自由主義を標榜する西側勢力がその勢力を結集して攻略、その後も防衛し得た地上8番目のハイヴ・ロヴァニエミ。
しかしその成果それ自体が対立する東側勢力 ― いわゆる集産主義国家群 ― にとっては脅威の伸長に他ならず。
ゆえに当地は両陣営が有形無形の火花を散らす緊要の焦点となる ― 以前と微塵も変わることなく間近に蠢き続ける宇宙からの暴虐――この歴史深き大陸ユーラシアを…否、恐らくはこの惑星ごと劫掠し尽くさんと際限なく増殖しその版図を拡げ続ける
しかしながらそもそも、有史以来 ― いやそれ以前からひたすらに続きまた繰り返されてきたのはまさに血で血を洗う同種同属間での闘争の歴史、その間に流された血と涙と苦悶と怨嗟の総量たるやBETAの侵略によるそれと比較してなお決して引けを取ることなどなく。
隣のあいつはより多く持っていそうだからと狙い。
むこうの誰かはこちらを奪おうとしていると襲い。
肌の色が違うから嫌い、眼の色が異なるから厭い。
言葉が違うからと憎み、生まれが別だと唾棄さえし。
果ては考え方が異なるゆえと、破滅の武器さえ向けあって。
ひとは戦う ― 戦い続ける。いついかなる時も絶えることなく。
人間は争う ― 争い続ける。自らの喉元にまで致命の刃が迫っていても。
ゆえに古の神学者は曰く ― 「人間の敵は人間である」と。
2003年 6月 ―
旧フィンランド。
ロヴァニエミハイヴ付近・欧州連合軍駐屯地内格納庫。
一手ご教授願いたい ―
そんな
本来ライヒ部隊の指揮権を担う現在ファ島に赴いている魔女の猟犬マリモ・ジングウジ少佐に通信で了解の確認こそ取る間にも、「形稽古から入らねばならぬ藤四郎の集まりでもなかろ?」といきなりシナリオなしの実戦形式での演習を逆に提案してきたとのことで。
「まったく…」
やや釈然としない気持ちを抱きながらも。
西ドイツ陸軍第44戦術機甲大隊・ツェルベルス第2中隊所属のイルフリーデ・フォイルナー少尉は西独軍制式仕様・白黒基調の衛士強化装備に身を包み、愛機EF-2000・タイフーンの管制ユニット内にて再度の搭乗と
「だいたい『フットボール』っていったら
「ドイツ語だとそうなるがてっきり私は
「あいにくイギリスのサッカーは
結い上げた金髪を揺らしつつ軽い不平をブツクサこぼせば、同じく搭乗シークェンスを進める僚友たる凜乎とした女騎士 ヘルガローゼ・ファルケンマイヤーに毒を隠した深窓の令嬢 ルナテレジア・ヴィッツレーベン両少尉もまた同調。
情勢はそれなりに緊迫してる(らしい)しエキシビション・マッチとはいえ正規の軍事行動には違いない、それでも深刻ぶりすぎないのがウニオン歴戦の番犬部隊の流儀でもあり先任先輩格の同中隊衛士らの口数も常と同じく軽くて多い。
さらに網膜投影の情報視界にちらと映り込んだ、司令部内にて高みの見物よろしくくつろいだ様子の高級士官らの姿 ― しかもそこは同じくプレハブ式の急造物とはいえ衛士むけの(いにしえの
「まったく気に入らねえ、他人に超過勤務させといて自分は優雅に
「おや11、イギリス軍機はTSFの管制ユニットにだって湯沸かし器がついてるってこと知らないのかい?」
ウォルフガング・ブラウアー少尉が毒づけばすかさずブリギッテ・ベスターナッハ中尉が茶々を入れ。
平生から粗野な言動に加え軍服の胸元まで大きく開けては着崩して隊内きっての不良隊員ぶりを自ら以て任ずるブラウアーに硬質の美貌に隻眼のしかし眼光鋭い冷徹なる女軍人そのものといったベスターナッハは、部下と上官とそして戦友の間柄にしてどこか姉弟のようでもある。
イルフリーデはそんな仲間たちと、そんないつも通りの軽口を叩きあいつつ、
「そりゃ私たちにだって拠点防衛の機会がないわけじゃないだろうけど…」
本来の任は即応遊撃、つまり「火消し」が主たるもの。
隊内通信にてそう疑問を投げかければ、
「まあ少将閣下の仰る通り、親善・模範試技ではあるのだろうし ― 」
「元よりライヒはアグレッサー機に赤い星つきの
「それは知ってる、だからファ島の
「XM3の件も無論あるがな。だがそれに加えて――」
「ライヒ機のデータも欲しいのでしょう、とりわけ可能ならハイヴ内でのAH戦の」
まこと遺憾ながらも自分よりは間違いなくあれこれ知ってて世知にも長けると頼りにしているヘルガとルナの両僚友はすぐに答えを寄越してくれて。
なにせライヒの精鋭といえば、ヨコハマを皮切りにその後のサドガシマさらにチョルォンまで計3ヶ所のBETAの巣を世界に先駆け立て続けに攻略せしめた手練れも手練れ、
「それがファ島では空戦と長距離ミサイルの運用が主だったからな、『余興』こそあれど」
「おまけにそこでさらに見せつけられましたもの、彼らの剣の威力を」
「…今さらだけど。友好国で、友軍なのよね?」
「相手が誰であろうと取れるものは取りますし貰えるものは貰うのがマナーですわ」
通信ウィンドウに浮かぶルナはしれっとした口調のままの表情で欧州連合盟主国の将官の老練さを指摘しつつ、
「でもそれくらいはライヒでもわかってるでしょ? なんで承諾したのかしら」
「そこはお互い様だろう、向こうもAH戦のデータが多くて困ることはないし…少々口幅ったいが、各国軍一線級の衛士同士で大規模な模擬戦を行う機会は貴重だ」
「ですわね。それに今やライヒはイギリスと距離を詰めるにあたってむしろ得しかありませんわ、元から利害の衝突はほぼございませんし――」
と締めくくられたヘルガと(主に)ルナの解説にイルフリーデがナルホドと素直に感想を漏らす頃には、狼たちは再びの仮想の洞穴内へと放り込まれていた。
そこは現実でも見た光景 ― 薄暗くも青緑色に発光する壁面の地下空間――ハイヴ。
本来ならその中央部あたりには、床面から生物的かつ鉱物的で巨大な
ルール自体は先の演習と同じ ―
「――演習開始。02、状況を」
「了解 ― 監視衛星へ情報リンク」
