プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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ミキリハッシャマンどうしたことか!レース中だというのに控室へ戻っていきます!


今日は酷い雨ですからね。彼女は濡れるのがとにかく嫌いですから


これではいけません!なにがいけないって、後続もみんな彼女に続いて控室へ戻っていきます!あーっとそしてターフには誰もいなくなったぁ!どうすればいいんでしょうか我々は!!


そうですねぇ。どうすればいいかは解りませんが、ここに私のおすすめの日本酒が一瓶あるのですが


正解が見つかりました!それではみなさん、雨が止むまで一息入れるとしましょうか!



青空は灰色に覆われた

 日本一。大層凄い言葉だ。でも陳腐なものでもある。「いよっ!日本一!」なんて、冗談交じりに囃し立てるのに使われてしまう程だ。そもそも世界一じゃなくて小さな島国での一番を目指すなんて大したことないんじゃないのか?意識が低いんじゃないか?なんて偉そうな目線で冷ややかに意見を飛ばしてくれる人もいる。しかし、この言葉が本来持つ重みを真に考えれば、まったくもって壮大な目標である事に違いはないのだ

 

 

 

「最強のウマ娘。それを名乗る方法はいくつかある。しかし日本一のウマ娘を名乗りたければ避けては通れないだろう。日本ダービーだ___成程ね、かっこいい見出しだ。今度ウオッカの前でいかにも僕が考えた言葉っぽく言えば、きっといいリアクションしてくれるだろうね」

 

 

 5月。早めの梅雨の兆しを感じさせるような、いつ雨が降り出すか心配になってしまう重たい曇り空の下、僕は大きな音を耳にして読んでいた雑誌から顔を上げた。音の正体は模擬レースの開始を告げたナリタタイシンの叫び声だった

 

 

「それそれっ!」

 

「えーいっ!」

 

 

 逃げるセイウンスカイを可愛らしい掛け声と共に追い立てているのはナイスネイチャとライスシャワー。2人はスカイの2400m仮想ダービーを走る練習に付き合ってくれている。可愛らしい掛け声に似合わず2人が放つプレッシャーは半端ではない。遠目に見守っている僕ですら少し背筋にジリジリとした熱を感じるのだ、スカイが耳を後ろに倒しながら苦しそうに走るのも無理はないだろう

 

 

 その迫力を浴びて、ふと随分前にライスシャワーに半日近く追い回された時の事を思い出しそうになったが……まあそういった怖い記憶は精神的安寧を保つ為にも触れないに限る。記憶の底に封じ込めるために、僕は再び雑誌に目を落とした。〈週刊・それなりロマンチック〉では日本ダービーについての特集が組まれていた

 

 

『セイウンスカイ二冠達成なるか!世代を牽引する逃げウマ娘の素顔に迫る!』

 

『グラスワンダーが静かに語る勝利への熱き想い!1時間正座で聞かされました!』

 

『エルコンドルパサー魂の特訓!ほんとにそのプロレス技は速さに繋がるのか!?』

 

『キングヘイロー、今日も元気に高笑い!喉を傷めない腹式呼吸を活かした笑い方!』

 

『食事中のスペシャルウィークに突撃インタビュー!「ふへへへはひふほへほん!」との事!』

 

 

 どう考えてもスペシャルウィークのインタビューに関しては突撃し直すべきだと僕は思うし、キングに関しては最早日本ダービーについて聞いてすらいない。まあきっと締め切りが近かったんだろう。忙しいと誰だって仕事が雑になるのはしょうがないからね

 

 実際普段からこういう適当な雑誌なのだが、僕はこの雑誌がマジで好きだった。何より小難しい話が殆ど書いてない勢いだけの記事が多いのがいい。それに雑誌の後半になると美味しい料理店とお酒の話へとメインがすり替わるのも最高だった。それに表紙だけは毎回いかにも真面目な雑誌ですみたいな雰囲気で作られているし、仕事中に堂々と読んでいても怒られる事はない

 

 

「ちょっと大和サブ。真面目にやんなよ」

 

 

 ……怒られる事はない。横から矢のように突き刺さる視線に気づかないフリをしてページを一枚めくった。へぇ、5月は苺が旬なんだってさ、タイシン

 

 

「怒ってんだけど」

 

「それは気付けなかった」

 

 

 横から覗き込んできていたナリタタイシンが雑誌をひったくってパラパラとめくり、つまらなそうに放り捨てようとして……とあるページに目を止めた。食い入るように見つめていたのは学園から少し離れた所にあるお店のいちごパフェの特集記事だった。少しの間悩む素振りを見せた後に小さく頷くと、彼女はこちらに鋭い視線を戻して来た

 

 

「口止め」

 

