碇シンジは夢を見る   作:ゼガちゃん

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どもどもお待たせしました。

書いていたらサブタイトルはこれが思い浮かんだので、これで。
死神さんが親指を下へ向けてそうなやつで再生して下さい。
指輪の魔法使いさんでも可です。

続きです。


さあ、パーティータイムだ

学校へ行ったその日の夕方。

シンジはNERVへと足を運んでいた。

 

「歓迎会&祝勝会?」

 

「そうよん♪ まだシンジ君が来てくれた歓迎会も、使徒を殲滅した祝勝会もしてなかったからね。決行は今日の夜よ」

 

訓練を一通り終えたシンジにミサトはそう声を掛けた。

 

「これにはサキエルを倒す時に協力してくれたオペレーターの人達も呼ぶわ」

 

「それは、腕が鳴りますね」

 

『平行世界』と同様、やはりシンジがミサト宅の家事全般を請け負っている。

料理に関しては味音痴が過ぎるミサトの代わりにシンジが担当する。

料理をするのは苦ではないので構わない。

 

ただ、ミサトの将来の為にも簡単な料理は出来るようになるよう特訓をすべきだ。

その他の家事もちょくちょく教えている。

成果がいつ花開くのかまでは不明だが。

 

「念のために言っておくけど、シンジ君の歓迎会と祝勝会だからね?」

 

「でも、祝勝会に関しては皆さんのおかげでもありますから」

 

歓迎会のみならいざ知らず、祝勝会ともなれば話は変わる。

皆が居なければ――――と、これは何度もした話か。

 

「それなら、僕が作る他にも用意して貰えれば」

 

「了解。それで」

 

シンジは自分の力だけではないと言うだろう。

彼が折れるとは思えないし、確かに彼の手柄だけにするのはNERV職員にも失礼と言って良い。

 

「だったら、リツコさんも誘いましょう」

 

「それは良いのだけれど……シンジ君は他に誘いたい相手は居ないの? 学校の友達とか?」

 

「まだ出来ていなくて……」

 

トウジとケンスケとも話はしたのだが、まだそこまで良好な関係を築けてはいない。

 

「個人的には同じパイロットの綾波さんを誘いたいなと考えてます」

 

「レイね。良いんじゃないかしら?」

 

パイロット同士のコミュニケーションを測るのも大事な要素だ。

シンジが興味を持つと言うのならミサトとしても良い傾向だと言える。

 

一方のシンジは密かに綾波に「さん」付けする練習を重ねていた。

今ここで、その努力が実った。

 

「それにレイは可愛いからね~。シンジ君もお近づきになりたいのかしら~?」

 

「確かに綾波さんは可愛いとは思いますけれど、まだそういう感情があるかまでは分からないですね」

 

シンジは頬を掻きながら返した。

初な反応を期待していたのに残念だと思っていたり。

 

「それにまだ綾波さんとそこまで話していないですから。人柄なんかも分からないですよ」

 

シンジは綾波ともまだ挨拶を交わす程度の間柄でしかない。

最初の邂逅はエヴァに乗る直前のストレッチャーの上で。

次は本日の学校の教室にて。

通算してようやく1日程しか会っていない。

おまけに綾波は『綾波レイ』よりも無口である。

話すタイミングが掴めなさすぎた。

 

こういう時でもないと綾波を誘う機会が一生訪れないのではと感じていた。

だからこその提案でもあった。

 

「綾波さんに連絡って取れます?」

 

「連絡先は勿論知ってるわよ。だけど、今日ならレイはNERVに来てる筈よ」

 

どうせなら直接誘えと言うお達しだ。

確かに、連絡だけでは味気無い。

シンジとしても綾波と話せる機会が増え、早い段階で仲良く出来る方が嬉しいに決まっている。

 

「分かりました。誘ってみます」

 

「そう来なくっちゃね。多分レイはリツコの所へ行ってると思うわ」

 

「リツコさんの? なるほど」

 

それはリツコを誘う上でも丁度良い。

シンジも何度か訓練の後にリツコの所へ足を運ぶ。

基本的にメンタルケアや体調管理をメインにしてくれている。

綾波が赴くのも同じ理由だろう。

 

「それじゃあ、リツコさんの所へ行ってきます」

 

「あたしはオペレーターの人達を誘ってくるわ」

 

こうして歓迎会&祝勝会の計画が始まった。

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「あらシンジ君、いらっしゃい」

 

「…………」

 

