飲みすぎでしょう!やはりレース中にアルコールはよくなかったのでしょうね。解りきっていた事ではありますが、悔まれますねー
ですが後続も全員ふらついています!我々の視界も揺らいでいますが、これはどういうことでしょう!?
飲みすぎでしょう!少し休みたいですねぇ!というより観客も既にレースそっちのけで飲み始めていますので、我々ももう帰りたい所です!
そんなわけでいつの間にか10話越えてました。あと100話くらい続くかもしれないし、続かないかもしれませんので覚悟しておいてください
「チーム名は僕と大丸リーダー、それと今ここにいないもう1人のサブトレーナーの3人で決めた。僕の案がそのまま通ったようなものだけどね」
彼女の紙コップにジュースを注いであげながら言った。受け取ったスカーレットがありがと、とお礼を言いながらくっと一口飲んで、それから黙って視線を僕に向ける。話の続きを聞きたがっているであろう事を悟り、僕もこの話題をもう少し掘り下げる事にした
「『ムーンシャイン』には月光、という意味ももちろんある。他には、バカバカしい考えという意味もあるね」
「そうなの?なんでそうなるのよ」
「えっと……あれだ、英語に詳しい人に会ったら聞いてみるといい。今回大事なのはもう一つ別の意味がある事だね。ムーンシャインは『密造酒』を指す意味合いで使われる言葉でもあるんだ。人目をはばかり、月の明かりだけが届く隠れ家でひっそりと楽しんでいた無法者を洒落た風に読んだのが語源らしいが……まあとにかく、かなりオシャレでアウトローな感じがする言葉である事に間違いはない」
「解るぜトレーナー。イケてる」
「はは、そうだろう?……スカーレットの視線がキツイな。大丈夫だ、ここは別に違法行為が横行している危ない場所ではないからね?
はぐれ者、はみ出し者でも居心地よく過ごせる場所でありたいという願いを込めたのさ。だから入るも出るも自由だし、練習もレースも強いない。学園に籍を置く為のノルマをこなす必要はあるけれど、それはレースに勝つ事が全てではない。ウマ娘として正しく健全であると認められる方法はいろいろとあるのさ」
「ただし、レースに勝利するという事を軽んじている訳ではないぞ。それは解ってくれ」
大丸さんが僕の話に乗っかって来たので、続きは譲る事にした。おおげさに手でどうぞと合図すると、彼は光栄だよと笑いながら言ってスカーレットとウオッカの方を向いた
「そもそも走る事が好きなのはウマ娘の本能だ。必然、他者より速く走る事を皆求めている。その本能に抗う事は難しいが、レースに勝利する事はもっと難しい。この辺りの矛盾が時にウマ娘を破滅させてしまう事もあるんだ。だから俺達トレーナーは差し出がましくも君達の走りに口を出しているし、このチームを創ったのもそういったウマ娘達の逃げ道の一つになればと思ってのことだ」
よく解らない、と言った感じに首を傾げる若者2人を見て彼女達の3倍近く生きている大丸さんは照れ臭そうに笑った
「いやいいんだ、変な事を喋っちまった。とにかく、このチームはどう振る舞うも自由だがレースに勝ちたいと言う子にはちゃんと指導はしてるさ。全員を勝たせてやれる訳じゃないがな!」
「そうそう、ネイチャさんだって勝ててませんからね。頼みますよーお2人とも」
「おいおい大和、ウチのエースがまた変な事を言ってるぞ。どうなってんだ?」
「大丈夫ですよ大丸さん、これは次の復帰レースで1着を取る事へのフリですから。そうだろうネイチャ?」
「うわっ、そういう風に捉えちゃう感じですか……。下手な事言えないねこれじゃ」
ちなみにナイスネイチャの事もスカーレットとウオッカは知っていたし、2人から賞賛と敬意をぶつけられて顔を真っ赤にしながら握手に応じるナイスネイチャはとても微笑ましかった。これが彼女の自信に繋がれば何よりなんだけど。ちなみにその様子を撮影していたビデオカメラはネイチャに没収された。……まあ、ビデオカメラが1つだけかどうかは語らないでおくとするが
