碇シンジは夢を見る   作:ゼガちゃん

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お待たせしました。

サキエル戦後半です。


勝利を手繰り寄せる

『――――という流れで行くわ』

 

『作戦と言うには少し無茶が過ぎるわね』

 

「はは、でもミサトさん達を信じてます」

 

ミサトから作戦の旨を伝えられ、横で聞いていたリツコが呆れた声で告げる。

シンジも苦笑をしながらもミサトの案に乗る。

 

サウンドオンリーのやり取りの中であるが、それだけでも全員の気持ちが一致団結しているのが伝わる。

 

『でも、これはぶっつけ本番。しかもシンジ君が一番危険よ』

 

「分かってます。だけど、出来なければ未来がありません。なら、やるしかないです」

 

『決意してくれてありがとうシンジ君。絶対にあなただけに負担を押し付けないから。あたし達も全力で支援するわ』

 

「ええ。目にもの見せてやりましょう」

 

互いに言葉を通じて拳を付け合い、鼓舞し合う。

 

「ふっ、う~」

 

深呼吸をし、サキエルを見据える。

今しがたサキエルの攻撃方法に関して、ミサトは気付いた点を教えてくれた。

 

サキエルの攻撃は単純明快だ。

レーザー照射、光の槍と、単純かつ効果的な手段で遠距離攻撃を行う。

しかし、それらにも一定のパターンがある。

目と手のひらが光り始めてから発射までと、次の攻撃までのインターバルにはそれぞれ秒単位のラグがある。

 

「発射までがそれぞれ約3秒。次までのインターバルは光の槍が5秒、レーザーなら10秒」

 

これらの計測も最速で行われたものを基準にしている。

もしかすると、これよりも最速があるかもしれない。

 

しかし、シンジが気絶している間に初号機は「暴走」と言う形で戦闘を続行していた。

その間にもすかさず撃ち込めば勝てる算段がある場合があった。

だが、それを行わないパターンが殆どだった。

 

ミサトの希望的観測でしかないが、これ以上の速度は出せない可能性としては十二分に高い。

あとは運に頼るだけよん――とはミサト談。

 

―――どのみち、やるしかないんだ。

 

シンジには行動を起こす以外の選択肢は残されていない。

サキエルの進撃をここで食い止める。

それが出来なければ、皆仲良く御陀仏だ。

 

『じゃあ、行くわよシンジ君。サポートは任せて、さっきの指示通りに動いて頂戴』

 

「了解です!!」

 

力強く返事する。

こういう時は気持ちが大事だ。

 

そして、信じよう。

共に戦ってくれるミサトを、オペレーターの3人を、リツコを――――初号機を。

 

―――力を、貸して下さい。

 

心の内で呟く。

暴走が無ければシンジは既に倒されていた。

初号機の独断とも取れる行動。

それに守られたのだ。

思えばリツコからは「ロボット」ではなくて「人造人間」だと説明があった。

正確な差違があるのかまではシンジには判断が付かないが、きっと“何かあるのだろう。”

 

その“何か”を知りたい。

勝って、エヴァンゲリオンの事を――。

“自分に戦いの仕方を簡単ながら教えてくれた初号機の事を。”

 

けれどもう、碇シンジにとって初号機ももう立派な仲間となっている事に間違いはない。

 

ウォォォォォォォォンッ!! と、応える叫びが脳裏に響いた気がした。

 

『シンクロ率上昇。80まで来ました』

 

マヤが通信の向こうで言っているが気に留めている暇はない。

 

初号機が内部電源に切り替わってから残り2分を切ろうとしていた。

時間がない。

それにサキエルも攻撃を待つつもりはあるまい。

 

「行きます!!」

 

宣言と同時に右へ半円を描く形で初号機を走らせる。

サキエルも初号機の動きを見逃すまいと手のひらを翳していた。

 

『来るわ!!』

 

「はい!! 見えてます!!」

 

ミサトからの指示でサキエルからは視線を外さないよう言われている。

サキエルが初号機に狙いを絞っている事も黙視できている。

ミサトの連絡は言わば合図のようなものだ。

 

『2、1、今よ!!』

 

教えられた発射までの猶予の時間を“1秒だけ早く数える。”

