一個上・セイウンスカイ、スペ
更に一個上・ネイチャ、テイオー
その上・高等部(学年設定はふわふわ)なのですわ
解りにくくて申し訳ございませんわね。この作品内ではそういう設定なのです。ご容赦いただけるかしら
「大和おじさーん!ボク、はちみつのヤツね!!」
「ふむ。今日に関しては偶然、貰い物のゆずはちみつがあるね。それでいいかな?」
チームハウスのソファーにいの一番に座る遠慮の無いテイオーから、更に遠慮の無い注文が飛ぶ。構わないのだけれど、一応お客さんなのだからその自覚を持って欲しいものだ。まあ彼女も誰にだって遠慮無しの礼儀知らずな訳では無い。この態度も信頼の証なのだとしたら、まあ嬉しいと言えなくもない……のかもしれない。うん
「偶然ー?そんな事言っていつも用意してくれてるじゃん」
「偶然さ。でもちゃんとお礼を言ってくれないのなら、次からは偶然はちみつドリンクの買い置きがあったとしても君にはブラックコーヒーしか出さないようにしようかな」
「んもーちゃんと感謝してるってばぁ!ありがとうございまーす!」
「やれやれだ。皆もどうかな?用意するよ」
貰いまーす、と元気な返事が返ってくる。お湯を沸かそうと併設されたキッチンへ足を運べば、すぐさまネイチャが飛んできてくれる
「ほいほい、手伝いまっせ」
「毎度助かるよネイチャ」
不器用な僕が張り切るより彼女に任せた方が早いんじゃないかって気もする。それでも椅子に座ってふんぞり返るのも気が悪いんだ。トレーニングを終えて合流したスカーレットとウオッカの分も合わせて8人分。ん、違う、9人分の用意を済ませてテーブルに運ぶ。ここまで人が……いやウマ娘が集まると話も随分盛り上がってしまい、本題に入るのに少々時間がかかってしまった。だけどその雑談の様子は省略させてもらうとして
今回一番大切なのはミホノブルボンとトウカイテイオーのお話だ。あとゆずはちみつが美味しいかどうかだ。ジャムのような黄色い液体をお湯で割って飲むと、トレーニング後で疲れた体に優しい甘さと程よい酸味の爽やかさがよく染み渡った
「アンタは別に疲れてないんじゃないの」
……タイシンの厳しい意見は少し横に置いておくとして、まあ疲れてなくてもこれだけ美味しく感じるんだ。疲れている皆はさぞ楽しめるだろう
「あ、美味しい。ね、トレーナー。これまだ買い置きあるのかしら?」
「ああ。いくつかあるから1つ差し上げるよスカーレット」
スカーレットは気に入ってくれたようだった。たくさんある黄色い瓶から1つを手に取って彼女に差し出すと、嬉しそうにお礼を言ってくれた。一息ついた所で皆の視線がテイオーと、それから飛び入りゲストのミホノブルボンに集まる。ああ、彼女は初登場なので簡単に紹介しよう
常人ならぬ常ウマ娘ならすぐに音を上げてしまうような過酷なトレーニングを鉄面皮とも言えるポーカーフェイスを崩すことなく正確無比に実行するストイックな姿から『サイボーグ』だとか『ターミネーター』だとか言われている
勘違いしないで欲しいが、確かに彼女の身体は圧倒的努力によってもたらされた鋼のような筋肉で覆われている(一緒にお風呂に入った事がある子から聞いた話であって僕が見た事はない)が、それは至高の彫刻像のような美しさを備えており彼女に惹かれるファンはとても多い。ようはとても可愛らしい女の子である事は間違いない
短距離しか走れないという前評判を裏切って皐月賞、日本ダービーを1着で制覇し、三冠ウマ娘に王手をかけた実績を誇る。現在も大舞台で活躍する素晴らしきウマ娘だ
「大和サブトレーナー。ミッション内容を確認致します。セイウンスカイの抱える問題の解決の為に、私の日本ダービー挑戦時の思考を語れば良い、という事ですね」
「そうだね。君の経験則を聞きたいんだ」
勿論、日本ダービーに必勝法があれば教えてくれてもいいんだよ?と言ったが彼女はニコリともせずそれは出来ませんとあしらってから話を始めた
「ですがあの頃の私は、3冠達成という目標に向けて無心でフローを進めるだけの存在でした。私自身がレースに対し行った修正記録を語る事は出来ても、それが彼女が抱える心理的エラーの解決に貢献できるとは思えません」
独特な物言いでキビキビと意見を言う彼女だが、出来る限り協力してくれようとしているのは解る。彼女は意外と面倒見がいい。カップを両手で持って少々視線を上にして思考を巡らせた後、スカイの方に顔を向け直して話を再開した
「それでも……あえて言語化するのであれば、私が日本ダービーに勝利できたのは完璧な計算と自信があったからだと言えるでしょう。マスターの指導の下で身に着けた力をミスなく実行できれば、必ず勝利できる。そのような揺るぎない確信が勝利に繋がったと確信しています。……ライバルの存在により、このポイントが揺らいでしまったから私は菊花賞で敗北を喫する事となりました。ですので、セイウンスカイの感じるプレッシャーには共感できる点があります」
