Muv-Luv UNTITLED   作:厨ニ@不治の病

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Muv-Luv UNTITLED 05

 

2001年 11月 ―

 

帝都。帝国軍技術廠。

 

寒風が染みる季節。

落葉樹が少なくなった帝都では、ただ寒々しさだけが。

 

今年初頭の戦勝気分こそは落ち着いてはきたものの、欧州派遣軍の動静は可能な範囲で日々伝えられ…国民の自意識を煽っている。

 

危険な兆候だ、と巌谷は思う。

 

そもそも秋口の軌道降下兵団派遣決定にしても、国内右派の中ですら派兵による国威発揚派と国防力維持のための慎重派に割れ、左派もまた国際貢献と軍費削減で意見は分裂。

結果甲21号での勝利に沸く大衆の支持を最も集めた最強硬論へと傾いた。

 

現実を知る軍の大半と、時に強引だと誹られる榊総理は慎重派で、大衆の支持を得られなかった。

 

それが一転、先日のS-11増派に関しては国防力の低下云々と論調が変わるのだから目も当てられない。

もっともそれは高まる第3世代戦術機量産配備への期待と、欧州の余りに上から目線な外交姿勢への反発が強かったのだろうが…

 

 

「ご苦労だったな」

「は…」

 

こうして直接顔を合わせるのは、実に半年ぶり。

空路帰国したばかりのXFJ計画主任・篁唯依中尉は国連軍の制服のまま。

その顔には疲労と困惑が隠せない程度に現れてしまっていた。

 

「案ずるな、貴様の功績は大きい。94式弐型の完成、見事だ」

「は。ですが」

「試験機盗難は米国人衛士の犯罪だ。帝国は被害者、若しくは巻き添えだ」

「は…しかし、中佐殿…」

 

表情こそ必死で取り繕っているのだろう、それでも唯依が内心でしょげ返っていることはありありと判った。

 

 

日米合同での次期主力機開発計画は、一応の成功に終わった。

 

留保がつくのは計画の最終段階で米国人主席開発衛士が試験機を盗み出した上追っ手を撃墜してまで逃亡、結果開発主任自らが討手となりけじめをつけた。

 

 

巌谷は耳の側でくるくると指を回してから、唯依を外へと誘った。

恐縮する唯依を車の後席へ促してから自らハンドルを握り、郊外へと走らす。

 

「中佐殿…」

「なにがあったかは大体聞いたよ。災難だったな、唯依ちゃん」

「は…はあ…」

「思い詰め過ぎだぞ、生まれてくる時代を間違えたか?」

 

切腹だの首を届けてくれだのと、同じ日本人でも国連軍の隊員たちが驚いていたと聞いた、と。

 

「しかしおじ…いえ、中佐殿。私の見誤りがなければ…」

「我々の常識では、というより米軍の常識でも私情で戦術機を盗み出すなど想像もできん。敵国衛士との悲恋などと、シェイクスピアかね」

「は…ただ、ソ連の非道が過ぎるのも事実です。人間を、あのように…」

「それはそうだが、共産圏の国というのは元々ああだ。一歩間違えれば我が国もそうなっていた」

「はい、それは。今回の件でも肝に銘じました」

 

崩す気がなさそうな唯依に合わせて。

しかし室内鏡でちらりと見やる唯依の瞳の色には、明らかな疲れが見えた。

 

 

 

 

 

あの時 ― 停止した94式弐型から昇降索条で降りてきたのは、シェスチナ少尉だった。

 

何故、まさか本当にソ連と、と続いて降りてきたブリッジスの姿に。

緋焔白霊を掴み取り、勢い自らも降りてしまったのが痛恨の過ち。

 

「ブリッジス!」

 

叫び、駆け出し、鯉口を切り。

雪を踏み抜き放つその一瞬前に、足下に弾痕が穿たれた。

 

「動くな」

 

硝煙棚引く銃口を向ける強化装備の女。

青みがかる長い髪を結い上げ、勝ち気な瞳は怒りに燃えて。

 

そして次々に周囲の闇色の戦術機から衛士が降りてくる。

最初の女の銃口は、こちらの眉間へと正確に向けられていた。

 

「その物騒な刀を置いてもらえるかしら、斯衛の衛士さん」

「…貴様ら、何者だ」

「名乗るわけにはいかないが…少なくとも敵ではない」

「刃を向けておいて、よく」

「不幸な行き違いだ」

 

途中から割り込んできたのは赤っぽい癖毛の女。こいつが隊長か。

後ろで銃を構える連中も、女衛士。しかも日本人。

 

「ユイ!」

「シェスチナ少尉、なぜ貴様がここに」

「タカムラ中尉、それは」

「貴様は黙っていろ!」

 

大喝、口を噤むブリッジス。周囲の女衛士、しかし女隊長は動じず。結い上げは肩を竦めた。銃口は、残る衛士が離さなかった。

 

「――お取り込み中、すみませんが…」

 

さくり、と雪を踏みながら進み出てきたのは、痩身小柄な ― 少女か?

黒一色の強化装備に気密装甲兜。透過率が低くされて顔は見えないが、先ほどの声の主か。

 

そして害意ない動作で装甲兜が外されると、ぴょこんと兎の耳を象った装置が飛び出。

どうやって入っていたのかと疑う間もなく、現れた流れる銀色の髪、白皙の頬と無表情な大きな瞳。

 

「わあ、イーニァもおねえさんだ」

「…姉は、わたしです」

「ええ? イーニァだよぅ」

 

間の抜けたやり取り。初対面ではないのか?

そして印象はまるで違うが同じ白い肌に銀の髪。

そういえば、

 

「ビャーチェノワ少尉はどうした」

「…クリスカは……死んだ」

「…なんだと?」

 

強い視線と共に問いかければ、搾り出すようなブリッジスと会話をやめて寄り添うシェスチナ少尉。

戦闘に巻き込まれでもしたのか? 94式弐型は計器搭載の為複座に換装してあったが、シェスチナ少尉までいる所を見ると3人で乗り込んでそれで?

 

「…長くはなかった…そうだ。前から」

「…なんということだ…」

 

知人の死に衝撃もあるが、これではソ連軍が黙ってはいまい。

やはり今この場でブリッジスを斬って捨てて、あくまで個人の犯行ということにして米ソの対立を余所に帝国は素知らぬ顔を決め込む他ないのか。

 

「でもね、しあわせだ、って。クリスカが」

 

だった、ではなく。

衛士として、道具としてではなく。女として、なのだろうか。

 

ただ――

 

「貴様、自分が何をしたのか判っているのだろうな」

「…ああ」

「貴様の軽率な行動は多くの者を巻き込んだ。ローウェル軍曹は、最大良くて、もう軍には居られまい。あれだけの才能を持つ男が」

「…」

「試験小隊は解散。ドーゥル中尉もどうなるか」

「…あんたも、だよな」

「私のことなどどうでも良い。直に果てる身ゆえ」

「!? なんでそうなる!?」

「XFJ計画は軍の―すなわち殿下の下された命。それを賜っておきながらこの為体、我が身の非力非才故とはいえ許されん。腹を切って御詫び申し上げる」

「ハラキリ!? 時代錯誤も甚だしいぜ!」

「貴様が仕出かした事はそれ程のことなのだ!」

「ッ…」

 

再びの一喝、黙り込むブリッジス。

が。

 

「…兄妹ゲンカは、それくらいで…」

「!?」

「はあ?」

 

割り込む銀色の少女、周りには着いて来られず呆れた風の女衛士たち。

 

な…なぜそれを!?

