Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント 作:倉之助
三日月夜
おかしい。なぜ私は高度数千メートルはあると思われる空高くから自由落下しているのだろう。びゅうびゅうと肌を撫でる風は殺人的な勢いで私を攻撃している。
私は、今日レイシフトした。確かにした。でもそれは、ちょっとした微小特異点の解決のためで、さらに言えばオルレアン。中世のフランスだ。現代の街並みが真下(物理)に広がるわけがない。
「(やばいやばいやばいやばい)
令呪をもって、めいじる…!だれか、たすけて…!!」
しん、と何も反応のない令呪に疑問を抱き手の甲を見ると、令呪があるはずの右手の甲はただの手だ。つまり、令呪がない。
「(そういえば昨日使い切っちゃったんだった!!)」
昨日は、予想外のエネミーに出会い、令呪をうっかり三画使ってしまったことを今更思い出す。なぜ令呪が回復してから来なかったと言われるだろうけどこちらにも言い分はある。令呪を使い切ったから再臨素材を回収しようと思ったんだよ!!!不純でごめんなさい!!!川田さんの言うこと聞いておくべきだった!
だが、そうはいっていられない。状況は最悪だ。このままだと墜落死する。
一瞬、右腕が輝いた。輝いたというより、なにかが月光を反射して光った。
「(…!!)」
ぴこん、と閃いた。思い出した。そういえば、使うことが躊躇われるアレな自衛武器を貰っていたことを。
レイシフト直前にもらった腕輪の性能は疑うまでもない。これを作った理由もレイシフト事故でみんなとはぐれたり、スカイダイビングしたり、突然エネミーに襲われたりと散々な目にあっている私を守るためだ。
(おそらく、開発部の趣味も全開に炸裂していると思われるが。)生き延びることを目的に作られたのだから、今この状況でもきっとどうにか乗り切れそう。
ムニエルはキメラの攻撃だって余裕だと、太鼓判を押していた。サーヴァントと連絡取れなくて危険な状況に陥るかもしれないからその時に使えとも言っていた。ねえ、ムニエル、フラグだよ。
ダヴィンチちゃんと開発部が私の身を守るためにくれたアイテム…それは少年の心をくすぐる可愛さゼロのごつい腕輪(アクセサリー的なものじゃない。ブレスレットなんてかわいいものじゃない。)であり、特定のキーワードを口にすると機械による物理的な盾と、刻み込まれた防御結界が展開するんだったっけ…?詳しいことは忘れた。でも、もうこれしか方法がないのでは??
「…っ、F.Cフィールド、展開!!」
瞬間、腕輪が光る。次の瞬間、金属の塊でしかなかった腕輪はガチャン!というオートマチックな音ともにマシュの盾をモチーフにしたであろう十字盾に変形する。そして、私が最も危惧していた某有名ロボットアニメの心の壁によく似たバリアが5枚、盾の前に発現した。
ちなみにこのキーワードの語源をダヴィンチちゃんに聞いたところ、『フィニス・カルデアフィールドの略称さ!』という情報を貰ったが、やっぱりこれ絶対著作権法違反だ。
いろんなアニメから要所要所パクっている気がしてならない。
気がついたら民家(というかお屋敷)の屋根が目の前に迫っていた。
「(しぬ…やばいまじで死ぬ…!!)」
衝撃に備え、歯をくいしばり、ぎゅっと目を瞑る。パリンパリンパリンパリン!とバリアが壊れる音がその衝撃がいかほどのものかを主張していた。
なんとか停止した、と思ったのもつかの間。私が着地した瞬間、パリン、という切ない音と同時に屋根が壊れた。(私の体重のせいではないと思いたい。)
めしめしと言う音がした時から怪しいとは思ってたんだ。床に叩きつけられた際の衝撃は盾により多少緩和されたが、痛いものは痛い。
「ぐふ!?」
顔面から落ちて顎を打ちつける。ドンガラガッシャーン!となにがが割れる音や、倒れる音がいっぺんになった音が響いた。
目を開けると、そこは物置のような場所だった。よくわからないけどアーティスティックなランプ、お高価そうなテーブルや椅子。そして、目の前に青い髪の高校生ぐらいの男の子…ん??
