プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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長い文章になりました。回復系スキルが無いと最後まで一気読みするのは難しいかもしれません。無理せずゆっくり読んでいてください。その間続きを全力で書かせていただきますので


右手に花を左手に酒を

 両手に花、とは別に腕の中に抱いていなくても成立する言葉だと思うし、即ち現時点で僕の状況をそのように表現したとしても嘘にはならないだろう。ただしその花は愛でるどころか鋭い棘で僕を刺すばかりだった

 

 

「ふむ、しかし今に限った話ではないかもしれないな。僕の周りにはいつも様々な美しい華が咲き乱れているけれど、刺されてばかりの気がするよ」

 

「聞いているんですか大和さん!いいですか、確かに体調不良であれば会議やイベントのお手伝い等を欠席されるのは構いません!ですが、『背中の張り』や『肘の違和感』等は適切な理由とは認められません!あなたプロ野球選手じゃないんですから!」

 

「傾聴ッ!君の在り方は認めている!トレセン学園の指導者として相応しくない等と言う気もない!ただ、しかし!もう少しこう……毅然とあっても罰は当たらんだろう!少なくとも私の扇子を借りていくのは見逃すとして、変な言葉を書いた扇子を紛れ込ませるのは言語道断だッ!うっかり大事な場面で披露してしまう所だったぞ!」

 

 

 変って言い方はやめてくれないだろうか。ネイチャが勝手に変に納得した顔で頷き出したし、ライスが顔を赤くして下を向いてしまった。誠に失礼な風評が蔓延する前に訂正したが、僕が用意したのは『有給』とか『早退』、『昼酒』あたりの汎用性も高くいいチョイスだと自負できる物ばかりだ。なんなら学園の購買部で市販してもらってもいいくらいだ

 

 

 

 などと言い訳を挟むと両者共更に畳みかけてくるので僕も参った。いくら僕が『芸術的聞き流し』のスキルを会得しているとはいえ、両側から流し込まれたお小言は僕の脳内でクラッシュして大渋滞を引き起こしている。このままでは僕の命は幾ばくかで尽きよう

 

 

 酒を飲みながら魅力的な女性に囲まれて賑やかに死ぬ、というのは男の目指すべき散り方の1つなのかもしれない。生憎、この間生きるべき希望と命題を見つけた僕には受け入れ難いものではあったが

 

 

「まま、理事長さん。どうぞどうぞ一息いれてくださいな」

 

「うむ!?では祝杯!ありがたく頂こう!」

 

 

 ネイチャが瓶の中身を理事長の空になっていたコップに注ぎ始めた事で瞬間の隙が産まれた。流石だ、実家のバーを度々手伝っている彼女が手慣れた接客術で理事長の気を引いている内に、僕はたづなさんの方へ向き直った

 

 

「たづなさん、たづなさん」

 

「そもそもですね……。あっはいなんですか?」

 

「麻婆豆腐、一口いかがですか?」

 

「えぇ?ま、麻婆豆腐ですか?いや、私は今お話を……あっ、美味しそうですね。では折角ですので1口だけ___ヒャッ」

 

 

 彼女は小さく悲鳴を上げた後、涙目で僕を一瞬睨みつけた後すさまじい速さで厨房の方へ走って行った。恐らくはお水なり牛乳なりを貰いに行ったのだろう。やれやれだ、これで1人。僕は再び反対側へ戻り理事長に同じようなやり取りを行う。そして当然の帰結であるが、理事長は『たづな~~~!』と叫びながら厨房の方向へ消えていく

 

 

 ネイチャにお礼を言った後、僕はヤブサメ亭特製の麻婆豆腐を一口食べて舌を焼き切らんばかりの辛さを最後のビールで流し込み、濃厚な旨味の後味を噛みしめた。最高の美味しさと最高の辛さが同居するこの芸術品は少々敷居の高い食べ物であった。

 

 

 

 

「最後は正義が勝つ、という言葉がある」

 

「ごめんなさいトレーナー。アタシ、アンタの事が正義にはとても見えないんだけど」

 

