Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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 夢を見る。
 この時代に来てから、繰り返し夢を見る。
 サーヴァントを驕ってから、ずっとずっと夢を見ている。きっと、私の深層心理。

 『私のエゴに慎二を巻き込まないで。』

 はっきり、実態を取る“私”が怒っている。夢だからこそ実現する不思議。
 私はありえないほど攻撃的で、信じられないぐらい酷薄だ。
 夢だから心は無防備で剥き出しで、これが私の本性か、とわざとらしい達観で“私”を見つめた。

 『私は英雄にはなれないよ、私が一番わかってる筈だ』

 彼女が言葉を投げかけるたびに、私の体には凶器が生える。
 心臓にナイフ、腹部に槍。

 「そうだね、その通りだ。」
 『私は誰かの記憶に残らない。』

 肩に弓矢、太ももには銃弾。

 「でも、事象は残る。」
 『それは、あんたがそうだといいと思っているだけだよ』

 剣剣剣刀刀剣刀剣剣。
 背中に走る衝撃に息が詰まる。でも、夢だから痛みはない。

 『藤丸立香、あんたが選ぶ最善には必ず犠牲者が出る。
 私が言うまでもなく、わかってるでしょ?』

 言葉が出せない。輝かしい物語の裏側の凄惨な描写がずらっと並んだ空間。薄い膜の向こうの人々の慟哭と怨嗟が、私を責め立てる。

 『ははは、ばっかみたい。
 今度は、何を犠牲にするつもり?
 このエゴイスト』

 嘲笑う。私の顔で、そんな表情が作れたのかといっそ感心してしまいそうなほど、嫌悪に塗れた恐ろしい顔。
 私は目を瞑る。わかってる、私が生きるために成し遂げた事は、こう言うことだ。勝手に選んで勝手に切り捨てた。
 だから、だから。せめてこれだけは信じたい。

 「だけど、エゴも最後まで貫き通したら本
当になれるかもしれないじゃん。」

 真正面の彼女の表情が、すとんと消えた。真顔の、仄暗い瞳の私は、だらりと力なくたれた手に視線を落とした。

『エゴを最後まで貫き通して、そのあとは?
 残された人がどんな気持ちだか知ってるくせに。』

 ぱっと、景色が入れ替わった。終局特異点の映像。
 ああ、あの人がそこにいる。手を伸ばしても届かない、でもすこし歩けば触れられる距離。
 あの人の笑顔。満足そうな、やり切ったような顔。消える、消えていく。黄金の光の粒になって、存在そのものがぱらぱらと溶けていく。
 ああ、届かない。

 「嫌だ……」

 あの日、あの瞬間に言えなかった言葉が。飲み込んだ言葉が。

 「いかないで……!」

 ロマニ、あなたが消えるなんて聞いてなかった。
 惨めったらしく蹲って彼の残滓に縋る。そんな姿を、もう一人の私は背後から見下ろしていた。

 『ねぇ、ロマニと同じことしてるって気付いてる?』

 目が、覚めた。息が詰まるほど苦しい朝だ。
  聖杯戦争4日目の朝は、からりとしたいい天気だった。





四日目
アルゴノーツよ、出陣の時だ!


 「あ、あいたたた!?」

 

 ぐう、と伸びをしようと体をそらして、激痛。全身が痛い。動かすだけで激痛だ。

 

 「む、無茶しすぎた…」

 

 マーリンの強化魔術があんまりにも高性能だから、調子に乗った罰だろうか。全身の節という節が軋むし、筋肉がバキバキに壊れて悲鳴を上げている。

 

 「ははは、おはようマスター!

 清々しい朝だね!!」

 「〜〜マーリン!!!」

 

 このストーカー野郎!とマーリンを睨む。おやおや、とやたら楽しそうな響きの声音がむかつく。

 

 「これはひどいぶり返しだね。

 まあ、昨日の戦闘であれだけ動いた上に英霊召喚までしたんだから仕方がないだろうけれども。」

 「うう…わかってたなら教えてよ〜」

 「だから、来たんじゃないか。さあ、服を脱いで。治癒魔術をかけてあげよう。」

 「うわ、なんか変態くさい。」

 「なにおう!?」

 「はは、じょーたんだよ。ありがとうマーリン」

 

 随分と軽くなった体。腕をぐるぐる回してうん、と頷く。これなら大丈夫そうだ。

 

