プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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エルコンドルパサーとグラスワンダーの別衣装!?キングとスカイのSSRサポカ!!?なんだんだ、どうしろっていうんだよ!!!これ以上ガチャに付き合えっていうのかよ!!!



無限に金さえあれば・・・どうとでもなったのに・・・!!!






黒い刺客が淀を行く

 

 下らない時間だった。少なくとも、誰も得るものが無い無駄な時間だったと断言できるだろう。俺はインタビュー用のマイクを長時間保持した事による腕のだるさを解消する為反対の手で揉みながら、失礼な考えを捨てきれずにいた。菊花賞前日、出走するウマ娘達が事前練習を執り行っている隙を見て、18番人気の子から順に取材していたのだが……

 

 

「ま、しょうがないっすかね」

 

 隣に居たカメラマンが小さな声でぼやく。普段からウマ娘の外見を観察する機会の多い彼も別視点で思うことがあったのだろう

 

「ここまで萎縮してしまっちゃあな。いいコメントはもらえないか」

 

 皆、目に覇気が無い。ミホノブルボンに勝てる気がしないというよりも、別の事に気を取られているのだろう。自分達の不安定な心を押し殺すのに精いっぱいといった表情で無難で適当なコメントを残すだけだった。取材のしがいは欠片も感じられない

 

 

「ここ数年はこういう事はなかった。BNWの3人が三冠を見事に分かち合った時は言うまでも無く、サイレンススズカやオグリキャップが頭角を見せた時なんかでもどのウマ娘にも『我こそは』といった覇気があった。だがどうだ、今年のクラシックは……」

 

「彼女達は頑張ってますよ」

 

 そんな事は解ってる。俺は苛立ち紛れに顔をしかめて、頭をガシガシと掻いた。やりきれない思いが心の中で暴れているんだ。レース場の近くに喫煙場が無いのも、俺のイライラを加速させているのかもしれないが

 

「今年は異常だ。ミホノブルボンの三冠に不気味な程の興味が集まってる。他の出走者への批判の声が紛れても、見逃される程度には熱気が高まっているのがその証拠だ」

 

「URAがその気になれば制御できるでしょうに」

 

「盛り上がりを潰してまで庇護する気はないんだろうさ。これも試練だ、なんて面で椅子にふんぞり返ってんじゃねえのか?知らねえけどよ、偉い方の考えは」

 

 

 編集長からの言付けが脳裏の思考を抉り取る。ミホノブルボンのコメント以外は記事にする事は無い。取材という形だけ整えてこい、との指示。腸が煮えくり返る。本当に呆れたもんだ。誰もが目を背けている。ウマ娘1人1人に夢があることを忘れているのか。誰もが主役だって事を忘れているのか。あるいは、気付いていても流れに逆らえない俺みたいな奴ばかりが世に溢れているのかもしれなかった

 

 

「ご、ごめんなさい。私は、そろそろ……」

 

「ああ、申し訳ございません。またよろしくお願いします」

 

 

 3番人気のマチカネタンホイザが逃げるように頭を下げて去って行った。まあ、不快に感じるのも無理は無いだろう。俺達の質問は、『ミホノブルボンの三冠達成をどう思うか』という意図が透けて見えるものばかりだ。恐らく、俺達以外の記者からも同じような質問を何度もされているのだろう。浪漫も敬意も欠けていた。俺達は、そこまでして次代のタレントが欲しいのだろうか

 

 

「次はライスシャワー……か」

 

「はい。お願いします」

 

 

 背後から静かな返事が飛んできた事に思わず背筋が縮み上がった。慌てて振り返ると、真っ黒な勝負服を身に纏った彼女が静かな歩みでこちらへとやってきていた。ずっとこの時を待っていたのだろうか。俺は慌てて笑顔を取り繕うと、安い取材用のマイクを彼女へと向けた

 

 

「ライスシャワーさん。よろしくお願いします。明日の菊花賞へ向けての意気込みを___」

 

「勝ちます」

 

 

 ただ一言。彼女は笑顔でそう言った。俺は次に繋がる言葉を見つけられなかった。台本があるにも関わらず、だ。俺が口を開くのを躊躇ったせいで完全な沈黙が訪れた。いや、言葉に詰まったのは俺だけだ。彼女は……ライスシャワーは、なんてことない顔で次の質問を待っているようだった。俺は唾を呑み込んで台本を再び読み上げた

 

 

