セイウンスカイ、という文字の並びがあまりにも美しい。ダイワスカーレットに引けをとらない響の良さがありますね。彼女が実装された暁には、我々は天井も辞さない___!
※投稿ミスがありました。ごめんなさい!!!!!!!!!!!!!!!!
セイウンスカイが先頭でレースを作る。彼女が引き連れるは15人のライバル達。だが先頭争いに名乗りを上げる者はおらず、白を基調とした勝負服を纏うセイウンスカイが飛行機雲のようにスッと白い線を描き独壇場を演じてみせていた。しかし、それを滑稽だと思う者もこの会場には多くいるだろう。彼女はこの走り方で一度敗北を喫しているからだ
『前哨戦とも言える弥生賞と同じようなレース展開になりました!1番手のセイウンスカイの後ろ4バ身離れて第二集団が形成され、さらに4バ身程離れた最後方で第三集団が様子を伺います!2番手は5番キラキラタイムズ、3番手は___エルコンドルパサーは第二集団中央!並ぶようにキングヘイロー!___続く7番手に___そしてスペシャルウィークは最後方に近い位置!グラスワンダー、背後にぴったりと張り付くようだ!さあ___』
皐月賞と同じ様な条件で行われる3月頭の弥生賞。或いは弥生賞をなぞるように行われているのが皐月賞だろうか。まあどうあれ、前のレースでセイウンスカイは今と同じように逃げを打ち、ゴール前の坂で力尽きてスペシャルウィークとキングヘイローに追い抜かれ3着に終わる事となったのだ。今回は更にエルコンドルパサー、グラスワンダーといった強力なウマ娘達が参戦している。セイウンスカイが逃げ切るのは難しいだろう
「と、そう思っているだろう」
「トレーナー何だ!?聞こえねーんだけど!?」
「頑張れー!!スカイせんぱーい!!!」
ウオッカが全力で聞き返し、答えようと口を開いた瞬間スカーレットが夢中で振り回した拳が頭上を掠めた。スラリとしながらも幼さが残る可愛らしい手だが、ウマ娘の筋力を持って振り回されるそれは実際砲丸のような破壊力を秘めている。扱いには気を付けて欲しいものだ。応援の邪魔をしてすまない、とウオッカに謝り前を向かせた。今は僕なんかよりスカイ達に集中するべきなのだ
歓声が大きすぎて僕の声は誰の耳にも届かない事は解った。ああ、やれやれだ。いやそもそも無粋だった。セイウンスカイが走っているというのに、彼女が栄光へ飛ぶように近づいているというのに、澄ました顔で解ったように語ろうとする僕が一番滑稽だという事なのだろう
「言いたいことは1つ。下バ評はひっくり返るのがお約束だ」
まあ、あれだ。意味は無いのは解るんだけど、正直声を出していないと緊張でひっくり返ってしまいそうなのだ。美しいレースは瞬間で終わってしまい本当に惜しいと毎回思うのだが、早く緊張から解き放って欲しいとも思ってしまいやきもきしてしまう。本当に罪深いものだね、レースとは。僕は固唾を呑んでスカイの背を目で追った
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異変に気付いたのは誰が最初だろうか。恐らくは、タイム計測を担当している係員だろう。先頭のセイウンスカイが1000mを通過した時点でのタイムを紙に記載した時に思わず呟いてしまったのだ
「なんだ、弥生賞より遅いじゃないか」
次に気付いたのはセイウンスカイから3バ身程後ろ、その瞬間まで二番手に付けていたウマ娘___キラキラタイムズと呼ばれる彼女だった。彼女は弥生賞でもセイウンスカイの後ろにつけ、そしてセイウンスカイよりずっと早くバテて後方へ沈んでしまった。その反省を活かして前よりスタミナをつける事に全力を尽くしたとはいえ、明らかに前より楽なレース展開に頭の隅で疑問を抱きながらも逸る鼓動を抑えるので精いっぱいで思考は先に続かない
(スペちゃんはどこだ!?まだ後ろ!?)
エルコンドルパサーは後方のライバル達を気にしている
(グラスちゃんの圧がやり辛い!でもまだ振り切るには早い……!)
スペシャルウィークは以前と違うライバル達の存在が気になっている
(かなり後ろになってしまいましたが……開き直るしかありませんか!)
グラスワンダーはスペシャルウィークしか見ていない
(スカイさんとの開きは前と同じくらい……そろそろ前に出るべきなのかしら。前の様にスペシャルウィークさんに自由に走らせるとまずいもの。今なら後方を抑えられる位置に立てる___おや?)