 

 当然の疑問を呈したスカーレットだったが、食べるかい?と僕が差し出した麻婆豆腐を恐怖と興味の混ざった目で数秒見つめた後、スプーンで1口分すくって、彼女の隣でライスと喋っていたウオッカの肩を叩いてこちらを向かせた

 

 

「ウオッカ、あーん」

 

「お?んだよスカーレット、恥ずかしいことすんなよな。あー……ンッ!!!!!?」

 

 

 素直に受け入れたウオッカが言葉にならない叫びと共に椅子から崩れ落ちた。スカーレットは納得したように頷くと僕の方に何事も無かったように向き直った。うん、話を続けようか

 

 

「ふむ。確かに正義を語るべきは彼女達だろうね。だから最後の最後に僕が断罪されるべきだという考え方を僕は受け入れてもいい。しかしだねスカーレット。最後の勝利を迎えるまで、正義である彼女達が何度も僕に泡を吹かされたとしてもおかしな話ではないだろう?」

 

「ふーん。じゃ、アンタをトレーナーに選んだアタシも悪って事になるのね。あーあ、残念だわ」

 

「よし、僕は今日から正義の味方だ。さ、そろそろ宴もお開きにしよう。悪が退散している内にね」

 

 

 自分の不手際で理事長達が悪にされた事にしまったと顔を青くするスカーレットと、涙を流しながら正気を取り戻し何が起きたのか困惑するウオッカを他所に、僕は手を叩いて皆の視線を集め祝勝会の終了予定時間が近い事を声高に告げた

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「「「ごちそうさまでした!!!」」」

 

「こちらこそ作り甲斐があったってもんだ。ウマ娘用のランチもやってるから、ぜひ足を運んでくれ。トレセン学園生徒は学割使えるからな!」

 

「ぜひ来させてもらいます!」

 

「ほんと美味しかったですー!」

 

 見送りに出て来てくれた店員達に、お腹いっぱいになったウマ娘達が元気にお礼を言った事で今日の祝勝会は幕を下ろす事になった。僕はウマ娘達の間をすり抜けるようにして、腕組みをして店の扉の横に立つ彼の下へ静かに近付いていく。接近に気付いた彼はにやりと笑って手を差し出し、僕は感謝の気持ちを込めてそれを力強く握り返した

 

 

 

「兄弟、今日はありがとう。無理を言って申し訳ない」

 

「これが俺の仕事だよ、ブラザー。んで今度は日本ダービーの祝勝会ってところか?」

 

「ああ、今から予約しておくよ。ついでに今日の報酬の追加を渡しておこうかな。事前に伝えていたより人数が多くなってしまったからね」

 

「おいおい、かまうことないんだぜブラザー。……おいおいおいコイツは!」

 

「この間、スカイ達の世代の特集番組があっただろう?あの時放送では使われなかった没シーンを編集してまとめたものだ。授業中にうとうとしちゃったグラスワンダーとか、思いっきり自己紹介で噛むキングヘイローとかは最高だよ。ああ、君ならば心配ないとは思うが、くれぐれも露出させないようにね」

 

「次の祝勝会の分まで支払ってもらったようなもんだ!大事に見させてもらうぜ、ありがとよ!」

 

 

 嬉しそうに店へと戻っていく彼を見送って、僕も自分の帰るべき所へ帰る事にした。彼には彼の戦場が、僕には僕の立つべき場がある。勝利に酔いしれる時間は終わり、また次の挑戦が始まるのだ。ウマ娘達の挑戦は終わらない

 

 

 

___次回!超銀河ウマ娘列伝!!『ダイワスカーレットターフに立つ!』来週も、うまだっちだ!!!

 

 

「___トレーナー?トレーナーったら。聞いてるの?」

 

「ああ、大丈夫だよスカーレット。少し現実逃避に夢中でね」

 

「大丈夫じゃないみたいね……」

 

「放っておけ。トレーナー、スカーレット達は私が責任を持って学園まで戻す。だから安心してかまわん」

 