「……前回の日本ダービーでは半バ身に迫る程の接戦でした。あなたは距離が長い方が得意だという意見もあります。今回の菊花賞でミホノブルボンに対して勝利する自信があるのでしょうか?」

 

「ライスは勝ちます。それを願う人がいるんです。だから……勝たなくちゃ。ブルボンさんの三冠を期待する人には、なんて謝っていいのか解らないけど。それでもライスシャワーは……勝つ為の走りをしようと思ってますっ。それを言いたくって」

 

 

 彼女は小さく笑った。恐怖を押し殺しているのか?違う。俺は何度かこの子を取材したことがあるが、こんなに屈託のない笑顔を見せてくれた事は無い。彼女に笑顔を授けたのが一体何なのかを知りたい。だがそれは、レースの結果を見てからでもいいだろう。俺は台本をポケットにしまう

 

 

「……失礼。これは取材というより興味本位ですが。ミホノブルボンの三冠の邪魔立てをする事に恐怖はないのですか?」

 

「怖いです。だから、応援して欲しいです」

 

 

 俺の本当に失礼な直球の質問にも、彼女は笑って応えてくれた

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「吹っ切れたな」

 

「えっ?」

 

 大丸トレーナーから突然声をかけられ、鏡の前で黒い勝負服を身に纏った自分の姿を確認していたライスシャワーは振り返った。腕組みをして突っ立っていた彼は上から下までライスシャワーの姿を見ると納得したように何度も頷く

 

「走法と戦術は俺が、練習メニューはアイツが用意した。しかし勝利に至る為の最後のピースは、大和のやつがギリギリで間に合わせてくれたって訳だな」

 

「……はいっ」

 

「はっはっは!ようし、いいかライスシャワー。作戦に変更は無い。ミホノブルボンはお前さんより、誰よりも速く走る。最後までついていけ。お前が先頭に立つのは最後の一瞬だけでいい。そこに全てを賭けて、ぶっこんでこい。以上だ。上で見てるあいつらの期待に応えてやれ」

 

「……はいっ!」

 

 

 力強い返事でライスシャワーは控室を出た。2m近い背丈を誇る大丸からすればどのウマ娘も小柄だ。しかし、時にレースへ赴くウマ娘の背中が見上げる程大きく見える瞬間というものが往々にしてある。それは様々な理由から発生する錯覚だが、そのイメージが湧き上がる時のレースの結果はいつも同じものだ。大丸はもう一度深く頷くと、トレーナー用の観戦席へ向かい大股で歩き出した

 

 

________________

 

 

 

 

「うぅ……」

 

 マチカネタンホイザは、レース場へと続く通路の途中で嘆息とも唸り声ともとれる低い声を出して自らを奮い立たせようとしていた。彼女だけでなく、ミホノブルボンとライスシャワーを除く全ての出走者達が一緒だった。皆、控室を出てきたもののレース場に出るのを躊躇って通路でたむろしている

 

 

 いの一番にレース場へ出たミホノブルボンに誰が続くかを譲り合った結果、完全にタイミングを失ってみんなでぐだぐだしていた。通路の先から響いて来る歓声に心が躍る事はない。ただ1人のウマ娘に向けられている歓喜の嵐の真っただ中に出て行くのは、全くもって楽しいことではないだろうなんて事は全員が解っていたからだ

 

 

「くそっ。あたしら噛ませじゃねーぞ……」

 

 本日の7番人気、トリプルテールの吐き捨てるようなやけっぱちに応えるウマ娘は誰一人いなかった。否定も肯定も少々の勇気がいる。そしてなけなしの勇気をこんな所で消耗するのは皆御免だった。誰か返事しろよ、とトリプルテールが悲しそうに零したのを渋々といったように拾ってあげたのは4番人気ハイパーフウリンだ

 

 

「まあ、ね。言いたくはないけど___」

 

「言いたくないなら言うな」

 

「いや言うね。マジで吐きそう。ストレスと緊張が半端ない。さっきトレーナーさんもトイレで吐いてた」

 

「あんたのとこのトレーナーさんは乗り物酔いだろ。いっつもじゃねーか」

 

「うるさいよ」

 

 2人のウマ娘の下らない会話も、結局場を盛り上げきれずに尻切れトンボで終わってしまった。誰かの溜息が歓声の間を縫ってタンホイザの耳に飛び込んできた。ずくん、と心臓の鼓動が乱れるような感覚に足元が覚束なくなる。呼吸が浅くなっているのに気付いて深呼吸でもしようと顔を上げた

 

 

