Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント 作:倉之助
ようやく最終日突入、完結できるよう頑張ります!
*2023.10.24 ちょっと加筆修正しました
気づけば遠い理想を抱いて
夢を見ていた。
先輩がいて、姉さんがいて、お父さんとお母さんがいて。私は唯の遠坂桜で、間桐なんかに縁がなく。平穏に、凡庸に、ありふれた日々を生きる。そんな夢を見ていた。
魔術なんか存在していなくて、みんな私に優しくて、私を愛してくれる。
純白のドレスを身に纏い、遠坂さん家の時臣さんじゃない、正真正銘のお父さんの腕に支えられてヴァージンロードを歩く。
その先には先輩がいて、私の名前を呼ぶ。
私も先輩の名前を呼んで、二人寄り添って……。
そんな、あり得ない、いつか願った夢をみていた。
間桐慎二のサーヴァント
【6日目、早朝】
未来の果てから、その探偵は宣告する。この度の特異点は《ツケ》が積み重なった末の末路なのだと。
長年魔術師たちが冬木の土地に強いていた理不尽の代償。
間桐桜はそれら全ての被害者だと。
『しかし、かといって彼女を救うこともできないだろう。
カフェラテからミルクを除けないように、混ざった絵の具を元の色に戻すことができないように。聖杯の泥はすでに彼女と同化している。
我々としても、間桐桜を倒さない限り大聖杯にも辿り着けないだろう。よって、間桐桜の排除も視野に入れる必要がーーー』
「ふざけないで!」
遠坂が机を叩く。俯いたまま、ぶるぶると怒りで震えてる。狂った獣のような荒い呼吸がピリついた空間に反響し、余計空気を重くしていた。
「桜を殺すっていうの? あの子は被害者よ!」
『しかし、冬木市集団失踪事件及び一般人ラフム化の犯人でもある』
「それは泥のせいだってアンタも言ってたじゃない!」
『だが彼女の罪もまた事実だ』
「っ、このーー!」
「よせ、凛!」
ホログラムに映るホームズの胸ぐらを掴もうとする遠坂をアーチャーが引き止める。
「離しなさい!」「落ち着け! そこには何もない!」「だからって!」
言い争う2人をBGMに、イアソンが地図を眺めている。僕は保冷剤で頬を冷やしながら昨晩から今日にかけての出来事を思い起こす。
聖杯戦争5日目、夜。あの悍ましき泥の胎で、僕たちは逃された。
「見ないで、見ないでよ。もう全部どうでもいい。どうでもいいから、帰ってよ!」という、癇癪というにはあまりにも憐れな悲痛な桜の叫び。 それを命令と捉えたランサーにより洞窟の外に叩き出された後、暴れる遠坂と衛宮を気絶させた後、僕の本拠地に連れ帰った。放っておいたらすぐにでも突撃しそうな危うさを考慮した選択だ。
今の状況は、半狂乱状態で目が覚めた遠坂の「桜を助ける」という叫びを拾ったホームズが淡々と今回の事件の概要を告げ、考慮の結果出した「間桐桜は助からない」という結論に納得のできない遠坂というものだ。
大聖杯の管理不行届や第一回目から四回目までの聖杯戦争の無惨な有様。間桐家での桜の仕打ち。呪いの溜まった冬木の土地に魔神柱が聖杯に焼べられたことで起きた、この惨状。
遠坂の怒りが爆発してもおかしくはない。特に、間桐家での出来事は遠坂にとって許し難いものだろう。ホームズから概要を聞いている途中で「アンタは知ってたんでしょう!」と胸ぐらを掴まれた。「ああ、知ってたさ」と、その拳を受け入れた僕を庇ったのはランスロットで、「慎二が桜のことを知ったのはつい最近です! そもそも、知っていたとして彼に何ができたと言うのですか!」と、遠坂の肩を掴んで叫んだ。
怒声と嘆きと泣き声で、混沌とした場を収めたのはホームズで、しかし再び混沌に叩き込んだのもホームズだった。
『落ち着いてほしい、Ms.遠坂。可能性がないとは言っていない。