「何を言うんだいエアグルーヴ。既に夜も遅い。大人である僕が付き添わずして何とするんだ?」

 

「立派な責任感だな。だが不要だ。まだ9時にもなっておらんし、大丸リーダーが引率してくださる。だから貴様は諦めて接待をして来い」

 

「なんだって?」

 

 

 置いて行く気か?僕を1人で?付き添って欲しいのは僕も同じなんだが。キビキビと指揮を執るエアグルーヴを筆頭にしてウマ娘達がぞろぞろと学園への道を辿り始める。しんがりを務める大丸さんがすまんな、と手を振って去っていき、遂に僕と秋川理事長とたづなさんはぽつんと夜の街に取り残された

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

「あの、エアグルーヴさんってトレ……大和トレーナーとどういう関係だったんですか?」

 

「なんだスカーレット。気になるか?」

 

「は、はい。少し……」

 

 

 少し冷ややかな夜の風は火照った身体には心地よい。祭りの浮かれ気分が残っているダイワスカーレットは、少し失礼かもしれないと思いながら個人的な事情に関する質問に踏み切った。

 

 『女帝』と評されるエアグルーヴはスカーレットが目標とするトリプルティアラの内の2冠を制覇した文句無しの実力者であり、怪物ひしめくトレセン学園高等部でもトップに近い実力者として名を馳せている

 

 

 何より有名な話として、彼女は専属トレーナーを持たずしてトゥインクルシリーズを駆け抜けた事だ。全てのGⅠウマ娘が専属トレーナーを持つ訳ではないにせよ、非常に珍しい存在である事は確かだった

 

 

 生徒会副会長として後輩の指導に尽力する彼女には、スカーレットも入学当初から何度もお世話になっている。……夜間の無断練習の件はあまり思い出したくないが、その際も大事にならないよう心を砕いてもらった。大恩ある先輩でもある彼女と自らのトレーナーとの関係はどうしても気になってしまう問題だったのだ

 

 

「確かに気になるっすね。大和トレーナーって自分の事は『サブトレーナー』って呼ばせたがるじゃないっすか」

 

「そうだな」

 

 

 ……。え、終わり?スカーレットとウオッカは顔を見合わせた。先を歩くエアグルーヴは何も語らず黙々と歩き続ける。少しの沈黙を破り、もう一度スカーレットが恐る恐る声をかける

 

 

「あのぉ……エアグルーヴ先輩」

 

「深く聞くな。奴がいない所で話すとねちねち文句を言われかねん。だから多くは言えないが……アイツはかつて私のトレーナーだった。しかしそうではなくなり、その後私はトレーナーを持つことはなかった。ただこれだけの話だ」

 

 

 普段は厳しく隙の無い表情を崩すことの無い彼女が、穏やかで柔らかな、肩の力が抜けた笑顔を浮かべていた。しかしそんな自分の顔をぼけっと見て来る後輩2人を見て我に返り、ごほんと咳払いをして再び歩き出した

 

 

「え、え!それって……」

 

「よし、そろそろ学園だな。話は終わりだ」

 

「エアグルーヴ先輩、ここまで引っ張っといて終わりってのは無いっすよ!」

 

「ええいウオッカまとわりつくな!少しだけと言っただろうが!」

 

「お願いします!お願いします!」

 

「スカーレットお前もか!よせ……よさんか!コラお前達!ええい、ライス!ライスシャワー!手を貸せ!」

 

「は、はいぃ~!」

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

「美味!うむうむ、たまには羽目を外すのも悪くないッ!」

 

「理事長、ほどほどにお願いしますよ?」

 

「勿論!たづな、お前も飲め飲め!」

 

 

 元気な2人だ。僕は手の中でグラスを転がしながらぽわぽわした頭でそう思った。まあそれも当たり前だろう、2人が宴会に参加したのは最後の最後だし、一方で僕はもう帰るつもりで飛ばして飲んでいた。引きずられて連れて来られたが、正直あと飲めて1杯か2杯か。……いやもうちょっといけるかな?わかんなくなってきたな

