美琴の頭部やら肩やらが時折アップになるなか黒の直属の上官でもある青い貴人が声をかけた。

 

「鎧衣少尉、要は其奴を温めれば良いのだろ?」

「はい。どうすれば…」

「知らんのか」

「は、はい」

「温めれば良い」

「……は?」

「温めれば良い」

「……。え」

 

数瞬かけて理解したと思しき美琴に対して雪山と同じよと何故か重々しく頷いてから斑鳩公は、映像は切ってやるゆえ安心いたせと常とは異なる優しい笑みまでも残して。

 

「えッ、ちょっ……、でも、そ…、それしかない、よね…?」

「よ、鎧衣!? 」

「きゅ、救護だし。じ、人工呼吸だってもうその、したんだしっ」

「じゃあなんで今さら赤くなるのよ!」

「そ、それはさすがに……裸でくっつくのは…恥ずかしいよ」

「はだッ――、わざわざ言葉にしなくても!」

「ち、千鶴さんが聞くからだよ!」

「…鎧衣だけだと足りないかも。小さいし」

「慧さん酷い!」

「身長。誰も胸とか言ってない。胸はむしろない」

「よけい酷いよ!」

「…月詠中尉。自律稼働設定後の機体をお願いしたく…」

「…それは構わぬが…只貴官等空中移乗等という馬鹿げた真似は――待てと言っている!」

 

途端囂しさにあふれる回線、出迎え部隊との合流地点まであと100kmほど。

 

 

激戦と死線とを潜り抜けた衛士たちはそれぞれの翼を休めるべくそれぞれの場所へと向かう ― だがそれが次の戦いが始まるまでのわずかな間の宿り木に過ぎないことには、誰しもがすでに気づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 同年 同月同日

 

バルト海・ファスタオーランド島前線基地。

士官宿舎。

 

 

暗く照明が落とされた室内。

高緯度のこの島はこの時季日没は午後11時と遅く日の出は午前4時で早い、しかし今はその短い夜の帳がカーテンに閉ざされた小さな窓の向こうにも訪れている。

 

その暗がりのなか龍浪響中尉は硬いベッド ― 敷かれたままだった使い古しのシーツはつい一週間たらず前まで自分が寝転がっていたものそのまま ― の上で、ふと目を覚ました。

 

何時だ…

 

体内時計の狂いは日照時間の長さからでもあればここしばらくの昼夜返上での搭乗任務のせいでもあり。

感覚的には入眠から3時間くらいだろうか、蓄光機能がまだ持続しているはずの軍用腕時計を見ようにも――伸ばした左腕の上には、千堂柚香の頭が載っかっていた。

 

お互いに生まれたままの姿、微かな寝息にさらさらと流れる彼女の長い黒髪がむき出しの胸から腕をわずかくすぐる。

 

 

超重光線級の撃破は今から7時間ほど前のこと ―

 

柚香はその戦闘で乗機を失い、その後ベイルアウトしていた管制ユニットもまたソ連軍への鹵獲を防ぐため(柚香機のXM3はすでに焼きついて壊れていたにせよ)データ消去の上で120mmをぶち込んで破壊。

 

降機した彼女は当然のように駆け寄ってきたから収容し、あのとんでもない一悶着のあと皆で無事国境を越え。

10kmの非武装緩衝地帯をも抜けたところでロヴァニエミハイヴ防衛隊から発した出迎えの部隊と合流。

 

そこで給油を受け ― 欧州連合軍部隊はハイヴへと、日本帝国軍と国連軍の部隊はこのファ島基地へと向かう形で二手に分かれた。

 

ただその中でも斯衛軍の3機――斑鳩閣下はハイヴ防衛を続ける帝国・斯衛軍の指揮統制のため(といっても実際はすでに損耗の限界を迎えている帝国軍の引き揚げ準備のためだろう)、真壁大尉はその補佐をすべく、そして月詠中尉は本来の傍付の任へと戻るために、欧州部隊と共にハイヴへと向かった。

 

他方篁中尉は当基地到着後そのまますでに到着し待機していた輸送機に乗せられイギリス本土へと緊急搬送されていった黒の中尉と彼の機体を後追い護衛・搬送するため、補給と暫時の休息だけを挟んで再び自ら操る機上の人となった。

増槽装備でまずはここから1000km南西、ユトランド防衛線まで飛びそこで再度の補給を受けてさらに先の国連大西洋方面第1軍ドーバー・コンプレックス(地 獄 門)を目指すらしい。

 

そして残る国連軍横浜隊と帝国軍分隊は、ハイヴ防衛部隊引き揚げのための中継地となる当基地にその受け容れ準備のため斑鳩閣下と入れ代わりでおいでになる敬愛する大隊長・神宮司まりも少佐をお迎えするまでしばしの待機 ― 「休んでよし」との許可つきの。