やっぱり見間違いじゃない。男の子が、立っている。なんか魔道書っぽいものもって、いかにも黒魔術を使いましたオーラを醸し出しながら立っていた。…厨二病、という単語が私の脳裏をよぎる。
「やった…やったぞ…成功した…!!」
端整な顔からは隠しきれない喜びがにじみ出ている。自分の足元に魔法陣が描かれていることに気がついた。あ、私悪魔とかと勘違いされてる??嫌な予感がして、すぐに訂正しなくては大変なことになる予感がビンビンする。
「あ、え、えっと…」
思わず口から飛び出た困惑の声は、目の前の厨二病少年(仮)の高笑いによりかき消された。
「あ、あはは、ははははは!
なんだ、僕だって出来るじゃないか!これで僕も、聖杯戦争に参加できる!!」
「(ん、なんだって??)」
今この少年、聖杯戦争と言わなかったか?私は厨二病のあいたたた〜な少年に悪魔召喚されたのではなく、魔術師の少年に英霊召喚されたのか?まじかよ、私が英霊?一般人なんですけど?(そもそも、私がここにいるのは召喚じゃなくてレイシフト事故だ。)
まあ、これはこれでラッキーかもしれない。聖杯戦争を知っているということは、彼が魔術師だということだ。カルデアを知っている可能性が高い。それなら彼にカルデアに連絡を取ってもらい、スムーズに帰還できるかもしれない。
顔を上げると、薄暗くてよく見えないがその少年に妙な既視感を感じた。どこかで、見覚えがある気がする。どこでだろうか?思い出せそうで思い出せない。
高笑いをやめた少年は、嚙みしめようとして噛み締めてない緩んだ表情のまま私をジロジロと観察して、満足げに頷く。
「僕は間桐慎二。始まりの御三家の一角である間桐家の
少年はふんぞり返りながら高らかに語る。(次期当主というのをやたらと強調して。)
夜空の天辺には大きな月。私がぶち壊したせいで大きな穴を開けた天井からはっきり見えた。少し太った三日月だ。
月の光によって、薄暗いながらもはっきりと見えた少年…間桐慎二の顔立ちを見て、私は思い出した。だって、顔立ちがよく似ていた。かつてロンドンで出会った、マキリ・ゾォルゲンに。目の前の少年は、彼を少し幼くしたような印象を受ける。
第四特異点で出会った魔霧計画の首謀者三人のうち最後の一人、Mとして立ちはだかった魔術師。そして、魔霧計画の最初の主導者。
彼の望みは『この世全ての悪の廃絶』だった。あまねく人々の救済を望んだ彼だが、人理焼却という未来を知り抵抗するのをやめたのだとロンドンの地下迷宮で、魔霧を生み出す巨大蒸気機関アングルボダの前で語った。
そうか、この少年が“あの”マキリの子孫なのか。
「えぇ〜っと・・・とりあえず、初めまして。私は藤丸立香。人理継続保障機関フィニス・カルデアのマスターです。」
なるべく丁寧な態度で片手を差し出し、握手を求める。私のそれに答えるように、彼は鷹揚な態度で私の手をとった。
「ふぅん、礼儀はなってるんだね。」
「え、はぁ。」
挨拶もできない子どもだと思われてる?なんだか複雑な気持ちになりつつも、私は「あの、」と言葉を続ける。
「あと、申し訳ないんですが、今の…」
今の西暦は何年で今日は何月何日ですか?と続けようとした。だけど私の言葉を遮って、少年こと間桐慎二はベラベラと喋り出す。
「マスター…聞いたことない。エクストラクラスのサーヴァント?
どんな性能だか知らないけど、まあこの僕がマスターなんだ。絶対に勝利してみせる…」
私の言葉を思いっきり遮って、慎二はふんっ、と不遜に笑った。
「…はい?」
なんだか今変な単語が聞こえた気がする。え?誰が、誰のマスターだって??
「ねぇ、なんかお前のステータスが見れないんだけど。それにマスターのクラスなんて聞いたことないからそれも説明。あと宝具も。」
「え…え??」
「はぁ?聞こえないの?あ、ステータスがザコすぎて言いたくないとか?
