碇シンジは夢を見る   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

では、続きです。


披露会────の前日

「シンジ君、明日の夕飯は用意しなくて大丈夫だから」

 

ラミエルを殲滅した翌朝の事だ。

朝食を終えてシンジが食器を洗っている時に、コーヒーを飲みながら資料に目を通すミサトか伝えられる。

事前に報告してくれるのは本当にありがたい。

 

だが、彼女は立場のあるだ。

そんな彼女が夕飯を共にしないと言う事は――――

 

「仕事が立て込んでいるんですか?」

 

必然的にそう考えてしまう。

シンジは中学生が故に何も手伝える事はない。

せめて仕事の愚痴を聞いて、多忙な彼女の代役で家事を行う位しか出来ない。

 

「仕事なのは半分正解。ちょっち、パーティーに誘われててね」

 

「半分仕事のパーティー?」

 

飲み会か何かだろうか?

いや、日夜多忙を極めるNERVがそんな時間を作る余裕があるとは考えにくい。

 

「何処かの企業の方と打ち合わせ、とかですか?」

 

「お披露目会が正解かしら」

 

「お披露目って、その資料と関係が?」

 

食器を洗い終えたシンジは振り返り、ミサトの向かいの席に座る。

ミサトは「その通りよ」と言いながら資料を見せてくる。

 

何やらロボットの設計図らしい。

その道に詳しくないシンジでも分かる事はあった。

 

「これって、使徒に対抗する為に造ったものですか?」

 

「そうらしいわ」

 

しかし、これで本当に大丈夫なのかと疑いたくなる。

ジェットアローン――――略してJAと言う機体だ。

 

これがどういうものであるのか、事前に資料を渡されたので目を通していたようだ。

用途は先程も話していた通り、使徒殲滅の為の兵器利用だ。

 

しかしながら、既にNERVがエヴァンゲリオンという決戦兵器を開発している。

明らかにこちらへぶつけてきた内容である。

 

「もしかしなくても、NERVは目の敵にされてませんか?」

 

「敵は多い組織よ」

 

今は使徒という共通の敵を持っているからこそ、表面化では何も起こらない。

だがこの先、使徒の数が減っていく、もしくは全滅させたとして――――穏便に済むだろうか?

 

「この世で一番怖いのは人だって話を聞いた事があります」

 

「良いことを知っているわね。本当にその通りになりそうだから困るわ」

 

シンジが言うと、大きな溜め息を吐きながらミサトは返した。

 

「このロボットを造ったのは何処の企業ですか?」

 

「日本重化学工業共同体、通産省、防衛庁」

 

「共同で開発したんですね」

 

一組織であるNERVへ対抗し、企業や国が協力し合って開発した――――と。

言い替えると、それだけの事をして初めてエヴァンゲリオンみたいな兵器を造れるという事だ。

 

NERVはエヴァンゲリオンを2機(恐らくはアスカの分もあるので3機だろうが)も開発している。

1つの組織だけで使徒と戦えるだけの力を――――否、核兵器もかくやという程の危険性を孕む。

 

「使徒が居なくなったとしてもエヴァンゲリオンを造れるだけの技術を持っているなら、あらゆる組織、国が警戒しますよね」

 

「シンジ君って、本当に中学生? 怪しい組織に薬を飲まされて身体が縮んだ…………とかじゃない?」

 

「ちょっち、そういう物語を読んだ事があるだけでして」

 

ミサトの口癖を真似しながらシンジは返す。

残念ながら高校生探偵のような出来事は起きていない。

これも『平行世界』で培った経験だ。

 

いつだったか『赤木リツコ』や『碇ユイ』と会話した時にあった出来事。

皆が務める人工進化研究所にもサイバー攻撃はあったとか。

 

「NERVが出過ぎた真似をしないようにしたい…………そんな魂胆でしょ」

 

出る杭を打つ事で、今後もNERVだけが特別な軍事力を有していると思わせない。

同等の手札があると見せて、NERVを牽制するのが目的だろう。

 

「とは言え、これが上手くいくとは考えにくいんですが」

 

対使徒用の兵器なのは理解した。

しかしながら、事が上手く運ぶかどうかとはまた別問題だ。

 

「僕にはこの資料を見てもちんぷんかんぷんです」

 

「私も右に同じ。畑違いが過ぎるわ」

 

「餅は餅屋…………リツコさんに任せるのが手っ取り早いですね。リツコさんも参加するんですか?」

 

「ええ。私とリツコの2人でね」

 

