何でも検索できるパソコンを手に入れました。ーBPCー   作:木岡(もくおか)

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word58 「夢 叶え方」⑤

 まさかの反応に手を下ろし、真顔に戻って折原を見る。すると折原は箸を置いてさらに笑った。

 

「はははははっ。ふふっ。はははは」

 

「え、どうしたの……」

 

「ははは……ごめん。あまりにもさ、綺麗な辛いリアクションだったから。面白くなっちゃった」

 

「へ」

 

 言われながら先ほどの自分を振り返って、確かにそうだったと思う。

 

「もう1口食べてみて」

 

「あ、うん…………うわ、かっっら。やばいやばい」

 

「ふふふふ、ははっ。やっぱり面白い」

 

 2口目も口が焼けているのかというほど辛い、今度は辛さで顔と手が震えてしまった。そんな僕を見た折原はまた、からかうように笑った。

 

 僕は笑われた――なのに悪い気はしない。急いでヨーグルトドリンクを手に取って口に含み、口内を洗うように飲む。すると居ても立ってもいられないような辛さが大分軽減された。その状態で笑う折原を見ても、やっぱり嫌な感じは全くしなくてむしろ――。

 

「そんなに面白い…?」

 

「うん。変ではないんだけどさ、ちょっとツボかも。かわいい」

 

 かわいい、その言葉が放たれてさらに僕に衝撃が走る。かわいい……かわいいだと……かわいいと言われてしまった。

 

 普通に食べているだけなのに大声で笑われた。2人で食事するのが2回目の間柄だっていうのに。男なのにかわいいとも言われた。でも……折原からなら良い……。

 

「ねえ唇腫れてる……ふふ」

 

「折原さんも膨れてるよ」

 

「え、本当?」

 

 2人一緒にジョロキアラーメンを口に運ぶ――。それから僕と折原は激辛に熱中した――。

 

 食べるのに集中するようになっていって、会話は少なくなった。発する言葉は辛さに悶えるものと、お互いのその様子を笑うものだけ。口に入れると苦しいのだけど、何故かどんどん欲しくなる。辛さの虜になってしまったのだ。

 

 僕も気づけば領域に入ってしまっていた。折原にも言われていたことだが、最初のほうは痛いだけだったのに途中から痛みが快感にもなった。

 

 こんなこともあろうかと持ってきたハンカチと、卓上に置かれていたティッシュまで使いながら止め処なく流れ出てくる汗と鼻水をぬぐった。目からは涙までもが流れ出た。

 

 折原の様子も僕と似たようなものだった。確かに僕よりスムーズに食べているが、顔が汗と涙で濡れているのには変わりない。折原もまた、持参していたタオルで何度も顔と首を拭いていた。

 

 僕にとって汗が滴る折原は目の中に入れても痛くないほどの存在だったけれど、目のやり場に困った。そういう理由もあってより食べることに意識を集中させた。

 

 きっと何時間後かに、少なくとも腹は死ぬだろう。食べている段階で分かった。何しろ胃の中まで熱いという感覚があったから。絶対に僕が食べていいものではない。けれど、折原と幸せになる為の試練だと思って、中盤から1口食べるごとに折れそうになる心を奮い立たせた――。

 

「はあ……はあ……」

 

「すっご。よく食べきったね」

 

「う、うん……」

 

 最後の1口を食べた僕は、精神的に満身創痍の状態になった。これ以上にあともう1口食べろと言われたら、その瞬間に気絶する自信がある。

 

 口内はもう痛いを通り越して感覚がない。

 

「私もどうにかクリアだよ。ああ、おいしかった」

 

「達成感あるね。きつかったけどさ……激辛にハマる人の気持ちちょっと分かったよ」

 

「じゃあまた食べにくれば、ジョロキアラーメン」

 

「いやそれはいい。絶対に。もう無理」

 

「ええ、食べにきなよ」

 

「いいって。何でそんな食べさせたがるの」

 

 頑張った価値はあった。折原との距離がぐっと縮まった感じがする。一緒に食べた物が激辛ラーメンでなければここまで縮まらなかったと思う。こんな風に冗談を言って笑えるようにはなれなかった。

 

 2人で残ったヨーグルトドリンクをちびちび飲みながら口に残る辛さが無くなるのを待った。味の感想を言い合った後、折原の今まで食べた辛い物の話を聞いた。

 

「――でもその中でも今日食べたこれが1番辛かった」

 

「そうなんだ」

 

「これ食べたのは一生の自慢になるね。私はずっと言ってくよ」

 

「ジョロキア入りのラーメン食べたって?」

 

「だって本当になかなか食べきれる人いないと思うよ」

 

 店内はお昼時になってもそこまで混雑していなかった。ジョロキアラーメンをずるずると平然とした顔で食べている強者もいて、きっとニッチな層に愛されている店なんだと僕は思った。

 

 最後に手を合わせて「ごちそうさま」を言う。濡れてしまっていた髪も、軽く拭いてから数分経てば外に出ても恥ずかしくないくらいになった。

 

「じゃあそろそろ行こうか、カラオケ」

 

 元気そうに言ったのは折原だった。

 

「うん、出ようか」

 

 いよいよ今日のデートのメインがやってくる。僕の告白するという意思はより強くなっていた。

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