ミサトの合図が皮切りとなり、“更に一瞬だけ前進する速度を上げた。”

 

初号機の通過した場所に光の槍が突き刺さった。

だが、それは“まだ右腕だけだ。”

 

『左が来るわ!! 手筈通りに』

 

「了解!!」

 

残る左の光の槍。

それも既に照準を合わせていた。

 

『2、1、今!!』

 

先程と同様のカウントする通信が入る。

直後、今度は前転の要領でグルリとコンクリートで造られた地面を転がる。

 

再び、サキエルの光の槍を回避する。

だが、まだ“終わりではない。”

 

『ラスト!!』

 

「はい!!」

 

『2、1……今!!』

 

すかさずミサトからのカウントダウン。

転がり、初号機の足が地面に着いた瞬間に全身のバネ、エヴァという巨体の力を存分に奮って幅跳びする。

イメージするのは赤い帽子を被る配管工の動き。

 

サキエルのレーザーは見事に空振りに終わる。

あえて転がる事でレーザーの狙いを“下へと誘導した。”

 

無論、これには意味がある。

サキエルのような化物も“きちんと面がある方を向かなければ初号機を特定出来ない事にある。”

人間のように目で物を追っているように見受けられる。

だからサキエルの視界を下へ誘導すべく転がり、背後に回り込むように跳ぶ事で視界から外れた。

 

一時的にでもサキエルの真正面から逃れる事で奴の視界から逃れられるとも言えた。

そこのところは生物と何ら変わらない点に感謝させて貰う。

 

この短時間の間ながらサキエルを観察し、見抜いたオペレーター組の洞察力の成し得た価千金の情報だ。

3人も親指を立ててサムズアップをして、お互いの健闘を讃え合っていたりする。

 

エヴァの跳躍力は凄まじい。

しかし、サキエルから目を放してはいけない。

 

頭部をサキエルへ向けたまま、身体を捻る。

そして着地。

コンクリートの床を削り、滑っていく。

それをエヴァの脚力で以て力業でブレーキを掛ける。

 

「とっ、ととっ!!」

 

サキエルの真横を取った。

だが、位置取りをするだけでは意味がない。

それに光の槍のインターバルはとっくに終わっている。

 

左の手のひらだけでもと思考したのだろう。

こちらに振り返るよりも先に左腕を振るっていた。

初号機を倒す為に。

 

けれど、その努力には残念賞を贈りたい。

何故なら、サキエルの行動は“先読みされていたからだ。”

 

「いっけぇぇぇぇぇっ!!」

 

シンジの雄叫びが轟く。

初号機が投擲を行ったのだ。

 

何を投擲した?

この場にはコンクリートしかない。

砕いたコンクリートやビルもあるが、それらを投げ付けたとしよう。

 

エヴァの身体能力が高い事は言わずもがなだ。

シンジは未だ初号機の力を制御出来ている訳ではない。

初めての搭乗が実戦だ。

ミサトが言うには綾波は最低でも半年以上前から訓練している。

シンジは当然ながらエヴァの訓練の「く」の字も触れていない。

 

現在、エヴァの力を殆んど手加減無しでフルスロットルで戦っている。

例えるなら蛇口を全開で捻っているようなもの。

水量は蛇口の捻り具合で調整が可能なのだが“使い方を知らなければ不可能な話だ。”

シンジにとってはその例題の蛇口こそがエヴァである。

 

ならば何を投擲すべきか?

コンクリート等の柔なものではなく、エヴァの力で簡単には壊れにくいもの。

それは“最初からあったのだ。”

 

 

 

 

 

暴走状態の時に切断し、エヴァの背中に装着されたままのアンビリカルケーブルの接続端子だ。

 

 

 

 

 

エヴァに装着されたものなのだから頑丈なのは当然のこと、大きさも十分にある。

残念ながらまともな装備品を用意していなかったが故の急造の武器の代替品。

本来なら意図しない使い方だが…………使えるものは何でも使うのが作戦立案者の葛城ミサトの意向だ。

 

サキエルにとっても意識の外だった。

回そうとしていた左腕に見事に直撃。

ダメージこそ皆無だが、サキエルが振り向く時間を先延ばしにした。

 

『今よ、シンジ君!! 急いで!!』

 

「はい!!」

 