両者共に立場ある身だ。

参加するのならば妥当な人選だろう。

 

「まあ、この開発の責任者が私達に茶々を入れたいだけでしょうけどね」

 

「嫌味を言われる前提ですか…………」

 

とは言え、ミサトの反応は正しいかもしれない。

何せ、これから行うプレゼンはNERVに対する牽制なのだとはっきりしたから。

何を言われるのか分からないのもあるが、そもそもパーティー会場での扱いも酷いものかもしれない。

 

「何か美味しいものとか、つまみとか、用意しておきますね」

 

シンジにはそれ位しか出来ない。

ミサトは「ありがとう~」と項垂れながら答えた。

 

「あれ? 責任者の名前…………」

 

「ああ、時田シロウって人よ。日本重化学工業共同体の責任者ね」

 

「時田シロウ……何処かで……」

 

正直に言うと『この世界』での関わりは皆無だ。

そうなると『平行世界』であるが――――――

 

「確か母さんをライバル視してた『AIUEO』の人」

 

「? そんなもの造ってたかしら? それよりお母さんが何故出てくるの?」

 

「い、いえ…………ゲームの話です。名前が似ていたキャラクターがあったもので」

 

「ふーん」

 

シンジは資料を返却しながら口早に伝える。

ミサトは生返事をしながら返された資料に目を通す。

気にしていないようで、一安心した。

 

『平行世界』での事を話してしまっても構わないかもしれない。

けれど、ミサトを巻き込んでしまうかもしれないのを危惧して誤魔化す。

 

ミサトの表情は真剣そのもの。

それを茶化す訳にもいかない。

 

互いの出勤、登校時間が来るまでパーティーで心身共に磨り減らすだろうミサトとリツコの為に何か用意しておこうと、考えを巡らせる事にした。

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

ラミエル殲滅のささやかな報酬とし、本日の訓練は休みだ。

体力等に問題は無いのだが、念には念を入れての措置だ。

 

NERVの職員の方々の好意に感謝し、シンジは久方ぶりの自由を満喫する事とする。

とは言え、だ。

明日は自分の上司がメンタル面で参った状態で帰ってくるかもしれない。

今のうちから下準備をしておこう。

アルコール類に関しては、未成年の身では買えないので誰かに頼もう。

 

明後日の分の献立を考えながらデパートへと入ろうとして――――

 

「あれ、この紙……」

 

入り口に1枚、紙が落ちている。

パッと見ただけでは何が書いてあるのか分からない。

けれど、何かの資料である事だけは理解できる。

 

「落とし物か。一応、デパートの人に渡しておこうかな」

 

重要な書類の一部を預けると言うのは気が引けるものの、それ以上は何も出来ないのも事実。

せめて誰の物なのか分かればデパートの人に呼び出して貰う事も難しくない。

 

「名前が書いてある」

 

その紙には責任者の名前が記載されていた。

記された名前を見た瞬間、シンジはギョッとした。

 

「そ、その紙!!」

 

シンジが資料を見ていると、膝に手を付いて息を整える男性が居た。

その人物はシンジには覚えがある。

更には偶然にもこの資料の持ち主である事も知っていた。

 

―――時田シロウさん?

 

まさかの邂逅であった。

 

 

 

 

 

 

 

シンジは時田シロウに連れられ、個室付きのレストランへ赴いていた。

通された部屋は座敷になっており、彼はこの店の常連のようだ。

靴を脱ぎ、楽な姿勢で構わないと促されたので胡座を掻いて座る。

資料を拾ってくれた礼だと言ってくれるが、こちらは逆に恐縮してしまう。

 

「えっと、良いんですか?」

 

「遠慮しなくて大丈夫だよ。ただ、それだけで良いのかい?」

 

テーブルを挟んで向かい同士。

シンジの前には饅頭がいくつかとお茶があるだけ。

 

「この後に夕飯も控えているので、それにここのお店の和菓子は絶品だと知っていたので、これだけでも十分です」

 

「ほう。この店のオススメを知っているとは、なかなかの情報通だね」

 

若いのに感心感心――――自分の贔屓の店の事を評価された事が喜ばしいようだ。

 

「ところで、聞きたい事があるんだが…………良いかな?」

 

「はい? 何でしょう?」

 

「君は、碇シンジ君だよね? NERVのエヴァンゲリオンのパイロットの」

 

変化球ではなく、ド直球が投げ付けられる。

なるほど、どうやらシンジの事はお見通しらしい。

 

