碇シンジは夢を見る   作:ゼガちゃん

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どうもお待たせしました。

今回も長くなってしまいました。

続きです。


理由はいつだってシンプル

ミサトの乗ってきた車はやはり先程の衝撃でガタが来てしまった。

更にはタイヤも途中でバーストしてしまうと言うトラブルにまで見舞われる。

 

それでも執念で当初の目的地まで通じる貨物列車が走る所までは辿り着けた。

そこの人員へ話を付けて車を一時的に置かせて貰い、こちらは貨物列車に乗って目的地まで一直線に向かう事に。

座席で向かい合う形で2人は座る。

 

「落ち着いたところでミサトさんに聞きたい事があります」

 

「大体想像出来るけど、何かしら?」

 

「まず、あの〝化け物〟って何ですか?」

 

明らかに異常な存在の正体を真っ先に突き止めたい。

シンジはあの〝化け物〟の事を知る必要があった。

何せ、直前で見せられた「悪夢」の中に存在していた〝化け物〟と直結しているようにしか見えなかったから。

 

「あれは我々人類の敵――――〝使徒〟よ」

 

「使徒、ですか」

 

「ええ、だけど、その存在は謎めいた部分があるわ。詳細は専門の人に聞くのがベストね」

 

暗に自分はその手の専門ではないと自白しているようなものだ。

名前まで分かっているとは、〝化け物〟改めて使徒の存在を知っていたのは確かなようだ。

 

「でも、人類の敵って言うのは随分とスケールの大きい話ですね」

 

正直に言ってしまえば実感は沸かない。

それは話しているミサトも同じだった。

 

「じゃあ、質問を変えて。これから何処へ向かうんです? 父からIDカードみたいなものは渡されましたけど」

 

手紙に同封されていた1枚のカード。

何処かの施設のパスに使えそうなものだ。

 

「これから向かうのはNERV(ネルフ)と呼ばれる特務機関の組織よ」

 

「そんな所へ…………」

 

自分がますます何に関わろうとしているのか不安になってくる。

 

「はい。これを読んでおいて」

 

そう言ってミサトに渡されたのは「ようこそNERV江」と書かれたパンフレットだ。

先程に「特務機関」と言っていた緊張感がいきなり仕事を放棄してしまった。

 

「こんな所で父は何をしてるんですか? まさか!! 科学特◯隊の設立を!?」

 

「まあ、人類を守る仕事って意味だと間違いじゃ無いかもね」

 

「そ、そうなんですね」

 

冗談半分もあったのだが、どうやら正解を引き当てたらしい。

しかし、自分の父がそういう仕事をしているとは…………

 

「お父さんの事は苦手?」

 

「正直な所は『分からない』ですね。だけど、もし話せる機会があるなら話したい…………そうは思います」

 

『平行世界』を通じてifの『碇ゲンドウ』とは言葉を交わしてきた。

そして、分かったのは彼が何処と無く不器用な部分がある事だ。

愛情表現でいきなり背後から抱き付かれるなんて展開もあった。

 

シンジもそんな不器用さを受け継いでいる。

それは『碇ユイ』からも指摘があった程だ。

 

「どうなるのかまでは分かりませんが、出来るだけ歩み寄りたい――――そうは思ってます」

 

「話す機会はあると思うわ。歩み寄れると良いわね」

 

シンジの答えを受けたミサトは柔らかく微笑み、暖かみのある声でソッと彼の背中を押すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目的地には何の問題もなく到着した。

ジオフロントを初めて目の当たりにしたシンジは目を輝かせた。

空想の世界でしかお目に掛かれない景色を前に彼の中の男心が(くすぐ)られる展開もあった。

 

ミサトからここがNERVの拠点となる場所らしい。

要は基地としての役割を果たすようだ。

案内役のミサトが先陣を切り、中へ入った…………そこまでは良かった。

 

「あの、ミサトさん」

 

「ん? シンジ君、どうかしたの?」

 

「さっきから同じところを通ってる気がするのは気のせいですか?」

 

「あ、あははは。まだ慣れなくてね~」

 

