Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント 作:倉之助
ところで、さりげなく私が慎二をマスターではなく『慎二』と呼ぶようになったことに気がついただろうか?
これは、私がこの冬木にやってきて2日目の夜の、そう、昨夜の出来事がきっかけである。
「なぁ、マスター。お前の令呪ってどうなってるわけ?」
慎二が頬杖をついて私に聞いた。私はコタツに入ってみかんを剥きながら、慎二を見る。慎二がぱかりと口を開けた。私は彼の口の中にみかんを一つ放り込んだ。
「さぁ?令呪もカルデアからの支給品だからね。大勢のサーヴァントと戦うのに、令呪一つじゃ足りないから復活する、みたいな?」
私は自分の口の中にもみかんを入れた。甘酸っぱい味と柑橘系特有の爽やかな香りが鼻を抜ける。
「令呪一画に貯蔵されている魔力が通常の令呪よりも低いのか?
まぁ、カルデアからしたらサーヴァントのサポートに使えればいいだけだから、本来の令呪よりも性能をスペックダウンさせて回数をとった結果が令呪の回復か?
効果よりも使用頻度を優先すればそれでもいいのかもしれないけど。」
「そういうの私わかんないから。キャスター勢に聞いて。」
「やだよ。いびられる」
「え、誰に?」
「お前のサーヴァント」
「そんなまさか。」
リツカは笑って本気にしないが、そんなまさかである。あいつらはやたらと僕に対して冷たい…というか、塩対応だ。今回のこともどうせ、聞いたら聞いたで「それ、君に教える必要はあるかな?」とか言われておしまいだ。
「じゃあ、そんな可哀想なマスターにはみかんをあげる。」
はい、と言ってリツカはむきたてのみかんを一粒、僕の口元に差し出してきたので、僕はつられるようにそれを差し出す手に顔をよせにみかんを食べた。
「(…!?)」
ぞくり、と冷たい風が首筋を撫でた。マスターを独り占めしやがって、という霊体化したサーヴァント(誰とは言わないがやたらと怖い嘘を許さないバーサーカーであることは確実)からの圧力を感じ、ぶるりと震える。マスターが危機的な状態に陥っているにもかかわらず、呑気に構える自分のサーヴァントが恨めしくなり、じろりと睨んだ。
「私、令呪は回復とかにしか使わないからなぁ。」
「じゃあ、その令呪でサーヴァントに自害を強制させるのとか、そういうのできないってこと?
聖杯戦争は最後にサーヴァントを自害させるために令呪一画を取っておくんだろ?」
「え、聖杯はマスターの願いもサーヴァントの願いも叶えられるものじゃないの?」
それ以前に、カルデアの令呪は基本的に、サーヴァントの回復やらなにやらのための魔力的サポートでしかないから、令呪本来の強制力があるかどうか微妙なところだ。
つまり、どこまでサーヴァントに命令できるかわからない。今までサーヴァントの回復と宝具開帳にしか使ってなかったから、私もどこまで使えるのかわからない。
「僕が読んだ聖杯戦争の記録には、サーヴァントの魂を全て聖杯に注ぐことで聖杯が完成するって書いてあったぞ。」
「…世界線が違うから、かな。」
私は今までの聖杯戦争を思い出す。私は聖杯に願いを叶えてもらうためではなく、ゲーティアが作った聖杯を特異点から回収することだけを考えて動いていた。だから、聖杯を使うなんて考えもしなかったし、起動方法も知らなかった。
唯一聖杯を使うとすれば、それはサーヴァント強化のための聖杯転臨の時ぐらいじゃないか?
「でも、私は…そういうみんなが嫌がるような命令は、したくないな。」
「ふぅーん」
慎二は興味なさそうにそう呟いて、皮がついたみかんを立香に差し出した。剥け、という意味だろう。
「まぁ、どうせ今回の聖杯は使い物にならないんだ。英霊の魂を一つでも大聖杯に注いだら人類滅亡なんだろ?
お前の令呪は他の陣営より優位な立場に立てるアドバンテージだ!
無駄なく、効率よく使うぞ!」
慎二は新しいゲームを目の前にした子供のように、キラキラとした目でそう言った。
彼にとって、この聖杯戦争はゲームなのだろうか。人類滅亡がかかった、壮大なゲーム。
勝てば生き残れて、負ければ死ぬ。でも、これは確かに現実であり、サーヴァントは死んでいるが、生きている。今、この瞬間、確かに彼らの心臓は動き、意志を持ち、生きている。
「マスター、お願いがあるんだ。」
「なんだ?」
私は、慎二をじっ、と見つめた。慎二はそんな私を見ながら、小さく首を傾げた。
「死んでもまた呼び出せばいいからって、そんな風に思わないで欲しいの。
私はみんなを死なせてカルデアに強制送還なんてさせたくない、みんなのサポートのためだけに令呪を使いたい。
回復すればいいからって、彼らの尊厳を奪うような作戦は絶対に嫌だ!
マスター、私はあなたの指示に従うよ。
でも、お願い。だれかを使い潰すような作戦は考えないで。」
慎二は言われていることの意味がわからないというように、きょとりと目を丸くした。そして、はぁ〜、とおおきなため息を一つついて、呆れたように言った。
「そんなの、当たり前だろ?」
何でもなく、それを当然のように語るマスター。その言葉を聞いて、私はホッとした。
間桐慎二は、悪人じゃない。魔術師に憧れ、どうしようもなく魔術を求めているけれど、その心根は魔術師からは程遠い。見かけ上は魔術師らしく見えるが、心の中は違うのだ。
危うげで、何らかのきっかけでコロリと悪の道を踏みはずしそうに見えた。でも、違う。彼は一本筋が通った人間だ。彼の答えを聞いて、私の道は決まった。
「ありがとう、慎二。」
私は、あなたの言葉を信じる。
聖杯戦争の開始のゴングは、きっともうすぐそこまで迫っていた。
聖杯戦争開始まであと■■日。