 

 

「大和さん。最近の頑張りは聞こえてきています。ですが、キチンと呼び出しには応じていただかないと困りますよ。何も咎める為だけの呼び出しという訳でもないんですから」

 

「そうは言うがねたづなさん。僕が生徒会室やら理事長室やら、呼び出された時に褒められた事が一度でもあったかな?」

 

 

 彼女は指を顎先に当てて少し悩むそぶりを見せた後、小さく目を伏せて黙り込んでしまった。少々気まずい空気が流れたが、理事長が咳ばらいをして話し始めた事で少し気が紛れた。まあ碌な話題では無かったのだが

 

 

「興味!君程の男に火が付いた切欠となったあの子達、いかほどのものか。そしてそれに賭ける君の情熱ッ!今一度君の口から聞きたい!」

 

「理事長、それは好意的な質問ですか?それともやっぱり怒られるのでしょうか」

 

「勘違いして欲しくはないぞ!エアグルーヴの一件以降君が日陰者に拘ったこと自体は、私は咎める気はない!ただ再び日の下に出て来るというのならば、その想いを確かめたくなる私の気持ちも理解して欲しい!あと学園では無いのだ、話しにくければ敬語は止めてもらってかまわん!」

 

「では失礼して、砕けて喋らせてもらおうかな。ふむ、思いの丈を語れときたか。確かにこれまで、僕は彼女達の邪魔をしない事だけを考えてのらりくらりとやってきた訳だが___ああ、違う違う。確かに悪戯とかちょっかいはかけたけれど、なんていうかそういうのではなくて。あれだ、トレーナーとしてどうこうと言う話だ。」

 

 

 彼女達の非難を手で払うようにして僕はもう一度話し出した

 

「あくまで僕は、彼女達にとって都合よく寄り添い飴を差し出すだけの役割に徹していた。それしかできないとも言えるし、そうする事でしか彼女達の役に立てる自信が無かった。それっぽく言うならばこうだろうか。僕としては楽に楽に、好き勝手振る舞っていただけの事だが」

 

「フクキタルさんは……」

 

「あの子だって違わないさ。ただあの日神社に居たのが僕で、彼女が選んだのが僕だった、それだけの事。ライスも、タイシンも。タキオンだってそうだ、彼女達の邪魔をしなかった事が僕最大の功績と言えるでしょう。現に僕が出張ったばかりにエアグルーヴはトリプルティアラの栄光を手にする事が出来なかった訳だからね。……ああ、この事についての議論は置いておくとして」

 

 お2人が口を開こうとしたので僕は両手を上げて降参のポーズを取った。不満そうではあるが意見を取り下げてくれた2人に感謝を伝えつつ言葉を紡いだ

 

「だから僕の行いが滑稽だと思えるでしょう。しかし、それでも思ったのです。僕であればできるなどと高慢ちきな思考でもなく、僕がやらなくてはならないといった必然性に駆られてでも無く。そうしたいからそうする。彼女達と共に夢を見たいのです。僕は心の底からそう思ったのです」

 

 

「感服。であれば、やり遂げたまえ。私はそれに期待する」

 

 

 にこりと笑う彼女の言葉は僕の胸に染み込んだ。心からの期待と、応援を感じる。僕は深く頭を下げるしかなかった。彼女はやはり、この学園全てのウマ娘を統べるに相応しい豪傑であったのだ

 

 

「それじゃあそろそろ___」

 

「うむ!説教!続きを始めようか!」

 

 ……やれやれだった。明けない夜は無い、という言葉は嘘なんじゃないかと思えるほどに辛く厳しい一夜となったのだが、文字数と僕の僅かばかりのプライドの関係上ここまでとさせて頂く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いやほんと長い本文になりました。誤字があるかもしれませんね。みんなわかったかな!?僕にはわかりませんでした。多分大丈夫なんじゃないでしょうかね


次回はエアグルーヴさんの回なのか!?どうなんだミキリハッシャマン!ミキリハッシャマンどうなんだ!??
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