ただ、あまりにも現実的ではない』
「っ!その方法は!?」
『……』
す、と。ホログラムのホームズがライダーの2人から立香へと視線を動かす。
メディアがハッと目を開き、そして顎に手を当てて考えこむ。
「……なるほど、確かに不可能ではないかもしれませんね」
メディアの一言に場の空気がピリリと引き締まる。
「聖杯の泥との同化も、言い換えれば一つの魔術です。初期化状態にもどせば、あるいは……」
「ああ、ルールブレイカー!」
立香が思わずと言ったように声を上げる。『
かの魔女が言うには、桜をどうにか外に誘き寄せて工房の外に出すことさえできれば、メディアの宝具たるルールブレイカーを使って桜と聖杯の泥ーーーアンリマユの繋がりを切ることはできるのではないか、と。
一時的にでもアンリマユとの接続が切れれば、大聖杯から引き出す無尽蔵の魔力供給は尽きる。その状態の彼女ならばサーヴァントで叩けば殺さずとも沈静化できる。
「しかし、そう上手くいくでしょうか……」
「上手くいくかじゃない、行かせる」
いつから起きていたのか、衛宮が身を起こしながら言った。リビングの客用布団は敷きっぱなしで、そう言うところをちゃんとしている衛宮らしくないと、なんとなく考える。片す余裕もないのだと、僕は悟った。
「それで、なし崩しとはいえ昨晩私との予定をすっぽかした言い訳は終わり?」
「は、はい……すみませんでした」
「しらない!」
つん、とすました顔に不機嫌をのせたイリヤスフィール。正面には身を縮こまらせて頭を下げる立香。
「ふんだ、リツカは私のことなんてどうでも良いのね。
『イリヤはまだ安静にすべきだから』とかふざけた理由で置いて行かれた挙句、約束の時間になっても現れない貴女を、私がどんな気持ちで待っていたと思ってるのよ」
イリヤの赤い目が水の膜で潤む。顔のパーツが中央に寄せたのは一瞬。情けない顔を隠すように顔を伏せる。
「死んじゃったんじゃないかって、すっごく怖かったんだから……」
喉の奥から搾り出した言葉は震えていた。
イリヤの言葉が痛かった。目の奥が苦しくて、見えない手で首を絞められているように苦しくて。
「本当にごめん」
せめて一言連絡を入れるべきだったと立香が悔いる。額に小さな衝撃。反射で「いっ」と音が漏れる。正面には頬袋を膨らませたイリヤ。片手で不恰好な狐を作って、呆れ顔をしていた。
「もう良いわ、一昨日の救援に免じて許してあげる。これで貸し借りナシだからね!」
「イリヤ……」
誰が見ても明らかな空元気。それを指摘するのは無粋だ。イリヤの意思を尊重し、気持ちを切り替える。
「それで、間桐桜“を”どうするの?」
「できるなら、助けたいよ」
「言うと思った。けどね、リツカ。貴女の口からは言いにくいようだから代わりに私が言ってあげる。
彼女を助けるのは無理よ」
立香は目を伏せる。わかっていた言葉だった。理由もわかる。根拠もわかる。でも何もしないで見捨てるのは気持ちがどうしても追いつかない。
「私みたいに、聖杯に接続しているだけならまだ救いようはあるでしょうね。でも話を聞く限り、間桐桜は聖杯の【中身】に接続してる。
あの子は聖杯によって呪われているけれど、同時に聖杯によって生かされている。慎二の証言を聞く限り、間桐の悪趣味な蟲にも寄生されている。
魔術的なものを全て初期化した後、どれだけ寿命が残されているのかなんて……想像に容易いわ」
「私も、人のこと言えないけどね」とフローリングを見つめて、感情の読めない声音で内心を吐露したイリヤに、なんで言葉をかければいいのかわからなくて。でも、そんなことをイリヤに言って欲しくなくて私は押し黙る。
「間桐桜は助からない。少なくとも、私は助けない。
ちゃんとしなさい、人理継続保障機関の人類最後のマスターなんでしょ?
