続きです。
「レイの部屋って、どんなマイブームが来てるのか分かりやすいわよね」
唐突にアスカが告げた。
まだ『綾波レイ』と『惣流・アスカ・ラングレー』は邂逅していない。
これは『平行世界』での出来事だ。
場所はアスカの部屋。
中学の帰り、父親達が何かしらやっている研究も休み、そして本日はアスカの母親も休みなので我が家に帰ると言った。
せっかくだからとアスカも帰宅し、そこにシンジと綾波にお誘いがあったのでお邪魔させて貰う事に。
現在、暇潰しにとテレビゲームをしていた。
アスカと綾波が協力プレイでボス戦をしている。
遠距離主体の敵のようで、先程から一歩も動かないボスに対してキャラクターを動かしながら近付いていく2人。
アスカに至っては身体ごとコントローラーを動かしている。
シンジは見守っている。
彼女等には『平行世界』から来た旨を伝える。
既に慣れたものなのか、彼女等は「お帰り」と言ってくれる。
ここはシンジにとっても第二の故郷みたいなものなので、そのように出迎えてくれるのは有り難かったりする。
「今『こっちの世界』で流行ってるゆるキャラのぬいぐるみやらキーホルダーやら、はてはフィギュアまであるもの」
「可愛いから集めてるの」
アスカが暴露すると、綾波はそのように返した。
「その前も流行ってたアニメのキャラのフィギュアとかを集めてたものね」
「綾波は流行に敏感なんだね」
収集趣味は何も悪い事ではない。
自分の財布と相談出来れば尚の事だ。
「ねえ、『平行世界』の『レイ』や『アタシ』の部屋はどうなの?」
「『綾波』と『アスカ』の部屋か…………」
シンジは顎に手を当てながら考え込む。
「『アスカ』に関しては最近会ったばかりだから分からない」
「そうなの? 向こうの『アタシ』って何処で何をしてるわけ?」
「ドイツでエヴァのパイロットをしてる」
「そうだったの!? 巨大ロボットを操るのか…………少し羨ましいかも」
「それだけ血の滲む努力はしているからね。僕じゃ、まだまだ足下にも及ばないよ」
エヴァの基本的な操縦技術はやはり一日の長――――どころか、それ以上の差がある。
アスカにも多少は教わったが、まだまだ追い付ける気がしない。
逆にシンクロ率を上げる為の方法を聞かれたが分からないので、とりあえず主人公が精神的に成長していく作品をオススメしておいた。
あわよくば彼女も沼に引きずり込みたいところ。
「じゃあ、『レイ』の部屋は?」
「実は、最近行ったんだ」
リツコにNERVの新しいセキュリティカードを届けるよう頼まれた。
その際、『綾波レイ』の部屋へと赴いた訳なのだが――――。
「…………何も無かったんだ」
彼女の部屋は第三新東京市建設時の作業員用宿舎を改造した物件。
コンクリ打ちっぱなし風の殺風景な部屋で、機能重視の無機質な空間とでも言おうか。
「それが『平行世界』の『私』の人間性?」
「そうとは限らないわ」
『綾波レイ』は実に中身のないように思われたが、そこに待ったを掛けたのはアスカの母親だ。
惣流・キョウコ・ツェッペリン。
ロングヘア・毛先に少々パーマがかかっている髪型をした女性である。
「おやつを持ってきたわ」
「どうも。あの、今の『そうとは限らない』って言うのは?」
母親として、娘の友人のおもてなしをしてくれた。
しかし、シンジは彼女の発言が気になって仕方がない。
「向こうの『レイちゃん』にとっての“こだわりの物件かもしれない”って話よ」
「こだわりの、ですか?」
「まあ、あくまで可能性の話なのだけれど」
キョウコは付け加えておく。
『平行世界』の出来事は基本的にはシンジの主観の入った話となる。
こういった客観的な意見を出せるのは、やはり大人だなと中学生の自分は感嘆するばかり。
「でもママ、何もない部屋で暮らすって考えられるの?」
「現実に自然の中で生きる人達も居るのだから、考えられなくもないわ」
言われてみると、『平行世界』のテレビの特集で海外の人達の暮らしにも様々なものがある。