それでもいいさ。僕は寛大だからね。広い心で受け入れてやるさ。」
まくしたてるような早口で少年は語る。彼の言葉によると、私はサーヴァントで、彼がマスターのようだ。
「えっと、まって。ちょっと混乱してる…」
手のひらを彼に向けて『ストップ』のジェスチャー。もう片方の手は痛む頭を抱えるので忙しい。
状況を整理しよう。
私はレイシフトに失敗してもう何度目かになる上空数千メートルからのフリーフォールをした。そして、ダヴィンチちゃんとカルデアの技術班の作り出した明らかに著作権に引っかかる自衛武器(めんどくさいからこれから腕輪って言おう)のおかげでなんとか生存。
落下地点には間桐慎二を名乗る少年がいて、私は彼が召喚したサーヴァントらしい。
つまり、つまりだ。
私、英霊召喚によって召喚された英霊と思われてる??
まれに、英霊召喚に失敗して雑な召喚がされることもあるらしい。いつかエミヤが遠い目をして言っていた。…あ、私、そのパターンだと勘違いされてるのか。よくよく思い出せば、あの魔法陣は英霊召喚の魔法陣だったような気もする。
…うん。とりあえず納得したものの、理解してない。(意味わかんないけど今の私の心境がまさにこれ。)
まずは、誤解を解かなくてはいけないし、何より今現在いつの時代のどこの座標に私が落ちたのかも把握しなくては。そして、最重要事項はカルデアに連絡すること。
やることを頭の中で羅列していると、しびれを切らしたマスター(仮)の間桐さんが「あーもー、なんなんなの?」とため息をついた。いや、ため息つきたいのはこっちだ。
「だーかーらー、お前は僕のサーヴァントで、聖杯戦争に参加するために、『僕が』お前を召喚したんだって何度も言ってるだろ!」
もうこれで何度めかの説明。今度は若干、いやかなり『僕が』という部分を強調していた気がする。そもそも、前提条件が間違っているせいで話が進まない。
だけど、現在この地で聖杯戦争が行われるということは把握できた。だが、それだけだ。
「あの、間桐さ」
「マスター」
食い気味の返答に顔面が引きつる。いろいろ言いたいことを飲み込んで、私は言葉を紡いだ。
「…じゃあ、マスター。ここはどこですか?日本、ですよね?
西暦は?」
そこでようやく、慎二(もうめんどくさいから慎二でいいや)がそんなことを聞きたかったのか?というように目を瞬かせた。
「ああ、なんだ。そんなこと?
そうだよ、ここは2004年の日本。冬木市、知らない?地方都市としてはそれなりに有名だと思うんだけど。
それよりもお前、本当に大丈夫?
聖杯からちゃんと知識もらえてる?」
心底面倒臭そうに(それで持って不安そうに)そう告げる間桐慎二の言葉に、私は唖然とした。
冬木市はもちろん知っている。2004年ということは、ここは特異点Fだ。炎に覆われた街。つまり、ここは聖杯戦争前の冬木ということだ。以前、第四次聖杯戦争が行われた時空に行ったこともあるが、4次の思い出はちょろすぎるランサーのマスターが印象的すぎて具体的な内容はあまり覚えていない。
……いやいやいや。そもそも私、特異点Fにレイシフトしてませんけど!?
はぁー、と内心深いため息をついて、空を仰いだ。天井に開いた穴から夜空がよく見える。月まで見える。とても見やすい。見やすくしたのは私だけど。
上弦を向いた、半月になりかけの太った三日月が私の状況を笑うように楽しそうに弧を描いていた。
「なんか勘違いしてるみたいだけど、私は…!?」
私はサーヴァントじゃないし、そもそも生きてる人間なの。そう言おうとしたけれど、結局言えなかった。私の右手の甲が、一瞬だが貫ぬくような熱さを感じたから。日付が変わった。手の甲に赤い痣が一画浮かび上がる。それとほぼ同時に令呪は使用された。
どん!という衝撃。ギシギシッと屋根が軋み、パラパラと木片が落ちる。反射的に顔をあげた。この衝撃が何か、わかったから。
“何者”かが屋根に飛び移ってきた。その人物は屋根の穴から顔を出して中を確認した。彼らしくない行動だと思うも、それだけ私を心配してくれたのだと思うと嬉しくもある。
「無事か!?」
「燕青!」
消えた令呪と、サーヴァント。なぜ、勝手に令呪が使用されたのだろうか?先ほどの命令が令呪が回復した今になって発動したとか?