もはやいきおい自然にファ島衛士らの指揮役とまではいかぬもまとめ役を担う立場にされる黒と白との狼王后狼 ― ツェルベルス大隊長 ヴィルフリート・アイヒベルガー少佐にその副官にしてパートナーたるジークリンデ・ファーレンホルスト中尉 ― 、部下らと同じく先の演習とは変わって機体色も常の仕様に戻されているなか皆の情報視界に作戦図が展開され――
そこにはハイヴ東側から迫る光点群 ― その数18。
「少ないな…隊を分けたか」
「ライヒ部隊の総規模は稼働機からしておそらく2個大隊未満、60機までには満たないと予想されます」
対するこちら防衛側連合ファ島部隊は英軍22機を筆頭に、西独軍が18機その他仏伊軍等あわせて計75機。
ドイツ軍含めて彼らはすでにある程度以上呼吸も気心も知りあいつつある手練れの集まり、急ぎ即席の作戦会議とばかりに回線内で顔を寄せあう。
「数的にはこちらが有利だが…」
「東から来るのは陽動か…いやそれも兼ねたレールガン部隊だな。となれば」
「本命は
「お得意の軌道強襲降下作戦ってわけだ、強気だなー」
「いや笑い事じゃないぞ、再突入カーゴ地表激突時の試算データを見てないのか?」
「切り離し後の抜けガラか。マッハ7の大質量弾、直撃すれば大穴なんてもんじゃない」
「元々地表とスタブをぶち抜いて侵入口を造ろうってなシロモノだし…」
「後続になる再突入殻の方もできりゃあ落としておきたいな、数も多いし」
「ああ、あんまりバカスカ落とされたら単層ハイヴじゃ崩落判定になるかもしれん」
「普段は
「まあつまり、閉じこもってたらヘタすりゃ生き埋めか。となりゃ」
「それをやらせないためのこっちのレールガン。で、」
「逆にそれを封じるためのあっちのレールガン、てか」
「だな。で、たぶんレールガン部隊の射程10km到達時点で軌道部隊が降下してくるはず」
「けっこう高度なオペレーションだぞ、ぶっつけでよくやる」
「奴さんたちにゃ
「さあな。いずれにせよ敵レールガンはそれまでに排除せにゃならん」
「なるほどこりゃ確かに『レーザーヤークト』だ」
「編成はどうする。確実性が必要だが出張った連中は降下部隊の迎撃には間に合わんかも」
「ならそちらは
そこまで決まれば話は早く。
防衛戦といえども戦場では主導権を握ることこそ肝要と、閉所での戦闘が不可避となる最終防衛ラインを鉄十字の狼らに任せて他の欧州騎士たちは早速動き出す。
「まー今、あちらさんは結構な
「ああ、『ツイン・ブレード』に『ライトニングソード』、『ラビドリー・ドッグ』に『ジャイアントキラー』あたりが軒並みいないらしい」
「なんだそりゃ。ツイてんのかツイてないのか」
「油断すんじゃないわよ、あっちにはまだ――」
「わかってますってリヴィエール大尉、なにしろ」
回転を始めた
極東の手練れ共にはファ島でさんざん「可愛がられた」のだからそのご同輩連中と思えば慢心の入る隙はあったとしても決して大きくはない、そんな欧州軍生え抜きの彼や彼女らが仮想の地下から仮想の地上へと次々に飛び出していくその時に、
「軌道降下部隊のシグナル検知、直上到達180秒後ッ」
「おいでなすった!」
「東側ライヒ部隊、ゲート外縁20kmっ」
「速いな、いい動きだ急ぐぞ!」
「『掃除』が済むまでレールガン装備機は頭を出すなよ!」
強襲降下部隊の迎撃には長射程かつ超高弾速のレールガンがもってこい、ゆえにおそらくはそれを封じるための敵側レールガン部隊。
まずは最初の前哨戦かつその後の戦況へ向けてきわめて重要になるその掃討の速やかな遂行を目指しイギリス軍仕様ライトグリーンのEF-2000・精鋭22機がロケットの赤炎を曳き一路東へと空を駆ける。
「衛星画像分析、エンパイアのレールガン機は…タイプ89・カゲロウ、F-15だっけか」
「目標各機相対距離は5kmと長い、各個撃破のリスクよりも掃討の遅滞化目的か」
「直掩には…ゼロが2個小隊8機、問題はこいつらだが」
「いいだろう、早食い競争ってわけだな」
連合きっての強豪国の名に恥じず、鮮やかにも過ぎる挙動で隊を5つに分かつや一糸乱れぬ機動を見せて一斉に各々の標的へと襲いかかる。
「目標を捕捉」
「レールガンを――撃ってはこないし砲も捨てない」
「ベテランだな。だが悪いがこっちは射程に入り次第砲撃開始だ」
「敵機回避運動開始、手早く仕留めるぞ」
「ああ、我々も
「チェックソード! ってな」
彼らのうち主に前衛が背にし負うはBWS-3 グレートソード ―
対BETA戦ではそれが近接戦闘であっても砲撃を用いるのが昨今の主流、とっくの昔に生産すらも停止されているこの大柄な凶器を未だ好んで用いているのは見栄っ張りの大馬鹿者か選り抜き手練れの精鋭かのどちらかしかいなくて無論彼らはその後者、
「Rush ― 」
「――Bingo!」
ゆえにまさに一当て、標的となったタイプ89は懸命に回避を試みんとするも火砲の支援を受けたその突撃にあえなく仕留められその手に構えたレールガンごと墜落していく。
「こちらパーシバル01、ホスティル撃破」
「ラモラックリーダー、同じく」
「パロミデス小隊、こっちもやった!」
そう同じ光景がほぼ同時に3ヶ所で展開される中――最北のタイプ89を狙ったEF-2000の一小隊がついに迎撃戦力と相対した。
「こちらガラハッドリーダー! ゼロが来た、1小隊4機」
「出力特性から型式の特定を ― んん、隊列飛行じゃわからんな」
「いずれにせよ背後は取らせん、一気に喰い破るぞ」
「了解! 抜剣して突っ込む、援護を頼む!」
いくら彼らがBWS-3のその使用に習熟していようともいや真に通暁するがゆえ、連続的な剣戟での取り回しにおいてはニッポンのタイプ74・サムライブレードとりわけロイヤルガードの振るうそれの疾さ鋭さにはいささか譲ると理解していて、あくまで一撃離脱そして一撃必殺の攻撃行の得物としての運用でもあり。
息も吐かせぬ急機動での南進、仮想の電子の大気を裂いて駆ける4機のEF-2000。うち前衛2機が背に佩いたBWS-3を抜き放ち突撃姿勢へ、対するは同じく4機のタイプ00――タケミカヅチ。