病院の診療室のような間取りの部屋でリツコと綾波は椅子に座って向かい合っていた。

シンジからはリツコの顔は見えるが、綾波は背中しか見えない。

リツコはシンジの入室に返事し、綾波は振り返って入室者を見てくる。

 

「どうかしたのかしら?」

 

「今夜僕の歓迎会と、使徒を倒した祝勝会をするそうで。リツコさん、それに綾波さんも参加しないかと誘いに来たんです」

 

「そうだったの」

 

綾波は相変わらず無言のままで、リツコばかりが返事している。

 

「ごめんなさい。まだ仕事が残っていて参加は難しいわ」

 

「そうですか…………じゃあ、綾波さんはどう?」

 

リツコが参加できないのは残念だ。

なので、ターゲットを彼女から綾波へ変更する。

 

「命令なら」

 

「命令? いやいや、違うよ。お願いだよ」

 

こちらの綾波は随分と軍人気質だ。

『綾波レイ』との違いが大きすぎる。

この分だと、実はアスカやまだ見ぬ他の面々も同様なのではと勘繰ってしまう。

 

「綾波さんとは同じパイロットとして打ち解けられたらって思うんだ。一緒に使徒と戦う仲間としてコミュニケーションを取るのは大事な事だよ」

 

『平行世界』の綾波も最初はこうだったのかなと思いながら胸の内を晒す。

 

「…………」

 

綾波は困ったようにリツコの方を向く。

どうしたら良いのか分からない――――と言った面持ちだろうか。

 

「シンジ君がこう誘っているのだから、行ってみたら?」

 

「分かりました」

 

リツコに促され、綾波は首肯する。

他人に決定権を委ねている。

しかし、綾波はシンジよりもNERVに所属している期間が長い。

先程の軍人気質っぽさも含め、シンジの知らない暗黙のルールがあるのだろう。

 

―――まあ、上司の許可なく動くのも問題はあるからね。

 

そう考えると府に落ちる点は多かったりする。

 

「司令は呼ばないの?」

 

「うーん、連絡先が分からないのもあるけれど…………」

 

「多分、参加しないでしょうね。今夜は忙しいでしょうから」

 

リツコへ視線を配ると、彼女は答えを導いてくれた。

まだ再会して少ししか会話していないが、無愛想なのは十二分に伝わってきた。

 

「そう」

 

随分と無機質な声音だ。

司令――ゲンドウを気にするのならば、少なくとも彼とは親しい間柄なのだろう。

 

―――その件に関しては、父さんがロリコンではない事を祈るよ。

 

恐らく、そういう意味合いではない事は内心では分かっている。

彼は『平行世界』では妻一筋だ。

その根本は大きくは変わるまい。

 

「ねえ、綾波さんは食べたいものはある?」

 

「ニンニク」

 

「なら、それで何か作るよ」

 

『綾波レイ』と好物(?)が被っていて助かる。

臭いが気にならない程度のものを作れば問題あるまい。

綾波も女の子なのに臭いは気にしているのか不安になる。

 

「料理、作れるの?」

 

「うん」

 

これは自己紹介の時にしたと思っていたのだが、想像以上に綾波は無関心らしい。

 

とりあえずそこは置いておこう。

さっきから、こんな事よりも気になる事がある。

 

「綾波さん。もうちょっと口角を上げて笑ってみようよ」

 

「? どうして?」

 

唐突なまでのシンジからの要請に綾波は首を傾げる。

 

「その方が可愛いと思ったから」

 

「可愛い…………?」

 

シンジに「可愛い」と言われるも、綾波はまたも首を傾げるばかり。

普通なら照れてしまいそうな場面ではある――――のだが、言われた事を理解していないと言った様相である。

 

「皆からの印象も良くなるよ」

 

「そうしたら、何かあるの?」

 

「皆とのコミュニケーションを取りやすくなって、使徒殲滅の確率もアップするよ」

 

「それだけ?」

 

「あとは単純に僕が綾波さんの笑顔を見たいな、と」

 

「何故?」

 

恐らく、その問い掛けは綾波レイにとって純粋なまでの疑問であった。

それは彼にとって何か有益なものになるのだろうか?

