Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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 昼休みに衛宮のクラスを尋ねると、遠坂が出てきて「なんのようかしら? 」と高圧的に聞いてきた。朝のことを思い出して機嫌が一気に地に落ちた。

 

 「別に遠坂に用があるわけじゃないさ。」

 「衛宮くんなら今日は休みよ。」

 「はぁ!?」

 

 肝心の衛宮がいないだと?

 なんでいつもあいつは肝心な時にいなくて、いなくていい時にひょっこり出てくるんだ。間が悪いにもほどがあるだろ。

 

 「(てか衛宮! なんで今日に限って学校休んでんだよ!)」

 

 せっかく僕が誘ってやろうとしたのに、あいつ……!

 あいつのことだから放課後になって学校に来たりとかするだろう、と思って長いこと教室で待っていたが、最終下校時間の18時30分になっても来なかった。

 

 「くそ、これじゃ待ち損じゃないか!

 僕を待たせるなんていい度胸しているな……!」

 

 かつかつとコンクリートを蹴る足に力がこもる。衛宮への理不尽な怒りによって、今朝の言い争いについて綺麗さっぱり忘却してしまうほど慎二は腹を立てていた。

 

 「(仕方ないから明日また、誘ってやるか。)」

 

 はぁ、やれやれ。と慎二は内心肩をすくめる。実家である間桐邸よりも帰り慣れた自宅のドアを開けた。

 

 「ただいま。」

 

 随分と帰るのが遅くなってしまった。鍵は閉まっていたがリビングは明かりが灯っていて、話し声も聞こえる。

 なのに、おかえりの返事がない。まさか、マスターは朝のことを怒っているのだろうか。いや、あれはマスターが悪い。普通に考えて対策も立てずに敵陣に突撃なんてバカがやることだ。それも、キャスターの陣地なんて。

 リビングの扉を開けた。リツカと清姫、エルキドゥとマーリンの四人。ロビンフッドとランスロットはバイトだろう。

 だが、それに加えてもう三人。

 一人は、パステルパープルの長い髪を高く結った、大きな杖を持つ少女。

 もう一人は白い髪に赤い瞳の少女。

 そして最後。その白い少女に従うように背後に立つ、筋骨隆々な男。というか、サーヴァント。おい、これバーサーカーだろ!

 

 「あ、慎二。」

 

 リツカが僕に気づく。おかえり、と呑気な顔で笑うが、顔にはいくつかの擦り傷がある。

 だが、それ以外に傷はなさそうだ。それは良かった。

 だが、それとこれは別だ。

 

 「なにこれ。」

 

 三人を指差して問いかけた。それなりに広いリビングが人数が増えたことにより狭く感じる。

 

 「ふん! 

 あんたこそなんなのよ!」

 

 少女(ガキ)が生意気にも腕を組んで、上から目線で睨みつける。なんだこいつ。

 

 「まぁ、身分が上のものが名乗らないと下のものは名乗れないというしね。

 僕は間桐慎二。“間桐の代表者”で、そこにいる……ルーラーのマスターだ。」

 

 マスターといいかけて、そう言えばこいつクラス偽ってたな、とルーラーと言い換えた。が、少女(ガキ)は馬鹿にするような不愉快な視線を僕に向けて「あんたが? ふーん。」などと視線を向けた。

 

 「まあいいわ。シンジね、覚えてあげる。

 あと、リツカが偽ルーラーだってことはとっくに知ってるわよ。」

 

 まったく、と白髪の少女が頬を膨らませる。

 

 「いいわ、教えてあげる。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 御三家の一角であるアインツベルンの代表よ! 

 サーヴァントはバーサーカーのヘラクレス。

 私は、あなたたちマスター陣営に同盟を申し込むわ!」

 

 ふふん、と。薄っぺらい胸を張って、少女はティーカップを優雅に傾けながら宣言した。

 どう言うことだとリツカをみる。リツカは僕の視線に気づいて「ああ、そうだ。」と少女を示す。

 

「慎二。こちらは柳洞寺のライダー。すでに仮契約済みで同盟済みだよ。」

 「ライダーのメディアです。気軽にリリィと呼んでください。」

 にっこりとイリヤスフィールとは正反対の天使の笑顔で微笑む少女。

 「…………ライダー? 」

 

 どういうことだ、と視線をリツカに向ける。リツカはてへ、と舌を出して己の頭を小突いた。(ちなみに、てへぺろは2009年の流行語大賞なので2004年を生きている慎二には通じない。)

 

 「じつは、柳洞寺のキャスターは柳洞寺のライダーだったんだよ。びっくりだね! 