 その時、足を止めている彼女達の横を黒い小柄な影がすっと通り抜けた。彼女が誰なのか、最初タンホイザ達には解らなかった。見覚えのある背格好だが、黒い勝負服に身を包んだ彼女が異常な程の威圧感を放っていたから別の何かに思えてしまったのだ。彼女は誰もが尻込みをする程の通路を、まるで歓声を押しのけるような堂々たる足並みで進んでいく。そこに普段のおどおどとした可愛げは微塵も残っていない。ただ勝負の舞台へ向かう気高いウマ娘、それ以外の何者でもない

 

 

「……なんだよ。アイツほんとにライスシャワーかよ」

 

「はわっ」

 

 

 その時、可愛らしい間抜けな悲鳴を上げてライスシャワーがこけた。べしゃっと手を付き四つん這いになって動かなくなったライスシャワーと、それを見守るウマ娘達の間に気まずい空気が流れた。あっけにとられていたタンホイザが慌てて駆け寄ろうとしたのと同じタイミングでライスは勢いよく立ち上がると、わざとらしくごほんと声に出して咳をして再び歩き出した。そこに普段のおどおどとした可愛げは……まあそこそこ残っていた。トリプルテールは呆れたようにぼやく

 

 

「ああ、間違いなくライスシャワーだったわ。はわっ、じゃないだろ全く。大丈夫かよ」

 

「いや大丈夫でしょ。むしろあんなあざとい悲鳴が似合うのあの子だけっしょ」

 

「気にしてるのはそこじゃねーよ。アイツ1人で行かせるのか?あたしらはこんなとこでぐたってていいのか?」

 

「「「……」」」

 

 

 

 誰が最初に一歩踏み出したかは解らない。気付けばタンホイザ達は光溢れるレース場へ飛び出していた

 

 

<わぁぁあああああ!!!!!>

 

 

「……っ!」

 

 

 怒号のような歓声が一際大きく広がり、ターフに地鳴りを起こす。覚悟を決めていた筈なのに思わず耳を塞ぎたくなってしまう。顔をしかめるウマ娘達の耳が、歓声の中から確かな意図を持って放たれた言葉の数々を次々に受け止めて行く

 

 

「タンホイザ―!!!今日は頑張れよー!!!」

 

「ハイパーフウリン!ワンチャンあるぞ!ワンチャン!」

 

「どうしたどうした!元気だせー!!!」

 

 

 だが次の瞬間、ウマ娘達は自分の行動を褒めた。耳を塞ぐのを我慢して本当に良かったと心の底から思った。先にレース場へ出ていたミホノブルボンがこちらを向いている。彼女はゲートの前でライスシャワーと並んで、他の出走者達を待っていたようだった。タンホイザ達は観客へ向かって手を振り返すと、ゲートの前に歩み寄った

 

 

「皆さん、どうかされたのですか。私はライスシャワーが来るまでの13分22秒もの間、たった1人でここに立っていました。出走時間を間違えたのではないか、と三度ほど自らの記憶を疑った程です」

 

「あ、あはは……。ちょっとばかり色々あってねぇ。でもライスちゃん、なんかちょっと変わったね」

 

「中身がすり替わったのか?」

 

「ええ!?そ、そんな事ないよぉ……」

 

 

 マチカネタンホイザとトリプルテールに絡まれ、あわあわと慌てて手を振る彼女の様子はいつもと変わらないように見えた。しかし、いつも彼女から感じられる薄暗い気配やこちらが不安になる程の緊張感を今日は欠片も感じ無い。普段学園で会う時よりもむしろ落ち着いているような余裕すら感じられた

 

 

 ゲート入りの時間が刻一刻と迫る中、ライスシャワーは意を決した表情でミホノブルボンの横に立つと、彼女の横顔を見上げていつもの震え声よりも少しだけしっかりとした声で彼女に話しかけた

 

 

「……ねえ、ブルボンさん。」

 

「なんでしょうか、ライスシャワー」

 

「ライス、勝ちたいな。ブルボンさんに」

 

 一拍。ミホノブルボンが黙ったのは、驚いたのか、困惑したのか。静かに目を閉じて巡らせた思いの内訳は彼女以外は知る由もない。彼女程感情が表に出にくいウマ娘はそういないからだ。ただ、彼女の事を良く知る者が見ればうっすらと笑っていたように見えたかもしれない。ぱちっと目を開けたミホノブルボンは、正面を向いたまま彼女の挑戦に答えを提示する

 