 

「わあ、ほんとだ、そうなんだ」

「…はい…」

「でもユイのいろ、すっごいきれい…まっくらなのにかがやいて、『にっしょく』みたいだね」

 

相変わらずころころと機嫌が変わり。笑みを浮かべるシェスチナ少尉の言が意味不明というかあやふやなのは、今に始まったことではないとはいえ。

 

「…私たちは、この人たちを連れてくるように言われています」

「誰からだ」

「…博士から」

「…それは、誰だ」

「…今はお話しできません…ただ、イワヤ中佐には話をつけると…」

「!」

 

人形のような少女から、想像の埒外の名前。

 

帝国軍が絡む話なのかこれは。

あの偽装された94式と思しき機体といい。

とすると自分は帝国の兵を斬りかけたのか?

 

ブリッジスにもまた予想だにしなかった事態のようで。

狼狽えこそはしていないが戸惑いは隠せていない。

 

この男の人も、一緒に連れて行きます。

「必要」なようなので、と言う無表情な銀の少女。

シェスチナ少尉にも拒否する意思はまるでない様子、うんうんと頷いてはブリッジスの腕を取っている。

 

 

今、数歩先にいるブリッジスを斬るのは ― おそらく不可能。

 

女隊長と結い上げは、緊張を解いたように見せているだけだ。

 

 

 

「…軍や、斯衛に迷惑はかからんのだろうな」

「…それはお約束します…貴方にも」

「私のことなどどうでもいい…」

 

情けない話だ。気が抜けると肩が落ちて。

 

 

役目の為に、斬ると決め。

其れを果たせず、遣り場のない憤りと。

なのに斬らずに済んだと、僅か安堵する己に。

 

 

荒事の空気が途絶えたのを敏く察して、女衛士たちは機敏だった。

 

94式弐型の自爆の準備、撃破された偽装機の回収。

こちらの00式の記録ですら、銀の少女が容易く改竄せしめて見せた。

貴女のおかげで余計に時間がかかったと、やや長身で中性的な女衛士に皮肉られても敢えて言い返しはしなかった。

 

そして湖畔の小屋からは ― ブリッジスがビャーチェノワ少尉の遺骸を抱いて。

 

その顔は、安らかだった。

 

丁重に死体袋へと納める前。自然、皆で手を合わせ…ブリッジスとシェスチナ少尉は不思議そうな顔をしていたが、死者を悼み弔う日本の風習だと教えると、無言で二人も倣った。

 

 

そして哨戒に当たっていた偽装部隊の2機と上空を旋回待機する輸送機が遠方に接近するソ連軍部隊を発見。

ブリッジスとシェスチナ少尉、そして物言わぬビャーチェノワ少尉の亡骸は偽装部隊と共に機上の人となった。

 

 

 

 

なにが最善だったのか、今でも唯依には判らない。

 

全速でS-11の爆破影響範囲外へ逃れて手塩に掛けた94式弐型が爆発の中に消滅するのを見届け。

その後現れたソ連軍中隊 ― 驚いたことに旧知の中佐殿だったが…偶然ではなかろう… ― には追い詰められたテロリストが自爆したとだけ答えた。

 

ユーコン基地へ帰還し一通りの米ソ両軍の聴取に応じ。

取り調べは執拗だったが、国元からの圧力も相応にあったようだ。

 

アルゴス試験小隊は解散した。

不祥事には違いがなかったし、XFJ計画・F-15ACTVの試験課程は共に完了していた。

ソ連軍イーダル小隊との性能比較試験も双方担当衛士の不在により中止となった。

 

別れを告げた時、ジアコーザ・ブレーメル両少尉とローウェル軍曹は表向き変わらなかったが、マナンダル少尉だけは明確な嫌悪と憎悪の視線をこちらへ向けていた。

そしてドーゥル中尉は辛い役目だったなと声を掛けて下さったが、彼ら皆に事実を伝えるわけにもいかなかった。

 

ハイネマン氏は内密にこんなことになるとはとお悔やみの言葉を。そしてハルトウィック大佐と共に丁重な餞別の辞を下さって、将来の戦術機開発の際にも協力し合う意思を確認した――

 

 

 

 

 

「常に政治がついて回る。衛士の本分はBETAと戦うことだが、責任ある者はそれだけではいかん」

「は…」

「祐唯も随分悩んでいたよ、何の因果か長刀を振り回していた俺の方が今やこんな立場だがな」

 

ハンドルを握って、巌谷は戯けるように一旦笑う。

 

「言えた義理ではないが、恨まないでやってくれ。男ってのは、バカな生き物でな」

「は、いえ。恨む気持ちはございません。…中佐殿は、全部ご存知なのですか」

「いや、はは。大体な。知っての通り祐唯は真面目な奴でな、ミラも同じさ。好き合ってそうなっているのは隠しているつもりだったんだろうが…」

「ご存知だったと」

「まあ、フランクの奴も気付いていなかった様だし、子供まで出来ているのは…考えなかったと言えば嘘になるが、まさかの範疇さ」

 

流れていく車窓の外、行き交う人々。

 

「まあ…祐唯も、可能性くらいは考えたんじゃないか。あいつも馬鹿じゃない、だから手を尽くして探しもした…だが見つからなかった。ゆえに私人として何処までも去って行った女を追うよりも、自らが担うべき者たちの事を考えた」

「…ブリッジス女史は、匿われていたと」

「ああ、俺もフランクから聞いた。あの時祐唯がそれを知っていたらあいつのことだ、万難を排してミラと子を迎えるなり…或いは米国へ行くなりしたかもしれん。それこそ鳳との縁談を蹴ってでもな。それを知っていたから、ミラも何も言わずに姿を消した」

 

互いに愛するが故、愛したが故の判断と結末。

 

それに巻き込まれた息子は、長じて自らが周囲を巻き込んで愛に走った。

 

「ま、息子の方は…軍人には、不向きだったのだろうな。才あるだけに尚難しい」

「彼奴の衛士の才は、あの彼をも上回っていると思います」

 

それが、今や斯衛帝国軍合わせて尚、衛士としての個の力は上位に入るであろう篁中尉の評価。

 

「ただ、心が甘すぎます」

「手厳しいな。兄だぞ、一応」

「だからこそです…衛士にせよ剣にせよ…幼少から然るべき鍛練を積んでいれば、当代一だったやもしれません」

 

揶揄う巌谷に、唯依も本心を。

篁の名を、さらに高められたかも知れなかったと。

 

「兄と知って実は一度は、私に有事の際は家督をと思いましたが…過ちでした」

「会いたくはないのか」

「…母は知っているのでしょうか」

「知らんだろう。知ったとしてもあの栴納殿だ、小揺るぎもせんだろう」

 