 しかもイアソンとメディアの二人組!」

「……あれだけ、キャスターキャスター言ってたくせにな。

 ほらみろ、何事にも下調べが大事だっていう僕の意見が正しいじゃないか!」

 「いやいや、今日行ったからこそメディアともイリヤとも同盟結べたんだよ?

 私の歴戦の勘を信じた結果でしょ? 」

 「行き当たりばったりの間違いじゃない?」

 

 自然に口角は上がっていた。

 

 「と言うか、ライダーが二人?」

 

 「うん、イアソンは今柳洞寺で門番してるよ。

 マスターの葛木さんの護衛とメディアの魔術工房守ってる。」

 「……柳洞寺? 葛木?」

 聞き覚えのある名詞に嫌な予感がする。

 「はい!」とメディアが元気よく応えた。

 

 「私の旦那様(マスター)は葛木宗一郎様。穂群原高校の教師をされています!」

 「やっぱりあいつか……。」

 

 言峰を彷彿させる無表情教師。と言うかあいつ魔術師だったのかよ。

 

 「……旦那?」

 「はい!」

 

 どこからどう見ても未成年(僕より年下)の少女が「結婚を誓い合った仲です!」と微笑む。

 うわ、まじかよあいつ。ロリコンじゃん。

 無表情の下で何を考えていたのか。恐ろしい。

 

 「よし、慎二も帰ってきたことだし、情報共有をしよう!」

 

 昨日も使ったホワイトボードをガラガラ引っ張ってきたリツカは新たに『大聖杯』と書き足し、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンのとなりに『小聖杯』と書き込んだ。

 

 「……小聖杯!?」

 「何よ、悪い?」

 

 悪いとかそういう問題じゃない。なんで聖杯がマスターなんだ? いや、人間が聖杯になれるか?

 

 「……ああ、アインツベルンはホムンクルスの鋳造が盛んだったな。」

 「……ええ、そうよ。私はホムンクルス。

 半分だけどね。」

 

 イリヤスフィールと話している間にリツカはサクサク書き進め、大聖杯の下に書き込みを足していた。

 

 大聖杯

 汚染されている。深刻。やばい。

 破壊が必須だが条件付き。

 条件1、誰かが大聖杯の中身と接続しているため、大聖杯を破壊しても本当の意味で災厄の回避にはならない。

 条件2、宝具封印状態の永続付加。おそらく聖杯の意思による自己防衛。

 解除はおそらくアインツベルンの魔術師のみが可能。

 

 「……まじで?」

 

 思わず溢れた言葉に、リツカは「まじだよ。」とこたえる。

 

 「……大聖杯が汚染されているというのは本当なのね。」

 

 イリヤは沈痛な表情で噛みしめるようにそれを音にした。

 

 「信じてくれるの?」

 「あんなの見たら、信じるしかないわ。」

 

 実質、大聖杯の汚染を確証するようなものを見たというアインツベルンの魔術師に思わず目を丸くした。聖杯の汚染など、アインツベルンが一番信じられないだろう。なぜなら、聖杯を作ったのがアインツベルンだからだ。

 

 「(一体、何を見たのだろうか。)」

 

 わからない。だがそれは酷く恐ろしいのだろう。

 

 「ねぇ、それよりあなたのことを教えて。」

 

 イリヤスフィールはリツカの手を取っていった。

 

 「セルフギアススクロールを立ててもいいと言った言葉は本当なのよね? 」

 「うん。なんなら作る?」

 「いいえ、必要ないわ。

 それだけの覚悟があるということがわかったから。

 なら、私はあなたを信じるわ。」

 

 イリヤスフィールの言葉に僕は動揺した。セルフギアススクロールを立てるだなんて、何を考えている。

 魔術師として信用を得るには一番いい方法だろう。リツカは今、解呪不能の呪いをかけてもいいと宣言したのだ。

 つまり、それだけ本気であり、本当に真実しか話さないという証明だ。

 イリヤスフィールはバーサーカーを下がらせ、リツカの黄金色の瞳を覗き込んだ。

 

