Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント 作:倉之助
「エルキドゥ 、あとどれぐらいかかる!?」
「もうすぐさマスター」
腹に両腕を回され、空を飛んでいる。最短ルートかつ最速で向かうはアインツベルン家。
「見えた! マスター、着地するよ」
「うん!」
パッと、腕を離される。垂直に自由落下する私を、エルキドゥが姫抱きする。
とっ、と静かに城のバルコニーに着陸した瞬間、凄まじい揺れに襲われる。
「地震!?」
「違う、戦闘だ!」
エルキドゥはバルコニーの窓ガラスを蹴り破る。戦闘の音は真下から聞こえる。下からの振動で、床が縦に揺れ、衝撃で割れたタイルが廊下に散乱している。
「ちょうど、この下にサーヴァント反応がある。」
床に手をついて、ぽそりと。エルキドゥは腕を大きく引いて、「行くよ、マスター!」と叫びーーーーー
「はぁ!!」
床が抜ける。穴から大広間が見える。柱が数本砕けていた。だが、城の一部が崩壊しているにもかかわらず、城が倒壊する様子はない。
傷だらけのバーサーカー。血と土埃に汚れたロビンフッド。そして、髪を振り乱し、着崩れた服装で凛と立つイリヤ。
「ーーー遅いわよ、立香!」
「ごめん、イリヤ!」
エルキドゥに抱えられて、穴から飛び降りる。ロビンがけほ、と咳き込んで「やっと来たか、マスター」と笑う。
「マジでやばいことになってるぜ。俺が応援に来て正解だったっすわ」
ロビンが口元に滲んだ血を乱暴に拭いながら言う。視線の先に、何かがいた。
ズタボロのバーサーカー。満身創痍のロビンフッド。ぐったりと地面に横たわるイリヤ。
「それは、どう言うーーー」
『立香ちゃん!』
突如、ホログラムが投影された。焦った顔のダヴィンチちゃんと、混乱するカルデアの様子が聞こえる。
かつん、こつん、かつん、こつん。
『突然だが、落ち着いて聞いてほしい。いや、落ち着くべきは私だね。
信じられないけれど、そこにあるんだ…大聖杯の泥と同一の反応が。』
かつん、こつん、かつ……
『つまり、どういうことかと言うとーーーー』
優雅に、余裕ぶって近づいてくる足音を、私は知っていた。だって、何度も聞いたことがあるんだ。特徴的な足音だから、誰のものだかすぐにわかる。
『ビーストがそこにいる!!』
それは、慢心しきった【彼】が、戦闘中に立てる音と類似していて…
「やっぱり、君だったか。」
エルキドゥが「あははっ」と呑気に笑う。いや、呑気じゃないな。いつもの調子に見えるけれど、エルキドゥは確かに警戒している。
「久しいな、我が友エルキドゥよ。」
そして、その声も私は知っていたのだ。役満だ。もう、否定しようがない。
黄金の王がそこにいる。慢心しきった王様が。
「やあ、ギル。君に会うとは思わなかったよ。」
にこりと、緑の髪の麗人が微笑む。金の髪と神性をもつ証たる赤い瞳を持つ王は「ふむ」と顎に手を当てて頷く。
「貴様がサーヴァントとして召喚されるとはな。何が起こるかわからないものだ。」
「うん、僕もそう思うよ。でも現に、サーヴァントとして僕はここにいる。」
会話は穏やかに聞こえるのに、空気感は険悪。
エルキドゥは、時間を稼いでくれている。消耗した自軍の
「ロビン、イリヤ」
全体回復のスキルを使い、傷を癒す。効果は薄いが、無いよりマシだ。
「さて、そこな雑種。」
らしくも無い、甘い猫撫で声にゾワリと背筋が震える。
「誰に許可を得てエルキドゥを使役している。
身の程を弁えろ、雑種風情が。」
「!!」
殺気を一身に浴びて、血の気が弾くのがわかった。流れ弾で殺気を浴びたイリヤは「ひっ!」と声を上げて青ざめる。
「ひどいな。彼女は君とは違うけど、ギルのマスターでもあるんだよ。」
「
「はは。冗談なんて僕が言うわけないだろう?
カルデアって言うんだけどね、面白い場所だよ。
ギルがクラス違いで3人も居る。」
「ほぅ?
