高収入悪夢治療バイト・未経験者歓迎   作:木岡(もくおか)

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第68話 決意

「あっ。こいつタンスに隠れてても開けることあるんだった――」

 

「まだここのショートカット通れるようになってないじゃんっ――」

 

「この先難しいからここで1回セーブしたいなあ。まあやるしかないか……あっ」

 

 凛太は色んなシチュエーションで殺された。

 

 ある時は刃物を持った髪が床まで届くほど長い女に殺されて、またある時はカートゥーンチックなピエロのような見た目をした奴に殺された。

 

 死ぬときはいつも息が止まるほど急だった。異質な化け物たちはいつも一瞬で絶命させてくれるし、一歩道を間違えたら死ぬようなギミックもあった。

 

「うわあ運が悪いな。百鬼夜行タイムだ。アイテムもないし。とにかく逃げよう――無理だ――」

 

 もう何回死を経験したか分からなくなるほどの回数と時間が経過した時だった。目覚めた凛太はついに限界を迎えた。

 

「さっきのは百鬼夜行タイムって呼ばれててね。たまに徘徊する化け物たち全員が活発に動き出すの。今のは場所もアイテムも無くて運が悪かったね。次は大丈夫だからもう1回……」

 

「嫌だっ……無理です。もう本当に無理です。これ絶対無理でしょ」

 

 自分が何回も死んでいるはずなのに現実に戻れば痛みも無くなる形容しがたい違和感。本当に自分が今生きているのかも疑いたくなる。

 

 失ったはずの手足が次の瞬間生えている幻のような感覚。死ぬ前に一瞬訪れる途方もない痛み。そしてそれに慣れてきてしまい始めた自分の体。もう頭がおかしくなりそうだ。

 

「まあまあ。草部君落ち着いて」

 

「でももう本当に意味分かんなくなってるんです」

 

 馬場もばつが悪いような表情で何度も帰ってきているバイト達の会話に加わった。

 

「うん。気持ちは分かる。たしかに今回の悪夢は手に負えなそうだね。もう時間も遅くなってきたし今日の所は治療失敗ということにしておくのがいいと僕も思う」

 

「ええ。まだ行きたいんですけど。私1人でもう1回だけ行ってきちゃだめですか」

 

「何か作戦はあるのかい?」

 

「……うーん。まあないことはないというか」

 

「とりあえず患者さんが目覚めたら僕のほうから治療を失敗したことは話すことにするから……」

 

 凛太は心の中で馬場にナイスと叫んだ。やっと救われるようであることに安堵した。そしてそれと同時に取り乱してしまったことが恥ずかしくなってくる。

 

「それでどうしようかな……。別の病院を紹介して普通の睡眠治療から試してみるか……患者さんの都合を聞いてまた後日うちで治療するか……」

 

「またやりたいです。かわいそうですよ重症の患者さんをほっといたら。普通の睡眠治療で悪夢を治すって難しいんですよね。時間もかかるし」

 

「そうだよね。桜田さんも治せないような悪夢なんて僕も興味があるよ。久しぶりに楽しくて手強い悪魔だね。もっと話を聞かないと」

 

「はいっ。院長」

 

 桜田が馬場に敬礼して、馬場も同じように真似してから頷いた。そうだった。馬場も大概悪夢好きの変態だった。

 

「実際のところ桜田さん的には策はあるの?」

 

「そうですね……。本当にゲームが忠実に再現されてる悪夢なんですけど。難しいゲームなんで……。ゲームみたいに死んだらセーブしたところから再スタートなら私はクリアしたことあるので余裕だと思うんですけど。1回も死んじゃダメだからなあ……」

 

「残りの時間は作戦練ろうか。僕も一応は調べてみたんだけどもっと詳しく調べるよ」

 

「はい。これって次に同じ患者さんが来れるときと私のスケジュール合わせてくれるやつですよね」

 

「うん。この悪夢は桜田さんにお願いしていいかな。ゲームの知識もあるみたいだし」

 

「はい。もちろん喜んで。それで担当する者としてまず言っておきたいことは私と一緒にこの悪夢に入る人もある程度このゲームの知識がほしいんですよね」

 

「と言うと?」

 

 凛太は雲行きの怪しさを感じた。息を細く吐き出しながら深呼吸をする。

 

「シンプルにそのほうが頼りになるし。動きながらあれしてこれしてって言ってたら私も頭回らなくなってきちゃったんです。あと一番重要なのはホラゲーって音を殺して移動したりするのが必要になってきたりするんですけど私の声も敵がちゃんと音と認識してたっぽいんですよね」

 

「そっかあ……。じゃあ言わなくても付いてこれる人が必要な訳ね……」

 

 桜田と馬場はまたばつが悪いような表情をして、2人して凛太のほうへゆっくり顔を向けた。何か言いたげではあるけどすぐには口に出さずに治療室内で沈黙が走る。

 

「……やりますよ。僕も」

 

 凛太は自分から宣言した。

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