めっちゃはりきって作ってました。
タイトルから予想できる人も多いでしょう。
予想通りです。
今回も長めです。
シンジは現在、少女と2人っきりだ。
その少女は美少女なのだから最高だと言わざるを得ない。
「はあ、何でアタシがアンタとこんな所で……」
「こうなっちゃったのは仕方無いよ。あとはなるようになるさ」
「なるようになるってね…………まあ、実際にその通りかもだけど!! アンタみたいな冴えないガキと一緒に居るのが嫌なだけよ!!」
どうにもシンジの事をこの少女は快く思っていないようだ。
キツい言葉を浴びせてくるとなると、先程の羨ましいと思えるシチュエーションも台無しだ。
しかし、強気な性格のこの少女をシンジは『平行世界』で良く知っている。
そして、この少女がツンデレなのも理解している。
「せっかく時間はあるんだから、同じパイロット同士親睦を深めようよ。ちなみに今期のイチオシのアニメなんだけど――――」
「パイロット関係無い話になってないかしらっ!?」
シンジがいきなり「今期の推しアニメ」を話題箱から取り出した事へ少女から鋭いツッコミが入る。
平常で居られないのも無理無い。
今現在、2人はエレベーターに閉じ込められている。
電源が落ちてしまい、開く気配は皆無だ。
少女もシンジもプラグスーツを着ており、荷物は置いてきている。
何故このような事になっているのか?
これからこの事態になった経緯を話さねばならない。
碇シンジと少女――――惣流・アスカ・ラングレーがエレベーターに閉じ込められるに至った経緯を。
「シンジ君、明日ドイツへ向かうのだけれど付いて来てくれないかしら?」
「………………えっと、もう1度言って貰っても良いですか?」
シャムシエルを殲滅して早3日が経過した。
シンジには特段の怪我も無く、それはトウジとケンスケも同様だった。
ところで、この2人にはお咎めは無かった。
中学生が故のシンプルな視点から突き止められたシャムシエル殲滅の方法。
その功績を認め、エヴァンゲリオンといった機密漏洩を行わない事を約束させた。
この件を一も二もなく頷かせたのは誰あろうミサトである。
大人の女性、しかも美人から頼られた。
その事が男子中学生の2人を頷かせるには簡単な方法であった。
美人の前に残念が付く事までは知らない男子中学生は夢心地である。
ちなみに、2人への対応とミサトにそのようにするよう指示したのは碇シンジであったりする。
『平行世界』でも関わりがあり、年齢も近しいのだから彼等の心理に近しいのは言わずもがなだ。
見事に型に嵌まってくれた。
そんなこんなで現在に移る。
訓練を終えた後のリツコの部屋でのカウンセリングが行われていた。
その部屋の主から近くの店にでも出掛けるような気軽さで国境を跨ぐレベルのお出掛けに誘われた。
突然のリツコからの誘いにシンジはこめかみに指を当てながら再度問う。
「サキエル、シャムシエルと立て続けに使徒と戦った初号機に大きな損耗も無し。おかげで零号機の修理にパーツとお金を回す余裕と時間が出来たの。必然的に設計をする立場にある私の時間も、ね」
問い直した内容とはおおよそかけ離れたものからスタートをする。
しかし、リツコの事だから順を追って説明してくれるだろうと信頼して無言で聞き役に徹する。
零号機は言わば綾波レイ専用機の名称だ。
シンジも軽く話は聞いていただけで、つい最近まで凍結していたと聞く。
話の内容から凍結は解けたと考えて良いだろう。
「NERVドイツ第三支部でエヴァンゲリオンが組み立てられているのだけれど、それを協力するという建前で様子を見に行こうと思ってたの」
「けれど、それと僕に何の関係が?」
シンジが同行する理由が分からない。
エヴァンゲリオンの設計なんかは主にリツコが担当している。
彼女が組み立て中のエヴァンゲリオンの視察に赴くのはまだ分かる。
パイロット、所詮は中学生でしかないシンジが他の支部へ向かう事には繋がらない。
「ドイツ支部に居るパイロットが日本で立て続けに現れた使徒を撃破したパイロットに興味津々みたいなの」
「向こうにもパイロットが? いや、エヴァンゲリオンを造っているなら居るのは当たり前ですよね」
しかし、向こうからのご指名があったとは。
シンジの戦闘の様子は映像として送られていよう。
「けど、ドイツ語は話せませんよ?」
「訓練の片手間で日本語は覚えたみたいだから心配要らないわ」
「そうなんですか」
それならドイツ語が分からずに会話が成り立たないなんて事も起こらなそうだ。
それにしても訓練の内容がエヴァンゲリオンのものなのは言うに及ばず。
そんな中で日本語を習得するなんて相当の努力家なようだ。
「と言う事は、僕の先輩ですよね?」
シンジはサードチルドレン、綾波はファーストチルドレンだ。
つまり、セカンドチルドレンと呼称される人物となる。
「ええ、どんな人物なのかは――――多分、写真を見ればシンジ君なら分かるんじゃないかしら」
つまりはシンジも知る人物と言う事か。
しかし、『こちらの世界』でドイツの知り合いは居ない。
何なら日本から海外へと出た記憶もない。
幼い頃にはあったかもしれないが、物心付く前なら余計に記憶に残ってなどおるまい。
しかし、リツコはやけに自信満々だ。
恐らくは見せようとしているセカンドチルドレンの写真を見れば行く気になると思っているから。