質問に質問で返す非礼を、巌谷は咎めなかった。

会うつもりなどないと、言わなかったがゆえ。

 

「…しばらく、考えたいと思います。日本に、いるのですか?」

「ああ。横浜だ」

「横浜…」

 

この近年、戦術機なり新技術なりで物事を追っていくと、多くの場合に出てくる地名。

 

横浜には、現在帝国軍の基地はない。

 

その跡地に建設された、国連軍横浜基地。

 

「これからは縁が出て来る」

「は、横浜に、でありますか?」

 

唯依もすでに気付いていた。

 

単なる一衛士としての道を外れ、時に枢機に触れて人を騙し後ろから刺すことも厭えぬ領域へ踏み込んだことを。

 

 

お前が征くのは地獄の道だと、誰かが言った。

 

元から自分は其処に居た、と応えた気がする。

 

 

あの時は所詮、斬った張ったの命のやり取り程度のつもり。

だがこれからは、異星種ではなく人類種との干戈交えぬ闘争にまで牙を研ぐ必要があるというのか。

 

「ああ。本来予定されていた昇進は取り消しになったが、貴様にかかる期待は大きい。欧州派遣部隊が帰還し次第、斯衛開発衛士隊も再編となる。これには従前以上に軍との連携が見込まれる、貴様が隊長だ」

「は。微力を尽くします」

 

そしてこれに目を通しておけ、と。

運転中前方から視線を離さぬままの巌谷から、渡された厚い資料。

 

それは開発中の兵器群。

 

「――これは…凄いですね」

「すでに試案から試製に入っているものもある。近日中に視察に行くぞ」

「は。了解しました」

「まあ、とりあえず今日はちゃんと家に帰れ。母親孝行も、必要だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2001年 同月同日 ―

 

旧フランス、リヨン。リヨンハイヴ最下層。

 

 

突然の震動。

 

「な、なんだ!?」

 

ドイツ連邦共和国陸軍第44戦術機甲大隊第2中隊第2小隊所属のヘルガローゼ・ファルケンマイヤー少尉は――周囲を埋め尽くすBETAの死骸と損傷擱座大破した友軍機の残骸の中、補給コンテナからGWS-9突撃砲の120mm弾倉を取り出している時、それに遭遇した。

 

ここまで損傷がなかったのは、奇跡に近いと思いながら。

傍らには地に突き立つ、刀身部が劣化し欠けてしまった斧槍 ― BWS-8 フリューゲルベルデ。

それを振るい続けてきた愛機EF-2000 タイフーン の右主腕の肘と手首は、あとどれくらい保つだろうか。

 

 

2時間と少し前、リヨンハイヴ攻略連合軍は最深部主縦坑大広間への攻撃を開始した。

 

薄暗くも青緑に発光する地下空間内、確認されたBETAは最低5個軍団およそ15万。

対するは最新鋭の第3世代戦術機を中核とする精鋭部隊約4個連隊。

 

強襲降下・橋頭堡の確保構築・反応炉室への侵入と破壊。

 

手順とすれば単純ながら、恐怖も躊躇も疲労も弾切れもなく押し寄せるBETAは、最新鋭の装備も強力無比なリニア・レールガン戦術も人類の懸命な尽力も単純にその数の暴虐で押し潰した。

 

要撃級3体を相手に一歩も退かずに立ち回れる強者が、間合いの外から要塞級に溶解液を浴びせられて最期の悲鳴を上げた。

不規則に次々と口を開ける偽装横坑からは無尽蔵とも思える小型・中型種が雪崩れ込み、要塞級を打ち倒す精鋭が背によじ登っていた戦車級に喰い殺された。

一斉射で千の単位のBETAを葬るリニア・レールガンの射手もまた、掃射前のチャージ中に忍び寄る戦車級に纏わりつかれ要撃級に飛びつかれ要塞級の触腕に貫かれて斃れ、掃射後の後退中に直掩を突破され撃破された。

 

押し、押され、押されて、押し返して。

 

ようやくに護衛大隊と共に工兵部隊を送り出しその後反応炉破壊成功の報を聞いた時、交代を挟みつつも長く最前衛を担った西独44大隊・ツェルベルスもまた、激しく戦い続けたが故に他部隊以上、定数の半分以下にまでその数を減らしていた。

 

 

「震動を検知、CP!」

「こちらでも探知しました…現在…震源探査中…」

「…こちら中層CP…こちらでも感知しました…」

「……こちら…外CP……らで……知しました……」

 

戦闘は終わり、勝利した ― はず。

 

「なんだおい爆薬の量が多すぎたのか?」

「バカ言え、自然地震だろ」

「ジャポンじゃねえんだぜ!」

「反応炉を破壊すりゃBETA共はおねんねじゃねえのかよ」

「崩れてお陀仏ってのは勘弁して欲しいな」

「一回潰れりゃその顔も多少はマシになるんじゃねえか」

 

残存BETAの活動レベルは、確実に低下していた。

ごく短時間ながら小・中型種は動きを止め、大型種もまた屹立した岩山のようになっている。

しかし掃討戦はまだ続いており、歓呼の叫びも途中で絶たれ。

銃把ならぬ操縦桿を握る衛士たちの軽口にも強がりの欠片。

 

「よくわからんが一旦撤収するぞ! 生存者の確認と救助急げ!」

「ベルゲ・ティーガーなんざまだ無理だ! 後にしろ! 後!」

「まだBETA共は多い、気をつけろ」

「投射砲はできるだけ回収してくれ! ヤンキー共に返さにゃならん」

「『お宝』担当は国連だろ? さっさと行け」

 

継戦可能な戦力は各軍を糾合してもすでに2個連隊を下回る。

敵地の深淵にて死線を越え、生き延びた安堵と疲労から座り込みたくなる身体を衛士たちは叱咤して動き出し、残存機が統率され生存者の確認と損傷機や消耗機の後送を急ぐ。

 

 

…! …! …!…!…!…!!!

 

 

これは…!

 

そしてこの揺れ、ヘルガローゼ ― ヘルガには覚えがあった。

もう随分前のことにも感じてしまう、つい10日と少し前の事。

 

震動。そして地鳴り。

管制ユニットの遮蔽機能がなければ地底が放つ重低音ですでに何も聞こえないはず。

揺れの大きさは自律機構の制御範囲を超え ― 疲労があるとはいえ突入部隊は精鋭の集まり、転倒機はない。飛び上がる機体もある。

 

「こいつはレポートにあったアレか?」

「ここで出てくるかよ…」

 

友軍機が各指揮機に従い空中で隊列を組む、しかし停止飛行は燃費が悪い。

ハイヴ内壁は相当に強固で未だ崩落の兆しはない…が…

 

 

新種の巨大BETA ― 母艦級が出現した場合、状況に応じての撤退が認められている。

 

しかしハイヴ突入前に日独軍が一度会敵した限りでその後確認されていないことから、相当な希少種だったのではとの見立てもあったのだが ―

 

 

「甘い見通しだったというわけだな…」

 

急ぎ慌てず補給を終わらせ、ヘルガは愛機を立ち上がらせた。

すでにルーキーという言い訳と甘えが通じる戦歴ではない。

 