 

「可愛い女の子の笑顔を見たいのは男の子の性みたいなものだから」

 

「そう」

 

シンジの弁に綾波は素っ気ない返事をする。

無表情なのは変わらず――――だが、

 

「考えておく」

 

「うん」

 

綾波が考える素振りをし始めたのは良い傾向だと言えた。

シンジはそれを見て満足げに頷く。

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

「行くって、帰らなくて大丈夫なの?」

 

「ええ。このままで良いわ」

 

綾波は案外せっかちな所があるのかとシンジは思った。

リツコに挨拶をし、綾波を伴ってミサト宅へと一足先に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて!! シンジ君がNERVへ来てくれた事と、使徒の殲滅の成功を祝して――――乾杯!!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

ミサト宅にて歓迎会と祝勝会が同時に行われる。

 

乾杯の音頭を取ったのは缶ビール片手に意気揚々とするミサト。

オペレーターの青葉シゲル、日向マコト、伊吹マヤの3人。

そしてパイロットからシンジと綾波だ。

 

「しかし、シンジ君が料理上手だとは聞いていたけど…………これは凄い」

 

「確かに、美味しいです」

 

「本当、ミサトさんが御飯時が待ち遠しくなるのが分かります」

 

パーティーように用意した長テーブルの上にはシンジが用意した料理の数々がバイキング形式で用意してある。

とは言え、時間もあまり取れなかったので唐揚げやポテトフライといったものが多めだ。

 

綾波ご所望のニンニク料理もある。

ミサトとマヤの反応が気になるが故に先にニンニク料理の件は伝えてあった。

そこは2人は寛容であったので、出させて貰った。

 

あとはパンやご飯ものなんかはミサト達に用意して貰った。

 

「けど、ミサトさんの部屋は綺麗にされてますね」

 

「うんうん。女子力高いから見習わなくちゃ」

 

日向が言うと、マヤも頷きながら言った。

ミサトの自宅は綺麗に掃除が行き届いていたからだ。

 

「あはは、だけど、あたしもシンジ君に教えて貰いながらやってるのよ」

 

「シンジ君に?」

 

ミサトがバレるより前に先にゲロった。

当然、矛先はシンジへと向く。

 

「家事なんかは一通り出来ますよ」

 

何の気無しにシンジは告げる。

全員一致で「主夫だ」と思った瞬間でもあった。

 

「レイも独り暮らしだから家事なんか出来るのかしら?」

 

「いえ、していないわ」

 

「………………え?」

 

まさかのカミングアウトだ。

ミサトもまさかそのような返しが来るとは思わず、フリーズしてしまう。

 

「それは、綾波さんは家事の必要性が皆無な状況って事?」

 

「ええ」

 

これ以上無い程に的確な質問をすると、返ってきた答えはまさかの「Yes」である。

NERVの方で家政婦でも雇っているのだろうか?

 

「ところで、シンジ君はどう?」

 

「どうって?」

 

話題転換するには下手な話の広げ方をミサトはする。

あまりにも抽象的な問い掛けが過ぎたので、綾波は首を横に傾げるばかり。

 

「同い年の男の子が来たのよ。興味が湧いたりしないの?」

 

「分からない」

 

ミサトがニヤニヤとした表情で問い掛けるも、当の綾波はこれまた首を傾げる。

 

「まあ、シンジ君が来てから日が浅いしね」

 

これ以上は何も言うまいとミサトは深く詮索するのを止める。

今告げたようにシンジが第三東京市を訪れてから1週間と経っていない。

互いの事を知らないなら進展が無いのも致し方あるまい。

相性の合う合わないは存在するとミサトも思っている。

何やかんやと突っつかれても当人達は困惑するだけだ。

 

「まずは、互いの呼び方を変えてみるって言うのも手かもね。下の名前だとさすがにハードルは高いから名字で」

 

「えと、僕は既に呼んでるんですけれど……」

 

ミサトの提案にシンジはそのように反論する。

しかしながら、ミサトは顎に手を当てながら――

 

「直感なんだけど、シンジ君がレイの事を『綾波さん』って呼びにくそうにしてたから」

 

鋭いお指摘で。

ミサトさんの直感はかなりの高ランクスキルに違いない。

 

「そう、ですね。出来るなら『さん』付けをしたくないなとか考えてました」

 

ここは素直に答えておこう。

正直、シンジ自身がいつもの癖で綾波の事を名字でも呼び捨てにするタイミングが来るか分からない。

 

「良いんじゃない? レイもシンジ君の名前を呼んであげればフェアだろうし。親睦も深まるしね」

 

「はい」

 

ミサトとしてはシンジと綾波がコミュニケーションを取り、仲間意識を強めて欲しいのが本心だろう。

シンジの提案は、2人を仲良くさせたいミサトからすれば渡りに船だ。

 

