Fate/Accelerate night:間桐慎二のサーヴァント   作:倉之助

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*魔術礼装捏造してます




Lie+Lie

 6人並んで泰山に向かう途中、慎二がちょっと学校に寄りたいというのでついていくことにした。なんでも、忘れ物をしたらしい。

 忘れ物と言う割にはなんだか冷めたような、何か期待しているような表情だったが。

 通り道だからいいよ、と笑えば慎二が「べつに、どっちでもいいんだけどさ。」とそっぽを向いた。「僕はあいつの態度がムカつくだけで、心配とかじゃない」とボソボソぼやく。

 ピンときた。これは、青春ってやつだ!ニヨニヨ笑いながら黙っていると横腹をど突かれた。現在、私をどついた慎二はそれが理由で清姫に締められている。しばらくしたら清姫に締められた腹いせにまた私がどつかれるんだろうな。うーん悪循環。

 

 「…マスター。」

 

 学校に近づくにつれて、エルキドゥとマーリンの顔が険しくなる。いや、二人だけじゃない。他のみんなもびりびりとした緊張感を纏いながら私の周囲を固める。

 

 「あっちで、サーヴァントが戦っているね。」

 「今すぐ妨害!」

 

 エルキドゥの言葉を聞いて、反射的にそう命令した。瞬間、「いいよぉ」と答えた燕青が弾丸のように飛び出して、それからエルキドゥに抱えられてマーリンも追尾した。偽装工作もバッチリだ。

 燕青はドッペルゲンガーで姿をまるで一般人(と言っていいのかわからない新宿のチンピラ)に変えているし、そもそも幻霊寄りのサーヴァントだから滅多なことでは正体がバレないだろう。数秒で目的地に到着したらしい彼らは一方的に私に念話をつないだ。

 ちなみに、念話は戦略的にも護衛的にも重要性が高かったので、割と初期の段階で開発されたカルデア産の概念礼装だ。まあ、礼装を持っていなければ発動できないのだが。ちなみに、この念話は私を仲介することで全体会話(グループ通話のようなもの)ができる。

 閑話休題。私と接続されたパスを通して、エルキドゥの声が脳内に響いた。

 

 『マスター、聞こえる?』

 

 私はそれに『うん、聞こえる』と頭の中で返信して、続きの言葉を待った。

 

 『今、キャスターとアーチャーを確認したよ。戦場は穂群原高校。』

 『学校で戦ってるの!?』

 

 そんな、バカな、嘘でしょう?だって、そんなの何人の犠牲者が出ることか!

 

 『燕青は!今どういう状況!?』

 『言われなくても、学校に周辺の一般人の避難誘導してるぜ、マスター!』

『僕は一緒に学校周辺に幻覚をかけてる最中さ!

 エルキドゥくんは学校に居残る生徒を探して保護しに向かってる最中さ。』

 

 指示を飛ばす前に行動する頼れる仲間に、ほっと息をつく。ひとまず、一般人の巻き込みに関しては大丈夫そうだ。

 

  「おい、何があったんだよ!」

 

 突然消えたサーヴァントに、無言のまま立ちすくむ私。状況を理解できずに混乱したのだろう慎二が私に摑みかかった。私は、乾いた口を唾で湿らせてから、「ん"、んー…」唸り声を出す。それから、ゆっくりと顔を上げて、慎二と目を合わせた。

 慎二の、綺麗な顔が間近にある。毛穴の開きどころか、シミひとつない白い肌。きりりとつり上がった目を縁取るバサバサのまつげ。怒っているからか、血色を増した赤い頬。いつもの青白い顔より何倍もこっちの方がいい。どろりと淀む瞳以外は完璧だ。関係ないことばかり、頭に浮かぶ。

 

 「ごめん、学校には寄れない。」

 

 ようやく絞り出した声は、淡々としていて自分の声じゃないみたいだった。

 

「はぁ?なんで!」

「学校で、サーヴァントが戦ってるんだって。」

 

 その一言で、慎二は黙った。彼は頭がいいから、たった一言だけで何が起きたか全て理解したのだろう。青白い顔になって、二、三歩後ずさる。

 

 「なら、仕方ないな。このまま泰山に行くぞ。」

 

 慎二は、しっかりとした歩調で歩く。

 

 『ごめんマスター、間に合わなかった。』

 

 脳内に、エルキドゥの声が響いた。この声はエルキドゥだと理解しているのに、内容が頭の中に入ってこない。間に合わなかったということは、まさかすでに脱落したということなの?

