プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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太り気味・片頭痛・夜更かし気味・サボリ癖持ちの僕からすれば保健室はマジで欲しいんだよね。2週間で完治するんだろ?なんだウマ娘限定なのか……


なんだってアグネスタキオン!この液体を飲むだけで全て解決!!!?よっしゃぁ!!!!



___日記はここで途切れている




(時系列あっちいったりこっちいったりします。気分でお話書いてます。許して下さい)


(あとエアグルーヴさんのキャラがヤバイかもしれません。気を付けて下さい)




緋色の女王は眠らない

___夜

 

 

「……」

 

 

 枕元に置いた電子時計がカーテンを閉め切った部屋の中で薄明るく現在時刻を示している。チラリと目をやり、既に消灯時間を過ぎている事を承知でダイワスカーレットはゆっくりと身体を起こした

 

 

 その身に纏うはトレセン学園指定の練習着でもある赤を基調としたジャージ。動きやすい服ではあるが、普段のスカーレットは身だしなみには気を遣っている。眠る時は可愛らしい寝間着に着替えるのが常だ

 

 

 そんな彼女がこんな服装でベッドに入っていたのは当然、まだまだ眠る気などないからだ

 

 

「また行くのかよ」

 

 

 窓から外の様子を窺っていた彼女の背に声がかかる。咎めるようでどこか心配そうな雰囲気を感じさせるその声に振り返ることなくスカーレットはトゲトゲとした返事を返した

 

 

「……なによ、文句あんの?」

 

「文句とかじゃねーよ。いくらなんでもそろそろ見つかっちまうぞ」

 

「ふん、うるさいわね。アンタに関係ないでしょ」

 

「関係なくはないだろ。同室のオレの責任って話になったらどうすんだ」

 

「アンタはバカみたいにぐーすか寝てたから気付かなかった。それだけの事でしょ」

 

 

 ウオッカが言い返すのを待たずして、窓の外が無人な事を確認したスカーレットは軽やかに飛び出した。陽が落ちて数時間は経っているが、春の夜は随分と暖かい。月を覆う雲も少なく、今夜も気持ちよく走れそうだと思った

 

 

________________

 

 

 

「ふーん。よろしくないなぁ」

 

 

 僕はボールペンを指の間でくるくると回転させる。シンプルな金属で覆われた武骨なボディには所々の傷と凹み。それでもペンとしての機能は損なわれることなく、安く買えた割にはかなり長持ちしているお気に入りの一品だ。トレセン学園で働き始めた頃から使っているから……もう5年以上にもなるのか

 

 

「どう考える?」

 

「ふーむ。凹みや傷っていうのは、僕がペン回しをミスしてあっちこっちに落っことしたりで出来たものだ。今となってはもう殆ど落とすことも無くなったから、古い傷ばかりだ。しかし見てみなよエアグルーヴ……傷跡がすっかり馴染んで、あたかもデザインの一部かのような味を出している。安物ではあるがこの世に1つのマイボールペン、愛着も湧いてくるというものだよ」

 

「真面目な話だ。トレーナー」

 

 

 既に限界まで釣り上がっていた筈の眉が更に吊り上がった。腕組みをして真正面に立つエアグルーヴの放つ気迫にビビッて思わずペンを取り落とした。机の上をコロコロと転がるペンを目で追うようにして視線を逸らし、僕は言葉を続ける

 

 

「真面目な話だよエアグルーヴ。チャレンジとは少なからず傷を残すもので、それは長い時間をかけて『個性』と呼ばれるモノに変質していくのだと僕は考えているんだ。1番へ至る道に生える全ての『いばら』から彼女を守ってあげる事は出来る筈が無いし、そうするべきでもないというのが僕の考えかな」

 

「尺を取りすぎだ。これ以上気取った言い回しを続けるのであれば貴様を花壇に植えるぞ」

 

「本当に申し訳ないな……勘弁して欲しい……」

 

「過保護は好かん。だが自立する前に潰れるような事がないよう導くのが先人である我々の役割だろう」

 

「まさにそれが言いたいんだよ。……いやほんとだって、そんな目で見ないで。いばらの道を行くのは結構だが見当違いの方向に突っ込まれるのは止めなきゃならない。……僕の目の届かない所でのトレーニングは辞めてくれるよう口を酸っぱくして言っているんだけど、やり方を変えないといけないらしいね」

 

 僕はトレーナー室の片隅に目をやった。釣られてエアグルーヴもそちらを見て、しばらくしてから僕のほうを向いた

 

 

「正気か?」

 

「手伝ってくれないかなエアグルーヴ。君が用意するのはほんの少しの狂気だけでいいから」

 

 

 溜息をつく彼女がそれでも折れてくれたのは、ダイワスカーレットの事をどうにかするのに効果があると彼女も理解してくれたからだろう。少なくとも、消灯時間後の無断外出だけは大至急辞めさせないといけないのだから

 

 

 

____________________________________

 

 

 

 

「……?」

 

 

 見られている。確かな気配を感じてスカーレットは立ち止まった。消灯時間に抜け出している身で堂々とグラウンドを走る訳にもいかず、校舎裏の木々に紛れるようにして設置された小さいコースで身体を動かすのが彼女の夜間トレーニングの定番メニューだった。いざと成れば視界を切るようにして寮に逃げるコースも想定してある。スカーレットは荒れた呼吸を無理に押し殺して様子を伺った

 

 

<ザザザ……>

 

 

 風が木を揺らす音が突然強まった気がする。その証拠に月明かりが突如雲に隠れ、辺りの闇がぐっと濃く深くなる。吹き抜けた風がスカーレットの汗ばんだ身体を冷やし、背筋にゾクゾクと寒気が駆け上がる

 

 