シンジは手渡された写真を受け取ると固まった。
リツコの言うように見覚えのある人物――――少女であったから。
「アスカ」
惣流・アスカ・ラングレー。
碇シンジにとっても綾波レイと同等以上に大切な少女である。
写真を見せられたシンジの選択肢は1つしか無かった。
その答えが翌日明朝、飛行機に乗る事である。
ちなみにドイツには日帰りで、リツコとシンジと数人のSPが来ているのみだ。
この件は他にゲンドウと冬月のみしか知らない。
ミサトさえも知らないらしく、彼女にはリツコから「シンジ君に用があるから借りるわ」と言われたようだ。
極秘裏の話に自分が付いてきても良かったのかとシンジは不安視もしたりした。
無論、その点以外にも気になる部分はある。
「あの、僕が来てしまって大丈夫だったんですか? 使徒が襲撃でもしてきたら――――」
「そこは心配は要らないわ。零号機の凍結が解除されて、これから先はシンジ君だけに戦わせる事は無くなったのよ」
零号機の凍結解除の話は前日に聞いていた。
確かに戦力増強は嬉しい話だが、シンジも離れずにNERVで待機して使徒の襲撃に備える方が適切ではないかと案じる。
「ふふ。レイの心配?」
「はい」
付いてきておいて今更かと言われてしまいそうだ。
しかし、リツコは苦笑しながら返した。
「大丈夫よ。あの子はパイロットとしての訓練をシンジ君よりも長く受けてきたのだから」
確かに『こちらの世界』では綾波はパイロットとして先輩だ。
後輩にあたるシンジが心配するだけ野暮とも取れはする。
「それに戦自の協力もある筈だから」
「そっか。綾波だけじゃないんですね」
「ええ。と言うより、戦自の協力を得られたのはシンジ君のおかげよ」
「そ、そうなんですか!?」
さらりとリツコはそんな事を言い出す。
果たして、自分は何かしただろうか?
「シンジ君がシャムシエル戦の後に戦自にお礼に渡した料理が評判が良かったからよ。定期的に何度も渡していたから好意的な協力関係を築き始めているわ」
ミサトを通して行われているお菓子の配布。
シンジは直接に戦自の面々と会っていないし、NERVの内部事情にまで関わってはいない。
今のリツコの話を聞いて知ったばかりだ。
まさか、シンジの料理が戦自とNERVを繋ぐ架け橋となるとは。
ちなみに料理は手軽に食べられる小さめに分けてあるサンドイッチ等である。
「まあ、そこは置いておきましょう。ともかく、レイだけに戦わせるなんて真似はしないから安心して」
「なら、ホッとしました」
綾波だけではない。
他に助け合える仲間が居る。
それを聞けただけでも安心感がある。
「話は変わるんですけれど」
「何かしら?」
シンジは改めて話題を変えてくる。
リツコとしても彼の問いにはきちんと答える姿勢でいる。
「零号機って、どうして凍結されていたんですか?」
素朴な疑問であった。
綾波と何か関係があるのだろうとは思う。
聞いて構わない内容なのかも掴めない。
ただ、凍結の原因は気になる点でもある。
「気になるわよね。良いわ、シンジ君には聞く権利がある」
リツコはそのように言ってくれる。
「シンジ君が来る数ヶ月程前に起動実験を行った零号機が暴走したの」
「っ!?」
そんな事態になっていたとまでは知らず、シンジは驚きに声も出ない。
しかし、話はまだ終わらない。
「その時、零号機にはレイが搭乗していたの」
「っ!! 綾波が!?」
現在の様子を見る限り、綾波が無事なのは見て分かる。
では、どのようにして彼女は救助されたのか?
「安全の為にエヴァの充電を数十秒で止まるように調整していたの」
フル充電し、活動を終えるまでにしては5分と掛かる。
パイロットにもしもの事があっては意味がない。
その采配は妥当なものだ。
「その時に碇司令がレイを心配していたわ」
「父さんが?」
再会してから未だに言葉を交わした回数も少ない。
それどころか数回しか顔を合わせていない。
日数こそ少ないが、毎日顔を合わせる機会はミサトや飼っているペンペンの方が多くなっている。
「エントリープラグ内に身を乗り出す程には心配していたわ」
「そうなんですね。少し安心しました」
リツコからの話を聞いたシンジはそのように返答した。
「安心?」
「はい」
リツコから今度は聞き返す事に。
シンジは深く考えている様子は見られず、簡単に頷いた。
「だって、父さんはそれだけ綾波の事を見ている。どういう理由かは分からないけれど、人の心…………良心までは全てを捨ててないって思えましたから」
正直に言うと、NERVに所属する話の際にも思っていたようにあくまでシンジの個人的な願望も含まれている。
だが、誰かを心配する気持ちを持つのなら幾らかは安心できる。
そう思った…………が、
「こんな事を言いましたけど、初日に怪我した綾波を乗せようとした事を思い出しちゃいましたね」
今しがたのシンジの発言を自ら引っくり返す内容だ。
そう言えばゲンドウは道徳心を捨てているような行為をしようとしたではないか。
「今の話を聞くに、もしかして本当は綾波を乗せるつもりは無かった――――とか?」
「真意は分からないわ。けれど、あんな状態のレイを乗せられないと思っていた。多分、シンジ君が乗らなければレイでもない、別の手段を用いていたと思うの」
ゲンドウの真意はリツコにも不明瞭だ。