 ぞわり、と全身の皮膚という皮膚に鳥肌が立つのを感じた。

 

『それって…!』

 『一般人の犠牲者が出た。キャスターとアーチャーの戦闘を目撃してしまったらしい。新宿の彼が駆けつけた時はもう死んでいたよ。』

『そんな…』

 

 エルキドゥの淡々とした語り口で明かされたそれは、脳内で想定していたこととは異なるが、最悪の一言に尽きる。

 

 『キャスターの彼に杖で撲殺。今、アーチャーのマスターが治癒魔術を施しているが、意味はないだろうね。』

 

 それを機にアーチャーとキャスターの戦闘は終了したようだけど。と続けて、『そろそろそっちに戻るよ。』と念話が途絶えた。

 

 「…」

 

 巻き込まれた一般人。確かに、今までの特異点の修復で死なせてしまった人はたくさんいる。でも、それを「仕方がない」と許容してはいけないし、するつもりもない。

 

 『…うん?なぁ(あるじ)、こいつ生きてるぞ。』

 

 ふと、繋がった燕青との念話は到底信じられるようなものではなかった。エルキドゥが間違えた?そんな、まさか。

 でも、燕青が嘘をつく理由もない。

 

 『それはおかしい。僕も確認したけど、確かに彼は死んでいた。』

 

 マーリンがいつもの呑気な口調を崩さないで告げる。

 

 『運が良かったんじゃないのか?それか、仕留めが甘かったか。』

 『クー・フーリンに限ってそれはないだろう。いくらキャスターとして召喚されているからとはいえ、狙った獲物を仕損じることなどあるはずないだろう?』

 『ならなんだ、生き返ったとでも?』

 『…そうかもしれない。』

 

 マーリンの声は平静としていて、いつもと変わりない。

 

 『心当たりならあるさ。』

 

 だが、何か核心を得たような、しかしそれを認めるにはいかないというような微妙な声色がやけに気になった。

 燕青とマーリンが私を仲介して念話を繰り広げる。そして、キャスターがキャスニキだと判明。

 いや、今はキャスターだろうが関係ない。その英霊がクー・フーリンだとするのならば、死体が死んでいるか否かを確認しないで立ち去るなんてありえない。いくらランサーに比べて幸運値が上がったからといって、決して安心できる数値ではない。ゆえに、即死は入らなかったのか?

 

『燕青、お願いがあるんだけど』

 『あの少年の監視かぁ?』

 『護衛って言って欲しいんだけど、うん、そう。』

 

 燕青が不満そうに『りょおかい』と告げる。サーヴァント反応すら誤魔化せる彼ならきっと他の陣営に気づかれることなく監視もとい護衛が果たせるだろう。

 

 「燕青の分はテイクアウトにしよっか。」

 「いいね、麻婆豆腐にしてあげよう!」

 

 いつのまにか戻っていたエルキドゥがウキウキと告げる。おい、どんだけ麻婆豆腐推しているんだ。

 

 「ごめんね、慎二。行こっか」

 「終わり?」

 「うん。」

 

 置いてけぼりにされて拗ねている青髪の少年は「僕にも念話のパス繋げ。」とむくれた。

 「わかったよ。」と内心冷や汗をかきながらにこやかに告げた。あとで礼装渡そう。

 泰山に着いた頃にはもう少しで8時になろうか、という時刻になってしまった。

 

 「何食べたい?」

 

 そう聞いた瞬間、6人分の腹の虫がきゅう、と鳴く。

 8人掛けのテーブル席に着いて早々、ウェイトレスのお姉さんを捕まえてオーダー表の最初のページから最後のページまでをとん、とんと軽く人差し指で叩いた。

 

 「ここからここまで、全部ください。」

 

 お姉さんはひくりと口角を引きつらせながらも全てのメニューを復唱。「ご注文はよろしいですか?」と聞くその目には胡散臭いものを見るような色がのっている。

 

 「はい。」

 

 お姉さんは「お持ち帰りもできます」と最後に述べて、店の奥に引っ込んで行った。

 

 ーーー

 