「やれやれだ。ダービーの後でいいかな?今はそっちに集中したいんだ」

 

「どの口で言ってんだか。んで、スカイどうなの?アンタから見て」

 

「良い走りだと思うよ」

 

「そ。んじゃもう一回聞くけど。……勝てると思うの?」

 

 

 厳しい意見だった。しかし、今行われた模擬レースでスカイが3着に終わったから浮かんできた意見という訳ではないのだろう。タイシンは別の所を見ている。実際、ナイスネイチャは怪我明けとはいえスカイより1年先輩だし、ライスシャワーはいうまでも無い。セイウンスカイの仮想敵としては少々レベルが高いのを承知しての模擬レースだ。ここで勝てない事自体に大きな問題は無いだろう

 

 

「ふぅー。やっぱダメダメだね」

 

「セイちゃん。あー……もう一本いっとこっか!アタシもまだまだやれるしさ!」

 

「う、うん。ライスも元気だよっ。だから……」

 

「ん、ぜひぜひ。……あー、ちょっと待って下さいな。大和さんが呼んでるや」

 

 

 僕が手を振ったのを見て、ひらひらと手を振り返しながらこちらに歩いてきたスカイが横に座る。僕が差し出したペットボトルを受け取っても飲もうともせず、うなだれたままだ。僕は彼女の頭にタオルをかけてやり、彼女が息を整えるのをしばし待った

 

 

「あー……私どうかな?」

 

「調子が悪そうには見えないね」

 

「んー。でも絶好調に見える?」

 

 

 へらっと笑う彼女の流す汗が滴り、地面に小さな黒いシミを作る。僕は見ただけで彼女の調子の全てを見抜ける訳ではないが、今の彼女の走りがセイウンスカイのベストではない事だけは流石に理解できているし、それに対して彼女が少し憤っているのもよく解ってはいた

 

 

「だとしても今日はここまでだ、スカイ」

 

「えぇー……。ねね、やっぱもう一回だけ走ってきていい?」

 

「やる気があるのは良い事だね。ただしメニュー外の練習を見過ごすと僕が死ぬ程怒られるんだ。」

 

「不安なんだもん」

 

「解ってるさ」

 

 

 ぶー垂れて頭を抱える彼女の気持ちは解る。蚊帳の外、見ているだけの僕だってそうなんだ。実際立ち向かう彼女の気持ちを推し量るのは難しくない。できる事は全てやった、なんて満足するのは簡単じゃない。しかしこれ以上は自分を傷つけるだけだという事も解ってもらわないといけない

 

 

「目標レースに常にベストコンディションで挑むというのは本当に難しいんだ。ここで無理をして怪我でもしたら本末転倒だよ。こういう時こそ休まないと」

 

「んー。解っちゃいるんだけど。……勝ちたいと思っちゃうとついねぇ。あわよくば三冠、なんて。ああー、狙えちゃうってのもこれまたキツイや」

 

 

 のびのび気楽に走りたい、という気持ちを上回る勝利への渇望。その辺りを上手に整理できないのか、本番直前にして少々もやもやしているのが走りにも若干の影響を見せていた。前回の激闘が彼女の中に新たな価値観を生み出した今、意識するなというのも無理がある

 

 

 やはり同世代間でピリピリと緊張感が漂ってしまっているのも問題に拍車をかけているのだろう。マイペースで呑気なセイウンスカイは決して鈍感な訳では無くむしろ周囲の変化には目ざとい。周囲の入れ込み具合が彼女を焦らせ、それがマイナス気味に働いている……のかもしれない。いや解らないけど

 

 

 セイウンスカイの奔放性は魅力だ。風が吹く方へ流されて、その場その場を気楽に過ごせる雲のような心を持っている。勝利という明確な欲が彼女の奔放さを抑え込んでしまっていることが苦しみの原因なのかもしれない。……いや解らないけど。僕には解らないことばかりだった。実際これが当たっていたとして、それじゃあどうするのが正解だと言う話になってしまう

 

 

 この辺はグラスワンダー、エルコンドルパサー辺りはキチっと割り切れているようだ。勝負は勝負、友人であってライバル同士。ターフの内と外で自分をすぐに切り替えている。キングヘイローは己が目指す理想が高い事もあり、レースという舞台で強者と競い合う事を真摯に楽しんでいる面もある。むしろこういった緊張感は彼女に追い風だろう

 

 

 逆に、友達思いで甘えたがりな所のあるスペシャルウィーク。彼女のトレーナーも難儀しているらしいが、1つの席をみんなで奪い合うという事に未だ少し躊躇いがあるとの事だった。それでも皐月賞での敗北が吹っ切れる切欠になったようで、モチベーションは多少改善しているらしい

 

 

 