ミサトの言葉にシンジも応える。

急げと言うのは他でもない。

初号機の内部電源が残り1分を切ろうとしていたのだ。

残された時間でサキエルの殲滅を行う、だから急ぐ――――のではない。

 

全くの逆だ。

わざわざサキエルの攻撃を掻い潜り、先程までとは対岸側にまで来た最大の理由は1つ。

 

予備のケーブルに初号機が再接続する事だ。

 

『アンビリカルケーブル再接続』

 

『初号機、内部電源から外部電源へ切り替わります』

 

『よし!! OKよシンジ君。“第一関門は突破したわ”』

 

「良かったです」

 

接続の仕方は口頭ながら教えて貰い、それを実行できたのでホッとする。

ミサトの言うようにこれが最大の難所の1つだ。

 

そして、次なる難所は目と鼻の先にまで迫っていた。

 

「来る!!」

 

サキエルは完全に初号機と向き合っていた。

左腕の光の槍は既に発射されていた。

それを前に避けるのではなく、前進を選択していた。

 

何故か?

“これが出来なければ作戦の成功は無いからだ。”

 

「ATフィールド、展開!!」

 

手のひらを突き出し、初号機の前に不可視の壁を発現させる。

ATフィールドは平たく言えば心の壁を具現化したものとの事だ。

リツコからの話なのだが、詳細は分からない事の方が多い。

 

トリガーとしては「強い拒絶」が大事らしい。

負の感情に任せた力なのだろう、「守る」だとか「助ける」と言ったプラスの感情では発動しにくい。

だが、シンジにはそういったプラス面での思考の方が強かった。

それでは発動が難しい…………だから、発想を変えた。

 

皆を死なせたくない――――「死」そのものへの拒絶を行ったのだ。

 

見事に成功。

シンジは迫る光の槍を防いでみせた。

 

「は、あああああーーーーーーっ!!」

 

防いだだけでは勝利へ直結しない。

ろくな装備がないのだから接近戦以外の選択肢が無いのが残念なところ。

ATフィールドを盾にして駆ける。

おかげで、サキエルの次弾の光の槍をも防御した。

 

そのまま接近する事でサキエルの間合いまで初号機は侵入出来た

先程、初号機が行使したATフィールドの中和を思い出す。

あの時、気付いた点が3つある。

 

1つ目はATフィールドを展開していても物量、質量が高ければ押されてしまう事。

これは初号機の拳がサキエルのATフィールドで受けながらも押していたので間違いはない。

 

2つ目は中和するのには単純にATフィールドをぶつけるだけで構わない事。

これも初号機が実践する事で教えてくれた。

 

そして3つ目、ATフィールドは壁としての役割や中和する為の力としてだけには留まらない。

纏わせ、変化させる事も可能だろう。

正直、これは予想でしかない。

暴走状態で殴り付けた際、ATフィールドが拳にまとわりついた……ような気がした。

これは感覚の話でしかない。

だが、シンジは思う――“出来た方が面白いと。”

何せ中学生の男心を擽る力なのだから仕方無い。

 

「行くよ!!」

 

宣言と同時、初号機の右拳を強く握り込む。

 

「僕のこの手が怒りに燃える!! 使徒を倒せと轟き叫ぶ!!」

 

右手にATフィールドを纏わせるイメージをする。

すんなりと、イメージ通りにATフィールドが右拳に集まる。

 

「必殺!! エヴァパンチ!!」

 

『あっ、そこはフィンガーじゃないのね』

 

シンジの口上についついツッコミをするミサト。

それはさておき。

 

サキエルとの距離を詰めるかのごとく、全身を使って拳を叩き込む。

サキエルのATフィールドと衝突した瞬間のみだが、オレンジ色の八角形が層をなした。

サキエルもまた初号機の接近に合わせてATフィールドを展開していたので中和をする。

 

シンジもATフィールドの発動はぶっつけ本番だった事もあり、中和するのみで消失させてしまう。

ATフィールドと合わせて、拳の勢いも殺された。

 

この間に休まずに攻撃を仕掛けていたが、サキエルにはまだレーザーが残されている。

否、“より正確には”インターバル無しで打てる次の手がレーザーしか無い。

 

これもまた――――

 