まぁ、今は置いておこう。それよりも燕青だ。
燕青の美しく整った顔は必死そのもので、その目には不安と心配が色濃く浮かんでいる。どこか狂気も感じるが、それは気のせいだと思いたい。
燕青は私という存在を確かめるように肩や顔をペタペタ触ったあと、私を両腕で抱きしめ、はぁー、と息をついた。
「無事でよかった…あんたを探している間、生きてる気がしなかった。」
「うん、ごめんね。」
私の頬を両手で包み、安堵の表情で笑う燕青に申し訳なくなる。ちゃんと令呪が回復してからレイシフトすべきだった。そうしたら、彼をここまで心配させずに済んだのに。いや、彼だけではない…みんな、心配して私を探しているんだろう。
「サーヴァント!?」
マスター(仮)の慎二の、恐怖と疑問が多分に混ざった言葉が響く。それにいち早く反応した燕青は、ギロリときつい眼光で慎二を睨みつける。慎二は情け無く「ひぃ!」と短い悲鳴をあげて、尻餅をついた。
「なぁ、お前。俺のマスターになにをした?」
何がどうなってそう思ったのだ。いやしかし、燕青は私の足元に広がる魔法陣を睨みつけている。彼は慎二が私に何らかの魔術をかけたのだと思っているのだろうか?
「いや、違うんだって燕青!
マスターも説明するからちょっと待って!」
「「マスター!?」」
同じ言葉が見事に被さったが、意味合いが全然違う。
慎二の「マスター!?」は「はぁ?お前僕のサーヴァントなのになんでサーヴァントがいるんだよ!?」という意味で、
燕青の「マスター!?」は「はぁ?おいおいマスター、こいつ(慎二)がマスターのマスター(笑)とかどういうことだよ説明しろ」という意味だ。温度差が激しい。
「えっと、燕青。この人は私のマスター…の間桐慎二さん。マスター、この人は私の契約している英霊のうちの一人である燕青。アサシンのサーヴァントだよ。」
「はぁ?
マスター、そりゃどういうことだ?」
「あとで説明するから新シンさんはちょっと待ってて」
とにかく、今すべきことは目の前の彼の説得して、協力を得ることだ。この時代はいつもと勝手が違う。現代なのだ。古代ならばジャングルで狩りでもすれば生きていけたけど、現代でそれは無理だ。
私は慎二に向き直る。
「マスター、私は2017年現在、カルデアでマスターとして働いている並行世界の未来人です。」
「はぁ?」
苛立ち、今にも舌打ちをしそうな形相で私に詰め寄る慎二に、私はゴクリと唾を飲む。(背後で殺気立つ燕青に緊張したわけではない。)ここからが勝負だ。今までのレイシフトは、なんやかんやでカルデアのマスターの存在を知っている人に出会い、特異点修復までの期間はともに過ごしていた。
時代が時代なら旅人とでも名乗って野宿してもいいのだが、この現代でそれをしたらただのホームレスとして警察にしょっぴかれる。
なんとかして、カルデアに帰るまで彼にお世話にならないと…!などとゲスいことを考える私。遠い目をしてふふ、と空笑いをする。だが、私が生きてカルデアに戻るためには協力者が必要なのだと開き直った。
「今から説明するから…」
おっほん、とわざとらしい咳払いをして、私はカルデアについて頭の中で整理する。
「今から少し先の未来、人類は一度焼却される。
私の所属する人理継続保障機関カルデアは、その名の通り人類史を保障するために活動する国連機関…だったかな?
人理焼却の原因でもある、人類史における正常な時間軸から切り離されたもしもの世界…私たちが特異点と読んでいるものを修復し、人類の滅亡を防ぐことを目的に活動してきた。
特異点修復の関係上、多くのサーヴァントに協力してもらう必要があって、私は100騎以上のサーヴァントと契約をしてる。ここにいる燕青もその一人。
もちろん、カルデアから魔力バックアップを受けているから成り立つんだけどね。
燕青が私をマスターって呼ぶのはこれが理由。」
一度、私は話を区切った。説明はあっているだろうか?いつもロマ二やマシュやダヴィンチちゃんに任せっきりだったから、あっているかどうか不安だ。一気に喋りすぎて少し喉が乾く。自分の唾を飲み込んで喉を潤そうとした。さぁ、続きを語ろうとした時、またもや私の声は慎二に遮られた。
「つまり、サーヴァントを使役する英霊ってこと?だからクラスがマスターなんだ。
あは、それって最強じゃないか!
