怪我もなのですが、どうしても執筆の出来ない状況に居たもので遅くなりました。
では続きをどうぞ。
『いよいっしょおおおおおおおーーーーっ!!』
雄叫びを上げながらマリはサンダルフォンへと突撃する。
彼女の扱う緑色のエヴァは四脚で車輪が付いている。
二足歩行の初号機とどちらが速いのかと問われると難しくもあるが…………少なくとも彼女の並外れた反射神経はサンダルフォン及び初号機の“初速よりも断然に速い。”
結果、マジックハンドとなっている左手でサンダルフォンの頭部を捕まえるに至る。
「私のドリルでもっと隙間を作ってあげるにゃあっ!!」
語尾に「にゃあ」を付ければ可愛く思われるとでも考えているのか?
台詞とはミスマッチながら、文字通りに自ら掴み取った好機を活かす。
右手のドリルを振り被ってコアの破壊を試みる。
言うまでもない事だが、生命の危機に陥るサンダルフォンが呆然と死を待ち構えている訳が無い。
マリが行動を起こす直前、尻尾を大きく揺らして彼女の乗るエヴァの胴に一撃を喰らわせようとする。
「させ、ない!!」
間一髪、初号機をその間に滑り込ませてサンダルフォンの尾を掴む。
勢いは凄まじいが、来ると分かって踏ん張れば止める事は可能だ。
『ナイスサポート!!』
シンジのファインプレーをマリは称賛する。
このまま一気に決着を付ける。
ドリルを突き付けようと振り被り――――
ゴォォォォォッ!!
突如、サンダルフォンから聞こえる異音。
何かしらのアクションの前触れなのは嫌でも分かる。
でも何を?
いや、パターンとしては実は判明している。
サンダルフォンの眼から放たれるレーザーだ。
「眼からレーザーを放ちます」
『イタチの最後っ屁で巻き添えは勘弁!!』
マリは即座にサンダルフォンの頭部を手放した。
その際、サンダルフォンの視線が頭上へと向くように無理矢理に上空へ投げ出す。
咄嗟の判断の結果――――サンダルフォンのレーザーは上空へと昇っていく。
身動きを封じられなくなったが、まだコアは射程圏内だ。
『このまま、風穴を空けてやらぁっ!!』
豪快な言葉と共にドリルで貫こうとする。
『真希波マリ』を知っているシンジからしたら特別に違和感がない。
実家のような安心感があって助かってしまう。
けれど、そんな事を言っている場合では無くなった。
サンダルフォンの口元に赤い光が収束していく。
長い首を
これまでにない新しい行動。
あの口元の赤い光が何を仕出かそうとしているのか等の予想は簡単に出来てしまう。
「マリさん!! 伏せて!!」
『なるほどね!!』
シンジの声掛けの意図をマリは即座に理解する。
口元に収束する赤い光は少なくともこちらに損害を
サンダルフォンの次のアクションはこれまでも見てきたエネルギーを収束した光線だ。
それをマリ、もしくはシンジへ向けるつもり。
危険度が不明だが、喰らわないに越した事はない。
真っ先に危地に晒されるのはマリである。
それを避けるべく、初号機が掴んでいる尻尾を地面に叩き付ける勢いで思いっきり引っ張る。
その勢いに負けたサンダルフォンは当然ながら態勢を崩す。
それでも自身を危険に晒す事のできるマリのエヴァに狙いを定め――――発射する。
『っ!?』
眼から放たれるものよりも太い赤い光線が襲い掛かる。
エヴァの方には直撃はしなかった。
ただ、コアを貫こうとするドリルを狙った。
ドリルのある箇所が音もなく融解した。
『そりゃ無いでしょうに!?』
「言ってる場合じゃないですよ!!」
マリの呑気な発言が通信から聞こえてくる。
傍から見ていたシンジは即座に動く。
サンダルフォンの光線が終えるのを見届け、更に地面へ平伏すように引っ張る。
このまま大地に叩き付けようとする――――が、サンダルフォンに付着されている黒と黄の殻から噴射が起こった。
