プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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作中の時間軸がリアルに追いつかなかった……


番外編のようなもの、と捉えて下さい





世界に緋色の華が咲いた日

 

 授業の合間の昼休み。ウオッカは呼び出しを受けてトレーナー室へ歩いていた。必ず一人で来るようにとのお達しだった為、スカーレットが食事をしている隙に飛び出してきた。少々お腹が空いていたがそれについては我慢する事にした

 

 

 珍しい事もあるもんだな、とウオッカはぶらぶら歩きながら少し考えていた

 

 

 トレーナーはスカーレットに熱烈な想いを秘めている(隠してはいない)が、かといってチームの先輩達を軽く扱っているようにも見えなかったし、自分の事もスカーレットと可能な限り対等に扱おうと気を遣ってくれているのもなんとなく解っていた。そんなトレーナーが自分1人だけを呼び出して一体何の話があるんだろうと少しわくわくしながらいつもの部屋の扉をノックした

 

 

「ふむ、入ってくれ」

 

「おー、邪魔するぜ。んでどうした?なんかあったのか?」

 

 

 いささか神妙な顔付のトレーナーの向かいに座る。彼は背後からの日差しを受けて顔に影を作っており、普段はない凄味を醸し出していた

 

 

「今日はダイワスカーレットの誕生日だ」

 

 何言ってんだ?ウオッカは思った。今はまだ4月だし、スカーレットの誕生日は5月の半ばだった筈だ。まさかそれを間違えるようなトレーナーではない筈だが、とウオッカは首を傾げた

 

「今度セイウンスカイ先輩の皐月賞だってトレーナーも言ってただろ?スカーレットの誕生日なんて一ヶ月は先だろ」

 

「何も聞かず、今日の日付を確認してみてくれ」

 

 

 やれやれだ。トレーナーの口癖でもあるそんな言葉を呟きながらウオッカはポケットからウマホを取り出して____

 

 

「今日は5月13日じゃねえか!?」

 

「そうなんだよ。つまりはそういうことなんだ」

 

「スカイ先輩の皐月賞は!?あれっ、なんでだ!?」

 

「それはまた次回以降に触れるから、一旦忘れて欲しい。とにかく、これから誕生日会の準備を始めなくてはならないんだよ」

 

「あー、解ったよ。とにかくそういう事なんだな」

 

 

 まあこういう事もあるか、と考え直してウオッカも状況に適応する事にした。別にスカーレットの誕生日を祝えと言われれば嫌な訳でもない。友達ではないが同室だし、ライバルだから別に嫌いでは無いし……別に好きって訳でもない。どちらかと言われれば?いや嫌いの区別には入らないだろうけど……いや、好きとかそういうんじゃないだろ。いやだから___

 

 

「どっちでもいいだろぉ!?」

 

「落ち着いてくれウオッカ。今は既にお昼休み、放課後まで時間があり余っているという訳でもないんだ。事は迅速に取り掛からなくてはならない」

 

「お、おお。そうだな。んでどうすんだ?こないだみたいにチームハウスでパーティーでもする気なのか?」

 

「そうしたいのは山々なんだがね、この間騒ぎ過ぎたせいで生徒会からしばらくチームハウスを使っての宴会は控えるよう言われてしまったんだ。誕生日会くらいならばトレーナー室でささやかにするように、と怒られてしまったよ。……それに少々予算も使いすぎてしまったからね」

 

 

 ふふ、と笑うトレーナーの机には食堂からの請求書が束で置かれていた。ウオッカは好奇心を抑えられずチラリと盗み見たのだが、学生の身からすれば見ているだけで内臓がキュっと締め付けられてしまう程の額だった。気を取り直して話を景気の良い方に戻す事にした

 

 

「それじゃ放課後にでもスカーレットをここに連れてくりゃいいんだな?アイツには誕生会だって気付かれないように」

 