この聖杯戦争、僕が勝ったも同然だね!」
たしかにサーヴァントを召喚するサーヴァントなんて居たら最悪だな、と私は思考を遠い空の彼方へ投げ捨てた。もう、彼の中で私=サーヴァントという方式は確立され、覆らないものみたいだ。さらに、未来人と名乗ったせいで彼は私を『未来の英霊』と捉えている節もある。まあ確かに、未来からやってきたタイムトラベラーよりも、召喚されたサーヴァントのほうが魔術的にみて現実味はあるんだろうけど。
まだ始まっていない戦争の『勝利』にはしゃぐ慎二を横目に、こっそりと燕青を見る。燕青はびっくりするほど綺麗な笑みを浮かべていた。でも、その目はぞっとするほど笑ってない。これは、あれだろうか。燕青の地雷を彼が踏み抜いてしまったのだろうか?彼は臣下の忠告を聞かない主人を嫌う。主人と臣下を慎二と私に置き換えると、まさにそれ。主人は臣下の忠告どころか話すら聞いてくれないからアウト判定は容易いだろう。
やばい。軌道を修正しなくては、私が知らない間に目の前のワカメっぽい少年が撲殺されてしまう。
「あの、あのね、マスター。私は聖杯戦争に介入するつもりは…」
「そうだ、早く拠点を移さないと!間桐家は桜の拠点になるはずだ…」
ブツブツと何かを呟きながら思考する彼に、やはり私の声は届かなかった。新シンの目がどんどん冷たくなっていく…
「お爺様に僕がサーヴァントを召喚したことがばれたら、桜のサポートに回されるに決まってる…くそ、桜のやつ…!
桜が英霊召喚をやるのはまだ先のことだし…それまでに用意できるか?
マスターがサーヴァントを召喚するためにも、拠点は龍脈の上にあることが必須か…」
ブツブツと呟き続ける慎二は、もう私の話なんて聞こえちゃいなかった。でも、なんとなく背景がわかってきた気がする。
おそらく、彼は間桐の家の次男とかで、桜と言う名の正式な後継者が他にいるんだろう。
それで、後継者に選ばれるために聖杯戦争を勝ち抜き、当主の座に収まりたい…と、言ったところだろうか。簡単に言うと、後継者争い。私にはよくわからないが、魔術師の家はそう言うことがよくあるらしいし。私にはよくわかんないけど!!
「マスター、キャスターの英霊は召喚できるか?間桐の持ってる物件の中で一番いい奴を選ぶぞ!」
「召喚できるけど、えぇ…」
彼はやたらハイテンションで私に言った。もはや騙したように感じるが、これで衣食住は保証してもらえるだろう。でも、これは私の話を聞かない慎二が悪いのであって、私がどこぞの人でなしのごとく騙したわけではないと信じたい。
「やるねぇマスター。話術だけでいい金ヅルを手に入れるとは。」
こっそりと、燕青が楽しそうな声で囁いた。私は小声で「うるさい」とだけ言って、目をそらす。私はヒモじゃない。
とりあえず、今はごめんなさいと心の中で謝り倒すことしかできない。
「あのさ、マスター…キャスターなんだけどね、すでに冬木のどこかに私の連れてきたキャスターがいると思うんだ。」
嘘ではない。一緒にレイシフトしてきたので、嘘ではない!!
「ここにいる燕青みたいに、私は六騎のサーヴァントとここに来たんだ。途中で事故ってバラバラになっちゃったけど。」
「悪かったな、僕の召喚が雑で。」
「いや、そうじゃなくて…うん、もういいや、それで。」
眉間にしわを寄せて、不貞腐れる慎二に投げやり気味に返答すると、燕青が「もうこいつ殺してもいいか?」と問いかけるような目で私を見つめていた。それを首を横に振ることで全力で否定する。
「それで、私はキャスターにマーリンを連れて来ていたの。」
私の言葉に、慎二はピクリと右眉を吊り上げた。
「マーリン?マーリンって、まさかとは思うけどアーサー王伝説に登場する宮廷魔術師のこと?」
「あ、知ってるんだ。」
私がへぇ、と言うぐらい軽く返すと、慎二は信じられないと言うように目を丸くした。
「はぁー!?マーリンはまだ死んでないだろ!?