現在、その拠点となる基地にて絶賛迷子になっている。

しかも案内役の筈のミサトが居るにも関わらず、だ。

 

「SNSでミサトさんの写真と一緒に『美人職員と一緒に彼女の職場で迷子ナウ』って文章でアップすればバズると思うのでやっても良いですか?」

 

「止めて!! お願いだから止めて!!」

 

あまりにも無慈悲な行いをしようとするシンジにミサトが思わず涙目で懇願する。

 

「冗談ですよ冗談」

 

「ちょっち心臓が止まるかと思ったから今後は止めて」

 

シンジが本気のトーンで言ってる気がしたのでミサトは釘を刺した。

一方のシンジはと言えば、本当に冗談のつもりでいた。

 

しかしながら彼は『平行世界』の『葛城ミサト』の事を知っている。

更には彼女が残念美人である事実も。

その時の事をついつい思い出してしまい、からかってしまうのだ。

 

『葛城ミサト』のズボラさに辟易する事もしばしばだが、恩義を感じる事から少なくともシンジはからかわない。

 

しかしながら、目の前のミサトとは会ったばかり。

そして今見せた残念美人な部分にデジャブを感じ取った。

これからも彼女に困らせられる時が来そうなので、からかえるタイミングはからかってしまおうと言う悪戯心が珍しく芽生えたのだ。

 

きっと、葛城ミサトと言う人物を知るからこその一種の信頼の表れでもある。

 

「シンジ君って物怖じしないタイプなのね」

 

「そうじゃないです。ミサトさんは信頼出来るって僕の第六感が叫んでるだけですから」

 

「嬉しい事を言ってくれるじゃない。お姉さん嬉しくて涙が溢れるわ」

 

目元を拭うポーズをするミサト。

シンジの切り返しはともかく、彼女を「信頼する」の言葉は非常に嬉しい。

まだ出会って数時間と経たないのにこれだけの信頼を得られた事を嬉しく思わない筈がない。

 

「ところで、誰かと連絡を取れば良いんじゃないですか?」

 

そろそろ本題に戻ろうとシンジは至極全うな意見を繰り出す。

誰かと連絡を取り合えるご時世なのだ。

ここは通信機器を有するスマホの出番である。

 

「あー、それがねー。スマホの充電切れちゃってるみたいで」

 

「え? そうなんですか?」

 

これで電話が繋がらなかった理由が判明した。

判明したのだが、些か腑に落ちない点がある。

 

「あの、ミサトさんは僕をどうやって見付けたんです?」

 

「ん? そんなの勘よ、勘!!」

 

サムズアップして良い笑顔で答えてくれる。

いや、勘って――――とシンジはツッコミを入れようとして止めた。

葛城ミサトはこういうハチャメチャな部分がある事を思い出したからだ。

 

「じゃあ、誰かしらの電話番号は?」

 

「いや~、電話帳って便利よね。番号を覚えなくて済むものね」

 

「覚えてない、と」

 

ここで利便性に富んだ機械の欠点が浮き彫りとなった。

ゲームで言うなら「詰み」の一言だ。

 

目の前で「あははー」と笑うミサトに頭を抱える。

 

「うーん、どうしたものか」

 

手持ちは「S-DAT」とイヤホンにスマホ。

ボストンバッグには念のための着替えと来る前に買った飲み物の入ったペットボトル、そして暇潰しのラノベや漫画が少々とミサトから預かったパンフレット位で――――

 

「あっ!!」

 

瞬間、シンジに電流が走る。

某探偵漫画のように脳内で電撃が走るエフェクトを再生する。

 

「ミサトさん、この詰みの盤面を引っくり返してみせます!!」

 

シンジは胸を張ってミサトへ告げた。

まるでクライマックスで犯人を突き止めた探偵のようなテンションだ。

 

力強く言うものの、彼等は案内役の職場で迷子になっているだけなのを忘れてはいないだろうか?

