今更ですが前々回から書き方が変わってます。
では続きです。
「あっ」
碇シンジはいつもの離れで眠った筈だ。
なのに目の前は見覚えのない光景がまた広がっていた。
先程の呟きは驚いた為でもあった。
「どうしたのよシンジ? 変な声出して?」
「大丈夫? 碇君?」
自分の名前を呼びながら心配そうに声をかける少女が2人。
下の名前で呼んできた少女は赤みがかった長い金髪に赤い髪飾りを付けた碧眼の少女。
名字で呼んだのは色白でショートカットの青みがかった白髪と赤い瞳を持つ細身の少女。
片や太陽、片や月といった印象を与える少女2人はどういう理由か学校指定らしい体操服に身を包んでいた。
それぞれがスポーツドリンク入りの缶を片手に持っている。
ここは休憩スペースのようで、シンジも椅子に腰掛けていた。
格好は見知らぬ2人の少女と同様に体操服。
自身の着ている体操服は汗で濡れており、肩にはタオルが掛けられている。
「訓練でへばったんでしょ? だらしないんだから」
「他にも何か飲む?」
「だ、大丈夫だよ」
2人の少女が――――雑誌のアイドルも顔負けの美少女2人とこちらの『碇シンジ』は知り合い、もしくは友人の関係性らしい。
シンジとて健全な男の子だ。
美少女とお近づきになりたいと思わない訳がない。
―――けど、2人の知ってる『碇シンジ』じゃないんだよね。
そう。残念ながらどちらも今の碇シンジではなくてこの世界の『碇シンジ』に対して向けた言葉だ。
―――と言うか、これでこの前言ってた父さんの仮説が真実味を帯びた事になるのかな?
夢の中限定ながら平行世界に繋がってしまったという仮説だ。
事実、このような美少女2人をシンジは見た事がない。
となると、平行世界の父親の説が有力となる。
「ちょっと、父さんに用があったのを思い出して。何処に居るのかなって考えてたところ」
口から出任せではあるが、シンジの言は全く以ての出鱈目でもない。
だが、父が何処に居るのかまではシンジには分からなかった。
「それなら――――」
青みがかった白髪の少女が記憶を掘り出しながら父の所在の部屋を教えてくれた。
「あらシンジじゃない」
「どうかしたのか?」
「父さん。母さんも居たんだ」
2人の少女達と別れ、シンジは父親の居る所長室を訪れていた。
部屋では休憩していたのか、ゲンドウとユイはテーブルを挟んで向かい合わせに座ってお茶を啜っていた。
2人掛けのソファーを豪快にも1人ずつ占拠している。
平穏な光景を微笑ましいと思いながら、シンジはどう切り出したものかと考えた。
「もしかして…………」
「別の世界のシンジ?」
シンジが言い淀むのを見ただけで2人はそう推測した。
「よく、分かったね」
「親ですもの。当然よ」
ユイが胸を張って言うと、同調するようにゲンドウも首を何度も縦に振る。
碇シンジにとって欲しい言葉をくれる。
『碇シンジ』とは異なる筈だというのに。
「それにしても数日振りか」
「え? 数日…………?」
ゲンドウの発言にシンジは首を傾げる。
叔父に唐揚げを振る舞ったのは本日の事だ。
夢で平行世界と繋がったのも同じ日。
「その様子だと、そっちとは時間の流れが異なるのかしら?」
「う、うん。僕からすると母さんに料理を教わったのは昨日の事だから」
シンジが言葉にせずとも察して言葉を繋いでくれる。
こういう事はシンジには苦手分野なのでありがたい限りだ。
「そうだ。叔父さんの好物を教えてくれたのと料理を教えてくれてありがとう。おかげで叔父さんの胃袋を鷲掴みに出来たよ」
言ってて表現方法が実にワイルドだ。
しかし、実際にその通りになってしまったのだから仕方無い仕方無い。
「それで、さ。少し分かった事があるんだ」
「まあ、座りなさい。立っていては疲れるから」
ゲンドウに促され、シンジはユイの隣に腰を下ろす。
「実は、叔父さん達は僕と親しくしないよう言い付けられていたみたいなんだ」
誰に? その相手を問うまでもない。
「別の世界の私――――『碇ゲンドウ』だな?」
面と向かって言いづらそうにしているのは分かっていた。
だが、ゲンドウもユイも察する。
「理由は分からないけれど、シンジの心を“強くしすぎない事が目的なんじゃないかしら?”」
横でユイが彼女なりの推論を口にする。
「僕が精神的に弱くある事を望んでる?」
「恐らく。でも、極度の接触をしないよう言われ、離れで暮らすようにも言われていたのでしょう? なら、あり得ない話じゃないわ」
これはある意味で確信を持った推論でもあった。
「そんな事をして何の意味があるのかな?」
「それは“本人の意見を聞くのが良いかもね”」
そう言って白羽の矢を立てられたのは当人――――碇ゲンドウだ。
如何な平行世界の『碇ゲンドウ』とは言え、その根本的な行動原理まで変わるとは思えない。
「あなたの『はりきりすぎ』が悪い方向に出てるのかもね」
「ふーむ」
ユイに指摘され、ゲンドウは考え込む。
「とりあえずシチュエーションが大事ね。この前に言われた事を思い出して」
「分かっている」
ユイに指摘されるまでもない。
ゲンドウの脳は可愛い我が子との会話を忘れないご都合主義の設定がある。
「これだけが真実なのかは分からない。だが、“ある目的を達すると決めたのかもしれない”」
ゲンドウは前置きをし、そして発する。
「恐らく、母さん――――『碇ユイ』ともう一度で構わないから会いたいと思っているのだろう」
他ならぬ『碇ゲンドウ』を知る目の前の碇ゲンドウからの言葉だ。
「これも推論でしかない。だが、碇ユイを失いでもすれば取り戻そうとする」
それが『碇ゲンドウ』を知る碇ゲンドウからの言葉。
「同じ結論ね」
彼女もゲンドウと同じ意見であったようだ。
しかしながら、その事と碇シンジの因果関係は何がある?