ミホノブルボンの視線がすっと動き、ライスシャワーの方を向く。ライスはきょとんとした顔で自分の後ろを振り返り、左右を見て、それから首を傾げながら僕の方を向いた。いやまあ君の話だと思うんだけど。改めて指摘するのもアレなので、ブルボンの話の先を促した
「自らの勝利への渇望と同時に、しかし友人の勝利も願っている。勝利して得た快感と、あなたに敗北した者達の悲しみを同時に感じた事でエラーが生じているのでしょうか?」
「んー。そんな感じですね」
「成程……ステータス『友情』を確認しました。セイウンスカイ、心配はいりません。それはレースによって壊れる事はありません。これは実証済みです」
彼女は真顔で___いや、彼女の真顔を見慣れた者であれば解るが、ほんの少しだけ微笑んでそう言った。ブルボンが何故自分の方を向きながら話しているのかをようやく悟ったライスが少し顔を赤くして下を向く。確かにブルボンが歩んできた激動の軌跡を知っている者からすれば、その言葉の信頼性を感じ取る事が出来るだろう
「私が言いたい事を纏めます。セイウンスカイ、貴女は何も恐れる事無く、友人と全力を尽くして1着の座を競うべきなのです。そこに居る彼の言葉を借りるなら___それこそが最も友人に対し敬意を払う行為なのです」
彼女がこちらを見ながらそんな事を言ったが、生憎僕はゆずはちみつを堪能するのに夢中だった。うん、美味しい。確か焼酎にはちみつを入れる飲み方があったな。焼酎のお湯割りでゆずはちみつを薄めてみるといいかもしれない。まだ夜は少し肌寒い時もあるからきっと楽しめるだろう
「___不適切な思考の気配を検知しました。大和サブトレーナー、今は勤務中の筈です」
「ブルボン。確か前にも言ったような気がするが……僕が余計な事を考えているのに気づいても、それに触れないのが大人のコミュニケーションというものなんだよ?」
「マスターから大和サブトレーナーが勤務時間中に業務に関係のない思考をしている時は必ず追及しろと指示を受けています。これに関して妥協はできません」
「ふむ……ブルボン、はちみつティーのおかわりはどうだい?お菓子もあるけれど」
「頂きます。ワイロを受け取りましたので、追及を終了します。これが大人のコミュニケーション、という事で合っているでしょうか?」
「君に変な事を教え過ぎたかな……。テイオー、頼めるかな。次は君の話を聞かせて欲しい」
ぐでんとソファーに寝転んで完全に聴衆の1人として満喫していた彼女に視線が集中する。待ちくたびれたよと言わんばかりににやっと笑って姿勢を正し、わざとらしい咳払いを1つ
「ボクはそうだなぁ。勝つ為の心構えを語ってあげようかな」
注目を集めるのには慣れっこのトウカイテイオーは非常に楽しそうに、それでいて落ち着いて語り出した
「ミホノブルボンの言った事ってさ、勝ちたいって気持ちが折れたらダメだよって事だよね?僕も大体おんなじ意見かなぁ。ただ、自分が最強である……その証明の為に走って、それで勝つ。それだけに集中すればいいんだよ。簡単だよ、こんなの」
凛とした声がチームハウスを静まり返らせた。彼女の可愛らしい丸い目は、頂点に立つ者だけが持つ鋭い威光を確かに帯びていた。三冠ウマ娘の称号を得るチャンスは生涯に一度しかない。やり直しは効かない。天才達だけが集まる芝の上で、3度勝利の女神を射止める事がどれだけ難しいのかは歴史が語っている
「別に何かを切り捨てるんじゃない。自分がこれまで培った全部を1つに束ねて、一点に絞る。全部が力になるんだよ。コレ、ボクのトレーナーが言ってたんだけどさ。色々考えるのがめんどーなボクにとっては凄い解りやすい考え方なんだよね!」
『1度目は皆が奇跡だと笑った。2度目で皆が言葉を失った。3度目で皆が跪いた。彼女は3度勝利する事で、自身が偽りなく帝王であるという事を愚かな我々でも理解できるよう証明してくれたのだ』
彼女が三つの王冠を被った時にとあるコメンテーターがそんな言葉を残した。大げさな文言だが、誰もがそれを肯定した。スカーレットとウオッカが息を呑んだのが解る。まあそうだろう、先程まではちみつをぺろぺろしていたお子様が急に真面目な雰囲気出し始めたんだから___申し訳ないテイオー、褒めてるんだよ。はいはい凄い凄い。……そう、彼女にはまだ幼さが残る。だからこそみな夢を見るのだ
