まあちょっとだけ湿度を感じるかもしれませんわね
でも軽く読んで下さればと思いますわ
ギャグ回ですわって保険かけておくと
気後れせずに書くことができますわよね
当然の如く 字余り
『___阪神レース場にて行われた宝塚記念ではファン投票にて選ばれたウマ娘達が各々期待に応える好走を果たし、会場の7万人のファンを熱狂させた。
特筆すべきはやはりミホノブルボンの逃走劇だろう。好スタートでトップに立ち全体を牽引する見事なペース配分。最終直線で半バ身まで追い上げた3番人気ライスシャワーをそのまま抑えきり、1着でレースを終えた。
3着1番人気トウカイテイオーはまたしてもタイトルを逃す結果に終わり___』
「むーっ!なんなのさこの書き方!ちゃんと惜しかったなー頑張ったなーって書いて慰めてよねっ!」
トウカイテイオーのきゃんきゃんした声がトレーナー室に響く。彼女は腹立ち紛れに応接テーブルに新聞を叩きつけ、ソファーの上にごろんと横になった。
隣に座ってテレビを見ていたナイスネイチャは自分の膝の上にテイオーの足が乗ってきても意に介さず、三冠ウマ娘の足を手で雑に揉みしだきながらテレビに映るキャンプ特集から目を離さない。テイオーの嘆きに対し声を上げたのは、机を挟んで向かいのソファーに座るミホノブルボンだ
「惜しかったですねトウカイテイオー。あなたは十分頑張りました。次は勝てるといいですね。……ミッション、『慰める』を完璧に遂行。これでよろしいでしょうか?」
「うう、勝った人に褒められてもあんまり嬉しくない……。あーあ、負けるのってほんとやな感じだよね。こういう時ってどうすればいいのかな?」
「難しい質問ですね。私では答えを提示できませんが、勝利と敗北というワードを元にマスターの過去の発言を1つピックアップしましょうか?」
「え、なになに?聞きたい」
「『敗者は灰となって消えてしまう。勝者は炭となって残る』ということわざがあるそうです」
「皆燃え尽きてんじゃん!?」
「……あ、今炭の話した?そうだよね、私木の焚き火も好きだけど炭でやる焚き火を眺めてぼーっとするのも好きなんだよねぇ。黒々とした炭がさぁ、オレンジ色のネオンみたいになってる所がじわーっと広がってさ……」
「ネイチャはキャンプ特集だけじゃなくて、ちょっとだけボクの話も聞いてよ!?」
テイオーは咳ばらいをして話を続けようとするが、喉の調子が悪いのかと心配したライスシャワーがぐいぐいとのど飴を押し付ける。喋るのには邪魔なのだが、心から心配そうな先輩の態度に思わず受け取って口に放り込む事にする。
しばらく飴を溶かす作業に入り、さて今度こそと神妙そうな切なげな顔で話を続けた
「ねえライス……さん。ボクどうしたらいいと思う?」
「なんでさん付け……?ライスも、呼び捨てで呼んで欲しいな。それでえっと、ええっと……前にお兄様が言ってたんだけど。悩んでいる間は足が止まっちゃうから、成長に繋がる事はない。でも悩まないと壁を乗り越える事もできない。って」
「つまり……えっと?」
「つまり、あの、テイオーちゃんにはちょっとだけ立ち止まる時間が必要なのかもしれないって事が言いたくて……」
「ん!?つまりキャンプって事ですな。おっけいテイオー、キャンプ用品ならウチのチームハウスにたくさんあるからアンタは着替えだけ持ってきてくれれば大丈夫だからね」
「ネイチャはなんなの?そんなにキャンプ行きたいの?別にいいけど……いやよくないよ!その話は後ね後!そんでね___」
『ふええ~!』『今日はいい天気だね』『雨でも、がんばらなきゃ!』『見ててね……!ライスの……変身!』
テイオーが再び話し出そうとした矢先に、可愛らしい電子音が話の腰を折るようにして盛大に響き渡った。テイオーは思わずうなり声を上げ、それから音の発生源に目を向けて抗議の声を上げる
「ちょっと大和おじさんうるさいんだけどー!」