 

 

 

 

 

「葛城一尉、何をしているの? 私達には人手も、時間も無いのよ? 分かってる?」

 

「ご、ごみーん。リツコ。道に迷っちゃって」

 

「何で基地で迷うのよ」

 

全く――――とボヤくリツコと呼ばれた女性。

 

眉毛は太く、左目の泣きボクロが色っぽいクールビューティだ。

髪型はセミロングで、金色に染めている。

紫のハイネックシャツ、黒のタイトスカート、ストッキングを着用し、その上に白衣を着ている。

 

彼女の名前は赤木(あかぎ)リツコ――――勿論、彼女の事を『平行世界』で知っている。

向こうでは保健室の先生であったが、こちらではそうでは無さそうだ。

そこのところはミサトと同様である。

 

「まさか、本部に連絡が来るとは思わなかったわ。しかも『迷ったから迎えに来てくれ』と言う内容なのは斜め上にも程があるわよ」

 

そう。シンジはパンフレットに記載された連絡先への電話というシンプルな解決策を行っただけなのだ。

そして、赤面必至な事にミサトが基地内で迷子になった事まで皆に知れ渡ってしまった。

 

「基地の構造が広いのが悪いのよ」

 

当のミサトは「基地が広いのが悪い」と言い出した。

この反論にリツコも溜め息を吐く。

しかし、ミサトとリツコが旧知の仲である事は彼女等のやり取りで分かる。

 

シンジにとっては見慣れた光景で、彼女等の関係が何処の世界だろうと変わらない事の嬉しさを密かに抱いていた。

 

「それで? 例の男の子ね?」

 

「そう。マルドゥック報告書による、サードチルドレンの碇シンジ君よ」

 

「初めまして碇シンジです」

 

マルドゥックやらサードチルドレンやら妙な単語が飛び出すも、先に挨拶をしておく。

特に自分を指す言葉だろう「サードチルドレン」は気になる。

 

「あのミサトさん。こちらの方は?」

 

「こっちはあたしの学生時代からの友人の……」

 

「特務機関NERVの技術局第一課 E計画担当責任者の赤木リツコ。よろしくね、碇シンジ君」

 

ミサトが目線でリツコに合図を送る。

旧知の仲の成せる業か、リツコは視線を受け取ると自己紹介もバトンタッチする。

 

「よろしくお願いします。赤木さん」

 

「ミサトの事も下の名前で呼んでるみたいだし、せっかくだからリツコで構わないわ。私も下の名前で呼ばせて貰うから」

 

「分かりました。リツコさん」

 

彼女にそう言われるなら無下には出来ない。

正直、その呼び名の方が個人的にも助かる部分はある。

 

「あの、ところでさっき言ってたサードチルドレンって?」

 

「申し訳ないけれど、説明は後でさせて貰うわ。今は一刻を争う時だから」

 

シンジの質問に答えたくない訳では無さそうだ。

しかし、時間が無いとはどういう意味なのか。

 

「もしかして使徒、ですか?」

 

「察しが良いわね」

 

疑問はここへ来る直前に見た使徒の存在が関係しているのだと当たりを付けた。

となると、ここからはその使徒が絡んだ話となる。

 

ミサトが「一尉」と呼ばれていた事から漫画知識でしか無いが軍が絡んでいる事ではないか?

彼女も戦自の事を知っていた事、兵器の名称や効果を知っていた事から可能性は高いと見ている。

 

「百聞は一見にしかず。見てもらってから説明した方が早いと思うわ」

 

付いてきて――リツコは告げると、颯爽と前を歩き始めた。

シンジとミサトも彼女に付いていく。

 

 

 

 

 

 

 

リツコに連れられた先は薄暗い広々とした場所だった。

何と無く、ロボットアニメであるようなケージの印象を受ける場所だ。

 

「ここに何かあるんですか?」

 

「ええ。シンジ君に見せたいものがあるの」

 

問い掛けに応じると同時、照明が点けられた。

 

「こ、これはっ!?」

 

目の前には額の一本角が特徴的な紫色の巨大ロボットの顔があった。

 

「汎用人型決戦兵器 人造人間エヴァンゲリオン初号機よ」

 

これがミサトが知っていた「奇跡」の正体だと判明した。

人類にとっての切り札であり、希望の建造にミサトが関わっていたなら落ち着いていたのも納得だ。

 