だが、万が一に備えてのプランは最初からあったようだ。
シンジが乗らない選択をした場合でも綾波が乗る必要の無くなる方法……。
「自動操縦、とか?」
「まだ開発中だけれど」
シンジの予想を否定せず、そのように答えた。
つまり、基礎自体は出来上がりつつある。
しかし、シンジがの乗らなければ未完成でも御披露目になった事だろう。
結果としてシンジが乗る決意をした。
あんなものを見せられたら男として乗らざるを得ない。
ゲンドウはそれを見越していたのではないかとも思えてくる。
それにしても『こちらの世界』の赤木リツコの仕事量には脱帽だ。
ミサトも多忙だと思っていたが、やはりエヴァ関連のマストな開発も担当している。
リツコの方もかなりハードなようだ。
「あの、無理だけはしないで下さいね」
「心配してくれてありがとうシンジ君」
労いの言葉を掛けたところでリツコは止まるまい。
こればかりは替えが利かない。
何かシンジも手伝える事があればと思う。
だが、中学生の身の上でしかない彼には何も出来ない現実なのを再認識させられるのもこれで何度目か。
自分の身の丈を考えている内に飛行機は目的地であるドイツに着陸する。
せっかくの海外ともくれば観光といきたいところ。
ノイシュバンシュタイン城やらケルン大聖堂やら、色んな観光地がある。
残念な事にシンジには観光地を巡るだけの時間的な猶予はない。
NERVドイツ第三支部にてセカンドチルドレンこと惣流・アスカ・ラングレーとの対面を要求されているから。
到着後、リツコと現地のNERV職員が聞き馴染みの全くない言語を交わすのを眺めている。
今回、シンジはそこそこの大きさのショルダーバッグに暇潰し用のラノベを2冊と携帯ゲームを持ってきているだけ。
財布なんかは持ってきていない。
日本からの移動に際してもリツコが前以て準備してくれていた。
と言うより、空港含めてNERVの息が掛かっていたのでそもそもシンジがお金を持ち歩く必要が皆無だったのも理由として挙げられる。
所在無くスマホを弄くるのも憚れる。
「行きましょうシンジ君」
「はい」
ようやく話を終えたリツコにシンジは頷き、異国の地のNERVへ。
緊張していたのも最初のみ。
内部が日本のものと殆んど変わらない。
実家のような安心感がある。
「シンジ君はこの人に付いて行って」
「はい」
リツコは仕事の為に来訪している。
シンジはご指名されて付いてきた訳だ。
ここで別行動となるのは事前に聞かされていた。
「では、こちらへ」
片言ではない日本語を話してくれる現地職員。
シンジのボディーガードの人も2人付いてきてくれる。
ここは敵地ではなく、海外のNERVだ。
本来は味方の立ち位置の筈なのだが…………やはり、一枚岩とはいかないらしい。
―――どうなるのかまでは分からないけど、悪い方向にはならないと思う。
多分、メイビーと心の中で反芻する。
シンジは希少な(と思われる)エヴァンゲリオンのパイロットだ。
その存在価値は来たばかりのシンジには分からない。
だが、NERVのトップに位置する父のゲンドウ、その腹心の冬月からNERVに存続させる為に提案をされた。
言い方を選ばないならシンジ自身には利用価値がある。
しかも、替えの利かない存在である可能性が高い。
成人した大人ではエヴァンゲリオンは操作不可能。
対して中学生の子どもには操作可能。
こういった点で誰でもエヴァンゲリオンを操縦出来る訳ではない事が窺える。
戦いともなれば、専門となる軍人に任せる方がより賢明なのだから。
「着きました」
シンジが案内されたのはこちらの管制室らしき部屋だ。
オペレーターらしき職員達が異国の言葉を交わし合う。
こちらには目もくれず、モニターを凝視している。
恐らくはシンクロ率だろう、数字も表示されている。
そして、肝心のモニターにはある1人の少女の顔が映っていた。
―――アスカ!!
惣流・アスカ・ラングレーがエントリープラグ内で操縦桿を握る。
シンジは内心で彼女の名を叫ぶ。
今は訓練の真っ只中だろう。
その最中に通された。
訓練は中断されず、続行を選択されている。
なるほど、如何にも彼女らしいなと思った。
これはアスカの提案だろう。
自身の実力を見せてやろうという魂胆だ。
負けず嫌いの一面もある彼女らしいなと感じる。
しばらく待つよう告げられる。
そして、彼女のシンクロテストを観察するのであった。
アスカの訓練は終わるとシンジは更に別室に案内された。
会議室と思わしき部屋だが、テーブルや椅子さえ無い部屋だ。
この場所にはシンジの他にもう1人だけ居る。
「来たわね」
シンジのものとは異なる赤いプラグスーツに身を包んだ少女――――惣流・アスカ・ラングレーだ。
『平行世界』では『碇シンジ』の幼馴染みのポジションで、『綾波レイ』共々に現在の碇シンジを構成してくれた人物の1人である。
「アタシは惣流・アスカ・ラングレーよ」
仁王立ちし、アスカは自己紹介する。
このやり取りだけで『この世界』のシンジとアスカが初対面である事が判明した。
「初めまして、僕は――――」
「知ってるわ。親の七光りでエヴァのパイロットに選ばれたサードチルドレンの碇シンジでしょ?」
シンジが自己紹介をしようと思った直後、アスカから名前は知っていると言わんばかりの言葉を受ける。
だが、それにしても随分な前置きがされていなかったか?
