Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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 【ーーーーSIDE:S】

 

 

 

 己のサーヴァントの密告を、桜は血の気の引いた顔で聞いていた。

 

 「どうして。」

 

 絶対に裏切らないと私に誓ったくせに、嘘つき。最低だ。なんで、どうして。よりにもよって先輩に…

 震える手で口を押さえた。怖がっていたことが現実になった恐怖。

 

 (先輩に、知られた。)

 

 たった1日で全てが終わった。

 魔術師の私。悍ましい私。知られたくないことが、ストリップショーでもしてるみたいに暴かれていく。

 このままじゃ、全部知られてしまう。

 定期的に魔術師の精液を摂取しなくては生きていけない醜い体。『泥』を腹に宿した私。

 先輩の家は綺麗すぎて、私の汚さが目立つ。だけど、先輩は私を受け入れてくれて、私を綺麗なものとして扱ってくれたのに。

 聖杯戦争が始まってから、いいことなんて一つもない。高潔な精神のセイバー、世界の汚さを知らない姉さん。

 特に、姉さんだ。姉さんは私と同じ血を流しているのに、何であんなに綺麗なままで居られるのだろう。私と違って、正しく魔術師のくせに。

 なんで、あの人は純潔のままでいられるのだろう。私の純潔は、思い出すのもバカになるほどとっくの昔に散らされたのに。

 

 「なんで」

 

 姉さんは私にないものをたくさん持ってる。綺麗な体も、綺麗な魔術も、綺麗な思い出も。それだけたくさん持ってるくせに、姉さんは先輩に想いを向け始めている。

 どうして先輩なの。なんで、先輩なの。あの人は別に、由緒正しい魔術師の家系に生まれたわけじゃない。

 姉さんは魔術師なんだから、魔術回路の多い貴族の魔術師を入り婿にして仕舞えばいいじゃないか。

 セイバーはずるい。令呪という、一番先輩と近いところでつながっているところが特に。なにもかも綺麗で、ステキな理想を煮詰めて人型にしたような高潔な人間。

 悪を憎んで正義をなすところはいっそ清々しい。彼女に私の本当を知られたらきっと殺されるんだろう。

 堂々と先輩の隣に立って、笑って居られる。

 ランサーも、ずるい。彼女も私と似たようなものなのに、告げ口なんて酷い。

 何よりずるいのは兄さんだ。今まで散々私を虐げてきたのに、どうして今更正義の味方ぶってるの。ルーラーはなんであの人に従っててるの。

 聖杯戦争が進むにつれて、その気持ちは大きく膨らんでいく。蟲が全部勝手に教えてくれる。

 兄さんは家を捨てて新しい家族を作った。

 兄さんはアインツベルンの魔術師と同盟したらしい。

 兄さんに魔獣をけしかけたのに、ルーラーに救われた。

 それから、それからそれから

 

 

 『だからどうした、間桐慎二(こいつ)はここで死ぬべき人間じゃない。』

 

 

 「はは、なにそれ。」

 

  何それ。何それ。何それ。何で兄さんばっかり!

 そんなの、私はそんなこと、誰にも言われたことないのに。何で、何で何で!

 蟲が勝手に教えてくれる知りたくないのに教えてくれる兄さんはいつも楽しそうで幸せそうだ間桐のくせに普通の人みたいに笑ってる。なんでどうして、ずるい、ずるい、ずるい!!

 何で兄さんばっかり、なんで兄さんなんかが。私よりも醜い人なのに、間桐の血が流れてる汚い人間のくせに。私なんかよりずっと汚れていて、穢れきっていて、腐り切ってる人間なのに!