都会のように何でもある生活から自給自足の生活まで。
人によって住みやすい環境と言うのは変わるものだ。
「アスカの部屋だって、考え方によっては住みにくい部屋なのよ? 部屋は散らかしっぱなしだし、片付けるのはママかシンジ君かだし。あっ、だけど最近は料理の本も――――」
「わーっ!! ママ、ストップ!! ストップ!!」
自らの不甲斐なさまで暴露されそうになって口止めする。
『平行世界』で借りているミサトの家のアスカの部屋の惨状を思い出すと、今更な気がするが。
気にするだろうから余計な事は言わないでおく。
「話を戻すけれど、『殺風景な部屋』が『レイちゃん』にとってのこだわりの物件なのだとしたら――――それを批難しては駄目よ」
「その部屋の様子そのものこそが、『綾波』にとって安心感を得られる状態だから?」
「そういう事」
言われてみると、『綾波レイ』も何のかんのと言って独り暮らしを行っている。
そこは『平行世界』の綾波レイと同じである。
両親が居るのかどうかまでは聞けていない。
もし、思い出したくもない過去があって土足で踏み込むのも迷惑だと考えているから。
「なんにせよ、『綾波』にとって大事な居場所なのは理解できました」
この場に大人の彼女が居てくれて良かった。
シンジ達だけでは、悪い方向にばかり思考を巡らせていただろう。
「そこの所は今度『レイちゃん』に聞いてみるのが一番よ」
「そうですね。機会があれば」
いつでも会えるのだ。
折を見て聞いてみようではないか。
「ところで、『レイ』の部屋に行って何も無かったの?」
「………………えっ、と」
アスカの唐突な質問にシンジは頬を赤らめてそっぽを向く。
待て、何よその反応は?――――アスカがそう口にするよりも先に彼女の頭脳が答えを導き出した。
「ま、ままままさか!! えっちな事でも……」
「い、碇君……」
「ち、違うよ!! 確かに鍵が開いてるのに気付かなくて扉を開けちゃって、父さんの眼鏡があったからつい部屋に入って手に取っちゃって、その間にバスタオル一枚の『綾波』の身体をまじまじと見ちゃって非があるのは分かるけど、多少の不可抗力はある訳で――――」
「ええい!! 問答無用!!」
ペラペラと説明口調で話してくれるシンジ。
それに反応したアスカは彼へ制裁とばかりにコブラツイストを決める。
何処で覚えたのか、シンジはされるがまま。
キョウコは「あらあら」と微笑ましく眺めていた。
綾波は顔を真っ赤にさせ、うつむいたままである。
ちなみにゲームのボスは片方を肩車させ、遠距離攻撃を全て叩き落としながら白兵戦を挑むというとんでもない方法で突破したのであった。
「新たな使徒が現れたわ」
NERVに召集され、管制室に通されたシンジがリツコから聞いた開口一番がその一言であった。
モニターにその姿が映されている。
「何と言うか、これまでとは変わった姿をしていますね」
シンジは新たな使徒の姿を見て、そう評した。
青い正八面体の姿だ。
これまでの使徒のように複雑な姿をしていない。
シンプルが故に奇妙であった。
「第五の使徒――名称をラミエル」
新たな使徒――――ラミエルはビルの上空を浮遊している。
前回のシャムシエルにも似た浮遊能力だ。
人が歩く速度と然程変わらない。
それでも巨体が故に進行の速度は想定よりも速い。
時折、「ホー……ホー……」と女性の声の音のようなものを発している。
「ラミエルはここへ向かってきているわ」
「ここ? NERV基地に、ですか?」
「ええ」
リツコは随分と確信を持って告げる。
シンジはそれに首を傾げる。
―――そういえば、サキエルやシャムシエルもこの辺りに現れた。
今回のラミエルも向かってきている。
つまり、ここには――NERVには何かがある。
しかし、現在のシンジには知る術がない。
元より、それを問い質す時間もない。
脅威は目と鼻の先まで訪れているのだから。
「やはり、来るか」
