Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント 作:倉之助
ー現在までの状況報告
藤丸立香(ぐだ子)
オルレアンの微小特異点の探索に向かったところ、レイシフト事故が起こり2004年の冬木の地に落下した。
落下地点がちょうど間桐慎二が英霊召喚を行っていた魔法陣の上だったため、サーヴァントに勘違いされる。
その後、冬木の聖杯が泥に犯されておりサーヴァントが1騎でも脱落すると、聖杯の中のこの世全ての悪が世界を飲み込み人類は滅亡するというカルデアの仮説に従い第五次聖杯戦争の停止を目指す。
参加資格を持たない上に、ねじ込めたとしても一般枠の魔術師では発言力が足りないと考え、マーリンの英雄作成によって英霊に偽装。
慎二にはマスターという虚偽のクラスを、他のサーヴァントにはルーラーのクラスを偽称する。
間桐慎二
魔術師を諦めきれず、聖杯戦争に出場して勝ち抜けば間桐臓硯に後継者として認められると考え英霊召喚を行う。
当然召喚できなかったのだがタイミングよくレイシフトしてきたぐだ子が魔法陣の上に落ちてきたため成功したと思い込む。
サーヴァントを召喚したにもかかわらず令呪を得ていないことや、聖杯から情報を得られていない様子のぐだ子など不信な点に気がついているが、無意識的に目をそらしていた。
現在事実を知って苦悩中。
間桐の家から脱出するために間桐のコネを使いまくり、自らの陣地として家(かなり大きい)を買いそれに移り住む。
セイバー…アルトリア・ペンドラゴン
ルーラーを名乗るぐだ子に不信感を抱く。
聖杯に異常があると認められないが…?
アーチャー…エミヤ
ぐだ子にラタトゥイユのレシピを教える。
キャスター…クーフーリン
槍を持っていないため衛宮士郎を撲殺するも失敗。
バーサーカー…ヘラクレス
ライダー…イアソン&メディアリリィ[オケアノス]
ぐだ子と仮契約した。聖杯戦争停戦の協力者。
ランサー…??
アサシン…??
今回はバトルパートです
頑張ってみましたがわかりづらい描写があると思うのでコメントで教えてください
天使の笑顔の悪魔
無限増殖パンケーキ。夢の永久機関の名前であり、またの名を悪魔の所業と呼ぶ。
■■■
メディア・リリィは天使のように愛らしい。
柔らかな曲線を描くまろい頬のライン。幼さが残る夜空色の大きな瞳。同系色の淡いすみれ色の髪はツヤツヤで、当然のように天使の輪が現れ、歩くたびにしゃらしゃらと鈴の音がなるかのような錯覚に陥る。薔薇色の唇からは、鈴の音のような愛らしい声が飛び出る。
少年の時期も終わりを迎え始め、青年の階段に足をかけた青少年時代の女の子の、危うげな魅力。その微笑みを見たカルデアのロリコン代表黒髭は満足そうに昇天したほとだ。(が、ゴキブリのようにしぶとく生き返った。)
だが、そんな彼女の本質は正しく悪魔。無邪気な鬼、無自覚な悪魔と言うべきか。外見の愛らしさも相まり、サイコパスじみた中身が強調されるのだ。
さて、なぜこの話をしたかと言うと、現在目の前でメディア・リリィの悪魔的本質を再確認する事態が起きているからである。
「“マスター”さん、パンケーキを作りましょう!」
時刻は午前9時5分。夜の長い今の季節でも十分すぎるぐらい朝である。
なぜに、この少女が我が家に来たのかは何と無く想像はつく。彼女の慕う総一郎様こと葛木総一郎が我が家の主、間桐慎二の通う穂郡原高校につとめる教員であり、この時間には既に通勤してしまったのだろう。もしくは、学校まで
今まではこの間に新都に赴き死なない程度の魂喰いをしてたらしいのだが(本人の自己申告により発覚、言うまでもなく新都のガス漏れ事件の犯人である)、私との契約によりその必要もなくなり。早くも退屈になったメディアが暇つぶしの相手として私を選んだのも少しは納得できる。なお、私をマスターと呼ぶのは例の宗一郎様はあくまで『夫』であり、夫婦の間に主従はいらないということらしい。
が、それはそれ、これはこれ。
ぴょこん!と飛び跳ねて主張するメディアリリィに、私は軽く目眩がした。
