未知の敵セイレーンへと対抗するために設けられた多国籍連合軍アズールレーン。
KAN-SENたちの活躍によって、人類はどうにかその戦線を押し返すことに成功しそして人類はそこで一息つくことが出来る様になった。
だが、人の欲望というのは留まらない。そして、欲望は互いの対立を生む。
人類の力のみでセイレーンに勝利する。はたまた、鹵獲したセイレーンの技術を取り入れて技術革新を狙う。
対立した二つの意見は、そのまま国の意見であり。国が対立してしまえば、連合軍などもはや体裁の一つも保つことなど出来はしない。
「―――――引継ぎ書類作るのは面倒なんだがな」
紛糾する会議室の中、静かな男の声が響く。
この場唯一の男性にして、現状のアズールレーンにおける最高責任者である指揮官その人である。
灰色の刈り込んだ短髪に左頬から首筋に向けて広がる様な大きな傷跡のある強面な彼は、頬杖をついて進行席について会議の流れを眺めていた。
「あの。ご主人様?引継ぎ書類というのは?」
「あん?そりゃ、オメー。このアズールレーンの、引き継ぎに決まってるだろ」
「指揮官!居なくなっちゃうの!?」
「いや、今その進退の話をしてるじゃねぇか」
「………どういうことですか、指揮官様?」
「え、いや………俺は、ここのアズールレーンの指揮官を任せられてる訳よ」
「存じていますわ」
「で、このアズールレーンは多国籍連合の体裁をとってる訳よ」
「まあ、そうよね」
「んで、そのアズールレーンが分裂する。それはそのまま、俺の管理能力を疑われるわけ。それも新しい戦争の火種を作ったとか、軍法会議ものでな」
へらへらと語る彼だが、会議室は水を打ったように静まり返っていた。その中で、指揮官の言葉は続く。
「多国籍連合を率いるっていうんで、俺は現状国籍がない。まあ、元々孤児だったからその辺は曖昧なんだが置いとこうか」
「あの、割と重大な問題をポンと出されると、処理しきれないんですけど」
「置いとけ。で、アズールレーン分裂の責任問題は俺にあるんだが、まあ、ユニオンとかで裁かれる、のか?そしたら、後任の奴が来ることになるだろうが、そいつの為にこっちも色々準備が要るって話」
「ならば、こちらの陣営に来ればいいだろう。貴様の艦隊指揮能力は、我々も買っているからな」
「そりゃ無理な話だ。言ったろ、俺は無国籍。透明人間。国籍がないってことは戸籍もねぇんだよ。一応、今は連合所属の軍人みたいな立ち位置でも、そんなもん簡単に抹消できる。寧ろ、いろいろと知ってる俺を抱え込むよりも消す方が楽だしな」
事も無げに言いきった指揮官。だが、既に会議室はお通夜のような雰囲気。KAN-SENたちの目のハイライトも消えている。
気付かないのは、この地獄を創り出した本人だけだ。
「ま、なんだ。連合を率いるんだし、俺よりも出来のいい奴が来るだろ。んじゃ、俺はその辺の手続き書類を作ってくる。結果が出たら、教えてくれ」
灰皿に突っ込んでいたシケモクを咥え、指揮官は後ろ手に手を振り部屋を後にしてしまう。
元々、割と淡白な人間であるのだが、KAN-SEN達からすれば現状の彼の反応は、予想外。ついでに投げ込まれた不発弾の処理もできていない。
数秒の間を置いて、会議室は阿鼻叫喚に包まれる。
知らぬは、地獄を創り出した当人のみ