 途端に。全くもって突然に、昼間トレーナーが話していた話がふと脳裏に浮かび上がった

 

 

 

『トレセン学園は夢半ばで散ったウマ娘達の意志がいまだ残っている。

 

 

 彼女達はここを去る際、自らの後悔や怨念を置いて行ったんだ。レースへの未練を引きずらないようにね。そうしたものが積もり積もって、やがては意志を持ったなんて噂があるんだよ。

 

 まだ走れる、まだやれる。溜まった無念の塊が、自分を満たしてくれる者を探し求めているんだ。

 

 昼間こそ多くのウマ娘たちの熱い心に押されて中々出て来れないけど、みんなが寝静まった夜になるとどこからともなく現れて無人のグラウンドを駆けまわっているという。いやはや、もしも万が一彼女に捕まってしまうような事があれば___一体、どうなってしまうんだろうね?』

 

 

 がさり、と背後で草をかき分けるような音が鳴った。スカーレットは聞き間違えであってほしいと切に願ったが、ウマ娘の聴力は並みの人間のソレを上回る。もう1度音が鳴り、それは風で揺れるのとはまた違ったものであることが容易に理解できた

 

 

 振り向きたくない気持ちと確認しないと余計怖いという気持ちが心の中でせめぎ合う

 

 

「……」

 

 

 トレーナーのバカ話を信じた訳ではない。訳ではないが、彼女の胸の鼓動はトレーニング後だからというのを差し引いても上手く息ができない程に早まっていた。手を胸の前で祈るように握りしめながら、ダイワスカーレットはゆっくりと後ろを振り返った

 

 

 

 

 

「ポ」

 

 

「」

 

 

「ポオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

 

「きゃあああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 脱兎の如く、いやウサギも置いてけぼりにする速度でスカーレットは逃げ出した。

 

 茂みから現れたのは白くぼんやりとした光を纏った不気味な物体。何より恐ろしいのは、スカーレットの脚をもってしても全く振り切ることができないことだった

 

 

 奇声を発しながら追う白いモノ。逃げるスカーレット。その差は3バ身から2バ身へ。半泣きで逃げるスカーレットは無我夢中で木々の間をすり抜け、寮の窓を突き破るかのような勢いで自分の部屋へと転がり込んだ

 

 

「うぉ!!?なんっ……だスカーレットかよ脅かすなよ!」

 

 飛び起きたウオッカは騒がしいスカーレットに悪態の1つでもつこうかと思ったが、彼女の鬼気迫る様子に思わず口をつぐんだ

 

 

「ヒュー……ヒュー……」

 

「え、なにどうした!?見つかったのかよ!?」

 

「マド……ソト……ユウレイ……」

 

「は!?何、ゆーれー!?……外、誰もいねーみてぇだけど」

 

「ソウ……」

 

「おいおいとりあえず汗ふけって。水飲むか?」

 

「アリガト……」

 

 

 差し出されたタオルを受け取って髪を拭きながら、窓の外を伺うウオッカの背中にすり寄るようにしてスカーレットも外を見た。そこには先程と何一つ変わらない夜の学園が広がっていたが、スカーレットは得体のしれない恐怖を感じ取っていた

 

 

 ウオッカはウオッカで、強気が完全に鳴りを潜め何を尋ねても多くを語らない上に水を差しだした自分の手を掴んで無表情でもみもみと揉みだしたスカーレットのヤバそうな様子に当てられ段々と恐怖が湧き上がっていた

 

 

 

 2人は無言でカーテンを閉め、ベッドに入った

 

 

「……もう夜に外出んなよ」

 

「言われなくてもそうするわよ……」

 

「……おやすみ」

 

「……ん」

 

 

_________

 

 

 

「……うまくいったか。いや、うまくいったのか?これは上手くいったと言えるのか?下手をうったんじゃないか?」

 

「ナイスラン。流石のキレだねエアグルーヴ」

 

 

 白い布を放り出し困惑しながらも息を整えるのはエアグルーヴ。ねぎらう為冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出し、彼女へ差し出した

 

 

「ま、懲りたでしょう。悲鳴を上げるスカーレットは可愛かったし、奇声を上げるエアグルーヴも___ブフッ、可愛かったし」

 

「ふざけたことをぬかすなよ貴様!蒸し返すと本当に花壇に植えるぞ!くっ、乗せられてしまったが冷静になってみればもっとまともな方法があった筈……!」

 

 

 

 

 その後、白く光る何かが奇声を発しながら寮の傍の森を爆走する噂が学園中に広まる事となった。奇声とは別に悲鳴を上げていたウマ娘が居たが、その子は連れ去られただのなんだのと尾ひれがつきまくった

 

 

 噂を聞きつけたマンハッタンカフェがその正体を突き止めようと夜間外出の申請を生徒会に提出してエアグルーヴに拒否されたり、研究の必要があると喚くアグネスタキオンを連れて再び申請を通そうとしたマンハッタンカフェが生徒会室で小一時間ごねたりもした

 

 

 そのカフェとタキオンを落ち着かせる為に僕は仕方なくこっそり録画しておいた当時の様子を2人に見せて解決を図った。少しがっかりして去って行ったマンハッタンカフェは免れたが、爆笑するアグネスタキオンと僕はどこからか録画の存在を聞きつけたエアグルーヴに2人揃って花壇に植えられそうになった……のだが、まあそれはいつか話すことにするよ。いや全部話しちゃったけど

 

 

 

 




<投稿直前に気付いた今回の誤字シリーズ>

スカーレット→スイカーレット

ウォッカ→ウォッァ(そもそもウオッカをウォッカと書いてる事自体が間違いな事に投稿時は気づいてませんでした

エアグルーヴ→エアグルーブ


本当にすいませんでした。
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