トウカイテイオーが、果たしてどこまで大きな存在になるのか。確かにそれは他ならぬ僕としても楽しみの1つにさせてもらっているのだ。まあ、直接言うと無限に調子に乗るだろうからもう少し大きくなるまで言わないようにはしているけれど
「ねぇねぇ大和おじさん!ボクちゃんと喋ったでしょ?ほらー褒めていいんだよ!ほら!」
「スカーレット、ウオッカ。彼女の走りに対しての考え方と実力だけはとことん真似してもいいけれど、それ以外は基本聞き流すようにね」
「ぬわぁぁぁぁ!!なんでそんな事言うのさぁ!もういいよ、またおじさんにいじめられたってカイチョーに言いつけてやるからね!」
「冗談だよ。軽いジョークだ。だから生徒会長殿を勘違いさせるような告げ口は止めてくれないかな。いやほんとにやめて欲しい。謝るからさ」
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「どうだいスカイ。少しはスッキリしたかな」
「んー。ま、どうだろね」
まだ少し緊張や迷いは残っているのかもしれないが、それでもセイウンスカイはへらっと笑ってくれた。うん、何よりだ。彼女には楽しそうに走ってもらいたいからね。いい時間になったので皆はチームハウスを出て寮へと戻る事になった。僕はお喋りをしながら団子になって歩く彼女達の最後尾として付き添い、のんびりと夕陽を眺めながら前から流れて来る何気ない会話に耳を澄ませる
「ねえねえセイウンスカイ。もう聞きたいことないのー?今なら特別サービスでもう1個くらい答えてあげてもいいよ!」
「んー。それじゃあ、お2人はレース前はどうやって調子を上げてるんですか?」
「それはルーティンについての質問でしょうか。そうですね、私はこれと言って明確な手順を用意していません。食事や睡眠時間等、できるだけ普段と違う事をしない、というのが私にとってのルーティンとも言えるでしょうか」
「普段通りが一番ってヤツだね。それもカッコイイよねー。ん……ボクはそうだなぁ。あ、美味しいもの食べるかな!おっきなレースの前になるとさ。トレーナーがね、なんか食べたいの無いか?って聞いて来るんだよねー。その時だけはどんな我儘も聞いてくれるんだー」
「へぇー……。ねえねえ大和さん。わたし、お寿司食べたいなぁ」
セイウンスカイは集団からすっと離れて後方でのんびりと歩く僕にすり寄ると、にやにや笑いながら耳打ちするように囁いた
「奇遇だねスカイ。確かに僕も食べたいよ。……ただ、ほら。ダービーが終わったらにしないかい?」
「ふーん。そうなんだ。あー……食べたいなぁー。いやいや、無理にとは言いませんけどね」
「ふーむ。……お寿司を食べたら調子は良くなりそうかい?」
「元気もりもり絶好調になると思います。はい」
「そう言われると身を切りたくなるのがサブトレーナーの性というものだね。……誰にも気付かれないように出かける準備をしておいで。1時間後に正門前で集合だ。いいかい?誰にも気付かれないようにだよ」
「んふー。了解であります」
くすくすと笑いながら小走りで離れて行くセイウンスカイを見送りながら、僕はポケットからスマートフォンを取り出す。折角だから予約しておいた方がいいだろう、なんて思いつつふと横を向くとミホノブルボンが感情の読めない無表情でこちらをじぃっと見つめて来ていた。まあ薄々言いたい事は解るが……それよりいつのまに横にいたのだろうか
「大和サブトレーナー。今回の件に関しての見返りを所望します」
「うーん。君本当に遠慮しなくなったね。解ったよブルボン、君も誰にも気づかれないように……」
「おじさーん!おじさんおじさんおじさーん!!聞いちゃったんだけどぉ、まさかボクを置いてくなんて事ないよね?ね?」
「……テイオー。解ったから少し声を抑えてくれないか。もし全員を連れて行くような事になったら100円寿司で我慢してもらう事になるんだ。僕の財布は無限ではないんだよ?」
「という事はお高いおさかな……!?ウン、オッケーダヨ」
口に両手を当てて神妙に頷く彼女が明らかに挙動不審な態度で前の集団の方へ戻っていく。本当は全員連れていってあげたいが、ここ最近浪費が激しいのだ。スカーレット達には申し訳ないが、いずれ盛大な祝勝会が執り行えるだろうからそれまでちょっとだけ我慢して欲しい……と思いながら、僕は4人分の席を予約する為小さな声で電話を掛けた
※この後メチャクチャ散財しました。大和サブのお給料の殆どはウマ娘達に還元されております
ブルボンさんとテイオーのトレーナーはまだ未登場で、それぞれ違う人です。大和サブとはちょっとした縁があります。その辺りのお話はいずれ……
ブルボン、ライスの過去話も……またいずれ……はい、必ず書きます。はい……ガンバってペース上げます。はい