 「だけど、今日は激しい運動は避けて、一日安静にすること。散歩や買い物くらいは許すけど、戦闘なんてもってのほかだ。

 ここではカルデアのサポートは行き届かないんだから。

 まあ心配は要らないと思うけれど、存在証明が出来なくなった場合、君は消えてしまうかもしれないんだよ。」

 「うん、ありがとうマーリン。」

 

 マーリンの言葉に、ふと思い出したのは昨日の言葉。

 

  『医療班からの伝言だ。貴様のバイタルは常に不安定で存在証明も安定しない。まるで監獄塔の再来だ。

 ……今回のレイシフトには何かある、気を付けろよ、マスター。』

 

 先日のオルタからの伝言が、頭から離れない。監獄塔の再来。だけど、ゲーティアはもういない。

 ふと、脳裏を過ぎ去ったのはダヴィンチちゃんが初日に行っていた“座標をねじ曲げて連れ去った”と言う言葉。

 

 「(それに近い、何者かによる拉致…とか?)」

 

 まさか、そんな。

 一晩寝ても整理なんてつかない。しかも、夢が夢だ。落ち着くものも落ち着かない。

 嫌な予感がついて回る。無駄にグルグル考えてしまう。だから息抜きに何処かにパーっと遊びに行きたかった。

 でも、安静にしなければいけない。でも激しい運動をしなければいいわけだし。

 うーん、と私は唸る。

 

 「あ、昼間ならいいじゃん。」

 

 聖杯戦争は夜間行われる。昼間に行えばルール違反で失格。

 たとえ他の陣営のマスターやサーヴァントと出会しても昼のうちなら安全だろう。それで、夜はおとなしく過ごそう。

 そんな、安直な考えだった。

 

 

■■■

 

 

 

 聖杯戦争4日目の朝が来た。昨日の魔獣襲撃及びラフム戦による死者はいなかったが、学校関係者の大多数が生命力を吸い取られたことで昏睡及び重軽症。

 リツカが最後に呼び出したセイバーの対城宝具により校舎の一部が半壊。

 穂群原高校は3日間休校となった。幸いにも破壊されたのは部活棟だから、授業はできる。

 穂群原高校はテロにより半壊したと、表向きには発表された。警察は最近多発するガス漏れ事件をガスの散布テロと認識を改め、今回の事件との関連性が〜などと言いながら捜査を進めているが、テログループは存在しない。

 ネットでは自称・穂群原高校襲撃テロの主犯を名乗る人物が多数現れ、日本は今混乱を巻き起こしている。架空のテロリストは己の手口を思い思いに語るがどれも正解なんてない。

 ニュースキャスターが忙しなく動く。どのチャンネルも似たようなニュースばかり。

 冬木市の異常事態はすべてサーヴァント戦によるもので、強いていうならば聖杯戦争に参加しているマスターこそがテロリストなのではないかとハムエッグトーストを食べながら僕は思った。

 

  「ねえ慎二、せっかくだから遊びに行こうよ。」

 

 リツカが呑気にトーストを食べながら言う。

 

  「ふん、なんで僕が」

 「いーじゃんいーじゃん息抜き息抜き〜

 あ、新都とかどう? 行ってみたいと思ってたんだ」

 「一人で行けば?」

 

 ニコニコ、わざとらしい空元気なその表情。らしくもないその様子に、気を使っているのかと苛立つ。

 僕とリツカの間に割り込んできた清姫が「わたくしがお供しますわ」とこたえる。リツカの左手にべったりとくっついた清姫は、リツカに見えない角度で僕を鼻で笑う。うざったい態度が頭にきて、「まあ、どうしてもというなら行ってやってもいいけど?」と肩を竦めた。

 

 「来なくていいですわ」

 「お前には言ってないだろ」

 

 どろりと、粘着質で不愉快極まりない陰険な視線が僕にささる。リツカがこの場にいなければ火を吹いて消炭にされそうだ。

 

 「…ん?