 なんで、あなたが救われるんですか、なんであなた一人だけルーラーに救われてるんですか。一人で勝手に間桐から逃げ出して、一人で勝手にお爺様に歯向かって。あなただっていつも言ってたくせに。間桐の後継は自分だって。勝手に私を目の敵にしていたのは貴方じゃないですか。

 なんで逃げたんですか。なに一人で幸せになろうとしてるんですか。なに普通ぶってるんですか。

 兄さん、あなたは私を助けてくれなかった。あなたはなにもしてくれなかった。たとえ、間桐の屋敷を燃やして、蟲蔵を燃やしたって私は全然救われてない。

 みんなみんなみんな、幸せそうでずるい。

 何で私ばっかり不幸なの。何で私ばっかりこんな目に合うの。なんで私だけ救われないの?

 不公平だ。不平等だ。

 ずるい、ずるい、ずるい。

 何で私ばっかりこんな目に合うんだろう。先輩の隣も、遠坂さん家の凛さんにとられた。同じ血が流れてるのになんでこんなに違うんだろう。魔術も体もきれいだから?

 だから私は先輩の隣に立てないの?

 なら、姉さんも汚れちゃったら、私も先輩の隣で笑えるようになれるかなぁ?

 もう、もう全部嫌いだ。全部壊れちゃえばいい。

 みんな私と同じになればいい。みんな汚ければ、私の汚さも目立たない。

 

 夜な夜な見る夢が私の本性をさらけ出している。人を襲い、食い殺し、異形の化け物に変えていく。私がそうされて、化け物になっていくように。

 黒い泥に身を沈めてると、なにも考えなくていい。泥濘が肌にまとわりつく不快感はあれど、蟲蔵に入るよりずっとマシ。

 なにより、なにも考えなくていい。泥の中は冷たくて暗いけど、私に似たものが沢山ある。

 私は、あの泥人形より可哀想じゃない。醜くもない。悍ましくない。

 ぞわりと、影が動いた。

 

 


 

 

 深夜。拠点に帰宅したルーラー陣営は会議をする前に全員就床した。話をする元気もなく、リツカは帰宅途中で寝てしまったし、イリヤもルーラー陣営の拠点についたら糸が切れたように眠ってしまった。

 

「約束破りめ」

 

 仕方ないとわかりつつも、ちょっと憎らしくなって鼻を摘む。眉を顰めて「うーん」と魘される様に溜飲が落ちて、ニヤリと笑った。

 

 「何が聞きたかったんだい?」

 

 ふいに、言葉が響く。誰も彼も眠りについたこの家の中で唯一眠っていない存在。この拠点の要にして最強の魔術師が虫のように笑っていた。

 

 「全部教えて欲しいのだろう? 

 いいとも! 私でよければなんでも教えてあげよう!」

 「いいよ、明日聞くから。」

 「では、言い方を変えよう。

 マスターが“ずっと君にいうことをためらっていた真実”を教えてあげようか?」

 

 ぴたりと,動きが止まった。リツカが僕にいうことを躊躇っていた真実?

 

 「ーーー聞く気があるようだね」

 「まぁね」

 

 誤魔化されるかもしれないから、とは言わなかった。リツカを信用していないわけじゃない。だけど、立香を知りたいと思った。

 

 「私が教えるのはたった一つ。レイシフトシステムそのものの話さ。」

 「それがどうしたのさ。僕に関係あるわけ?」

 「大アリさ! だって、大聖杯を解体して定礎復元が完了すれば、()()()()()()()()()()()()()のだから。」

 

 ーーーーー?

 

 何を言われたのか、いまいちわからなかった。理解が追いつかなかった。何を言われたのか、理解したくなかった。

 

 「リツカを、忘れる?」

 

 僕が? なんで? 頭の中でその二つがぐるぐる回る。

 「そういうシステムなんだよ。カルデアの人間は世界の異物。この時代に余分なものだ。

 レイシフトが終わり時代から去れば人々の記憶から消える。結果だけ残して過程が消える。

 今回で言うなら、君が聖杯戦争に参加したと言う結果は残るが、“召喚したサーヴァントが誰だったか”“どのようにして戦ったのか”という過程が消えると言うことだね!」

 つまり、今回でいうと聖杯戦争で活躍したルーラーという存在は残るが、そのルーラーがどんなサーヴァントだったか、真名はなんだったか、なんてものを忘れてしまうわけで。

 僕は彼女(あいつ)と過ごした一ヶ月に満たない期間の記憶を、すべて忘れてしまう。

 