「各機、母艦級の出現に備えろ 」

 

上昇して隊列を組む。

この状況下でも冷静な大隊長アイヒベルガー少佐が直卒。その漆黒に染められた乗機もまた、常の如く傍らに寄り添う副官ファーレンホルスト中尉の本来純白のはずの機体色と同様に、赤黒くBETAの返り血に染まっていた。

 

しかしすでにハイヴ内の激震は空中からの視界ですら大きく揺れているのが判る。

地中ゆえなのか前回の会敵時よりさらに凄まじい揺れ。

大広間底面の友軍機の残骸と重なったBETAの死骸が崩れ落ちた。

 

「――来るぞ!」

 

轟音。破砕音。大量に落ちてくる岩塊と土砂。

 

「う、上!?」

 

目の前に居た国連軍機に大岩が当たり上半身を潰されて落ちて行った。

 

視えはしないが壁面に「口」を出したのだろう、センサーに感。

 

「4体いるぞ!?」

「来るぞ備えろ!」

「土煙で見えねえ!」

「急いで下がれッ! 増援を!」

「呼べんのかよそんなもんっ!」

 

頭上からは戦車級、要撃級に要塞級までが次々と落下してくる。巻き込まれ衝突した機体がBETAと共に落ちて行き、回避機動中に友軍同士で衝突する機体も続出して回線に悲鳴が充満する。

しかし混乱を見せつつも対応を急ぎ、練度に優れた部隊から反撃。

 

ヘルガの隣、フォイルナー ― イルフリーデ少尉機が物持ち良く担いでいた中隊支援砲を上空へ向ける。

 

「ッ…安定しない…っ」

「ローテ12、最大仰角超えてるぞ!」

「隊長級は部下を統率しろ!」

「こちらCP! 母艦級が中層付近に3体地上に2体出現っ!」

「なんだと!? こちら大広間、こっちにもデカいクソが4本出やがった!」

「推進剤がない! 残弾もだ!」

「余裕があるヤツは上がれ! アタマを抑えられると潰されるぞ、上から叩く!」

 

その米軍中隊長機が列機を統率しながら上昇を試み――降ってきた要塞級の装甲脚に貫かれて墜ちていった。

戦術機はその運用上、上方向への対応はほとんど検討されていない。

 

「侵入口から撤収するぞ。第3第4中隊が先行、損傷機、第1第2中隊で殿」

「了解!」

 

アイヒベルガー少佐の冷静さは損なわれないが、精鋭と名高い番犬部隊ももはや臨時混成2中隊で1中隊定数がやっと。

 

そしてわずかに前後するもCPからも撤退命令が出――

 

「中層CP交信途絶!」

「撤収急げ!」

 

退路を塞がれる、それは言わずとも。

 

小中大型問わずBETAが降る地獄の中、半ば以上運任せの上昇機動。

侵入口へたどり着けたのはどれくらいか。

とうに予備兵力も払底し指揮所の退避も始まっている。

 

頼まれずとも侵入口の崖っぷち、深淵からの脱出口を守るべく番犬たちは砲を構えた。共に並ぶは健在の仏軍機。通り過ぎる友軍機たちを見送る。

もっとも降りしきるBETAを撃ち殺した所でその質量がなくなる訳もなく、死骸となったBETAですら道連れを欲するかのように未だここへ辿り着けない味方機を地の底へと引きずり込んでいった。

 

「…残存機確認できず。撤収する」

「…了解」

 

踵を返す。先んじて後退した損傷機等を除けば、1個連隊相当が脱出できたかどうか。

網膜投影に映される地上への最短ルートが隊内で共有されるが、その途上には狭隘な横坑も複数存在する。立体的な戦闘機動が、困難な程の。

 

そこへ。

 

「…殿へ同行を希望します。許可を」

 

するり、とした機動で黒いEF-2000 大隊長機に同じく黒のF-15が接近 ― 右肩に白縁赤円の徴。

 

「『ザ・シャドウ』!」

「…ローテ8、落ち着け」

 

網膜投影の通信ウィンドウ、臨時中隊の列機となるヴィッツレーベン ― ルナテレジア少尉機から場に全くそぐわない歓喜の声。

疲労困憊だったはずだが、果たして。

 

「貴官、残っていたのか」

「…は」

「…よかろう。分隊として独自行動を許可する」

「…は」

 

あちらにも、黒に追随する白が1機。肩には「白牙05」。

しかし中隊内の交信には、

 

貴官の機体どうなっていらっしゃるのかしらそれは日本軍のF-15改修機ですわよねああごめんなさい申し遅れましたわたくしルナテレジアヴィッツレーベンと申しますのそれでアメリカの機体は本来わたくしあまりなのですけれども日本の改修機はよろしいですわよねとりわけ貴官の機体ばかりはなんと申しましょうかパーツの合いがまるで線を引いたように美しくって特に関節の滑らかさはまるでカカオシュトゥーベのようですしバーニャの噴射もまるで綺麗で整っていてそれはどのように調整なさっておられるのかしらああ本当はあの音に聞こえたゼロを見てみたかったのですけれども今回は本当に残念なお話ですがあのゼロは海外へお持ちになるお話はございませんの?接近戦重視の機体ということは一見して判る事実ですけれども足端爪先が二叉になっておられるのはどういった理由なのでしょうかそれに射撃管制等についても気になりますわ貴官は兵装担架につけたままよくお使いになられておりますし他の方もやはりカタナが多いようでしたがあちらは仏軍中華軍などのものとはずいぶんと異なるようですわよねああそれにわたくしどもの栄たる白騎士EF-2000なんですけれどもそちらのライヒから技術協力があったという噂についてはどうお考えですのご存知でしたら教えて頂きたいですわそれと貴官のお隣白いF-15の方々の方も時折機動が突然お変わりになりますわよねふふ当然気付いておりますともええその時なんて運動性はほとんど第3世代じゃありませんこと推力速度は変わっておりませんのにいったいどんな秘密がおありなのかと思いますとわたくし夜も眠れませんのそれから

 

病気が発症していたが、44大隊機は無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最下層横坑、そこから縦坑を1レベル上へ。

撤収ルート上。予想された難所、そのうちの一つ。

 

幅100m延長700mのその横坑は、上下方向には30m程しかなく。

要塞級が出ないのは幸いとはいえ。

 

ハイヴ内戦闘においては、戦術機の死の廻廊とも言える場所。

 

そしてそこは、すでにBETAに満たされていた。

 

 

「突破しろ! 突破!」

「レールガンはどうしたァ!」

「こいつでカンバンです大尉!」

「モタモタしてると後ろからケツを喰われるぞ!」

「回り道しちゃ推進剤が保たねェ! 戦闘機動も噴かしすぎるな!」

 

 

反応炉破壊後最初期に撤収を開始した部隊はすでに通過していたが、殿を含む後発部隊はこの横坑先の広間に「口」を開けた母艦級からのBETA群と遭遇していた。

 

 

こりゃ、さすがに…マズい、わね…っ

 