それは丁度こちらの方を向いている訳で、噴射が直撃するのは必然だった。
不意討ちなのもあって噴射の勢いに当てられ、シンジとマリは簡単に吹き飛ばされる。
同時にサンダルフォンの方も後方へ跳んで距離を取る。
仕切り直し――――否、サンダルフォンの速度を考えるとあちらに有利な土台を作り直したと考えるべきだ。
シンジ達との間に距離がある。
エヴァでも3歩は必要な距離だろう。
しかし、サンダルフォンの速度を以てすれば一瞬の距離にある。
加えて仮に追い付けたとして、向こうには跳躍力まで備わっていると来たものだ。
先程も見せたような応用力を見せ付けられると、これまで相対してきた使徒とは“何処か違うように印象付けられる。”
『これはどうも参ったね〜。私の仮設5号機の手が粉々だよ』
「仮設5号機?」
マリの乗る特徴的なエヴァの名称だろう事は分かる。
だが、「仮設5号機」という名称には些かの疑問が残る。
エヴァの新型を開発しており、シンジが知らないだけで第3と第4があるのかもしれない。
仮設という事は開発中のプロトタイプの可能性も否定出来ない。
『あっ、今のは聞かなかった事にして!! お姉さんからのお願い!!』
「はは、良いですよ」
画面の向こう側で両手を合わせて拝んでいるマリ。
今、この状況での助力は正直有難い以外の言葉が出てこない。
協力してくれている礼――――みたいなものだ。
「それにしても5号機ですか? あとどれ位の時間動けるんですか?」
同じエヴァという事が分かると気になるのは時間制限の方だ。
アンビリカルケーブルも無し、内蔵電源で動作しているのは分かる。
『うーん、フルパワーで動くから7分…………いやあと5分が限界かな』
真面目なトーンから放たれた制限時間も、なるべく低く見積もってくれたらしい。
本気で稼働させるとしたら動ける時間がこちらの機体と変わらないのは構造が殆ど同じである事を意味する。
「なるほど…………っ!?」
こちらの作戦会議に耳を貸しているつもりはないと言わんばかりにサンダルフォンが動く。
マリとシンジを分断するように間めがけて突進をしてくる。
思惑通りになるのは癪だが、そう動かれたのだから仕方無い。
甘んじて受け入れ、回避する事は出来た。
クルリとサンダルフォンはシンジの方を向く。
奴の眼が赤く光り始める。
これから閃光を放ちますと宣言しているようなものだ。
『こらぁっ!! イチャコラに割り込むんじゃないよ!!』
マリは叫び、ドリルが無くなった右のアームで背後から丸裸のサンダルフォンのコアを殴り付けようとする。
威力は大した事が無くとも、コアという明確な弱点を突けばこちらの勝確だ。
それをサンダルフォンは理解しての事だろう。
シンジへの追撃を放棄、横へ即座に移動する。
『馬力は負けてない。2対1なら捕まえるのも難しくはない。問題はあの瞬間的な跳躍力と咄嗟の判断力』
マリの懸念点はシンジにとっても同じ。
跳躍力という観点から言うならエヴァも同等のラインまで跳べるだろう。
問題は噴射による跳躍なので予備動作が起こらない事にある。
エヴァ(5号機は特殊なので除く)は人体と変わらず五肢に分かれている。
本気で跳ぼうとすると、勢いを付ける為に大きく膝を曲げる“溜め”の動作が必要となる。
それなのにほぼノータイムでの跳躍、しかもこちらと見る限りは“最低でも”同等の高さはいける。
加えてそれを行うタイミングが適切だ。
判断が的確で、何より速い。
「考えが読まれてる」
『鋭いところを突くね。それ多分正解だよ』
シンジの呟きを拾ったマリは「間違いではない」と言った。
彼女は何やら訳知りらしい。
「使徒の知能ってどの程度あると考えます?」
『最低限、目的達成の為の知能と邪魔者を排除する位の知能は持ち合わせていると思うね〜』
「使徒の目的?」
考え無かった訳では無い。