「零号機の動作テストは完了していない。初号機を出撃させる」
ブリッジに来ていた冬月が映像を見て納得し、ゲンドウが初号機の出撃を命ずる。
その相手は当然ながら葛城ミサトだ。
作戦を立て、指揮する者であるのだから当然だ。
「待って下さい」
しかし、ここで待ったを掛けたのは他ならない葛城ミサトだ。
それこそ、驚きでもある。
彼女は「猪突猛進」の四文字熟語が頭に浮かぶような行動を起こしている。
その彼女が待つようにゲンドウに、司令に要求してきたのだ。
「どうしたのかね?」
ゲンドウではなく、冬月が話すように促す。
ミサトは背筋を伸ばし、姿勢を正す。
「今回の使徒はこれまでとは異質な姿をしています。いきなり初号機を出撃させるのは危険ではないかと判断しています」
「なるほど、確かに葛城二佐の言う通りだ」
意外にもミサトの言葉に理解を示したのはゲンドウであった。
これまでの2体とは異なる姿見からして、警戒心を持つべきだ。
「これまで確認された使徒にも何らかの特殊な能力は備えられていました。今回、シャムシエルのような飛行能力をも有しています」
「つまり、その前のサキエルのような遠距離手段をも有している可能性も高いと?」
「恐らく。姿からして、前の2体とは真逆に白兵戦を得意とするようにも見えませんが、目標がそうと見せ掛けている可能性も否定出来ません」
「なるほど、葛城二佐が警戒しているのは“何をしてくるのか分からない使徒の姿そのものにあるという事だな?”」
「はい」
ミサトの意見に冬月が自身の見解を交えて彼女の憂いを聞き出す。
そして、ゲンドウが最後にミサトの懸念事項の根幹を口にした。
そうする事で、この場の全員に如何にラミエルの存在が異質なのかが伝わる。
シンプルな姿が故に分からない。
「何より、これまでは剥き出しになっていたコアを目視での確認が出来ません」
「確かに、確認も出来ていないのに出撃させて迎撃をされる事にでもなったらまずいわね」
リツコの発した懸念。
エヴァとパイロットの両方は当然として、いずれかの損害だけでも人類にのし掛かるリスクの大きさは計り知れない。
もし、たった一度の行動でとんでもないリスクを背負ってしまったら目も当てられなくなる。
「では、どうすると言うのだね?」
「シンプルにはシンプルに。威力偵察を進言します」
ゲンドウからの問いにミサトは極々シンプルな作戦で以て返した。
「よかろう。許可する」
「ありがとうございます」
司令直々の許可が降りた。
次の瞬間には行動が早かった。
何機かの無人の列車砲が出撃する。
ラミエル目掛け、砲撃が開始される。
今更な話だが、その程度では使徒は止まらない。
通用はする筈がなく、逆にラミエルからの反撃を受ける事に。
高エネルギー反応がラミエル内部からあった。
直後、加粒子砲を砲弾の軌道に合わせて解き放つ。
凄まじい爆風と爆発、それによって列車砲は見事に吹き飛ばされる。
しかも、それだけでは終わらない。
ラミエルは正八面体の姿から“変形してみせたのだ。”
複雑な変形を見せる。
中心部から上部と下部が逆方向へ“回転した。”
ラミエルの身体そのものが液体で出来ているかのような滑らかさだ。
そう思った瞬間、中心部にコアが確認できた。
その後、再び加粒子砲が放たれ、列車砲を粉々に粉砕した。
次には細長い6つの四角錐へと形を変え、さらに外側に薄い正四角錐を複数形成し、中心を軸に回転し始める。
そこからはこれまでの焼き回しよりも凶悪であった。
周囲一帯に加粒子砲をぶちまけ、周りの列車砲を虫でも払うかのように蹴散らした。
圧倒的なまでの火力、何よりも対応力。
更にこれまでの使徒とは決定的な違いがあった。
「接近戦は挑めない」
サキエルは勿論、シャムシエルにも接近するチャンスはあった。
だが、今回のラミエルは別だ。
完全なる遠距離主体の使徒。
それだけならまだしも――――であった。
「射程範囲が広いわ。それに攻撃にはオートで反応するようね」
リツコがラミエルの厄介さを呟く。