 「あなたは全てがおかしいの。

 令呪があって、サーヴァントがいる。そう、まるでマスターのように。

 あなたの異常性は複数のサーヴァントを呼び寄せられること。そして、サーヴァントを全員、完璧に制御していることよ。

 そんなこと、どんなに膨大な魔力を持ってたとしても理論的に不可能だわ。

 それに、私はわかる。これでも、私は聖杯よ。」

 

 イリヤスフィールはすう、と息を吸った。

 

 「()()()()()()()()()()()()()()

 少なくとも、 聖杯(わたし)に呼ばれた、聖杯戦争のサーヴァントじゃない。

 あなたは、一体何者なの?」

 

 どくりと、心臓がなる。

 

 『令呪もないのに口だけは随分と大きいのね。』

 

 遠坂の言葉がフラッシュバックする。僕の体には令呪がない。

 でも、リツカは僕のサーヴァントという。今、リツカの語ることは全て真実だというのなら……。

 リツカは笑った。

 

 「“今の”わたしは、間桐慎二のサーヴァントだよ。」

 

 今朝、リツカが言った言葉と同じだった。しかし、今朝とは違いその言葉には続きがある。

 

 「でも、英霊でも反英霊でもない。そういう点では、サーヴァントとは言えない。

 そもそも、わたしはまだ“死んでない”。」

 「なら、どうしてあなたからサーヴァント反応がするの?」

 「それは、わたしの幻術さ。」

 

 マーリンがにこやかに笑った。

 

 「私は簡単に言うと()()()。2017年を生きる、13年後の人間。

 ……ひょんなことから世界を救う大役を任された、人理継続保障機関、フィニス・カルデアのマスターだよ。」

 

 それは、今までリツカに言われていたことと全く同じ言葉だった。

 経歴に偽りなく。ただ一つの乖離もなかった。

 僕が、信じようとしなかった一つの真実を除いて。

 

 「私は、英霊(サーヴァント)じゃない。

 私の目的は聖杯戦争の停止と大聖杯の破壊で、そのためにサーヴァントと偽ってあなたたちの前に現れた。」

 

 リツカの言葉は僕の脳を揺さぶる。

 

 「()()()()()()()。」

 

 その言葉は、酷く残酷な真実だった。

 

 ■■■

 

 「ずっと騙してごめんなさい。」

 

 イリヤスフィールとの同盟が終結し、メディアは帰宅してから直ぐのことだ。

  リツカが僕に謝罪した。なんの謝罪かわからない。リツカが僕を騙していたことはあっただろうか。いいや、なかった。

 勝手に僕が勘違いして、勝手に彼女の自由を奪い、勝手に最強のマスターになった気でいただけだ。

 

 「……寝る。」

 

 律儀に頭を下げるリツカを一瞥して、これ以上惨めになりたくなくて部屋に帰る。

 暗い部屋に、月明かりが差し込む。

 間桐の邸にある僕の部屋よりずっと狭く、ものも少ない。

 なのにこれ以上安心する理由なんて単純だ。薄暗い部屋の中の中、鏡に映る僕が嗤う。

 

 『いい夢は観れた?』

 

 ああ、観れたさ!最高のがね!

 だけど目覚めは最悪だ!

 リツカが僕のサーヴァントという理由も、一宿一飯の恩を返すようなものなのだろう。

 

 「(僕は、マスターじゃない。)」

 

 魔術回路もない。令呪もない。ならば、僕が決死の覚悟で挑んだあの日の英霊召喚はなんだったんだ。なんて無意味で、無価値で、無様なことか。

 

 「あああああ!!!」

 

 何もない手の甲が憎くて、ガンと机に叩きつけた。

 

 「(なんで僕の手に令呪がない!

 僕は間桐慎二だぞ! 間桐の血を引く僕がどうして選ばれないんだよ! 

 聖杯の目は節穴か⁉︎ 節穴だったな! 汚染されてるんだからな!!)」

 

 ただ痛みを覚えるだけの自傷行為。それでも、止めることができない。

 

 『あなたがマスターになれるわけがない。』

 

 遠坂の幻影が僕の前に現れる。そして冷たい瞳で嗤うのだ。ほら見たことか、と。

 

 『……ごめんなさい、兄さん。』

 

 桜が僕を見る。僕を、哀れんでいる。桜の分際で! 僕を!!!