「はい。僕が碇シンジです」

 

だから、素直に答える。

はぐらかしても無駄であろう。

 

「それにしても、何で僕の事を知っているんですか?」

 

「独自の情報網があってね」

 

なるほど、この時田シロウもトップに立つ人間だと言う事だ。

NERVと渡り合おうとするだけあって、彼には「情報」と言う力が備わっている。

バックには政府らしき組織もある。

なるほど、彼の発言はハッタリではない。

 

「名乗るのが遅れてしまったね。私は日本重化学工業共同体の代表、時田シロウと言う者だ」

 

「改めまして、碇シンジです」

 

こちらは中学生だと言うのに畏まった態度を見せてくれる。

それを見せられては「子供だから」等と言う理由で軽く見られてしまうのは良くない。

シンジ自身も不得手ではあるが、精一杯の誠意を見せようと名乗りを返す。

 

「君とは一度で良いからゆっくりと話してみたかったんだ。私のホームグラウンドだからと言って、何かを仕掛けるだなんてしないから心配はしないでくれ」

 

誰も入れない密室だ。

ただ、シンジが懸念する事項は盗聴器であろうと当たりを付ける。

中学生のシンジがそこまで思考が回るとは思っていないが、思いっきり話せるようにと時田シロウは気を回してくれた。

 

これに関して、間違いなく時田は嘘を言っていない。

嘘か真かは別として、疑ったとしても無理ない。

けれども、だ。

 

「僕は時田さんは正々堂々な人だと思ってます」

 

「ほう? どうしてだい?」

 

「こうやって、僕と面と向かって話してくれているのが何よりの証明です」

 

シンジからの意外な発言に時田は疑問を返す。

それに対し、シンジは即答であった。

 

「普通なら子供と侮る所なのに時田さんはそういった様子も見られない。真摯に僕と向き合ってくれています」

 

「それだけかい?」

 

「それだけで十分です」

 

さらりと言ってのけるシンジ。

大人びているだけで、実質的には子供でしかないシンジと向き合っている事こそが彼を信頼に足る相手だと断言する理由。

 

「そう言われると、何だか照れ臭いながらも嬉しいね」

 

頬を掻き、一瞬ながら目を逸らす仕草をする。

シンジの真っ直ぐな言葉が本当に突き刺さったようだ。

 

「しかし、君は思っていたよりも随分と大人びている。話していても、ついつい大人と変わらない対応になってしまうよ」

 

「ちょっと、大人の人と話す機会が多かったので仕込まれたんです。まだまだ(あら)はありますよ」

 

「そういう発言が飛び出てくるのが驚きなんだがね」

 

とは言え、落ち着いて話ができると時田シロウは思う。

これは本当に助かる内容で、シンジへストレートに疑問を投げ付けられる。

 

「君はJAの資料には目を通してくれたのかな?」

 

「見る機会があったので目は通したんですが……」

 

「理解するのは難しいものがあるからね」

 

さすがに中学生という事もあり、この手の内容に精通している訳もなかった。

もし、理解しているというならそれはそれで呆然としてしまう事になるのだが。

 

「かいつまんで言うならパイロットの必要のないロボットなんだ」

 

「もしかして、遠隔操作ですか?」

 

「その通りさ。しかも動力源に核分裂型の原子炉を採用し150日間ものの連続行動が可能なんだ」

 

それが本当なのだとしたら────こうして正式に発表をする位なのだから実際に成功しているのだろう。

どこぞのリモコン操作で動かすロボットを思い出す。

 

「エヴァンゲリオンにとって変わる、新しい救世主の登場さ」

 

「エヴァを超えるロボット……ですか」

 

「そうさ。これが認められさえすれば、君のような子供がもう戦う必要だってなくなるんだ」

 

それは、確かに革命的な発明だ。

シンジ、綾波、アスカ────現状、判明しているパイロットは全員がまだまだ未来のある中学生ばかりだ。

命を落とす危険のある戦いに子供を送り込むのは抵抗があろう。

時田も、子供を戦わせる事には反対の心持ちなのであろう。

 

否、誰であろうとも危険な使徒との戦いに命を落として欲しくない。

だからこそ、このJAには搭乗者は存在しない造りとなっている。

誰の犠牲も出してくない────時田シロウの魂の叫びが聞こえてくる。

しかし………………

 

「時田さん、根っこの部分にはNERVにとって代わりたい気持ちの方が強いんじゃないですか?」

 

「何だって?」

 