フランス陸軍第13戦術竜騎兵連隊ベルナデット・リヴィエール中尉は、愛機ラファールの中で疲労から鈍くなってきている自分の反射速度を自覚していた。

 

水平機動でBETA群に突っ込み、円軌道で突撃砲を叩き込む。

しかし当初と比べればその精度は落ち、逆に戦車級に取り付かれる頻度は上がっていた。

 

偶然弾薬推進剤を母艦級出現前に補給していたものの、その時点ですでに脱落損傷機は連隊の半数近く。その後あの「所により急なBETA雨」で10機近く持って行かれた。

先発して撤収した隊機を除いて、この死地には中隊規模しかフランス軍の衛士はいない。

 

人間同士の前大戦から、国土は二度目の失陥。

だがその時だって、取り返した。

 

だから今回も取り返す。取り返した。取り返した…はずだった。

 

親玉らしき反応炉とやらは破壊したし、撃ち殺したBETAの数などもうカウンターを見てすらいない。

 

大広間での戦闘開始、その当初から戦い続けて今も戦陣に立つのは、癪に障るあのボッシュ共の番犬部隊と自分を除けば両手で数えるほどもいないのかも。

 

ちょっと、もう…、限界、か、な…っ…

 

決して誰にも、他人にも、自分にさえも見せなかった弱気が――

 

反応速度をさらに落とし、機動に緩みを生み。

 

回転しながら正面のBETAを撃ち抜き、さらに半回転したそこには兵装担架でし損じた要撃級が前腕衝角を振り上げて――

 

「ぁ…」

 

刹那呆然とする、その長大な時間の中――

癖のある金の長髪、ふわりと拡がるその向こうに見た死の。

 

 

陰を討ち破る、さらに黒い影。

 

 

人面を象ったかのような要撃級の尾節、それが首を刎ねられるように寸断され。

 

それが地に墜ちる間を待つこともなく、漆黒の颶風が吹き荒れる。

 

数多の戦車級を踏み殺しながら要撃級の主腕衝角を長刀で擦り上げるように受け流し。

背面から尾節を分かつ斬撃、その勢いのまま機体を翻してその後ろの新たな要撃級の全面部を断ち割る。漆黒のF-15のゴーグルアイがオレンジに光った。

 

立体ではなく平面の。

ベルナデットが思い描いた、ただ一振りの剣たる機動術。

 

「――や、る…じゃ、ないの!」

 

青い瞳に精気が戻る。

掲げた主腕の突撃砲に、補助腕から弾倉が込められる。

 

まだ、動く。まだ、戦える。

 

再びベルナデットの眼球が忙しなく動き、次々にBETAを目標として照準。

疲れ果て摩耗し薄くなりかけていた空間識が最後の力で再起動を果たし、機械の上限を補うように働き出した。

 

撃つ。打つ。討つ。

 

あの黒と同じように円の軌道を描きながら、その回転を攻撃と回避に同時に利用して4門の突撃砲が自在に動き回る。

 

 

瞬間、黒と背中合わせに。

 

この戦場、鉄火場にほんの一瞬の静寂 ―

 

 

「…ガン=カタか」

「…はン?」

 

いいだろう、と聞こえた。

そして伝わる背中の動き、戦術機を、コネクトシートを、強化装備を通して伝わるそれに、合わせるように動き出す。

 

右回転、時計回り。

兵装担架の2門も前へ、背中合わせのF-15も同じく。

 

両主腕長刀の黒よりこちらの方が間合いは長い、しかるに極至近の要撃級の主腕衝角は背中の黒に受け流させてするりと回転後のこちらが前腕炭素短刀で切り裂き、止めを黒が刺す間にこちらで遠間のBETA共に36mmを叩き込む。

 

残弾レベルレッド、その瞬間背後の黒が落ちていたGWS-9を長刀で掬い上げ。宙空に舞うそれが回転して入れ換わったこちらの眼前に、応じて空弾倉を排出しつつ手にしていたFWS-G1を僅か放り上げ。掴み取ったGWS-9からすかさず36mmをばら撒く間に補助腕が空中のFWS-G1に新弾倉を叩き込む。

 

「暴発するわよ」

「…」

「ハン!」

 

知っている、と言わんばかりの沈黙に。

 

さらに新たなのBETAの波、後ろの黒が長刀を順手に持ち替え拡げ。合わせてこちらも両主腕の突撃砲を交差させて狙いをつけ。共に回転、斬撃、斉射。飛びかかる戦車級は炭素短刀が切り裂いた。

 

BETA共に死を齎す円舞曲、そうして血路を斬り開いて。

 

遅れて殿から駆けつけた番犬部隊がその突破口を押し拡げていく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中層に出現した母艦級BETAの一体は、横坑を潰してある広間の壁面にその「口」を開いた。

奇しくも其処は、日本帝国欧州派遣臨時編成軌道降下兵団・第1大隊斯衛遊撃中隊が詰めていた広間よりほんのわずかに上層。

 

激震と轟音、CPとの交信が不能に。設置センサーからの信号も次々途絶える。

これらが指し示す事実に、中隊長雨宮鞠子中尉は決断を迫られた。

 

基本的には、通信途絶の場合各指揮官の判断によりハイヴ外を目指して上層へ向かう。途中合流する部隊があれば情報を交換し対処を検討するが、基本は脱出となる。

 

しかし今回は、すでに反応炉破壊成功の報を受け取っている。

棲息ハイヴの反応炉を破壊されたBETAはごく短時間だが活動停止ないしは低下させ、その後大半は近傍別ハイヴへと撤退の動きを見せると言われている。

 

ゆえに深層から撤収してくる傷ついた友軍の退路を守るためにここに留まるか。

或いは基本通りハイヴ外への脱出並びに浅層の友軍との合流を目指すか。

CPによる連携が途切れた今、最前線部隊がここを通るか否か不明。

しかしそうであった場合、退路確保がなされていなければ徒に損耗を招く。

 

しかし―

 

「上層からBETA! この先の縦坑です!」

「ち…迎撃するぞ! 掃射隊形!」

 

考える間もなく、後背にしていた横坑の向こうの広間 ― 全力噴射で、12秒か ― にはその上方の縦坑から群体を成すかのようなBETA共が噴きだしてきた。

 

引きつけて、発射!

 

交換砲身・弾倉共にあと1射分。

 

「全機XM3起動! 次の1射後に突破、上層へ向かうぞ」

「了解!」

 

射て、撃ち、斬り払って。

 

脱落なく隊を導くことが、今の自分の役目。

 

篁中尉ほどの剣の才もなければ、黒の衛士ほどの機動の冴えもない。

指揮の妙にしても自信なぞは欠片もないし、中隊規模ですら覚束無い。

 

それでも、やるのが、斯衛たる、私の使命だッ!

