XX年、日本ダービー。

その馬は、人の過ちで生まれた。

生まれるはずなく、生まれるべきでなかった、名前を呼ぶ事も忌避すべき馬。

なのに人々は、何者にも抜かれなかったその伝説を語りたくなる。

禁忌の彗星。

その馬の名は、ハリーコメット。

その伝説を見よ。

『ウマ娘プリティーダービー』『願わくば、箒星の如く……』

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※追記(2022/4/25)
 諸事情により本作の更新を停止し、また、投稿済みだった連載版本編を削除しました。読者の皆様にはこの場をお借りして謝罪申し上げます。


短編版
待て、しかして希望せよ


 とある男が居た。

 

「おお!ナイスラン!記録更新だな」

 

「ありがとうございます、先輩。でも、オリンピックを目指すなら、まだまだですよ」

 

 男は、走る事が好きで、勝つ事が好きだった。そんな彼が陸上選手としてオリンピックを目指すのは、最早当然の結果だろう。

 

「おい、まだ走んのか?」

 

「ええ。まだ、削る無駄がありますので」

 

「熱心だなぁ。ま、ほどほどに頑張れよ」

 

「はい」

 

 男は走った。完璧な走りを目指し、必勝の走りを目指し、走った。

 その努力は周りの皆も目にし、そして、彼がマラソンランナー日本代表となる事を予期する。

 

「小早川。お前、強化選手に選ばれたぞ」

 

「はい、とても光栄です!」

 

 努力は周りだけでなく、国からも評価され、男は栄達を極めていく。

 誰もが、その男の更なる盛栄、日本にメダルを持ち帰る事を、疑わなかった。

 ある事件が、起こるまでは。

 

「あ、ぐっ……」

 

 男はオリンピック選考大会で、左足を抱えてうずくまる。今までの努力の代償、無理した付けを支払う事となったのだ。

 

「先生、足の容態は……」

 

「疲労骨折になるのかな、腓骨(ひこつ)が折れていました。しかも、その折れた骨が脹脛(ふくらはぎ)を傷つけて筋挫傷。おまけに、その傷付いた足で変な踏み込みをしたのでしょう。足関節捻挫です、足首の靭帯にダメージが入ってる」

 

「回復する見込みは……」

 

「療養に努め、しっかりとリハビリすれば、日常生活に問題ないくらいまでは回復できる。でも、マラソンは、諦めた方が良いでしょう」

 

「……」

 

 たった1度の怪我で、男は夢を奪われた。男の努力が、最悪な結実を成してしまったのである。

 

「小早川。お前程理論派な選手だったら、指導者の道もある。諦めるな」

 

「はい……。ありがとうございます、コーチ……」

 

 周りの励ましが、男には慰めにしか聞こえない。誰1人、選手の道を示してくれない。

 男は、廃れてしまった。惰性的に指導者となるための勉強に取り組んでも、熱意が全く湧かない。

 

「クソ、外れかよ!一番人気だっただろうが!」

 

 自棄になった男は、娯楽に溺れた。競馬に手を出し、万馬券を握れば酒を呷り、紙くずを投げ捨てればまた酒を呷った。

 この夜も、一番人気に単勝賭けしては紙くずを投げ捨て、酒を呷っている。

 自棄になってからは、これが日常だ。ただし、今夜だけは違う。

 

「チクショウ、チクショウ……。どうして、こうなっちまったかな……」

 

 娯楽に溺れる己の情けなさ。それに耐えられず、忘れたいがために缶ビールを開け、中身を空ける。

 

「もう少し……。もう少し、だったんだ……」

 

 何がもう少しだったのか、男自身も分からない。ただ、無念に涙を流し、意識を酩酊させていく。

 今夜は、その男の最期だった。

 

 

 

 

 

 とある馬が居た。

 

『第4コーナー回ってラストスパート!皆が追い縋る、皆が追いかける!なのにその尾すら掴ませない!差は縮まらない、広がるばかり!ハリーコメット、彗星が駆けていく!』

 

 その馬は強かった。スタートからハナを切り、そのハナを譲らない。始まりからずっと先頭だ。道中1馬身の差を維持し、ラストスパートを迎えて突き放す。

 

『その圧倒的な力を見せ付けて、ゴォォーール!!2着との差は、なんと、7馬身!新馬戦からその実力を誇示しました!』

 