シンジの切り返しは時田にとっても予想外の反応であっただろう。

今度は自分のターンだと言わんばかりにシンジは言葉を紡ぐ。

 

「時田さんは使徒やエヴァの事について、他に何か知っている事はありますか?」

 

先程のシンジ自身の発言に関する理由ではない、全く異なる質問が飛び出る。

ただ、シンジの表情は真剣そのもの。

順を追って話す為の前段階の内容なのではないかと考え、今しがたの問い掛けに対する答えを放つ。

 

「ATフィールドと呼ばれるものがあるとか」

 

「はい。それは実際に強固な壁と考えは似たようなもので、それを打ち破るだけの手段、もしくはATフィールドを発生させる事がJAにできますか?」

 

「それを可能にするのがJAさ」

 

「では、JAはN2兵器よりも強力な力を有していると考えて良いんですね?」

 

「何故、そんな兵器の名前が出てくるんだい?」

 

突然、シンジの口から飛び出した兵器の名称。

その理由に時田は理解が追い付いていないようだ。

 

「使徒のATフィールドはN2兵器を以てしても打ち崩せなかったからです」

 

「…………っ!?」

 

きっと、時田も知らなかった情報なのかもしれない。

シンジから聞かされた話を理解した途端、目を見開いたのだから。

しかし、まだまだ話は止まらない。

 

「同様に、先程も話したN2兵器程の威力を諸に喰らったとしても動作が可能な耐久力を有していますか?」

 

矢継ぎ早に叩き付けられる質問の数々。

それに時田は押し黙ってしまう。

 

───まさか、『リツコ』さんに鍛えられた成果がこんな形で現れるなんて。

 

一方、押し黙った時田を見て『平行世界』の天才から叩き込まれた手法が通用している事に驚きを隠せないでいた。

とは言え、教えられたのは単純なもの。

相手の話をきちんと聞き、違和感を抱く事だ。

直感というのはあながち馬鹿にできた話ではなく、本能が何かを察知してくれている。

その中にはもしかすると粗がある。

そこを突いてみると、案外脆かったりする。

 

今回、上手く当てはまったようだ。

 

「時田さん。あなたが指摘するようにエヴァンゲリオンには改良の余地は十二分にあります」

 

それこそ、先程に時田が示したように無人で動かせるようにでもなればシンジ達が出張る必要もなくなる。

稼働時間が長くなれば、ケーブルの問題も解決しやすくなる。

使徒相手に時間制限も気にしなくて済む。

 

しかし、“それだけで勝てる程に使徒は甘くない。”

その事実を、開発した組織と同じ位に理解するのはパイロットである碇シンジだ。

 

時田の着眼点は悪くない。

けれども、その欠点を補って余りある程の性能をエヴァンゲリオンは秘めている。

 

裏付けるようにエヴァンゲリオンはこれまで3体の使徒を殲滅した実績がある。

この数字は小さいながらも、決して無視できない。

 

「先程、時田さんが言葉を詰まらせた事をエヴァンゲリオンは出来ます。JAに劣っているとは断言出来ません」

 

時田が何をしようとしているのか、手に取るように分かる。

ミサトとの会話に出てきた内容と同じだ。

全ての使徒を殲滅し終えた――――その先の話の事を気にしている。

 

今、圧倒的な軍事力を持つのは他でもないNERVだ。

使徒殲滅の功績を考慮する事にでもなれば、実質的なリーダーとしても世界的にも君臨できるだけの力を持つ。

 

NERVに反感を買えば、間違いなく根絶やしにされる。

今後、NERVは畏怖される存在となろう。

 

その抑止力ともなれる力を造れたとしたら話は変わる。

そうすれば世界的にもNERVに次ぐ注目の的は間違いなし。

更にはNERVとは異なり、最初から政府がバックに付いていればそれだけでアドバンテージとなる。

 

時田はその位置を狙っているだけにしか見えない。

言ってしまえば、時田は己を大きく見せたいのだ。

 

「私は、JAでは使徒には敵わない、と?」

 

「断言はしません。ですが、最低限でもそれだけの力がある事を証明しなければ使徒と戦うのは不可能です」

 

時田の汗の結晶である事は認める。

しかしながら、現実は非情だ。

ここでJAを送り込む事となり、最悪の結果となる未来が待つならシンジは止める。

 

「そんな事はやってみなくては分からないよ」

 

「それを言っている時点で、あなたは不十分な開発しか出来ていないと自白しているようなものです」

 