 

 「くそ、くそ、くそっ、くそっ!!!」

 「慎二!」

 

 リツカがノックもなしに部屋に入ってくる。狂ったように(いや、もうとっくの昔から狂っているのかもしれないな。)机の角に手の甲を打ち付ける僕を見て、リツカは僕の名を呼んで静止を促す。止まった僕の右手を、リツカの両手が包み込む。リツカの右手に宿る令呪が、暗闇の中でよく見えた。

 

 「(ーーーーなんで。)」

 「ばか、何やってんの!?

 痣できてるし、血も出てるじゃん!」

 「黙れ!」

 

 リツカは純粋に僕を心配しているのだろうーーー本当に?

 リツカの目は、どんな目をしてる? 

 

 「(目を見れない。)」

 

 哀れみ。蔑み。失望。軽蔑。

 僕に向けられる目はいつだって、厳しく冷たかった。

 遠坂然り、桜然り。お爺様の目はいつだって失望と無関心しか写っていなかった。

 こいつも、同じだ。

 僕を見下し、憐れむあいつらと同じだ!

 

 「僕を見るな、見るな!

 もういいだろ、どっか行けよ!」

 「はぁ!? 今この状況で何言ってんのバカ!」

 

 リツカが声を荒らげるのは今日だけで2回目だった。聞くに耐えない怒声なのに、何故か腹の奥がそれを望んでいる。

 

 「そりゃ、慎二が怒るのは当たり前だよ。騙してたんだから。

 その点に関して、私は言い訳なんかしない。

 でもそれとこれは別でしょ!

 私が慎二を心配するのはそんなにダメなこと?

 今私がどっか行ったら、慎二はまた机殴るんでしょ!」

 

 リツカは至極まじめに怒っていた。僕が心配なのだと言って怒る。

 今も、カルデアの礼装を起動して回復魔術を使うつもりだろう。

 分かるさ、お前の単純な思考回路なんて。

 

 「……お前の、その態度がムカつくんだよ!」

 

 リツカと手を振りほどき、何もない右手の甲を見せつけ、宣言する。

 机に打ち付けていたせいで、痣が三つできた。令呪とは絶対に言えない無意味にもほどがある痣を見せつけた。

 僕の無様を晒す行為だ。やめろ、と理性的な僕は言う。でも、止まれない。

 

 「令呪をもって命ずる、僕の命令に絶対服従しろ!」

 

 意味もない、無価値で、無様な行為だ。

 意味もない、無価値で、無様な命令だ。

 これは令呪じゃない。これを僕は令呪だと認めない。

 故に、リツカは僕に従う道理もないし、従うなんて思ってもない。

 

 「いいよ、()()()()。」

 

 仕方ないなぁ、と言うように。リツカは笑った。

 

 「よっぽどの命令じゃない限り、私は絶対に慎二の、マスターのいうことを聞くよ。」

 「お前のいうことなんて、信じられるか! 」

 

 そうだ、そんなの、信じられるわけがない。

 令呪という絶対的なつながりもないのに、どうして人を信じられると簡単に言えるのだろう。

 

 「あー。じゃあどうすればいいの? 」

 

 頑な僕に、呆れたようにため息をついた。リツカはなげやりに言う。

 

 「清姫呼べばいい? 嘘発見器できるよ。」

 

 そう言った直後、扉から顔を出して「きよちゃーん」と清姫を呼んだ。

 

 「はい、お呼びですか? 」

 

 すぐに清姫は現れた。引くぐらい早く。ぬるりと現れた。

 そんな清姫に一切の動揺を表さず、むしろ慣れたように話しかけた。

 

 「うん。ちょっと今から私が言うこと、嘘か本当か判断してほしい。」

 「はぁ……まぁいいですけれど。」

 

 清姫は僕を呆れたように見つめた。

 

 「何をごねているのかわかりませんが、旦那様は嘘をつきませんわよ? 」

 

 嘘をつかない人間なんていない。

 清姫が嘘をつかないと言うのは信じるさ。だが、それとリツカを信じるかは別だ。

 

 「じゃーまず、私は慎二を信じてる。」

 「本当です。」

 

 どうしてそんなあっさりと言えるんだ。

 

 「慎二を尊敬してるし、憧れてもいる。」

 「本当です。」

 

 僕どこに憧れたんだ。

 

