Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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 「なによ、これ。なんなの、これ! 

 こんな、こんな、こんなものが、存在すると言うの……!?」

 イリヤは背後にいるラフムの集団を見て叫んだ。彼女の目はラフムを見ていない。ラフムを通して、地獄を見ていた。

 「イリヤ、今、私達は私の拠点に向かってる。

 私のこと信用なんかしてないと思うけど、ごめん、今だけ信頼して!」

 暴れるイリヤを強引に抱きとめて、私は走る。せめて、礼装を着ていれば。強力な概念礼装を使用することもできたのに、と後悔する。

 せっかくの新技術も使えなければ意味がない。

 

 ――――概念礼装の自己固定化。それは、サーヴァントではなくマスターである私が概念礼装による強化を図るという試みだ。

 これはグランドオーダー始動中から進められている実験で、ほとんど完成している。マスター礼装に概念礼装を装備するという形で。

 しかし、マスター礼装を着用していない状態で概念礼装の自己固定化はまだ完成していない。

 

 だから、私はイリヤを己の筋力で拘束しながら、速度を落とさずに走った。足をもつれさせるようなミスはできない。足と腕に力を込めすぎないように意識して走る。

 「嘘嘘嘘!

 こんなの全部嘘よ! 聖杯がこれを生み出したの?

 あんなもの、聖杯が、アインツベルンが作るわけないわ!

 なにそれ、なんなのよそれ!

 あんなもの、私知らないもん!」

 子どもの癇癪のようにイリヤは叫び散らす。絶望を叫ぶように、己の身を嘆いている。

 『いや、あれは大聖杯の中に溜まる泥から生み出された生命体だ。

 大聖杯の泥、ケイオスタイドに酷似したあれを使えばラフムぐらい作れるだろう。かつてティアマトとキングゥが行なっていたようにね。 』

 「いや! あんたのいうこと、信じないから!」

 イリヤは絶望したように叫ぶ。

 「だって、そんなの信じちゃったら、私、なんのために生きているのかわからないじゃない!」

 どうしてなの!とイリヤが悲鳴をあげる。

 「なんでキリツグは私を助けにきてくれないのよ! なんで私は今“独り”なの!

 ずっと、ずっとずっとずっっと待ってたのに!」

 いやあああああ!と叫んで、私の胸を何回もグーで殴る。私は文句を言わずに走り続けた。やがて、手を止めて、弱々しく縋りついたイリヤが絶望を言葉にした。

 「信じない、信じたりなんてしない。

 だって、あなたの言う事を信じたら、私は何を恨めばいいのよ!

 聖杯が汚れていたからキリツグはお母様を殺したの!?

 聖杯が願望器じゃないからキリツグは私を捨てたの!?

 だから衛宮士郎(赤の他人)を息子にしたの!?

 私が汚れていたから、キリツグは迎えに来てくれなかったの!? 

 全部私が悪いの!? 私は汚れてるの?

 どうして、どうして! 」

 イリヤの叫びは痛々しくて、嘆きを謳う彼女はシェイクスピアの作る物語のヒロインのように哀れだった。

 「ああ、なんで! キリツグ! ああ、なんで、お父様!

 どうして、どうしてなの!

 お母様、お母様も“あれ”になってしまったの? だからキリツグはお母様を殺したの?

 ねえ、応えてよ、お母様! 

 お爺様、どうしてなの? どういう事なの? これは全部私のせいなの!?

 私が悪いの? 私のせいなの? あれは、あれが、アレが私なの!? 」

 彼女はずっと嘆いていた。叫ばないと自分を保てなかったのだろう。

 リツカはイリヤの心境に共感はできない。そんなものはまやかしだし、訳知り顔で「わかるよ。」なんて言われても「あんたに何がわかるっていうのよ!」と返されるのが目に見えている。わたしだってそうだ。

 (でも、理解しようと、寄り添うことはできる。)

 どんなに絶望的状況でも、心が折れなければ立ち上がれる。虚勢を張って、諦めなければ乗り越えられるのだ。

 暴れるイリヤを力ずくで抱きとめながら、私は全力で走った。

 家の外と内を区切る柵を超える。マーリンの魔術工房に入ったと確信しても警戒を緩めない。

 室内に体を滑り込ませ、鍵をかけた。

  『(清姫!)』

 『(大丈夫です、離脱しました。

 ラフム共もどこかへ帰って行きましたわ。)』

 安心と疲れがどっと襲ってきた。

 「はぁ〜。」

 立香は緊張の糸をほぐした。ずるり、と壁にもたれかかりしゃがみこむ。もちろんイリヤは抱きしめたままである。

 だが立香が安堵しても、イリヤの心境は変わらない。

 リビングの扉を閉めても、少女の嘆きは終わらなかった。

 

 「無事か、マスター!」

 「み、ず!」

 はっはっと犬のような呼吸をしながら手を伸ばす。渡されたマグカップを豪快に煽って、少し息が落ち着いた。

 「エルキドゥの旦那は清姫の救助に行った。マーリンは結界を貼り直しているぜ。

 燕青はマスターの危機に慎二の護衛を放棄してラフムの元に行って、慌ててランスロット卿が慎二の護衛についた。」

 「そっか、よかった。」

 はぁ、と呼吸を整えるために大きく息を吸った。

 「ところでオタク、この嬢ちゃんとバーサーカーはどうするおつもりで?」

 ぴたり、と立香の動きが止まる。

 笑っているとはお世辞にも言えない凍えた瞳が私を貫く。こうするしかなかったのだ、と言い訳を言い募るもより一層瞳は冷え込む。

 「ねぇ、その人、アーチャーよね?

 どうして、サーヴァントがいるの? あのランサーとバーサーカーだけじゃないの? 」

 ようやく、発狂(言い方が失礼だけどこれしか表現ができない。)が収まった少女が怪訝な眼差しで問う。

 前門の虎、後門の狼ならぬ前門のロビン、後門のイリヤとヘラクレス。

 私はなんといっていいのか分からず「あはは〜」と笑った。

 その笑顔は、鏡を見なくても確実に引きつっていた。

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