 

 

つまるところ、帝国軍撤収へ向けての次の目的地はイギリス。

 

人員と装備をすみやかに日本へ送り返すためにはどのみち軌道経由にするほかなく、そのために必要な大規模宇宙港はこの欧州連合域にはかの大英帝国本土にしか残っていない。

 

 

中尉殿の無事についてはとにかく祈るしかないが、長かった欧州遠征もこれで終わる。

喪ったものの多さ大きさを実感していくのはこれからになるがとりあえずは――生きて帰れる。

 

「ん…」

 

わずかむずがるように小さな声を出す柚香、横を向いたその顔に落ちかかる髪をどけてやれば整って美しい ― はずだが暗くて見えない。

 

 

正直な話、キツかった。

 

というのもそもそもの作戦難度がとんでもなく高くてその成功どころか命の保証もなかった上に、さらにそのあと未発に終わったとはいえ一触即発・切った張ったの修羅場が始まり。

そんなソ連軍とのいざこざは管制ユニット内に導き入れた柚香に簡易ベルトを装着する間もなく始まってしまったものだから、なし崩し的に膝の間に入れ抱きかかえてやり過ごす羽目になった。

 

その後の帰路でもこのままでいたいという彼女の願いに応える形で二人乗り ― 実際超重光線級との戦闘で柚香は撃墜寸前つまり半歩未満間違えば死んでいた状況にまで追いつめられていたのだからその恐怖感がフラッシュバックしてくるのも無理はないだろう、そう思って時折小さく震える彼女の細い腰を抱いてやりながらの飛行は2時間近く。

 

疲労も疲労感ももちろんあって帰路の安定飛行に至ってもまだ気は抜けないと自らを戒め続けてはいたが――身体前面全体で受け止める柚香の肢体の柔らかさに鼻先にかすめ続ける彼女の髪や首元からの甘やかな体臭・そして時折腕を動かすごとに「ぁ…」と小さく漏れる桜色の吐息は、その努力を粉砕して余りあった。

 

なにせ都合2ヶ月近くの禁欲下・しかも強烈なストレスからの解放ときてはいくら頭ではわかっていてもせりあがる欲望ばかりは誤魔化しようがない、強化装備にも急所である股間部には高伸縮性の保護被膜の上にハードプロテクターが配されているから生の肉体の反応は柚香には気づかれなかったはず(そこも小さいからとかでは決してない…はず)とはいえ、そのまま抱きしめて奪ってしまいたくなる衝動を必死に堪えて飛んできた。

 

そしてファ島に辿り着き、簡潔に基地司令に報告と滞在の要請をして。

いちおう横浜隊の3人も含めて短いデブリーフィングを終えたらシャワーへ向かい、思い切り冷たい水をかぶって時間をかけて頭と身体を冷やし――

 

 

出てきたところにまだ髪も乾かしてない柚香がいたのは、たぶん偶然じゃない。

 

 

目線の高さはほぼ同じ、黒目がちの大きな瞳は潤んでいて。

野戦服のタンクトップに覗く白い谷間に伝うのは、汗かシャワーの水滴か。

 

「……いい、…か?」

「……はい」

 

広くもない施設の廊下を半歩違いで並んで歩き、DANCCT以来宛がわれていた部屋へ入るなり柚香の細い二の腕を取った自分はきっと獣の目をしていたろう。

 

そこからはできるかぎり優しくしたつもりだったが、それでも薄暗がりの部屋の硬いベッドの上で痛みに耐える柚香はきっと辛かったに違いなく――

 

 

そして今、眠る柚香へと暗闇の向こうに手を伸ばしながら。

 

彼女がかけがえのない頼れる相棒であることは確かだし、彼女の支援を得てもなお足りずに死ぬならそれは仕方ないとも思える ― 彼女がそうなるよりはよほどいいとも。

 

それに向けてくれる想いには当然気づいていたし、自分も彼女のことは好きだ ― ただ、それが彼女のものとまるきり同等の量や重さに性質かと問われてしまうと自信がない。

 

 

浅葱とはもっとこう ― 距離が近いような遠いような、お互い背伸びをして、あるいはそのフリをして、身体の距離はゼロであってもその「先」へ踏み出すのは暗黙の了解でやめていたような。

 

ただ――その記憶も、すでに少し遠い。

 

 

浅葱が死んで、丸2年近く。

訓練校以来の仲でその後も同じ隊で ― 何度も肌を重ねた女。

だから漠然とだけれど、忘れてしまうことなんてないだろうと思っていたのに。

 

