これは、僕と一冊の本の話。
なんてことは無い、いつもと同じように買った本が原因で、あんなことになるなんて。
やはり、僕は怪異のようなものを引きずり込んでしまうらしい。
困った体質だが、これからも付き合い続けるしかないのだ。

警察、消防、医療機関から収集された情報からSCP-268-JP-Aの条件を満たすと判断された人物はリストアップされ、その動向が監視されます。該当人物に不審な失踪などが見られた場合、財団エージェントが調査とSCP-268-JPの回収を行い、目撃者が存在した場合には記憶処理を施しカバーストーリーを適用してください。SCP-268-JP-Aの条件を満たすレベル1以上の財団職員に対してはその職務・権限に関わらず当該オブジェクトの情報が開示され、特性の把握と遭遇時の報告が義務付けられます。

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終わらない、そして僕は英雄でもない。

目が覚めたのはいつもの変わらぬ、僕の部屋のベッドだった。

見知った天井を見上げ、身体を起こす。何故、こんな所で目覚めたのか。

「きゃああああああっ!!!」

突然、階下で彼女の…忍の悲鳴が聞こえた。

急いで階段を降りる。

そこに居たのは、衣服を剥がれ、今まさに襲われそうになっている忍と、包丁を持った覆面の男。

「何してんだ!!!」

咄嗟に体が動く。

忍の上に覆いかぶさった男を突き飛ばし、忍を助け出す。

…痛い。

「お主…お腹………」

忍の言葉に、僕は自分の腹を見る。

そこには、深深と突き刺さった包丁。

そこで、僕の意識は途切れた。

 

 

「第1章:強漢から少女を救った、勇ましい男の話」

 

 

気付いたら、僕は高校の前にいた。

いつも通り、制服を着て。

おかしい。確かに僕の腹には、包丁が突き刺さった感覚がある。

「お主、どうかしたかの?」

忍の言葉に、僕は我に返る。

あぁ、きっと夢だったのだろう。

そう考えて、僕はひたぎと一緒に、高校前の横断歩道を渡る。

「きゃああああっっっ!!!」

突如響く悲鳴。

ふと隣を見ると、スピードを緩めずに突っ込んでくる大型トラック。

僕は咄嗟に忍を突き飛ばした。

身体中に巡る鈍痛。

そこで、僕の意識は途切れた。

 

 

「第2章:暴走トラックから少女を救った、勇敢な男の話」

 

 

目が覚めると、橋の上にいた。

……あぁやはり、体には鈍痛が残っている。

やはり、夢じゃない。

「お主、ボーっとしているがどうかしたのか?」

隣には忍がいる。

さっきの記憶、そして、その前の記憶…。

明らかに、何かがおかしい。

そんな事を考えていた時…。

ミシ………。

足元から嫌な音が聞こえた。

「忍っ!!!」

僕は咄嗟に忍を突き飛ばす。

直後、橋が音を立てて崩れ落ちる。

老朽化が原因だろうか、忍は何とか巻き込まれずに済んだようだ。

……落下していく中、僕は考える。

これは明らかに………。

 

怪異の仕業だ。

 

 

「第3章:崩れ落ちる橋から少女を救った、勇敢な男の話」

 

 

気が付くと、僕は神社の境内にいた。

太陽の木漏れ日が降り注ぐ境内。

「お主、早く行くぞ」

前を歩く忍が僕を急かす。

きっと、また………。

「何を儂の顔をじっと見ておる……あっ…」

僕の方を見ながら歩く忍が、階段から足を踏みはずす。

僕は黙って、忍の手を掴み引き寄せる。

その反動で、僕の体は階段の方に投げ出される。

何が起きている。こんな事、有り得るのか?

…いや、それ以前に、何かがおかしい。

そんな思考を巡らせながら、僕は階段の下へと落下していった。

 

 

「第4章:階段から落下しかけた少女を救った、勇敢な男の話」

 

 

意識がはっきりした時、僕は大きな虎の前にいた。

「思い出せ。」

虎は僕に言う。

「貴様の命を捧げてこの娘を救うか、娘の命を捧げて貴様が助かるか…選べ」

虎は僕に言う。

隣には、ボロボロになって倒れた忍がいる。

「なぁ…少しだけ話をしないか」

僕は虎に向かって言う。

「時間はない。ほんの少しだけだ」

虎は言う。

「お前はなんで存在しているんだ?お前は消えたはずだろう。」

僕は虎に向かって言う。正確には、消えたという訳では無いのだが…まぁ、消えたという表現でいいだろう。

「あぁ、確かにな。だが、この場所だからこそ、存在できている。さぁ選べ、もう待てないようだ。最後にもう一度言う、思い出せ。それが、お前の助かる道だ。」

虎は僕に言う。僕は迷わず、忍の前に立った。

虎の…苛虎の牙が僕を喰らう。そこで、僕の意識は途切れた。

 

 

「第5章:少女の命を選び自らの命を捧げた男の話」

 

 

気が付くと、僕は街中を歩いていた。

隣には忍がいる。

「なぁ忍」

時間はないかもしれない。だから僕は忍に問いかける」

「なんじゃ?」

「お前、今何歳だ?」

照りつける太陽の下、忍は立ち止まり、首を傾げる。

「そんな事、レディに聞くものでは無いぞ?」

「あぁ、けど答えてくれ。」

「………19歳じゃが?」

あぁ、なるほど。これが1つ目の違和感か。

ガコンッ!