常には搭乗衛士の家格を示す、青紅黄に白や黒の装甲を纏う機械仕掛けの鎧武者。
だが今は全機揃って北の大国の機体めいた白と水色の迷彩色に身をやつし、36mm高速徹甲弾の火線を伸ばしつつ突撃する英軍機との邂逅点へと
帝国軍部隊陣形先頭、紛うことなく長機であろうその機体。
「! そこへっ」
「出てくるか!」
すでに限界速度近くまで加速を得ているEF-2000、だがそのゼロは交錯する火線のそのまっただ中にそれらすべてをするりと躱すかの如くに滑り出でてくる、過信か無謀かの判断を待つ愚など犯さず英国騎士らは必殺を期して剛剣を突き出し ―
交錯は一瞬。
「なッ――」
「――に!?」
それら七つの海と数多の戦を制覇してきた覇者の剣をしてしかし ― その機体には触れることすら能わず――逆に揃っての撃墜判定。
恐るべきは音すらも ― さらには衝撃すらもなく。
鋭利というにも鋭利にすぎるその太刀筋。
「まさか…」
「これが ― 」
力を失いつつも残る慣性が演算されてか仮想の蒼空に落下軌道を描きゆく2機の英軍EF-2000、それらはそれぞれ右と左の主腕先端・長大な凶器を握っていた手首部とさらにはTSFの致命点すなわち胸部管制ユニットが揃って切断されていたらしく。
滑らかささえ感じさせる動きでずれゆきじきにはらはらと泣き別れ ― 爆発の火輪を咲かせる。
その爆光に照らされながらも機を翻しつつ軽く血払いの如くにカタナを振ったゼロの左肩部には、わずかなノイズと共に変更が反映 ― 否、偽装が解除され顕れたはこの電子の蒼空よりさらに濃い青――
― 何故にと問わば 故にと答え
然し言葉を得てより以来 問いに見合う答え等無し
未だ生を知らずして 我焉んぞ死を知らん ―
「タカツグ・イカルガ!」
まさに瞬きの間に精鋭2機を屠って捨てた、そのいとも尊き東方の鬼王。
「出たぞ、『
「
そのあまりの殺傷性の高さに瞠目しつつも間合いを取ろうと計る英軍後衛2機がそれでも隙無く伸ばす火線、しかしそれらすら意に介さぬが如くに醒めた青い肩に過ぎゆく曳光弾の軌跡を反射させつつその00式がさらなる獲物を求めて空を滑り出すその間に ―
20km南の空域においても。
「畜生、こいつはっ」
「マスター・クラスだ!」
同じく4機小隊のEF-2000、しかしあっという間に2機が斬り伏せられて墜ち。
残る後衛2機が距離を取りつつ牽制いや確実なる逆撃の意志を込めて共に突撃砲より120mmを撃ち放つ――が。
宙空に閃き刻まれるは鈍色の月輪、その斬撃の前にAPFSDSの飛び出した超高速の超硬弾芯もAPCBCHEの必殺の威力を持つ徹甲榴弾も断たれて消えて。
「斬るかこの距離で!?」
「ンなろッ…」
だが欧州騎士らはなお怯まず伸ばす応戦の火線しかし自らを狙うそれらを逆に手繰って辿るかの如くに詰めては寄せるが極東の武者、その機体捌きは鏡花水月まさにそのまま狙えど当たらず放てど捉えず迫りて来る。
そしてその攻防は2秒にも満たず ― 刃圏に捉えられた2機の後衛EF-2000らは近接防御に腕部
「くそぅ、こいつが…!」
「『
計4つの部品に分断された彼らが刹那の滞空を経て火球と化せば、短い残心と共に飛び退る00式の ― こちらは右肩部が爆光を反射し閃く紅のそれへと――
― BETAの血潮で濡れた肩 赤き月夜の守人と
佐渡の海辺と鉄原の野に 無敵と呼ばれし双月の
情け無用・命も無用の 月のさだめの鉄機兵 ―
「マナ・ツクヨミか…!」
あっという間に2個小隊計8機、それもファ島部隊の中においても最強格のツェルベルスにさえ比肩するイギリス軍部隊を以てして。
言わんこっちゃない――、とは言わないけどっ
データリンクにより友軍機の消失を網膜投影の情報視界内に見て取ったベルナデットはその彼らの位置から15km後方、敵本隊たる降下部隊を迎撃すべくフランス軍以下30機超の手勢を率いて高度と速度を上げていた。
「おいおい冗談じゃないぜ、なんだありゃ」
「ケッ、
「そりゃないな、お前の貴族嫌いはわかるがよ」
「でも青い方は大将首なんだろ、チャンスじゃねえか?」
「バカかお前。アレはとんでもないモンストルだぞ」
隊内通信でのフランス語、まだ親善≒お遊び程度とも思っているのだろう今一つ緊張感の足らない若い部下らに内心で舌打ちをひとつする間にも、
「レールガンは撒き餌でもあったわけですか…」
「そうなるわね、ジョンブルなりクラウツなりの
「逆に狩るため。わかりますけど…すごい自信ですね」
「まあ、そうでしょうよ」
自らと同色になる金髪の部下 ― エレン・エイスとジョゼット・ダンベルクールの二人をも引き連れて、ベルナデットはもういっその呆れを交えつつも明らかな苛立ちの色をその大きな瞳に揺らめかす。
なにせあのエクセランス・イカルガという男は、
「あのボッシュ狼共の実戦を見て、その上で出てきてんのよ?」
「やれるだけの自信が…じゃあソ連軍のあの部隊を1人で8機は墜とすって言ってたのも」
「ブラフじゃなくて…本気、だったんですか?」
「でしょうね。ダテに
だからイギリス軍の連中が油断していたとも言わない、アレは明らかにあいつと同じ――はっきりいって
なんとか対抗できそうなのはそれこそ「七英雄」クラスでやっとか、それも徹頭徹尾剣の間合いから遠ざけての話になる。
しかも基本対BETAを主眼にしているあいつと違って ― いやそれはタカムラにツクヨミもそう、
まったくどうしてあいつの周りにはああも怪物ばかり揃っているのかそもそもあいつに出逢う前までは衛士としては少なくとも世界で10指までには入れるだろうかだなんて思っていたのに。
そんなの正真正銘ただの自惚れにすぎなかったと思い知らされた上にこう次から次へと化け物が出てくるんじゃそのランキングまで下がりっぱなし ― これじゃあ。
いつまでたってもあいつにとってはその他大勢、助けられてばかりの有象無象。
それでどのツラ下げて
もうこれ以上――負けらんないのよ!
