Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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 「ーーー撤退する。今はイリヤの治療が最優先だから…」

 「カッカッカ、それは看過できないのぉ。」

 

 場違いな翁の笑い声。腹の底から感じる不快感と、2方向からの強烈な殺気。ロビンフットは無言でボウガンで矢を放つ。

 

 「F.Cフィールド!」

 

 展開した瞬間、五枚のうち二枚の魔術障壁が割れる。

 

 「マスター、無事か!?」

 「ロビンこそ!」

 

 ああ、またしても。またしてもか…!

 ここにきてもう一体のサーヴァントの反応に、立香は唇を噛む。

 絶望的状況だ。ギルガメッシュだけでなく、この人も現れるか。闇から現れたのは、細身の大男。

 

 「アサシン、山の翁」

 「…おや」

 

 私を知っていますか、魔術師殿。ハサンの仮面の下で、男は静かに告げた。

 

 「呪腕のハサンーーーっ!」

 「そこまで知っていますか」

 

 では、殺そう。そんな日常会話のついでみたいに、小刀(ナイフ)が振り下ろされる。瞬間、立香の体は強い力に引かれて後方に投げ飛ばされた。

 

 「サーヴァントが控えている前でマスター殺しとは、俺も舐められたもんすね。」

 

 立香の前に、マントを深々と被ったロビンフッドが立つ。

 

 「ロビン!」

 「マスター、アサシンは俺が引き受けます。」

 

 柄じゃないんすけどね、と軽薄に笑って、ロビンフッドは居住まいを正す。

 

 「と、いうわけで。“宜しく頼みますよ”」

 

 ロビンフッドが立香ーーーの背後に視線をチラリと送る。たった一瞬の目配せは『当人』以外誰も気が付かない。

 

「こいよ、あんたの相手はこの俺がしてやるぜ?」

「お手柔らかに…」

 

 そう言いながら、ロビンが真っ先に行った行動は森に逃げ込むーーー否、誘い込むことだった。

 ロビンが呪腕のハサンを誘い込んだ森はアインツベルン城からほど近い森。

 彼女が我らがマスターと同盟を締結した時から、こんなことがあるだろうとコツコツ準備した、罠まみれの森。それはもはやロビンフッドの庭だ。

 1日目の戦争が始まってから四日。二日目に同盟が締結されてから一日半。それだけの短期間でしこたま罠を張り巡らせ、その罠の位置をロビンフッドは正確に覚えている。木に印なんてつけない。木の皮の凹凸、木の節の配置。それだけで十分。付ける輩は三流だ。

 だがそれでも。ハサン・ザッバーハも負けてはいない。暗殺者の知識と経験則で罠の位置を予測して逃げる。

 それに付け加えて、お互いに飛び道具を駆使して戦う。

 ーーー超高速の戦闘だ。一瞬の判断ミスが死に直結する。

 裏のかきあい、悪知恵比べ。隠れて見つけられて見つけて隠れられて。

 毒を盛って盛られて、罠に誘って誘われて。

 

 「はー、アサシンの気配感知のスキルとかやってらんないっすわ」

 「そちらこそ…アーチャーではなくアサシンを名乗るべきでは?」

 

 接近戦はない。両者とも中・遠距離戦。派手ではないが確実に敵戦力を削る戦い。

 

 「そろそろ罠も尽きてきた頃でしょう。」

 「そろそろ罠の予測もつかなくなってきたんだろ?」

 

 木の枝の上に二人して立って、武器を向け合う。

 

「なあ、少し質問なんだが。」

 

 すぅ、ふぅーーー。脳に新鮮な空気を送り込むように深呼吸をする。

 

 「何でしょう?」

 

 同じように、アサシンも少しだけ体の力を抜いて体を休める。

 小休止に見せかけた間の読み合い。両者拮抗しているようで、実際は違う。

 ロビンフッドは罠は消耗したが体力は温存している。霊基の損傷も軽微だ。

 だが呪腕のハサンは罠を回避する側だ。何度か引っかかって霊基を損傷までしている。状況はロビンフッドが断然有利だ。

 だがその条件も、ロビンフッドも罠を全て使い切って仕舞えば一変する。

 そのためには、一度考えなくてはならない。考える時間が必要だ。

 