 あれ、清ちゃん今日バイトじゃなかった?」

 「はい、ですが休みます」

 「え、休む? 」

 「休みます」

 

 めらりと、背後のオーラが揺れる。爛々と光る目は猫というよりも蛇。縦に裂けた瞳孔で僕を睨みつける。

 

 「(私を差し置きながらマスターとデヱトなんてさせませんわ…!)」

 

 抜け駆けなんて許しません、と。

 念話の礼装を起動していないはずなのに脳内に響いた声が恐ろしい。ブルリと体が震える。

 

 「いや、当日ドタキャンなんて普通に迷惑でしょーよ」

 

 「ちゃんとバイトしてください」と、ロビンフッドが呆れ顔でティーカップと一緒にミルクポットを並べながら告げる。

 

 「く!

 出ましたわねハイスペック彼氏面男(HSK)!!」

 「褒め言葉ってことにしておきます」

 

 本日のモーニングティーはアッサムですよ。と僕に告げて、角砂糖の代わりにハニーシロップをカップにひとさじ落とす。

 

 「あるばいとより、ますたぁの護衛の方が重要ですわ。」

 「なら俺がやりますよ。

 ちょうど、新都で噂集めでもしようと思ってたところですし」

 「嘘じゃありませんね……くぅっ、お邪魔虫!

 何がなんでも私とマスターのデヱトを阻止するおつもりですか!」

 「いや、邪魔する気まんまんなのはお姫さんのほうでしょ…」

 

 結局、リツカの「清ちゃんのためにお土産買ってくるから」の一言で清姫は渋々諦めた。だけれど、完全にデート…じゃなくて、新都に出かける流れになってしまった。

 

 「お、これ豆乳?

 豆乳ミルクティーって美味しいね。さすがロビン!」

 「はいはい、あんがとさん。」

 

 ロビンは軽く受け流し、「それで、どうします?」と慎二に話を振った。慎二は清姫をチラリと見て、それからニンマリといたずらを思いついた子供のように笑う。

 

 「いいよ。デートしようか。」

 「〜〜〜!!!」

 

 一瞬で怒りで真っ赤に染まった清姫をせせら笑うように、リツカの肩を抱く。清姫からしたら信じがたい蛮行である。怒髪天を突く、をその身で体現するように殺気と共に髪の毛を逆立て、蛇の瞳孔でもって慎二を睨む。

 

 「清姫」

 「ええ、はい。安珍様。あのような小物をわざわざ焼き殺したりなんてしません。はい。

 縊り殺したりなんてしません。

 ーーーーーしませんとも。」

 

 瞳孔が開ききって、血管という血管が浮き上がる憤怒の表情。無理やり作ったひきつり笑いがいかにも不気味で恐ろしい。

 まあ、そんなこんなで僕と立香は新都にいた。

 

 だが、僕は早々に来たことを後悔することになる。

 

 「あっ」 「あ?」

 

 リツカの声につられて、そちらを見てしまったことが間違いだったのだ。そこにいたのは可愛く着飾ったコルキスの王女。その少女がべったりと腕を絡ませ、しなだれ掛かられる見覚えがありすぎる男。ラフな格好だがセンスの光るカジュアルスタイルの担任。

 援助交際にしか見えないその二人。だが、通報されない理由は“彼”の存在があるからだろう。葛木の真後ろを歩く表情が抜け落ちた、だがそれでも町中の老若男女の視線を独占する美人(男)、むしろ騒がしくない分美形要素がプラスされているのではなかろうか。

 保護者同伴の可愛らしい男女カップル、もしくは兄妹に見える彼ら。だが、その関係性を知っている僕からしたらただの地獄。

 

 「おい、いくぞリツカ」

 「え、いやでも、あれ…」

 「無視れ。あんな目に見える地雷、関わるべきじゃないね。」

 「そっすね。早いとこ退散しましょ、マスター」

 「え、えぇ〜」

 

 モダモダと手間取っていたのが悪かったのだろう。長い金色の睫毛に縁取られた、エメラルドの瞳がすぅいと動いて、視界の端に僕たちを映す。

 

 「うん?……あ!」

 

 金髪の男が徐に顔をあげる。そして、そのガラス玉のような緑の瞳に、赤を捕らえる。げ、という二人の男の嘆き声とあ、という少女の感嘆符が混ざる。

 金髪の美丈夫が、ぱあっと雰囲気を華やいだ。顔面に『ラッキー!助かったぜ!』とデカデカと書かれたその男に、僕は思わず「ゔげぇ」と汚い悲鳴を上げた。

 

 「おお!カルデアのマスターとマスター(仮)じゃないか! こんなところで出会うなんて、奇遇だなぁ!」

 

 手を振りながらニコニコと迫ってくるイアソン。ずかずか、と言ったほうが正しいその足取り。「まさか逃げたりなんかしないよな?」というように、大げさな仕草と高らかなセリフじみた言葉。

 注目を集めるために行なっているとしか思えない。くそ、退路を断つつもりか!