「えと、七光りとかは良く分からないけれど……僕が碇シンジだね」
「ふーん」
とりあえずは名乗るものの、シンジを品定めしようと上から下まで眺める。
感じからしても、どうやら好意的には捉えられていないらしい。
「アンタ、冴えないわね」
「惣流さんは辛辣な評価をするんだね」
「当然よ。アタシはエヴァのパイロットとしてはエリートなの。七光りで選ばれたアンタとは違うのよ!!」
ビシッ!! と指を差される。
どうにもエヴァのパイロットに選ばれた理由が気に入らないのが見て取れる。
綾波もそうだが、きっとアスカも厳しい訓練をこれまで積んできたのだろう。
それをポッと出の少年がやって来て、あまつさえ一発で乗りこなして使徒さえ倒してしまったのだ。
アスカとしては、訓練も無しにエヴァを操縦する事にも一言あるに違いない。
「そうだね。惣流さんからしたらそう捉えられるよね」
「何? 違うって言うの?」
「正直なところ、僕にもよく分かってないかな」
「はあ!?」
あまりにもな返答にアスカも怪訝な顔を作る。
シンジからすれば「分からない」のは当たり前なのだ。
「僕は父さんとは疎遠だったんだ。だけど、いきなり呼び出されてエヴァに乗るよう言われたんだ」
だから、ある意味で七光りなのは間違っていない――――シンジは最後にそう付け加えた。
「じゃあ、アンタは成り行きでエヴァのパイロットになって、流されるがままに使徒と戦ってる――――と?」
「そう、なっちゃうのかな」
アスカの言うように周囲に流されるがままにエヴァに乗って戦っている。
無論、皆を護る為にも使徒と戦う決意は固めている。
切っ掛けはどうあれ、アスカの指摘は正しくある。
「ふざけないで!!」
それを聞いた瞬間、アスカの怒号が鳴り響く。
更には胸ぐらを掴まれる。
「アタシはアンタと違って自ら望んでエヴァのパイロットをしてる!! そんな成り行きでパイロットをするなんて、自分の意志で乗る気が無いならパイロットを降りて!!」
身勝手な論理を押し付けてくる。
いや、惣流・アスカ・ラングレーにとっては許されない事なのだと悟る。
『平行世界』ではあるが、だてに彼女との付き合いが長い訳ではない。
勝ち気で負けず嫌い、プライドが高く、自意識過剰な点がある。
しかし、彼女が努力を惜しまない事を知っている。
―――そうだったんだ。アスカにとって、エヴァンゲリオンに乗る事は特別な事なんだ。
それを綾波レイの時に実感した筈なのに、シンジは忘れてしまっていた。
結果、惣流・アスカ・ラングレーを怒らせた。
「降りないよ」
シンジは真っ直ぐにアスカを見て告げる。
短く、その一言を。
すかさず、シンジは言葉を紡ぐ。
「僕には皆を守るって決めたから。その為に僕は戦う」
「………………あっ、そ」
簡素に呟き、アスカは手を放した。
シンジは解放され、乱れた襟首の辺りを整える。
「なら、アンタの決意が結果に繋がるかどうか見てあげるわ!!」
「見るって……」
「アタシがしてる訓練がこなせるかどうか、確認するのよ。でもその格好だと動きづらいだろうから着替えに行くわよ」
今度は腕を掴まれ、シンジは連行される。
その後、更衣室にてプラグスーツに着替える。
荷物はその時に置いてきた。
その後にエレベーターに乗り移動を始め――――――話は冒頭に戻るのだった。
「本当、いつになったら助けが来るのよ!!」
「まあまあ、落ち着いて」
アスカは両腕を高く挙げて叫ぶ。
シンジはと言えば、興奮しっ放しのアスカを宥める役だ。
「何でそんなに落ち着いてられるのよ!!」
「エレベーターの電源が落ちてるだけだから慌てなくても助けはしばらくしたら来るのは分かってるから」
シンジとアスカの動向は見られている。
ましてやシンジに関してはボディーガードまで付いている。
気が付かない筈がない。
「ねえ、この状況が何者かの策略とかは考えないの?」
「それこそ無いと思うよ」
アスカの問いにシンジは否定の言葉で返した。
「使徒は全人類の共通の相手なんだ。戦力を有する組織を壊滅させるメリットの方が少ないんだもの。
仮に上を抑えたとして、何処に有力な情報源があるのかも分からない。もっと言うと、下手な真似をして自分達の首を締める結果になりかねない事はしないさ。
これは受け売りの言葉だけどね」
この意見も『平行世界』にて『碇ユイ』と『赤木リツコ』の受け売りだ。
何か不利益が降り注いだ際、重要な存在である自分自身を交渉のカードにも使える。
そして、危害を加えられる可能性も低いと。
更に組織内を破綻させたとして、上役が様々な情報源を持っていては使徒との戦いが不利になる可能性だってある。
これらの事からシンジは最悪の事態ではないと推測する。
無論、100%とは言い切れない。
だが、『碇ユイ』と『赤木リツコ』が言うなら間違いないと信じている。
「………………本当、冷静なのね」
「冷静であろうとしてるだけだよ。内心ではどうしたら良いのか不安で仕方無くて、それを誤魔化そうとしてるだけだから」
シンジはそう言いながら胡座を掻いて座り込む。
アスカも立っていても仕方無いと思ったからか、体育座りをする。
「ねえ、アンタはエヴァに乗るのは『皆を守る為』って言ってたわよね?」
「う、うん」
唐突な質問。
シンジは反射的に答える。
「どうして?」
「どうしてって、僕の戦う理由の事だよね?」
「他に何があるのよ?」
質問を質問で返すと、当然と言わんばかりのアスカの返答。
シンジは頬を掻きながら口を開く。
「エヴァに乗って使徒と戦って…………怖かったんだ」
「怖い? 戦う事が?」
「うん」
この辺りは綾波にも話したな――――そう感慨を抱きながらもシンジは言葉を続ける。
「戦って死ぬ…………言葉だけなら綺麗だけど、実際に目の当たりにしたら恐怖で逆の事を考えると思う」
「死にたくない、生きていたいって、生にしがみつくと?」
「少なくとも、僕は生に執着しちゃうかな」