思い出すのは、カルデアでの惨劇。無限に食べれるパンケーキのために引き起こったとある魔人柱の悲劇。パンケーキ大好きなバニヤン以外の面々が絶句して青ざめる恐ろしい事件だ。ナーサリーとジャックまで言葉を失っていたのだから相当だろう。(バニヤンちゃんはきっと狂化の補正があったから食べられたんだ、そうだろうそうに違いない。)
犠牲になった某パンケーキ魔神柱ことハーゲンティーに黙祷を捧げた。
なお、メディア(リリィ)とついでにメディア(大人)に対する認識も変わったおそるべき事件である。 メディアリリィの料理はトラウマものだと一部(全数)に定評がある。
「ぱ、パンケーキ?」
うわずった声は震えている。脳内でマシュが「に、逃げて、先輩〜!」と声を上げた。脳内ロマニが「危険だ! 君がそんな冒険をする必要はないだろう!」と叫ぶ。脳内ダヴィンチちゃんは「これもまた経験ってやつさ☆」と他人事を楽しんでいる。
脳内私は某鉄人のようにサムズアップしながら「大丈夫、生きて帰ってくるよ…」と力なく笑った。マシュはこんな時まで健気に私を支えてくれる。天使だ。
そも、事の始まりはやっぱりリリィの一言だった。
「実は、宗一郎様は最近お疲れみたいでして。それに、イアソン様は宗一郎様を避けているんです。」
へにょ、と眉毛を下げて言う彼女だが、落ち込んでいる気配は一切ない。あくまでモーションである。
そこにサイコパスみを感じた私はSAN値チェックが必要なのだろうか。ちなみに、イアソンはメディアから長時間離れられないのでクソ寒いにもかかわらずベランダで外を眺めている。その哀愁漂う背中を見ていられず、視線を外した。
「そう、だからこそのパンケーキです!仲良くなるにはパンケーキ、仲直りもパンケーキ、困った時にはパンケーキ、何かなくてもパンケーキです!」
ぱっと顔を上げたリリィは、キラキラとしたはじける笑顔。対照的に、私は引きつり笑いだ。怒涛のパンケーキ推しに圧倒された。
「へ、へえ、そっかぁ。」
「これがダメなら、イアソン様にペインブレイカーを打ち込んで記憶という記憶を抹消し、新たに私と宗一郎様の
ふんす、と鼻息を荒くして宣言するメディアリリィ。副音声までバッチリ聞こえてしまった私は頭をかかえて唸り声を上げるしかできない。
しかもちゃっかり自分とイアソンの
触れたら大火傷しそうな超特急少女に呆れつつ、はりつく喉の奥から無理やり言葉を放り出した。
「…また魔神柱を材料にするの?流石にここに魔神柱は召喚できないよ?」
もしかしたら魔神柱がいるかもしれないのだが、まだ発見には至っていないのでここは煙に巻く。
諦めろという気持ち(とても切実)をオブラートに包んだ言葉はメディアリリィに届かなかったようで、キョトンと首を傾げた。
「何を言っているのですかマスター、もっといい材料があるじゃないですか。」
メディアリリィはニコニコ笑っている。どうしようもなく嫌な予感がする。
この場にメディア(大人)がいれば軌道修正できたかもしれないが、残念ながら彼女は現在ここにいないので仕方がない。現実逃避に走る私をよそに、メディアリリィはむふー、と得意げに笑った。
「あの、ラフムなるものを代用します! 」
たしかに奴らも分裂能力を持ってるねー。うん、魔神柱よりも冒涜的だ。
ハーゲンティの悲劇が脳内をよぎる。ごめんね、イアソン。私は天使の笑顔で悪魔のような提案をする少女を止められない。
「さーて!ラフム狩りですよー!」と楽しそうなメディアリリィ。今この場にいるのは私と清姫だけ。
「私も協力いたしますわ。」
当の清姫は割と乗り気だ。昨夜の雪辱を晴らすとでも言いたげに拳をごきごき上品に鳴らす。
「まあ、バイト終わってからね。」
思わず苦笑いが出てしまったのは仕方がないことだろう。私の解答にメディアはニコニコわらって、清姫は「一匹残らず殲滅しますわ。」と顔に暗い陰を落とす。
窓の向こうに見える穂群原高校の校舎を眺めた。
昨日のことがあって、ほんの少し慎二が心配だった。一晩にして慎二の信じていたものが全て壊れたのだ。図太そうに見えて繊細な慎二だ。彼の心が壊れることを私は一番心配していた。