 数秒前のテーブル状況。テーブルに乗り切らないほどの中華料理と異様な存在感を放つ禍々しいほど真っ赤な麻婆豆腐が一皿。

 現在のテーブル状況。

 私と慎二の二皿を除いて、麻婆豆腐を含めたほとんど全ての皿が綺麗に食べ切られてテーブルに積まれている。

 とくにエルキドゥの猛攻は凄まじかった。(血の池地獄よりも赤いであろう)真っ赤な皿に真っ先に手をつけたと思ったら数秒でペロリと完食してしまった。

 近くにいるだけでも食欲をなくすような鼻にも目にもささる刺激臭のそれを大盛りの白米の上にかけて、意外と上品に、しかしとんでもない速度で食べきってしまった。

 「うん、美味しいね。」とニコニコ笑う麗人はまだ誰も手をつけていない中華料理(の中でも割と辛いやつ)を順々に平らげて行き、最終的に「物足りない」と言って自らウェイトレスを捕まえ、泰山の麻婆豆腐ふた皿目と白米大盛りをオーダー。

 エルキドゥだけではない。清姫も姫の名に恥じない美しい所作と箸づかいでありながら大皿を一皿、また一皿と綺麗にしていく。おこわや中華粥を好んで食べている。

 ランスロットは速度も量も凄まじい。私が一口食べている間に大皿を完食していく。ほっぺたに米粒をつけながら食べるとは、あざとい。さすが円卓。

 ロビンもそんな3人を呆れた目で見つつも、自分自身も空き皿のタワーを建築している。 胸焼けしそうなほどこってりしてそうな揚げ物系と、味が濃く腹にたまる麺類を中心に完食している。男子高生か。

 マーリンはニコニコ笑いながらデザート系を制覇中。杏仁豆腐の空き皿など数える気が失せる。

 対して、私。あんかけそばを普通の女の子の食べる速度より少し早いかな、というぐらいのペースで食べ続けている。

 慎二は流石に食べ盛りらしく、大盛りの天津飯にパクついている。完食目前の彼だが、それでも向かい側の大食い三人衆に圧倒されている様子。

 大食い選手権の会場のようになっている私たちのテーブルが注目を集めるのは当然の結果だろう。未だに食欲が治らない彼らが思いも思いにオーダーするたびに、最初のウェイトレスさんの顔色が青くなっていく。

 中でもエルキドゥがとんでもなく注目されている。やはり、あの麻婆豆腐は人間が食べちゃいけないものなんだろう。

 

 『なぁマスター、ヤバイことになったぞ。』

 

 カチッと、急に念話が繋がった。燕青は少し焦っているようで、私の返事も聞かずに二の句を継げた。

 

 『あの一般人、魔術師だったみたいで、英霊召喚しやがった。それで、反転してない騎士王の姐さんが召喚されたぜ。おおっと、クラスはセイバーだ。

 聖杯戦争、本格的に始まったな。』

 

 かちゃん、とレンゲを置く音がやけに大きく聞こえた。そうか、覚悟はしていたけれど始まったのか。

 私と燕青の会話を聞いていた四人に目配せすれば、みんなしてコクリと頷いた。

 現在テーブルに残る食べかけの料理を風のように片付けて、まだ届いてないオーダー品はテイクアウトにしてもらう。

 数枚の諭吉をレジに支払って、テイクアウトは後で取りに来ると告げて店を出た。

 

 「慎二、聖杯戦争始まったって。」

 

 どっぷりと日が落ちて広がる夜闇。街灯の明かりと民家の明かりで照らされた暗い道では表情がわかりにくかった。

 

 「なら、やることは一つだろ。」

 

 慎二はコートを着なおして、暗闇でもわかるほどまっすぐと私を見つめた。

 

 「絶対に、聖杯を作らないんだろ。」

 

 街灯が点滅する。見えたり、見えなくなったりする表情に不安を覚えた。一瞬だが、はっきり見えた慎二の表情(かお)は、 まるでオンラインゲームで遊んでいる最中のような、今から起きることを現実のことだと認識してない顔だった。

 私と彼の聖杯戦争に対する認識の(ちがい)が、なんだかとても怖い。

 

 「…うん。」

 「これからサーヴァントの戦闘なんだろ?」

 

 慎二がコートを脱いだ。下から出てきたのはカルデアの制服。ワクワクした子どものような表情で、ふんふんと鼻唄を歌い出しそうな彼を見れば、これからいうセリフが簡単に想像できた。

 

 「当然、僕も行く。」

 「まだ、何も言っていないよ。」

 