 

74式長刀で要撃級を斬り付け、部下を指揮して要塞級の体節部に120mmを撃ち込む。

 

 

詰めていた広間は補給地点ではなかったから、推進剤はともかく弾薬に余裕はない。

 

そして遅々とした進行、疲弊し傷ついていく列機。

打ち捨てた投射砲、その核心部は回収すべく持っていたがBETAを呼ぶ為仕方なく捨てた。

 

 

「07、後ろだ!」

「っ、きゃあッ! …った、助かりました!」

「気を抜くな!」

 

部下を叱咤しながら自らも叱咤して。

 

浅層と言える区域まで来た時、しかし絶望が待っていた。

 

前方から押し寄せるBETA群。

そして同時に感知した微震。

 

「う、嘘でしょ…」

「くッ…ッ」

 

その意味が判らぬ列機ではない。

諦めを戒めようとする自分にも、その弱気が。

 

勝った。勝って、勝っていたはず。その慢心が、この状況を導いたのか。

 

 

ああ、そうだ。

 

そういえば、大規模といえる実戦なんて、いつも彼がいてくれたのだ。

 

単独で動きながらもその実、私などよりよほど全体を見ていて。

気がつけば彼の動きを追っていて、行動の指針にしていた。

 

 

そう、だから――

 

 

「隊長ッ!」

「! っ、ぐぅっ!」

 

遠間、まだ射程外の筈。

関わらず閃いた要塞級の触手鞭撃。

 

回避できたのは僥倖、だがその先には。

 

「ぐッ!」

 

要撃級がその顎を構えて待っていた。

追加装甲ごと左主腕が吹き飛んで管制ユニットが軋む。衝撃に揺さぶられながら残る右主腕突撃砲で36mmを返礼、肉塊に変える。

 

「た、隊長っ」

「く、なに、大丈夫だ…」

「…こちらブラックファング01。追いついた」

「――!」

 

繋がった回線、近接データリンク。

後方上ってきた縦坑から、黒と白の89式が姿を見せ。

さらに満身創痍の風情ながらも数十機の欧州軍らの戦術機が続く。

 

「――無事、だったか。こちらホワイトファング01、中隊脱落なし」

「…了解した。……そちらは」

「ああ、問題ない。ちと不覚を取った」

「…継戦は可能か」

「まだ多少は。残弾2割。前方に旅団規模BETA」

「……了解。俺が前に出る」

 

言い様、止まることなく眼前を行き過ぎる黒の89式。

 

「待てブラックファング01、単機で…!」

「…策はある。護衛と損傷機、殿の順で抜けてくれ。120秒」

 

なんだと…?

 

滑るような機動で離脱、黒い機体の胸部になにかが固定されて――投射砲の核心部!?

 

 

黒い89式がBETA群へ飛び込んだ。振るわれる2刀、薙ぎ払われる異星種。

 

「…装甲排除…出力制御装置解除…」

 

同時に両肩、主腕、膝部から下の装甲が弾け飛ぶ。跳躍機からの噴射炎が輝きを増した。

 

「…XM3通常駆動停止…入力予測演算停止…余剰演算出力を強化装備へ…」

 

橙に光っていた89式の機械の眼、その光量が一瞬落ち。

 

「…感覚欺瞞最大…加速剤投与…ッ!」

 

網膜投影の通信画像、その無表情な瞳がカッと見開かれ――

 

「XM3・コード108…起動!」

 

89式 陽炎 の眼遮光板が、禍々しく紅に輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんですのあれは…」

 

疲弊したEF-2000の管制ユニットの中。

同じく疲弊している、緑がかったショートに女性的な身体つきの衛士 ― ルナテレジア・ヴィッツレーベン少尉。

 

制圧支援たるひとつの装備、Mk-57 中隊支援砲はすでに失って久しい。

手持ちのGWS-9に合わせ、途中で拾った被撃破機のAMWS-21にて前衛を支援する。

 

そしてその前衛、旅団規模 ― 5000体に及ぶBETA群に突撃をかけたのはわずか1機。

 

敵中深くへ斬り込んで、その先の広間の奥へ ― 撤収部隊が目指す縦坑のさらに向こうへと ― BETA群を誘引していく。

 

 

日本軍、その中でもライヒス・ヴァッハリッターが駆る「ティープ・ナインウントアハツィヒ カゲロウ」は、他と違っていた。

 

確かに黒の機体は特別仕立てで、他の黄色と白はそうでもない。

ただその黒の機体にした所で、恐らくは部品一つ一つに至るまで微に入り細を穿って汎用品を点検組立整備した、極めて高度なファインチューンの類いだろうと。

 

しかしその他の黄と白の機体群が、時折極端にその運動性を向上させていることにルナテレジア ― ルナは気づいていた。

 

なにか特別な処置が――そうは考えていたけれど、これは。

 

 

自ら装甲を排除したのは、軽量化と冷却の為か。

 

赤く燃える跳躍ユニット。ロケットの炎。

それが左右バラバラに、小刻みに動いて。

 

出鱈目に見える高速機動。しかし計算ずくのように一挙動で必ず一体要撃級が葬られ。

 

合間を縫って叩きつけられる要塞級の鞭撃、刺突を。

時として斬り払い、時として去なし擦り上げて隣の要塞級へと突き刺す。

 

読んでる!? なんて鋭角な機動…! でも身体は!?

 

 

「シィィィィィッ!!」

 

中隊内、繋がったままの回線。鋭い呼気。

鉄面皮だったその表情、だが今は睨み付ける眼は血走り。

高Gに薄い頬の肉は歪み、食い縛る歯がそれに耐える

 

 

「急げ、抜けろ!」

「ツェルベルス02、第3第4中隊は先行。進路確保急いで!」

「了解!」「了解ッ!」

 

狼王と后狼の指揮の下、損傷機を導く番犬達が宙を駆ける。

ルナもまた支援攻撃を続けて無防備に背を向けるBETA共を撃ち倒すが、母艦級の接近を告げる震動、空中に在ってもハイヴ内壁の揺れが視認できるほどすでに激震の域に入っている。

 

その向こう、誘引を続ける黒の89式に――

 

覆い被さる要撃級2体、その間隙すら埋めるが如くに集る戦車級。

 

「カァアッ!」

 

銀色の光条が八閃、瞬きの間の斬撃に細切れの肉塊。

そしてまた次の瞬間にはロケットの赤い炎と共に紅い89式のバイザー光が青緑のハイヴ内に軌跡を描いていく。

 

あれがF-15の機動なんですの!? まるで――

 

 

鬼。いや、東洋に言う、戦場に舞い降りた ― 黒い鬼神。

 

 

雲霞の如き小中型級、立ち塞がる大型級すらまるで寄せ付けず。

2刀が閃き血風を巻き、火砲が唸り血煙を貫く。

 

 

でもあれがいつまでも保つはずは――!

 

 

たった1機で時を稼ぐ鬼神、その間に救われて死の魔窟から脱する友軍機。

そして殿の地獄の番犬たちが、フランスの銃士に黒の列機たる白たちが。

 

「ブラックファング01! 中尉、退くぞ! 我々で最後だ!」

 

しかしその山吹色の89式が声をかけた時。

 

その付近の内壁が爆発するように弾け飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぐ…っ!?」

 

衝撃。

 

激震が続いていたハイヴ内、左手の内壁が内側から弾け飛んで。

距離はあったはず。だが飛散する岩塊をまともに受けて、山吹の89式 雨宮中尉機は吹き飛ばされた。尻餅をつく形でハイヴ内に降着する。

 

只の岩とはいえその質量が大きすぎた。

戦術機を覆う耐熱対弾複合装甲は元より内部構造にまで大きな損傷を負って網膜投影の機体状態表示が総て赤く点灯した。

 

な、に、が――っ、!?

