3カ月程前に怪我をしてしまいまして、執筆が滞っておりました。
大変申し訳ありません。
何とか書けるところまでは回復したので続きをどうぞ。
修学旅行、それは学生生活で一度しか訪れない学生の行事だ。
見知らぬ土地の冒険、友人との宿泊は気分を高揚させる。
普段の生活では得難い経験が出来る楽しい行事である筈―――――
「なのに、どうして!! パイロットは待機なの!!」
そう叫んだのは誰あろうアスカだった。
ドイツでは得られなかった同年代の友人をこちらで得て、尚且つ修学旅行の話を聞かされていた彼女は一番楽しみにしていた。
しかし、現実は非情にもエヴァンゲリオンパイロットは使徒に備えて修学旅行には参加せずにNERVでの待機となった。
「仕方無いよ。いつ使徒が現れるのか分からないんだから」
アスカを宥めつつ、シンジは言う。
正直なところ楽しみにしていたが、さすがに状況を考えれば有り得る話なので半ば諦めの境地に至っていた。
「分かってる!! 分かってるのよ!!」
使徒の殲滅はパイロットの責務。
それを考えればアスカだってこうなる事は予想していた。
彼女とて、現状を把握していない訳では無い。
「その代わり、プールを解放してくれてるんだから」
修学旅行の行き先は沖縄であった。
向こうで泳ぐつもりで新しい水着を用意していたアスカ。
ミサトやリツコの計らいでNERV内にあるだだっ広いプールを貸してくれた。
なんだかんだ言ってアスカは黄色のビキニに着替えている。
中学生らしからぬプロポーションを惜しげもなく披露している。
もしもこれで沖縄の海で泳ごうものなら「派手だ!!」と理由を付けられて着替えさせられていただろう。
男子は喜ぶだろうが、教員は頭を抱えること間違い無し。
行けなくなったのは教員にとって悩みのタネが消えたので良かったのかもしれない。
あれならマリの事は自分の内に隠してある。
その内にリツコに話すべきなのだろうかと考えてはいる。
第三者の意見として『平行世界』の面々に問いを投げるのもありだろう。
今夜辺りにでも行ければ良いが。
「しかし、何でシンジはプールサイドで勉強してるのよ?」
「ちょっと課題を渡されちゃって」
「はあ…………また歴史で変な事を書いたのね」
呆れるわ――――言葉にせずともアスカの言わんとする事が思い浮かぶ。
返す言葉もない。
どうしても『平行世界』の歴史とごちゃ混ぜになってしまう。
こればかりは慣れるより他にない。
「あと今回は理科もだね。熱膨張の意味とか」
「そういうのは覚えるしかないわね」
アスカの言うように勉強あるのみ。
熱膨張なんて言葉を知っていても咄嗟に意味なんて出て来やしない。
いつか使う事があるのだろうか?