「けど、このロボット……何処かで見たような」

 

「…………そうなの?」

 

「うーん、どうでしたっけ」

 

シンジはこのロボットの存在にヘジャプ…………ではなくてデジャブを覚える。

一本角、紫色、巨大ロボット――――そして〝化け物〟と戦闘する。

 

それらのピースが重ねていき、シンジは思い出した。

そう、何と無く似ているのだ。

顔のパーツ等に違いがあれど、共通項が多い。

 

「あの、これ実は将軍専用機とか言ったりしませんよね?」

 

「あなたは何を言ってるの?」

 

「ですよねー。ゲームに出てくるロボットの武◯雷に似てるなとか考えてました」

 

「残念だけど、違うわよ」

 

リツコがバッサリと切り捨てた。

 

―――危うく、変な事を口走るところだった。

 

正直、似てるなと感じたのは嘘ではない。

目の前のロボット……名を改めてエヴァンゲリオンが『平行世界』の『碇シンジ』が搭乗していたものと酷似していたのだ。

 

全体像をまじまじと見ていないので、正直なところは分からない。

あの時は真正面に出現したバッドエンドの数々の方に意識を持っていかれたから。

この疑問は搭乗する時に分かるだろう。

 

これは『碇ユイ』や『碇ゲンドウ』からの発案で、『平行世界』の存在は信用できそうな人物にしか明かさないよう言い含められている。

現に『平行世界』の存在を知らせている相手は信用できる面々ばかり。

こちらでは叔父夫婦相手にもまだ教えていない。

父の目的が『碇ゲンドウ』の予想通りだとして、敵味方の区別が付かなければ、シンジは『平行世界』の行き来を利用され兼ねない。

下手をすればモルモットにされてしまう。

最悪の事態を恐れての両親からの忠告だった。

 

そこのところは今は置いておこう。

他の気になる点を聞くべきだ。

 

「それで、これが父の仕事と関係あるという事ですか?」

 

『そうだ』

 

シンジの質問に答えたのはミサトでもリツコでもない第三者のもの。

ケージを見渡せる上部。

ガラス越しに『こちらの世界』の碇ゲンドウと相対した。

肉声ではなく、スピーカーを通しての声だ。

 

「父さん。3年振りだね」

 

『久しぶりだな。シンジ』

 

3年前に母親の墓参りで会って以来だ。

『碇ゲンドウ』の存在を思い出すと、シンジにはつい最近の出来事にも思える。

 

墓参りは毎年欠かさずに行っているのだが、シンジとゲンドウもそう簡単には都合が合わなかったので、こうして顔を合わせるのが久方ぶりとなったのだ。

 

『出撃』

 

「出撃っ!? 零号機は凍結中の筈では!? まさか、初号機を使うつもり?」

 

「ええ。他に手段は残されていないもの」

 

ゲンドウの無慈悲な命にミサトは疑問を吐く。

完全に蚊帳の外に放り出されたシンジを他所に、話が勝手に進んでいく。

 

「初号機は動かないんじゃないの?」

 

「起動確率は0.0000000001パーセント。オーナインシステムとは良く言ったものだわ」

 

数字の「0」が並びすぎて、それだけで数えるのを止めた。

数えるだけで脳がパンクしてしまいそうだ。

 

「それって動かないのと同じじゃない?」

 

「でも『ゼロ』ではないわ」

 

「それは数字の上では、でしょう?」

 

初号機はこの目の前にあるエヴァンゲリオンの型番なのはシンジでも分かる。

しかしながら「動かない」の部分が引っ掛かる。

 

話のやり取りから他に「零号機」なる機体もあるらしい。

何とも少年心に来る設定を用意してくれているのかとシンジは思いながら様々な疑問を抱く。

しかし、情報が圧倒的に少ない。

 

「それに動く動かないもあるけれど、肝心のパイロットは? レイはまだ動かせないでしょう?」

 

レイ――――ミサトの口から出てきた名にシンジは反応する。

シンジとミサトに共通する「レイ」の名前は突然の新キャラさえ考えなければただ1人だけ――――綾波レイだ。

 

彼女もこの場に居るのだろう。

これはあくまで推測に過ぎないが、シンジが「サードチルドレン」と呼ばれているように綾波レイにも別称……この場合はコードネームと言うのが正しいのだろうか?