綾波は分かっているのか不明瞭だが、頷いてくれた。

少なくとも嫌ではないと解釈出来る。

いきなりのシンジの提案だからドン引きされないとも限らなかったが、どうやら彼女は気にしない様子だ。

 

「じゃあ、改めて…………よろしく、綾波」

 

「よろしく碇君」

 

ミサトが知らずフォローしてくれたのもあったが、おかげで『平行世界』と変わらない呼び名をする事が出来る。

これでボロを出してしまう心配は当面無さそうだ。

 

「さて!! パイロットの2名の親睦を更に深める為にもまずは食って、飲んで、楽しみましょう!!」

 

缶ビールを片手で高々と上げる。

直後、口へ持ってくると喉を鳴らしながら腹の中に一気に放り込む。

 

せっかくのパーティーだ。

彼女の言う通りに楽しまなければ損だ。

こうして、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

あれから日付が変わる間際にまで歓迎会&祝勝会は続いた。

 

「これは、また凄い事になっちゃったかな」

 

 

頬を掻きながらシンジはボヤいた。

リビングにて酔い潰れて寝転がる大人達の姿が目の前にあった。

 

「ごめんなさい。こういう時、どうしたら良いかわからないの」

 

隣で鼻眼鏡を掛け、白い服に「R」と赤く書かれた服に黒い肩当てをした綾波が表情を一切変えずに質問してきた。

 

「とりあえず、布団を敷いてから運ぼうか」

 

シンジは「本日の主役」と書かれた襷を掛け、とんがり帽子を被らされた状態で困惑した表情をする。

男連中はタオルを鉢巻代わりにしてパンツ一丁であり、ミサトは酒瓶を抱き枕にして寝て、マヤはNERVの制服を着て爆睡している。

この元凶を作ったのは酒瓶を抱き枕にする美人上司の仕業である。

当人は気持ち良さそうに寝て夢の中だ。

 

「さて、と。これで終わり」

 

綾波が意外と力があり、中学生の2人でも何とか大人4人を運び終えた。

男と女で分ける必要はあったが、リビングから一部屋分だけの移動なので難しくなかった。

 

その後に着せられたものを脱ぎ、宿泊前提で用意していた寝巻きにそれぞれ着替える。

綾波の分は予めミサトに頼んで用意して貰っておいた。

着の身着のままで来たのだから何も持ってなかったのだから。

 

「お疲れ様、綾波。はい、これ」

 

「ありがとう」

 

綾波へジュースの入ったコップを渡す。

2人で向かい合って椅子に座る。

 

「綾波に聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

 

「構わない」

 

「綾波はどうしてエヴァに乗るの?」

 

それは突っ込んだ質問だっただろうかと言ってから思ってしまった。

だが、それでもシンジは気になるのだ。

綾波がエヴァンゲリオンに乗る理由が。

 

「絆、だから」

 

「絆? 誰との?」

 

「皆との絆だから」

 

『この世界』での綾波とは出会い、言葉を交わした回数も少ない。

けれど、彼女の一言は紛れもなく芯の通ったものであった。

 

「私はエヴァに乗る為に生まれたようなものだから、パイロットをやめたら何もなくなってしまう」

 

しかし、次いで彼女が紡いだ言葉は悲しい内容を含んだものであった。

 

「もし、そうなれば…………それは死んでいるのと同じだわ」

 

綾波レイにとって、エヴァンゲリオンは存在意義も同然なのだ。

皆との絆が何を指しているのかまでは分からない。

けれども、綾波レイの考えを――――

 

 

 

 

 

「そんな事ない!!」

 

 

 

 

 

碇シンジは真っ向から否定する。

 

「エヴァンゲリオンのパイロットをするしか存在意義がないみたいな、そんな悲しい事を言わないで!!」

 

綾波レイが『この世界』で何があったのかは知らない。

シンジには分からない“何か”があったのは伝わってくる。

 

「僕は綾波がどんな想いで言ったのかは分からない。もしかしたら、赤の他人でしかない僕が踏み込むのはお門違いかもしれない」

 

そんな事はシンジとて理解している。

これは綾波の考えである。

自分がとやかく責め立てる必要性が何処にあるのかと問い掛けられよう。

 

そう言われたとして、碇シンジには踏み込まない理由が無かった。

 

「エヴァンゲリオンに乗る事でしか存在意義を見出だせないのは間違ってる!!」

 

変化球も何もない。

ど真ん中ストレートの豪速球だ。

 