「ところで、レイは?」
キョロキョロと辺りを見回す。
彼女の探している人物はすぐに見つかった。
綾波は既にプールで泳いでいた。
25メートルを泳ぎ終えると、そそくさとプールから上がる。
白いレオタードの水着だ。
派手さがあるわけではないが、時折見せる綾波の神秘的な姿に不思議と似合っている。
「そつなくこなしてるって感じね」
綾波の泳ぎに対し、アスカなりに降した評価はそれだった。
決して貶してる訳ではなく、ただ何と無く妙な違和感を抱いた。
「何だか機械的というか、事務的と言うか…………」
「それ、僕も分かる気がする」
アスカの女の勘にシンジも乗っかる。
決して綾波の行動を批難している訳では無い事は先に述べておく。
ただ単純に、楽しんでるのとは違う。
言うなれば訓練の延長線上のように、黙々と課題をこなしているように見受けられる。
やり方は人それぞれであるし、とやかく文句を言うつもりはない。
「仕方無い。勉強に縛られてるサードに変わって、エリートパイロットのアスカ様がファーストに楽しむ事の何たるかを教授しないと!!」
「1人で泳ぐのがつまらないだけじゃないか」
宣言するなり飛び出したアスカにシンジは言う。
聞こえていないのか、善は急げと綾波の元へ。
一言二言交わした後にプールで共に泳ぎ始めた。
競泳でも始めたのだろう。
アスカのコミュニケーション能力には脱帽させられる。
「やあ、シンジ君」
それを眺めていると声を掛けられる。
いつの間にか正面に男性が座っていた。
その人物はシンジ――――というよりはNERVに縁のある人物だ。
「時田さん」
時田シロウ。
エヴァンゲリオンに代わるジェットアローンという機体を開発して使徒と戦おうとしていた人物。
ジェットアローンは使徒と戦うには役不足だという事となり、開発は中止となった。
現在はNERVと協力し、使徒殲滅の為に様々なサポートを行ってくれている。
時田は開発の責任者の立場もあり、なかなか顔を合わせられずにいた。
こうして顔を突き合わせるのは本当に珍しい事だ。
「今日はどうして?」
「エヴァンゲリオンをサポートする為のユニットを開発してね。
それが現実的に可能かのテストに来たんだ」
テストは成功。
後々に実際にエヴァンゲリオンに搭載しての訓練を行うそうだ。
「どんなものを?」
「シンジ君には伝えておこう。
それはロボットの定番!! 飛行ユニットさ!!」
「飛行ユニット!! 遂にですか!?」
時田の開発したものは飛行ユニット――――ロボット作品の定番だとも言える。
背中に付いた機械の羽、もしくはジェット噴射機で空を自由自在に飛び回る。
それが出来るようになるだなんて夢のようだ。
「ただエヴァンゲリオンの電源と接続する形となるのがネックだね」
「持続時間にも難あり、ですね」
「下手をするとフル稼働で1分…………多く見積もって2分といったところかな」
それは使徒との戦いで致命的に成り得るもの。
話からアンビリカルケーブルの継続的な充電も行えない事となる。
「一番の問題は時間切れを起こした際の対処なんだ」
エヴァンゲリオンと電源を共有する時点で、芋づる式にどちらも機能停止後は沈黙してしまうのだろう。
大問題は空中に居る場合だ。
仮に使徒殲滅をしたとして、空中からの落下時にエヴァンゲリオンを損耗しては意味がない。
実際はパイロット含めて上空から落とされたとて大きな損傷は無いと言える。
その点を時田も理解はしているだろう。
しかしながら、理解している事と心内は異なる。
彼自身、戦場に向かわせる子どもに楽させてやりたい気持ちと危険な行為をさせる事のデメリットを理解しているから。
「一応、エヴァンゲリオンのサイズに合わせたパラシュートが自動で開くように設計はしてある。もちろん手動でも可能なように」
思い付く限りの保険は用意しておいたが、これ以上は難しい。
それよりもエヴァの質量をパラシュートだけで支えられるのかという疑念も生じる。
リツコも絡んでいるようなので心配する必要は無いだろう。
「あとは急な使用に際してもアンビリカルケーブルの待機所にいつでも出せるようにシステムは整備する事は可能にはしてあるんだけれど」
「いつ飛行能力を持つ使徒との戦いになるのかは分かりませんから。あるだけでも選択肢が増えるので悪い事では無いですよ」
備えあれば憂い無し。
最低限の安全装置はあるのだから何とかなってくれると思いたい。