「そうですか。私より早くゴール板を抜ければあなたの勝利です。やれるものならやってみてください」

 

「うん。やってみるよ」

 

 

 あくまで軽く、相槌を打つように言葉を返したライスシャワーが一番にゲートに入っていった

 

 

「___皆さんは、やらないのですか?」

 

 

 立ち尽くす自分達を眺めるきょとんとしたミホノブルボンの顔がゲートの蓋の向こうへ消えて行く。___もしかして今、挑発されたのか?そんな考えが直感的に脳をよぎった時、ようやく16人のウマ娘はそれぞれ自分のやるべきことがなんなのかを思い出した。自分達は、ここに一着を取りに来たのだ。自分の為に。そして、応援してくれる全ての人達の為に。それを邪魔するものは、全部追い抜いてしまえばいい。勝った者が、正しいのだ

 

 

 

______________________

 

 

 

 

「ライスシャワーの走りを純粋な気持ちで見ればきっと誰だって好きになるさ。いや、他の皆も同じだけどね。ようは見る者の心の問題だと言えるだろう」

 

 適当な事を言いながら手にしたプラスチックカップをぐいっとあおる。秋晴れの日差しが妙に暑く感じるのは、会場の熱気が異常なのもあるだろう。あるいは、僕自身が相当入れ込んでいるか。まあ両方だろうけど、とにかくこのままでは長距離レースのじりじりとした緊張感に耐えられそうにない。だからしょうがないんだよ、解るだろう?そんな目で見るのはやめるんだフクキタル

 

「大和さん……」

 

「何度も言うがね。これは麦茶だよ?」

 

「麦茶は屋台で一杯100円で売ってました。それ500円してましたよね?というかお茶なら私も一口いただけますか?」

 

「だめだよ、大人用の高級麦茶は子供には少々渋みが強い。ああ、君は子供というにはしっかりしすぎているかもしれないけれど……いやほらそんなことよりフクキタル、もうすぐだよ。応援しないと」

 

「後でエアグルーヴさんに怒られちゃいますよ?……しょうがない人ですねホント。まあ今はライスさんです!むんっ、応援しますよー!」

 

 

 フクキタルがきゅっと鉢巻を頭に結んで、本日のラッキーアイテムらしい孫の手を二本両手で構えた。わざわざレース場傍の店まで買いに行かされただけあって、なんだか凄い運気を放っているように見える。多分酔いが回っているからそんな風に感じてしまうだけだろうけど。まあ観客席の一部を占拠する我々ムーンシャイン一同は皆揃って黒と青で彩られた法被を羽織っている。ライスシャワー応援用の特注品だ

 

 

 ライスが勝ったら学園を通して通販でグッズとして販売する予定も立っているので、彼女には是非とも良い結果を残して欲しい。儲け云々より、応援に行きたいと言った子達全員の交通費をどうにかして取り戻す必要がある。なんせ他所のチームの子の分まで我々が出してまで応援席に学園のウマ娘達を並べたのだ。1人でも多くの純粋な声援が必要だったとは言え、軽い出費ではない。明日のご飯を心配する僕のちょっとした憂いなんて軽々吹き飛ばす程の実況音声がスピーカーから流れだした

 

 

 

 

『そうです今日です菊花賞です!待ち遠しいでしょうそうでしょう!皆さんは何を心待ちにしているのでしょう?ミホノブルボンの三冠ですか?ライスシャワーの3度目の正直ですか?マチカネタンホイザが自らの殻を破るのか?怪我を乗り越えて初のGⅠ挑戦、トートセンテンスの顔見せでもあるのです!さあさあ先程語らせて頂いた全ウマ娘の注目ポイントをもう一度振り返っていきたいのですが、そろそろレース開始の時刻です!』

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

『___さあ最終コーナーへと差し掛かろうというところ!先頭は御覧の通り7番ミホノブルボン!堂々の走りでレースを引っ張る!さあ後ろの子達が追い上げを開始した!15番ホシノランド後方から大外へ抜ける!4番アカイロフロシキ、5番トリプルテールもそれに続いた!マチカネタンホイザ率いる先頭集団が団子状になってミホノブルボンを追い立てる!しかしここで先頭ミホノブルボンが更に伸びる!更に伸びる!追走できるかハイパーフウリン!いや無理か!トートセンテンスちょっとペースを乱した!1人また1人と先頭集団から振り落とされて、後方バ群に飲まれていく!』

 

 

「行けー!!!ミホノブルボーン!!!このまま___」

 

 