「ふーむ。そうだね。君はこれまで、同期達の背中を追う立場だった。それが逆になったことも君を焦らせる原因なのかもしれないね。となれば、その立場にかつていた者の話を聞いてみるのもいいだろう。つまりはダービーの勝利者に会いに行こうと言う話だ。こういう時は積み重ねた実績から来る言葉こそがすとんと腑に落ちるものだからね」

 

「ふーむ!そういう事なら、クラシック3冠を達成した最強無敵のテイオー様に聞いてみるといいのではないかな!」

 

 

 おかしな声が聞こえて来た。振り返らなくても解る。きっと彼女は腕を組んでどや顔しているんだろう。僕はわざとらしくすっとぼけたように辺りを見渡すフリをした後、再び話を続けた

 

 

「ダービーと言えばウイニングチケット、うんお約束だね。タイシン、彼女は?」

 

「チケットならいないよ。遠征行ってる。多分当日は見に来るんだろうけど」

 

「え、無視かな?テイオー様の事を無視しちゃってるのかな?それか聞こえてないの?おーい!ねぇねぇ!」

 

 

 聞こえてはいるさ。君の声はよく通るからね。僕は振り返って彼女に愛想笑いしながら手を振って、再び前を向いて話を続けた

 

 

「当日に話を聞いてもしょうがないね。ああそうだ、ミホノブルボンなんかに聞いてみるといいかもしれない。彼女はダービーを取っているしね。やあライス、彼女は今日学園にいるかな?」

 

「う、うん。お兄様、ブルボンさんなら……。あ、ごめんなさい!ブルボンさん、今日は出かけるって言ってたかも……でもちょっと聞いてみるね」

 

「ふーむ残念だ」

 

「えぇー!うそでしょいまこっち向いて手振ったじゃん!あそこからスルーされるなんて思わなかったよ!なんでなんでぇ!?」

 

「スルーした訳じゃないさ、トウカイテイオー。少し風が強くて、ほら聞こえなくてね。それはそうと君、いいアドバイスなんてできるのかい?」

 

 

 両手を振り回してんもーっ!とぷんすか怒っている前回の3冠ウマ娘、トウカイテイオー。僕がからかうように疑わし気な目を向けると、途端に気を取り直して胸を張った

 

 

「ふふーん!この最強無敵3冠……ええっと完全無欠……ああもういいや、このテイオー様直々にお話を聞けることを光栄に思うのだ!」

 

 

 なんだろうな。この散々アピールしてくる所が引っ込んでくれたら素直に賞賛してあげたいんだけど、僕は何分天邪鬼な所があるので(あと僕の事をおじさん呼ばわりしてくるので)ついつい雑にからかいたくなってしまう。まあそれはそうと確かに彼女は昨年のダービーの覇者だ。何か次に繋がる話が聞けるかもしれない。姿勢を正した僕達に対して彼女は厳かに告げた

 

 

 

「日本ダービーはね……。凄いウマ娘が、勝つんだよ」

 

 

 なんか言い出したぞこの子

 

 

「つまり、凄くなれば勝てるんだよ……!」

 

 

 僕はタイシンの腕をそっと抑えた。彼女はなんとか拳骨をおさめてくれた

 

 

「あの、テイオーちゃん……。それって、運がいいウマ娘が勝つ、ってやつじゃないのかな?」

 

「そうともいうかも」

 

 

 トウカイテイオーは悪びれなく言ってのけた。ライスがえぇ……と困惑した声を出してしまうのも無理は無いだろう。僕も少し頭を抱えたくなった

 

 

 皐月賞は最も速いウマ娘が、日本ダービーは最も運が良いウマ娘が、菊花賞は最も強いウマ娘が勝つ。クラシック3冠レースの時期になれば耳にタコができる程聞かされる決まり文句だ。仰々しく正座していたセイウンスカイが完全にやる気を失い足を崩してお茶を飲みだしたのも無理はないだろう

 

 

「……あ、お兄様。ブルボンさんがね、もうちょっとで学園に戻ってくるって言ってくれてるよ」

 

「ほう、そうなのか。それじゃあ皆、チームハウスに戻って着替えて待っていてくれ。僕はブルボンを招待してくるから」

 

「あーっ!待ってよ、次は真面目に喋るからぁ!」

 

「やれやれ。それならばテイオー、君も是非一緒に来てくれないか。今度は真面目な話を聞かせてもらいたいね」

 

 

 

 お任せ―!と胸を張る彼女がみんなと一緒にチームハウスの方へ歩いて行くのを見届けて、僕は学園の入り口へ足を向ける事にした

 

 

 

 

 

 




梅雨・・・!梅雨の湿度で心が湿気る!


雨が降ったら仕事へのやる気が下がります。普段から0に近いので、マイナスに振れます


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