今のところ燃費の悪さがネックだろう。
「そうそう。他にも色々と準備をしたんだ。例えば耐熱スーツとか」
「確かにどういうものが必要になるのか分かりませんもんね」
耐熱スーツなんかも使徒との戦いで役立つかもしれない。
敵が熱を利用して来ないとも限らないのだから。
不要になるのであれば良し、いざ必要な時に無ければ全く意味を成さない。
備えあれば憂いなし。
『3人とも、悪いのだけれどブリーフィングルームに来て頂戴』
プール室にある放送用スピーカーからミサトの招集が掛かる。
決して快くないものなのは分かる。
「ちょっと、行って来ますね」
「ああ、気を付けて」
時田に一言告げ、ブリーフィングルームへと赴くのだった。
案の定というべきか、招集の理由は使徒であった。
ただし、これまでとは異なる点で使徒の状態が胎児――――いわゆる「卵」である事だ。
今回の任務はその胎児状態の使徒の確保である。
便宜上使徒の名前はサンダルフォンと名付けた。
生きた使徒のサンプルは将来役に立つからという最高司令官であるゲンドウの命であった。
確かに使徒の生態を理解出来れば、この先の戦いでも優位に事を進められるのかもしれない。
なので今回は「殲滅」ではなくて「捕獲」が任務である。
難易度でいえば殲滅よりも圧倒的に高い。
捕獲後も暴れたりしないように細心の注意を払う必要がある。
それにいつでもエヴァが待機できるようにしなくてはなるまい。
考えるだけでも数多の問題点が浮上する。
しかし、それらのリスクを承知の上で使徒について知らなければならない。
今回は下手をすると最初で最後のチャンスなのだ。
ただ、一口に捕獲と言っても難易度を上げる要因は他にもある。
今回の使徒の現在位置が何と火口の中だと言うのだ。
長野県の浅間山だと言うのだから離れた場所に居たものだ。
いくらエヴァでも火口の中に飛び込むのは自殺行為に等しい。
そこで新装備の登場だ。
こういった事態に備えて耐熱装備を用意してあった。
さすがNERVに抜かりが無い。
頼もしい限りであったのだが問題点がいくつか生じた。
この装備――――D型装備は弐号機にしか扱えないというもの。
そして、その装備に際して弐号機は深海の作業用服のようなダイバースーツを着させられる。
それだけに留まらない。
パイロットであるアスカのプラグスーツも耐熱素材なのだがアドバルーンのように大きく服が膨らむのだった。
弐号機を動かす事はシンジや綾波にも可能なのだが「弐号機の操縦には慣れてるからアタシが行く」と手を挙げてくれる。
正直、弐号機に不慣れなシンジや綾波よりもずっと適任であった。
一番の問題は装備の都合上、どうしても弐号機の機動力が死んでしまっている点だ。
こればかりはどうしようもないが、不安は残る。
更には装備の都合上、武器も装備出来ない。
いざという時の護身用のプログナイフの装備も不可能なのだ。
「何とかなるわ。いざという時は頼りにしてる」
アスカの一言にシンジは照れ臭さを覚えながらも悪い気はしない。
シンジと綾波に背中を任せてくれるのだから何も言えやしない。
作戦は進路を確保した後にD型装備用にこしらえた冷却装置や電気などを送る機能を持つ特注の複数本のホースで弐号機を吊るし、電磁柵を持って投下する。
初号機をそこで待機させ、非常事態に備える。
綾波は万が一のにサンダルフォンが火口から離れて本部に向かって来た際の対処する為に待機。
この布陣にて作戦が開始される。
弐号機がゆったりと火山の中を降下していく。
『ごめんなさいアスカ。こんな危険な事をさせてしまって』
「良いわよ。どうせ誰かがやらなくちゃいけない事なんだから。
適任がアタシだっただけ」
『ありがとう』
アスカの言葉にミサトの心も若干軽くなる。
今回の一件はどうしたって命懸けだ。
彼女の言うようにお鉢が自分達のところへ回ってきただけというのは確かにとしか言えない。
それでも、こんな危険地帯へ放り込む事を許して欲しい。
『終わったら温泉に行きましょう』
「良いわね。豪華に焼き肉も頂こうかしら。もちろんミサトの奢りでね」
『お、お手柔らかに…………ね』
こうでも言っておかないと手加減してくれなさそうだ。
だが、言葉では言っていても自分の通帳とにらめっこをし始めて「一応予算はあるけれど」と呟く。
チルドレンの働きに焼き肉など対価としては安過ぎる。