いや、今でも全体的な輪郭やイメージ、匂いに声の色あいとか。

それら全体像…というよりももう少しくらいは細かく思い出せる――なのに。

 

じゃああのつりあがっていた眼は、小さめの鼻に薄い唇は、具体的にどんな形をしていただろうか、いつも「おーい」と蓮っ葉に呼びかけてきたあの声は ―

それらを詳細に脳裏に描いて思い出し、また聞こうとしても、まるで開いた掌の指の間からさらさらと零れていってしまうように――記憶の中にはまだ残っているはずの彼女の情報が、うまくまとめられない。無理矢理かき集めて固めて再現しても、どこかが大きく違う気がする。

 

せめて写真の一枚くらいあれば違っただろう、けれど訓練校から最初の欧州派遣までに持っていた私物は浅葱が死ぬその直前・駐屯地を襲われた時に――全部BETAに喰われてしまった。

 

2年足らずでこんなでは、5年も経てばもうほとんど思い出せなくなりそうで ―

 

 

思っていた以上に自分は薄情で、自分勝手な人間なのかもしれない。

 

相当な思いに想いを込めて身を任せてくれた柚香を抱いた直後に昔の女を思い出し。

その柚香を想う気持ちに嘘はないと断言できるその一方で、肉欲に引きずられる心のどこかでは浅葱だったらもっと色々してくれただろうし何度も求めることだってできただろうと――遠くなりつつある記憶の中でもそんなところだけはしっかり憶えている。

 

 

「ったく…キチッとしなきゃな…」

 

柚香を起こさないようにベッドを抜け出し。

頭をかきつつあてどなく歩を進めれば足は自然と格納庫へ。

 

無数の誘導灯がぼんやりと光る広大な滑走路の脇で立ち止まり、見上げれば満天の星空。

朝になったらちゃんと柚香と話そう、ひとつ息をついてもう一度歩き出せば ―

 

「――警報!?」

 

闇夜に響き渡る不穏な吹鳴。

夜空を切り出すサーチライトの軌跡はないが、振り仰いだ聴覚は遠くから響いてくる別の音を捉え。

 

北からか…FE-140、弐型!

 

それも2機、鳴り続けるサイレンのなか機体各所の航行灯を光らせながら低空を高速で接近してきたそれらは滑走路へと着陸を決め、すぐさま地上から向けられたライトで塗装の仕様がようやく判る ― 帝国軍機と国連軍機。

もっとも先頭の1機が誰なのかは機動を見て気づいていたから、

 

「神宮司少佐!」

 

アイドリング状態にまで落ち着きゆく跳躍ユニットの音にかき消されないよう大声を出しつつ駆け寄れば、果たして弐型の開いた管制ユニットからは長い茶色の髪をお下げに結った女盛りの神宮司まりも少佐その人が強化装備姿で現れるやホイストケーブルを使って降りてくる。

 

「龍浪か? 休んでいれば」

「は! いいえ、お早いお着きで、連絡を下されば」

「わざわざ起こすこともないと思っただけだが――」

「で、なんですかこれ?」

「まだわからん、欧州連合軍からは――軌道爆撃だと?」

「は!?」

「それで警報が ― ああ、到着した ― ……なんだと? 確認したのか?」

 

少佐は強化装備の通信機能で情報を得ているらしいがこっちにはさっぱりわからない、続いてこちらをハンドサインで制しておそらくは帝国軍ハイヴ指揮所とのやりとりを始められたので黙って聞く中もう1機の弐型から降機してきたひどく小柄な国連軍衛士 ― 珠瀬壬姫少尉がややあたふたしながら駆けよってきた。

 

「 ― どうなってる?」

「は、はい。しばらく前からソ連軍がヴェリスクハイヴに攻撃しているみたいで…」

「やっぱりか。あの連中、引き際が鮮やかすぎたからな、ヴェリスクの方へ飛んでったし」

「はい、その部隊も攻撃に参加してたらしいです」

「向こうさんも戦力に余裕はなしか…にしても軌道爆撃するほどBETAが残ってたのか?」

「それは、わかりません…ただ ― 」

 

言いよどんだ彼女 ― 横浜基地所属にして横浜出身という珠瀬少尉には、より複雑な思いがあっただろうと気づき知ったのはしばらく後で。

 

 

「G弾を――使ったみたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハーメルン読者の年齢分布なるものを拝見しました
予想よりずっと若くてびっくりw

ま、まあマブラヴ知ってて拙作を読んで下さるよーなお方はきっとアダルトでいらっしゃって、ソ連が健在だった頃もご存知の方がほとんどだと確信しておりますはい

いつもの如くにご指摘等ございましたらお願い致します
ご感想ならびに評価も頂けますとたいへん励みになります~
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