 そう言って私はため息をついた。彼は聖杯戦争というものをわかっているのだろうか。

 燕青によると、セイバーのマスターもとい衛宮士郎くんとアーチャーのマスターの遠坂凛さんは言峰教会に移動中。

 一度アーチャーとセイバーが戦い、セイバーがマスターに手をかけようとしたらしい。

 が、戦闘は衛宮くんが令呪を使ってまでアルトリアを止めてくれたおかげで戦闘終了。お陰でなにも起こっていない。

 これは、もしかしたらもしかするのでは?衛宮くんに事情説明したら私たちに協力してくれるかもしれない。だけど、それをアルトリアが許すかどうかは未知数。

 青いノーマルアルトリアは比較的融通が利くタイプではあるが、夏のアルトリアは破茶滅茶街道爆走中。

 とある特異点では秩序を愛するあまり、死にゆく人間を選別して自らの保護下に置こうとした例もある。

 だけど、アルトリアが聖杯にかける願い次第では交渉決裂も十分にあり得る。

 そもそも、こちらにはマーリンがいるのだ。それだけでアルトリアに不信感を抱かれ、話をきいてくれないかもしれない。

 エミヤの願いは何だろうか。考えられるのは円卓のエンゲル係数を減らせとかクー・フーリンと一緒に編成するなとかエミヤ一家+αとかアルトリア増えすぎ問題とか食堂に回す人材をもっとよこせとか…だめだ、私の中のエミヤがママすぎてろくな情報が出てこない。

 街灯の少ない暗い道では数メートル先すら闇に飲まれてほとんど見えない。私は聖杯にどんな願いを託すのだろうか。

 言峰教会は泰山から近い。燕青の話だと二人はもう教会からは出てしまったけれど、近くの住宅街を歩いている。

 

 「あれ…マスター、サーヴァントが一騎増えたみたいだ。」

 

 エルキドゥが小首を傾げながら言う。A++の気配察知能力はその反応がバーサーカーのヘラクレスということまで瞬時に察知し、私に伝えた。

 

 「戦闘かな。」

 「また!?」

 

 これが本当の聖杯戦争なのか、戦いがひっきりなしに起こるとは。本来なら二、三日で決着がつくというのにも頷ける。

 

 「バーサーカーのヘラクレスにエミヤにアルトリアにキャスニキ…悪夢だ。」

 「まあ、ギルがいないだけいいじゃない。」

 「これで王様までいたら地獄だよ。まぁ、キャスター枠もアーチャー枠もセイバー枠も埋まってるから無いと思うけどさぁ。」

 「マスター、フラグって知ってる?」

 「マーリン死すべしフォーウ」

 

 地獄絵図を想像してしまい、うっかり吐きそう。何だその聖杯戦争。勝てる要素がない。

 くだらない話をしつつも、頭の中で対策を考える。時間は有限なのだ。

 

 「とりあえず、私とあと二人ぐらいで戦場に行こう。」

 「それは良いっすけど…。

 俺たちを隠すってことは、表立って戦うのはあんたなんですよね?」

 

 ロビンが危険じゃないか、と目で訴えてくる。そうだった、私は今やサーヴァント(偽)である。ならば、いつものようにみんなに指示を出して撃退という流れは使えないということか。

 

 「礼装があるから、多分なんとかなるよ。

 それに、ほら。ジークフリートからもらった『君もドラゴンセット』を着ればなんとかなるでしょ。見た目的にも、性能的にもさ!

 空飛べるって有利だし。あ、もちろん顔はファントムからもらったデスマスクで隠すよ?

 短距離戦は危険要素高いから、中・長距離戦…攻撃はアサエミからもらった機関銃にダヴィンチちゃんが作った弾込めて戦おうかな。」

 

 頭の中に概念礼装一覧がずらずらと並んでは消える。使えそうなものをどんどんピックアップしていくとあら不思議、完全武装の出来上がりだ。

 

 「だから、みんなはなるべく霊体化して隠れて。」

 

 不満そうにしつつも、「わかりましたよ。」と私の指示に従ってくれるロビンに感謝の念を抱きつつ、私はいくつかの概念礼装を取り出した。

 

 「慎二はこの万能布被ってロビンとランスロットに守ってもらってね。攻撃用にちくたくくん渡すから、何かあったらこれで爆撃。ちょっとした衝撃で爆発する割には威力やばいから使う時は気をつけてね。」

 「危険物わたしてんじゃねーですよ!」

 

 ロビンの激しい抗議をははは、と笑って受け流す。

 

 「礼装ばっかり、魔術は使わないの?」

 「私が?まっさかぁ。使えないよ。」

 

 むりむり、と顔の前で片手を横に振れば、慎二が「…ふぅん。」と納得がいかない顔で呟いた。

 

 「サーヴァントを百騎以上も使役してるくせに魔術が使えないなんて変な英霊だね。」

 「えー、そうかなぁ。」

 