「総員傾注――
「っ…、
可憐な容姿に幼女と見まがう矮躯といえどもその内実は歴戦の虎、その怒気と覇気とが詰まった射殺す視線に生意気盛りの部下らもさすがに察し。
明確にギアを切り替えたベルナデットだが己は一人しかいないし現実としては力も足りない、しかし戦場での勝利とはすなわち自軍の勝利。
だから
「アイヒベルガー少佐 ― 」
「了解している。イギリス部隊へ、敵レールガン掃討は中止、後退して合流」
「了解だっ、89はもう1機墜としたが ― Bugger! 次々喰われるぞ化け物共め」
「交戦は避けろ。レールガン装備機は迎撃地点変更、後方ゲートへ」
「了解。アタマ塞がれちまいましたんでね、近距離戦への移行も留意」
「ローテ01、数名選抜して
「ヤーボール」「了解である」「『七英雄』の名は伊達ではないと証明しましょう」
「イギリス軍はリヴィエール大尉の支援を、
銀髪にか黒い肌も剽悍な狼王が地の底から動き出しつつ矢継ぎ早の指示、それを目にし耳にするベルナデットにはしかし同時に鋭く鳴った警告音、
「来ました! 敵降下部隊――いえ先行して再突入カーゴ、数18!」
「来たか、CP、落下コース予測演算の支援は受けられるんでしょうね!?」
『こちらCP、お待ちを……、…可能です大尉』
「ならとっととやって、
あとついでに照準位置はできるだけ機首から外して翼にしろと。
なにせ相手は極論すればほぼ単なるグライダーとはいえ全長30mにもなる巨体、要するに加速度による莫大な慣性エネルギーを保持する隕石のようなもの。おまけに耐熱対弾処理を施した耐レーザー装甲に包まれているとなれば戦術機携行火器の火力では直撃できたとしても容易に破壊できるようなシロモノじゃない、ならば落着目標地点までの姿勢制御を司る主翼を狙って突入コースを
「軌道予測きました、データリンクっ」
「よしレールガン機はっ」
「こちらガリバルディ01。位置についた、支援するよセニョリータ」
「うるさいッ、端っこのをくれてやるから邪魔すんじゃないわよっ」
「自慢の長竿さ、きっと君も気に入る」
「その無駄に回る口を閉じたら自慢だとかのジロール茸は豚にでも突っ込んどきなさい!」
そう
「南北両端から自由照準っ、迎撃部隊は中央から平らげるわよ――全機砲撃開始ッ」
それらすべての動きを己の空間識に読み取って、ベルナデットは命令と共に自らもトリガーを引き絞った。
なにせ目標の速度は音の7倍、最大望遠にしてなお網膜投影の情報視界その中央ウィンドウに見えたと思った瞬間にはもう遅い。
ゆえにCPからの予測演算データに基づく偏差砲撃、各機の照準位置もまた瞬時の共有を経て重複を回避し蒼空のなか一斉に致死の火線を伸ばす。
まずは後方7kmのゲート周辺よりのレールガン ― 秒速3400m超の鋼鉄の嵐が4条、その圧倒的な速度差により迎撃部隊の120mmに先んじてキルゾーンへ殺到 ― するや否やで音すらもはるかに置き去りにしてほぼ視認することもかなわない速度で殺到してきていた再突入カーゴの隊列に出会い頭で南北両方から突き刺さり薙ぎ払っていく。
レールガンの連中が弾薬と砲身をケチるようなマネをしないで掃射を選んだのはさすがと云うより当然の判断しかしきっちり命中させたその技量は素直に賞賛に値する、彼我双方とも爆発物を使用していないためハデな爆炎こそ発生しないが極超音速ですっ飛ぶ高硬度の物体同士の衝突は凄まじいまでの火花を散らしてその結果たる破壊を仮想の空間に現出させる。
そして両翼計12機の再突入カーゴが翼のみならず本体部にまで過大な損傷を負いバランスを崩して突入コースを外れていく中、ようやくに迎撃TSF部隊が放った120mmの弾幕が到達した。
「全弾命中っ!」
『CP。カーゴのコース変更を確認、残り3、2――』
「巻き込まれんじゃないわよッ、各機変更後のコースに注意、次は ― 」
眼前はるかの空に華開く着弾の爆炎、とすぐに轟!と響く衝撃波は錐揉みあるいは飛行姿勢は保ちながらもコースを外れて散らばっていく再突入カーゴの群れによる。
それらに機体を揺さぶられながら今度はその倍、カーゴがその背に2基ずつ乗せてやってきた計36の再突入殻が
「コイツらが面倒な――CP!」
『無理です、全機の軌道演算は』
「ちッ…仕方ないっ、レールガンっ!」
「お任せを、マドモワゼル。薙ぎ払ってみせるさ」
「礼は言っとく全機隊形維持に留意、対空警戒を厳に120mm弾幕防御っ」
「ダコール!」「アンタンデュ!」
展開後の再突入殻は先発の再突入カーゴとは速度も質量も違う地上に友軍の大部隊がいるわけでなしと全部放っておきたいのは山々ながら、万が一にもスタブ崩落でノーゲームないしは判定負けなんてことになったら皆から白い目を向けられること間違いなしだし ― おそらく何より大きく散開して迎撃の態勢を崩すことが一番マズい。
再度地上から伸びあがる光条、はるか前方で上がる火花と共に払い散らされるのが再突入殻の群れに違いない、最大望遠の視界に入ったのを確認してから数秒でそれらのわずかな生き残りと残骸が吹き飛びながら突っ込んでくるから迎撃しつつ最小限の機動で回避し――
「全機反転、最大戦速!