 助けを求めて少し上を見上げる。そこにいるはずのロビンフッドはいない。

 あの野郎〜〜!!霊体化してバックれやがった!裏切り者め!

 主人を助けない従者などあっていいのか! いや、良いわけがない!

 護衛と言っていたから、どこかにいるであろうが、その所業は許されない。そもそも護衛対象を守らない護衛官がどこにいる!

 

 「まだ間に合う。逃げるぞ、リツカ。」

 「いやいや慎二、さすがに無理だって」

 「おい、この私がわざわざ貴様らの元まで足労してやったというのに、逃げるとはなんだ。」

 「い"っだァ!!!」

 

 ぽん、と肩に乗せられた生暖かい感触。ぎち、と爪を立てられ食い込む。

 

 「うわ、来やがった!帰れ!ついて来るな、ライダー!」

 「はん、魔術師でもない人間風情がなんたる口の聞き方か!

 同盟相手じゃなければ殺していたな。」

 「それはどうもありがとう、魔力欠乏で消滅寸前だったライダーさん。

 恩人の僕らに“わざわざ”感謝の言葉でも告げにきてくれたのかな?」

 「はっはっは。その件はどうもありがとうとでも言えばいいのかなァ?

 感謝の印にこの私がお前たちに食事を恵んでやってもいいのだぞ?」

 「ははは、お腹空いてないから遠慮しておくよ。

 僕らに構わずデートの続きをどうぞ? 

 ああ、デートのおまけの間違いだったかな?」

 「お、おまけぇ…!?」

 

 ちぃっと鋭い舌打ちがイアソンの上品な唇から唾と共に飛び出す。眉間にシワがよるのを感じながら、僕もけっと唾を吐き捨てた。

 

 「だまれ、私だって不本意だ。

 なんでこの私が、あの女と宗一郎のデートに同行などせねばならないのだ!こんな不自由な霊基でなければ!」

 「アーチャーになって出直せばぁ?」

 「とても的確なアドバイスをありがとう、欠陥マスター(笑)

 辞世の句は必要ないな?」

 「こっちのセリフだ知名度E、魔力供給切ってやろうか!」

 「だぁれが知名度Eだ!

 私はあのヘラクレスが同乗した、アルゴナウタイの船長だぞ!!」

 「でも、日本ではあまり知名度がないんだよね、知名度補正でわからない?」

 「こ、こいつ…!!」

 

 僕の嘲るような語り口に、イアソンが歯茎をむき出しにして歯軋りをして睨む。負けじど僕も睨みつけーーー

 

  「まあ、こんなところで奇遇ですね!」

 

 僕とイアソンの言い合いに割り込んできた、場違いな鈴色の声。

 さあっと血の気が引いたイアソン。まるで錆び付いたロボットのように、ぎぎ、と背後を振り向く。そこにいたのは予想通りの人物。

 

 「こんにちは、カルデアのマスターさん。」

 

 当然、メディア(リリィ)だった。葛木の腕を両腕で抱いて、ニコニコご機嫌な少女は美しい笑顔でちょこんとお辞儀をしたメディアリリィだった。

 言葉にならない悲鳴をあげるイアソン。かくいう僕もゾッとするほど穏やかな表情の彼女に(恐怖で)息を呑んだ。ただ、リツカと葛木だけが平然としてる。

 

 「やあ、メディア。今日は葛木とデートかな?

 イアソン(そいつ)邪魔じゃない?」

 「はい、そうです!」

 

 慎二の軽薄な発言に立香が脇腹をど突く。手遅れだったが。

彼女の発言(それ)は、前者と後者どちらに対しての返答なのか。後者なら背後のイアソンがあまりにも不憫だ。

 邪魔と言われたイアソンは『ならほっとけよ』と言いたげな不満な顔をしていたが、続きの言葉を聞いてとてもわかりやすく顔を引きつらせる。

 

 「本当はイアソン様を置いて行っても良かったのですが、パスの関係であまり離れることはできないで…」

 「あーうん、なるほど〜」

 

 つまり、意味は後者。

 ははは、と明らかな地雷を踏んだリツカは曖昧に笑った。

 イアソンは存在を消すように体を小さくさせた。とてもかわいそう。

 

 「マスターさんもデートですか?」

 「そうだよ〜!」「おい!」

 

 悪戯っぽく笑って,リツカが僕の腕に抱きつく。それをみて,メディアが「まあ!」と手を叩いた。

 

「そうだ!ダブルデートしましょう!