端から見ていたシンジにもラミエルの厄介さが際立って仕方無い。
「ATフィールドも当然ある訳だし…………っ!? 何ですって!?」
ラミエルはジオフロントの真上まで侵攻し、地下のNERV本部がある直上で停止する。
正八面体の下端をスクリュー状に変化させて地面に突き刺す。
ラミエルの作り出した即席のドリルは地下を目指して一直線に掘り進む。
「現在目標は我々の直上に侵攻、ジオフロントに向けて穿孔中です」
狙いがNERV本部である事は明らか。
理由は分からずとも、皆が危機に晒されている事は明白だ。
今、ミサト達が対処を考えてくれている。
何も出来ない自分がもどかしくもあった。
しかしながら、適材適所の言葉が存在する。
これは彼女等の出来る事だ。
シンジにはシンジで、出来る事があるのを理解している。
ミサト達の為にも、今は“邪魔をしないのが自らの仕事だ。”
「先の戦闘データから、目標は一定距離内の外敵を自動排除するものと推察されます」
「やはりと言うべきか、ATフィールドは健在です。おまけに位相パターンが常時変化しているため、外形も安定せず、中和作業は困難を極めます」
「MAGIによる計算では、目標のA.T.フィールドをN2航空爆雷による攻撃方法で貫くにはNERV本部ごと破壊する分量が必要との結果が出ています」
「松代のMAGI2号も同じ結論を出したわ。現在日本政府と国連軍が、NERV本部ごとの自爆攻撃を提唱中よ」
「ここを失えば全て終わると言うのに、対岸の火事で済む話ではないのにね」
オペレーターの3人、各々がこの場で気付いた事を告げていく。
情報は次々と集まってくる。
しかし、中にはタイムリミットを告げるものもあった。
約10時間程の後、中枢部であるセントラルドグマに到達すると。
それまでにラミエルの殲滅を余儀無くされる。
そして、ラミエルは敵意を察知しての迎撃があると推測できた。
これは列車砲を一度に纏めて薙ぎ払わなかった事が理由だと推察できる。
敵を一網打尽にする範囲攻撃があるのに、最初に行わなかったのが推測に至る経緯だ。
「…………司令、副司令、作戦立案の為にお話ししたい事があります。」
「場所はここでは無い方が良いかね?」
「では、作戦会議室をお借りしてよろしいでしょうか?」
「構わん」
冬月が橋渡しとして発言してくれた事からスムーズに運べた。
「シンジ君は休憩室で休んでいて。その間に作戦を立てるわ」
「はい。分かりました」
休むのも作戦成功の為の重要な任務だ。
「すいません。では、休ませて貰います」
「ええ。パイロットは作戦の要よ。作戦は私達に任せて」
「はい」
頼れる大人に恵まれたと思いながらシンジは管制室を後にした。
しばらくの後、シンジと綾波に通達があった。
ミサトとリツコが直接作戦内容を伝えに来たのだ。
今から約9時間後、午前0時にラミエルの殲滅作戦を行うと。
内容はざっくりと言えば、超長距離からのライフル狙撃だ。
だが、当然の事ながら疑問は尽きない。
「あの、どれ位の距離から狙撃するんですか? それにライフルで使徒のATフィールドを撃ち抜けるんですか?」
大きく分けて2つの問題点がある。
素朴な疑問ではあるが、シンジは聞かずにはいられなかった。
「それはこれから計算するわ。威力の方も計算上は問題ないわ。ただ、現実的かどうかと問われると…………約1割といったところかしら」
陽電子砲――――ポジトロン・スナイパー・ライフルが用いられる。
日本中の電力を集約させ、それをラミエルへ撃ち込む。
「狙撃はシンジ君が。サポートはレイよ」
そう役割分担をするのにも理由がある。
零号機の機動力は皆無の状態だ。
これは最悪を想定した仮定だ。
一射を外す、もしくは通用しなかったパターンだ。
そうした場合、超長距離からもラミエルは加粒子砲を放ってこよう。
その場合、ポジトロン・スナイパー・ライフルを失う訳にはいかない。
綾波――――零号機は盾役を務める。
