Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント 作:倉之助
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完成してるけどこの先が…とかいうやつ。
正直、五日目越えればあとはマジですぐ終わる。五日目がスランプ…
似てないようでよく似てる
これはある種の偶像崇拝なのだろうか。
それとも、人間なら誰でも持つような感情なのか。
2017年からのタイムトラベラーである彼女は、人理修復という偉業を成し遂げたとは思えないほど平凡な女だった。だが、その平凡こそが彼女の異常であると悟ったのはいつだろうか。
藤丸立香の異常性はその懐の広さだ。
あいつはなんであろうと「仲間」、もしくは「身内」と判断したらどんな問題児だろうが抱え込む。
悪性だろうが、行きすぎた善性だろうが、殺されそうになっても裏切られても、成し得た悪逆も偉業も全部受け入れて飲み込んで、そして抱き込む。
生きている人間も死人でも、神だろうが悪魔だろうが藤丸立香にとっては等しく「私の英雄」であり「大切な仲間」なのだ。
そしてそれが僕にも適用されただけだった。
リツカとの生活は楽しかった。牢獄のような実家から脱出したことで世界が明るくなった。
藤丸立香という人間はあまりにも普通で。悩んで迷って間違って、あまりにも人間らしい人間だった。
「おかえり。」
たった一言に泣きたくなる。
「さっすが慎二!」
下心のない賞賛は気持ちが良い。
暖かいご飯が食卓に並び、大人数で囲むなど、初めてで。
自分のために作られた料理は今まで食べた中で一番美味しかった。
彼女は忠誠をくれなかった。代わりに友愛をくれた。立香がいれば、僕は無条件で幸せを感じていたんだ。
少し前まで苦手だったのに。気持ち悪い馴れ合いだと馬鹿にしていたのに。
あいつが。しがらみも、何もかも全部忘れさせて、ただの間桐慎二を求めてくるから。だから、だから。僕はようやく、自由になれたんだ。
ああ、そうだ。僕はずっと、『関心』が欲しかった。あいつと出会って救われたんだ。
「“フジマルリツカは間桐慎二の友人”」
彼女が僕に言った言葉だ。たった一度の言葉が、繰り返し言われた「間桐慎二のサーヴァント」という言葉よりも嬉しかった。
彼女がもしも、本当に僕が召喚したサーヴァントだったら僕は彼女の言葉を信じなかっただろう。令呪という呪はサーヴァントの意思を縛る。それから逃れるための方便だと、僕は信じて疑わない。
僕は無茶な命令を下し、嫌がるサーヴァントが命令を遂行する姿を見て安心し、愉悦に浸るのだろう。
そして、助けて欲しい時に助けてもらえず、惨めったらしく死んでいく未来が見えた。
令呪がなかったから、僕は無茶ができなかった。手綱を持たずして猛獣を従えることなどできない。本当は、僕自身が『藤丸立香は間桐慎二のサーヴァントではない』と疑っていたのだ。故に、セーブをかけていたのだろう。
その結果が今の関係ならば、僕の無意識に感謝すべきだろう。
案外、僕は忠義の代わりに友情で繋がれた毎日が案外気に入っているのだ。そう、だから。
「…忘れたくない。」
知ってしまった事実を噛みしめながら呟く。
定礎復元が為されれば、聖杯を回収してしまえば、その時代の人々はカルデアの人々を忘れる。
もともと遠い未来からやってきた未来人なのだから、忘れてしまうのは仕方がないのだろう。
マーリンは『記憶が置き変わる』と言っていた。思い出せない、思い出しにくくなるだけで出来事は覚えているのだと。
でも、僕はどうなるんだ。
記憶の立香が別人に置き換わって、思い出から赤銅色の少女が消えて。
僕は立香を忘れて、これから先を生きられるだろうか。縋る記憶もなく、頼る証もなく、あったという事実だけ覚えている。
「(ああ、それは。なんで惨い。)」
僕には耐えられない。僕は、きっと忘れてしまったそれを求めてしまう。
失われた記憶を探して、昔の僕に戻るのだ。その姿は、情けないほど簡単に想像できた。