ほぼ全速からの最小半径ターン、激烈なGに晒され歯を食いしばって耐えるベルナデットだがその見越していた危惧の通りに。
「――来ました、
「全機迎撃砲戦陣形ッ! レールガン、砲身交換・チャージアップはっ」
「ダム、30秒ほしいな」
「20秒でも遅いのよ! なら待機なさいッ、全機交戦許可! 叩き落とせ!」
レールガンによる十字砲火は即座に諦め ― 敵味方の距離が近づきすぎればどのみちもう使えない ― ベルナデットはすぐさま起動した背部兵装担架と共に両主腕も背後に向けて、部下らと揃って5km先にまで迫った帝国軍部隊へと一斉に砲火を叩きつける。
ほぼ同時に応戦してくるオンピア部隊は再突入の残速を利用しての高速突撃陣形
碧空を貫く36mmHVAP弾の火線に推進噴射炎を引く120mmAPCBCHE弾の軌跡、着弾の火花と爆炎が一斉に花開き、
「撃て撃て、撃ち落とせ!」
「敵部隊機種解析 ―
「命中! 落としたぞ!」
「撃墜確認ッ」
「相対距離距離4500、速度差が――25秒で追いつかれます!」
「乱数回避絶やすなッ、編隊間隔100は維持!」
ラファールの
砲戦なら五分以上でしょうが…っ
そもそも迎え討つファ島部隊と突入してくるオンピアの連中との技量差でいえば ― むこうはエース連中が大方留守で残るバケモノ二人はあっちで狼どもと遊んでる、だからその他の衛士ら相手ならば侮っていい力量では決してないが地力は明らかにこちらが優る――ものの。
「撃墜6、8、12――」
「ちぃっ、
「隊長、敵部隊の速度落ちませんっ」
「相対距離詰まります!」
砲煙に火線に着弾の火花とさらなる爆炎とが入り乱れる空戦模様、それ自体は続きはするがやはり再突入の残速を保持するオンピア隊が圧倒的に速度で勝る。
奴らはアローヘッドを崩さぬまま一直線に最外縁のゲート目がけて突進していくよう、さらになめらかな流線型の防楯・タイプ92
「くっそ、バンザイ・チャージかよっ」
「気合いが入りすぎだろ!」
「距離220っ!」
「全機近接戦闘用意っ、ただこいつらは――」
そのベルナデットの指示から2秒と経たず。
最接近を果たしさらに突進を続けるオンピア部隊からはらりと剥がれ落ちるかのように別れた機体が計4機 ― それらは世界初の量産第3世代型機・タイプ94 シラヌイにして、手に手にタイプ74 サムライブレードを提げた古強者が1個小隊。
「斬り込ん ― っとお!」
「うぉ、やべえぞ、こいつらっ」
「雑魚じゃねえ!」
「食いつかれたっ、援護してくれ!」
突っ込んできた94小隊はさらに散開、それぞれ弾幕を張りつつあたりをつけた手近な機体に襲いかかる、そうなれば
こと近接白兵戦闘においては対94でラファールに性能面での優位性はなくそれどころかその分野では衛士の技量含めてやや劣勢かヘタをすれば明らかに負け、実際フォウを抜いて斬りかかった部下機はあっけないほど逆にいなされ僚機の支援を受けて急場を凌ぐ有様ときては。
ち――!
読んでいた戦術に読んでいた展開、だがそれを止め得なかった己にベルナデットは内心で舌打ち。
こちらの隊の陣形には破綻もなければ混乱もほぼない、大体これで崩せると思っているほどオンピア部隊も甘くないだろう、だったらお互い大隊規模のTSF同士での機動戦中わざわざ少数で敵陣内部に斬り込んでくるなんていうのは、
「かまうな、足止めよ!」
「わかってますが――くッ」
そして同時にその意図をたやすく読まれることも承知の上だろう、ゆえに日本機特有むろんタイプ94の特長でもある軽快機敏な運動性でもって次から次へと標的を変えしかし単なるハラスメントとまでは言い捨てられない脅威度でもって暴れ回る、さらに当然その間にもオンピア部隊本隊は一心にハイヴへと電子の蒼空を駆け抜けて行く。
「レールガンっ」
「すまない
「イギリス部隊はっ」
「Alrightだ、待たせたな大尉、ハイヴ外縁で第二陣を張るがこっちも頭数が少ない」
「
と、とまで言いかけたその瞬間。
ベルナデットの情報視界は白く染まった。閃光、衝撃、そして轟音。
電子励起爆薬・S-11。小型戦術核にも匹敵するその爆発。
突入してきていた94の1機が自爆したらしい、それを撃墜しかけていた隊機の反応が消え近くの僚機らにも損傷するものが出る。
網膜投影の遮光機能が即座に働きはしたものの光の速度より早いわけがない、だから初撃を喰らった視覚は明らかに機能低下を起こしていて、もし衛士の肉体被害を抑えるようになっているJIVESではなく実戦だったら最悪失明していたかもしれない。
「く…っ」
「かっ、カミカゼかよ!」
「バカかこいつら!? 模擬戦だろ!?」
「だからでしょうが! それにコミー共も同じのを積んで ― 」
戦果の一方翻弄される気配は消えず苛立つ部下らを叱咤する間にもさらに爆発、今度は2機が巻き込まれた。
やってくれる…!