 

恐らく、シンジは真新しい方だと思う。

自分が「サード」、野球用語の「3塁手」でないのだとしたら「3番目」と考えるのが妥当なところ。

となると、呼び名に倣うなら綾波は「ファースト」か「セカンド」辺りか。

 

思考を巡らせているが、どうやらシンジも無関係では無くなる展開となった。

 

『今さっき届いた』

 

「今さっきって…………まさかっ!?」

 

「そう。碇シンジ君――――あなたが乗るのよ」

 

ゲンドウの淡々とした内容を察知すると、ミサトは考えたくもない可能性に至る。

それをリツコが口にする事で正解が発表された。

 

「正気なのっ!? レイでさえエヴァとのシンクロに7ヶ月もかかったのよ? いきなり、そんな無茶を――――」

 

「座っていれば問題ないわ。それ以上の事は望みません」

 

「リツコ、あなたねえ…………っ!!」

 

「仕方無いの。私達にはこれしか、彼に頼るより他に手段が残されていないのよ」

 

今にもリツコの胸ぐらを掴もうとしたミサトは彼女の言葉を受けて止まる。

やり場のない怒りがミサトの内に留まった。

 

リツコもミサトと同じ心情なのだ。

自分達よりも一回りも年下の子どもに残酷な命令を送っている。

しかも、つい最近まで平凡な中学生に過ぎなかった少年に「死ね」と命令しているようなものだ。

 

『どうした? 早く乗れ』

 

「父さん。聞きたい事があるんだ」

 

シンジは真剣な表情で父と向き合う。

ミサトとリツコも真剣な眼差しをする少年が何を言うつもりなのか、思わず息を呑む。

 

乗るか、乗らないか、戦場に自らを投じなければならない少年の決断が如何なるものか。

ゲンドウは分からないが、彼が拒否するならリツコは説得しなければならないと頭の中で算盤(そろばん)を弾き始め――――

 

 

 

 

 

「何で『サードチルドレン』なのに用意されてる機体が『初号機』なの? ここは『三号機』とかじゃないの?」

 

 

 

 

 

予想外の切り返し。

あまりの出来事にミサトもリツコも、そしてゲンドウでさえ口をポカンと開けてフリーズしてしまっている。

 

そんな事などお構い無しにシンジは続ける。

 

「これは根本的な話なんだ。戦隊シリーズで赤や青が必ず組み込まれてるみたいな感じのお約束みたいなものなんだ」

 

シンジは拳を握り、自分の矜持をこれでもかと力説し始める。

シンジの答えは父からすれば的外れなもの。

溢れる少年心を刺激する展開なのに惜しい所で折られてしまった。

 

「初号機の専属パイロットって言うのは実に甘美な響きなんだ」

 

そう。巨大ロボットのパイロットは男の子にとってロマン溢れる展開だ。

シンジとて胸が熱くなる展開だ。

あの有名なロボットアニメのように成り行きで乗ってしまった訳ではなく、選ばれたのだから光栄な事だろう。

 

「でもさ、僕はサードチルドレン……3番目なんだろう? 初号機なら最初にパイロットに選ばれた人が乗るべきだ。1号とかファーストとか呼ばれていそうな人が乗るべきなんだ」

 

そして、シンジは悲しんだ。

初号機――――つまりは最初の機体だろう。

零号機とやらはこの際聞かなかった事として、番号としては「1」となる筈だ。

 

「なのに何で『3番目』の扱いの僕が初号機――――最初の機体に乗る展開になってるのさ? お約束を破りすぎてる!!」

 

初号機なのに乗るのはサード、これ如何に。

いや、光栄だ。

真実を言えば跳び跳ねたい位に嬉しい。

 

だけど、碇シンジの中のオタク特有の矜持には引っ掛かる部分があった。

せめて、名前を付ける事で差別化を計るべきなのかもしれないと考える位に。

 