それはそれはーーーー」
すう、と赤い瞳が凍てつく。
「不愉快だ。」
空間が歪み、黄金の波紋がいくつも浮かぶ。私は知ってる。これは
「ーーー何をするか、エルキドゥよ」
「いくらギルでも、これは見逃せないな。」
冷たい、抜き身の刃のような声と視線をものともせず、エルキドゥが立ち塞がる。彼もまた、ジャラリと地面から己の本体ーーー神と繋ぎ止める黄金の鎖が顕現する。
彼の意思で自在に動く鎖の切先は、ギルガメッシュに向いていた。
「彼女は僕のマスターだ。手を出すなら容赦はしない。」
「ほう?」
ギルガメッシュの赤い瞳に私が映る。そして不愉快そうにピクリと瞼を薄く閉じーーー
ジャラララッ!!
「容赦はしないと言ったよね」
「面白い!
お前がたかが人間にそこまで入れ込むとはな!」
そんな、高笑いと鎖の音を皮切りに激しい戦闘が始まった。
「はは! 楽しいなエルキドゥ!
かつてのように三日三晩戦うか?」
「むりだよ。聖杯戦争で戦えるのは一晩だけだろう?」
振ってきた剣をバク転で避けて、着地と同時に手を地面につく。何十という数の、鎖に変容した土がギルガメッシュに襲いかかる。
「それに、ここは人が多すぎる。」
無駄に死んでしまうのは望ましくないだろう?と尋ねたエルキドゥに、ギルガメッシュは「はあ」と退屈なそうにため息を吐いた。
「つまらないことを言うな。
雑種など、いくら死のうが構わないではないか。」
「ーーーなんだって?」
空気が、変わった。肌がヒリつく殺気めいた緊張感。そんな中でも平然として、“王”は告げる。
「どうせ近々間引くのだ。今死ぬか、後で死ぬかの些細な差よ。」
「ーーーへぇ。」
ざらりと。エルキドゥが立っている部分の周辺で、大地は黄金の粒子を放っていた。大地にみなぎる魔力だ。
神話めいた光景。黄金の瞳が、研ぎ澄まされた刃のように細められる。
「まるで“神”みたいなことを言うんだね、ギルガメッシュ。」
ぴたりと,両者の動きが止まった。ギルガメッシュは不愉快そうに片眉を上げた。エルキドゥは淡々と無表情を張り付けて言葉を連ねる。
「ああ、君は変わってしまったんだね。」
「変わる? 我が?
ふははははっ、何を言うか。今も昔も、我は我だ。何も変わってなどない!」
「でも、僕のギルは君じゃない」
「……なに?」
ギルガメッシュが今度こそ反論の声を上げた。不愉快だと態度で示した男に対して、エルキドゥはニコリとも笑わず悲しそうな雰囲気で静かに告げる。
「ギルは神が嫌いだろう?
傲慢で強欲で堪え性がない、自分の上に立って頭を押さえつけてこようとする神を嫌って、神の守護から抜け出したんじゃないか。」
「そうだな。」
頷く。ギルガメッシュ王は「それで?」と続きを促すように顎をしゃくった。
エルキドゥは表情を変えずに続きを語る。
「ーーーギルはああ見えて人間が好きなんだ。」
「……ほぅ?」
不機嫌そうだが、どこか楽しそうにギルガメッシュは口角を上げる。
「ギルは、なんだかんだ言いながら王として民を愛していた。まあとんだ暴君だったのは確かだけどさ。
君が言ったんじゃないか。『人類には太陽だけじゃなく北風も必要だから』って。
ギルは、人間の持つ可能性を愛していた。人類の未来を思っていた。」
「何を言うか、我が盟友よ。
この我が人間を好む?
何を言うか。
いいか、エルキドゥよ。人間は愚かで、強欲で、惰弱で、哀れだ。
王たる我の導きなしでは生きていけない矮小な存在だ。かつてのウルクには不要な人材がいなかったから間引かなかっただけのこと。
だが見ろ、エルキドゥ。この星を! 雑種共に埋め尽くされたこの星を!
ゴミのように増え続ける雑種を!
この星には無駄な人類が増えすぎている。
ならば、暇つぶしがてら間引いてやるのも慈悲と言うものよ。」
「……。」
嫌悪に顔を歪めるギルガメッシュを、エルキドゥは冷ややかに見つめていた。ふー、と気持ちを落ち着かせるように深く息を吐いて、それからイシュタルを目前にしたときのような無機質な真顔でギルガメッシュを見据えた。
「そうかい。質問を変えるよ、“ギルガメッシュ王”。
なぜ君は人を間引こうなどと考えたんだい?