死に残りの部隊 ― ステガマリとかいう古の戦術。
復仇に燃えるベルナデットは乱れた陣形を再構築しつつ遠ざかりゆく日本軍部隊の背に追い縋って砲火を放つ、1機2機と撃ち抜き吹き飛ばして火球に変える中その向こうでイギリス軍も同じく迎撃に移りきっちりと数機落とすもいかんせん数は少なく防御も薄い、ゆえに抵抗むなしく突破を許せば今度は4機の94と共に1機のゼロが、本隊と離れて遅滞に出てきた。
こいつっ
カタナを片手にイギリス軍機につっかけ近接戦を嫌われ距離を取られれば深追いはしない、その小綺麗な機動に正統派の剣術には見覚えがあって同時に完了した出力特性分析は。
「
― 天に
光に誘われ炎に追われ 孰れは闇へと墜ちゆくのみか
然ればこの身とこの命 成すべきは何 討つべきは何 そして我とは何なのか ―
そう誇らしげにも
繋がっていない回線の向こうであの若武者はたぶんいつも通りにあの妙に可愛い顔を懸命にニヒルに歪めて何やら仰々しく呟いてもいるのだろうが、
「こ、の…っ」
ほぼその意図と行動とを読んでいながら。
なのにむざむざオンピア本隊には突破を許し。
あげく出てきたのはこんなサンピンザムライ――目指してるのはもっと
「道化風情が! 邪魔すんじゃないッ!!」
激戦の欧州戦線に広くその名を知られし「四丁拳銃」、ベルナデットは自らへの怒りに震えながらその4本の牙を剥いた。
うわ、めちゃくちゃ怒ってる。
高く回線に響いたリヴィエール大尉 ― ベルナデットの吠え猛るフランス語を聞いて、イルフリーデはやや引いていた。
「あそこまで怒らなくたって…ずいぶん墜としてるのに」
「けれどほぼ思惑通りにやられていますもの、やむを得ませんわ」
「それに悠長なことを言ってる場合か。――来るぞ、ここへ」
網膜投影の通信ウィンドウ内、ルナが華奢な肩をすくめる一方ヘルガはその視線も鋭く今一度重ねて兵装チェックを走らせたらしい。
今、この ― 模擬戦用の簡易ハイヴ中枢に残り最後の防衛線を司るのがイルフリーデら3機「メグスラシルの娘達」。
敬愛する大隊長以下「七英雄」と頼れる古参の戦友たちは、外部でまさに一騎当千の恐るべきサムライマイスターらと激戦を繰り広げている。
「こちらロメオ、フロイラインがた聞こえるか」
「こちら中枢、
「いいねいいね、これが終わったらお茶でもどうだい?」
「考えておきます、けれどあまり無駄口が過ぎるとまた
「そりゃおっかない。ともあれジャポネーゼにはもうハイヴに入られてる確認できるか?」
「はい、
「センサーを探して潰す手間も惜しんで走ってるのさ、とにかくあちらさんは気合いの入り方が尋常じゃない。足止めを抜けて追撃も出てるがこのままじゃ間に合わないな、俺たちで邀撃を試みる」
「こちらへ合流されては?」
「いや、メインホールでドカンといかれればそれで終わりだろ? ま、骨は拾ってくれな」
おどけて告げたレールガン担当のイタリア軍衛士が大写しの通信ウィンドウから消え、代わって拡大されたのは簡易ハイヴの平面図。
単純ながらいちおう蜘蛛の巣状に拡がるその中に、青い輝点が4つと12 ― それぞれ北東と東から、イタリア小隊と足止めを振り切った追撃部隊。
そしてそれらに挟まれる形の赤い輝点が4つ――これが件のライヒスリッター・ゼロ部隊。
「…うまくいくかしら」
「…難しいだろうな」
急速に位置を変え続けるそれらの輝点を見やりつつ。
イルフリーデの問いに応えたヘルガの声は、内容と共に厳しかった。
束の間の静寂に包まれる擬似的な電子の空間はしかし、地下特有の重苦しさと息苦しさまで再現しているかのようで。
地中に形成された巨大な立体構造 ― それがハイヴ。
BETAの巣でありまた侵攻のための拠点ともいえるこれらは現在この地球上に20、それらすべてが経年による規模の差こそあれほぼ同様の構造を備え――
中央最深部の
「この簡易ハイヴは
「直径3-40mほどの楕円筒形ね、でも多少蛇行もしてるから遠くまでは射線は通らないし」
「ああ。さらに単層化されてて
「ですのでたとえ限定的にでも機動砲戦ができるような空間自体がまるでないのですわ」
「そうね…イタリア部隊はレールガンがまだ残ってるはずだけどドリフト内じゃ…」
「取り回しが悪すぎるな。それに元がそうタフな扱いが許される装備じゃない、HESHの一発も至近で爆ぜれば動作不良判定になる可能性も高い」
言いつつ動き出すヘルガはメインホールの東側、全部で4つあるドリフトからの開口部へと噴射は使わず主脚部でもって機を進めてその左脇へと付けた。
その機体が奏でる駆動音と硬質なハイヴの床を主脚が踏み鳴らした接触音とが地下空間に蟠る。
「リッターといえども砲撃機に接近すること自体はそう容易ではない、だがひとたび彼らの剣の間合いにまで入られてしまえば ― 」
「退いて距離を取れない環境では、圧倒的に不利ですの」
「今度は逆に、私たちがさっきの演習のヒヨコの立場ってことよね…」
同じく主脚での歩行にて。
開口部の右脇・ヘルガの反対側にルナが陣取り、イルフリーデもまたやや位置を変えてその開口部の直線上からわずかに逸れた後方へと。
そして先のヘルガの折と同じく駆動音と接触音 ― さらに開口部のその奥から遠雷の如くに響いてくる砲撃音に噴射音、しかしそれらが重くメインホールの虚空を震わせるわずかの間に――
イタリア軍の反応が消えた。
「…接敵から…10秒かからず、か」
「手練れだな。突入隊に選ばれるほどの…リッターの、誰だ?」
「F型はすでに3機確認されていますの。まだ ― すべて外ですわね」
「そのはずよね…ならヴァイスファング ― タカムラ中尉の隊機かしら」
「そうだな、それかショーグンの警護小隊もいるって話じゃなかったか」
「ツクヨミ中尉の隊ですわ、精鋭でしょうし、たしかにそれかも」
いずれにせよ ― 確実にここへ来る。
通信でのやりとりの声すらややひそめて。
遠い ― 否、至近での戦闘の残響すらも静まり。
それらの静寂が緊張を高める。
イルフリーデは急速に接近してくる赤い輝点4つを目で追いながら脳裏では先に確認しておいた簡易ハイヴ内この中枢近くのドリフトの形状を反芻する、たしかR300程度でややゆるく右側へカーブしていたはず ― と。
「対物レーダ ― ッ!」
「しまっ――」
!
