何でも検索できるパソコンを手に入れました。ーBPCー   作:木岡(もくおか)

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word58 「夢 叶え方」⑦

「え、ああ……うん……」

 

 急ぐような速度で折原は廊下に消えていき、僕はドアが閉まってから……「いってらっしゃい」と小声で言った。たった今歌おうと意気込んだのに情けない声になった。

 

 回していた手首をゆっくり下ろして、ソファに腰かける。先ほど昼ご飯を食べたばかりだが机に置かれていたフードメニューを眺めた……。

 

 気合が空回りして恥ずかしい感じになってしまった。別に向こうは気にしてないと思うけど、僕は動揺した。女の子とデートに来て相手がトイレに行くという状況も初体験なので、なんとなく行動に迷う。

 

 ただ待っているだけでいいよね……デートの攻略サイトにも相手がトイレへ行った時の行動まで書かれていなかったけど……何事も無かったように会話を始めるだけ……。

 

 そういえばもしかして――さっき折原さんが緊張しているように見えたのはトイレに行きたかったからかも――。部屋に入るとすぐにだし、相当我慢していたのかもしれない――。

 

 考えていると1つ謎が解けた僕は、カラオケには絶対あるけどカラオケ以外では見かけない曲を選ぶタッチパネル式のリモコンを手に取って、操作し始めた。

 

 トイレから帰ってきていきなり歌ってもらうのもあれだし、先に僕が歌った方がいいよね……。その考えのもと、最初に歌うのにふさわしい曲を吟味した。

 

 いくつか歌う曲を決めて練習してきたけど、今の状況と折原との雰囲気を加味するとこの曲がいいだろうか、それともあの曲か。個室のモニターに映っているバンドのPVも見たりしながら折原が帰ってくるのを待った。

 

 曲は決まり、リモコンを操作してあと1回タップすれば演奏が開始するところまで終わった。

 

 マイクを手に取り咳払いして、まだ帰ってこないようなら発声練習がてら軽く歌ってみようかなんて考える。

 

 しかし、その時ドアが開いて折原が帰ってきた――。

 

「あ、折原さん。俺もう歌う曲決めちゃったから、先に歌っていい?」

 

 トイレから帰ってきた女性に先に喋らせるのはデートのマナーに反すると思ったのですぐに言った。また張り切って明るい声を出した。

 

「うん、先に歌っちゃって。私も歌う曲決めようっと」

 

 折原も微笑み、カラオケらしいテンションで言った。

 

 心配していたけど体調に問題はなさそう。すぐに帰ってきたし、やっぱり先ほどまではトイレに行きたかっただけだったんだ。

 

 時間的に大きいほうじゃなくて小さいほうだな……なんていう気持ち悪い推測をどうしても一瞬だけしてしまいながら、僕は機械に曲を送信した――。

 

「人形たちが踊り狂う消えゆく僕を見て笑う 瞬きする度に 幻想に変わってく――」

 

 なるべく緊張を和らげられるように練習した中で1番しっくり来た曲にした。歌い出しは良好だった。

 

「ふわりと膨らむ気持ちーその向こうに見えるのはーモノクロのキミ 違う誰かのように見えて 遠く消えてく――」

 

 今までは曲調も歌詞もエモエモし過ぎて好きなタイプの曲じゃなかったが、聴いていると好きになった。流行りの曲だし折原の反応も良くて、サビからは手拍子もしてくれた。

 

「今夜も酔わせるお酒とともに人々は踊り続ける 儚い幸せを探して狂う……僕にはそれが人形に見える――」

 

 好きな人に見られながら歌うなんてやっぱり緊張する。自分の声なのに上手くかっこよく出て行ってくれと願いながら歌った。

 

 最初から最後までそんな調子で、曲のテンポがゆっくりになる大サビでは声が震えそうになりながらも、なんとかまあまあ満足がいく出来で僕は歌い切った。

 

「すごーい。歌上手だね」

 

 折原も相応のリアクションで拍手をしてくれた。

 

「ほんと?嬉しい。はーでも、やっぱ女子に見られてると緊張するな」

 

「じゃあ次は私ね。もう曲送信したからすぐ始まっちゃうかも」

 

「お、どんな曲歌うんだろ――」

 

 そんなにすぐ折原さんの歌が聞けちゃうのか。目立たないように手汗をズボンで拭きながら思う。めちゃくちゃ楽しみだけど、歌ってるときは精一杯だったから心の準備ができていない。

 

 ローテンポのイントロが始まり、このカラオケ店の機能なのか、曲調に合わせて部屋の照明がより暗くなる。

 

 モニターに表示された曲名はあの日僕が黒いパソコンで見た曲と同じだった――。

 

「私、本気で歌うから……」

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