使徒の突発的な出現は置いておいて、奴等は何の為に出現したのかをシンジは知らない。
これまで、気に留める程の心の余裕が無かったのもある。
上京、転校、使徒との戦闘――――その他諸々、シンジの生活の変化が余裕を奪っていた。
使徒襲来にある根本的な目的を知ろうとも考えずにがむしゃらに戦ってきた。
『使徒の目的は置いといて。結果として、私達が滅亡する出来事が起こるのは間違い無いよ』
「それは困りますね」
使徒の目的が何であれ、自分等を命の危機に晒したいとは思わない。
マリの言葉も嘘とは思えないし、サンダルフォンは既にこちらを敵視している筈だ。
「なら、何としてでも止めないと」
『へぇ〜、意外かな〜』
シンジの言葉はマリにとって意外なものだったらしい。
シンジが疑問を抱き、マリが答えるよりも先に、サンダルフォンが動いた。
一貫して変わらない突撃。
これが効果的である事をサンダルフォンも理解したに違いない。
こちらとしても厄介ではある。
分析に長けたNERVの面々とも連絡が取れない状態。
通信が出来ていれば状況は有利に働いていたに違いない。
―――無いものを考えてても、仕方無いよね。
有名な漫画で「無いものを数えるな。今あるものを数えろ」と主人公に伝えていたキャラクターの言葉を思い起こす。
今ある手札でこの場を制する。
『来るよ、わんこ君』
シンジ達に思考の時間を与えないとばかりにサンダルフォンは動く。
こちらも回避こそ成功しているが、あと一瞬でも気を抜いたら終わる。
直感的になのか、マリが的確なフォローを入れてくれる。
おかげで命拾いをしている。
しかし、“次の一手は分かっていても手強かった。”
サンダルフォンの目が赤く光る。
光線が来る事は予め分かった。
だが、次の瞬間にサンダルフォンは上空へと跳んだ。
空高く、噴射を利用して浮遊をしている。
イスラフェルのように完全な浮遊ではない。
噴射を利用しているので高度は下がっている。
ただ、制空権を握られた状態での光線は――――
『うおおおおおおっ!? わんこ君!! 全力で回避するよおおおおおおっ!!』
「分かってます」
それだけで脅威だ。
先程のように直接叩きに行って止める選択肢を奪われる訳なのだから。
直撃しそうなものは5号機の前に出て初号機がATフィールドで喰い止める。
地面に到着する頃にはサンダルフォンの光線の嵐は止んだ。
『常に地面を這ってくれている前提なら捕まえられるんだけれど、ね』
マリの伝えたい事は察した。
サンダルフォンの機動力も厄介極まりないものの、結局のところは地面を高速で移動しているだけだ。
最も警戒すべきなのはサンダルフォンが時折見せる跳躍。
ただ高いのもあるが、恐ろしく出が早い。
先程にこちらを引き離したような応用力も持ち合わせている。
「あの跳躍の仕方…………考えてみると、ちょっとした浮遊みたいなものですよね」
最も警戒すべきは噴射を利用した跳躍にある。
幸いなのがイスラフェルとは異なり、常に浮遊を続けられないという点だ。
噴射のタイミングこそ掴めないものの、浮遊するのは基本的に噴射直後なので視認できるのはタイミングを掴めるのが大きい。
『どうにかして浮遊を止めるか、同じ土俵に立つか――――になるかな』
「現実的なのは後者ですね」
どちらかと言うならでしかないが。
ガギエル戦でも行ったATフィールドを足場にする戦法を取れば良いだけと思えてしまう。
だが、それにも問題は生じる。
ズバリ、シンジの思考する事への処理能力だ。
ATフィールドはボタン1つで行えるものではない。
人間が動作を行う際の脳の伝達処理のように多少なりとタイムラグが起きる。
それに噴射の位置を変える、噴射を出力を弱める等の対策を用いれば縦横無尽に駆け回られる。
つまり、サンダルフォンの方が有利な土台を作れる事に変わりない。