「いっそのこと、名前はポチにでもしようかな」

 

「止めて!! それだけは絶対に止めて!!」

 

シンジの呟きにミサトは泣いて懇願する。

人類の希望の名前が犬の名前みたいになるなんてあまりにも説得力が無さすぎる。

 

「この初号機の適性が高かったのがあなただったからよ」

 

「あっ、なるほど。そういうパターンでしたか」

 

最初に造られた機体を動かせる人物が居らず、第一話で最後にチームメンバーに選出された人物が動かすと言う展開もまた王道の展開だ。

リツコの説明で納得がようやく出来た。

 

『もういい。こうして話している時間が惜しい。連れてくるんだ』

 

シンジの話はどうやらゲンドウにとっては興味が無かったらしい。

話を無理矢理に切り上げ、別の手段を講じようとした。

 

彼の言葉により、数人が入ってきた。

1人の少女を運んでいた。

 

「っ!?」

 

運んでいたのはストレッチャー。

そこには怪我をした少女が乗っていた。

 

その少女を見た瞬間、シンジはボストンバッグを投げて弾かれるように動いていた。

 

 

 

 

 

「綾波っ!?」

 

 

 

 

 

『平行世界』で出会った碇シンジにとっても忘れられない人物の1人――――綾波レイだ。

 

駆け寄った彼女の姿を間近で見るが、その姿は「痛々しい」の一言に尽きる。

全身を包帯で巻かれており、顔も額の付近を巻かれている。

そして、彼女の苦悶の表情がより一層に事態の険しさを物語っていた。

 

「大丈夫? 綾波?」

 

「大丈、夫…………」

 

シンジの事など分かるまい。

だが、綾波は無意識に反応して答えた。

更には身を起こそうとする。

 

「動いちゃ駄目だ」

 

こんな状態の彼女を動かさせる訳にはいかない。

慌てて起き上がるのを阻止すべく、彼女の肩や背中を抑える。

瞬間、手にベタつく感触があった。

 

「え?」

 

まさか、とシンジは思った。

それは「悪夢」でも嫌と言う程に目の当たりにしてきた――――血だ。

綾波レイはこれだけの重傷を負いながらも動こうとしている。

 

『レイ、出撃だ』

 

「分かり、まし…………」

 

「駄目だ!!」

 

シンジは割って入る。

言葉を同様に言の刃で切り捨てる。

 

こんな綾波レイを碇シンジは放っておけない。

 

綾波はクールそうに見えてお茶目な部分がある。

恥ずかしい事があれば赤面する。

美味しいものを前にすれば顔を綻ばせる。

楽しい事があれば笑顔を咲かせる。

 

そして、嬉しい事があった時の彼女の笑顔の美しさを碇シンジは知っている。

 

もちろん、これは全て『平行世界』における『綾波レイ』の話だ。

『こちらの世界』の綾波レイとは異なるかもしれない。

 

けれど、だからと言って、こんな状態の彼女をシンジは前線に出すつもりなどない。

 

「父さん。せっかちが過ぎるよ。僕がどう答えるのか、まだ聞いてなかったでしょう?」

 

視線を綾波からゲンドウへと移す。

 

『ならば、変な問答などせずに答えれば良かっただけだ。それで? 答えはなんだ?』

 

「乗るよ。僕が」

 

強い決意を持った瞳、そして――――何よりも意志を込めた声音だった。

 

「シンジ君っ!? 分かっているの!? これに乗ると言う事の意味が?」

 

そんなシンジの搭乗に「待った」を掛ける人物が居た。

葛城ミサトである。

 

「使徒と戦う事になる、命懸けの戦いが始まる、ですよね?」

 

「それが分かっていて、何で?」

 

「初号機には僕しか乗れないんですよね?」

 

初めに言われた事だ。

シンジ以外には初号機を動かす術を持たない…………という結果があるそうだ。

真実のところは分からない。

しかし、自分が乗る事で助けられる命があるなら、動かないでどうする?