ルナとヘルガの反応に続きイルフリーデが知覚したのは開口部から溢れる強烈な閃光、そして同時に響いた巨大な轟音 ― それは明度にして100万カンデラ・音圧実効値180デシベル超の光と音の大爆発。
―
その存在くらいは知っていた、だが同時に視覚も聴覚もないBETAとの戦いに従事するツェルベルスとはおよそ縁はなさそうだとも。
後ろに退いていたイルフリーデはその光源と音源を直視してはいなかったがために影響は限定的であったものの、しかし開口部脇に陣取り固めていたルナとヘルガは共に機体自体はメインホールの壁へと寄せて隠してはいたがその先のドリフトを監視注視し警戒するため突き出した突撃砲GWS-9がその砲身上部に備えるカメラを利用していたがゆえ、カーブの向こうから投げ込まれて壁面に当たりドリフト内で炸裂したその対人制圧資材の暴威を遮光と遮音のフィルターが働く前に視細胞と有毛細胞へとまともに浴びたらしい。
「ぐ…ッ!?」
「イルフィ――っ」
人間の感覚器が許容しうる上限をすらややもすれば越えた域の閃光と轟音はもはや物理的なショックとなってそれらを受けた者を襲う、ごく短時間とはいえ視覚と聴覚双方の機能の著しい低下に加えて強い眩暈を引き起こされ平衡感覚までも喪失したヘルガとルナは彼女らの操る白騎士EF-2000と共にその瞬間完全に硬直していて。
「任せて――!」
すぐさま二人を支援すべくイルフリーデはすでにチャージまでを終え即時発射状態にまで上げているレールガンを構えたまま、敵機が突入してくるであろうドリフト開口部その直線上へと噴射をかけ ―
敵影を見 ― 天井すれすれ ― トリガーを引 ― また投げ込まれる何か ―
「!?」
撃ちはなった極超音速の弾道に手応えはあった、しかし発煙弾と共にいやより鋭く飛んできた何かがやけに軽い音を立ててレールガン砲身下部・グリップの前方にて斜め前へと突き出した大型冷却剤タンクに突き立っていた。
急速に拡がる深紅の煙幕の中へさらに別種の噴出物 ― 冷却用の液体窒素 ― が混入拡散、その白煙までも交えて視界が一気に悪化する中でイルフリーデは即座に砲と機体との肩部アタッチメントを解除し背部バックコンテナもパージ、長大なデッドウェイトと化し爆発の可能性まであるレールガンを投棄しほぼ丸腰の状態に ―
!
眼前の白と赤の帳を突き破って現れるなり白刃を振るってきたのが氷雪迷彩を纏うゼロ、反射的に掲げた両主腕のSCブレードがタイプ74ソードの横薙ぎのそれと衝突して激しい火花を散らすが同時に深く食い込みあって互いに動きを封じあう。
「く…ヘルガ!」
「そのまま止めろ! ルナッ!」
「マズい、ですわ ― ッ」
頭を振り目を瞬かせながらも機を操りいったん下げるヘルガ、しかしルナはわずかに遅れた同じ動作の最中にさらに別の1機のゼロに迫られ全力で後退をかけなお反撃を試みるもその一挙動ごとに一門ずつ展開させる突撃砲を斬り飛ばされていく。
ルナは本来後衛
ライヒ突入部隊は4機っ、1機墜として残りは――
「ヘルガっ」
「わかってる!」
叫ぶイルフリーデはカタナが深く食い込んだ両主腕をより押さえつけ ― 斬断を避けると共に相手が引けば一気に押し込む
!
その火線を潜るように。しゅる、と出てきた最後の1機。
やや機を沈めた低い姿勢、その本体まで流体と化したかのような身のこなし ― 人機一体。
かなりの使い手――女!?
後半部には根拠がないだが直感によりそう走る確信、
「させん!」
しかしヘルガは追わせる火線も交戦中の2機の間もするりと抜けて進もうとするそのゼロへと右側から襲いかかる、ロケットを点火し地まで蹴りつけさらに跳ね上げた右兵装担架から瞬時に掴み取る
「!」
瞬間人工の空間の闇に疾った銀光は二閃 ― しかし高く澄んだ音は一つ。
驚くべきかより迅かったのは後から繰り出したはずのゼロのもの、右主腕にしたタイプ74を左脇から跳ね上げたその斬撃は変形の
「――Ha!!」
おそらくいや間違いなく油断も慢心もヘルガの辞書にはない相手が誰であろうが使い手揃いのライヒスリッターとなればなおさら、結い上げた髪も凛々しき女騎士は断たれた柄を手放すことさえせず跳躍ユニットAJ200のロケットの勢いそのまま最速で眼前のサムライ機へと体当たりをかけた ― リンゲンアムシュヴェールト・ドゥルヒラウフェン。
ヘルガのEF-2000とリッターのゼロ、すなわち硬質な大質量物同士それも各所にSC製の刃が配された機動兵器同士の激しい激突となれば悲鳴じみた衝突音に火花までが散りさらにそれらがメインホールの闇へと拡がるより速くヘルガはAJ200の左肺を停止し独楽の如くの回転力を愛機に与え強引に作り出した間合いをさらに拡げるべく主脚も砕けよとばかりの
「Jetzt!!」
防がれた!?
EF-2000の膝部装甲ブロックから下腿前縁はSCブレード化してあるむろんゼロも同等以上に全身刃物の凶悪な機体だが胴体部はそこまでではない、しかしそこを狙ったヘルガの蹴りをあのゼロの衛士はタックルで体勢を崩されながらも空いた左主腕(もちろんSCブレード状)で咄嗟にガードしてのけさらにはその弾かれいや跳び退り際の刹那に右主腕のタイプ74を跳ね上げていたらしく、
「くッ――」
ヘルガ機の左主腕になるGWS-9が砲身もろともそのグリップ前方の120mmマガジンまで含めて縦に切断されてばらりと落ちる、これにより追撃の間を遅らされたヘルガは急遽左兵装担架をダウンワード展開させそれが下がりきるや否やでその36mm120mm双方の砲門を開く ― が。
斬っ――
イルフリーデに見えたのは両主腕でタイプ74を振り下ろしきったゼロの姿とその左右へと分かれて後方へとすっ飛んでいく数発の36mmHVと1発の120mmAPCBCHE、そして真っ二つに断たれたその榴弾が後方で爆発するより疾く続く数発の36mmの連射を潜るかの如くそのままさらに機を沈めるようにして左――メインホール中央へ。
「!ッ」
「射角が――」
「――ちぃッ!」
瞬発的なそのゼロの動きに左脇下に展開させた突撃砲では対応が限られる、ヘルガ機も再び仮想のハイヴの暗緑色の大地を蹴りつけそして ―
三度目の衝突音と高く散る火花、側面からの
そのゼロの左主腕には、しっかりと青いフラッグが握られていた。
「負けた……」
イルフリーデの網膜投影、情報視界のその中心には薄暗く発光する青緑色のハイヴ内の光景に重なり大きく緑で「
侮っていたわけじゃないけどどこか油断があったのも確か。
それと同時にどうもうまいことやられた気がして釈然としない部分もあるけれど。