『今よ!! シンジ君!!』

 

「はい!!」

 

ミサト達に誘導されたものだった。

“予め指示された通りに行動する。”

 

今の一連の動作も「当たれば儲けもの」としか考えていなかった。

ATフィールドの発動と中和をシンジが危険を冒しながらも成功させた。

それを支えたミサトやリツコ、オペレーター達の努力が、シンジの決意を無下にしまいと後押しした事で引き出せた結果だ。

 

あとは、この戦いを終わらせる為に動くのみ。

 

「行きます!!」

 

タイミングは既に身体で覚えている。

レーザーが放たれる一瞬前、初号機の身体を斜めへ沈ませる。

 

拳がATフィールドの中和に際して勢いを殺されるのも計算の内だ。

故に姿勢を低くする動作に狂いは無かった。

 

「っ!!」

 

その低い姿勢を維持したまま、初号機は全力疾走する。

その速さたるや、サキエルの脇を通り過ぎる程だ。

 

さしものサキエルも突然の事に驚き、通り過ぎた初号機に向き合う。

その時には既に初号機はサキエルから見て左へ回り込むように跳躍していた。

初号機の後を追うように身体を回転させる。

しかし、横飛びを何度も行う初号機の動きに付いていけない。

回り込んだ際と同様、反時計回りに初号機は横飛びを続け、サキエルの努力を嘲笑うかのように一周して戻ってきた。

初号機の動きをサキエルは追えていない訳では無かった。

結局のところ、あれだけ跳び回っても自分の周囲を一周したのみ。

動きを捉えるのは難しくなかった。

 

最後の着地に合わせ、狙いを定めて両手の光の槍を飛ばす。

初号機はと言えば、両手を地に付けていた。

再び低姿勢になり、斜め前へ跳ぶ。

 

初号機の頭上を光の槍が通過した。

紙一重の回避、そしてサキエルの背後を取った。

 

『今よ!!』

 

「はい!!」

 

ミサトの合図に力強く応える。

事前にあった指示、それをシンジは実行する。

初号機に繋がれているアンビリカルケーブルを手前に引っ張る。

 

 

 

 

 

すると、サキエルがうつ伏せに倒れ込む。

 

 

 

 

 

ドォォォッ!!

何が起きたのかサキエルには理解が追い付かなかろう。

 

『よし!! 上手く填まったわ!!』

 

『やれるものなのね』

 

これもミサトの作戦通り。

リツコは彼女の策の成功率をより上げる為に細かな調整をしてくれた。

今しがたのサキエルの周囲を跳び回ったのはミサト発案の作戦の内だった訳だ。

 

アンビリカルケーブルを接続したのは単にエヴァの活動時間を伸ばす為だけではない。

ケーブルそのものを利用し、サキエルの周囲を跳び回る事で奴の足下にケーブルを巻き付けた。

 

最初に低姿勢になり、駆け出したのも全ては奴の足にケーブルを引っ掻ける為の伏線だった。

即座に跳び跳ねるようにしていたのもサキエルをその場に釘付けにする為、迅速に行う必要があった。

あとは緩くなっていようが、エヴァの身体能力に任せてケーブルを思いっきり引っ張ってサキエルの足に絡み付かせるだけ。

 

けれども、これだけでサキエルの身動きを封じられた訳ではない。

うつ伏せに倒れればレーザーは飛んで来ない。

しかし、両手からの光の槍は健在だ。

 

かわしたばかりなので猶予はある。

だが、インターバルが終わってしまう。

 

「はあっ!!」

 

倒れ込んだサキエルに飛び掛かる。

その際、アンビリカルケーブルをパージする。

そうしないと、ケーブルが緩んでサキエルを自由にさせてしまう恐れがあるからだ。

 

『再び内部電源に切り替わります』

 

『シンジ君、少し充電してるけれど、残り稼働時間は1分10秒よ。落ち着いて作戦通りに行動すれば勝てるわ』

 

「了解です!!」

 

ミサトの話を受けて作戦の続きを実行する。

サキエルの両腕を掴み取り、真上に持ち上げる。

両腕を力付くで合わせて手首の部分を“暴走状態の時に断線したケーブルを使って縛り上げる。”

先程、しゃがんだ本当の理由は助走を付ける為ではなくてケーブルを拾う為だった。

 

