無能な変身魔術師の真髄 ~武器と道具が女の子になると、最強になれるんですね~   作:室星奏

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07 魔剣王ソルス・中編

「ふっ――ッ! はァ!」

獄炎(ザボルグ・ガイア)ッ! 神雷(ディア・ギガルド)!」

(嘘だろっ……オイッ!)

 

 ソルスとビャクヤの激戦は想像を絶する物だった。正直この状況を説明するのは難しい程であった。

 ソルスが開戦を宣言した刹那、ビャクヤとソルスは瞬時に俺の視界から消え去った。瞬間、壁や床、天井が激しく爆せ崩れていく。

 ソルスによる剣戟、ビャクヤによる高位魔術、その2つによる激しいぶつかり合い。そこに、俺が介入する余地はなく、完全に二人の世界であった。

 

「よくやる――ッ! 杖とはいえ、ここまでの魔術をッ!」

「……ッ」

「ビャクヤッ、魔力消費はできるだけっ……うわっ!」

 

 数多くの魔剣から閃光を放ち、ビャクヤを圧倒する。崩れ落ちる瓦礫を足場にし、その攻撃を間一髪で避けつつ、魔術を放つ。

 

炎弾(ディアスタ)――ッ!」

 

 ビャクヤも俺の魔力消費量に感づいたのか、消費が少なくかつ連射が可能な低級魔術に切り替える。

 上位魔術は魔力を循環させるのに時間を要するため、威力は強いものの連射が出来ないという欠点を抱えている。その隙にソルスは魔剣を振るい、ビャクヤの動きを止めているのだろう。

 さすがフロアボス級のモンスターだ、火力や耐久、そして判断力は今まで出会ったどのモンスターよりもトップクラスだ。

 戦場の空間はもはや入室した時の面影を失い、見るも無残といった状況と化してしまっていた。

 そんな中を杖という身であり、かつスキル【生命活動】を付与されたばかりであるにも関わらず、ソルスと拮抗しているあたり元から人間だったんじゃねぇかと疑ってしまう。正真正銘の化け物だ。

 

「だが――まだ遅いぞっ!」

「ディア――あっ……」

 

 炎弾(ディアスタ)の詠唱を待つ事なく、ソルスはその巨躯を素早く動かし、ビャクヤの眼前へと迫り、斬撃を振るう。

 突然の事で一瞬思考が止まったのか、致命傷は避けたが、右足に刀身が掠る。元が杖だから血は出ないものの、斬れた彼女の皮膚は身体から離れると同時に木片へと変わっていく。

 つまり――斬られて真っ二つに折れたならば、それは彼女の死を意味する。

 

「……炎玉(ディア)!」

「ぬっ!」

 

 詠唱を無に等しい程まで減らし、低級魔術をソルスの首元へと放つ。低級の通り、ダメージは全くと言っていいほど通らないが、その爆風は空中に舞うソルスを地上へ吹き飛ばすには十分なほどであった。

 

嵐神(トカロ・ボロス)!」

 

 避ける暇を与えまいと、着地するまでのわずかな時間を詠唱にあて、風属性の上位魔術を迸らせる。

 周囲に舞い落ちる瓦礫を巻き込み即興で威力を底上げし、ソルス目掛けて激突させる三段か。よくあの状況で思考が回る物だ。

 

 ――だが、俺はまだ何もやれていない。

 

「……ふっ、血が滾る――。聖剣(エクスカリバー)!」

「ッ。マスターも逃げてください」

「分かってるっつーの!」

 

 もう名称からしてヤバイ臭いしかしない。聖剣(エクスカリバー)……それは帝国史の遥か昔に名を刻む神代の兵器だ。伝承に疎い俺でも分かる程の知名度を誇る武具である。

 なんでそんな物をコイツが持っているんだ、室内だぞ? そんな物をここでは鳴ったらどうなるか分かった物ではないってのに。

 

「クソッ!! 《変身:小石》!」

魔空間(ユーストピア)!」

 

 少しでも被害を抑える為に、身体を小石に変身させ、当たり判定を最小限に留める。対するビャクヤは俺の変身が間に合わないと判断したのか、自身の防御を優先し眼前に障壁を展開する。こんな魔法まで使えるのか、つくづく便利な物だ。

 程なくして、ソルスが剣を振るうと、俺達目掛けて黄金の閃光が放たれる。今までをはるかに超える衝撃音と爆風が、俺達の身体を掠め行く。

 

「――あぶねっ、あと少し上だったらやられてた。ビャクヤは――?」

「……っ」

 

 真正面から受けきろうとしているため、俺以上の衝撃をもらっているだろう。さっきまで無機質だった表情に、微かな苦悶が見受けられた。

 下の階層のモンスターを余裕で蹂躙していたビャクヤをここまで追い込んでる、なんつう化け物だよ、本当に。

 

 何とか受けきり、程なくして閃光がピタリと止まる。刹那、ビャクヤは目の前の障壁を解除し、少し膝をつく。ふぅ、ふぅ、と時々息を漏らしていた。

 俺の魔力も限界だ、さっきの障壁の魔術、どんだけ魔力使う物だったんだよ――。これじゃぁ、俺の魔力切れで全滅エンド待ったなしだ。どうすれば……。

 

「……変身魔術師の方も倒す気でいたが、まさか小石に変身して微かな隙間を掻い潜るとは」

「へっ……ギリギリだったけどな。少し上ズレてたら本気で死んでたぜ?」

「うむ。杖の者も、聖剣を防ぐ程の障壁を放つとは」

「……」

 

 警戒の色を解かず、いつでも魔術を放てるような体制を取っている。それを見て、ソラスはふっと笑う。

 

「良い信頼関係だ――杖を手にしてまだ少ししかたっていないというのにも関わらずだ」

 

 手に持っていた聖剣を消し、こちら目掛けてゆっくりと歩み寄る。その表情はどこか、面白い物を見ているように愉快な物であった。

 何か、何か企んでいる?

 

「何のつもりだ?」

「いや。モンスターという身だが、つい感動してしまってな。武器とここまで共存できる冒険者など、今まで見た事がない――だから」

 

 バッ。

 ソルスはビャクヤの前に手を向ける。

 

「貴様らの関係――そして、変身魔術師。貴様の真髄を、見せてもらおう。――スキル【武具奪取(ウェポン・スティール)】」

「なっ!?」

「――ッ!? うあっ」

 

 スキル名を高々に宣言した刹那、ビャクヤの身体に紫電が走り、苦悶の表情を荒げさせる。

 数分――彼女の身体は元の魔杖へと戻り、ソラスの腕の方へと誘導されていく。……嘘、だろ? 何もしていないのに変身が解除されたってことは、所有権が無くなったか壊れたかの二択でしかない。壊れた様子もない――ってことはつまり。

 

「ビャクヤを……奪った?」

「ふっ。この状態で、貴様は果たしてどう動くのか。楽しみだな」

 

 ビャクヤを奪われた俺は、散々言った通り完全無力に等しい。攻撃力も無ければ、まともな打開策も無い。

 ――絶望。そう形容せざるを得なかった。

 

「さぁ来い。地上へと戻らんとする道化師よ――ッ!!」


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