 誰かの声がレース場を通り抜けた。そう、このまま。このまま終わってくれ。そう願う者も多くいるだろう。しかしレースとはそう簡単ではない

 

 

『しかし変わらずミホノブルボンの後ろにはライスシャワー!ライスシャワー張り付いている!ミホノブルボンが伸びれば自分も伸びる!影のように離れない!その差は半バ身から変わらない!変わらないまま最終コーナーを抜ける!最後の直線は400mだ!ミホノブルボンは未知の領域でしょう!長距離レースはここからが怖いぞ!』

 

 

 

 背後に迫る息遣いの数々。それは全て計算通りで、全て管理下にあった。だからミホノブルボンはただ自分の走りに集中していればそれでよかった。夏の合宿で鍛え込んだ彼女の体内には過去最長のレースを走り切るだけのスタミナが搭載され、完璧なラップタイムへのビジョンが脳内で展開されている。踏み出す足の位置すら想定通り

 

 

「ふっ……!」

 

 

 だから一際強い踏ん張りが自らの背中で鳴り、ミホノブルボンの組み立てた勝利のプロセスに未知のビジョンが切り込んできた事にほんの僅かに動揺したのは仕方がないと言えるだろう。彼女の素晴らしい所は、例え動揺を覚えたとしてもそれが走りに一切の悪影響を見せない事にある。感情表現が希薄な彼女はレース中に精神的動揺により走りを乱す事が一切ないのが確かな強みの1つでもある

 

 

『ここでライスシャワーが唸りを上げる!黒い弾丸が青い軌跡を描きながらミホノブルボンの影から飛び出した!』

 

 

 しかしライスシャワーは精神面が大きく走りに影響を与えるタイプであり、今回はそれが彼女にとって確かな追い風となっていた。影から飛び出す事になったライスシャワーは今までミホノブルボンを壁にして避けていた風を真正面から浴びるが、それすら切り裂いてライスシャワーはペースを上げる。それだけの力が未だ彼女には残っていた

 

 

(成程___レース。簡単ではありませんね)

 

 

 ゴール板を駆け抜けるまでの自分の姿は完全にシミュレートできていた。だからこそ、ミホノブルボンはこの段階で理解していた。己の真横に並んだ黒い影が、恐らくこのまま前へ出るだろうということを。そして自分がそれをもう追い越す事は叶わない事を。ただ彼女の思考に相反し、彼女の肉体は一切の妥協無く全力で稼働し続けていた

 

 

『どうだ!ミホノブルボンか!いいやライスシャワーがもう強い!完全に飛び出した!速い速い!ライスシャワーはついていくだけじゃないっ!先頭だ8番ライスシャワー!マチカネタンホイザもどうか!ミホノブルボンへ迫る!だが二冠ウマ娘の意地がある!ミホノブルボン落ちない!タンホイザもう一伸びはあるか!トリプルテールもまだ足は残っているが順位は変わらず、ライスシャワーがその差を僅かに広げていく!そして今ゴォォォールッ!!1着は漆黒のステイヤーライスシャワー!2着はミホノブルボン、3着はマチカネタンホイザ!!

 

 

 秋の菊花賞を制したのはライスシャワー!誰にも文句は言わせない走り!ライスシャワーが一番強いウマ娘となってみせました!』

 

 

 ゆっくりと減速して立ち止まったライスシャワーは息を整えながら、整理できない思考を全て頭の隅に押し込めると下がりそうになった顔を無理やりに前を向けた。探そうと思った顔は、偶然か必然か真っ先に目が合った。ずっと遠くの観客席で、見事なまでのドヤ顔で空のプラスチックカップを天高く掲げるサブトレーナーと両腕を高々と突き上げたマチカネフクキタルの姿があった

 

 

 だから、もうこれだけで十分だった。ライスシャワーは耳をピンと立てて、ぎゅっと握った左拳を青空に向かって真っすぐに伸ばすと弾けるような笑顔を浮かべた

 

 





オリジナルウマ娘の名前は即興で考えています。元ネタがある子もいます。当てた人にはサイン色紙をプレゼントするかもしれません。当時のレースに出た子の名前を使わないのは、今後実装される可能性を見越してです。多分



何も考えずに書いていましたが、ライスちゃんのメイン回が続いています。実はこの回で終わらせる気でしたが、長くなってしまったので次に続きます。まあ・・・ええか!?

ライスシャワーは……

  • 癒しの方のヒールだよ!
  • ヒールだとしても……!
  • ヒールじゃないよビールだよ
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