 私と宗一郎様。そしてマスターさんと…えっと、ワカメさんの“四人”で!

 きっと楽しいデートになります!」

 「えっ、いいの?」

 「誰がワカメだ!」

 

 そして、何受け入れてるんだリツカ。ナチュラルにいないもの扱いされたイアソンにもはや同情すらない。

 メディアリリィのシンプルな罵倒にぴきり、とこめかみに血管が浮き上がる。だが、落ち着け、落ち着くんだ間桐慎二。せっかく不満を飲み込んだんだ、クールになれ。

 こんなどうしようもないことで仲間割れでもしても仕方ない。仕方ない、不服だが僕が譲ってやろう。

 

 「ははは、ライダー、自己紹介がまだだったみたいだね。

 僕は間桐慎二、これからはこちらの名前で呼んでくれ」

 「はい、ワカメさん!」

 「(だがら間桐慎二だと言ってるだろうが!!!)」

 

 ひくり、愛想笑いも引きつり笑いに変わる。常ならば、学習能力のない馬鹿女め、と罵るところだが、慎二は耐えた。

 大人になれ、間桐慎二、相手はガキだ、と心の中で念仏のように唱えながら、慎二が笑顔の仮面を張りつけ続けた理由は、一重に打算だった。

 ライダー陣営は協力者だ。同盟相手だ。

 だが、仮契約をしたから身内と言うには、彼女に付き纏う伝承が信用を信頼に変えることを難しくしている。

 

 「(裏切りの魔女メディア、しかもライダーは魔術師として成熟した魔女ではなく、祖国を裏切った直後のまだ若い霊基での現界だ。無駄な諍いはすべきじゃない。)」

 

 たとえ魔術回路が少なく、失格の烙印を押されていようが、慎二は間桐家の嫡男だ。知識だけなら、第五次聖杯戦争の参加者の中で一番だと自負している。

 だから、彼は知っている。

 サーヴァントは伝承によりその存在を補強して現界する使い魔だ。

 ただのサーヴァントならまたよかった。だがライダーは裏切りで有名な魔女。何をきっかけにして、いつどこで裏切られるのかわかったものじゃない。

 

 「おいメディア、私は了承してないぞ」

 「えっ、あの、ダブルデートなんですが…

 イアソン様も来るんですか?」

 「おい貴様ぁ!!」

 

 ついに背景にされたか、とリツカが小さくぼやく。史実ではイアソンにベタ惚れだったはずなのに、魔女メディアにいったい何が合ったというのか…

 

 「イアソンは私たちと一緒に回ろうよ。いいよね、慎二」

 「はあ、仕方ない。」

 「カルデアのマスターとマスター(仮)…!」

 

 あまりにも不憫だったので、リツカが出した助けの手。その手をつかんでイアソンは感動して涙を流した。やれやれ、と肩を竦めた僕を眩しいものでも見る目で見つめるイアソンの顔面は、ひたすらに美しい。この顔面なら、女神アフロディーテの寵愛をもらったというのも頷ける。

 

 「間桐慎二でいい。」

 「オーケー、シンジ、だな。本来なら高貴な私がわざわざ下民の名前など覚える必要もないのが、聖杯戦争のよしみで覚えてやろう。

 光栄に思えよ?」

 「やっぱり二人だけで回るぞ、リツカ。」

 「のわーー!! ナシで、今のナシで!」

 

 あまりにも情けない船長。それを無表情だが微笑ましそうに見る葛木、そんな葛木に目をハートにしてべったりの魔女と、そんな魔女を微笑ましそうに見つめるリツカ。

 こうして、(名ばかりの)ダブルデートという試練は始まった。




コメントみて「確かに」となったので清姫のセリフ変えました
4〜5年前に書き始めて読み返すと粗が目立つので完結したら総集編としてリメイク版作りたい
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