 「慎二を信頼してるから、命令なら私の許容範囲内ならなんでもきくよ。」

 「嘘だ、全部嘘だ。」

 

 清姫が「本当です。」と言う前に、僕は両手で耳を塞いで否定した。

 否定するしかできない。

 

 「慎二はさ、頭いいのにバカだよね。」

 

 リツカがもったいないなぁ。なんて僕の気も知らずに言う。

 

 「ゴミ箱に捨てられてたテスト全部百点だし。私テストなんて毎回平均点だったよ。

 あと、トロフィーとかもすごかったよね。弓道だっけ。私も弓は一応使えるけど、慎二の方が命中率高いよ絶対。

 才能あると思う。

 だけど、才能だけじゃないよ。

 なんでも一番になるって言うのは、才能だけでどうにかできるものじゃない。

 やっぱり、結局、努力の成果なんだよ。才能にかまけてるだけじゃ上に上がれないからね。

 つまり、毎回一位の慎二の努力は並大抵のものじゃないんだ。

 慎二は誇っていいんだよ。

 全部、慎二がすごい頑張った証拠なんだよ。

 だから、卑屈にならないでよ。私は慎二を尊敬してるよ。」

 

 リツカの眼差しが真っ直ぐすぎて、その視線から逃げたかった。

 多分だけど、リツカの目には魔力がある。魔眼かもしれない。

 だって、あんな、心を見透かすような。

 自分でも自覚していなかった、本当に欲しい言葉を使って僕を切り崩していく。

 そうだよ、僕、頑張ってるんだ。

 努力したよ。練習したんだ。勉強したんだ。

 でも、認めてもらえないんだ、それじゃあ。

 

 「嘘だ。そんなの、嘘だ。」

 「はぁ。旦那様は嘘などつきませんわ。 今までの全部本当です。」

 

 それじゃあ、本当にリツカは僕に従うというのか。魔術師じゃない僕に。

 魔術師の家系に生まれながら、魔術師になれない無価値な僕を。

 本当に、信頼すると言うのか。信用すると言うのか。

 尊敬してると本気で言うのか。

 こんな僕を、信じて、認めてくれる?

 令呪もないのに。僕をいつでも裏切れるくせに。

 好き好んで、僕の下にいるというのか。

 

 「……ざ、けるな。」

 

 そんなこと、誰が望んだ!

 同情なんていらない、僕を憐れむな。僕は、可哀想なんかじゃない!!

 むき出しになった要求が止まらなくて、苦しい。自己矛盾で死にそうだ。

 もっと褒めて。もっと認めて。もっと言葉を尽くして欲しい。

 魔術師になれない僕でも、愛して欲しい。

 ずっと目を閉じていた。目を逸らしてきた。

 令呪が欲しかった理由が、あまりにも幼稚で。それを認めたら僕ではなくなってしまう。

 

  「慎二。我慢しなくていいんだよ。」

 「は、知ったような口を利くな。」

 

 さっきまでなら振り払えたその手を、もう振り解けるわけがない。

 清姫が嘘をつくわけがない。清姫という英霊のあり方が歪むからだ。故に、嘘を憎む彼女は嘘をつけない。

 もし清姫が嘘をついたとすれば、霊基に綻びが生じる。サーヴァントとは、どんなに有名だろうが、否、有名であればあるほど型にはめられた影法師として現れる。

 

 「言わせてもらうけどさ。」

 

 ぐずぐずに溶けそうな心の壁を立て直す。もはや、瓦礫でできたバリケードだけど。それでもないよりましだから。

 

 「ふざけるなよ、リツカ! 」

 「今の流れでそれ言う!? 」

 

 リツカがオーバーリアクションで「えぇぇえ!!」と叫んだ。

 

 「お前、全面的にわけわかんないんだよ!」

 「どこが!? 」

 「僕のサーヴァントじゃないくせに、信じるとか言うなよ! 」

 「だから、今の私はちゃんと慎二のサーヴァントだってば!

 てか本音ぶっちゃけるけど慎二のサーヴァントとして無理やり乱入しないと、聖杯戦争止められないじゃん。」

 

 僕の叫びを聞いてなお、飄々とそんなことをのたまい、挙句には「利害の一致ってことで納得してよ。」とリツカは言う。何が利害の一致だ。全然釣り合ってないじゃないか。

 

 「令呪もない、魔術回路もない!