口ではあんな事を言いつつ、なるべく奢るつもりのようだ。
「見えたわ」
降下は順調に進む。
胎児状態のサンダルフォンを発見する。
「任務開始します」
持ち込んだ電磁柵で使徒を囲う。
無事に捕獲に成功し、あとは引き上げて貰うだけだ。
「シンジ、よろしく!!」
『了解』
アスカの合図を受けてシンジはホースを引き戻す。
機械が自動操縦で勝手に行っているのでそれ以上の事は必要ないのだが。
対象が制止していた事も起因して、捕獲の難易度自体は簡単であった。
問題なのはこの後だ。
いつ如何なるタイミングで使徒が牙を剥いてくるのか分からないという点だ。
今この瞬間にでも羽化しない保証は何処にも無い訳で――――
『使徒のパターンに変化が!!』
最悪の事態というのは得てして起こるもの。
電磁柵の中で胎児状態の使徒が変化を起こした。
その変化は気付いた時にはもう遅かった。
これまでの胎児の姿ではない。
アノマロカリスとヒラメを足したような姿だった。
電磁柵を脱け出し、あろうことかこのマグマの中を平然と泳いでいる。
「ちょっと、イキが良すぎるんじゃない?」
そんな余裕を言っている場合ではない。
状況も「捕獲」から「殲滅」へと切り替わる。
それでも弐号機の売りの機動力はこの状態では活かせない。
使徒はアスカを見付けると、一目散に突撃してくる。
「こっ、のぉっ!!!!」
避ける事は出来ない。
となれば受け止める以外の選択肢は存在しない。
サンダルフォンの頭突きが弐号機の腹部に当たる。
弐号機の腕を何とか動かして突進してきた使徒を捕まえる――――のだが、
「うっ、そ!?」
踏ん張りも利かない状態だ。
いとも容易く弐号機は火山の壁際にまで追い込まれ、叩き付けられる結果に。
その瞬間、ワイヤーに亀裂が走る。
マグマ内で水が溢れ、更には起動時間を眺めるケーブルをも切断されそうになる。
『アスカ!! これ!!』
丸裸で応戦など不可能だ。
ならばとシンジは初号機のプログナイフを火口へ向けて投げ付ける。
視界は最悪、それでも弐号機の位置はオペレーターが監視してくれているので分かっている。
その座標へ向けて投げるだけだ。
「ちょっとシンジ、ナイフを送られたのは良いけれど、これでどうするのよ?」
思うように動けない状態でナイフを使徒の頭部へ斬り付けるも皮膚が堅くてビクともしない。
このままではアスカの方が根を上げる結果になる。
『そうだ!! さっき言ってた、熱膨張だ!!』
「なるほどね」
破損した部位から溢れる水を利用させて貰う。
幸いサンダルフォンは弐号機を圧し潰そうとしている。
弐号機を壁に押し付けた状態で口を大きく開いて頭部から吞み込もうとする。
おかげで使徒共通のコアがその中にあるのも確認できた。
更に奇妙な筒のようなものも見受けられるが…………極限状態の今、気にしている余裕は無い。
この環境下で口を開くという生態に驚きを隠せない面々も居るが、今はそれどころではない。
腕にある冷却装置のホースを引き千切り、それを使徒の腹部へと押し込む。
「これでも、喰ってなさいよ!!」
『冷却液を全て3番へ!!』
2人の会話を聞いていたから行動も迅速であった。
冷却液がサンダルフォンの身体を駆け巡る。
極端な温度差の熱膨張で表面の皮膚の耐久性をダウンさせる。
そうする事で――――先程まで通らなかったプログナイフが皮膚を貫く。
その勢いのまま
悲鳴も何も起こらなかっった。
サンダルフォンは弐号機から口を放し、尻尾の部分から徐々に黒く塗りつぶされつつ落下していく。
黒くなった部分は役目を終えたようにマグマの中で溶けて消えていく。
消え去るのも時間の問題であろう。
ただ、アスカの方にも問題があった。
「これ、まずいかも」
サンダルフォンを撃退したは良いが、吊るされているホースも千切れる間近。
このままではあの使徒と同じ道を辿るだろう。
「これで終わりか…………」
助かる訳が無い。
引き上げられるまでにはどうしても地上に辿り着けやしない。
それでなくともD型装備の破損で弐号機は限界を迎えている。
命綱だったホースも今に切れるだろう。
「悪いわね、あとの事は任せたわ」
瞬間、重力に逆らう事が出来ずに弐号機は火口の中へ落下していく。
その浮遊感を受けている――――
『アスカーーーーーーっ!!!!』
通信からシンジの声が聞こえる。
同時、浮遊感は消えた。
何者かに腕を掴まれている。
何が起きたのか?