頭上で大きな音がする。

「もう1つ聞かせてくれ」

「お主!そんなこと言っている場合では!」

なるほど、これが2つ目の違和感だ。

そしてもうひとつ…。

僕は、忍を突き飛ばしながら聞く。

「忍、お前、帽子はどうした?」

崩れ落ちてきた鉄骨に潰されながら、僕はその答えを聞くことができなかった。

 

 

「第6章:落ちてきた鉄骨から少女を救った、勇敢な男の話」

 

 

気づくと、僕は廃墟の中にいた。

目の前には、見知った童女と、もう1人、専門家の姿。

「おどれ、いい加減気付きぃや。」

専門家…影縫余弦は僕に言う。

「気付いてるんですよ。もう。ただ、僕にはその決断ができないだけです。」

「ほんなら、その答え合わせを聞こうか?」

影縫さんは僕に問う。

「僕の隣にいる忍は、忍じゃない。…いや、忍であることに間違いないでしょうけれど。けれど、忍は外を出歩く時、絶対帽子を忘れない。それに、19歳なんて、いくら年齢にサバを読んでもそんな答え方はしない。何より、僕の知る忍は、こんなに大きくない。」

僕は、隣にいる忍を見る。春休みに見た、成長した忍の姿。けれど、この姿はありえないのだ。

「そして何より、忍が物理的な死を恐れる事はありえない。」

そう、隣にいる忍は、明らかに人間なのだ。吸血鬼であるはずの忍野忍が、死を恐れて叫ぶはずがない。鉄骨が落ちてきても、悲鳴を出すなど考えられないのだ。

「それで?ほなら、おどれが出す答えはなんや?」

影縫さんは僕に問う。

「…斧乃木ちゃん。僕と忍を、一緒に吹き飛ばしてくれ」

「了解。例外の方が多い規則、ボクはキメ顔でそう言った。」

斧乃木ちゃんの巨大化した指が、僕と忍を同時に吹き飛ばす。

四肢がぐちゃぐちゃにねじ曲がり、息絶えた忍を見ながら、僕の意識もまた、暗闇に沈んでいった。

 

 

「最終章:少女と共に死を選んだ、愚かな男の末路」

 

 

目が覚めると、僕は自宅のベッドの上にいた。

傍には、ベッドに座る忍の姿と、もう1人…。

「やぁやぁ阿良々木君、ようやく戻ってきたね」

室内なのに帽子を被り、飄々とした雰囲気で僕にそう言う彼女は、専門家の元締め、臥煙伊豆湖。

「………それが…」

机の上には一冊の本。そう、僕が買ってきたあの本に触れた瞬間、僕の意識は闇に堕ちたのだ。

「いやぁ、無理やりな結論だね。けれど、合理的だ。合理的で、君らしい。忍野忍が生きている限り、阿良々木暦も存在する。そして、不死である忍野忍が死なない限り、阿良々木暦もまた、消失したところで復活する…。流石にこの本でも、忍野忍…キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが『普通の少女』では無いとは思わなかったらしいね」

どうやらあの本もまた、怪異に似た性質を持ったものだったらしい。臥煙さんは、この本は然るべき場所に渡すと言っていた。

「にしても…はっはー、面白いね、阿良々木君。彼らもこの本の犠牲者を無くすために尽力しているみたいだけど、まさかこんな形も存在するなんてねぇ…いやはや、驚いたよ」

臥煙さんはあっけらかんと笑いながら僕に言う。…あぁ、確かにそうかもしれない。僕がその本を手にしたのも、それが理由なのだから。

僕がその本を手に取った理由。ただの黒い表紙の本。内容は見ずに、手に取ったその本。なぜ買ったか、その理由は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、極めて単純。

僕が本命で買った少女系の本を、他の人の目から隠すためなのだから。

この後、僕が臥煙さんに白い目で見られ、忍に吸血鬼パンチを喰らった後ゴールドチョコレートを3つ買わされたことは言うまでもない。




この小説はSCP財団のSCP-268-JP(http://scp-jp.wikidot.com/scp-268-jp)と、西尾維新様の物語シリーズを中心としたSCP二次創作SSになります。
この作品は、SCP-268-JP「終わらない英雄譚」及び、物語シリーズ登場人物「阿良々木暦」、「忍野忍」に対して独自の解釈が有ります。
このコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承3.0ライセンス(http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja)の元で利用可能です。

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