 たしかに、生粋の魔術師の家系に生まれた彼からしたら、英霊召喚できるくせに礼装を使わなければ魔術もろくに使えないなんて可笑しいのだろうか。

 

 「(まあ、私はそもそも素人だからろくな回路を持ってないんだけど。)」

 

 どうにもならない事実を思いながら、礼装を一覧から取り出した。

 

 「清姫は竜になって目的地まで送ってほしいな。着いたら霊体化して隠れてね。エルキドゥはナビよろしく。

 マーリンは幻術要員。私たちを不可視に。あとサーヴァント反応誤魔化すのもお願い。

 連絡取り合いたいから念話のサーバー役もよろしく。」

 「私の仕事が多く無いかい?」

 「頑張れ。」

 

 何ともやる気のない声援を送り、私は端末から先ほどあげた概念礼装を引き出した。

 ありがとうジークフリート、バレンタインにこれをもらった時は戸惑ったけどこれ本当に役に立つ。

 

 「ねぇ、マーリン、お願いがあるの。」

 「なんだい、マイロード。」

 

 慎二が帰宅したのを見届けてから、私はマーリンに顔を寄せて、こそりと耳打ちをした。

 

 「私を、サーヴァントに偽装してほしい。ベディヴィエールにやったように。」

 「いいのかい?」

 「だって、そうするしかないじゃん。」

 

 私は、だってさぁ、と言葉を続ける。

 

 「私、今は間桐慎二のサーヴァントなんだもん。」

 

 もちろん、これ以外の理由もある。聖杯戦争を中止させたいのなら、内部の人間が働きかけないといけない。参加資格を持たないままでは、そもそも止める権限がない。

 マスターとして参加しても、やはり私は一般枠。証拠を提出しても、冬木の御三家に握りつぶされる可能性が高い。

 ならば、確実に声が届く方法は一つ。サーヴァントからの証言だ。

 偽物のサーヴァントでも構わない。今は、聖杯戦争を止めることが大切だから。

 だけど、慎二のサーヴァントだから、というのも確かに理由の一つなのだ。

 

 「マイロードの仰せのままに。」

 

 マーリンが笑う。とても楽しそうで、私はなんだかとても複雑な気持ちになった。

 「ますたぁ、行きます。」

 清姫の甘い声が、竜の咆哮に変わる。背中にまたがり一直線にサーヴァント反応めがけて飛んで行った。

 冷たい冬の風が頬を撫でる。豆粒サイズの冬木市の景色をじぃっと、睨みつけるように眺めた。でも、私の視界じゃ何も見えない。当たり前だが、悔しかった。

 ごうごうと風の音が耳元でうるさかった。

 

 「いたよ、あそこだ。結界が張られているから探し辛かったけど、この距離ならはっきりわかる。」

 

 目を凝らせば、何となく住宅街が見えるような気がする。

 

 「どうしますか、ますたぁ。」

 「突っ込む!」

 

 急下降する清姫の背中にがっちり捕まり、脳内でルービックキューブを解くように今後の展開を予測する。かしゃかしゃ鳴らしながら現在状況と勝利条件、そして敗走のルートを考える。

 道幅的に、竜の状態で清姫は着地できない。だから、私が単騎で行く。ドラゴンセットが正常に稼働していることを確認してから、私は清姫の背中に立った。

 マーリンとエルキドゥなら霊体化したまま私について来てくれるだろう。

 

 「ごめんね、清姫。作戦変更。先に家に帰ってて。」

 「…ますたぁがそういうのなら。」

 

 不服そうに、しかし従順に私の言葉に従う清姫に「ありがとう」と声をかけて、私は飛んだ。

 スカイダイビングは、不本意ながら慣れてしまった。嘘だ、やっぱり怖い。

 パラシュートなんてないから、不時着ギリギリまでこのまま落下し、激突スレスレで飛ばないと生存ルートがないという無茶な作戦に我がことながら苦笑いが出てしまう。

 さあ、ここで勝利条件の復習だ。

 

 1、サーヴァントを脱落させない。

 2、マスターと和解する。

 3、穏便に聖杯を破壊。

 4、私をサーヴァントだとこの場でだましきる。

 

 特に、1の条件は必須。4はそこまで重要じゃない。ならば私がやるべきは一つ。敵全体を戦闘不能にして仕舞えば良い。

 ガンドは連射できないが、そこはカルデアの技術力と技術班のオタク魂を炸裂させた色々アウトなロマン武器を、私は礼装という形で持っているのだ。スタン状態の付与くらいならば可能だろう。

 だから、現在進行形で感じている死の恐怖を飲み込んで、竜の翼を広げた。

 

