Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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 「わぁ、これ かわい〜! 

 メディア似合うんじゃない?」

 「ふふ、マスターさんもこの髪飾りがよくお似合いですよ!」

 「えぇ、そうかなぁ? 

 ーーーあ、メディアこれどう?  つけて見てよ。」

 「わあ、可愛い。 」

 

  きゃっきゃっと手を取り合ってアクセサリーコーナーで花を咲かせる二人の美少女。紫の髪の少女ーーーメディアリリィがレースのカチューシャをそっと試着して、ふわりと笑う。

 

 「似合いますか、宗一郎様。」

 「ああ、よく似合ってる。」

 「!!  え、えへへ。ありがとうございます。」

 

 ぽぅ、と頬を赤く染めて、とろけるように少女は微笑む。それを、僕の隣で壁の染みになってるイアソンは虚無の顔で眺めていた。

 

 「ケッ、別にどれでも同じだろ。」

 「思ってても口に出す、普通?」

 「ふん、私はな、こういう無駄な時間が大嫌いなんだ。ぶっちゃけ、対して似合ってなーーヒィ!」

 

 やめとけばいいのに、ぶちぶちと悪態をついていたイアソン。笑えないほど真っ黒な微笑みで元妻に睨まれて彼は顔を紙のように白くさせた。

 

 「あ、葛木さんはどれがメディアに似合うと思いますか?」

 「ふむーーー。これなんかはどうだろうか。」

 「あ、可愛い。葛木さん、センスいいですね」

 

 そして、何やってんだ担任(アンタ)、お前教師だろ、教育委員会に訴えられるぞ。

 やっぱり 葛木(アイツ)ロリコンなのかな…と教師の隠れた性癖にドン引く僕。

 買い物に付き合う気もないので、適当な店でナタデココジュースとワッフルを買って店の外で食べる。ナタデココのヨーグルトジュースはチープだがそれなりの味だ。

 ワッフルを完食し、ちゅーとジュースを飲みながら女の買い物が終わるのを待っていると、お呼びではない金髪が仕草はこれ以上なく上品なくせにどこか品のなさを感じる足取りでやって来た。

 僕は当たり前のようにそいつをシカトした。

 

 「おい、そこのお前。 私は喉が渇いた。」

 「へえ」

 

 話しかけてきたイアソンに一瞥をくれてやることもせずに返答。それに気を悪くしたのか、口調を強めたサーヴァントがため息混じりに吐き捨てる。

 

 「何か買ってこいと言っているのだ。全く、気の利かない従者だな。」

 「ほら、自動販売機がそこにあるじゃないか。好きなもの選びなよ」

 「…私に、王子たる私に、自ら足を運んで物を買えと?」

 「それ以外に何が?」

 

 僕の気を使うということを一切しない態度が原因なのか、ちょい、と顎で指示したことに腹を立てたのか知らないけれどイアソンはわかりやすくキレた。

 血管が浮き上がった額と、釣り上がった眦。

 

「(厄介そうだ)」

 すぐさまそう判断した僕は、ジュースの蓋をパカりと開けて、大きく口を開けて最後のナタデココを無作法に放り込む。

 そして、ゴミを持ったまま店の中に入った。リツカのすぐ近くまでたどり着けば、もう安心だ。立香のそばということはイコールでメディアの側ということになる。

 

 「あ、慎二。」

 

 のほほんとしたリツカに、ちょっと苛立つ。

 

 「お前は、警戒心がなさすぎる。後ろから刺されたらどうするんだ。」

 

 小声の忠告に、リツカは不思議そうに首を傾げて「メディアは裏切ったりなんてしないよ。」と告げる。

 まさか、知らないわけじゃないだろう。メディアが祖国を裏切り、我が子すら手にかけた悪女だということを。

 

 「それでも、メディア達は私の召喚に答えてくれたサーヴァントだからね。カルデアのメディア“たち”とは違うかもしれないけど、あのライダーのメディアだってそんな彼女たちの一側面なんだ。

 だから、大丈夫。信用できるよ。」

 

 にかり、と大輪のひまわりみたいにリツカは笑った。きっと、聞き耳を立てていたのだろう、少し離れた場所で、ライダーのメディアは嬉しそうに笑う。

 

 「(ああ、そうか)」

 

 きっと、リツカは彼女に、ライダーに、裏切られるだなんて、考えてもいないんだろう。

 

 「(()()()()にとったら、そんなものはどうでもいい問題なのか。)」

 

 彼女にとって、サーヴァントの価値は等価だ。人類最後のマスターである藤丸立香にとって、サーヴァントは悪性も善性も、神性も魔性も関係なく『人理修復に協力してくれる救世主』だ。

 だから、彼女は数多くのサーヴァントに慕われて、彼らを使役することが許されている。無名だろうが有名だろうが、近代だろうが古代だろうが関係なく。

 

 「(それが、きっとマスター適正ってやつなんだろうな)」

 

 令呪以前の問題だ。僕は、きっと“藤丸立香”以外のサーヴァントのマスターになれない。ーーーーいや、

 