つまり、ラミエルの加粒子砲を真正面から受け止める必要性がある。
もし、受け止めきれないと判断されれば初号機は回避し、第二射が必要となってくる可能性も有り得る。
そうなると、切り札は機動力が現状である初号機が持つのがベストな選択だ。
これも含めて全て説明はしてある。
当然の事ながらシンジは綾波の危険度が高い為に反対意見をしたい。
けれども、だ。
綾波は覚悟を既に決めている。
その為に厳しい訓練を続けてきたのだ。
ミサトとリツコに関しては今更言うまい。
彼女等の心情がどれだけ荒れ狂っているのか、考えたくもない。
「それにしても、ポジトロン・スナイパー・ライフルでしたっけ? そんなものを何処で?」
「昔の伝を使って、戦自からちょっち拝借してきたの」
「ちょっち、ですか?」
蛇の道は蛇ね――――シンジと会話をするミサトの横でリツコがそう呟いた気がした。
『平行世界』とは違い、こちらのミサトもハードな人生を送っているのかもしれない。
「でも、シンジ君のおかげでもあるわ」
「え? 僕ですか?」
「そうよ。戦自の人達に贈り物をしてくれたのが役に立ったわ」
シンジの行いが巡りめぐって、ポジトロン・スナイパー・ライフルの貸し出しに一役買ってくれたらしい。
本人にその意図は勿論ながら無かったが、ミサトも喜んでいる事であるし深くは聞かない。
ただ、今のでNERVと戦自との間に溝がある事だけは理解できた。
今回は偶然にもシンジの行動が良い方向へ転がったに過ぎない事だけは覚えておく。
「それでシンジ君はライフルを撃った経験はある?」
「ハワイで父さんに習いました」
「ハ、ハワイで!? 司令が!?」
ミサトの驚きは大きいだろう。
そこには「『平行世界』の」の枕詞が付くのだが、分かるのはリツコだけだ。
「シンジ君の冗談はさて置いて。経験はあるのね?」
冗談として話を流す。
「ただ、機械越しともなると分からないですが」
「そこは何とかするわ。その為の私達なのだから」
人が撃つのとは訳が違う。
シンジが不安要素を口にすると、出来る女性筆頭のリツコから頼もしい言葉を頂いた。
「レイのサポートの為の道具も準備しておくから待っていなさい」
「はい」
綾波は淡々と頷くのみ。
だが、気負う様子も見られない。
実戦は二度目だが、戦いに慣れないシンジには綾波の冷静さが心強くもあった。
自分もしっかりしなければ――――気持ちを奮い立たせる。
「それじゃあ、作戦開始まで時間があるから各自準備をしておいて」
言い残し、シンジと綾波だけが残された。
まだ時間に余裕はある。
さて、どうしたものかとシンジは考え始めた。
「時間まで休むわ」
「それが無難だね」
身体を休め、体力・気力共に充実させておくのが最良の選択だろう。
作戦遂行まで休息にあてる事にした。
作戦決行の時間となった。
パイロットおきまりのプラグスーツに身を包む。
綾波のプラグスーツ姿をまじまじと見るのは初めてだ。
シンプルに白いデザインのもの。
「こうして、共闘するのは初めてだね」
「ええ」
シンジと綾波は外で待機している。
傍らには両名のエヴァンゲリオン。
工事で使われていそうな足場で待機している。
エントリープラグにもすぐに乗り込めるようにハッチは開いている。
視線の遥か先にはラミエルが第三東京市の頭上に位置している。
かなりの距離があるが、シンジの視力でもぼんやりとラミエルの姿が確認できる。
現在、最後の仕上げでポジトロン・スナイパー・ライフルの最終チェックが行われている。
これから起こる5分にも満たない時間で世界の命運が左右される。
「戦うと、決めてたんだけど――――」
やはりと言うべきなのか、シンジは手の震えが止まらない。
これまでは出撃し、無我夢中で戦ってきた。
今回のように事前に作戦を練るのは初めての事である。
更には未知数な部分を抱いた状態でシンジは立ち向かわねばならない。
しかも、彼と綾波の双肩には「人類の存続」が賭けられているのだからプレッシャーの大きさは半端無い。