増えすぎた人類が邪魔だから?
この時代の人類の繁栄に意味を見出せないから?」
まっさらな半紙に墨を落とすように、泥に汚された霊基は純粋な英霊とは言えない。
そんな言葉が脳裏をよぎった。
ケイオスダイトにより黒化した牛若丸のように、この王様も…
「(やめろ、考えるな。)」
かつては尊敬した素晴らしい仲間でも、今敵対してるなら敵だ。
「この星に無駄な人間が多すぎるから殺すのか。
暇だから、不要な人間を殺して遊ぼうと。君は言うんだね、ギルガメッシュ。」
たしかに、ウルク人と比べたら今の人類は脆い。全ての民が協力し合い、いずれ滅びるとわかっていても魔獣と戦い続けた強さは、今の人類にはないだろう。
「その通りだが」
答えは、是。
「(だけど、貴方がそれを言って欲しくなかった。)」
ウルクのギルガメッシュ王の勇姿が瞼の裏に蘇る。根っこの部分は同じなのかもしれない。でも、違う。かつてはウルクの国民のために命を燃やし、今は私の召喚に応えて人類の未来のために戦ってくれる
目の前のギルガメッシュ王を同じ存在とは思えない。立香は目の前の存在にかける言葉を見つけられなくて、開いた口をきつく閉じた。
「ふふ、なんだそれ。それじゃあまるでーーー」
ざり、と砂を蹴る。エルキドゥの周囲の大気が渦を巻いて、新緑の髪が風にたなびく。
「どこかの駄女神と同じじゃないか。」
「……なんだと?」
ギルガメッシュが赤い瞳を剣呑に細めた。冷めた眼差しと冷笑を携えて、しかし声に僅かばかりの親愛を乗せて告げる。
「己の欲に従いやりたい放題。気に入らないものは壊すし、殺す。今のギルはそっくりだ。」
「我とお前の友情に免じて聞かなかったことにしてやろう。
もう一度言ってみろ、エルキドゥ。」
「何度でもいうさ、今の君はイシュタルと同じぐらい最悪だ。」
「そうか、殺す。」
「それは僕のセリフだ。」
背筋が凍るような怖い魔力が彼の背後に現れた。ゴルゴーンの邪眼で動きを封じされたわけでもないのに、自分の意思で体を動かせない。怖い、息が苦しい。圧迫感に胸が潰されそうだ。
だけど、その魔力に私は、私たちは、悲しいほどに
「お前は僕の友達じゃない。僕の最愛の友であったギルガメッシュはお前じゃない」
それでも。エルキドゥは宣言した。この強烈な魔力に気圧されることなく。
それを見て、少しだけ呼吸がしやすくなる。
「(深呼吸だ。深呼吸をしろ。
恐怖は無くならないが、筋肉は楽になる。)」
何度も、何度も、恐怖で体がすくんだ時は深呼吸をしていた。
「
時空が歪み、黄金の波紋が無数に現れる。
王様の宝物庫から夥しい量の財宝が投擲された。
私は礼装を起動させようと魔術回路を励起させた。エルキドゥは視線を一つ私に寄越して、微笑む。
「(これは僕の勝負だ。手出し無用だよ)」
念話の礼装は起動してない。だけど、たしかにエルキドゥの声を聞いた。
だって、エルキドゥの目が語っていた。
「マスター、今のうちに撤退するぞ」
背後から腕を引かれた。ロビンが当たり前みたいな顔で,淡々と告げる。
「なんで!? だってエルキドゥは…!」
「そうだ。エルキドゥの旦那が金ピカ引きつけてるうちにヅラかるんですよ。」
そう言いながら,ロビンが視線をイリヤに向ける。
傷がまだ残る体。極度の緊張と疲労から意識を失ってしまった彼女が眠っている。
「最悪、エルキドゥの旦那がやられてもカルデアに撤退するだけですよ。
でもバーサーカーがやられたらお仕舞いだぜ。」
ロビンの言う通りだ。私たちの目的のためにも、サーヴァントを敗退させるわけにはいかない。
「っ!」
空気が揺らぐ。
高密度の魔力に変換された財宝の雨が降り注ぐ。
でもーーー大丈夫。エルキドゥなら大丈夫。
ならば、私は選択しなければならない。
「ーーー撤退する。今はイリヤの治療が最優先だから…」
「カッカッカ、それは看過できないのぉ。」
また増えた介入者の声に振り返る。
小柄な翁が、サーヴァントを従えて立っていた。