サキエルの光の槍の射出をこれで封じる事が出来た。

けれども、奴も黙っている訳ではない。

身動きし、馬乗りになる初号機を振り落とした。

 

「うわぁっ!?」

 

初号機が転がり、シンジの視界も上下が入れ替わる。

幸いにもサキエルは視界には入ってる。

奴が起き上がった方が早かった。

このままではまずい。

 

「う、おおおおおおおっ!!」

 

叫びながらシンジは初号機を起き上がらせる。

直後、サキエルからレーザーが照射される。

今度は回避ではなく、ATフィールドを展開して真正面から受け止める。

 

サキエルのレーザーは初号機を中心に左右に散っていき、すぐに霧散した。

これでまたサキエルは10秒は動けない。

なので腕のケーブルを振りほどこうとしている。

こちらも残り40秒。

 

「ここで決めてみせる!!」

 

既にレーザーが霧散する直前には走り出していた。

 

10――。

 

ある程度の距離を走ったところで全身のバネを用いて天高く跳躍する。

 

9――。

 

右足にATフィールドを集中させる。

 

8――。

 

頂点まで付いたところで素早く一回転し、右足をサキエルへ向ける。

 

7――。

 

天から初号機が右足を突き出して真っ直ぐ向かっていく。

 

6――。

 

そうはさせまいとサキエルはATフィールドを展開させ、初号機の侵攻を拒絶しようとする。

 

5――。

 

だが、今度は先程までとは打って変わり、ATフィールドを右足に局所的に集中させている。

加えて上空からの落下の勢い、エヴァンゲリオンの重量、身体能力の高さが容易くサキエルのATフィールドを突き破った。

 

4――。

 

ギリギリのところでサキエルの両手が自由となる。

初号機の動きを封じようと腕を伸ばしてくる。

 

3――。

 

しかし、そんな事はシンジも想定の範囲内だ。

寸前、エヴァの身体能力に任せて身体をドリルのように回転させる。

 

2――。

 

 

 

 

 

「エヴァ穿孔(せんこう)キック」

 

 

 

 

 

イメージするのは仮面の戦士のキック技。

初号機が回転をしながらサキエルの腕を弾きながらコアに蹴りをぶち込む。

 

1――。

 

エヴァの蹴りに押され、サキエルは吹き飛ぶ。

コアに直撃――――とは言えなかった。

 

『パターン青、消失していません』

 

「すいません!! 少しズレました!!」

 

初号機は回転を終えると、仰向けに転倒した。

パターン青とは何かまでは分からないが、話振りから使徒の事なのは伝わってくる。

消失していない――――決めきれなかった。

当たる寸前にサキエルの腕を振り払う為に回転した事で狙いが上部にズレてしまったのだ。

 

『いえ、大丈夫よシンジ君。直撃ではないけれど、サキエルのコアの真ん中には穴が空いたし、大きなヒビが入ってるのを確認したわ』

 

『あれなら残り数十秒で消滅するわね』

 

ミサトは映像でコアに致命傷を与えた事を確認していた。

リツコも映像の状況からそう判断を降した。

 

「いえ!! 来ます!!」

 

シンジは油断なく、サキエルを見ていた。

残り数秒――――漫画のお約束で勝利を確信した時に敵も、主人公も、命を懸けて一撃を放つ。

 

サキエルもその例に漏れず、初号機めがけて突撃してくる。

こちらも転倒した結果、回避は間に合わない。

 

互いに残された時間は数秒だ。

消滅に王手を掛けているのは間違いなくサキエルだ。

その前に文字通りの命懸けの攻撃を仕掛けてくる。

 

こういう時、何を仕掛けてくる?

いや、想像は出来る。

 

―――相討ち覚悟で僕を倒すなら“全てを粉々にするのが手っ取り早い。”

 

よくある手段――――自爆こそがサキエルの最後の手だとシンジは予想する。

何故か?