いや、疑問に思うまでもない。
見てみればホースとアンビリカルケーブルを命綱代わりにし、壁に指をめり込ませている初号機が弐号機を掴んでいた。
「全くもう、無茶するんだから」
心の何処かで彼が来てくれると信じていた。
通信の向こうからアスカを心配する声がようやく聞こえる。
「けれど、これで終わりね」
使徒の捕獲こそできなかったが、仕方ない。
コアを貫いた感触もあったし、これで作戦は終了――――
『待ってください!! 使徒の様子が変です!!』
通信の向こうからそう叫んだのは日向マコト。
彼は未だに信号に変化のない使徒を観測していた。
案の定であった。
直後、サンダルフォンに変化が訪れたのだ。
奴の身体は黒くなっている。
けれども、今度は崩れる様子が見られない。
先程のように胎児の姿へと戻る。
それだけならまだ良かった。
その胎児がスライムのように身体を変化させていく。
まるで、これから新しく生まれ変わるようで…………
『いけない!! 逃げて!!』
言われて我に返った瞬間、全力で地上へと帰還する。
壁に足を付いて、上空めがけて跳躍する。
瞬間、ATフィールドを足場代わりに展開し、エヴァの超人的な身体能力で瞬く間に火口の入り口にまで逃走する。
飛び出ると、火口から離れるように転がる。
それに遅れて先程の使徒が火口から飛び出して来た。
その姿は明らかに先程までとは異なっている。
胴長の四足歩行する恐竜の骨のような容姿をしている。
尻尾の少し手前に黒と黄色の殻のようなものを持っている。
明らかに異形。
しかし、気になるのは何もその容姿に留まらない。
『あの首元……』
胴長の中心辺りに鉄の筒のようなものがある。
あそこだけやけに機械的で、あの姿にはそぐわない。
違和感はそれだけに留まらない。
あの鉄の筒は見覚えがある。
『エントリープラグ? どうして?』
『でも人の反応はありません』
解析をしてくれていた青葉シゲルが無人である事を説明する。
そもそも、使徒にそんなものがどうして植え付けられているのかというのが最大の疑問点だ。
『コアは後頭部の辺りです』
コアの位置は特定出来た。
さて、この使徒を何とかしなくてはならない。
「シンジ、これ」
声を掛けられ、弐号機が初号機に自身のプログナイフを投げる。
丸腰では敵わない。
せめて武装して戦うべきだというアスカの行動。
「ごめん、弐号機も活動限界みたい。あとは頼んだわ」
その直後、弐号機の充電が切れて活動限界が訪れる。
アスカが最後までプログナイフを持っていてくれたおかげで丸腰での戦闘では無くなった。
『うん。あとは任せて』
アスカはその通信を受け取ると、シンジと使徒の画面を映し出す。
確かに動けない。
けれど、自分にもまだ出来る事があると思って戦況を観察する事だけは止めなかった。
シンジは新たな姿に変化したサンダルフォンを油断無く見据える。
長い首を上下左右へ動かし、その度に骨同士がぶつかり合ってカタカタと音がする。
正面には火口があり、自分の隣には行動不能になった弐号機が倒れている。
周囲には何も無く、エヴァからすればミニチュアも同然の木々があるのみ。
綾波もNERV待機の為に離れられない。
そもそもこちらへ援護へ回すにも時間が掛かるだろう。
人はシンジとアスカ以外にはこの場には居ない。
あるのは念のために設置してある無人のアンビリカルケーブルのポータルがいくつかあるのみ。
言い換えれば、人は誰も居ないので好きなだけ暴れる事が出来る。
状況確認を終えた頃と同時に、何度目かの首振りを終えたサンダルフォンが自身を矢に見立てて頭突きをかますように真っ直ぐ向かってくる。
姿が変わる前と同様、ただ速度が限りなく上がっている。
マグマの中でも素早いと感じたが…………その時とは比べ物にならない。
「来たっ!?」
反応出来たのは直前の予備動作を確認できたから。
初号機を真横へ跳ぶように動かし、サンダルフォンの一撃を回避する。