 「(嫌だ)」

 

 ただ、漠然とした感情しか残されなくて。呆然と虚空を眺める僕に「僕はハッピーエンドの方が好きなんだ」とかどうでもいいことを言ってくる。

 意味がわからない。何を言いたいんだよこいつは。

 

 「まあ、理由なんて深く考えなくていいさ。そういうものだと思ってくれたまえ。」

 

 最後にそう言い残して。

 それじゃあ、と花びらを巻き散らかしながらマーリンは消える。後に残ったのは事実を受け止めきれなくて、呆然と立ちすくむ僕の姿だけだ。

 

 

 四日目は、こうしてあっけなく終了した。

 

 


 

 

 深夜。草葉も眠る頃。一つのベットで二人の少女が眠りについてた。

 

「起きてる、リツカ?」

「うん、起きてるよ」

 

 こそりと、確かめるように囁き合った。これは二人の同盟者の内緒話。少女たちの密やかな夜の会話はそんな一言から始まった。

 

「大聖杯の防衛機構の解除法、わかったわ。」

 「本当!?」

 

 語尾のトーンを落としながら、リツカは盛大に驚く。イリヤもリツカを真似て、小さな声を弾ませた。

 

 「とーぜんよ!私はくだらない嘘なんてつかないの」

 

 胸に手を当てて、ふふんと得意げに笑う。

 

 「その前に、立香。あなたにお願いがあるの。」

 

 胸に当てていた手をブラウスごと握り込んだ。シワがよった服。苦しそうに顔を歪めて、俯く。震える声で「立香…」と呼んで。

 

 「私から、聖杯を切り離して」

 

 ーーー………。

 

 「それ、は…」

 

 無理、だ。できない。言葉にするのは簡単なのに、喉の奥が狭まって、音にならない。

 

 「それはーーーっ!」

 

 だって、だって、イリヤは、イリヤはーーーっ!

 

 「いいえ、わかってるわ。私は聖杯。聖杯に宿しただけの存在よ。

 私が聖杯から解放されることはない。」

 

 「ごめんなさい、無茶なことを言って」なんて、彼女に謝ってほしくなかった。謝るのは私の方だ。

 彼女にこんな残酷なことを言わせてしまったのは、私。「無知」とは罪だが救いでもあるんだ。私はそれをよく知っていたのに、彼女に「既知」を強制させた。

 

 「立香、貴方余計なこと考えてないでしょうね?

 小聖杯の私が聖杯をやめることなんてできない。聖杯を降霊させる物体になって、人格も何もかも削ぎ落として『聖杯』になるのは最初からわかってた。

 でも、今は違う。私のために大聖杯を破壊すると決めた。

 いい? 私は私のために大聖杯を破壊するの。

 私が「そうしたい」とおもったからそうするの。

 私の復讐のため、私の尊厳のために決意したの。

 その理由に、あなたは関係ない。私の覚悟は私だけのものよ。」

 

 ニコッと、笑う。その笑顔は年長者が迷える若者を導くようにも、子どもがお姉さんぶっているようにもみえる。

 

 「(イリヤは、強いな。)」

 

  そうだ。最初から彼女は強かった。子どもなんかじゃなかった。

 

 「私がお願いしてるのは、大聖杯と小聖杯の接続を切ること。作戦会議も何もかもこれをしなくちゃ始まらない。」

 

 両手を胸の前で組んで、真面目な顔で語る。

 

 「私は大聖杯に接続することで聖杯戦争の全体像を把握できる。

 そして、おそらく大聖杯も私に接続することができるわ。むしろ、私は端末。

 この先、何かしらのきっかけで大聖杯に体を乗っ取られるかもしれない。私を通して情報を窃取しているかもしれない。

 くやしいけど、私が小聖杯である限り、大聖杯と接続している限り、聖杯の防衛機構は破ることなんてできない!」

 

