Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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 「とっておきの機能はどうだったかい? 」

 

 自宅に帰り、ドアを開けて一番に見えたのは白い魔術師だった。

 胡散臭い笑顔で尋ねるということは、やはりこの男の細工だったのだ。令呪が一画きえて、リツカが現れた。まるで令呪を使ったようにサーヴァントを呼び出すなんて出来るわけがない、あれは偶然だと思い込んでいたのだが。

 

 「とあるサーヴァントの宝具を参考にして作った魔術だ。

 予めマーキングしておけば、ワープもどきができるって寸法さ。」

 

 第二魔法に片足突っ込んでるけれど魔術の範囲内だ!と楽しそうに笑う。

 

 「他に黙っている機能はないの? 」

 「あるとも! 

 いっただろう、劣化版の令呪だと」

 

 マーリンは笑う。楽しくて仕方がないというように、だがそれすらも嘘なのだと思ってしまう薄っぺらな笑顔で。

 「あと二画残っている。大切に使いなさい。」

 

花のように消えた彼の言葉が、ずっと耳の奥に残っていた。

 

 

 

■■■

 

 

 「マスター、あの騎士王になにを言われたんです?」

 「()()()()()()()()()()。」

 

 私は、無理やり笑顔を作る。本当は笑えない話だったけれど、それは心の底に押し込んだ。

 

  「ねぇ、私がしてることって間違ってるかな。」

 

 部屋の隅で膝を抱える。ロビンは床でクロスボウの手入れをしている。ちらり、と一瞬視線をよこしたと思ったら再びクロスボウに視線が向き、言葉だけが残る。

 

 「マスターはあいつをどうしたいんです?」

 「…守りたいよ。」

 

 ロビンの問いかけに、言い淀みながらも答えた。

 間桐慎二を守る。世界を守るためだけじゃなく、一人の人間として守りたい。そのために、私はサーヴァントを名乗った。

 出会って数分で理解した強い魔術師コンプレックスと、その根底にある寂しい少年を見つけてしまって、私は彼の冷たい心を溶かしたいと思ってしまった。

 

 「私、なにしたいんだろ。」

 「後悔してるんです?」

 「そりゃ、ね。」

 

 嘘をつくのは良くない。清姫なら焼き殺してる。私は、慎二に嘘をついているわけじゃない。でも、わざと勘違いさせているのは嘘じゃないと言えるのだろうか。

 特異点を修復した後も私が共にいると、心のどこかで信じ続けている彼に、私は言えるのだろうか。

 特異点を修復すると私たちはカルデアに戻り、そして私たちの存在を修復とともに忘れるのだと、言い出せないままでいる。

 誰がどう見ても、慎二は私に心を許してくれている。嘘つきの私を信頼して信用している。

 それが、嬉しいのにどうしても苦しい。

 

 「ま、俺は別にいいと思うんですがね。今の状況がお互いにとって最善でしょ?

 そもそも、真実を彼が受け入れられるとは思えないですし。」

 「受け入れられる頃にネタバレすればいいってこと?」

 「そう言うことです。」

 「…いいのかな。」

 「嘘に嘘を重ねる事になってもって?それなら、最初から嘘なんかつかなければよかった。」

 「私は、嘘なんて…」

 「ついてないって?

 ま、たしかにマスターは嘘をついたわけじゃない。言わなかっただけで、勘違いしているのはあいつだ。

 でも、その勘違いであの坊ちゃんが救われるなら、今は構わないんじゃあないんですか?」

 「…。」

 

 なにも言えなくて、口を噤んだ。ロビンの言う通りだ。勘違いを正せばよかった。それを都合がいいからと黙っていたのは私だし、今更になってやっぱり、なんておかしい。道理が通らない。

 でも、慎二を知れば知るほど罪悪感に押しつぶされそうになる。マスター、と私を呼ぶ声がとても嬉しそうだから、苦しくて仕方ない。

 

 「彼に現実を受け入れろという方が酷でしょう。」

 「……偽善と言われても仕方がないことをしているのはわかっているんだ。

 私は、彼に前を向いて欲しい。もう少しで前を向いて歩き出せそうなんだ。」

 

 一人でも。とは言えなかった。

 分かり合えない人間なんていない。人は独りでは生きていけない。

 思想の違いによるすれ違いはあれど、その思想を理解し、それでもなお敵対することはあるだろうけれど。

 それを責めることはしない。敵対した事実ごと、真正面から受け止めればいつかきっと理解し合えれる。

 わかり合いたい、と思う気持ちを忘れては生けない。

 

 「私が慎二に押し付けた現実も理想も最悪なのはわかってる。

 憧れをやめて現実を見ろと言ってるようなものだしね。

 でも、魔術師に固執してそのほかの道を潰して歩く姿を黙って見ていることもできないよ。」

 

 だって彼は、魔術師以外ならなんだってなれるんだよ。

 それが何より悲しくて、そう考えてしまう私が何より最悪だ。エゴの塊。余計なお世話を嫌った私が、余計なお世話を慎二に押し付けてる。

吐き気がするほど醜悪だ、私は。

 

 「ほんと面倒くさい人だよ、アンタは。」

 

 その優しさは毒みたいですわ、とロビンが笑ってマントを広げてくれた。

 違う、違うんだよロビン。

 私はそんなに綺麗じゃない。あなたが思うような女じゃない。

 

 『あんたのエゴに、慎二を利用するなよ。』

 

 暗闇の中で、もう一人の私が囁く。目を逸らしたい真実に、私はまだ向き合えていない。

 

 私はロビンのマントの下で泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金色の髪が揺れる。

 赤い目が輝く。

 

 「……ほう、この度の聖杯戦争には面白いもの(異物)がいるな」

 

 ワイングラスを片手に、堂々と玉座に座る彼は醜悪な怪物と呼ぶにふさわしい“新人類”と、その記憶を持ってやってきた存在を見て笑っていた。

 

 「あれを呼んだのは私だ。」

 「なに、言葉の綾だ、気にするな」

 「それよりも、ラフムを使うのが早過ぎる。」

 「ふははははは!

 我ではない、あれは()()が勝手にやったこと。

 まあ、なに。おかげであれの“性能も試せた”ことだし、面白いものも見れただろう?」

 

 形の良い目が、半円に歪む。

 背もたれに体重をかけて、背後にいる男の顔を見上げた。

 

 「お前の()()とやらはどうだった、綺礼」

 

 黒いカソック。黒のタートルネック。男に

 しては長い髪が顔に影を作る、陰鬱な雰囲気の男がにたりと笑う。

 

 「……やはり、私は間違っていなかった。」

 

 ふ、ふふふと不気味な笑い声を漏らす。彼の足元には、ぞわりと蠢く影が残る。

 思えば、10年。暇つぶしにこの男の心の隙間をこじ開けて、穴を広げて、傷を増やし、作り上げてからそれほどの月日が経過した。

 そんな男がどうしても捨てきれなかった憧れを、ガラクタの中から偶然拾い上げたのが今回の始まりだ。

 

 「(愉悦よなぁ)」

 

 美しい男は完全に壊れ切った男の姿に満足そうに頷いて、微笑む。 その顔はどんなに金を積んでもたりない、まさしく値をつけられないほどに美しい顔であり…

 

 「そうか。」

 

 だが、その表情は悪魔を連想させるほど邪悪だった。

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