 「(おちつけ、藤丸立香。私はまだ死にたくないだろうが!)」

 

 がちゃん、と空中で短機関銃を構える。

 そして、上空から視認できるようになったヘラクレスにアルトリア、そしてエミヤを目掛けてトリガーに指をかけた。

 銃声が3つ、深夜の住宅街に鳴り響く。放った三発のスタン弾はしっかりとその役割を果たしてくれて、スタンがかかって動けない三人が不自然な格好で止まっている。

 

 「何が、起きたの…?」

 

 呆然と、イシュタルに激似…というより、おそらくイシュタルの依代になったのであろう少女が呟く。

 スタンの効果は1ターン。それまでに話をつけなくてはと私は急いでひび割れたコンクリートの上に降り立った。

 上空から降ってきた私に驚いたように某魔法少女が飛びのく。おそらく、この世界のイリヤちゃんだろう少女にふわりと笑った。

 

「驚かせてごめんなさい。でも、今しかないと思ったの。」

 

 短機関銃を構えながら、わたしは告げた。なるべく、普段の口調からかけ離れた言葉遣いを意識する。イメージは生まれながらのアイドル、ステンノ様だ。全然似合わないが、変装は普段の自分とかけ離れていればいるほど良いというからこれで良いのだろう。

 動けないサーヴァント三騎の視線が怖い。

 

 「セイバーに何をした!」

 

 今度は村正にそっくりな少年が吼えたてる。うっそ、これで三人目だ。この場にいるマスター全員顔だけ知ってるんだけど。くだらないことを考えながら、私は微笑む。

 

 「すこし、麻痺してもらっただけよ。」

 

 余計に、少年の睨みが増す。

 

 「あなた、何者?」

 

 今度は白い雪の妖精のような少女が私に問うた。その目には思いっきり不信感と敵対心が浮かんでいて、当然のことだけどなんかショックだ。

 

 『マスター、演技下手だね。』

 

 脳内でマーリンの笑いをこらえた声が響く。殺意の波動で今なら大魔術が使えそう。使えないけど。

 

 「私?私は、そうね…」

 

 現実逃避はそろそろやめにするとして。

 本当、なんと言えばいいのだろうか?

 いつもならカルデアのものです、とでも言えばよかったがここは特異点ではない。説明は大体ドクターやマシュに任せっきりにしていた事実がここに来て私を襲う。

 そもそも、カルデアのことを知る人間もいないかもしれない。知ってたとしてもまだ完成前だし、それ以前に私の生体反応はサーヴァントとして偽装工作済み。令呪も丸見え。誤魔化せるだろうか?令呪をもつサーヴァント…あ。

 ひとつだけ、思い浮かんだ。

 

 「私はルーラー。」

 

 竜のツノに翼、尻尾。顔にはデスマスクで手には機関銃。身につけている服は近未来的なカルデア制服。明らかに聖職者にはかけ離れた悪魔的な見た目だ。一発で嘘だとバレるだろうな、と私も自分でついた嘘に呆れた。

 

 「裁定者(ルーラー)ですって!?」

 

 イシュタル(仮名)が叫んだ。イリヤ(推定)も絶句している。ただ、村正おじいちゃん(仮名)だけは意味がわからないというように「るーらー?」と首を傾げていた。かわいい。

 というか、まじで私のことルーラーだって信じてるの?うっそでしょ。ジャンヌとマルタ姐さんに土下座で謝らないといけない案件なのではなかろうか。

 閑話休題。

 私のついた嘘にイシュタルの外の人は取り乱し、「そんなことはあってはならないわ!」と悲鳴をあげているような、悲痛さを孕んだ声をあげた。

 

 「だって、そんな、嘘よ。だってルーラーが現れるってことはこの聖杯戦争に異常があるってことじゃない!」

 

 意図せず、狙っていた流れに流れていく話題に便乗すべく、私は「ええ、そうよ。」と端的に答えた。口元がひくついたが腕を組んでそれを誤魔化す。

 エルキドゥがゲラゲラ笑っている声が私のイライラポイントを刺激するが、今だけ棚の上に置いておこう。家に帰ったら棚から下ろすからなこんちきしょう。

 

 「私の目的はサーヴァントを一騎として脱落させることなく大聖杯を破壊すること。

 先に、宣言します。この聖杯戦争は誰も勝利しても行けないし、敗北してもいけない。

 誰かが敗北した瞬間、汚染された聖杯は呪いの泥を吐き出し、人類は滅亡するでしょうね。」

 

 大げさに身振り手振りをして訴えれば、マスター達が息を飲む。視界の端に剣のきらめき。

 アルトリアが剣に魔力を纏わせ、振り抜いていた。しまった、スタンの効果が切れてた…!