 

見えたのは壁。いや、開く前の「口」。

 

中央部に血のように赤い牙が円形に並び、そこから放射状に伸びる青紫の棘。

ただその大きさは人間の想像力を圧する程で、30m程離れていても壁にしか見えない。

 

そしてそれが、今まさにぎちぎちと立てる音すら幻聴させて。

巨大な円筒その先端外縁周辺部分が後退するにつれて、閉じられていた中央の赤い牙が開いていく。

 

い、かん――!

 

迷わなかった。

 

すでに失われていた左手腕、残されていた右手腕の突撃砲を――動かない!

 

迷わなかった。

 

「ッ…!、うぉおおおお!」

 

咆哮して跳躍機を全開、前へ。

開き始めた「口」へと突撃する。

 

すでに18mの89式が通るだけの空間が、噴き出ようとしていた戦車級の群れに文字通り飛び込んで――

 

 

最大の衝撃。一度、二度。

 

 

「ぐはッ…!、…!」

 

何か致命的なものが砕ける音がした。

網膜投影への外部カメラ自体が破損したのか機能視界は完全に消えた。計器の大半が死んだ暗い管制ユニット内を、各部から上がる火花が僅かに照らす。

 

 

仰向けになっている。

 

右腕が、折れているようだ。

左腕は…感覚がない。

 

「ぐ、ぅ…っ」

 

身を起こそうとすると激痛が走った。体中が痛む。

こみ上げてきたものを少し吐き出すと、熱く鉄錆びた味。

 

そしてがりがりと音がする。

外、装甲。戦車級が囓っているのか。

 

最も多くの衛士を殺したBETA、その名の通りに。

 

「くっ……ふ、ふふ…悪いが、貴様らなぞに、貞操は…やれんな…」

 

口の端から流れる朱。

折れていると思しき右腕。激痛から動かすのもひどく困難、力が入らず震える指でなんとか操作盤を。

 

 

あと少しで撤収――いや、脱出できるだろう。隊の皆は。

 

満身創痍の彼らを、今この新たな母艦級のBETA共に追撃させるわけにはいかない。

 

 

そして―――彼も。こんな態を晒して、ぐずぐずしていれば、きっとやって来てしまう。

 

 

「っ…ふ、はは…っ」

 

 

笑みがこぼれた。

 

 

ああ、そうか。

 

あの、手のぬくもり。

 

そしてこの、胸の奥の。

 

身体の傷みとは、違う痛みが。

 

 

 

「はは、まったく、たしかに…、」

 

 

安全装置が解除された。

 

 

「とんだ不調法者だ、わたしは……」

 

 

操縦席正面、「SDS」の文字が淡く光った。

 

 

「枕を持って、忍んでいけば…良かったかな」

 

 

折れた右腕を叩きつけて。

 

 

 

篁中尉、お先に 九段にて、お待ちしております

ただあまり急いでおいでになりませんよう

 

 

 

次の瞬間、雨宮鞠子中尉の肉体は消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2001年11月 ―

 

 

旧フランス・甲12号リヨンハイヴの攻略作戦は成功した。

 

これにより欧州連合は悲願であるユーラシア奪還の初戦を勝利で飾った。

 

英国に退避中の各国民は戦勝の報に沸き、政治家達は胸を撫で下ろした。

 

 

共に、瓦礫の山と化して復興の目処などついていないかつての都市と。

 

戦場となった国土にばら撒かれた劣化ウラン弾とAL弾の汚染と。

 

草木一本鳥一羽生えず飛ばないハイヴ周辺という祖国の現状からは目を反らして。

 

 

そして、各国軍関係者は頭を悩ませていた。

 

各軍により編成は異なるものの、今作戦に参加し主攻部隊の前線を担った戦術機甲師団はおよそ12。うち戦術機は1200機を超え、また損害はそこに集中しおよそ4割近くを損耗。

 

甲21号比では割合として大きく減少したものの、しかしこの損害の大半はハイヴ最深部主縦坑大広間攻略に際してと、反応炉破壊後に出現した、9体の母艦級BETAの「奇襲」による一時撤退戦時のものだった。

 

ハイヴ最深部まで攻め入った精鋭に多く損失が出たことは、実際の数字以上の損害を意味する。事実欧州連合における名だたる精鋭部隊の多くが半壊状態となり、即時の新たな作戦行動への参加は不可能な状態に陥った。

 

またハイヴ内に出現した母艦級群は、制圧後の調査によっても甲12号棲息個体だったのかは不明であり、同反応炉破壊後にも活発な活動を続けたことから、近傍5号ミンスク・11号ブダペストもしくはさらに他のハイヴより発したBETAであった可能性が否定できなくなった。

 

これに軍関係者や識者は慄然とした。

 

これまでにもBETA群は同一戦場内では複数個体の光線級による時間差攻撃や要撃級要塞級が光線級の前壁となる等の戦術的行動が確認されてきたものの、ハイヴ単位での謂わば援軍を送り込むと言った行動は確認されてこなかった。

 

従来BETA及びハイヴ間の戦略・戦術的情報のやり取りについては、個体BETAの収集情報が棲息ハイヴへ持ち帰られた後約450時間で同一ハイヴ内及び同一派生系のハイヴへ伝播すると考えられてきたものの、動的な連携として大規模に確認されたのは今回が初となる。

 

尤も大陸所在のハイヴ攻略にて深層へ辿り着いたのも今作戦が初めてであり、甲21号の際には海峡を越えての援軍派遣が不可能だったのか、或いは短時間による制圧であったため単に間に合わなかった可能性が考慮されるが、後者であった場合は制圧完了の数日後甲21号付近に母艦級が出現した筈の為説得力に欠ける。

 

いずれにせよ、現在の対BETA戦略術は、先人たちの膨大な血の犠牲と極秘計画オルタ3の成果を元に組み立てられている。しかしそれらには推測推論を現状が追認しただけの具体的根拠に欠けるものや、そもそもまったく原因が判っていないものも多い。

例えば1973年の紅旗作戦開始時には当初姿を見せなかった光線級が突然出現、そしてその光線級も圧倒的探知照準照射能力を備えながらも低軌道衛星や他ハイヴへの降着を目指す落下物は一切攻撃しないという不可解な現象―

 

要は「BETAのご機嫌次第」で、現状所与とされる前提が如何様にも覆されるものだと再確認することになったのである。

 

また母艦級自体以前よりその存在が推測されていた ― 今夏のソ連・カムチャツカにおけるBETA侵攻時の地下隧道等 ― が今回の急激な会敵増に関し、元々長く占領下にあったユーラシアにはある程度棲息していた説と、今作戦のハイヴ突入前その有効性を確認した為との説とで、海峡を越えることが可能なのかどうかも含めて、BETAの戦略・戦術的思考の有無や程度を巡る幾度目かの議論の元となった。

 