「流石だウオッカ、話が早い。頼めるかな?」

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

 そういう訳で終わりのホームルームが終わり、運命の放課後になった。ウオッカは寝落ち寸前だった意識を無理やり覚醒させてスカーレットの行動に目を走らせる。ここからは自分の腕が問われるのだ

 

 

「誕生日おめでと!ダイワスカーレットさん!」

 

「ありがとう。あなたの誕生日は8月よね?またお返しさせてね」

 

「覚えてくれてるの!?ありがとう!楽しみにしてるね!」

 

 

 同級生達の祝いの言葉に、にこにこ笑顔で対応するスカーレットの様子を見ながら算段を立てる。特別何もしなくても、スカーレットはこの後トレーナー室に顔を出すだろう。その道中で出来得る限り誕生日の話題を振らず、トレーナーがサプライズをブチかます後押しをする。驚いているスカーレットを一通りからかって……

 

 

「それじゃあウオッカ、行きましょう?」

 

「おう。じゃーな皆」

 

「ばいばーい」

 

 

 並んで歩いている途中もあちらこちらから声を掛けられ、その度に立ち止まって丁寧に対応するスカーレットの姿は明るく礼儀正しく愛想の良い女の子でしかない。皆の手本となろうと全力で努力する学級委員長であったり、女帝や皇帝など大層な名で敬われる生徒会の先輩達を見習ってスカーレットもかくありたいと振る舞っているのだ

 

 

 ウオッカからすれば普段の打てば響く闘志剥き出しのスカーレットの方が付き合いやすいが、猫を被っていて反撃できないスカーレットをからかうのも嫌いではない。それはそうと、今日の目的はまた別だが

 

 

「さーて、トレーナー室行くかぁ。な?」

 

「いえ、今日は先にチームハウスに行って待ってましょ。トレーナーもすぐ来るでしょうし」

 

 

 計画は破綻した

 

 

「えっ。でもほら、迎えに行かないとトレーナーもサボっちまうかもしれないからよ?な?」

 

「大丈夫よ。アイツがアタシ達の練習すっぽかしたりしたことないでしょ?そんな事アンタも解ってるじゃない」

 

「まあそうだけど……ほらあれだ!なんかさ、なんていうか……あれだよ!な!?」

 

「いやなんなのよ。トレーナー室でなにかあるの?」

 

「はぁ!?なんもねえよ!あるわけねえだろ!?なにがあるってんだよ!?」

 

「……アンタねぇ。解ったわ、じゃあ行きましょうか」

 

 

 呆れたような顔で笑うスカーレットはそれから何も言わず無言で歩き続ける。ウオッカも言葉に困り、黙っているうちに気付けば既にトレーナー室の前に到着していた

 

 

「ウオッカ、開けて」

 

「俺!?いや、スカーレットが開けろって!俺今日静電気ヤバいんだよ!」

 

「なによその言い訳は。まったくもう、入るわよトレーナー!」

 

 

 ガラリとドアを開けると同時に、ぱすんと小さな破裂音が1つ鳴った

 

 

「やあスカーレット。サプライズだ」

 

 トレーナーがクラッカーを持って椅子に座っていた。紙吹雪ではなく後片付けが楽なテープが飛び出すタイプだが、色とりどりのそれが床に力なく垂れるのをスカーレットは視線でなぞった後に腰に手を当ててウオッカをジロリと軽く睨んだ

 

 

「へたくそ」

 

「グッ……すまねえトレーナー。バレちまったみてえだ」

 

「やれやれ、サプライズ感が足りなかったかな。こちらこそすまないねウオッカ、頑張ってもらったのに」

 

「ま、俺の仕事はここまでだな。じゃあな、先にチームハウスで練習の準備して待ってるぜ」

 

 

 先程まで挙動不審だった癖にカッコつけて颯爽と去って行くウオッカを白い目で見送ったスカーレットは、ため息をついた後彼女ように用意された赤い椅子に腰かけてトレーナーの向かいに座った。大体用件は解っていたのだが、折角なのでとぼけたように質問してあげた

 

 

「なに?急に呼び出したりして」

 