しかし、サンダルフォンの攻撃は止まらない。
地面を抉りながら急旋回し、再び初号機へ突撃してきたのだ。
「分かってさえいれば!!」
対処は難しい話ではない。
今度はシンジも前へ走らせる。
プログナイフを突き出すように腰へ持っていき、コアがあるらしい頭部を貫く為に力を溜める。
『頭部に熱源反応!!』
『シンジ君!! ビームよ!!』
説明のおかげでサンダルフォンが何処を狙っているのか容易に理解できた。
頭部、より正確には目の部分が光ったのだ。
こちらの足下を狙っているのが丸分かりであった。
ミサトの指示が飛ぶと同時、初号機はサンダルフォンの真上を取るように跳躍した。
サンダルフォンのビームは予想通り、初号機の存在していた地面を焼く。
だが、一歩遅い。
既に真上を取ったシンジは後頭部にコアがあるのを発見する。
コアの見える範囲ながら端にヒビが入っているのが見えた。
先程のアスカの一撃はコアの芯には届いていなかった。
だからこその復活なのだろう。
しかし、これさえ壊せばサンダルフォンは消滅する。
コアにヒビがあるのならばプログナイフの一突きで壊せる筈だ。
プログナイフでコアを貫こうと腕を伸ばそうとして――――
『ダメ、シンジ!! そいつ首を戻してる!!』
アスカから通信が入る。
外から見ている分、視野が広いので現場慣れした彼女のアドバイスは的確だった。
既にサンダルフォンは首をしなやかに揺らすと初号機に打ち付ける。
「ATフィールド!!」
咄嗟に足下にATフィールドを設置して難を逃れる。
しかしながら勢いに押され、地面を何度か転がる事になる。
「くそっ!!」
『反撃が来てるわ!! シンジ!!』
向こうの攻撃が早い。
地面を大きく抉りながら巨大な槍となって初号機に突進してくる。
今度は回避の余裕は出来ず、真正面から受け止める。
凄まじい衝撃と共に初号機が押されていく。
力こそ無いが、それを補って余りある速度を活かした突進が初号機を押していく。
だが、いつまでも受け止められて膠着状態をサンダルフォンも望まない。
突如として、首を身体ごと真上に折り曲げた。
かなりの柔軟性、呆気に取られたシンジは意識をそちらへ持っていかれる。
『シンジ!! ボサッとしない!!』
アスカの忠告は一歩遅かった。
胴長の身体、柔軟性のある骨の身体、それらを駆使して初号機の真後ろへ身体を曲げて胴体を着地させていた。
そのまま首を引き戻すかのように、首を跳ね上げる。
「う、あああっ!?」
シャムシエルの時のように初号機を空中へと放り出される。
そして、そこへ狙いを定めてビームが放たれる。
なるほど、空中であれば身動きは取れない。
確かに理に適った戦術と言えよう。
これが普通の人間であった場合の話しだが。
「ATフィールド、展開!!」
残念ながらエヴァンゲリオンは普通の範疇には当てはまらない。
真下から放たれるビームをATフィールドで受け止める。
それを足場にし、初号機を横へ跳ばせてビームの範囲外へと逃げ込んだ。
向こうもそれで終わりではない。
初号機の着地と同時、骨をしならせ、初号機に照準を合わせようとする。
通信機の向こうから「熱源反応」の声を貰う。
それだけで何が起きようとしているのかは丸分かりだ。
「それなら!!」
プログナイフを投擲する。
狙いは頭部。
こちらへ完全に向きが決定するよりも以前にプログナイフを叩き込み、頭部を今一度上空へと向け直させる。
直後、初号機に当てる筈だったビームは遥か上空へ打ち上げられる。
その隙を見逃さない。
プログナイフは進路上に突き刺さる。
それを回収し、サンダルフォンへ突進していく。
刹那、カタカタと音がする。
散々聞かされた骨同士がぶつかり合う音だ。
この発生源は間違いなくサンダルフォン。
何処から――――その疑問が抱くと同時にサンダルフォンがこれまで使わなかった尻尾が大きく振るわれる。