「――――――っ!?」

 

シンジに指摘された時田は言葉を発しようとして、詰まらせた。

これにはシンジも驚く。

もっと感情的となり、罵声を浴びせるものだとばかり考えていた。

 

だが、彼は理性を働かせて言葉を止めたのだ。

やはり、子供でしかないシンジを相手にそういった態度を取れる時田は大人だ。

 

シンジも感情が入り、言葉のこん棒を叩き付けた。

さすがに反省すべき案件で、時田とは真反対にも感情が言葉として飛び出してしまった。

 

「すいません。時田さんの努力を否定するつもりは無いんです」

 

「いや、君の言わんとする事は分かる。正直、中学生だからとまだ下に見ていたと言って良いのかもしれない」

 

シンジの先程の発言を時田は受け入れていた。

そして、愚直にもシンジを下に見ていた事を素直に伝えてくる。

こういう真っ直ぐに頭を下げる事が出来る時田は出来た人だと思う。

 

「逆に問いたいが、君はエヴァンゲリオンに不自由な点が無いと思うかい?」

 

「いえ、それこそ時田さんが指摘した通りです」

 

誤魔化す事をせず、真摯に時田の問いに答える。

これはシンジに限らず、NERV内でも最大級の問題でもある。

特に稼働時間に制限がある事は注視している。

 

「ですが、このデメリットこそが僕達を守っている面もあると考えています」

 

「そうか。活動時間の制限が弱点でもあり、NERVを守る盾でもある訳だ」

 

エヴァンゲリオンの稼働時間に制限がある事は、ある意味でストッパーとしての役目もあるのかもしれない。

 

世界を滅ぼせる使徒と対等に渡り合えるエヴァンゲリオンが2機…………最低でも3機はある。

それなのに既存の兵器は使徒には通用しない。

ならばエヴァンゲリオンに通用するのかも怪しい。

もし、活動限界が無ければ“弱点の存在しない核兵器も同然ではないか。”

 

確かに活動限界がある事は使徒殲滅の観点では大きな足枷となっている。

皮肉にも人間と言う相手に対し、弱点が見えている事は多少なりと安心材料となっている。

 

普通なら逆であるべきなのに、残念な事に身内に向けた弱点の提示であると同時にNERVが今すぐにエヴァンゲリオンの放棄を求められない理由だろう。

 

無論、使徒殲滅に際しての実績やエヴァンゲリオンの開発と言った側面から監視と言う形で留まっているのかもしれないが。

しかし、シンジには明確となっているエヴァンゲリオンの弱点がNERVと他の組織にとっての防波堤となっているのではないかと考える。

 

―――正直、リツコさんが何も手を打ってないとは考えにくいし。

 

彼女の仕事量は不明だ。

だが、リツコならばエヴァンゲリオンの弱点をむざむざ放置しておくとは考えづらい。

今のところ対策はアンビリカルケーブルによる充電位だ。

今後、問題が解消された際にどうなるか――――考えるまでもない。

対策を予め用意されるだけの話だ。

 

「思っていたより、頭は回るね」

 

時田はシンジを称賛し、内心ではこういった大人の裏の顔を垣間見ているにも関わらずに真っ直ぐに居られる少年を羨ましく思う。

時田のバックに付いている存在の事を理解しつつ、シンジはそれでも“時田自身と向き合っている。”

 

「君は、何者なんだ?」

 

「エヴァンゲリオンのパイロットで、中学生の碇シンジです」

 

時田がポロっと溢した問い掛けにシンジは簡潔に答える。

ただ、一拍置いて言葉を続ける。

 

「使徒の脅威から人類を守る為に戦う皆さんの仲間です」

 

時田含め、シンジにとっては使徒と戦う面々全員が仲間だと断言する。

まだ世間を知らないからこそ言える――――きっと、シンジと会話をしていなければ子供が夢見る理想論だと片付けていた。

 

けれど、言葉は少ないながらも交わした彼の人と成りを時田なりには理解したつもりだ。

シンジは年齢にそぐわない考えを持っている。

更にはNERVと時田達との間にあるだろう隔たりを把握している。

 

それでも、その上でも、シンジは使徒と戦う全ての人を仲間だと言う。

 

「君は、自分の言っている事の厳しさを理解しているのかい?」

 

「はい。エヴァンゲリオンと言う兵器がある以上、製造出来てしまう手法がある以上、使徒を殲滅し終えた後も“争いが続くのは目に見えています”」

 