サキエルに残された手段が殆んど無さそうな事がある。

それに……漫画やアニメのお約束で、確率が高そうだったからだ。

 

なら、被害が出ないようにATフィールドを発動するだけだ。

 

「おっ、おおおおおおっ!!」

 

ATフィールドを斜めにして、サキエルの侵攻を防ぐ。

仕掛けて来ないのはATフィールドがあるので、初号機に致命傷を負わせられないと考えての事だろう。

サキエルが街に落ちてくるのは避けたい。

どれだけの威力があるのかまでは不明だ。

街が吹き飛ぶ結果になれば、他の皆も巻き込まれてしまう。

 

―――そんな事は、させない!!

 

最悪の事態にさせまいと強く拒絶する。

ATフィールドの力も強まる…………が、ここまでの戦いで体力、精神力共に切れる寸前だ。

 

―――このまま、だと、まずい。

 

持てる力を振り絞り、サキエルを上空へ投げ出そうと初号機を動かし――――

 

 

 

 

 

ウォォォォォォォォンッ!!

 

 

 

 

 

初号機の雄叫びが響いた。

一瞬の出来事であり、ミサト達から反応が無いので聞こえていない。

シンジの脳内にだけ響いた感覚だ。

 

『シンクロ率上昇していきます。90まで到達!!』

 

それは誰が言ったものなのか、シンジには考えてる暇はなかった。

初号機からの雄叫びは「頑張れ」とエールを送られている気がした。

守るものの為に力を振り絞り戦うシンジの背中を押してくれる。

 

ここまでされたのなら、初号機の想いに応えたくなるではないか。

 

「いっけぇぇぇぇぇっ!!」

 

初号機の活動限界も近い。

残り20秒を切った。

 

「それだけあれば十分、だ!!」

 

ATフィールドを張った状態で足を上げる。

上体も自然と上を向くので両手を地面に当て、肘を曲げ――――腕の力のみで身体を持ち上げた。

 

 

 

 

 

「エヴァキック!!」

 

 

 

 

 

“自身の張っているATフィールドめがけて蹴りを放つ。”

すると、ATフィールドごとサキエルが上空へ打ち上げられた。

 

数秒後、サキエルを弾にした爆発が上空で巻き起こった。

シンジの予想通り、サキエルは自爆を行うつもりだったようだ。

 

『パターン青、消滅を確認』

 

『やったわシンジ君!! 使徒を殲滅したわ!!』

 

「良かった、です」

 

街中で大の字で寝転がる。

文字通りに最後の力を振り絞ったのだ。

初号機の内部電源も切れ、動かなくなっている。

 

「何だか、眠くなって来ました」

 

いきなりのこんな過酷な戦いに駆り出されるとは夢にも思わなかった。

それに緊張の糸が切れたのも要因か。

 

「ごめん、なさい、疲れたので、少し、寝ま――――」

 

言葉は最後まで続かなかった。

シンジの寝息声が通信室にまで伝わってくる。

 

『ありがとう。シンジ君』

 

これはお互いを信じ合った事で手繰り寄せた、皆で掴んだ勝利だ。

けれど、一番の功労者は間違いなく眠る少年。

 

眠る戦士に労いの言葉を送り、ミサト達は後片付けに取り掛かるのだった。




如何でしたでしょうか?

いや、長かったです。
自分でもドン引きしました。

まさか、こんなに長くなるとは。
やりたかったから仕方無いですね。

本編ですが、一度で良いからやってみたかったんですよ。
ケーブルを利用して、身動きを取れなくするとか言う手段を。
その為にはこの時点では他の武器は間に合っていないというように書かせて貰いました。

あと充電云々に関しては急速充電みたく可能なのか分かりませんでしたが、今回はこのような形で。
次に似たような事をした時にフル充電出来てたら「急速充電出来るようになったんだな」と思って下さい。

そして、初っぱなからミサトさんが作戦を立てていくスタイル。
彼女にも頑張って頂きたかったものでして。

リツコはミサトの策に穴が無いように計算し、オペレーター達はサキエルの行動を見抜く。

そして初号機は「暴走」という形でATフィールドの張り方と戦い方を伝え、最後の踏ん張りどころでシンジの背中を押しました。

皆で掴んだ勝利です。

そしてATフィールドの応用は他の作品でも色々と見られるように「纏わせる」ものを使いました。

多分、そろそろ更新するのに時間が空くとは思います。
その時はすみません(他作での前科あり)

では次回に。

必殺技のネーミングに関しては、ネタとして見てやって下さい。
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