綾波の時とはまた違った言葉のやり取り。
しかしながら、2度の戦いを経たシンジの気持ちもまた変化は訪れている。
「皆を守る為、皆を助ける為にって、僕は使徒と2回も戦ったんだ」
「他人が原動力って事? 他人に理由を見付けようとするなんて、随分な事ね。しかも『自分が守らなきゃ』って考えてるところも随分と身勝手よ」
「手厳しいね惣流さんは。でも、君の言う通りだ」
シンジは頬を掻き、アスカの弁は正しいと言う。
間違ってなんかいない。
「実を言うとさ、『皆の為に』って部分に自分を入れるように最近言われたばかりだったんだ」
あの時は自分の事も大切にして欲しい――――そういうメッセージだと受け取っていた。
けれども、今は異なる意味も含まれていると分かる。
それを他でもない、目の前の少女が教えてくれた。
「でも、惣流さんの言うように僕は他人を理由にしてエヴァに乗ってる」
エヴァンゲリオンに乗る理由に他人を利用している。
承認欲求によるものなのを今しがた理解した。
恐らく、アスカは感覚的にそれを受け取って嫌悪感を抱いているのだろう。
「それを理解して、エヴァには乗り続けるって訳なの?」
「それでも、僕は乗るよ」
アスカの問い掛けに真っ直ぐ、シンジは告げた。
「他人を利用してる自覚はある。だけど、それこそが僕が戦い続けられる“偽りの無い本心だから”」
嘘偽りの無い本心だとシンジは胸を張れる。
誰であろうと、彼の考えを決して否定はさせない。
「それにさ、これも最近なんだけど守るだけじゃない事を教えられたのもある」
「守るだけじゃない?」
「助け、助けられ――――助け合いの精神を学んだんだ」
前回のシャムシエル戦では民間人のトウジとケンスケを巻き込まれた。
NERVの関係者は戦う覚悟を持ち、守るべき存在でありながら共に背中を合わせて戦う仲間。
対して2人は違う。
シンジが矛となり、盾となり、守らねばならない存在だ。
その2人をシンジは乗せ、守りながら戦う…………筈だった。
「前回の使徒の時、僕は一般人を乗せて戦ったんだ。本当なら守らなくちゃいけない相手…………だった」
「だった? 何かあったの?」
「助けられたんだ。その相手に」
たった一言、シンジはそれを伝える。
アスカからしたら呆れるものであろう。
本来守るべき民間人に助けられる展開は有り得ないものだ。
「そんなの、エヴァのパイロットとして相応しいとは言えないわね」
「そうだね。僕はエヴァのパイロットとしては相応しくないよ」
民間人に助けられる。
そんなのはアスカには考えられない展開だ。
そうあってはならないと、エヴァンゲリオンの訓練を続けてきたアスカは思っていよう。
その思想は正しい。
軍の側面を見せるNERVに居るのだ。
漫画知識でしかないが、軍人が民間人を助けるのは当たり前で、助けられる描写なんてまず考えにくい。
災害時、救援に来た部隊を民間人が助けるような展開があるのか?
答えは否が殆んどであろう。
シンジの記憶にしかないものの、ニュースにしてもそんな話は一切聞かない。
つまり、シンジの話す内容は軍に所属するであろうアスカには信じがたい話となる。
「でも同時に僕1人で使徒は倒せなかったのも事実だよ」
「1人で倒せなかったですって? じゃあ、どうやって2体も使徒を倒したって言うのよ?」
シンジの言葉にアスカが苛ついている。
彼女はエヴァンゲリオンのパイロットとして、使徒を2体も殲滅した碇シンジに興味を抱いた。
なのに当の本人は「自分だけの力ではない」と言い出した。
では、彼はどのようにして使徒を殲滅したのか?
「さっきの話に戻るけど、色んな人に助けられたんだ」
ここへ来て話題の切っ掛けに戻ってくる。
「最初の使徒はNERVの人と協力して倒せたんだ。次の使徒はたまたま居合わせた民間人の協力があったおかげだよ。もちろん戦自の協力も不可欠だった」
シンジだけではサキエルも、シャムシエルも、弱点を見付けるだなんて不可能な話だ。
殲滅に貢献してくれたのは紛れもなくNERVの面々だ。
ミサトやリツコ、オペレーターの面々、整備士――――挙げればキリがない。
特に今回、シャムシエルの時のMVPは間違いなくトウジとケンスケだ。
2人の客観的な発想と視点のおかげで乗り越える事が出来た。
碇シンジが1人で使徒を殲滅した例は一度たりとも存在しない。
「随分と優等生な台詞ね。要は1人じゃ何も出来ないってだけでしょ?」
妙にアスカが突っ掛かってくる。
そこには何か理由があるのではと推測する。
いや、推測するまでもない。
既にアスカは告げているのだから。
真っ正直から伝える事が正しいのかは分からない。
だが、これはシンジにしか言えない事なのだと思う。
「そうだよ。僕は1人で生きていける自信がない」
アスカの言葉にシンジは真正面から肯定した。
これにはアスカは“間違いなく苛ついた筈だ。”
彼女よりも先に言葉を紡ぐ。
「それは、惣流さんにしても同じだよ」
「はあっ!? そんな訳がない…………」
「違わないよ」
シンジに突っ掛かる最大の理由、それは使徒を2体も倒した彼への嫉妬も含んでいよう。
使徒と戦う為に彼女は訓練を積んできた。
エヴァンゲリオンに乗って戦うのは彼女にとって“人生そのものなのだ。”
綾波レイと同様、惣流・アスカ・ラングレーはエヴァンゲリオンという存在そのものに取り憑かれている。
固執していると言い替えても良い。
エヴァンゲリオンに乗り立ての、同い年の少年に彼女は先を越されたのだ。
しかもNERVの司令の直系ともなれば面白く思わないのは確か。
綾波は無頓着ではあったが、遠く離れた異国の地でひたすら訓練に励む彼女には面白くも何ともない結果なのは容易に想像できる。
これはいけないとシンジは感じた。
綾波の時と同じなのだ。
惣流・アスカ・ラングレーの人生は既にエヴァンゲリオンと共にある。
しかし、何らかの形でエヴァンゲリオンに乗る事が無くなれば?