 「(たとえ、潤沢な魔術回路を持っていて、令呪を授かったとしても、僕のサーヴァントはリツカだけでいい。)」

 

 彼女以外という選択肢は、今の僕には存在していない。死後、彼女の名前が英霊の座に刻まれることがないとしても。

 

 「慎二も選んでよ。清姫のお土産、どれがいいかな」

 「適当でいいんじゃないか?」

 「もう、真面目に選んでよー」

 

 いや、実際清姫は立香からのプレゼントならなんでも喜ぶだろう。そこら辺の野花でさえ喜びそうだ、と慎二は思う。

 リツカは「どれがいいかなー」と真剣にアクセサリーを吟味しては、これでもないあれでもないと手にとっては戻してを繰り返す。

 

 「おい、私を置いていくな」

 「(なんで来た)」

 

 背後から肩を掴まれる。不遜な声音に面倒事の気配しかない。緩慢な動作で振り返ると、案の定そこにいたのはイアソンだ。

 

 「一人で待っていればいいじゃないか」

 「馬鹿を言うな、私は船長だ、単体では最弱。英雄たちの先頭に立ってこそ輝くサーヴァントだぞ。」

 「自慢する内容、それで良いの?」

 

 情けないにも程があるだろう。

 慎二は嘆く。こんなのが誉ある聖杯戦争のライダーだなんて! 

 

 「私には勇敢な仲間がいたからな、ヘラクレスとかヘラクレスとかヘラクレスとか!!」

 「ヘラクレスだけじゃないか。」

 「そりゃあ、一番頼もしいのはヘラクレスだったからな。

 私の仲間はどうもイロモノばかりで…」

 「(類は友を呼ぶというやつか)」

 「アスクレピオスは医療のことしか興味ないし、アタランテはなぜか私にだけあたりが強いし…どいつもこいつも船長を敬う心がたりてないんじゃないか…」

 

 まあ、敬う気持ちも失せるよぁ、と慎二は内心思う。なにせ、慎二はイアソンの情けない姿しか見ていないからだ。アルゴナウタイの冒険譚を知っているのに、幼心に抱いた尊敬の畏怖すらもかき消す醜態。一周回って哀れだ。

 

 「僕はアンタの冒険譚、嫌いじゃないよ」

 

 だからだろうか、僕らしくない言葉が口から飛び出した。それにイアソンは大きな目をさらに大きく見開いて、それからにまぁと愉快そうに笑った。

 

 「おお! そうであろうとも!

 私の冒険譚というよりもヘラクレスがだなーー」

 

 ベラベラと流れるように始まったヘラクレスの自慢話を聞き流しながら、「はいはい」とか「へぇ」だとか合いの手を入れる。

 

 「おい! ちゃんと聞いてるのか!」

 「聞いてるって言ってるだろ!」

 「なら感想を言え! ちゃんと聞いてたなら答えられるはずだ!」

 

 美の神に愛された美貌がめちゃくちゃに歪む。ああ、本当に面倒くさいな、このサーヴァントは。ため息まじりに「じゃあさぁ」と続けた。

 

 「船員がすごいって話しかしてないけど、そんなすごい英雄を集められたアンタもすごいんじゃないの」

 

 僕は適当にアクセサリーを選びながらそう言った。この金髪男にまともに付き合ってなんていられるか。自慢話で日が暮れる。

 それに、まあ。少し気になったものがあったのだ。

 ショーケースに入れられた太陽と月がモチーフのペアネックレス。

 燃えるようで、しかし暖かなレッドゴールドと、光の角度で赤にも黄金にも輝くカラーストーン。石もクズ石を集めたようなものではなく、色が均一で濁りのないもの。立香の髪の色によく似ていた。

 そんな、太陽をモチーフにしたペンダントトップが、僕のリツカのイメージそのものだったのだ。

 それに、ネックレスのチェーンも頑丈そうで、邪魔にならなさそうな小ぶりのペンダントトップも、滅多なことでは壊れなさそうな頑丈そうなデザインも気に入った。

 

 「(だが、これを清姫に渡すのは尺に触るな。)」

 

 ……うん、なぜだ? 

 

 「…おう」

 

 急に、脈絡もなく、照れたように頬を描くイアソンに「なに急に、気持ち悪いよ」と思わず零したら「誰が気持ち悪いだ!」などと言って肩をぶん殴られた。英霊に殴られたにしてはダメージがなさすぎた。

 まあ、いいや。なんか勝手にベラベラ話し続けるイアソンを無視してアクセサリーを吟味する。

 値段は…まあこの程度なら高くはないな。カラーストーンは…カーネリアンか。しかもチェーンと石座はK10だし。安いわけだ。

 僕としてはイエローダイヤモンドの方がアイツに似合うと思うだけどね。

 

「お客様、そちらのネックレスは気に入りましたか?」

 

 突然のことにびくりと肩を跳ねさせる。ニコニコ作り笑顔の店員が聞いてもいないのに「こちらの商品は学生のお客様にもお求めやすいお値段になってまして…」と聞いてもいない話を続ける。

 