 

 「緊急回避!」

 

 私は自分自身に緊急回避をかけてそれを避けた。第2、第3撃目以降の攻撃を恐れて、私は上空に飛び立つ。アルトリアは風王結界(インビジブル・エア)を応用して空中戦も可能だろう。アルトリアがこの状況で出し惜しむわけがないと盾を展開した。

 アルトリアは地上から私を思いっきり睨み付け、剣に魔力を纏わせている。

 

 「聖杯が汚染されているなど、あってはならない!

 そんな戯言、信じられるものか!」

 

 斬撃が、飛ぶ。魔力放出による攻撃だと気づいた時には回避行動に移っていた。

 私の隙を見逃さずに風王結界(インビジブル・エア)で足場を作り、間合いを詰められた私はさらに上空に退避。

 それと同時に概念礼装・月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を自分に対して発動させた。戦闘が始まっているのに礼装を起動させられるかハラハラしていたが、なんとか起動させることができ、少しだけ心に余裕ができる。

 だが、油断なんてできない。礼装による無敵効果が使えるのは三回限定。アルトリアの攻撃に甘んじてただ受けるだけでは一瞬で効果が切れる。

 

 「(反撃しないと…!)」

 

 今取れる手段は少ない。武器は手持ちの短機関銃と盾しかない。敗走を許してくれるとは思えない。

 

 「(なら、戦うしかない!)」

 

 ジャキ!と銃を構えてアルトリアに向けて発砲した。込められた弾丸はアサシンのエミヤがくれた弾丸だ。使い切ると何もしなくても弾倉に銃弾が補填されているという謎仕様の銃だ。

 当然、魔力を消費する。カルデアとのパスが不安定な今、手持ちのマナプリズムの魔力を消費している。

 マナプリズムが切れたら、現在使用中の概念礼装の効果が切れて何もできなくなるので乱用には注意が必要だ。

 だが、ほんの少しトレーニングを積んだ程度の私の弾幕劇なんて、アルトリアはあっさり切り抜けた。私はまた高度を上げた。

 なんとか、5ターン以内に収めたい。じゃないとドラゴンセットの効果が切れてしまう。つまり、制空権が消える。それは不利だ。

 目の前に、エクスカリバーが迫る。緊急回避はチャージが終わらず使えない。月霊髄液の使用回数はすでに切れた。悪足掻きのようにF.Cフィールドを展開したが、たった一撃で3枚同時に破られてしまった。残りは二枚。

 黄金にきらめく剣が、振り上げられて…

 (あ、死ぬ。)

 

 

 それは、嫌だ。

 

 

 「セイバーやめろ!」

 

 私が令呪が宿らない左腕を犠牲にしてでも生き残る選択をしたのと、アルトリアのマスターが咎めるように叫んだのはほぼ同時だった。そして、アルトリアの剣が止まる。腕はギリギリで切り落とされるのを免れた。

 

 「なぜですか、マスター!」

 

 ぐわり、とアルトリアが眉を釣り上げ、大げさな動作で「どうして殺さないんですか!」と訴えた。まさか、令呪を使ったのかと彼の手を甲をみたが、令呪は発動しかけたのであろう、発光の名残を残すもきちんと二画残っている。

 セイバーに視線をずらす。意図せず、碧眼のそこに燃える決意の炎を覗き込んで驚いた。何にって、アルトリアの必死さに私は驚いた。それは、女神となった彼女が宿していたものによく似てる。

 第六特異点を嫌でも思い出させるその目が意味することは、絶対に叶えたい願いがあるということに他ならない。アルトリアは聖杯に何を願うつもりなのか。

 アルトリアといえば、食べることが好きで、聖杯にかける願いすら特に持たない高潔な王。

 願いが想定できない分、不安要素が大きい。

 

 「…く、ふう。」

 

 とうとう効果が切れ、地面に不時着した私は一度ドラゴンセットを戻した。代わりに、プニキにもらった槍を構える。槍はケルト勢によく鍛えられたからちょっとだけど自信がある。

 

 「俺も、ルーラーは信用できない。でも、嘘ついているとも思えないんだ。」

 「甘いですよ、マスター!