そう思い悩んでいた時だった。
「ねえ!! 今の話ってどういう事!!」
「何が起きてるんですか!!」
先程の美少女2人が勢いよく乱入してきた。
「アスカにレイまで」
その名前は最初に平行世界に来た際に聞いた名前だ。
こんな美少女2人と御近づきになれているこちらの世界の『碇シンジ』が羨ましいと思っていた矢先だ。
「ねえ!! 別の世界のシンジってどういう事なのよ!!」
「教えて下さい」
2人は所長室に入るなり『碇シンジ』の心配をする。
今、目の前に居る碇シンジでは決してない。
「外で話を聞いていたのね」
「アタシが挑発したのにあまりにも弱々しく返したし」
「所長室の場所が分からなかったみたいでしたから様子がおかしいと思って」
たったそれだけのやり取りで違和感を覚えた2人は気になって外で様子を窺っていた訳だ。
それだけ2人は『碇シンジ』を良く見ているのだろう。
「それが良く分からないの」
こうなった詳細を誰にも説明が出来ない。
事はファンタジーの領域にさえあるのだから。
「良く分からないけど、少なくとも向こうのシンジのパパがここにいるシンジを良く思っていない事は伝わってきたわ!!」
「向こうの碇所長は酷い」
まるで自分の事のように憤慨する2人。
その矛先は会った事もない『碇ゲンドウ』の筈だ。
なのに今目の前に居る碇ゲンドウの心に痛烈なダメージが入った。
「うう、私ではないのに」
「はいはい。いじけないの」
テーブルに「の」の字を書いていじけ始める夫を妻が宥める。
碇ゲンドウに向けた矛ではない事は分かっているが、同一人物なのは確かなので心に来るものがある。
そんなゲンドウを脇に置き、アスカとレイとやら(どっちがどっちかまでは分からない)がシンジと向き合う。
「じゃあ、アタシ達の事も分からない、の?」
「碇君……」
すがるような目で見てくる。
ここで嘘を吐くのは簡単だ。
だが、偽りの言葉を並べてもボロが出るのは必然。
「僕は2人の事を知らないんだ」
残酷だと分かってはいるが、真実を叩き付けるより他にない。
「で、でも、今居る僕は眠ってる状態だから向こうの僕が目を覚ませば本来の『碇シンジ』は目を覚ますと思うよ」
実際、シンジはいつの間にか目を覚ましていた。
そして、ゲンドウやユイの反応から『碇シンジ』は意識を取り戻していた筈だ。
自分から自分への憑依と言うのはいまいち実感が湧かないが、それが良い意味でも作用していると考えたい。
「だから、心配しなくても――――」
「アンタ、バカァ?」
「碇君は何も分かってない」
シンジなりに言葉を並べていると、意外にも両者から反論を喰らった。
何か不満でもあると言うのか?