  だん! イリヤがベッドを殴った。腕を振り抜いて、涙を滲ませて、全身で悔しいと叫んでる。

 

 「こんな様じゃ、あの毒杯を壊せない!」

 

 深呼吸をして、無理やり息を整える。「ごめんなさい、取り乱したわ」と必要のない謝罪をする。

 

 「だから私、考えたの。

 ならばーーー私と大聖杯の接続を切って仕舞えばいい。」

 

 一時的で構わない。欲しいのは空白の時間。

 

 「いい、これは叛逆なの。

 一族の命運なんて知らない。私の存在意義なんてどうでもいい。

 私は『十年前の真実を知るため』、『そしてその復讐をするため』にアインツベルン家を捨てるの!

 アインツベルンの大望をドブに捨てるの!

 たとえ、その真実がどれだけ残酷なものだとしても!」

 

 イリヤが今どんな顔をしているのか、私にはわからない。暗闇の中でうすらぼんやりとしているから、そう誰にするのだかわからない言い訳を心の中でしてた。

 

 「私にこんな決断をさせたんだから、あなたには私に協力する義務があるのよ。」

 

 そうでしょう、立香?

 

 「そうだね、イリヤ!」

 

 わざわざ顔を近づけて、至近距離でされた宣言。私が答えて数秒後。肩にかけられた手は解かれて密着していた体は離れた。しかし瞳は交わったまま。強い眼差しは生命(イリヤ)を強く感じさせた。

 私は真っ直ぐ手を差し出す。イリヤも私の意図を組んで手を握る。固く交わされた握手は二人の少女の決意表明だ。

 

 「私はあの大聖杯だけは認めない!

 お母様を殺した呪われた聖杯に支配されるぐらいなら死んだほうがマシよ!」

「絶対にあの聖杯は回収して人理定礎してやる!

 イリヤを聖杯になんてさせない!」

「言ったわね!

 さあ、小指を出しなさい。約束しましょ!」

 

 指切り(ゆーびきーり)拳万 (げーんまーん)

 嘘ついたら(うーそついたら)針千本(はーりせんぼん)飲ます(のーます)

 

 「指切った!」

 

 満足そうに、イリヤが微笑む。

 

  「約束ね、立香。私たちは共犯者、裏切りなんて許さないんだから。」

 「うん、イリヤ」

 

  クスクスと笑い合って、二人の少女がそっと手を繋いだ。令呪のある手をお互い握り合い、確かめるみたいに。

 

  「ふふ、普通なら不可能に近い要望だけど。あなた、心当たりがあるのね」

 「うん。あるよ、心当たり。」

 

 そっと、密やかに。とろんとくっつきそうな瞼をうっすら押し上げて、二人して顔を近づけあってこそこそしゃべる。

 

 「すでに行使された魔術を強制解除する宝具を持つ、大魔女を知ってる。」

 「ふふふ、明日が楽しみね。ざまぁみなさい。」

 

 ころりと、寝返りを打って向かい合う。ベッドの中のひそひそ話にしては少し可愛げがなかったけれど。私たちにはこれ以上ない信頼の証だった。




 あとがき

 今回は設定の都合上間桐臓硯がアサシンのマスター(呪腕先生)になりました。
 佐々木小次郎がいないので知能に障害もないし令呪もあります

 燕青が中指じゃなくて小指を立てたのは間違いじゃないです
 理由は「中国 NG ジェスチャー」で検索してみてください

 まあ、「セイバー感じ悪い」とか「凛のキャラこんなじゃなくね?」などと感想があると思いますが、これは『敵対している』という大きな大前提があるのでそういうものだと納得していただけたら幸いです。あと慎二視点なので。
 この作品に関するアンチコメントは受け止めますが「○○うざい」とか「ざまあ期待です」みたいなキャラクターへのアンチコメントはおやめください。
 次回ちゃんと和解しますし共闘ルート入ります
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