 「なんでアンタ、あんな外道に付き従ってるんだ。」

 

 だからあえて、こんな話題を選ぶ。あの暗殺者先生に離反の意思があるなら、絡め取って仕舞えばいい。

 

 「俺は知ってますよ、あの爺がしていること。

 これでもアサシン系アーチャーなんで」

 

 マスターには詳しいこと教えてないけど、とロビンフッドは心の中で愚痴る。

 ロビンは諜報ができる正統派隠密系アーチャーなのだ。マスターに情報収集を命じられた時、真っ先に御三家を調べた。ロビンがレイシフトにより召喚された場所がマスターと同じく間桐家だったから尚更だ。

 まあ、マスターは間桐家上空で、俺は間桐家の書斎だったが。

 マスターの令呪が回復して、エルキドゥの旦那に収集されるまでは情報収集のために家探しさせて貰いましたよ。

 で、あの地下室を知った。

 

 「(あの爺、自分の子孫をどんだけ食い殺してるんだか)」

 

 まあそれでも。自分は蟲の中に沈む少女よりも己のマスターを優先して彼女を見捨てたわけだけど。

 

 「しれたことよ。

 私はあの男に召喚された。奴がマスターである限り私は忠義を果たすまで。」

 「そりゃ随分なことで。」

 

 はあ、ダメか。最後に、諦め混じりに一言、「聖杯(アレ)、汚れて使えませんけどね」と苦笑する。

 

 「くどい」

 「はは、そりゃ残念」

 

 毒矢と毒を塗りたくられた小刀が錯綜する。お互い、かすりでもしたら致命傷だ。

 避け損なったら死ぬ。

 だが、()()()()()この罠は使えるのだ。張り詰めた緊張の糸を、無理矢理切断してやる方法。ああいう、裏を書くことばっかり考えてる真面目で優秀な奴ほど引っかかるんだ。

 チャンスは一度。向こうさんが超接近してきた時。

 

 「さらば」

 

 そして、首を刈り取るギリギリで、スキルを発動させた。

 

 「ーーー()()()()

「ーーー!」

 

 スキル使用による回避。タイミングが遅れて、首の皮が一枚持ってかれたが、この程度の毒なら多少は耐えられる。

 勝利を確信し一瞬緩めた緊張は空振りによって凄まじい動揺を呼び起こす。だがそれでも『隙』には至らない。だから、作るのさ。

 

 『ビーーーッ!!ビーーーーッ!!』

 「ーーーー!!?」

 

 夜の静寂を切り裂くような凄まじい爆音が鳴り響く。動揺が動揺を呼び、動きがガタついたのを見逃すほど馬鹿じゃない。

 この筋金入りの暗殺者に『隙』を作ったのは、空振りと同時に鳴り響いた凄まじい爆音ーーーつまりは、猫騙しだ。

 スイッチひとつで起動する猪避けの罠は、現代に詳しくない英霊が見逃しやすい『罠』だ。使いまわされた一手も、使い方次第で歴戦のアサシンすら引っ掛ける。

 聖杯から現代の知識を受け取るが故に見逃しちまった罠。時代により変化した常識に振り回されたが故の失敗。

 

 「アサシンのくせに、ちょっと調査不足なんじゃないっすか?」

 

 無防備になった首に、注射器を打ち込む。カルデア屈指のマッドサイエンティストが生み出したアサシンにも効く痺れ薬だ。効果は1日続く。毒耐性を持つアサシンを軒並み打ち倒した毒には、流石の呪腕のハサンも膝を折る。

 縄抜けなんてできないように念入りに縛り上げて、それでも足りぬと逃げるための足を潰した。

 

 「ーーー」

 