「ふーむ。ここは僕の部屋なのにな……」
大和は悲しむような顔で俯きながらも、手にした《ⅮⅩライスシャワー短剣!青く光って、50パターンで喋る!》のスイッチを再び押した。『ご、ごめんなさい……!ライス、悪い子だ!』というランダム再生とは思えない程状況に見合った音声が流れる。ライスが恥ずかしそうに耳を伏せ、ブルボンが小さな声で「可愛いですね」と呟いた
「今真面目な話してたのに!もうもうもう!」
「ふむ、そうなのかい?キャンプの話をしていたんじゃないのかな?」
「ボクの人生相談ならぬウマ生相談してたんだよぉ!」
金切り声を上げて抗議の拳を振り回すテイオーの顔を見て、大和はそれは申し訳ないと謝りながら『ⅮⅩライスシャワー短剣!青く光って、50パターンで喋る!』をゆっくりと机の上に置いた。彼が持っているのはライスシャワーの勝負服に装着されている模造短剣のレプリカである
1つ2万円近くする高価なものだが、頑丈で重みのある鞘と高価な素材で作られた持ち手が醸し出す雰囲気は部屋のインテリアとして通用する程の高級感がある。限定100個で販売され僅か5分で完売したという伝説の一品である。ちなみに大和が持っているのは試作品として企業から送られてきた物で、登録されているワードもテスト収録されたお遊び半分の物が殆どだ
「あ、あの、お兄様。ライスちょっと恥ずかしいから……皆が居るところでは遊ばないで欲しいな」
「ああすまないねライス。ちょっとはしゃいでしまった。これは1人の時にゆっくり聞かせてもらうよ」
「う、うん。楽しんでね」
「ライス先輩変身できるんですか?」
「できないんだけど、お兄様とスタッフさんが一回言ってみてって……」
「あ、そうなんスか。ちなみにライス先輩って特撮とか見る感じなんです?」
「前はそんなに見なかったけど、色んな『ヒーロー』のイメージを知りたいなって思って色々観たりしたよ。ブルボンさんと映画も観に行ったり___」
ネイチャとライスの会話はどんどん脱線していく。テイオーは不満気に鼻を鳴らしてソファーから立ち上がると、ペタペタと室内スリッパの足音を鳴らしながら大和の机へ近づいてそこにお尻を乗っけた
「本気で悩んでるのに皆酷いや!」
「君をそこまで腐らせる悩み事があるというのなら、僕なんかにぶつけるより短冊に書いて飾った方がずっと効果があるだろう。毎年七夕が終わるとフクキタルの実家で祈祷とお焚き上げをお願いしているんだ。実際ご利益は凄まじいよ。1つどうかな?」
トレーナー室の隅には例年通り今年も立派な青笹が設置されており、既に色とりどりの短冊が飾られていた。いつからか『幾人ものGⅠウマ娘が願いを叶えている』という噂が広まり、他のチームのウマ娘や新人トレーナーが短冊を飾らせて欲しいとわざわざ来室する程のちょっとした名物となっているのだ。
テイオーは大和が指し示した机の上の短冊を一枚手に取ったが、それにペンを走らせることはしなかった
「おじさんはボクが悩んでる事なんてどうでもいいの?」
「慰めて欲しいと頼まれれば、僕は別のチームの子だろうと飴を差し出して頭を撫でてあげるし、励ましの言葉を見繕うさ。そうして欲しい訳じゃないんだろう?」
「そうだけどさ……」
「ああ、勘違いしないで欲しいが僕は君の事は好きだし尊敬もしている。それは君が三冠ウマ娘になる以前。初めて会った時からずっとだ。だから君が本気で悩んでいるのだとしたら出来る限り力になってあげたい。
ただそれは友人としてであって、指導者としてではない。だから君が本当に悩んでいる事を明瞭にして、解決に尽力するとしよう。
『これからどうすればいいのか』を尋ねるべき本来の相手をすっ飛ばして、僕なんかの所に来てうだうだしている。そもそもこれはどうにもおかしな話だね」
「うぐっ」
「また喧嘩したんだね?やれやれ、確かに最近の轟さんはスペシャルウィークに付きっきりみたいだけど」