「誕生日おめでとうと言いたくてね。それとあれだよ、一応だが……」

 

「プレゼント?ありがと、準備してくれたのね」

 

「あまり高い物は気を遣わせてしまうだろうし、寮生活の君達だと場所を取る飾り物より消耗品の方がいいと思ったんだ。開けてみて、君の評価を聞かせてくれないかな?」

 

 

 スカーレットは赤いラッピングを丁寧に剥がし、中から出て来たこれまた赤い小さな箱を机の上に置いた。まるで宝石箱を前にした少女のように目を輝かせながら彼女はゆっくりと蓋を開けた

 

 

「これは?」

 

「リップクリームだよ。今人気な品らしくてね。医療品というより、化粧品としての趣が強いらしい。唇の発色を良くしてくれるものだそうだ。学園ではあまり派手な化粧は指導されてしまうだろうけど、このくらいなら日常で使えると思ったんだが……どうだろう、少しは役立ちそうかな?」

 

「___ええ。ありがとうトレーナー。使わせてもらうわね!」

 

 

 世辞ではなく嬉しそうに笑うスカーレットを見て、トレーナーはこっそりと胸を撫で下ろした。寸前までオオサンショウウオの特大ぬいぐるみ(170cm)と迷ったのだがこっちを選んで良かったと心の底から安堵した。オオサンショウウオは他の子の誕生日にあげることにしようと決意し、嬉しそうなスカーレットを温かな視線で見つめた

 

 

「ぜひ使ってくれ。君の美しさに貢献できたのなら僕の財布を空にした甲斐もあったというものだよ」

 

「ふふん、折角使ってあげるんだからアタシから目を離すんじゃないわよ?……え、それはそうとこれすっごい高いヤツなの!?アンタ、お金は大事にしなきゃダメじゃない!嬉しいけど、悪いわね……」

 

「冗談だ。5000円程度の品だから安心して使ってくれ」

 

「びっくりさせるんじゃないわよ!いや、5000円でも嬉しいけど!」

 

「財布が空になったのは確かだけどね。ふふっ、ちょっと今月はしゃぎすぎてしまったらしい」

 

「はぁ!?なにやってんのよもうっ!」

 

「君を見ているだけで胸もお腹もいっぱいになるから大丈夫さ」

 

「なんにも解決しないわよ!?もーっ、練習行くわよ!」

 

 

 へらへらと笑うトレーナーはスカーレットに引きずられるように部屋を出た。5月の日差しで眩しいくらいに輝く廊下をずんずんと進むスカーレットの背中を眺めながら、トレーナーはふと思い付いたように声をかけた

 

 

「そうだ、来年こそは必ず大きなパーティーを開こう。スカーレット、楽しみにして___いや、サプライズだから忘れていて欲しいかな。記憶の奥底でひっそりと楽しみにしていてくれ」

 

「……別に気を遣ってもらわなくて結構よ。アタシは、来年もトレーナー室でいいから。アンタがいいならだけどね」

 

「ふむ……すまない、もう一回言ってくれ。ちょっとビデオカメラを取ってくるから」

 

「~~~うっさいわね!練習行くわよ!」

 

「はは、解ってるよ、解ってる」

 

 

 ちなみに教員棟の出口で待ち構えていたウオッカは顔を赤くしたスカーレットをからかって腹パンされ、トレーナーと一緒に引きずられながら練習へ向かう事となった

 

 

 

 

 




ダイワスカーレット誕生日おめでとう!!!


作中時間軸だとトレーナーが出会う前にウオッカの誕生日は既に終わってしまっています。後日ウオッカの遅めの誕生日会もささやかながら執り行われ、トレーナーからオオサンショウウオのぬいぐるみ(170cm)が贈呈されました


ウオッカはめちゃくちゃ喜んでいましたが、彼女の寮のベッドを占拠してしまう為今はチームハウスのソファーの上に並んでいます

まあこういった話があったりなかったりしますが、詳しくはまたの機会に
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