 痺れが回って涎を垂れ流した唇が、陸に上がった魚のようにはくはくと動いた。

 間抜けな姿だ。これでは自害もできなかろう。カルデアの彼らがみたら頭を抱えて唸るだろう光景にクツクツと意地悪く笑った。

 麻痺してもなお、屈辱で顔を歪めるアサシンに、ロビンは文明の利器をゆらゆらと振りかざして笑ってやった。

 

「ーーーこんな森で、猪なんか出るわけねぇだろ。」

 

 


 

 

 カルデアのアーチャー(ロビンフッド)呪腕のハサン(アサシン)と対峙し、藤丸立香と間桐臓硯が対峙しているころ。

 アインツベルン城中庭では、神話の再現が起きていた。

 向かい合うギルガメッシュとエルキドゥ。いつかの再来だ、とギルガメッシュが内心笑う。

 

 「ほう、雑種を逃したか」

 「ああ。一対一で戦おうよ」

 

 強い風が吹いた。エルキドゥの長い髪が舞って、それが戦闘開始の合図だった。

 ギルガメッシュが王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開して半径5メートルの領域に宝具の雨が降る。回避不能の攻撃。エルキドゥはその場から一歩も動かずに天の鎖で封殺した。

 

 「さすがだな」

 

 くつりと、嘲るようにギルガメッシュが笑う。地面を蹴り上げてエルキドゥが宙に浮いた。

 空の上から《彼》を見下ろして、首を捻る。

 

 「そうかな?」

 

 涼やかな微笑みを浮かべたエルキドゥが右手を振り下ろす。

 

 「我を見下ろすか!」

 

 ギルガメッシュが背後の空間を黄金に歪め、無数の鎖を全て弾き飛ばす。

 

「油断したね!」

 

 瞬間。彼が触れたわけでもないのに地面が変容し、数本の鎖が生まれた。鎖はギルガメッシュの四肢に巻きつき、拘束する。

 

 「ぐっ!」

 「ふふ、僕の勝ちだね。」

 

 エルキドゥは空中に腰掛ける。しゃがみこんで、ギルガメッシュの頭上で「ねぇ」と笑った。

 

 「最後に、ギルガメッシュ王のような何かに成り果てた君に聞くよ。

 ……魔神柱の死骸を取り込んだね?」

 「…………ふ、ふははっ」

 

 深い沈黙。そして、笑い声。

 

 「ふはははははははは!!!

 さすがは我が盟友(エルキドゥ)だ。

 ああ、そうだ。たしかに(オレ)は“()()()()()()()()()()()()()”」

 

 邪気、というべきか。空気は粘つき、重ったるい澱んだ空気に息がつまる。

 

 「だが、それがどうした。

 多くの魔力を得るためには必要なことだ。

 魔力なくば“サーヴァントは活動できない”

 それは皮肉にも受肉しても変わらなんだ」

 「何が活動できない、だ。宝具が撃てないだけじゃないか。」

 

 はあ、と冷たいため息を吐いた。

 

 「一晩、頭を冷やしたらどうだい?」

 

 ザララッ!

 鎖がギルガメッシュの全身に巻き付き動きを拘束する。

 

 「僕の鎖は神性封じの鎖だ。神性が強ければ強いほどより強力に働く。

 どうだい、ギルガメッシュ。受肉しても、悪に落ちても剥がれ落ちることはない神性は。」

 「ーーー!!」

 

 怒りに燃えるギルガメッシュに、エルキドゥは冷たい視線を向けた。

 

 「今、君をここで殺さないのは慈悲じゃない。どうなるかは君が一番わかってるだろう?」

 「大人しくしていれば朝には解けるよ。じゃあね。」

 

 エルキドゥが爽やかに手を振ってその場を立ち去ーー

 

「なあ、エルキドゥよ。我がその程度のことを想定してないとでも思ったか?」

 

 ーーーれなかった。

 神造兵器(エルキドゥ)はギルガメッシュの所有する天の鎖(エルキドゥ)により地面に引き摺り落とされ、墜落した。

 

「あいたた…」

 「ふははははっ! 油断するとはらしくないぞエルキドゥ!!」

 「やってくれたねギルガメッシュ!」

 

 無数の宝具が射出される。エルキドゥは地に降り立ち、降ってくる武器の隙間を駆け抜ける。

 

 「そうだね、僕のギルじゃないからと甘く見ていたようだ!!」

 「何を言う! 我は永遠にただ一人!!

