プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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ミキリハッシャマン鼻高々!UAが10万を越えたとのことです!



いやぁここまでくれば大したものですよ。最後までなんとか息を切らさず行って欲しい所です



残業が増えて来た事が投稿ペースに影響を見せております!初夏の暑さにも負けずに頑張って欲しい所!



ビールが美味しい季節なのも投稿ペースに悪影響を見せていますね


とっても不運で虚しい一日

「やれやれだ。本当に、やれやれだよ」

 

 

 思わず口に出してしまった。心の底から、やれやれって気分だ。僕は珍しくほんの少しだけ、僅かながら苛立ちを抱えていた。怒りや悲しみに向き合う事は心を疲弊させ、幸福から遠ざかる原因になる。だからそんな感情を持たないようにどんな状況でも楽しむ度量こそが大切だと常日頃から意識しているのだが

 

 

 だとしても流石に今日は散々だった。文句の1つも言いたくなる。コーヒーを淹れようとしてうっかり手が滑り粉をぶちまける、充電したと思っていたスマートフォンが目覚めたら10%しか残量が無い、お気に入りの靴下に穴が空いていて……あと朝ごはんの買い置きが無かった。まあ買い置きは昨夜の晩酌の際勢い余って夜食として食べてしまったのだが。まあ、うん。これに関しては僕が悪いかもしれない。とにかく言いたいのは、誰にだって気分が悪い日があるというものだ

 

 

 トレーナー室の椅子に座り、積み上げられた段ボールに脚をどんと乗っけて天井を見上げた。僕の心は完全に曇り錆びつき、身体も重りを括りつけられたように重たい。スマートフォンに着信があった。普段なら相手を見て出るか出ないかを決める僕だが、少しでも気晴らしになればと思いノータイムで電話を取った。例え呼び出しだろうと構いやしない。減給だろうが反省文を兼ねた報告書だろうがどんと来るがいいさ

 

 

「はいもしもし?……いや、こちらはピザの配達はやってませんね。ええ、間違いですね。ふふっ。では失礼します」

 

 

 何がチーズミートデリシャスのLサイズだ、ピザを食べたいのはこっちだよ。心の奥底で渦巻く粘つく感情を押し殺しながら通話を切ってスマートフォンを机の上に置いた瞬間、座っていた椅子の足元からバキッと嫌な音がした。足元の支えがへし折れた椅子は重力に従い落下し、僕は腰掛けた体制のままどすんと床に落っこちた

 

 

「ふっ。成程、どん底ということかな。ここまでくればもう笑えてくるよ」

 

 

 ラーメンと餃子でも食べに行こうかな。そうだ、そのままビールを買って、帰って飲んで寝よう。もうしったこっちゃない、今日は絶対に仕事しないぞ。スカーレットとウオッカは休息日で放課後は遊びに行くと言っていたし、大丸さんが他の子の練習を見てくれる日だから心も痛まない

 

 机の引き出しをごそごそと探り最近乗っていなかったバイクの鍵をようやく探し当てた僕は、これからの素敵な気分転換の予定を立てながらぶらぶらと学園を歩く。みんな授業中だろうが、僕は自由だ。誰にも止められないぞ。トレーナー用の駐輪場スペースに辿り着いた僕は、愛すべきバイクの前後両方のタイヤがぺしゃんこにパンクしているのを見て完全に全てがどうでもよくなった

 

 

 

_____________

 

 

 

 

「えぇ……大和サン、どうしたの?」

 

「どうもこうもないよ。椅子に座ってパンをかじっている」

 

「まあね。それ座椅子みたいになっちゃってるけどさ……壊れちゃったの?」

 

「どうだろうね。椅子の本来の役割である『腰掛けるもの』としての機能は果たしている。壊れているとは言えないかもしれないね」

 

「つまり、壊れてるよね?」

 

「ああ。ぶっちゃけると、ぶっ壊れている」

 

 

 ナイスネイチャが念を押すように聞いた事で大和はやっとこさ認めたが、彼愛用のリクライニングチェアは完全に壊れていた。大和は床に脚を投げ出して購買で買ったのであろう食パンを生のまま味付けもせずもそもそ頬張っていた。珍しく愛想笑いも無く無表情ではあるが、敢えて表現するなら……ほんの少し不貞腐れた様子だとネイチャは思った

 

 

「壊れた。最悪だよ、まだ1年しか使ってない。10年壊れないという触れ込みだったのに。ああ所詮は宣伝文句だ、完全に信頼していた訳ではないけれどね。ああ……しかし酷い。残念だよ」

 

「おおう、珍しく余裕が無い感じだね大和サン。大丈夫?」

 

「どうにもね。というよりネイチャ、チームのグループチャットにメッセージを送っただろう?今日は誰もトレーナー室に来ないようにと」

 

「うっかり見落としてたってワケですよ。次からは気を付けなきゃだね」

 

 