キングヘイローが、3番目に異変に気付いた。瞬間いくつかの可能性が脳内に走る。自らの成長か、セイウンスカイの不調か。残り400m程、第4コーナーに入る辺りで感じた僅かながらも無視出来ない違和感。以前の弥生賞よりほんの僅かに___セイウンスカイのペースが遅い
(___まっずいですわねッ!)
キングヘイローがスパートをかけた事でレースが大きく動いた。彼女がキラキラタイムズをかわして2番手に躍り出る様子を見て後方集団が一斉に牙を剥いた。大外から、内から、集団の僅かな隙間から。芝を蹴散らし、風を切り。最後の一瞬のためにとっておいたとっておきの走りが炸裂する
観客の悲鳴と歓喜を織り交ぜた大声が大気を揺らし、それらを押さえつけて実況の声が会場に響き渡る
『最後の直線!中山の坂!セイウンスカイ落ちない!以前とは違って余裕がある!
食い下がるキングヘイロー!キラキラタイムズ苦しいか!
満を持してスペシャルウィーク!エルコンドルパサーもまだ残っている!
グラスワンダーが大外から迫っているぞ!
それでも___それでもセイウンスカイだ!セイウンスカイはまだ先頭!先頭変わらず!迫る後続が群れとなって襲い掛かるが、それでも、それでも!!!先頭は変わらない!!!!』
歓喜一色の渦が湧き上がる。それは彼女を祝福する為だけのものだ。その声援と一体となった一陣の風が、ゴール板を駆け抜けた
『皐月の晴天に浮雲一過!誠に見事な逃げ切りショーを見せたのは2枠3番、ムーンシャイン所属のセイウンスカイ!雪辱を果たし、クラシック3冠第一幕の主役に上り詰めました!』
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僕は泣いた。いやそれは泣くだろう。ライスだって両手を万歳させて涙ぐんで飛び跳ねている。跳ねる度に僕の足をちょいちょい踏んでいるのだけど、彼女は軽いから痛くはない。ウオッカも腕組みして鼻水垂らして前を向いたまま泣いていた。スカーレットも先ほどまで半泣きだったのに、感情を爆発させる僕達を見てスン、と真顔になってしまった。……惜しいな、もう少しで彼女の泣き顔が見れたのに
「何見てんのよ」
「君の泣き顔が見れるかと思って」
「アンタとウオッカ見てたら涙も引っ込んだわよ……。ほらそんなことよりスカイ先輩こっち見てるわよ!手くらい振ってあげなさい!」
バシンとスカーレットに背中を叩かれて顔を上げる。ウマ娘程の視力は無いので表情は解らないが、セイウンスカイがこちらを向いているのは確かだった。言葉は届かないだろうが___丁度、メッセージカードの役割を果たせるものを懐に持っているのだ
「うん。うんうん。勝利が全てでは無いと僕は口癖のように言うけどね。だからこそ敢えて言わせて欲しい。
___天晴!やはり仲間が1着を取る所を見るのは、全くもって気持ちがいいッ!」
僕なりの大声と共に『天晴』と達筆で書かれた扇子をバチっと広げて見せた。遠くでセイウンスカイが小さく拳を振り上げたのが見える。満足そうに頷く僕を横目でチラリと見たライスはすぐにレース場に視線を戻した後、ギョッとした表情でもう一度こちらを見た。所謂二度見というやつだね。ライスは信じられない、といった表情を浮かべると震える声で解りきった問いを投げかけてきた
「お兄様……!?もしかして理事長さんの扇子……!?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「そういう事するから怒られちゃうんだよ!?」
「後で謝れば済む話さ。例え怒られたとしても、ここでスカイの勝利を祝う以上に大切な事などないだろう?」
「もうっ……!そういう事言うんだからお兄様は……!」
「お説教は祝勝会で聞くよ、ライス。今はただこの勝利を祝おう。……『栄光』って書いてある扇子もあるけど、どうだい?」
「……」
ライスシャワーは僕が差し出した『栄光』扇子を無言で受け取ると、やけくそのように振り回してセイウンスカイの勝利を祝った。これで彼女も共犯だという事になるだろうか?ならないかな。ならないだろうな
腕で隠す様子もなく男泣きを続けるウオッカの鼻水をティッシュで無理やり拭き上げるスカーレットの様子を見ながら、僕は大きく息を吐いた。しかし、本当に良かった。この結果は予想外ではないが、決して高い可能性の1つという訳では無いだろう
僕は彼女の勝利を確信していた___訳ではない。申し訳ないが、僕にはレース前のデータから勝者を割り出すなんて器用な事はできない。スペシャルウィークくんか、或いは他の子か。誰が勝つかなんて解りはしない。解った気になっている者がいるだけで、そも勝者が誰になるかなんて実際結果が出てみるまで誰にも解る筈なんて無いだろうとすら思っている節もある。ただ、それでも僕にできることは1つだけあったのだ