 偽物なんかいるはずがなかろう!!」

 「そうだとも!

 僕がかつて盟友と、星と呼んだ男はただ一人。英雄王、ウルクの王だ!

 汚れた泥で受肉した君じゃない!」

 「随分人間臭いことを言うのだなエルキドゥ! 変わったのは貴様ではないか?」

 

  素手で宝剣を弾き飛ばしながら、エルキドゥがくすりと笑った。

 

 「はは、面白いね。カルデアの記録で見た第七特異点みたいだよ。」

 「第七特異点?

 ーーーああ、綺礼が言っていた例のやつか。」

 

 それがどうした、とギルガメッシュは笑った。

 

 「あの時は,ティアマト(かあさん)の泥により別の命を与えられ再誕した(キングゥ)は、ウルクの…人の王の賢王(きみ)と戦ったのだけれど。

 今回は逆だ。」

 

 絶え間なく降り注ぐ剣の雨をかわしながら、エルキドゥは語り続ける。

 

 「泥で受肉した君と、人類の未来のために呼び出された僕。

 あの特異点で君が僕を諭したように、今度は僕が君を諭そう!」

 「笑止!我を諭すなど誰にもできぬわ!!」

 

 ギルガメッシュが剣を握る。セイバーの真似事でもするように剣を握り、エルキドゥと打ち合う。楽しそうに、遊ぶように殺し合う。

 どれだけ血が流れて、どれだけ返り血を浴びて、どれだけ地面に鮮血を吸わせたことか。

 長期耐久戦に強いエルキドゥの性能に対抗できる王の財宝の数々は流石であると言うべきか。

 

 「楽しいなエルキドゥ!」

 「さあ、もっと戦おう!!」

 

 何度目だろうか。剣と生身がぶつかり合い…

 

 「いや、今日はもう終いだ。」

 

 英霊二人の間に割って入った男が、それを妨害した。

 ギルガメッシュが振り下ろした剣を片腕でいなし、もう片方の腕でエルキドゥの腕を掴んだ。そして、淡々と述べる。興奮状態にある二人に言い聞かせる気もないような口調で。

 ギルガメッシュは怒りに染まった鋭い視線をその男に送り、瞬きのうちに怒りの色を消す。

 

 「おお、綺礼! 

 ここにいると言うことは終わったのか!」

「ああ。“仕込み”は上々、と言ったところか。 …ギルガメッシュ。」

 「なんだ。」

 「“死んでない”な?」

 「ああ、“まだ死んでない”さ。」

 

 くつり、邪悪に笑うーーー。

 

 「(死んでない? それはバーサーカーのマスターのことか?)」

 

 何が起きているのだろう。この二人を黒幕として、何か大変なことが起きようとしている。エルキドゥは二人の会話を遮りらないように口をつぐむ。少しでも情報を引き出すために。

 

 「綺礼よ、 “例の件”は順調に進んでいるのだな?」

 「ああ。恙無く。」

 「ならば良い。」

 

 帰るぞーー、と。ギルガメッシュは踵を返す。エルキドゥはそれを見送った。

 

 「さらばだエルキドゥ!

 勝負の続きはまた今度だ。」

 「またね、ギル。今度は君を殺すよ」

 

 見送って、姿が見えなくなって、エルキドゥは地面に崩れた。

 

 「……っはぁ。すこし消耗しすぎたみたいだ。」

 核を破壊するには至らない。だが、確実に削られたエーテルの肉体。

 

 「……ごめんね、マスター。」

 

 加勢にはいけない。今は一度撤退し、回復に努めなければ。

 エルキドゥは少しでも魔力を温存するために、霊体化してその場から消えた。

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