何でも検索できるパソコンを手に入れました。ーBPCー   作:木岡(もくおか)

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word57 「歌う曲 何がいい」③

「は?何言ってんのお前」

 

「うちの部活ボーカルいなかったけどさ、お前が歌えば出れるじゃん」

 

「いや無いわ。3年生を送る会だつってるのに知り合いの先輩もいないし」

 

「いいじゃん。実は俺出てみたいと思ってたんだよな」

 

「先輩歌上手いんですか?」

 

 唐突な提案に後輩も乗っかってきて只ならぬ空気が広がっていく。

 

「別に大したことは無い。マジで全然皆の前で歌えるレベルじゃないよ」

 

「本当にそうなんですか?」

 

「そう。そうだよ、なあ?」

 

 今度は僕が親友の肩を叩いた。にやついて親友はそこで声を出して笑った。

 

「はははっ、冗談冗談。いや歌上手いのは本当にそう思ってるけど、3年生を送る会で歌うとかはいいよな」

 

「なんだよ。変なノリのままやらされるかもって一瞬本気で思ったわ」

 

 親友の言葉はただの冗談だった。そう、親友も分かってる通り僕はバンドのボーカルをしようなんて柄じゃない、体育館のステージで歌うっていうのはよくある妄想のパターンだと聞くが僕はそんなことしたことが無い。

 

 もし、この軽音楽部の中に皆の前でマイクを握る権利があるとすればそれは、折原だけだ。折原の歌声ならきっと、その場にいる全員が心打たれるに違いない。でも彼女も僕と同じように、そんなつもりはさらさら無いのだろう。

 

「もう下校時刻まで15分もないくらいだけど、どうする。もうお終いにするなら先生がカギ閉めて職員室帰るけど」

 

 山本先生がそっちのけで話し始めた僕たちに呼びかけるように言った。

 

「あ、今日も私が帰るときにカギ返しに行きます」

 

 部長の女子がそう答えると、それからまた僕たちはもう5分ほど雑談して、他の部活が片づけを始めるくらいの時間になった時に、音楽室から出た――。

 

 僕は下校時にまた折原と目を合わせられないかと注意を払っていたけれど、彼女は1番に音楽室を出てさっさと帰ってしまった――。

 

 

 お風呂から出た僕はまた折原の事を考えていた。1日ずっとそうやって過ごしていたけれど、夜は少し違った。折原へ捧ぐ愛の「唄」ではなくて、音楽的な意味の「歌」についてだった。

 

 音楽室で折原が体育館で歌ったらどうなだろうと想像してからというもの、止まらなかった。体育館中に響く声、あの楽器のように綺麗な歌声……それを聞いて驚く観客。

 

 黒いパソコンの画面ではなく、生で鑑賞できればどんなに良いのだろうか。生で聞いてみたいな、1度でもいいから。

 

 僕はそんなことを思いながら、抑えられない気持ちをメッセージに変えて、今日も折原に送った。まずは何でもない話から。SNSで見かけた日常で使えそうな裏技を「これ知ってる?」という風に共有してみた。

 

「何それ?」

 

 今日は珍しく折原からすぐに返信が来た。僕もすぐに返信を送る。

 

 そうしながら僕は別のアプリを開いて、近くにあるラーメン屋のことを調べた。辛いラーメンを提供しているところに絞って、おいしそうな所を探す。折原が希望していたからだ。

 

 激辛グルメ専門のレビューサイトなんかもあって、距離と値段も含めればここしかないという店はすぐに見つかった。僕にとっては見ているだけで口の中に唾液が溢れてくるほど赤いスープのラーメンだったが致し方なく、僕は次のデート場所をそこに決めた。

 

 そして次に、会話が途切れたタイミングで店の情報を折原に送った。

 

「今度の日曜日さ、ここ行かない?」

 

 今日の目標はデートに誘うこと。昨日から決まっていたことだった。前回は折原から誘ってくれたから今度は僕から。

 

「いいね」

「行こう」

 

 またすぐに折原から返信が来た。さらっと成功した。

 

 だからその時、僕はもうワンステップ上の誘いも頑張ってみた。今日という日にこんなに折原の歌を生で聞いてみたくなっていることにも何か意味がある。そんな思いも僕の指の動きを後押ししていた。

 

「でさ、その後にカラオケにも行かない?」

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