「新人の2人は大和、お前に任せる。トレーナーとしてのやり方はお前が今までやって来た事を少し真面目にするだけでいい。2人を目指すところに連れていってやれ」
「少しでよろしいのですか?」
「かなり真面目に、だな」
「ええ、心得ましたとも」
「よし。じゃあとりあえず、目下の所目指すのはメイクデビューか」
メイクデビュー。公的レースに出場するウマ娘としてトゥインクルシリーズに正式に参加する事を指す。レースに身を捧げるウマ娘達がまず最初に目指す事になるレースを表す事もある
「2人のデビューは当分先だね。マニュアル通り、早くても今年の夏の終わりだろう。そこまでに最低限競技者としての礼儀マナー、リーグを戦っていく為の身体を作ってもらう。参考までに聞かせて欲しいが、2人とも現時点で目標にするレースはなにかあるかい?」
「俺は日本ダービーには絶対出てぇ。他は……とにかく、出れるレースには全部出て、全部勝つ!そんな感じだな」
「ふむ、いいね。あそこは常に浪漫で溢れている。目指す場所としてはやりがいがあるね。スカーレットは?」
「アタシは……今目標に据えるならトリプルティアラね」
トリプルティアラ。デビュー翌年に挑戦する事になる桜花賞、オークス、秋華賞と呼ばれる3つのレースを1着で通過したウマ娘に与えられる名称だ。皐月賞、日本ダービー、菊花賞の『クラシック三冠』とはまた違う栄光への道である
「トリプルティアラ……そうか」
「?なによ、何かダメなの?」
「ああいや、素晴らしい目標だと思うよ。ウオッカのクラシック路線とは違う道だが、美しさと苛烈さに満ちている。君が歩むに相応しい道だ。そうだ、もうすぐ皐月賞が開催されるから2人も見に行こうか。人生で一度しか挑戦できないクラシックレースの第一幕、学べる事は多くあるはずだ。ムーンシャインからも参加者があるから応援も兼ねてね。……そういえば彼女はどこにいったのかな?さっきまでそこで食事をしていたと思うけど」
「ほいほい、ずっといますよ。あなたの後ろにセイウンスカーイ」
呑気な声に先んじて僕の首筋にヒヤリと冷たいものが流し込まれた。……多分、氷だろう。うん、危なかった。椅子から落っこちるくらい驚いた。しかしそれを見せるような事はしないし、今更この程度の可愛いいたずらに怒りを覚えるような事はあり得ない。僕はふふっと爽やかに笑うと彼女の方へ振り返った
「やぁセイウンスカイ。やってくれたね」
「ごめんね~。大和さんの首筋が隙だらけだったから」
「その言い訳が通るなら僕はこの学園のあらゆる人間の首筋に好きな物を流し込んでも許されるだろうな。大概の人間の首筋は隙だらけなものだし。それで、僕の後ろに隠れていたという事は話は聞いていただろう?スカイ、皐月賞への意気込みはどうかな?」
「ん~。ま、いい感じで」
水色の髪の間からトロンと眠そうな瞳が覗いていた。セイウンスカイはおどけたようにそう言うと頭の後ろで手を組んでへらっと笑ってみせた。漠然とした意気込みだが、彼女から伝わってくるやる気は結構なものだ。きっといいレースをしてくれるだろう
「おっと、もういい時間だな。さあ、今日はそろそろ解散だ!片付けは俺達でやっておくから、皆早く寮に帰るんだぞ!」
「「「はーい!」」」
リーダーの一声で宴会も終わりを迎える。楽しい時間はいつもあっという間だ。リーダーのありがたい言葉に従い、スカーレット達に別れを告げて僕も自分の部屋へ帰る事にした
「待つんだ大和!俺達で片づけをすると言っただろう!?」
部屋へ帰る事は叶わなかった
「この量を2人でやるんですか?」
多少は皆も片付けをしてくれてはいたが、数十人での歓迎会の跡はあちらこちらへ山を築いていた。彼が人一倍の働き者である事を加味して、僕が人の半分程の働き者である事を差し引けばとてもじゃないがあっさりと片付きそうには見えない分量だ
「言っちまった手前しょうがないじゃないか」