 

「はっきり言って怖いです。『死』は怖いですから。そうならない為に今をこうして必死に生きてる訳ですし」

 

「でも、これに乗ったらシンジ君が死んじゃうかもしれない!! これは、子どもに背負わせて良いものじゃない!! とんでもない重責を背負わされようとしているの!!」

 

使徒を倒す事を強いられた兵器――それがエヴァンゲリオンだ。

倒せなければ全てが無に帰す。

だが、それを操れるのは碇シンジという少年だけ。

 

大人として、葛城ミサトは子どもに重責を背負わせる真似なんてしたくない。

 

「ミサトさん。僕は、それでも前に進まなくちゃならない理由が出来てしまったんです」

 

「理由……?」

 

「はい。覚悟……は出来てるとは断言出来ません。ついさっきまで中学生だった僕には荷が重すぎる発言ですから」

 

苦笑しながらシンジは告げた。

覚悟の有無は分からないのが事実だ。

何せ、碇シンジは何処まで行っても平々凡々な少年なのだから。

 

「けど、今この場に居る皆を死なせたくない――――そんな理由を貰いましたから。まだ出会って数時間の付き合いですけど、そう思ってしまったんです」

 

「シンジ君…………」

 

彼が見せた「男」の部分をミサトは思い出す。

こうなると、きっと彼は折れやしない。

突き進むだけだと直感したからだ。

 

「良いの? シンジ君が突き進もうとしている道は『険しい』なんて言葉が裸足で逃げ出すような世界よ? 『地獄』と言っても良い位よ」

 

「その『地獄』は絶対に見たくありません――――その為に僕は進みます」

 

きっかけは『平行世界』と直前で見た「悪夢」だ。

あんな『地獄』を碇シンジは二度と見たくない。

 

『平行世界』からの、『碇シンジ』からのSOSだったのではないかとシンジは考える。

 

所詮は推測。

真実の程は不明。

 

けれど、『地獄』を見ずに済むのなら。

それを変えるだけの力があるのなら。

 

「僕は皆が『地獄』で苦しまないように生きてもらう為に戦い、助けます」

 

ただそれだけのシンプルな回答だ。

 

「その皆には自分も含んで頂戴。あたしも……いえ、あたし達も全力であなたを助けるから。生かす為にも!!」

 

碇シンジの見せた「男」に葛城ミサトは折れた。

そして、彼を助ける為に全力を注ぐ。

 

『では赤木博士、あとは頼む』

 

「分かりました。シンジ君、こっちに色々と説明するわ」

 

「はい。お願いします」

 

使徒と呼ばれる謎の生命体との戦いの火蓋が切って落とされた。

 

生かす為に助けたい――――そんなシンプルな理由で十分だった。




如何でしたでしょうか?

私がエヴァを観たのとマブラ◯オルタをプレイしたのって実は同じ位の時期で、シンジ君と似たような感想を持ちました。

ヘジャプは鍵作品のやつですね。
知らない人は夏休みを島で過ごしましょう!!

そして初号機を「ポチ」と呼ぶ小ネタですが、これは以前に読んだ事のあるSSのネタです(笑)
初めて触れたエヴァのSSで、かなり印象に残っていて思わず採用しちゃいました。
事後ですが謝罪します。勝手に使ってすいませんでした。

ちなみにハーメルンの捜索掲示板にもあります。
遅すぎた逆行です。LASになりますが、めっちゃオススメです。


さて、本編ですが…………いや、長くなりました。
初号機出撃出来ませんでした。

シンジ君はかなり冷静になってますが、気の許せる相手にはリラックスした状態になってますね。
テンションの上下が激しくなるのは仕方の無い事です。
だって難しい年頃ですもの。

ミサトが一尉と言う事は旧劇要素ですね。
果たして、本当かな?

そして綾波レイの登場。
ですが、ボロボロです。
シンジ君が思わず名前を呼んで駆け寄る程に。


さて、次でようやく初号機の出撃シーンとなります。
ここまで来るのに何話使ってるんだ?
まあ、漫画でも出撃に何話か掛かったしこんなものですよね? ね?
ようやく出番だよ初号機。

思う存分活躍させます。

ではまた次回に。
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