「太陽をモチーフにしたペンダントトップに使われている宝石はカーネリアンと言いまして、『指導者の石』、『勝利を導く石』と呼ばれているのですよ。」

 「へぇ。」

 

 そんなことは知ってるさ、と言い返すことはなかった。この程度のアクセサリーショップの店員以上の知識を僕は持っていたが、蘊蓄をひけらかして論破してやろうという気分にはならなかったからだ。

 ただ、「やっぱり立香に相応しい石だな」と思ったぐらいで。

 

 「こちらの月をモチーフにしているペンダントのカラーストーンはムーンストーンではなく『ラブラドライト』を使用しています。

 ムーンストーンに近い見た目をしていますが別の宝石なんですよ。

 ムーンストーンではなくあえてラブラドライトを使用したのには理由がありまして。

 見てください、光の角度で色が変わるんでます。この輝きをラブラドレッセンスと言って、他の石にはない独自の輝きなんです。」

 

 ああ、そういえばこれペアだったな。ムーンストーンだと思ってたけど違ったのか。

 まあ、そんなじっくり見てないからわからなかっただけで、ちゃんと見てたら僕もわかったさ。ぱっと見が分かりづらいだけだよ。ラブラドライトはムーンストーンの類似石なんだし、なんなら今売ってるブルームーンストーンなんて全部ラブラドライトやペリステライトだし。

 

 「ラブラドライトは太陽と月を象徴する石で、自由を象徴する石なんです。

 石言葉は思慕、調和、記憶、そして宇宙の叡智。

 魔除けとしても使われる素敵な石なんです。」

「自由、ね。」

 

 不思議と、僕と立香のことのように思えてきた。カーネリアンは立香。ラブラドライトは僕。

 数多の特異点を旅して、勝利を積み重ねてきた立香。人類最後のマスターとして、サーヴァントとカルデアのスタッフを引っ張り上げてきた彼女に、指導者の石は相応しい。

 そして、彼女に出会うことで自由を知った僕は、彼女と過ごすこの日々を永遠に忘れないだろう。

 ならば、石言葉に記憶という意味を持つラブラドライトは僕に相応しい。

 

 「これ、買うよ。

 会計に回してくれる?」

 「はい。では取り置きをしておきますね。」

 「はぁ? 違うよ。今、購入する。

 早く会計してくれる?」

 「え…いえ、はい!

 それではレジはこちらになります」

 

 

  二つ合わせて購入したって、0が5個しかつかない買い物だ。財布を出してそのまま購入すれば、店員が少し引き攣った笑顔で会計処理をした。

 「最近の高校生って金持ちなの?」とひそひそ話す彼らを流し見て、紙袋に入れられた二つのネックレスケースをそっと撫でた。

 保証書付きのそれらは、よくありふれた買い物なのに何故だか特別に感じられた。

 

 「あれ買ったのかよ」

 「まあね。悪い?」

 「いいや、別に悪くない買い物なんじゃないか? 質もまあ悪くないし、石言葉もいい。」

 

  しかしだな!と言葉が続く。

 

 「 モチーフが悪い!太陽と月なんてギリシャ神じゃ厄介事代表みたいな奴らだぞ。とくに月の女神はダメだ。あの恋愛脳のゆるふわ女神は頭がとち狂ってる。オケアノスの特異点でもなーー」

 「へぇーふぅーん」

 「貴様…私を舐めてるな…!!」

 

 興味がないので仕方がないだろう。今回の聖杯戦争に出場するサーヴァントでもあるまいし。

 

 「お待たせー二人とも〜!」

 

 呑気な女が一人、手を振って笑っている。何もない首元を見て、自分が買ったペンダントを思い浮かべた。

 

 「(ーーーーさすが僕だね)」

 

 彼女の首を飾る様子を、当然のように想起できた。違和感なんてない。センスの塊だ、と心のうちで自画自賛をする。

 

「あれ、慎二なんか買ったんだ。」

 「まあね。」

 「へぇ。ルーンストーンでもつくるの?

 私もルーン魔術なら基礎習ってるし、手伝おうか?」

 「おいおい、カルデアのマスター! 情緒がないことを言うなよ。

 お前へのプレゼントかもしれないじゃないか。」

 「あはは、慎二が私にぃ〜? ないない」

 

  けらけら笑って手を振るリツカに「お前にプレゼントだよ」と言うのがなんか嫌で、「別に僕が何を買ってもいいだろ!」と憎まれ口を叩く。

  そして、こそっと口元に手を当てて、「ねぇねぇ」と囁く。

 

 「後でこっそり見せてね」

 

 ニヤニヤ、楽しそうに笑うその顔はすごく普通の少女の顔で。どこにでもいる、それこそクラスに一人か二人いるような少女に振り回されていることがなんだか新鮮だった。

 ああ、普通だな。と感じるこの一時が鮮明で。約17年の人生で一番綺麗な思い出になると、理由もなく確信していた。

 

 「(本当は、お前に似合うと思って買ったんだよ)」

 

 片手に持つ紙袋が、なんだか気恥ずかしかった。

 

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