無能な変身魔術師の真髄 ~武器と道具が女の子になると、最強になれるんですね~   作:室星奏

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02 魔杖を拾いました

 ズシ……ズシ……。

 

 聞きたくもない音に怯えながら背後を振り向くと、そこには先ほどの王虎が禍々しい覇気(オーラ)を放ちながら、こちらへとゆっくり歩いてくる姿があった。

 先ほどの変身解除を見られていたか? いや、立ち去ったのは完全に確認した。じゃあ、一体何故?

 

 ……さっき叫んだ時の声か!? どんだけ耳がいいんだこのクソ獣!!

 

『グルルラアァァ!!』

(変身が間に合わない。見られてちゃさすがに意味がない……)

 

 何か、何か手段はないだろうか。

 俺の手元には、衣服と鞄、そして先ほど手に入れた魔杖のみ。これだけの手持ちで一体何が出来るというのだろうか?

 考えている間にも、俺と奴の距離は段々と狭くなってきていた。ああ、奴は今にも襲い掛かってきそうだった。

 

『グルルァ!!』

「ど、どどど、どう、どうすれば!?」

 

 焦った俺は、とりあえず目の前の杖をブンブンと振った。

 魔法出ろ、魔法出せ! 何度願っても、その思いは通じません。なぜなら俺は変身魔術しか使う事が出来ないのだから。

 変身魔術……じゃあ変身魔術を使えばいいじゃないか。

 

「えーと、石! 葉っぱ! 砲弾! と言うか変身させても意味ないじゃないか!」

 

 外見だけの変身に何の意味があるのだろうか。姿と動きは外見そのものにできるのだが、能力等の内面は変身前と同じなのだ。全く持って意味がない。

 

『グルル……』

「あー! えっと! イカ! タコ! クラゲ!」

 

 何故魚を選んだ。

 

『グルルラァ!!』

 

 しびれを切らし、ついに王虎がこちら目掛けて爪を振り下ろした。

 ハッとそれに気づき、前方に勢いよく飛び込む形でそれを避ける。まさに間一髪、ギリギリのナイス対応であった。

 ……状況は一向に変わらないのだが。

 

「あーもう! どうして俺がこんな目に合うんだよ!」

 

 俺は楽しく生きていたいだけなのに。色んな冒険して、皆と笑って、泣いて――。そんな理想な生活を臨んでいただけだというのに。

 結局は力な世の中だ。力がない物には、そんな楽園じみた生活を送る権利なんて一切存在しないのだ。

 

 ……全く、ふざけた世の中だ。

 

『グルル……』

「……っ」

 

 涙で視界が歪む。もう王虎を視認することすらできなくなっていた。いや、俺が視認するのを拒んでいるだけなのかもしれない。現実逃避という奴だ。

 実際に、俺の立場になってしまったら、どんな人物であれ焦るだろう。相当な力を持っている者か、優秀な仲間がいる者でなければ。

 

『グルルアァ!』

「……っ! 嫌だ死にたくない! 神様、神様ッ! 誰か、誰でもいい、誰か……助けに来てよっ! 俺を助ける、仲間になってくれよ――!!!」

 

 必死に叫ぶ。手に持った魔杖を握りしめて、とにかく軌跡が起こるように願った。

 ――その時だった。

 

 突如眩い光が周囲を照らす。涙によって歪んだ視界が真っ白に染まる。何が起こった? 死んだのか? 死んで天界に運ばれたのか? なんて一瞬なんだ、輸送サービス凄いな。

 

 と思ったが、どうやらそうではなかった。

 

 光が晴れると、俺の目の前に一つの人影が現れた。可愛らしい女の子だったし、しかも俺好みの容姿だった。裸だったため、少し視線に困ったけれど。

 これはあれか? 死ぬ間際の幻覚か? 女の子の膝元で安らかな死を遂げる事が出来るのか?

 ……そういえば、手元にあった魔杖がいつの間にか無くなっていた。アレが唯一の助け綱だったのに、何で急に消えるんだよ。アレも幻覚だったのか?

 

『グルル……』

 

 王虎の威嚇声が強くなる。――あれ? こんな泣き声、俺聞いたことないんだけど。というか威嚇声? 何に威嚇してるんだ? 俺にか? さっきまで食料だっていう眼と泣き声をしていたじゃないか。どうした急に。

 

 ……もしかして、目の前の女の子か?

 

「……」

『グルラァ!!』

「ぁ、危ない、何とかしないと――ッ!」

 

 俺がそういった刹那、目の前の女の子が片手をブンッと王虎目掛けて向ける。その動作はまるで、先ほどの俺の声に反応したかのように綺麗だった。

 そんな事して一体何になるのか?

 

「……炎弾(ディアスタ)

 

 小さく、そしてか細い声でそう口にする。彼女の手には、その言葉に反応したかのように朱色の魔法陣が展開され、そこから王虎目掛けて炎が数弾放たれる。

 俺は息を飲んだ。それは明らかに魔法だった。夢かと思って、頬をつねってみたが、目が覚める事はなかった。痛覚もあったという事は、今見ている光景は現実なのだろう。

 

『グルルァッ――! ……グルル……』

「……君は……」

 

 ようやく視界がはっきりとしてきたので、彼女の容姿を改めてみる。

 まるで聖樹の木のようにきれいな茶色を帯びた髪に、紺碧色の綺麗な魔法石を拵えたピアス。

 ……ん? あの魔法石、最近見た気がする。しかも、ほんの数分前に。

 綺麗だなあという感想と共に、どこかで見たような気がする疑問に襲われ、そのピアスをマジマジと見つめた結果、ようやく気付く事が出来た。

 

 そういえば、先ほどの魔杖にも同じような魔法石が装飾として使われていたという事に。……ということは、まさか。

 

「……へ、え? ……ま、まさか……」

 

 試しに俺は、変身解除と呟き指を鳴らす。

 

 女の子の周囲にボフンッと煙が現れ、カランッと地面に魔杖が落下した。

 それは紛れもなく、俺が先ほど手に入れた魔杖だった。

 

「……嘘、だろ?」

 

 そう、あの少女は――。

 魔杖が、人間に変身した姿であった。




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