そうしたら彼女は生きる意味を失ってしまう。
それだけは避けなくては。
その為にも“この問答は重要だ。”
「聞くけど惣流さんは独り暮らしは出来ると思う?」
「え? そんなの簡単よ」
「じゃあ、料理は出来る?」
「そんなの、買ってくれば良いのよ。時短よ、時短」
「洗濯や掃除なんかも業者を雇うつもり?」
「そうよ。アタシにはそんな些細な事にお金を掛けてる時間は無いわ」
シンジの思った通りだ。
アスカの心の根底には「エヴァンゲリオンのパイロットとして生きていく」事しか考えがない。
もしも、何らかの形で破綻したら――――アスカの心が耐えられるとは思いにくい。
「今は良いかもしれないけれど、将来は必要になるかもよ」
「将来?」
「そう、将来。未来、フューチャーだね」
「急に英語圏の言い方をしたのは気になるけど…………将来なんて考えた事もないわ」
シンジからの問いにアスカはシンプルに返した。
それはそうか。
まだ中学生での年齢だし、今はエヴァンゲリオンのパイロットとしての気持ちの方が強いのだろう。
「まあ、普通はそうだよね。僕も同じさ」
「将来とか言っておいて、何も考えてないのね」
「今は使徒を倒さないと未来がない――――って考えてるからかもね。元々、やりたい事も無かったし」
「そうね。今は使徒の殲滅が先よ。一寸先どころか永遠に闇の中を突き進む事になるわ」
日本の慣用句も御手の物だ。
アスカの言い回しに内心で拍手を送る。
「惣流さんはもう少し肩の力を抜いて良いと思うよ」
「急に何を言い出すのかと思えば」
シンジの発言を理解が出来ないと言いたげだ。
「根を詰めすぎると、いつか重責に潰されちゃうよ」
「うるさい!!」
自分の事を何も知らないシンジにどうして好き勝手言われなくてはならないのか?
「アンタなんかにアタシの気持ちが分かる訳がない!!」
体育座りから立ち上がり、アスカは腹の底から叫ぶ。
「アタシはね、エヴァに乗る為に生きてきたの!! 背負ってるものがアンタとは違うのよ!!」
遂にアスカは感情を爆発させる。
「アンタみたいに成り行きで戦って来た訳じゃない!! アタシはアタシ自身の為に訓練して、エヴァに乗って使徒の殲滅を目標にしてきたの!!」
感情を爆発させたアスカの言葉はマシンガンのように次々と出続け、言葉の大きさは爆弾のようであった。
「将来だとか、夢だとか、そんなのは二の次よ!!」
「…………それは、惣流さんにとってはエヴァに乗る事が大事って話?」
「そうよ!! それなのにさっきから口を挟んできて、何がしたいのよ!!」
シンジの予想した通りだ。
アスカにとって、エヴァンゲリオンに乗る事は命題なのだ。
彼女の生き方そのものをシンジの言葉だけで変える真似なんて出来ない。
どれだけアドバイスをした所で、今のアスカの反応を見て分かる通りに余計なお節介にしかならない。
だからこそ、アスカからの質問。
シンジが先程から彼女へ言葉を掛け続ける真意を知りたがっている。
シンジはどう答えるべきか?
そんなもの、決まっているではないか。
深く考える必要なんてない。
シンプルに答えよう。
「アスカの為に出来る事をしたいんだ」
「はっ、あ?」
まさかの答えにアスカは言葉を失う。
だってシンジとアスカはまだ出会って数時間にも満たない間柄でしかない。
なのに自分の為?
そんな事を彼は本気で言っているのか?