 魔術師でもない!

 僕には何もない! 家を出たから金だってない!

 お前も、僕を哀れんで情けをかけてるんだろう!」

 「は? お金に関しては初日に言ったよね?

 私がどんだけバイトしてるか知ってる??

 地味に喫茶店だけじゃないんだよ? 

 てかお金のこと言うなら慎二もバイトしなよ。

 それに、もしも慎二を哀れんでるならもっと優しい言葉かける。

 て言うか、慎二は自分のこと可哀想って思ってるの?」

 「そんなこと思ってるわけないだろ!」

 「じゃあ慎二は可哀想でもなんでもないじゃん!」

 「ああ、そうだな!!」

 

 八つ当たりだった。意味のわからない怒り方だと我ながら思う。

 今まで、言えなかった感情や言葉が洪水のように溢れて止まらない。

 

 「僕は魔術師になるんだ!

 魔術師になって、みんなに僕を認めさせる!

 僕を見下すな!僕を笑うな!!」

 「私最初から笑ってないじゃん!

 慎二よりポンコツな自覚あるのに見下すとかないからね、まじで。」

 「僕は、僕は、僕は……!! 」

 

 言葉が出てこない。ぐるぐると感情は体の中を駆け巡るのに、言葉が出てこない。

 リツカの気配がすぐそばにあった。

 

 「あーはいはい。別に笑わないから。笑ったりなんかしないよ、慎二。」

 

 柔らかい肉の感触。ポンポンと背中を優しく叩かれた。幼子がされるように。手のひらの温度はリツカが生者である何よりの証だ。

 

 「頑張ったね。辛かったね。

 私はあなたが優しい人だって知ってるよ。

 あなたが優秀だってことも知ってる。

 それを帳消しにするぐらい横暴で傲慢でプライドがエベレスト級で金銭感覚崩壊してて掃除もできなきゃ料理もできない生活力皆無で……」

 

 背中を撫でながら、あーだこーだと僕の悪い点を挙げ連ねるリツカに、燃え盛っていた感情が冷えた。というか、覚めた。

 

 「それ、なんも褒めてないからな。」

 

 ボロクソに欠点を並べるリツカに「こいつ本当は僕のこときらいだろ。」と内心毒づく。

 

「まあ、不満はいっぱいあるけど。私は慎二の嫌なとこ見ても一緒にいようと思うぐらいには、慎二が好きだよ。」

 

 リツカは恥ずかしいことをさらりという。冷めた熱がぶり返し、顔が熱い。

 

 「ふーん。」

 「慎二は言い方はひねくれているけど、正論しか言わないところに好感が持てるよ。

 今朝も、ぶっちゃけ慎二の方が正しかった。怒鳴ってごめん。」

 「そうだよ。お前は無鉄砲すぎるんだ。

 僕が監視してやらないと自滅だな。」

 「うんうん。でも今までの経験上、奇襲が一番いい戦略なんだよなぁー。」

 「正攻法がいい時もあるだろう。」

 「だから、そういうのは慎二に任せるよ。

 私は慎二を信じるから。

 誰がなんと言おうと、私たちのあり方(かたち)が他とは違っていても、あなたは『私』の最初で最後のマスターだから。」

 

 にこりと、僕の顔を覗き込んでリツカは笑った。

 

 「私、人を見る目だけには自信あるんだ!」

 

 ここまで、言われたら仕方がない。こんなに僕を必要としてるんだから、協力してあげるのもやぶさかではない。

 

 「その言葉、信じてあげてもいいよ。」

 

 リツカは「もう一声!」なんてヤジを飛ばす。こいつ、こう言う時の空気の読めなさは異常だろ。

 

 「だから!

 僕もリツカを信じるって言ってんだよ! 」

 

 顔が熱い。首から上は全部熱く感じた。

 

 「うん、私も信じてる! 」

 「あー、もう!!」

 ぎゅう、と背中に回された腕がきつくなった。リツカの心臓の音が聞こえる。他人の心臓の音を好き好んで聞くなんて、今まで考えたこともなかった。

 でも、まあ。こいつからの信頼は悪くないな。

 

 

 

 これはあくまで蛇足だけど。

 数分後、空気を読んで退出していた清姫が抱き合う僕らを見て悲鳴をあげ、僕だけが鉄拳制裁された件に関しては僕はリツカを許さない。

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