「聖杯戦争なんて、停戦のままでいいじゃなか。」
聖杯を、解体なんてしなくていい。破壊しなくていい。ずっと、停滞していてくれたなら。
そうしたら、ずっと立香は僕の隣にいてくれるかもしれない。
「ははっ、そんなわけないじゃないか…!!」
わかっているさ。それが無理だってことは、痛いほど。僕と立香の間には、時代という超えられない壁が存在しているんだ。
立香は自由だ。自由だけれど、誰よりも運命に縛られている。ずっと彼女がこの時代に留まることはできないし許されない。
僕がどんなに望んだって、この幸福は続かない。聖杯に望んだって叶えられることはない。
だって立香は、未来を生きている未来人だ。
その危うげな存在感の彼女だから、歴史の影法師たるサーヴァントよりも儚く感じる。
「今日で、聖杯戦争が終わる。」
今晩、大聖杯は壊される。
聖杯戦争5日目の朝は、胸に穴が開いたような虚しさから始まった。
「昨日、イリヤから直接聞いた。例の防衛機構の解除方法が分かったって。
だから今日、早速イリヤに聖杯の防衛機構を解除してもらう。」
五日目。立香は先日,先々日と続いて無茶をしたせいでベッドから起き上がれない状況だった。
それも仕方がないというもの。マーリンの魔術により強化されているとは言え、人間の限界を超えて動きまわり。ただでさえ貧相な魔術回路であるというのに,パスの制限をされながらサーヴァントの三騎同時戦闘。
身体的にも魔力的にも負担を負いすぎた。
唯一幸運だったのがカルデアの医療サポートの陣営が完璧だったこと。
派遣されてきた医療班と手厚いサポートを受けた結果,最低でも半日、ベッドで大人しくしていたら体調は概ね回復するという。
残り半日も無茶しすぎない程度ならば動いてもいいとのこと。
それゆえに,本日の会議は立香の寝室で行われていた。
「その前に、小聖杯と大聖杯の接続を切らなきゃいけないんじゃなかったか?」
「うん。だから、メディアにやってもらう。」
「ライダー?」
「違う、“キャスター”のメディアに」
「……はあ、カルデアの方の魔女っすか」
「彼女の宝具なら一時的に大聖杯と小聖杯のつながりを切るのも容易いだろうって、ホームズが」
そんな話を、慎二はぼんやりと聞いていた。
「(これで、聖杯戦争が終わるのか。)」
この生活に終わりが来るという、当然のことを僕はいつのまにか忘れていたらしい。
特異点は修復される。人類史はあるべき道筋に戻り世界は回る。
ーーーカルデアという組織を忘れて。
彼らの記憶は薄れ、改竄され、忘却の淵になんとなく残るだけ。今までは、それでよかったのだろう。
「(でも、僕は?)」
僕はどうなる? 全てが終わったとして、僕は彼女を忘れて生きていけるだろうか。否だ。真っ黒な画用紙みたいな僕の人生は彼女という鮮やかな色のペンキに塗りつぶされて変わったのだ。
そんな、人生の根幹とも言える「きっかけ」を忘れ、どうして僕が変わったのかもわからずに世界を生きていけるか?
「ーーーー。」
無理だ。生きていける自信がない。
今日も学校は休みだ。まだ仮校舎の手配すら終わってない。一部とはいえ学校が倒壊したんだ。修復には早くても一ヶ月はかかる。
「少し、外に出る。」
「慎二?」
立香が首をかしげた。どうしたの、と。
「(どうしたもこうしたもない。お前のことじゃないか。)」
なんて、言えるわけがない。
「ライダーを呼びに行く。あいつらも作戦には必要だろ。」
「そうだね。連絡を入れる予定だったけど、直接行った方が安心か。
よろしく慎二」
「子どものお使いじゃないんだ。言われなくても平気さ。」
「それでは、道中の護衛は私が。」
「ああ。よろしくランスロット。」
出かける背中に、立香が声をかける。
「昨日話せなかったこと、帰ってから話そうね」
振り返ることはなかった。
口を開けば「裏切り者め」と怒鳴ってしまいそうで、それだけは言いたくなくて。
不審がられてもいいから、今は顔を見たくなかった。
僕は何も言わずに家を出た。