 何者にも捉えられぬ走りを披露し、伝説の始まりを観客に予見させた。

 

「オーナー!こいつなら三冠馬も夢じゃないですよ!」

 

「その三冠とやらは、良い金になるのか?」

 

「え、ええ。まぁ、一冠でも元手は充分返ってくるんじゃないです……?」

 

「そうか。じゃあその三冠とやらを目指した調整をしてくれ」

 

 なのに、理解あるオーナーには恵まれなかった。金稼ぎの道具としか見られておらず、愛情や期待は微塵もない。

 だが、それでも良かったのかもしれない。その馬は、走る事に幸福を見出していた。

 

(もっと、もっと走りたい。走って、伝説を残したい!そうすれば、そうすればきっと!)

 

 何故ならば――

 

(かつての無念を晴らせるはずだ!)

 

――その馬は、走る未来を奪われた過去から、脱却したかったのだ。

 

『ハリーコメットがハナを切る。先頭は絶対に譲らない!』

 

 だから、馬は走った。完璧な走りを目指し、必勝の走りを目指し、無念から逃げ切るように、走った。

 

『最終コーナー、道中あれだけハナを切って、なおもその脚を残す!栄光を得るのは、いや、伝説を刻むのは、今この瞬間からだ!!ハリーコメット、1着!!』

 

 その美しい走りで周りを認めさせる。

 誰もが、その馬の更なる盛栄、三冠馬となる事を、疑わなかった。

 ある事件が、起こるまでは。

 

「オーナー!パリ協約違反なんて聞いていませんよ!」

 

「ちっ、生産主か獣医辺りが漏らしたか。おおかた、罪悪感に耐えられなくなったんだろう。今更だな」

 

「パリ協約は、競馬界の国際条約ですよ!?違反したら厳罰、もう貴方とこの馬の永久追放は決まっています!」

 

 たった1つの漏洩で、馬は夢を奪われた。馬の努力が、泡沫の夢の如く、消えてなくなったのである。

 

「そうか。もうこいつで稼げないとなると、処分するしかないな」

 

「そんな!」

 

 同時に、命の終わりを決定づけられる。夢の終わりが、近付いていく。

 

(止めろ、放せ!!俺は、まだ何も成せちゃいない!俺は、まだ走りたいんだ!!)

 

「死期を悟って暴れるか。他の馬と比べて賢いとは聞いてたが、面倒だな。……ああ、念のために用意しておいて良かった」

 

 手綱に繋がれ、柵に縛り付けられて、それでも暴れる馬。オーナーは冷徹に、用意した物を持ち出す。

 それは、麻酔銃だ。

 雇われの猟師は訳も知らず、ただ仕事を忠実にこなすため、その引き金を引いた。

 

(がっ……。こ、こんな……ところ、で……。どう、して……)

 

 睡魔に誘われる馬へ、安楽死の処置が施される。

 それが、その馬の最期だった。

 

 

 

 

 

 男が居た。馬が居た。その者は、夢を奪われ、無念を晴らせなかった。

 故に、彷徨った。天国に上る事も地獄に落ちる事もできず、あまつさえ己が生きた現世に留まる事もできなかった。

 ただ、その魂を存続させた。

 だからだろう、その魂は行き着く。競走馬の名前と魂を受け継ぐ少女たちが生きる、その世界へ。

 

 『ウマ娘』の世界へ。

 

「……今度こそ、だ。今度こそやり遂げる。小早川瞬の、ハリーコメットの夢を叶えてやる!」

 

 少女の姿に似つかわしくない、覇気漲る姿。そんな姿で、あるウマ娘は誓った。

 

「走りで、伝説を刻む!」

 

 男の、馬の、ウマ娘の、切なる望み。

 男の名は、小早川瞬。そして、馬として、ウマ娘としての名は、ハリーコメット。

 走りに命を懸け、芝のコースを豪脚で駆け、己が身で夢を描く彗星。

 

 これはそんな彗星の軌跡、その小さな断片。




 情報収集も情報源も足りない事を自覚しながら、ネタ被りを避けるため、一話限りの短編として投稿させていただきました。
 どういうネタかは、皆さんで推理してみてください。
 連載は、情報収集と情報源が充分になったら開始したいと思います。具体的に言えば、アドマイヤベガのガチャピックアップとナリタトップロードのウマ娘化が来たら、です。最悪、ナリタトップロードはオリジナル化しても良いと考えてますが。

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