貴女の役目はこの時代を修復して定礎を復元すること。1人にこだわって全て台無しにするつもり?」
「わかってる……でも、本当にそれでいいのかな。
はなから「助けられない」って決めつけて、見捨てたりしたらさ。私、後で絶対に後悔すると思う」
黄金の瞳が「赤」を射抜く。立香の目力にイリヤが少しだじろく。どこまでもまっすぐな眼差しはどこか士郎に似ていた。
「ねえ、イリヤ。変なこと言ってもいいかな」
「急に何よ」
立香が席を立つ。立香に手を引かれてイリヤも立った。まるで社交ダンスでも踊り出すような。
手を繋ぎあった少女が2人。交わった視線、重なる呼吸。唇が動いて、重なっていた呼吸ワンテンポずれる。空気が揺れて、振動が音になる。
「聖杯の中身。
ぱちり。大きな目が見開かれて、瞬いて、そして伏せられる。
「……それは、卑怯よ」
「そうかもね」
不公平だわ、と続けられた言葉に一言答える。重い空気がひたすら続く。
「私はもう、未来なんて見ないと決めたの。
膝に額を擦り付ける。くぐもった声音。「アナタって悪魔みたい」と一言洩らして、そしてまだ黙る。イリヤの瞳がゆらゆら揺れて、伏せられて。立香がさらに言葉をつなげる。
「それでも。私は未来がほしいよ」
だって、それが私の原動力。平凡な私が前を向くための魔法の言葉だ、と真面目な顔で薄く笑う。
ちょっとしたバイト感覚で訪れた先で世界を背負うことになるなんて知らなかった。ちょっと一夏働いて、そのあとは友達と遊ぶだとか、親にちょっとしたプレゼントを買うとか、そんなことを考えてた。当たり前に『その先』があると思っていて。
だからこそ滅亡しかけた世界に未来が欲しいと抗った。はじめは、酷く怖くて辛かった。なんで私がと思わなかった日がないとは言わない。でも、マシュがいて、ダヴィンチちゃんがいて、ロマニがいて。カルデアのみんなが大切になって。みんなで2016年を迎えたかった。それだけだ。
「欲張りでもいいよ、仕方ないじゃん」
大切な人と一緒に幸せになりたいと思うことを、どうして罪と言えるのか。
イリヤがいて、慎二がいて、桜ちゃんがいて、凛と衛宮がいる世界。2016年の未来でもう一度会いたい。ちっぽけな願いなのに、なんでこんなにも難しいんだろう。
「大好きなんだよ、みんなのことが」
「……………………そんなの、ズルよ」
たっぷり十秒、間を置いたイリヤが駄々をこねて唸る。
「ずるい、ズルいわこの卑怯者。そんなこと言って、私がどう思うのかわかって言ってるんだ。
「そんなこと言われたら、私も
イリヤが微笑む。諦めの混じった、大人びた笑顔。仕方ないと妹を甘やかす姉のようにも見える。赤い瞳にうつるは、どこまでも甘やかな慈愛の色。
「多分、私は未来にいないでしょうけど。でもま、立香に私の痕跡を見つけさせるのも面白そうね」
「……ありがとう、イリヤスフィール」
なんで、この優しい子が死なないといけないのか。穏やかな顔で年不相応に小さく笑うあどけない人。彼女に未来で出会いたい。諦め切った彼女に未来を与えたいのに。
それを唯一できる聖杯は汚れて使い物にならないなんて……
「大好き、イリヤ」
「私もよ、リツカ」
「私、探すよ。たくさん探す。イリヤが生きていたって証明するために」
「いいわ、目一杯隠してあげる。草の根をかき分けて私を見つけなさい?」
どちらからともなく笑顔が溢れる。ああ、このかけがえのない時間を、いつまでも。限られているからこの一瞬が美しいのだとしても、願わずにはいられない。
「ね、酷いこと言ってもいいかな」
「ふふふ、なぁに? 今の私ら機嫌がいいから、何言われても許してあげる」
「ーーー生きて」
イリヤが困ったように笑う。3×4が12とわからない子どもを見るような、どうしようもないなぁと言いたげな、そんな困り顔。「バカね」と、音が大気に溶ける。視界が霞む。世界が潤む。
「私の時代まで生き続けて、未来でイリヤに会いたいよ」
「無理なのよ、そう言うふうにできてるの」
「ひどいなあ、なんで嘘でも『いいよ』って言ってくれればいいのに」
「これでも私、正直者なのよ」
輪郭がぼやけて、声が遠くて。でも体温だけは近くにあった。背中に感じるリズムが心地よくて、どうしようもなく涙が出る。
「私ね、ちょっと前まで【過去】で生きてた。現実なんて見たくなくて、怒り続けてた。だって、そうすれば何も考えなくていいんだもの。寂しいとか考えることはなかった。
でも、でもね。
バーサーカーがいて、リツカがいて、シンジがいて。私、寂しくなかったの。心から笑えてた」
「リツカが教えてくれたのよ、今を必死で直走るあなたがいてくれたから、過去を見るのをやめられた。
ね、リツカ。私ね、この戦いを終わらせてようやく、私自身を愛してあげられる気がする」
「だから、ごめんね。未来の約束はできない。私は未来の果てにはいないけど、どうか私を忘れないでね」
「忘れない!」
小さな背中に手を回す。暖かかった。この温度が失われるだなんて想像もしたくないほどに。
「忘れたりなんかしないよ,絶対。ずっと、ずっと覚えてる。だから、イリヤも約束を忘れないで。」
「……リツカのことも忘れないわ」
私は曖昧に微笑んだ。
YouTube巡回してたらお気に入りの反応集でこの小説そっくりの設定のスレまとめ見つけて「わ!やっぱ需要あるじゃん!」と嬉しくなったり
コメント見てたら「エタってると思ったら最近更新してた」とあったのでとりあえずできてる部分だけあげようかなって
意外と見てくれている人がいて嬉しいです!