「私はエヴァに乗る為にこれまで生きてきたの。他の生き方は知らないわ」

 

「それは、父さんや他の皆に言われるがまま?」

 

「ええ」

 

シンジからの問い掛けに綾波は迷う事なく頷いてみせた。

シンジも予想できていたからこその質問でもあった。

それに対して綾波は肯定する。

 

「綾波が言うならそうかもしれない」

 

一呼吸置く。

シンジからすれば至極当然に見えてしまった事柄を。

 

 

 

 

 

「だけどさ、綾波の存在意義はエヴァだけじゃ無くなってるよ」

 

 

 

 

 

「…………?」

 

まさかの発言に綾波は首を傾げる。

何故? 口に出さず、行動で問われる。

 

「“僕からしたら”綾波はエヴァとか関係無しに居なくちゃ困るんだ」

 

それは綾波レイにはエヴァンゲリオンだけではないと伝える。

しかし、これまで彼女はエヴァンゲリオンと共に道を歩んできたと言っていい。

それで彼女の心に響く等とは思っていない。

 

それでも良い。

こちらの考えを強要するつもりは毛頭無い。

ただ、知っていて欲しいだけなのだ。

 

「僕だけじゃない。綾波の参加に皆はOKを出してくれた。エヴァンゲリオンとか、パイロットだとか……そんな事は抜きにしてさ。

 それだけ皆が綾波と仲良くしたがってる。ただ、それだけの事が嬉しいんだ。少なくとも、僕は嬉しく思ってる」

 

「そう」

 

捲し立てられる発言の数々に綾波は言葉少なめに答えた。

 

「どう考えてるのかは綾波にしか分からない。だけど、覚えていて欲しいんだ」

 

「覚える?」

 

「うん」

 

鸚鵡(おうむ)返しに問われ、シンジは首肯する。

これは単純な事なのだ。

 

 

 

 

 

「綾波が思っている以上に、僕達はエヴァンゲリオンを抜きにして綾波レイって存在を認めてるんだ」

 

 

 

 

 

綾波レイが思うより、彼女の存在は皆にとっても大きい。

それは先程も言ったようにこの会に来てくれた綾波を歓迎してくれたのが何よりの証左だ。

それで綾波レイを認めていない筈がない。

 

「綾波はエヴァの事を考えずに生きていくのは不安?」

 

「分からない。そもそも、そんな事を考えた事がない」

 

綾波レイとして、これまで一度として考えた事の無いもの。

例え話として、挙げた事もない。

 

「大丈夫だよ綾波。僕達はまだまだこれから長い人生を歩んでいくんだ。気長にやりたい事を見付けていこう。って、僕も何か将来の夢を持ってる訳ではないけれど」

 

「将来の夢…………」

 

提示されるのは綾波も初めての事柄であるのだろう。

自分がエヴァンゲリオンに乗らない未来がいつか訪れるのか?

そうなったとして、綾波レイが歩みたい未来は何なのか?

 

それはまだ分からない。

分からないが、シンジの言葉に嘘がないのが分かる。

 

「でも、まずは使徒を何とかしないといけないんだけど……」

 

使徒をどうにか退けない限り将来の夢を持っても叶えるのは難しい事だろう。

その為に戦わねばならないのだが…………

 

「エヴァに乗るの、正直に言うと怖いんだ」

 

「怖い? 碇君のお父さんが造ったものを信じられないの?」

 

珍しく綾波が強く反応してきた。

綾波が如何にゲンドウと強い信頼を結んでいるのかが分かる。

それこそ、彼女の言う「絆」の1つか。

 

「違うよ綾波。信じるとか信じないとか、そういうのじゃないんだ」

 

きっと、同じパイロットである事が綾波に語りかける切っ掛けになっている。

胸の内を思わず吐露してしまうのも。

 

「エヴァで使徒と対峙した時、殴った時、蹴った時、攻撃を受けた時――――そのどれもが怖かったんだ」

 

シンジは手元にあるコップを見つめる。

中身のジュースに自分の顔が映っている。

その顔は、酷いものだ。

悲しみや恐怖といった負の感情が表に出てしまっている。

 

「僕はさ、自衛する程度には色々と習ってきた。でも、それで本当に誰かと殴り合ったとかはした事がないんだ」

 

シンジも争いそのものは苦手だ。

自衛の為の力があっても、それを無闇に振り回す主義は持たない。

 