『シンジ!! 尻尾!!』
胴長の部分のみに意識を割いていた結果だった。
オペレーターからの反応も無かった。
唯一、観察していたアスカが声を張り上げるも間に合わなかった。
予備動作無しに初号機を追い払うかのように尻尾が叩き付けられる。
予想出来ていたとしても回避は困難だったかもしれない。
オペレーターさえも感知できず、あまつさえアスカだって僅かに反応が遅れた。
これはサンダルフォンが意識を向けさせていなかったのも要因だと言える。
いや、今はそんな余計な思考は後回しだ。
サンダルフォンの突進は体勢を立て直した直後だった。
「くっ!!」
行動は馬鹿の一つ覚えだが、とにかく速い。
それがサンダルフォンの突進をまともに喰らっている理由である。
ATフィールドの展開が間に合わず、周囲からのサポートも遅れるのはこの為だ。
今回も受け止める事は出来たが、それだけでは終わってはくれない。
受け止められた反動で首の骨を波打たせて胴体を手前に持ってくる。
そのまま尻尾で初号機の腹部を叩き付ける。
「うわぁっ!?」
初号機に衝撃こそ起こるが、大した損傷が無いのは救いだ。
ただ、如何に直接攻撃が通じずとも悩ませる攻撃もある。
『またビーム!!』
指示が来るおかげで何とか攻撃を感知、回避へと迅速に対応できる。
数秒遅れて、サンダルフォンのビームが襲い掛かる。
ドオオオォォォッ!!
初号機が先程まで居た場所で小規模ながら爆破が起きる。
地面が抉れ、砂が巻き上げられる。
一点に集中している事から威力も凄まじいものとなっている。
まともに喰らう訳にはいかない。
それに気にしなくてはならない部分もある。
アンビリカルケーブルの存在だ。
付いている状態なので充電は問題ない。
だが、適当に避け続けてケーブルを焼かれでもしたらいよいよピンチだ。
サキエルの時のようにケーブルで罠を張れないかとも考えるも、向こうが速すぎる為に準備する余裕が無い。
今さっきの投擲でプログナイフを貫通してくれるかも怪しい。
ただ、剥き出しのコアの防御力に関してはこれまでの使徒と同様にプログナイフで突き破れる筈。
僅かな隙も逃してはならない。
『ごめんシンジ、アタシの位置から見えなくなった』
「こっちは大丈夫。何とかする」
アスカも弐号機から降りてしまうのは自殺行為だ。
動かずともエヴァの中の方がシンジも安心できる。
彼女もそれを理解しているから無茶は言わない。
けれど、これでアスカの生の現場の声が聞こえなくなったのは痛手だ。
ここまで彼女の掛け声のおかげで大きな損耗は起きなかった。
不安は残る、でもシンジは1人ではない。
「ミサトさん、リツコさん、何かサンダルフォンを足止めする術はありませんか?」
『シン…………こえてる?』
「え?」
NERVの面々にヘルプを求める。
だが、彼の思い描くものではなくて返事はノイズの入ったミサトの声だった。
映像も映らない。
「こんな時に!!」
電波の問題か、はたまた通信機器の故障か。
とんでもない熱気の中へ一時的にも身を置いたのだ。
何処かに問題が起きても不思議ではないが、あまりにもタイミングが悪すぎる。
援護は無い。
けれど、これを放っておく訳にはいかない。
「やるしか、ない!!」
プログナイフを構え直す。
気合いを入れろ。
ここを何としても切り抜ける。
幸いにもサンダルフォンのパターンは読めている。
「行く!!」
無茶だとも思えるが、あえて勇気の突進を選択する。
先程までのパターンでビームであれば一度動きを止めている。
物理的なものは予備動作が起こる。
あえて突進を選択する事でサンダルフォンの行動の選択を狭める。
エヴァの身体能力ならばサンダルフォンに追いつけるし、最悪突進ならば耐えられる。
剥き出しのコアを狙われないようにヒットアンドアウェイの戦法を取るのだ。
ジッとしていても消耗する位なら行動あるのみだ。
カタカタカタカタッッッ!!!!