「あーあ…」
「やられましたわね」
「そうね…」
「こういう戦いは、私たちよりもむしろ
「でもSASにはまだXM3がないだろうし…まあ、いい勝負だったんじゃない?」
「ですわね」
また肩をすくめながらくすりと笑うルナに告げたのは負け惜しみではなくて本音で。
最終盤の攻防は、実際ヒリヒリした緊張感で――人間同士で戦うのでも、こんな半分スポーツじみたお互いに高めあうためのものなら対BETAシミュレーションのスコア競争とはまた違った充実感があるのもまた事実。
「負けちゃったけど、リッターとも接近戦でけっこうやれたし」
「ほとんど押し込まれてましたけれど」
「もう、それを言わないでよ」
だからライヒの衛士たちもきっと似たような思いを抱いているのではないか ― このメインホールにまで突撃してきてつい今しがたまで砲火を交えていたゼロたちも、演習終了を受けて無効化され一気に消え去った煙幕の中すでに刃を納めて中央で機を起こそうとしている殊勲の僚機に駆けよっていって。
「でもヘルガとあれだけやりあえるなんて…あのゼロ、誰かしら」
イルフリーデがやや遠くに見やるその当の、無二の友にして
その中でもローテ06:ヘルガローゼ・ファルケンマイヤー少尉といえば、今や近接白兵戦闘においては生ける伝説「グロスブリタニア防衛戦の七英雄」の方々に次いでは迫りつつある技量と皆が認める実力者。
その彼女と一対一で、それも互角以上に渡りあえる衛士だなんてリッター強しといえどもそうそういるとも思えないのだけれど――
「まだ通信はオープンにならない?」
「ええ、ですがそろそろ―― 。」
「ルナ?」
イルフリーデの情報視界内、その左下。
小さな通信ウィンドウの中のルナが(彼女にしてはかなり珍しく)固まるのを見て。
同じく情報視界内、中央部の外部映像 ― 最後の機動の解析により機種特定が済んだのか、差し出されたヘルガ機の手を取るそのゼロに――
「――は?」
タイプゼロ・タケミカヅチ ― 現行最新の第3世代型機の中でも最優格と名高い強力無比な近接特化TSF、極東の軍事大国ヤーパンライヒが誇る降魔の利剣。
基本型となるC型からしてその性能は既存のライヒ製TSFを遙かに凌ぐ一方で、その高機動型たるA型まではともかくさらにそのアッパーバージョンとされるF型にまで至るとその高出力・高性能さゆえにアビオニクス類の改良が進んだ現時点ですら並の衛士ではその真価を十分には引き出せないとまでいわれる荒御霊。
搭乗がゆるされる家格の者が元々多くはない上その生産・配備数もまた限られている事情から、現在ウニオン側で確認できているヤーパンライヒがヨーロッパ派遣部隊の保有機体は特殊機と思しきかの改型を含めてわずか6機に過ぎず ― うち2機はすでに遠く大ブリテン島に赴いていて、ここロヴァニエミに残るは――たしかに4機で、あるのだが。
「…と、いうことは…」
これはある種ハメられたのか、それともやっぱりあの愉快犯じみた青の閣下の企みか。
珍しくも察しが良かった己をやや呪うイルフリーデのその眼前で、両肩部の装甲色が変わりゆくゼロ ―
― 神代より 連綿と織り成し繋がる二重螺旋
二千を超える刻を閲して今代に至る
東の果ての日出ずる処 瑞穂の国の ますらお達を統べる者 ―
あに図らんやそこに顕れたは
凛然と結い上げた青成す長い黒髪に、清冽な剣気を宿した冥い夜の如き大きな瞳。
そして敵味方オープンになった通信回線からは帝國臣民らの大歓声。
「やったぞおお!」
「殿下だ、殿下が!」
「煌武院悠陽殿下っ、万歳!」
「日本帝国、万歳!」
翻訳前でもとにかく彼らが喜んでいるのはわかる、ああそれはそうだろうとも模擬戦ひとつにあれだけの士気を注ぎ得たのも
それら臣民たちの割れんばかりの歓呼に流れる汗を拭う仕草こそはやや勇ましさを感じさせたがすぐに小さく手を挙げ悠然と応える至尊の御方、正直げんなりとするイルフリーデだがただ最も悲惨なのは間違いなくその御方とあまりに直接的にぶつかりあったヘルガに違いない、見れば差し出し取られた愛機の主腕もそのままに完全に固まってしまっている。
「…わ、……う……、撃っ……撃っ……」
「撃ってましたわね」
「体当たりもしてた」
「…そ、……ッ……、蹴っ……蹴っ……」
「ええ、蹴ってもいました」
「それも思いっきり」
「友好国の元首を」
「…これ。国際問題になる、の?」
「さあ?」
「~~――――!!」
言葉を失い泡を吹いて気死せんばかりのそのヘルガの有様それはいつも冷静沈着な彼女からすればかなり珍しい姿といえて、同じく半ばは思考が止まっていたイルフリーデにもルナにも多少の悪戯心が芽生えもして。
そこへ、
「欧州連合軍の皆様にも御礼を。西独軍の衛士の方々も、ありがとうございました」
「
ヤーパンライヒの全権代理人=最高権力者よりそうやわらかくかけられたお言葉に、今になってようやくなるほどそれでメインホールへ突入するなり近侍のゼロらは自爆しなかったのかと納得しつつまだ現世に戻れないヘルガ以外でしゃちほこばった敬礼をしたが「いい蹴りでした、さすがに歴戦の猛者は違いますね」と堅い英語で付け加えられれば素直に褒められたと思っていいのかとんでもないことをしでかしてくれたなと釘を刺されたのかの判別は、年若いイルフリーデにはつくはずもなく――
「はは、御美事御美事。流石ですな、殿下」
続いて同じ回線に現れた、元からさほどに見たいわけでもなかった別のライヒ要人の顔に既知というその一点だけで安堵すら覚えてしまいぶっちゃけイルフリーデはそれ以上考えることを放棄した。
「斑鳩公…」
「矢張り殿下も衛士で在られる。御胸の閊えも些かなりと下り遊ばされましたかな?」
「…。ご心配を、おかけしました」
「滅相も無き儀。晴れやかなる竜顔を拝し恐悦至極、宸憂を映しておいでの剣が斯様に再度輝くとなれば臣等皆歓喜に堪えませぬ――英国の地では、暫時御暇もあらせられましょう」
「! …公の高配に、感謝申し上げます」
「身に余る御言葉――いざや者共!故国への誉れも高き凱旋ぞ、今一度勝ち鬨を上げよ!」
その再びの大歓声を以て ― 日本帝国欧州派遣兵団は帰国の途に就く。
多大な損耗のみを得た戦いの果てに小さくもしかしひとつの勝利を手にして。
だが策謀渦巻く世界は――破局への階段を、確実に上りつつあった。
ようやくにロヴァニエミ編が終わりました…
長かった(自分のせい
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よろしくお願いします