だが、今朝起きてきた慎二はケロリとしていた。いつものようにロビンの紅茶に文句をつけて、朝食を完食して私に嫌味を言って、ふつうにランチバックを受け取って「行ってきます」と登校した。
「マスターは彼がダメになったように見えるかい?」
マーリンがいつものように笑顔の仮面で私に聞く。
「私は、慎二のことを見誤っていたんだね。」
「ああ、人間は脆くもあるが強い。人間の感情は不安定だが、同時に神をも凌駕する強さを秘めている。
だから僕は人間が好きなんだ。」
「うん。知ってる。」
花の香りの風が吹いた。マーリンはもういない。
そのあとはというと、私は家事を一通り行っていた。その最中にメディアリリィとイアソンのライダーコンビが来訪してきて、振られた話が無限増殖パンケーキ作戦である。
コンロが爆発したり鍋が木っ端微塵になったりしたけれど、家事が終われば出勤時間にちょうどいい時間になっていた。
「じゃあ、行ってきます。」
「はい、ご健闘を祈ります。」
「あはは、そんな大げさなものじゃないって。」
メディアの返事に「そこは行ってらっしゃいでいいんだよ〜」なんて軽口を叩いて私は家を後にする。
喫茶店についたのは9時40分。私は制服に着替え、腰にカフェエプロンを巻いて客がわずか二人しかいないガラガラの店内の掃除を始めた。
ーーー
12:30分。
ちょうどお昼時で客入りがいいその時にそれは現れた。
ぞわりとするほどの淀んだ空気。
呼吸が苦しくなるほど濃い魔力と甲高い音。
「ますたぁ。」
「うん、これは……」
チカチカとカルデアの端末が点灯する。私は店長に許可を取りバックヤードに引っ込んで通信をつなげた。
『先輩! 敵性反応を確認しました! 』
「場所と敵個体数は!? 」
『場所は先輩が今いる場所から西側に向かってます!
数は不明! 』
「わかった! ありがとうマシュ!」
私はエプロンと制服を脱いだ。急いで服を着替え、清姫とともに「早退します! 」と言い捨てて走る。
「ますたぁ、私が転身しますわ! 」
「まって、清ちゃん。これからラフムと戦うんだよ、魔力は温存しよう。
私が令呪を使ってライダーを呼ぶ。」
「ですが、令呪をむやみに使うのは! 」
「どうせ一晩で回復するんだ、一画つかうのと、清姫が余計な傷を負うの、天秤にかけるまでもないね。」
召喚スクロールを展開。キン、と令呪を光らせて私の唇が詠唱を紡ぐ。
「令呪を持って命ずるーーー」
ふと、令呪の宿る右手に、白魚の手が重ねられた。
「マスターさん、令呪はこの後にとっておきましょう。」
ふわりと薄紫の絹糸が視界をかすめる。ポニーテールが揺れる後頭部。ちょこんと乗ったティアラと、妖精を連想させる愛らしいドレス。
紫と水色の色違いの手袋をはめた小さな両手で、大きな杖を握っていた。
その後ろには金色と緑の衣服を纏った少年。ゆったりとした白いシャツと、金と緑のストラはオレンジの腰布で締めている。両指を飾る金の指輪も、両腕の金のブレスレットも、成金趣味には見せない彼の派手な美しさ。
金糸から覗く緑の瞳は彼の白磁の美貌を際立たせた。不機嫌そうに伏せられた目は、どこか憂いを帯びて昏く輝く。
少女と対になって絵になる二人は、人気のない路地という日常的な景色から浮いている。
「メディア、イアソン! 」
今朝出会ったばかりの二人がそこにはいた。
「うるさいな、聞こえるから声落とせ。」
け、と唾でも吐きそうな険悪さでもって吐き捨てたイアソンはとても残念なイケメンだ。そしてなぜか私の現在のマスター()の慎二を彷彿させる。
「ふふ、わかってますよ。ラフム狩りですね!
イアソン様、パンケーキの材料が向こうからやってきてくれましたよ! 」
「俺は絶対に食べないぞ! 」
顔を真っ青にさせてブンブン首を振るイアソンに心の底から同情する。可哀想に。
イアソンが指パッチンをしてアルゴー船を呼ぶ。雲を切り裂き進む船は圧巻だ。
「さっさと乗れよ、カルデアのマスター。
この私が協力してやるんだ、ありがたく思え。」
「安心してください、隠蔽工作は既に終わってます。」
「うん!