「言ったのは貴方ですよ大丸さん」
「な、頼むよ手を貸してくれ。見栄を張りたかったんだ。解るだろ?」
「解ってます、冗談ですよ。2人でやりましょう。まさか皆を呼び戻す訳にもいかないでしょうから」
やれやれだ。僕達は笑い合いながら盛大に散らかったチームルームの大掃除を始める事にした
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「どうぞ、大丸さん」
「ありがとうよ大和」
大丸さんは僕から缶を受け取ると、どっこいしょと向かいの椅子に座った。チームハウスの一角、トレーナー待機室と呼ばれる資料のゴミ捨て場と化した小汚く狭い部屋から見る窓の外は既に真っ暗だった。片付けは結局学生達の消灯時間直前まで続き、疲れ果てた僕達は引き上げる前に少々休む事にした
「事の経緯は聞かせてもらったが、驚いたな。遠征先でお前さんがその気になったなんてニュースを受け取った日にはスマホの故障を疑ったよ」
「ははは。大丸さんはいつも大げさだ。そもそも機械の故障と僕のおかしな行動に関係はないでしょう?」
「一緒に居たタイシンの奴も自分のウマホを買い替えた方がいいかも、って言ってたがな」
「やれやれ、案外似た者同士な事で」
しばし下らない雑談をしていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。こんな時間になんだろうか、と大丸さんと顔を見合わせていると馴染のある声と共にエアグルーヴが入って来た
「失礼します」
「おおっと、エアグルーヴだ。門限破りかい?」
「たわけ、見回りだ。電気がついているのが見えたのでな。大丸トレーナー、お疲れ様です」
「ああお疲れ。大変だなぁ生徒会は」
「責務ですから。それで、歓迎会はどうだったんだ?スカーレットとウオッカは馴染んだか?」
「問題なさそうだよ。君も来てくれたらよかったのに」
「時間が無くてな」
ふう、と疲れたように息を吐いて彼女も適当に腰掛けた。その辺にあった適当な缶コーヒーを手渡す。悪いけど、ここに給湯設備はないのでそれぐらいしかあげられない。ただ疲れている彼女は構う事無く受け取ってくれた
「いい夜だ。酒が飲みたくなるな」
「ええ、全くです」
「……」
「冗談だ」
「冗談ですよ」
エアグルーヴの視線が余りにも鋭く、僕と大丸さんは思わず両手を上げて降参の意を示した
「まさかまたチームハウスに酒を持ち込んでるんじゃないだろうな……」
「そんな事はしていないさ!なぁ大和!」
「ええ、全くです」
少なくとも、この部屋には無い。それだけは確かだった。……いや、どうだったかな。棚の裏に隠したヤツは随分前に飲み切った筈だし、多分大丈夫だろう
「……はぁ、私はもう戻ります。お2人もすぐお帰り下さい」
「ああ、そうするよ。今日は長旅で疲れたからな……」
「おやすみエアグルーヴ。いい夢を」
「ああ。……それでは、失礼します」
彼女が出て行って再び2人きりになった。眠気を吹き飛ばすように大きく伸びをして大丸さんが立ち上がったのを見て僕も席を立つ。手分けして戸締りをして電気の切り忘れも無い事を確認した後、僕達はチームハウスの前で別れた。背を向けて数歩歩き出した時、大丸さんの声が聞こえて来た
「大和」
「ええ、なんです?」
「頑張れよ。何かあればすぐ相談しろ」
「いつも全力で頼ってますとも」
「はっはっは。これからもそうしてくれって事だ」
言うだけ言って彼はカッコつけて背中を見せながら手を振って去って行った。確かに最近少し疲れている。労働時間があまりにも長いからだろう。言質も取ったし、これからも全力で頼らせてもらう事にした。僕は今度こそ温かいベッドを目指して歩き出した
僕の脳内妄想では既にセイウンスカイの育成ストーリーは実装されており、URAファイナルで優勝した所までは進んでいます!おしむらくは、その詳細を皆さんにお伝え出来ない事ですね