「アンタ、何を言ってるのよ?」
「そのままの意味だよ」
シンプルなまでの回答だったが、アスカは混乱していた。
対するシンジは冷静で、まるでそれが当たり前のようであった。
「そうじゃなくて、何で会って間もないアタシの為とか言い出してるの? ふざけてるだけ?」
「そんな事はないよ。僕はアスカの努力を教えられたから」
「アタシが努力なんて言葉をいつ口にしたのよ?」
「してるよ。ずっと」
シンジも立ち上がり、アスカを真正面から見る。
余所見なんてしていない。
碇シンジは惣流・アスカ・ラングレーだけを見つめる。
「さっきから言ってるじゃない。エヴァに乗る為の訓練を積んできたって。実際に今まで努力をしてきた証拠でしょ?」
「…………っ!!」
実際に言い当てられ、アスカも言葉を返せない。
努力を肯定してくれているのは簡単にエヴァンゲリオンを動かした目の前に居る少年なのが何と皮肉か。
馬鹿にしてるでしょ!!――――アスカの心は暴発寸前だ。
シンジの言葉を流せる程に自分の気持ちがコントロール出来ない。
この少年はアスカが長年積み重ねてきたものを容易く扱ってみせた。
しかも、彼女が行う筈の使徒の殲滅まで付けて。
アスカとしてもどんな少年か興味本位で呼んだに過ぎない。
どうせ訓練もまともに受けていないのだから自分よりも格下と言う思いもあった。
アスカよりも積み重ねてきた時間が違う。
エヴァンゲリオンに対する想いの強さに彼とでは温度差があるのは分かっていた。
けれども、パイロットとなるからにはアスカは先輩で後輩でしかないシンジよりも持っている物は多いと確信していた。
だからこそ、直接会って先輩として後輩に渇を入れてやるつもりだった。
しかし、彼に劣る部分を見てしまった。
シンジはアスカよりも自分の感情を上手くコントロール出来ている。
認めたくないが、彼は大人びていると言って良い。
エヴァとのシンクロは自身の心のコントロールと言って良いだろう。
それを上手く出来ず、シンクロ率は上下している。
それ事態は仕方無い。
第三者の視点で言ってしまえば、アスカはまだ中学生だ。
多感な時期の少女が精神をコントロールするなんて普通は難しい話なのだ。
そして、エヴァンゲリオンを操縦する上では残念ながら必要な能力であったりもする。
アスカは感情の制御が上手く出来ない。
その点、シンジは真逆にも感情のコントロールが出来ている。
少ない時間のやり取りながらアスカには理解できてしまった。
こうして閉じ込められた彼がえらく落ち着いているのも話を裏付ける。
こうしてシンジと対話する自分が如何に感情的になりやすいのかを見せ付けられる。
碇シンジにあって惣流・アスカ・ラングレーに無いものは存在しないと思っていた。
あったのだ。
単純な、実にシンプルなものが。
それを見せられ続ける事に嫌気が差している事も分かっていた。
しかし、アスカは一向に認めようとはしなかった。
認めてしまったら、長年費やしてきたものを簡単にシンジに奪われてしまうのではと危惧した。
「アスカは僕の出来ない事が出来る。その事実は、今後何があろうと変わらない」
この言葉に、先程までとは違った意味でアスカは思考を停止する。
ただ、シンジの次の言葉ですぐさま現実に引き戻される。
「もちろん、その逆もだけどね」
「逆って、アタシに無くてアンタにあるものって何なのよ?」
シンジが冷静なので、釣られてアスカも心持ちを落ち着かせていく。
いつの間にか心の奥底から吹き上がった憤怒のマグマは鎮まりつつあった。
「あるよ。僕は料理が出来るけど、アスカは出来ないとか」
先程の問答の内容を引き合いにする。
しかし、それがエヴァとは何の因果関係を結ぶのか?
「まだあるよ。僕は家事全般が出来るけど、アスカは出来ないでしょ?」
「うっ!? そ、それがどうかしたの!!」
最終的には開き直るアスカ。
シンジは思わず苦笑する。
「な、何を笑ってるのよ!!」
「ああ、ごめん。答えが予想通りでさ」
さて、話が脱線しそうになるが元に戻す。
「もちろん、これは僕の方にも当てはまるよ」
多分、僕の方が多い――――そう付け加えて続ける。
「僕はエヴァの操縦が苦手だ。単純な操縦で言うと、アスカにも劣る」
シンクロ率に任せた操縦でしかない。
いざというとき、シンジ自身の腕が試される。
それは前回の使徒戦で嫌と言う程に思い知らされた。
あの時、シンクロ率が低下して単純な操縦しか出来なかった。
普通のエヴァの操縦が可能であったのは事実なのだ。
もし、シンジがきちんと訓練を積んでエヴァの操縦が出来ていたなら――――シャムシエルだけじゃない、サキエルだって何とか出来た筈なのに。
「いくらシンクロ率で誤魔化したところで、エヴァの純粋な操縦の技術じゃ勝てない。多分、それは一生僕が追い付けない程だと思う」
仮にシンジがアスカをも越える操縦を行ったとして、一日の長どころではない彼女ならば簡単に越えてしまうだろう。
それだけの経験値をシンジを越えているのだ。
「他にもいくつかあるけれど、僕だけじゃない。他の誰にも負けない部分がある」
「そんなもの、会って間もないアンタに分かるの?」
「誰であってもすぐに分かる、一目瞭然の事だから」
シンジはやけに自信満々だ。
はたして、彼は何を言い出すのか?
「アスカは誰がどう見ても美少女な事だよ!!」
「……………………はい?」
たっぷり間を取って、アスカは惚けた声を出す。
いや、彼は何を理由として言い出したのか?