「マリさんはATフィールドを使って空中戦は出来ますか?」
『随分と面白い発想をするね〜。残念だけど、この脚だと無理かにゃ〜』
車輪の付いた四脚でバランスが取れるのかと考えて欲しい。
初号機のみでサンダルフォンと渡り合うのは難しいか…………
「あっ!!」
次の瞬間、天啓が舞い降りる。
いけるか? 違う、やるしかない。
「マリさん、相談があります」
『何やら秘策あり? 聞かせて貰おうかな』
使徒に――――今回はサンダルフォンに知能があるというのは正解であった。
事実、サンダルフォンは眼前に存在する“2つ”が脅威である事を理解しているから。
どうしてそんな事を考えるのかは、恐らくサンダルフォンも理解していない。
ただ何と無く、そのような気がしたのだ。
脅威を排除し、目的の為に進行する。
仮に戦わずに振り払ったとして、向こうにもまだ戦力は残されている。
全員でこの場に来ていないのは把握済だ。
このまま避けて突き進んでも邪魔をされ、追い付かれるのは明白。
であるならば、少数の今を叩く。
次の瞬間、紫色が後方へ走り出し、反対に緑色がこちらへ突進してくる。
紫色の行方が気になるところだが、今は接近してくる緑色を何とかしなくてはならない。
そう言いながら自身を大きく見せるように腕を振り上げ、殴りかかろうとする。
当然、そんなものに当たりたいとは思っていない。
向こうはこちらの弱点を把握している。
先程、捕まった時に思い知らされた。
故に、攻撃を当てる事を許す訳にはいかない。
幸いにもこちらの速度に対応出来ていない。
実は猿芝居でした――――等とは言うまい。
さっさと捕え、倒してしまうのが最良の選択なのだから。
緑色の腕が振り下ろされる前にサンダルフォンは背後へ回り込む。
背後へ跳ぶよりも視界から外れた方が緑色に隙が生まれると考えたからだ。
しかし、緑色は慌てた様子も無くクルリと“上体が反転した。”
人形であるならば取れない行動。
異常な姿見をしている緑色ならではの動作である。
勢いのままに腕を振るってきた。
有り得ない挙動、思考外からの不意討ち――――それらの要素が重なり、虚を突いた一撃が放たれる。
速度で上回れたとして、それはあくまで“反応できたら”という前提に過ぎない。
結論、緑色の一撃が直撃した。
反応こそ遅れたが、弱点は守ろうと距離を取る為に真後ろへ跳べた。
頭部へとズラし、何とか一撃を回避するに至る。
ただ、代償は付き物であった。
サンダルフォンの頭部が下を向くという結果があったのだから。
視界が地面しか映さない。
次の瞬間、車輪が回転して地面を抉る音が響く。
隙ができたこちらを真正面から向かって来て、尚且つ捕縛しようとするのは当然。
ならばと、サンダルフォンは噴射をして上空へと逃走する。
逃走と同時に距離を取り、サンダルフォンに利のある戦況へと変化をさせる。
この一手は、上空を自由に移動出来ない敵戦力を知っての事だ。
サンダルフォンが飛び上がると、予想通りに真下を緑色が通過する。
上空からの攻撃に果たして相手はどれだけ保たせる事が出来るのか?
光線を解き放ち、緑色を木っ端微塵にしようとして――――
ゴオオオオオオオオオッ!!
轟音と共に急速に接近してくる存在があった。
この場を離脱していた紫色だ。
スピードも、何より高度も落とさずに突進してくる。
先程まで空を自在に飛ぶ術を持たなかったのに如何様にしてか?
答えは紫色の背中に付属されているものにあった。
左右に金属の二対の翼、それを繋ぐように真ん中に円型のパックがあって下部から炎が噴射している。
その噴射を利用し、こちらへ接近しているのは間違い無い。
閃光の狙いを緑色から紫色へ変更する。
右の拳をこちらへ突き出し、急接近してくる。
あくまで白兵戦でこちらを打倒するつもりなのだろう。
その前に撃ち落とすのみ。
ドゴッ!!