サンダルフォンの骨が揺れ、擦れる事で音が発せられる。
身震いさせると同時、先程まで飾りだと思っていた黒と黄色の殻のようなものが地面に向けて光を噴射する。
何が起こるのか、想像するよりも先に事態は分かった。
なんてことはない、跳び上がったのだ。
「うそおっ!?」
有り得なくはない事であった。
ただ、これまでのやり取りで完全に思考から除外された選択肢でもあった。
光の噴射で擬似的な飛行を可能とし、初号機の真上を通過して背後を取る。
サンダルフォンの目が光っており、照準は既に初号機に定まっているのが見えた。
「なら!!」
咄嗟に防御を固めようとATフィールドの展開を試みようとする。
ギリギリ間に合うかの瀬戸際の状況であった。
『ちょいと待ったぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!』
何も聞こえなかった筈の通信機から声がした。
直後、サンダルフォンが横から突撃してきた“何か”に突き飛ばされた。
「あれは……………エヴァ?」
疑問形になるのも無理ない。
巨大な槍状の右手に、マジックハンド状の左手、そして狭い坑道を走破するための車輪の付いた四本脚の姿をしたロボットだった。
見たところアンビリカルケーブルは見受けられず、両肩に大きめな肩当てのようなものをしている。
本来の人型の姿から大きく外れた異様な形状をしているが、直感的にこれがエヴァンゲリオンではないかと仮説を立てる。
『ピンポンピンポーン!! 大正解!! いやー、意外と勘が鋭いんだね〜』
シンジの呟きを拾った通信機の向こう側の人物が拍手の音をさせながら返してきた。
相手側の声も聞き覚えがあった。
「その声、もしかしてマリさん?」
『ややっ!? 声だけで当てられてしまいましたか〜。
謎のパイロットって肩書きでお茶を濁したかった所存なのですがね〜』
シンジが声の主を当てると同時、サウンドオンリーだったものに映像が流れる。
そこには桃色を基調としたプラグスーツに身を包む真希波マリが映し出された。
「何でこんなところに?」
『話は後々。まずはあの使徒をどうにかしないとね』
マリの登場は確かに面食らった。
だが、彼女の言うように今はサンダルフォンの殲滅を優先しなければ。
『とりま、なる早で片付けちゃいましょうぜ!! ワンコ君!!』
「せめて名前で呼んでくれませんかねぇっ!!」
マリの号令にシンジはツッコミを入れる。
この人は自分の名前をきちんと覚えているのだろうかと不安になるのだった。
如何でしたでしょうか?
待たせた癖に続く事を許して下さいませ。
さて、何の回か分かりやすいサブタイとは裏腹にサンダルフォンさんの超絶強化回でした。
元を知る方が殆どでしょうからサンダルフォンですらなくなってスグキエルさんになっていますが……
新劇で出たあいつですが、映画冒頭で使徒を切り刻んだ一部が独立したようなものとなっています。
サンダルフォンの消滅シーンが炭となって消えていくシーンを見て、全然違うけれど似たようなものじゃね?とかいう安易な発想から生まれました。
いつか出そうと思っていたので丁度良いのかなと。
マグマで皮膚も消えたとか、そんな取って付けた言い訳を思い付きました。
マリも出したかったので、タイミングとしてもバッチリかなと。
さてさて、色々なツッコミところを残しながら次回へ続きます。
まだ本調子ではないのでまた時間が掛かるとは思います。
今しばらくお待ちください。