今日、彼とこの短期間で言葉を交わして何度目かの思案になる。
意味を脳内で反芻させ、理解したところで ボッ!! と、顔を赤面させた。
「な、何を言い出すのよ!!」
「え? 事実だけど?」
あっけらかんと伝えるシンジ。
ストレートに告げているのは感覚的に分かる。
随分と歯の浮いた発言をするではないか。
シンジ自身、するりと言葉が出て来て自分でも驚いている。
『平行世界』で抱いた彼女達――――アスカへの想いをシンジは忘れない。
偽りではない本心を彼女へ伝えた。
「そんなの、加持さんから聞かされてるから知ってる、わよ」
あからさまな歯切れの悪さが目立つ。
シンジの一言が予想外にもアスカには刺さったらしい。
加持の名前が出て来て「あの人なら言いそうだな」と思いつつ、「誰もアスカに対して言わなかったのか?」との疑問も抱いた。
NERVの職員はチルドレン以外は大人だ。
成人している人達が多いだろう中で同年代の人から言われる方が少ない。
思い返してみれば『平行世界』でもアスカに対して直接言っている人物は多くなかった。
恐れ多いと考える者も居たのだろう。
話が脱線し始めたが、とりあえず置いておく。
「言われ慣れてるかもだけど、ちゃんと自信を持って。アスカは美少女中の美少女、とびっきりの美少女なんだから」
「あーっ!! むず痒い事ばかり言うのは止めなさい!!」
顔を真っ赤にさせたアスカが叫ぶ。
同年代と接する機会が少ないのか、妙に照れ臭そうにしている。
「っで? 結局は何が言いたいのよ?」
「エヴァンゲリオンとか、パイロットだとか、チルドレンとか、僕とアスカじゃ考えに違いはあると思う」
一拍、シンジは間を置いて言葉にする。
「だけど、アスカはアスカのままで良いんだ。それだけ君は十分魅力的な女の子なんだから」
大雑把で、意地っ張りで、頑固で、プライドが高い少女。
その実、彼女はおおらかで、信念は曲げず、一途で、常に前を向き続けている太陽のように明るい少女。
碇シンジは『平行世界』の彼女とどれだけの付き合いだと思っているのか。
彼女の短所も長所も理解し、その上で彼は――――
―――ととっ、思考が脱線するところだった。
シンジは意識を真正面に戻す。
答えを受けたアスカは頬を赤くさせ、そっぽを向いていた。
気恥ずかしいのか、そこのところは分からない。
「ねえ、アタシにはエヴァに乗る以外に価値があると思う?」
「そもそもアスカに価値なんて付けるのが間違ってる。エヴァが無くたって、アスカは十分過ぎる程に凄いんだから」
何ともアバウトな表現をする。
だが、それだけ碇シンジは彼女を見ている。
エヴァンゲリオンのパイロットだとか、セカンドチルドレンだとか、エリート少女だとか――――そんな肩書きではない。
普通の少女、惣流・アスカ・ラングレー自身を見てくれている。
それだけは、最低限伝わってきた。
「あっ、開きそうだよ」
シンジがエレベーターの扉が開くのを見て言った。
アスカも後ろを見ると扉が開くのが見えた。
「シンジ君、アスカ、無事?」
「はい」
「良かったわ。エレベーターに不具合が起きてしまって。何とか修理を終えたわ」
リツコが心配しながら顔を覗かせる。
シンジは真っ先に答え、無事な事を表明する。
「アスカ、大丈夫だった?」
「ええ、“シンジと居たから退屈しなかったわ”」
「あっ、今名前……」
アスカがシンジの名前を呼んでくれた。
それを嬉しく思う。
「もしかして気付いて無かったの? アンタがさっきからアタシの事を名前で呼ぶから同じようにしただけよ」
「え? あっ!!」
「やだ。本当に気付いて無かったのね」
言われてようやく気がついた。
つい『平行世界』の癖が出てしまったようだ。
リツコを見ると頭を抱えているのが見えた。
シンジは心の中で両手を合わせて謝罪する。
「まあ、良いわ。特別にアタシの事を名前で呼ぶ事を許可してあげる。その代わり、アタシもシンジって呼ぶから」
「うん。よろしくねアスカ」
「よろしく、バカシンジ」
「いきなりバカ呼びは酷くないかな?」
「これ位の皮肉は良いでしょ。勝手にレディの名前を呼んだんだから」
「それもそうだね」
「やだ、納得しないでよ」
「でもアスカ基準ではそうなんだから。しょっちゅう呼ばれると泣きわめいちゃうけどね」
「いや、男なんだから我慢なさいよ」
「…………」
目の前で繰り広げられる夫婦漫才がごときものにリツコは目を白黒させる。
同年代の子と関わる事で不安定だったアスカの精神が安定しているようだ。
「ねえバカシンジ。話には聞くけど、日本のアニメは面白いの?」
「いきなりバカ付けは止めて欲しいな。日本のアニメは面白いよ」
「何かオススメを教えてよ」
「良いよ。その代わりエヴァの操縦のコツを教えてよ」
「それは考えておくわ」
「えぇ…………」
打ち解けている2人を見ていると、シンジを連れてきて正解だったなとリツコ思う。
その後、2人は話に花を咲かせる。
エヴァンゲリオンなど関係無い。
ただの少年と少女として。
こうして、NERVドイツ支部の渡航は終わりを告げる。
アスカとの再会はまた先の話。
如何でしたでしょうか?
綾波とゲンドウの話をさくっと終わらせてしまいました。
そして今回のメイン
アスカに会いたかったので、作者の想定よりも早くに登場しました。
手が勝手に動いてました。
と言う訳で満を持して『エヴァ世界』のアスカが降臨しました。
本編よりも多少は落ち着いてますね。
シンジが落ち着いているのでそれに釣られての事です。
エレベーター停まりましたが、何かの策略ではありません。
本当にただの故障ですwww
2人を閉じ込める為に神様が粋な計らいをしてくれました。
さて、今回もこれ位にして。
また次回にお会いしましょう。