実際、そんな効果音はしていないと思う。
ただ、下から衝撃が起きた事だけは間違い無い。
サンダルフォンの顎が下から掬い上げられるように叩かれて上空を向く。
発射寸前だった事もあり、閃光は空へと打ち上げられる。
当然ながらそこには何も無く、不発に終わる。
下の緑色がサンダルフォンの顎に近場の木を引っこ抜いて投擲してきた。
見事なコントロールによってサンダルフォンの唯一の遠距離攻撃を搔き消された。
滞空している状態が裏目に出た――――いや、違うと直感した。
これは"意図して作り出された展開だ。"
それに気付けたのは上出来だろう。
だが、"時すでに遅し。"
『エヴァ拳!! 爆発!!!!』
その声が最後にサンダルフォンの脳裏に響いた。
サンダルフォンは更に上空へと殴り飛ばされた。
その最中にコアが粉微塵となり、それに呼応するように意識が遠退いていく。
自身の身体が消滅していき、最終的には光に――――
「か、勝てた…………?」
『うん、使徒の信号も無いし、完璧に消滅したね』
上空で爆発したサンダルフォンを確認し、マリが通信で教えてくれる。
『けど、そんなものまで用意してたんだ』
「飛行ユニットはまだ試作段階ですけれどね」
無事に地面へ降り立つ。
これからアンビリカルケーブルのある施設へ自力で赴かねばならない。
幸いにもここから遠くない位置に準備してある。
飛行ユニットを用意した時田が電源施設で装備できる準備を進めてくれたおかげで今回は勝利を掴めた。
使徒との戦闘は終えたので、節電モードへと切り替える。
これでしばらくは問題あるまい。
飛行ユニットを使用していると電力の食い具合は半端ない。
コスパの悪さは早急に改善したいところだ。
『しかし、そのコスパの悪さを何とかする為に時間を稼いだ上で空へ逃げるようにしてくれだなんて……随分と無茶を言ってくれたよ。
おかげでマリさんはとってもお疲れなんですよ~』
画面の向こうで肩を解すモーションをするマリ。
サンダルフォンを滞空させ、そこを飛行ユニットで一気に接近して仕留めるという策を取った。
いくら噴射を利用していても滞空時は地面に居る時の速度を引き出せない。
仮に滞空を止めて降りようものならマリとの挟み撃ちで仕留められる構えとなっていた。
飛行ユニットは先程から言っているようにコスパの悪さがネックだ。
つまり、シンジからのマリへの要求はとんでもなく大きかった。
今さっき言った無茶をマリへするように依頼したのもシンジ。
「けれど、マリさんは応えてくれた」
台本からして監督の無茶ぶりも良いところ。
ただ、それを実行できるだけの実力を真希波マリは兼ね備えていた。
『まだ会って2回目なのに随分と評価が高いみたいだね。
まあ、それはとっても嬉しいけど』
「只者じゃない雰囲気はありましたから。信用したまでです」
『私の溢れ出るキャリアウーマン力に気付くとは…………さすがNERVのわんこ君』
「何ですかその値は。それと僕は碇シンジですよ」
マリの発言に喰い付いてみるも、きっと彼女の反応は今後一切変わらないだろう。
とりあえず抗ってはみるが、これ以上の事は期待できないと考えている。
『その飛行ユニットについての情報を知りたいところだけどにゃ~』
「勝手に持ち出しているので、これ以上のトラブルの種は撒きたくないので勘弁を」
『機密事項だからね。仕方無いので引き下がりましょうかな』
「待って下さい。聞きたい事があります」
マリが5号機を翻し、この場を去ろうとするのを引き止める。
素直にシンジの言う事を聞くもそこに立ち止まるのみで振り返りもしない。
『何を聞きたいのかな? スリーサイズなら乙女の秘密なので話せる事は何もないのだけど?』
「単刀直入に聞きます。マリさんは何者なんですか? どんな目的でここへ来たんですか?」
瞬間、マリは黙り込む。
画面の向こうでマリは一瞬の間だけ無言でいた。
だが、次の瞬間には笑顔を見せる。
『それは乙女の秘密だよ~』
「秘密、ですか」
つまり、口を割るつもりは無いと言外に告げているようなものだ。
この分では問い質したところで意味は無いだろう。
ならば、核心を突かなければ。
「さっきのサンダルフォンの事を知っていたんじゃないですか?」
『口から出任せ…………でも無さそうだね』
シンジから放たれた問い掛けにマリは真摯に向き合う。
確信を持って臨んだ事が伝わってくる。
『理由は何かあるのかな?』
「まずは単純に、ここへ突然現れた事です。
NERVでも特定の信号をキャッチして使徒の位置を特定しています。
マリさんの背後には何が居るのかは分かりませんが、少なくともNERVと同等の戦力はある筈です」
『それが理由なら、使徒を見過ごせなくなったから来ただけかもしれないよ?』
「でしたら、僕と出会った時に最初からその旨を伝えても良い筈です」
学校の屋上、今現在、それぞれ彼女は現れても特別に何も言わない。
協力を要請するなら最初から言っているし、何よりもミサトやリツコに話が行く筈だ。
NERVと仲が悪いと称する戦自とて連絡の1つはあった。
「NERVと通信が途絶え、皆からも離れて視界に映らない。
そのタイミングで現れたというのも偶然だとは思えないですから。何ならマリさんとは通信が出来てますから」
NERVとの通信は出来ないが、マリとは出来る。
この一点でも十二分に奇妙な点を抱く。
最初は火口へのダイブがきっかけとも考えた。
ならばマリとの通信が出来る説明にはならない。
そうなると、通信妨害が起きていると考える方が自然ではないかと思考する。
『うんうん、どうやら思っていたよりも頭が回るね』
マリは何処か納得したように頷く。
まるでこちらを試していましたと言わんばかりだ。
「あの、マリさん?」
『ごめんごめん、勝手にこっちで盛り上がっちゃったよ。
“シンジ君”はただのお人好しではない事が分かったからね』
呼び方が変わった事よりも最後の部分が引っ掛かった。
お人好しではないと言ったが、どういう意味なのだろうか?