「バカシンジはどの世界でもバカシンジなのね」
「いや、僕と
「『
またもシンジの話をぶったぎり。
そして、続けて彼女はこう言い放つ。
「アスカよ。
「
赤みがかった金髪の少女は惣流・アスカ・ラングレー。
青みがかった白髪の少女が綾波レイ。
唐突に行われた自己紹介に碇シンジは首を傾げる。
しかもアスカに至っては名前呼びまで強要される。
「シンジがアタシ達をどう思ってるか分からないわ。アンタだって、アタシ達がアンタをどう思っているかなんて分からないでしょ?」
「それは、まあ…………当然じゃないかな?」
アスカの言うように人の心を完全に理解できる人なんて居やしない。
空気を読んだり、表情や声音等から窺ったり――――それでも推測の域を出ない。
「でも、他人の癖や考え方は“理解する事はできると思うの”」
次の言葉は綾波が受け持った。
心までは分からずとも、その人の理念等は分かる筈だ――――そう主張を始める。
「けど、僕とこの世界の『碇シンジ』は違うよ。全然違う」
それは彼女等を見ていても分かるし、何より温もりのある家庭で育った『碇シンジ』は碇シンジとは全く異なる。
「何を言ってるんだか」
対してアスカが鋭く切り返してきた。
綾波も「何を言っているの?」と呟く。
続けざま、彼女等は言い出す。
「アタシ達の知るシンジと――――」
「今、目の前に居る碇君は“何も変わらないよ”」
「変わらない? 同じだって意味だよね?」
他にどういう意味があるのかは逆に知りたい所だ。
事実、2人からは大きな溜め息を吐かれる。
「本当、そういう抜けてる所も一緒だよ」
「それに底抜けにお人好しな部分もね」
「お人好し、かな?」
綾波の評価はまだしも、アスカの評価には首を傾げる。
「だってそうでしょ? 自分が『違う世界の碇シンジだ』って言いながら“アタシ達の心配を解いてくれたじゃないの”」
「え? そんな事をしたかな?」
アスカの言い分にシンジは首を傾げる。
「『本来の碇シンジは起きる』って真っ先に教えてくれたから」
「それは、まあ。心配してるかなと思って」
「自分の事なんて御構い無しに他人に安心する言葉を伝えられるシンジだからこそお人好しって言ったのよ」
そこのところ分かった?――――両手を腰に当て、ズイッ!! とシンジを睨むようにアスカは見てくる。
正直、彼女のような美少女に見つめられる経験の少ないシンジは目を反らしたくなるのだが、それは許さないと無言の圧力を感じた。
コクコクと頷くより無かった。
「なら。良し!!」
アスカは満面の笑みを咲かせる。
綾波も横で微笑んでいる。
―――ああ、そうなのか。
彼女等の笑顔を見てようやく理解できた。
“ちゃんと見てくれていた。”
他の誰でもない――――『碇シンジ』ではなくてこの場に居る碇シンジという少年を。
家族だけではない。
彼女等との間にある絆を碇シンジは感じ取った。
これが「理解する」と言うもの。
「ありがとう。2人とも」
「「お礼を言われるまでもないわ」」
口を揃え、屈託無い笑顔で返答される。
これ程までに嬉しいと思わない事はない。
「ふふ。それにしても2人に会った事はないの?」
「えと、残念ながら会った事はないです」
「となると、鈴原とか相田とかも知らなそうね」
「うん。そうなんだよね」
この場で会った事のある人物は父親以外に居ない。
「そっちの碇君はどれだけこっちに居られるの?」
「ちょっと、分からないかな」
前回は体感にすると数十分といった所だった。
今回も同じだとは限らない。
「別の世界のシンジが乗り移っていた事は本人も覚えていたわ。その上で自分がそうしたと言う認識で居たの」
なるほど。碇シンジの行動でこちらの『碇シンジ』は自分の意思で行ったと思って行動するようだ。
「あっ、一応こっちのシンジにも話は通してあるけど、変な事はしちゃダメよ」
「それは、もちろん」
理性的にも犯罪紛いな事はさせられない。
「シンジに聞きたいのだが」
いつの間にか復活していたゲンドウが口火を切る。
「この世界以外の平行世界には行ってないか?」
「そう、だね。まだ2回で、2回ともここだよ」
「もしかすると、ここ以外の世界にも行くかもしれない。その時は気を付けるんだ」
「う、うん。肝に命じておく」
正直、こうやって世界を渡り歩いている実感もない。
けれど、飲み物も味がしたし、シンジの記憶だけでは考えられない様々な展開の数々が話を裏付ける。
「そんな事より!!」
ビシィッ!! 人差し指をシンジへ向けるアスカ。
「そのナヨナヨとした態度は良くないわ!! それだと、向こうの学校でも友達とか居ないんじゃない?」
「うっ!?」
図星を突かれ、言葉に詰まる。
「そうならないよう特訓よ!! まずは自分に自信を付けるところからね!!」
「私も手伝うから頑張ろう碇君!!」
アスカも綾波もヤル気満々のようだ。
当のシンジは彼女等の熱に押されて人形のように頷くのみ。
「決まりね!!」
「じゃあ、特訓!!」
彼女等に両腕を掴まれてシンジは捕まった宇宙人よろしく連行されていく。
「行ってらっしゃい」
「気を付けろ」
その様子を微笑ましく思いながらも、親には考えねばならない事がある。
碇シンジを突き放した『碇ゲンドウ』の目的についての考察だ。
「とりあえず、色々と考察していきましょうか」
「そうだな」
別の世界ながら愛する息子の為に親が立ち上がる。
運命を仕組まれた少年の歯車が今変わり始める。
如何でしたでしょうか?
ヒロイン2人の出会いで碇シンジはどう変わるのか。
では次回に。