どうやってサーヴァントにするんだよ!」
あり得ないだろ!といいながら私に食ってかかる慎二に、「詳しいんだなぁ」と感心する。
「まぁ、私が召喚した時は世界は滅亡していたわけだからね。不可能が可能だった、みたいな?」
「ふーん」
自分から聞いておきながら、適当すぎるその返答にびきり、と笑顔が固まる。だめだ、怒っちゃだめだ、私。
「それで、まずはマーリンを含めた5騎のサーヴァントを回収したいなー、って思ってるんだけど…」
「…居場所、わからないの?」
「そうなんだよね…」
魔力感知すらできない素人なもんで、なんて頭の中で考えながら下手くそな上目遣いでそういえば、慎二は「さっさと行くぞ!」と勢いよく立ち上がった。
「え、今から!?」
「馬鹿を言うな!聖杯戦争はまだ始まっていないが、お前の連れてきたサーヴァントを誰かに目撃されてみろ!
エクストラクラスのアドバンテージが薄れるだけじゃなく、監督役に違反行為とみなされるかもしれない!
なら、早いとこサーヴァントを回収してお前のクラスや能力を秘匿したいと思うのは当然だろ?」
「そ、そんな大げさな…」
「とにかく、探すぞ。他のマスターに見つかる前に!」
大慌てで今きている服の上(おそらく制服)にブランド物だと思われる上品なコートを羽織った慎二は、有無を言わせず私の腕を引いて外に出ようとする。そんな彼のなすがままに、私は小走りしながら引きづられていた。
「俺が探しに行こうかぁ?」
燕青はいつもの調子で微笑む。アサシンのサーヴァントだし、諜報のスキルを持っている。私たちが探すよりよほど早く見つかるだろう。
「じゃあ…」
「その必要はないよ、マスター。」
お願いしようかな、といいかけた声は遮られた。なんだか、今日は言葉を遮れてばかりだ。でも、割り込んできた声は中性的な優し声で、第一特異点からずっと私たちと共に戦ってくれたサーヴァントの声だとすぐにわかった。何かあるとすぐに頼ってしまう、優しい兵器。
声がした方を振り向けば、緑の髪の美しいランサーが笑っていた。その隣には、マーリン、清姫、ランスロット(剣)、ロビンフッドが立っていた。私が連れてきたサーヴァントが全員揃ってここにいる。
「マスターを探している間に見つけたんだ。」
「エルキドゥ!!」
さすが気配感知A++と喝采を上げた。
「ますたぁ、お会いしたかったです…!」
「私も会いたかったよ。」
甘ったるい声で抱きついてくる清姫を抱き返して、ポンポンと背中を叩く。
大げさに再会に喜ぶ清姫を慰めながら、慎二を見る。彼はとても御機嫌な顔をしていた。嫌な予感がする。私の第六感が、「こいつを黙らせろ!」と警告をあげている。
「エルキドゥって、ギルガメッシュ叙事詩に出てくるギルガメッシュ王の親友にして神が作り出した泥人形じゃないか…!サーヴァントになれたんだ。
マスター、これ全部お前のサーヴァント?」
「うん、まあ、そうなるね。」
歯切れ悪くそう言うと、慎二はふーん、と嬉しそうに口角を上げて笑った。
「お前のサーヴァントは僕のサーヴァントってことだし?
まずはここにいるサーヴァントのステータスだな。」
全方面に喧嘩売る姿勢、やめてもらえるかな??
知っていることを全て教えろ、と高圧的に慎二は言う。これ、本当にサーヴァント召喚してたら早々に裏切られて殺されるんじゃ、なん不安を覚えた。
こうして、第5次聖杯戦争に“マスタークラス(偽)”というイレギュラーすぎる(どころかそもそも参加資格を持ってない)第八の陣営が生まれた。