『私の事をNERVには言ってないでしょ?』
「はい、言ってないです」
マリからの問いにシンジは何も考えずに返した。
その返答にマリは『即答だねー』と感心する。
『あれだけ怪しい動きを見せたのに言わないなんて、聖人か策士としか思えないんだけど』
「考えなかった訳ではないですけれど…………一旦信頼できる人に相談しようかなと思っていて」
『その人がうっかり口を滑らせないとは言えないんじゃないかな?』
「一応、その心配が無い人が居ますので」
シンジが思い浮かべるのはやはりリツコ及び『平行世界』の面々だ。
『こちらの世界』のリツコは情報漏洩の危険性が低いだけで可能性がゼロではない。
しかし、『平行世界』の面々はシンジが口に出さない限りはバレようがない。
どのみち、言っても簡単には信用して貰えるとは思えない。
それこそある意味で自力で辿り着けたリツコが例外中の例外だ。
『それならわがままついでにこのまま誰にも話さないように頼もうかな』
「良いですよ。マリさんが何者なのかを教えてくれるなら」
勢いのままに言うマリへ、シンジは構わないと告げる。
無論、交換条件は付き物であるが。
『はは、やっぱりそうなるよね〜』
シンジの返答をマリも予想通りといった様子だ。
お互いに腹の中を簡単には渡さないというところか。
『話せるのは――――私も使徒の手で人類が滅びるのを防ぎたい組織の一員ってところかな』
「それは、随分と曖昧な答えですね」
『ごめんね。こっちも機密事項だから簡単には話せないの』
手を合わせ、先程の意趣返しとばかりにマリは言う。
互いの意見が一致し、これ以上は語らなくて良いといったところか。
『でも、私の事を言い触らさなかったお礼に1つだけ教えておいてあげてしんぜよう』
指を一本立てて、マリは得意顔で告げる。
果たして、どんな内容が飛び出すのやら。
『私達は『平行世界』の存在を確信しているよ』
鈍器で殴られたような衝撃があった。
これまでシンジの口からは出した事のあった『平行世界』の単語。
これを教えたリツコ以外は知らない情報だ。
まさか『この世界』では会ったばかりのマリの口から飛び出してくるとは。
予想外も良いところだ。
「それは、どうして…………」
『“その反応は知ってるみたいだね”』
シンジが思わず溢した言葉尻から彼が全てを知っている事を思い知らされる。
そして、マリの方はシンジが「どうして」と呟いた事で「既知の情報」だと言い当てた。
『普通なら「何? それ?」って言いそうなものだしね』
明らかに知っている時の反応を返してしまい、ぐうの音も出ない。
『詳しくはまた今度にね。リツコちゃん位になら話しても良いとは思うから。
他の人には秘密にしといてね〜』
リツコの事を「ちゃん」付けて呼ぶとは。
『この世界』のリツコとマリは一体どのような関係性なのか?
『じゃあね〜!! バァ〜イ!!』
そう言うと地面を滑るようにしてこの場を去って行った。
何を急いでいるのかと思ったが、直後にミサトから通信が入る。
なるほど、ジャックしていた電波が戻った訳だ。
程無くして状況説明をする。
サンダルフォンの殲滅。
飛行ユニットの無断使用。
パット見で分かる被害状況。
しかし、マリと会った事だけは隠した。
これに関しては精査が必要だと判断したからだ。
「一体、何がどうなってるのか」
通信が切れ、戻っている最中にシンジは呟く。
何が起こるのか、心中は穏やかではない。
彼の心情を聞いているのは初号機だけだった。
如何でしたでしょうか?
マリの本格参戦、そして何やら起こりそうな予感が。
果たしてどうなっていくのか、こうご期待下さい。
なるべく早く次回をお届け出来るように頑張りますので。