ありがとうイアソン! 」
「うえ!?
いや、まあ、そんなことはあるがな!!」
はははと高笑いをするイアソン。
『……マスター、聞こえているかい?』
涼やかな声が、私の脳に響く。
『聞こえてるよ、エルキドゥ』
『うん、じゃあこのまま聞いてほしい。
僕は穂群原高校には行かない。今回の戦いには出ない。』
一瞬、何を言われたのかわからなかった。エルキドゥが、何で。
言葉がグルグル回る。どうして!と叫びたくなる。
『理由は、……まだ言えない。
だけど僕は“行かない方がいい”』
『……あとで、教えてくれるんだよね。』
弱々しい声だ。実際に言葉に出しているのならば、もっとみっともない声だっただろう。
『僕を信じて、マスター』
『……わかった、信じる』
エルキドゥのありがとうと言う声がどこか遠くに感じた。
揺れる心を押し込めて、前を向いた。目の前には真っ青な空。
私たちを乗せた船は真昼の空に浮いて、一直線に高校へ向かう。
距離としては短いが歩けば長い距離。数秒で到着したアルゴー船の真下に、大量のウリンディムを、ランスロット一人で相手をしていた。
そのそばに慎二はいない。どっと、嫌な汗が吹き出る。
「清姫! 」
「はーい♡」
清姫がアルゴー船から身を乗り出して、真下に向かって清姫がふう、と息を吐く。
控えめではないサイズの火球が、派手に魔獣の群れを燃やした。
私は船の手すりに足をかけて、足に力を込める。
「まてまてまて! お前何している!」
「だって! シンジを探さなきゃ! 」
だが、腕を後ろに引かれて飛び降りは叶わなかった。私はすぐに体勢を立て直して再び手すりに手を伸ばす。
しかしイアソンの手を振り解けずにあと数ミリが届かない。
「無闇に動いても無駄な時間を過ごすだけだ! 」
「っ清姫! 」
「その方の言う通りです。下の掃除は私が。」
ひらりと清姫が飛び降りる。私は何も言えずに唇を噛んで、キッと元凶を睨んだ。
「手を離して! 」
「冷静になれ! 」
清姫に続いて飛び降りようとした私を、イアソンが羽交い締めにしてまで引き止める。
「お前は人間なんだ。サーヴァントじゃない、死人じゃない。生きている。
生きているから、死ぬんだ。ここから飛び降りたら。
幾ら強化魔術で身体強化をしていようが、それは変わらない。」
言い聞かせるような穏やかな声。
でも!と声を上げたその時、ワイバーンの群れが見えた。口を大きく開けて、船体を砕こうと牙を剥き出す。
「邪魔だ! 」
アルゴー船の大砲が一瞬でワイバーンに標準が定まり、ドォンと豪雷が鳴り響く。さっきまでの優男然とした表情も声も、たった一瞬で切り替わって、英雄になる。
(すごい。)
イアソンはすごい。アルゴー船の船員の亡霊に果敢に指示を飛ばし、敵を確実に撃破する。誰が何で言おうが、彼は英雄だ。
ワイバーン一匹だけでなく、十数体を巻き込んだ爆撃は爆発を起こしてさらに被害を拡大させる。
ふと、沈み込むような緩やかな重力を感じた。甲板の風景もどんどん視点が下がっていく。
「錨をおろせ!」
じゃらじゃらと鎖の重い音が響く。空を漂う船は、地上から十数メートルの地点に止まった。
「……え、なんで」
イアソンはわざわざ敵がいないスペースを選んで錨を下ろして船を止めると、縄梯子を垂らす。そして、私の腕から手を離して、背中を押し飛ばす。
「ほら、好きにしなよ。」
よろけて手すりに手をつく。目の前には縄梯子が揺れていた。
弾かれたように彼を見る。金色の髪を風に遊ばせながら、不機嫌そうに鼻を鳴らしてぶっきらぼうに告げる。
「私は英雄らしく、ワイバーンの群れを退治するのに忙しい。忙しいから、『藤丸立香』を監視している暇はない。
だから、お前が何をしようが私は知らない。勝手に逃げても僕は知らない。」
シンジとかいうガキを探せばいいと、言葉の外に意味を持たせて。王の仮面を被って、英雄として振る舞うイアソンはそっぽを向いた。
「行くなら早くしろ!」
ふん、と背中を向けながら怒鳴るイアソン。金の髪が日の光に透けて、とても綺麗だ。
ああ、ああ!