 ケラケラと笑うネイチャだが、当然見た上でここに来ていた。彼女のわざとらしさを見て見ぬフリする余裕は今の大和には無い

 

 

「大方、エアグルーヴ辺りから様子を見てこいとでも頼まれたかな」

 

「おおう、よくお分かりで」

 

「やれやれ。ああ、そうかい。御覧の通り、別に大して何もないよ。ただヤケになって食パンを生で食べているだけだ。全然美味しくないけれどね」

 

 

 様子がおかしいのはネイチャもなんとなく察した。普段なら客人が入って来た途端全ての作業を後回しにしてご機嫌な応対をしそうなものだが、彼は椅子の上で力なく呻くだけだった。ネイチャは先ほどのやり取りを少し思い出す。エアグルーヴ先輩曰く、『面倒くさそうだからお前が行ってくれ』との事。どういう事かと思って興味本位で引き受けた事をネイチャは若干後悔していた。自分には荷が重いな、と尻込みながらもとにかくやれるだけやろうとネイチャは明るく話しかけた

 

 

「それでどうしたのさ。なんか嫌な事でもあったの?ネイチャさんに話してごらんなさい」

 

「不幸が重なったんだ。ただただ、やるせなくてね」

 

 

 思わせぶりな発言と共に大和が見上げるのは、部屋の壁に取り付けられた神棚。壁にぶっとい釘で打ち込んである木製の棚には妙な迫力のある招き猫と、無意味にも思えるガラクタの数々が並べられている。表紙がボロボロになった手帳、過去に期間限定で発売されていたコーヒーの空き缶、使い古した靴の片方、額縁に入れられた安っぽいお祭りのチラシ等々。だがそれを見つめる彼の眼は温かい

 

 

「彼女が今居れば……今日の僕がいかに不幸な星に魅入られた存在であるかを嘆いた後、突拍子も無い解決策を授けてくれただろうか」

 

 

 ポツリと呟いた大和の顔が、ナイスネイチャには妙に寂しそうに見えた。余計な事を頻繁に言う癖を除けばそれなりに凛々しく振る舞う彼だが、時折妙に子供っぽい感情を表に出す。これじゃエアグルーヴさんが世話を焼きたがるのも無理はないなとネイチャは肩をすくめる

 

 

「フクちゃん先輩に電話でもすればいいじゃん。1コールで出てくれるんじゃない?」

 

「それじゃ僕が彼女に会えなくて寂しがっているみたいじゃないか」

 

「そうなんじゃないの……?」

 

「いいや、そんなことないさ。だって今僕の傍にはネイチャ、君が居てくれているんだ。寂しさより喜びの方が大きいよ」

 

「んん、そういう事ばっか言ってないでさ!てか、嬉しいっていうならシャキっとしなきゃだよ?」

 

「……そうだね、すまない。余計な迷惑をかけてしまった」

 

 

 謝りながらも彼のどんよりとした雰囲気は変化を見せない。言葉を間違えたのかなと不安になるネイチャだが、とにかく現状を知りたかった。もしかしたら何か深い事情があるのかもしれないし、もしそうなれば援軍がいる。ネイチャは唾を呑み込んだ後、恐る恐るといった空気が伝わらないよう努めて軽い感じで質問を投げかけた

 

 

「それで実際何があったの?」

 

 

 大和の話を聞いていくにつれて、ネイチャは肩の力がどんどん抜けて行くような感覚を覚えた。不運が不運がというから身内に不幸でもあったのかと心配したのだが、なんか全然大したこと無い話だった。今回もギャグ回じゃんと安心したネイチャは大胆に突っ込んだ

 

 

「あの、大和サン。ぶっちゃけさせてもらうと、ただやらかしが重なったってだけでゆーほど不運とかではないのでは?」

 

「……」

 

「いやさ、バイクの件は残念だなぁーって同情しますよ?でもコーヒー粉のぶちまけとか充電とかさ。なんつーか、気を付けましょう!って感じで。落ち込むような事っすかねぇ?」

 

「もう寝るよ。おやすみ。ウオッカとスカーレットが7冠を達成したら起こしてくれ」

 

「ちょいちょい!冗談だって!それにウオッカとスカーレットの7冠は大和サンが頑張る事でしょうが!ほら立ちあがろうよ!何事もまずは椅子から立ち上がる事が成功の基本だって、大和サン言ってたでしょ?」

 

「それは僕じゃないな。そんなポジティブな発言は生まれてこの方した覚えがない。それに椅子に座ったままだって名探偵は事件を解決できるんだ。座った人間を軽視するような発言は僕はしないとも」

 

「めんどくさいなぁ……!?」

 

 

 腕を掴まれてもだらんと身体の力を抜いて一切のやる気を見せない大和と、力尽くで引き起こすか判断を迷ったナイスネイチャ。その時、ピロンとメッセージを知らせる電子音が鳴る。大和は非常に鈍い動きで自らのスマートフォンの画面をタップし、メッセージを表示する

 