『勝ちたいんだよね。今回はさ』
震える手を抑えながらも、視線を真っすぐ僕に向けた。口に出すと負けた時にしんどくなると解っていても、己に言い聞かせた。僕にそう伝えてくれたセイウンスカイが勝利を手にする事を、心の底から願う事くらい僕にだって出来るのだ
「ああ、もう1つある。祝勝会の店を予約する事だ。これはあらゆる仕事に取り掛かるのが遅い事に定評がある僕が、誰よりも早くこなせる数少ない仕事の1つでもあるね」
「焼肉か!?焼肉なのかトレーナー!?」
「お寿司もある」
「よっしゃあ!スカイ先輩のお陰だぜ!」
「アンタ現金にも程があるわよ!絶対他の人の前で言うんじゃないわよ!?」
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「さあウイニングライブだ。ライス、準備は良いかな?」
「うん、私は大丈夫だよお兄様。はい、スカーレットちゃん、ウオッカちゃんも。好きなのを選んでね」
ライスシャワーが差し出した団扇の束を受け取った2人はぽかんとした表情で固まっている。一体どうしたというのだろう?スカーレットとウオッカは危ない物でも触るような手つきで1つ1つの団扇を確認し始めた
「『こっち向いてSay!Win!スカイ!』『セイウン爽快大勝利』『目指せ百冠ウマ娘』『うまだっち☆』……なにこれ?」
「応援用の団扇だよ。これは借り物じゃなくて、僕の手作りだね」
胸を張って言ったのだが、彼女達の反応は芳しくない。というか普通にちょっと嫌そうだった
「流石に恥ずかしくない……?普通にサイリウムとかじゃダメなの?」
「普通でいいのかい?スカーレット。応援も一番になるべきだ。そうだろう?」
「___そうね。一番……一番にならないと駄目だわ!」
「乗るなスカーレット!騙されてるぞ!」
騙してなんかいない。ただ僕はそっと背中を押しただけだ。貶される謂れは一切ないと言える。ウオッカが言葉を並べようと一度火が付いたスカーレットはもう止まらない。嫌がるウオッカにもキラキラ光る団扇を握らせ、準備が続くライブ会場の観客席へ突っ込んでいく。最前線を確保する気なのだろう
「スカーレット。関係者用に最前列に近いスペースは確保してもらえるんだ。チームの子達が先に居るだろうから、合流するといい」
「解ったわ!ほらウオッカなにしてんのよ!行くわよ!」
「へいへい。わーったよ」
やるからにはやるぜ、と覚悟を決めた顔で『セイウンスカイ♡』と書かれた鉢巻を頭に巻いたウオッカがスカーレットを追いかけて行った。……そんな鉢巻あったかな
「あれはスカイちゃんが作ってくれたの」
「自分で作ったのかい?スカイには一目置かざるを得ないな」
巻いて欲しいと手渡された鉢巻を要望通りライスの頭に巻き付けてあげると、鼻息ふんすとやる気満々のご様子だ。彼女は本当に誰かを祝うのが好きな子なのだ。私用があってこの間の歓迎会に顔を出せなかったのを相当悔んでいたし、今日は後輩の引率を任されたとあって張り切っていた
「今日の僕って引率する側だろうか?される側?」
「お兄様。あの……ほんのもうちょっとだけしっかりしてくれれば、ライスは嬉しいなって思うんだ」
「善処するよ。でも君がいるとついつい甘えてしまうんだ」
「……ライスは騙されないからね」
騙してなんかいない。本心だ。ほっぺを膨らませるライスから視線をずらすと、レースの撮影係として会場の反対側で観戦していたネイチャ達がきょろきょろと視線を巡らせながらこちらへ向かってくるのが見えた。僕は合図代わりに輝く団扇をひらひらと振ってみせた
「ほーいおまたせしましたよっと。……え、どしたのライス先輩は」
ぷりぷりと怒った様子のライスを見て驚いたようにこちらに視線を向けて来たネイチャに対し、僕はしらんぷりして彼女にも鉢巻を巻き付けてあげた
浮雲一過、は完全に造語です。意味はなんとなくいい感じに解釈してもらえると助かります
名乗りみたいなの考えるの好きなので実況さんに凝った言い回しをしてもらってます。台本ありきみないな感じでますが許してね☆
あとライスちゃんが厳しいのはトレーナーくんにだけなので、安心してください
セイウンスカイちゃんの回なのに……ライスの方が目立っている気がする。ライスが可愛すぎるから……罪深い子だ!
スカーレット以外がメインになる回が多くなるのは……?
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浮気よ!!!!
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それもありね!!!!
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好きにすればいいじゃない!