「ありがとう! 」
私は
「!! 」
私は、イアソンが開けてくれた道を走った。
途中で出会った魔獣は、九字兼定で首を切り落とした。ノコギリで肉塊を切ったような不細工な切り口。跳ね飛ばされた首を見て、私は唇を噛んだ。
マーリンの英雄作成のお陰で今の私はエネミーと戦える。
でも、全部決め手にかける。綺麗とはお世辞にも言えないギザギザの断面に、苦い気持ちになった。
仕方ない、私が覚えてきたのは殺すための武術じゃなくて、逃げ切り、生き残る為の武術だ。
剣術も、槍術も、射撃術だってそう。ある程度身を守れる程度に強くなれば次のことを覚えた。
実際、この戦い方に救われたことも多い。でも、この戦い方が英雄的でないことも理解している。
イアソンの言う通りだ。私はサーヴァントじゃないし、その器もない。そんなの、自分が一番わかってる。
私は、英雄なんかじゃない。英雄にはなれない。
私ができるのは英雄たちがより強く、より勇しく、より自由に、より美しく戦うための補助要員。サポーターにしかなれない。
後方支援の私は身の程を弁えて、どうしようもない時だけ武器を持つだけでいい。そう、みんなに教えられたし、私も納得していた筈だ。
だけど、私は不相応に英霊のフリして戦っている。ベティヴィエールにできたからなんて烏滸がましい。
ベティヴィエールは最初から英雄の下地があって、彼は最初から強かった。
だけど、私はどうだ。強化魔術でドーピングをしているだけに過ぎないジャンキーだ。
英雄願望なんて持ってはいけない筈だった。
英雄願望なんて持って仕舞えば、私は今までの道のりもこれからの道のりも全て否定する。
私が平凡で普通の人間だったから、ここまでこれたんだ。
「はぁ! 」
盾を展開する。弾かれた魔獣に私は鉛の雨を浴びせてようやく絶命させた。
そうだよ、私はマシュのようには戦えない。
だから、私はマシュを尊敬する。彼女の強さと勇気を敬愛する。
私は、いつも守ってもらってばかりで誰も守れたことはない。
「やぁ! 」
だけど、慎二は言ったのだ。私を弱くても英雄だと言ってくれた。僕のサーヴァントだと、笑ってくれた。
だから、私は彼を守りたくなった。いつもみんなにそうしてもらっているように、私が彼を守りたいと願った。
なんやかんやと駄々をこねて、臆病なくせに高慢で、被害妄想が激しくて、自信がないから、誰かの何かを欲しがって。
真実を知った今でも、私を『僕のサーヴァント 』と色々な感情がごちゃごちゃになった変な顔で語る。
嬉しかったんだ、私の身に余る憧憬が。私がカルデアのサーヴァントたちに向けるその瞳が、私がマシュを見る時の目の輝きが。
全幅の信頼に、答えないといけないと思った。だから…
「だから、頑張らないといけないの! 」
九児兼定は礼装に戻して、クー・フーリンからもらった緑槍を振り回して校舎を駆ける。
一度決めた覚悟は違えない。私は慎二を裏切らない。
「慎二! 慎二!!」
どこだ、どこに慎二がいる。
肺が痛い。呼吸が苦しい。本当は走るのやめて歩きたいし、体の痛みに泣き言を言いたい。
(だけど、やるって決めたから。)
体があつくて、くらくらする。それでも、走る。走るのをやめたら、もう立ち上がれない気がしたから。
ーーー甘い香りがふわりと香る。
「…!」
体がぐんとどこかに引っ張られているのを感じた。
「……いる!」
呼ばれている。シンジに呼ばれている。わからないけど、そんな気がした。
私は窓から外に這い出て、壁を渡る。足場は苦無を壁にさしてつくり、引き寄せられる方向に向けて歩みを進める。
「ここだ! 」
窓ガラスを蹴り破り、中に侵入すると真っ先に見えたのは一際大きなウリディンムに襲われる慎二で、私はつい、頭が熱くなる。
気がついたら魔獣が死んでいて、目の前に尻餅をついて倒れる慎二がいた。