こうして目の前で準備をしていては、嫌でも思わせられる。
「怖い?」
「正直、怖い。死んじゃうかもしれないしね」
綾波に問われ、シンジは返答した。
真っ正直に告げる。
「けど、逃げるつもりはないよ」
逃げちゃダメだ――――心の中で何度も唱えた。
ここで逃げて、最終的に後悔するのは目に見えている。
これはサキエルの時からシンジが心に抱き、立ち向かう為のある種のおまじないのようなものだ。
自己暗示と言っても良い。
「そう」
短い返事だ。
しかし、シンジが立ち向かう事を綾波は否定しなかった。
「大丈夫」
簡素に綾波は告げた。
そちらを見れば、綾波と綺麗な満月が視界に映る。
綾波はシンジ視点から真横を向いていた。
彼女の視線の先には打倒すべきラミエルの存在があった。
「あなたは死なないわ。私が守るもの」
そして、綾波は端的に告げた。
シンジは死なない。
理由は綾波レイが守るから。
―――あっ。
途端、シンジの脳裏にフラッシュバックするものが。
NERVに向かい始めた頃に見せられた『悪夢』。
その中に綾波レイが自身を犠牲にするものがあった。
彼女はきっと、己を犠牲にしてでもラミエル殲滅を成し遂げようとする。
そんな事はさせない、“させられない。”
『碇シンジ』が『綾波レイ』に想いを伝える時の事を思い出す。
あの時の気持ちが未だに鮮明に残っている。
彼女の全てを守りたい。
『碇シンジ』の気持ちを強く受ける程に碇シンジも目の前の少女を守りたいと強く想う。
この想いは『碇シンジ』の借り物でしかないかもしれない。
けれども、この想いは偽りではないのも確かだ。
その事を『平行世界』の面々は教えてくれた。
だから、何と言われようとも碇シンジは胸を張って言おう。
彼女を守りたいと想う気持ちは確かにある――――と。
だからこそ、綾波レイに碇シンジは言葉を返す必要があった。
「ありがとう綾波。けど……」
気付けば、シンジの震えは止まっていた。
皆の為にも、他ならない自分の為にも――――するべき事を決めたから。
「綾波も死なないよ。僕が守るから」
碇シンジは綾波レイへそう告げた。
目をぱちくりとさせながら視線をシンジへと移す。
「互いが互いを守れば、2人とも死なない。つまり、生きて帰れるんだ」
「2人とも死んでしまうかもしれないわ」
「嫌な想像だけど、それでも僕達は死なない。なんたって中学生の僕達には夢や希望に満ち溢れた未来が待ってるんだから」
明るい未来が待っている――――何処かで聞いたようなフレーズを告げる。
綾波は目をぱちくりとさせる。
どう返して良いのか分からないのだろう。
「僕が言いたいのは、生き残って美味しいものでも食べよう。リクエストがあれば作ってあげるから」
「じゃあ、にんにくを使った料理」
「綾波はにんにくが好きなんだね。良いよ、そうしよう」
互いに明るい未来の話をする。
現実逃避なのかもしれない。
けれど、今の2人には必要な他愛の無い話でもあった。
そして、ラミエル殲滅の作戦が決行される。
如何でしたでしょうか?
あの女のハウス……もとい、綾波宅には既に行っている事になっています。
『平行世界』のアスカや綾波も根本的な部分は同一人物ではあり、考え方や性格も似ている部分があります。
そして、ラミエル来襲。
ミサトさんの冷静さのおかげでシンジ君はラミエルの加粒子砲を喰らわずに済みました。
あとは原作通りの作戦展開。
やはり、ミサトさんの発想って凄かったんだなと実感しました。
そして、「あなたは死なないわ。私が守るもの」に「僕が守るから」と返したかった。
それと前回の話が無関係では無くて、碇シンジの心に変化をもたらしたものである出来事でもあります。
これを書きたくて少し駆け足気味になりました。
平にご容赦を。
ではでは、今回はこの辺で。
次回は出来るだけ年末年始辺りには更新したいなと。
予定は未定ですが、頑張ります。
では、また次回に。