 

『どっちのアタシが可愛いと思う?』

 

 

 完全に死んでしまったかと思われた大和の心を揺さぶるような魅惑的なメッセージと共に送られて来たのは、二枚の写真。白いワンピースを来て髪をポニーテールに纏めたスカーレットがスッと背筋を伸ばして角度を付けた微笑みでこちらを見ている

 

 

 二枚目は黒いライダースジャケットとデニムのハーフパンツを着てウオッカと2人で並んで映っている。恐らくはウオッカに押し切られて着たのであろう。証拠に満面の笑みのウオッカに反してスカーレットの表情は少し機嫌が悪そうにツンと口を尖らせている。ただ、肩を組むのを全力で拒否せず写真撮影を受け入れている辺りそれなりに楽しんでいるのだろう。大和は瞬時にそこまで思考を巡らせ、自らの心の底に情熱の炎が吹き上がり全ての感情のわだかまりが消し飛んだのを理解した

 

 

「素晴らしい。今日の不運は、全てこの写真の為にあったと言ってもいい……!」

 

「はん?」

 

 

 しかしその発言がナイスネイチャの逆鱗に触れた

 

 

「はー、アタシがこれだけ頑張ったってのに不貞腐れたままで。スカーレットから写真が来たらすーぐ元気になっちゃって。へいへい、何の魅力も無いウマ娘ですよアタシは。へいへい、3着3着。負けヒロイン」

 

「おっとネイチャ、違うんだよ。僕は……」

 

「そこどいて。アタシが座るから」

 

 

 優しく引き起こそうとして力加減に苦労していたネイチャがいざその気になってえいっと力を入れれば、大和は無力にも椅子からごろんと転がされるしかない。ネイチャは一切の言い訳を拒否する為、椅子の上で膝を抱えて座り込んで耳をパタンと閉じてしまった

 

 

「ネイチャ、少しからかいが過ぎた。謝るよ。君が励ましてくれたお陰で僕はかなり元気になっていたんだよ。ただほら、スッと立ち直る鮮やかな切欠が欲しくてね」 

 

「あー聞こえません聞こえません。お茶淹れてお菓子出して小一時間ヨイショしてくれでもしたら聞こえるようになるかも。あー、いやそれでもダメかもね今回は。深く傷つきましたので」

 

「ネイチャ、解った。すぐに用意するから……」

 

「お兄様っ!大丈夫!?」

 

 

 悲鳴のような叫び声をあげながらライスシャワーがトレーナー室にエントリーした。救いの女神か?と大和はそちらへ笑顔を向けた

 

 

「もう大丈夫だよっ!お兄様の不運はライスが肩代わりしてあげるからね……!」

 

 

 状況をややこしくするタイプの女神様だった。大和の顔から笑顔が転げ落ちた。ライスシャワーは両の拳を固く握りしめてぶるぶると震わせながら確固たる信念を込めた声でそう宣言し、大和の顔色を悪くした

 

 

「ライス、冗談でもそういう事は言うんじゃない。むしろ今日の僕は君の分の不幸を少しでも背負えたのではないかと、さっきまでそれだけを心の支えにして自我を保っていた節があるからね」

 

「はー。成程。もうライス先輩に夢中ですか。ああ悲しい。アタシは噛ませですよ噛ませ。噛めば噛む程味が薄まるタイプの噛ませ役ですよ」

 

「ネイチャ、そういうつもりじゃないんだ。今みたいな僕の勢い任せの軽い言葉は適当に流してくれないと」

 

「お兄様……。ライス、嬉しかったのにな……」

 

「ああライス。違うよ、本心さ。ただ言い方が少々大げさだったばかりにネイチャを勘違いさせてしまった事を謝罪しただけで___ああ、収拾がつかなくなってしまった」

 

 

 ライスシャワーは、冗談だよ?とすぐに泣き真似を止めた。ほっと胸を撫で下ろした大和だが、その間にもネイチャは机の引き出しに入っていたブランケットを引きずり出してそれにくるまり本格的に引きこもり始めてしまった。大和は素早く棚からお菓子を用意してお湯を沸かし始めた

 

 

「それじゃライス、僕はこれからネイチャのご機嫌を取る必要があるので忙しくなるのだけれど。もし他に何か用件があったのであれば聞かせて欲しいな」

 

「あぅ、ごめんなさい。えっとね、お兄様。今度の宝塚記念の出走についてのインタビューの打ち合わせが来てるの。お話する内容を一緒に考えて欲しいんだ」

 

 

 

 両手の指を綺麗に合わせるようにして、ライスシャワーが可愛らしい声でそう告げた

 

 

 





前回のお話で補習を補修って思い切り誤字ってました。投稿者も赤点です。はい、ごめんなさい。減給となります



次回以降、ライスシャワーちゃんメインの回がちょくちょくきたりこなかったりする予定です。先に謝っておきます。ごめんなさい。当店のライスシャワーは根性育成です
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