「使徒と人類、どっちが先に手を出したのかまでは僕も分からない。だけど、使徒は僕達の未来を脅かす動きをしたのも事実だ」

 

下手をすればあの時に鈴原サクラは命を落としていたかもしれない。

 

「今頃になってだけど、僕は膝が震えてる。敵と戦うって、命を懸けて戦うって、本当に怖いものだって実感したから」

 

ミサト達にも吐露できない話だ。

人類の希望であるエヴァンゲリオンのパイロットなのだから、こんな事を考えるのは間違っているのではないか。

でも、仕方無いのだ。

 

「だって、死ぬのは怖いから。この恐怖は仕方無いものなんだ」

 

使徒は人類を脅かす存在なのだから、何も考えずに倒すべきだ。

そんな事は分かっている。

分かっているのに、シンジはつい考えてしまう。

 

けれど、彼は決して機械ではない。

感情のある人間なのだ。

だから、命のやり取りの中に放り込まれれば恐怖を覚えるのは全うだと言える。

 

「なら、どうしてまたエヴァに乗ろうとしているの?」

 

綾波の疑問は至極当然のものだ。

シンジは言ってる事と行動が矛盾している。

全くと言って良いほどに噛み合っていない。

 

「皆からの期待が嬉しいとか、頼られてるのが嬉しいのもある…………だけど一番は間違いなく、皆を助けられるだけの力がある事かな」

 

「皆を、助ける?」

 

「うん」

 

今度はうつ向かせていた顔を前へと向ける。

返ってきたのは、実にシンプルな答えであった。

 

「皆を助けられるなら、僕は戦える。でも、その「皆」には自分も含むようにリツコさん達に釘を刺されたよ」

 

他人の為だけじゃない。

自分の為にも頑張れと暗に言われた。

 

「僕だけじゃない。皆も必死で、使徒なんて化物に立ち向かってるんだ」

 

エヴァンゲリオンが如何に人智を越えた存在だとして、使徒に勝てるかどうかまでは分からない。

前線で戦うシンジ達を支えるべく、皆がそれぞれ頑張ってくれている。

戦自の面々もサキエルの時は身体を張って戦ってくれた。

 

「皆の頑張りを見て、僕も勇気を貰えたんだ。だから、決めたんだ――立ち向かうって」

 

真実までは告げられない。

これまで『平行世界』で救ってくれた皆と同じ人物達が困っている。

彼等彼女等を助けたい――――そんな気持ちも込められている。

 

「碇君もエヴァに乗る理由を見付けていたのね」

 

「皆の為、そこに自分の為が加わったかな」

 

自分の命も勘定に入れるようになった。

それは周りの助けがあってこそ。

 

「まあ、話が脱線しちゃったけどさ……つまるところ、綾波は僕にとって、僕達にとってエヴァ抜きでも仲良くしたいって事を覚えていて欲しい」

 

「覚えておくわ」

 

話が回りくどくなってしまったが、綾波には届いてくれたと思う。

こうして夜は更けていく。

 

片付けは翌日へと回し、2人も布団を敷いて就寝する。

 

余談だが、男女が同じ部屋で寝るのをシンジが良しとしなかった。

なので綾波はリビングで、シンジは男部屋の方で寝る事になる。

 

シンジは酒の臭いと男2人の寝相の悪さでなかなか寝付けなかった。




如何でしたでしょうか?

サキエル戦直前に話していた歓迎会&祝勝会をぶちこみました。

ここで綾波と初めて会話をさせました。
綾波の話し方は難しい。
こんな感じで良いのかな?

先にシンジと綾波の呼び方をラミエル戦後のものに。
そうしないと作者が間違えそうなので、ここで変えさせました。

そして、そこでのやり取りも一部を抜粋。
綾波の乗る理由、シンジの乗る理由を吐露してくれました。

綾波レイの事を『平行世界』で知っているからこそ、碇シンジは必死に語りかけました。
関係の変化もあり、届き始める事でしょう。

これまでも何度かシンジは言っていました、戦う事での『死』に恐怖を綾波に吐き出します。
ミサト達にも言ってはいました。
ですが、皆の為に戦うと決めたシンジは心の底からは言えていませんでした。
他の戦う人類の姿勢を見てきた事で、気持ちの変化も同時に伝えてくれました。
これは、誰にも言っていないので綾波相手が初です。

ちょっと軽いかなとも思いますが、シンジ君も中学生で感受性もありますから。

さて、そろそろ次の使徒が攻めてくるかもしれませんね。
では、また次回に。
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