中には母艦級BETAの死骸を撤去し、その造り上げた隧道を逆に辿ればその出生出発地に行き着くはずで調査及び強襲作戦に使用できるとの案も出たが、その調査突入部隊はBETAの逆撃のみならず崩落の危険から決死隊となるのはほぼ確実な上、そもそも母艦級の容積があまりに膨大に過ぎるため分解撤去にも相当な手間と時間とが必要とされる為、地上にて撃破した個体のみが細々と作業されることになった。

 

 

ともあれ地中から突如連隊若しくは旅団規模のBETA群を伴って出現する母艦級は防衛戦略上の悪夢以外の何者でもなく。

震動計の多数配置による比較的早期の探知を図る以外、有効な対策は現状存在しない…

 

 

 

 

 

日本帝国欧州派遣臨時編成軌道降下兵団は、所定の任務を終えて帰還の途についた。

 

BETA征伐成ったユーラシア西部、それを北上しての英国行き。

 

中核であった軌道降下兵団第1連隊はおよそ2割の損耗を出すも、ハイヴ突入前のみならず撤収戦においてもハイヴ外ゲート防衛戦にて母艦級を討ち取るなど赫々たる戦果を挙げ、堂々の帰国。

 

 

そして精鋭中の精鋭とされた、第1大隊斯衛遊撃中隊は――

 

 

 

 

 

英国。ドーバー基地群。海峡を望む丘。

その日は晴れで。海は、穏やかだった。

 

 

彼の姿を ― 管制ユニットの外で ― 見るのは、初めてだった。

 

「Hallo」

「…」

 

結い上げた金色の髪に碧い瞳。

イルフリーデ・フォイルナー少尉が声をかけると、佇む戦士は首だけで振り返った。

 

肩にかけた黒い制服が海風に揺れる。

首元からは痛々しく白い包帯が覗いていた。

 

 

突撃前衛を目指す ― 未だに ― 彼女からすれば、世に言う強襲前衛スタイルとはいえ、彼は彼女が知る限りで前衛配置その個人的技量としてほぼ頂点にいると感じた。

 

軌道経由での帰国まで既に日はなく、多忙な軍務からすれば最初で最後の機会。

 

 

無言で敬礼した彼に、慌てて敬礼を返す。

 

「失礼しました、中尉殿。…お怪我は、如何ですか」

「…問題ない」

 

素っ気ない回答。

知っている日本人は多くはないけれど、とっつきにくさはあの子…「子」じゃなかったんだっけ、とにかく以上。

 

 

そういえば、昨日出会った日本帝国の衛士も小柄で。

 

一緒にいたルナの胸ばかり見ていたから連れの女性衛士に横腹を小突かれていた。

 

悪気なくやっぱり日本人は小柄なのかしらとヘルガやルナと話していると、「悪口ならドイツ語でもわかるぞ!」と憤慨していたっけ。

 

 

 

「アメミヤ中尉は、残念でした。お悔やみを」

「…」

 

小さな頷きだけが。

反らさずこちらを見る、感情のない瞳。

あの小柄少尉は別として、日本人は、本当にわからない。

 

 

 

彼らの中隊長が、あの母艦級に飛び込んだとき。

 

ほんの、ほんのわずか一瞬だけ、彼もまた停まっていた。

 

そしてすぐに、自隊と私たちに退くように促して。

 

一番最後に縦坑に飛び込んできた彼の機体は、被弾でなく酷使によりボロボロで。

 

ゲートまで保たず、墜落する機体から05番機が慌てて管制ユニットを引き出し。

 

同じく酷使し過ぎた彼の肉体も、かなりのダメージを負っていたらしい。

 

 

 

クダンへ行く、というのだそうだ。

 

国のために戦って死んだ者は、そこで祀られて英霊となる。

 

私たちがヴァルハラで会おうというのと同じような意味らしい。

 

 

ただ、集団における自己陶酔の連鎖と同調圧力とでも言うのか、カミカゼを過度に美化する傾向には、忌避感も覚えてしまう。

 

長い冬を耐え、春先に短く咲いて。儚くも潔く散りゆくサクラという花を好む日本人。

 

日本好きのヘルガあたりに言わせれば、偏見だとでも言いそうだけれど。

 

「…でも、中尉と…彼女のおかげで、我々は助かりましたわ。ありがとうございました」

「……ああ」

 

その時だけわずかに目線が反らされて。

彼女の分だけは、受け取っておくと、言った。

 

「実は中尉に、お聞きしたいことが」

「…」

「私、いつか突撃前衛を担いたいと思っているのです」

「…」

「今となっては砲撃支援にも馴染んではいますわ…でもこう申し上げてはなんですけれど、今回の作戦で……欠員も、出てしまいましたし」

 

イルフリーデも少し目線を落とす。

 

 

グレート・ブリテン防衛の七英雄は流石、負傷者こそ出しすれ全員が生還。

 

最近、メグスラシルの娘などと分を過ぎて古の伝説から異名を戴く自らと同期たちも。

 

一方で、猛者揃いだった隊の仲間達は…半数近くが、還らなかった。

 

 

「それで中尉は…どのように技量を高められたのか、教えていただきたくて」

「…訓練」

「それは当然ですけれど」

「…実戦」

「は、はあ…」

 

なにか心得というかコツというか。

なのに当然と言えば当然ながら、素っ気ない答えに素が出そうになる。

 

 

彼が所属しているライヒスリッター。

七英雄方直卒の隊ならともかく、それ以外では我が番犬部隊ですら危うい精鋭。

 

その皆が、自分と変わらない年頃の女性ばかり。

目の前の中尉にしても、年齢については同じくらいのはず。

 

 

「そういえば、中尉はベルナデット中尉とは親しくしていらっしゃるのですか?」

「…」

 

無言。

こちらを見る眼は変わらず澱んで無表情な。

 

あんなに息の合った連携を見せていたのに。

仏軍の、前衛で銃使いの、と説明すると漸く合点がいったようで。

 

「…いや」

「そ、そうですの」

 

スイッチの入ったルナとはまた違った意味で、やりにくい相手だ。

 

「……動きは知っていた」

「え?」

 

それだけ言って、立ち去ろうとしてしまう。

 

まだ何も教えてもらえていない、ふと――もう1年半も前になる、そのフランス人に問われ答えに窮した問いが。

 

「で、では中尉――貴方は、一体何のために戦われるのです?」

 

 

死線を別つ、最後の一歩。

踏み止まれるか否かを決める、魂の在り様。

 

今なら自分は答えられる。

 

 

ドイツァー・オルデンの裔として。

ドラッヘン・ヘルツの後継者を目指す者として。

 

そして何より、友と人々を守るため。

 

 

しかし、その問いに黒の衛士はひたりと足を止め。

 

掛けられた黒い制服が、一陣の風に棚引く。

 

そして肩越しに振り返り、顔の片側だけから刺されたその視線。

 

「――!」

 

その、暗い憎悪の炎に満ちた、睨めつける眼差しに息を呑まされ。

 

刹那立ちすくむイルフリーデに、一言が投げつけられた。

 

 

 

 

 

「…BETAを殺す為だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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