 大体、クラスだって自己申告。本当はルーラーではなく、別のクラスのサーヴァントがその名を騙っている可能性もあるのです。

 それに、あの少女が聖職者に見えますか?」

 「…見た目で判断するのはダメだろ。」

 

 暗に、『聖職者には見えない』とバッサリ言い切られたのだが、それは気にしない。だって本当に聖職者じゃないし。

 でも、今の私はルーラーだと言い張らないといけない。

 

 「失礼だ…ね。それならルーラーらしく、あなたの真名を当ててあげましょうか?」

 

 一瞬でた素の口調を無理やり直して、こほんと咳払いした。

 

 「なに?」

 「そうね、まずはセイバー。あなたからいきましょう。

 史実では男性と言われているが、それは某ろくでなし魔術師の策略のせいで、その魔術師の名前は…」

 「なっ!?

 わかった、わかったから言わないでください!」

 

 ろくでなし魔術師呼ばわりされた花の魔術師は慌てふためくアルトリアの姿を見て『写真撮りたい』と笑いながら言っている。

 

 「…なーんか、しらけちゃった。帰りましょ、バーサーカー。」

 

 顔色の悪いイリヤがくるりと身を翻す。ひとまず、戦闘は終了したという事でいいのだろうか?アーチャー陣営とセイバー陣営は協力関係と見て間違いはなさそうだし、一件落着ってことだろうか?

 

 「なら、私も帰るわ。」

 

 そう言って、逃げるように早歩きで立ち去った。1キロぐらい歩いたところで、ばたりと道端に倒れた。疲労が激しく、肩で呼吸している有様だ。

 理由はわかってる。複数のサーヴァントからの強烈な殺気と魔力に当てられたせいだ。ただの人間である私が、霊体化しているとは言っても味方に完全に頼れない状況でサーヴァントのフリをして立つなんて、無茶なことをしたなぁ。

 

 「はぁ、怖かったぁ。」

 

 魔術なんて、礼装を使わないと満足に使えないし、概念礼装も回数や効果が限定的。

 魔術回路は貧弱で、魔眼なんてすごいものを持っているわけでもない。魔術刻印の継承どころか、魔術師の家系でもない。カルデアからの優秀な魔力バックアップがあっても、バーサーカーが本気で暴れればすぐに魔力切れしてしまうほど貧弱で。

 一般家系出身のレイシフト適正だけが異常に優れていたってだけの、ただの人間だ。運はかなりいいかもしれないけれど。あと、体力。

 唯一胸を張って人より優れていると言えるのは、たたき上げで鍛えられた戦闘指示ぐらいだ。

 

 「お疲れ様、マスター。」

 「よく頑張ったね。」

 

 はっはっと短い呼吸を続ける私の背中をエルキドゥが優しくなで、マーリンが私をおぶる。ついに、涙腺が決壊しだばっと堰を切ったように涙が溢れ出した。

 

 「エルキドゥ …!マーリン…!!」

 「はいはい、言わなくてもわかってるよ。」

 

 怖かったね。とエルキドゥが満面の笑みを浮かべる。こういう時は笑わないで、心配そうな顔をするのが正しいんだよ、それじゃあドSみたいじゃん、なんて勝手に思いながら、だけどエルキドゥらしい行動に私も笑った。

 

 「ごめん、腰抜けてもう歩けないんだ。」

 

 ぐし、と袖で目元を拭った。腫れた目元を誤魔化すように、にっとクーフーリンが浮かべるような笑顔を意識して作る。

 

 「じゃあ、お兄さんが家まで背負ってあげよう!」

 「ありがとー。」

 

 ケラケラと音を立てて笑った。ゆっくりとした歩調で歩いてくれるから、家に着く頃には目の腫れもひいているだろう。

 これから、どうなるのだろう。この聖杯戦争はどんな方向に転がるのだろう。

 私が今まで行ってきたことが、聖杯戦争ではなく聖杯探索であったのだと、痛いほど実感した。だって私は、何かを切り捨てたことなんてない。自分の目的のために、他者を踏みにじることなんてしたことはない。

 魔術師もどきの私の求める普通の幸せなんて、魔術師の世界には存在しない。そんなの、旅の過程で痛いほど思い知った。

 だから、私はサーヴァントになんかなれない。英雄になんてなれない。そんな器じゃない。

 私は普通の人間だから。怖くて、震えることはあっても、人を疑い、恐れることはあっても、立ち止まることはしたくない、前を向いていたいと思うだけの、そんな人間らしい人間。

 守られてばかりの私でも、彼を守れるだろうか。

 マーリンの背中に揺られながら、そんなことを考えた。

 

 






嘘に嘘を重ねる。

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