それだけエヴァンゲリオンの存在の大きさをシンジは把握している。

ただ使徒を倒し続けていけばハッピーエンドで終われる物語でない事も知っている。

 

「正直、どうしたら良いのかは分かりません。今後もギクシャクした仲になるのは間違いないですから」

 

今後の方策なんて決まる筈がない。

どうしたら良いのか教えて欲しい位だ。

 

「エヴァンゲリオンが製造できてしまった時点で未来は決まってしまっていた訳だ」

 

「エヴァンゲリオンを破棄する事は出来たとしても、存在そのものを“無かった事には出来ないですから”」

 

製造が叶ってしまった時点で、いくら方法を闇に葬ろうとも誰かが何らかの手法で見付けてしまう。

これはエヴァンゲリオンの登場から問題視されていた事だろう。

 

人類の希望となる筈の力が、一転して人類の脅威となる。

その未来がいつになるのかまでは分からない。

だが、決して遠い日ではない。

 

その事に今から頭を悩ませるだなんて考えたくもなかった。

しかしながら、向き合わねばならない現実でもある。

 

「けれど、君はその上で皆が一丸になれればと考えている訳だ」

 

「はい。色々と考えて、相談もしてるんですが…………なかなか良い案は出てこなくて」

 

シンジの本気具合が伝わってくる。

解決策が浮き彫りとなっていないのも、またリアルだ。

 

「誰かに頼る……結構簡単そうな事だが、これが意外と難しい」

 

唐突に時田は語り出した。

シンジは反射的に彼の話に耳を傾ける。

それだけ彼の切り出しには興味があったからだ。

 

「難しいんですか?」

 

「ああ。何せ、最初の第一歩である相談相手を見付けるのが非常に困難なんだ」

 

「あー、なるほど」

 

シンプルに考えていたシンジであったが、時田が言った最初の理由だけで頷けてしまう。

幸運にも『この世界』ではリツコ、『平行世界』においても『赤木リツコ』や『碇ユイ』も居る。

彼は周りの人間に恵まれていたのだ。

 

「私のような状況になってくると、色々なしがらみも増えてしまってね」

 

大人の事情というものさ────言葉にこそしなかったが、そういう背景が垣間見えた。

シンジには分からない、より大きな存在が蠢いている。

 

「なら、今日はこうやって腹を割って話せる相手が出来たという事になりますか?」

 

急に問われた内容を時田は脳内で反芻する。

理解に及ぶと同時、笑みが漏れてしまった。

 

「そうか。君は今後も相談相手になってくれると?」

 

「はい。時田さんも、他の皆さんにしても、目的に関しては同じ方向を見ているのですから」

 

使徒の殲滅────それは、人類にとっての共通項だから。

一致団結を取れるではないか。

 

夢物語になるかもしれない。

けど、この少年はその夢物語を目指している。

 

使徒との命懸けの戦いに身を投じる彼は人類の団結を諦めない。

この先に待ち受けるかもしれない残酷な運命と真正面から戦うつもりだ。

 

何者であろうと、少年は戦うに違いない。

そこに必要なものは暴力ではなくて信頼関係。

まだ世間を知らないだけ────そう一笑に伏すのは本当に簡単な話だ。

そうだったとしても、時田は不思議と彼の夢物語に付き合いたくなった。

 

 

「君の真っ直ぐな志に乗らせて貰うよ」

 

自然と、その言葉が出てきた。

 

「私も、君の目指す明るい未来を見たくなってしまった。一緒に目指そうじゃないか」

 

「はい!!」

 

2人は握手を交わす。

 

シンジの志に時田は突き動かされた。

少年の行く末をサポートしたい。

そう、思えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

後日談と言うべきなか。

翌日のJA披露会にて、NERVの待遇はそれは良かった。

自らJAのメリット、デメリットを語り、リツコから様々な提案を貰ったとの事だ。




如何でしたでしょうか?

今回は時田シロウ回────の前日という訳で。
時田さんってこんな口調だったかな?
少し不安はありますが、違ったとしても大目に見て下さい。

正直、JAの話は全く覚えていないのもあって、こうさせて貰いました。
本当はもうちょっとロボットが故のロマン溢れる話をしたかったのですが、時田さんに反論した辺りからおちょくりづらい感じになったのであえなく没に。
いつかやろうとは考えています。

さて、時田さんのNERVへの見方が変わった瞬間でもありました。
これなら今後も出番はあるかも。

では、今回はこの辺で。
また次回に。
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