「ううっ……そうだよ!トレーナーったらさ、折角休みの日に顔出してあげたのに『お前は今日は休みだから涼しい所でゴロゴロしてろ』だってさ!スペちゃんの練習の手伝いでもやろうかって言ってるのに、それもいらないって!酷いや!」
「以前見かけた時は仲良さげにしていたじゃないか」
「……最近のトレーナー変なんだよ。ボクがサボってても追いかけて来ないし、いたずらしても怒んないしさ。」
しょぼん、という文字が頭の上に浮かび上がってくる程の解りやすさで落ち込むテイオー。耳もしっぽも垂れ下がり、不安げな影が顔を覆う。大和がふむと顎に手を当てる。ネイチャもテレビの音量を下げて耳をこちらへ傾けた。テイオーと轟トレーナーが喧嘩騒ぎを起こすのは珍しい事ではないが、今回ばかりはちょっとばかしいつもより重そうな空気を察したのだ
「あの怒りの導火線が1ミリくらいしか無い男という異名を持つ轟さんが君のいたずらで怒らないどころか、サボりを見逃す……?どうやら事は深刻らしいぞ」
「そうなんだよ。そのくせスペちゃんが宝塚記念の後あからさまにお腹パンパンだったのにはトレーナーめっちゃ怒ってさ。なのに、1着じゃなかったボクを……怒りもしないんだ」
クーラーの稼働する音だけが流れた。いつのまにかネイチャは完全にテレビを消していた
「ボク、もう期待されてないのかな。嫌われちゃったのかなぁ」
か細い声は、この部屋の誰かに向けた問いでは無い。だから誰も、答える事は出来なかった
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「そうか、そんな事を……。悪い事しちまったな。でもよ、あいつにどう接してやればいいか解らなかったんだ」
仕事に打ち込んでばっかりで娘にあんまり会わないお父さんみたいな事言い出したなこの人。まだそんな年でもない筈だけど。いつもの自信満々な顔は見る影も無い。迷子になった子供みたいな不安げな顔だ。テイオーに見せたら、らしくないなーと笑い転げるかもしれない。
僕は安物のウイスキーを少しだけ舌に乗せるようにして、焼けるような刺激を楽しんだ。ビール3杯飲んで僕がウイスキーで気分を変えるくらいの時間が経過して、彼はようやっとそれっぽい話題に入ってくれた訳だ
「どうもなにも……今まで通りでいいでしょうに。というより轟さん、あなた人によって態度を変えられるような器用な男でしたか?ウマ娘だろうと人間相手だろうと、オラオラでガッツガツのガラの悪いおっさん……その一貫性があなたの素晴らしい所じゃないですか。自信持っていきましょうよ。ほら乾杯」
「お前さ、マジでさ。俺年上なんだわ。解るか?」
「ああ、解ってますよ。今日は奢ってくださるという話ですよね」
「んん、ビール瓶で頭かち割ってやりたくなったわ。リスペクトしろって言ってんだよ。敬語なら何言ってもいいってワケじゃねえんだよ」
和やかで愉快なトークを続けるのもいいが、一先ずテイオーとの話を深堀しなくてはならない。僕は彼に冷静に話を続けるよう促した。彼は何故か凄まじい憤怒を押し殺す様な顔でしばし黙り込んでいたが、ビールで感情を呑み込むようにしてぽつりと言葉を漏らした
「少し甘やかしてやった方がいいと思ってな。だから……半端な態度になっちまった。」
「ああ成程。あなたが踏み込まなくなったから、テイオーからすれば距離が開いたように感じた訳だ」
「いつも受け身の男に言われるとはな」
「確かに、僕は逃げる子は追いませんよ。でも相手が追って欲しいと言えばちゃんと情けなく追いすがる役をやります。みっともなくて恥ずかしい、そう感じるプライドがありませんから」
「……俺はテイオーを泣かせた。失格だ」
彼は吐き捨てるようにそう言ってビールを煽った。いやまあ、テイオーは泣いてない。泣いた?と聞くと『泣いてない』と全力で否定したので、泣いてないのだ。そういう事にしておこう。まあ彼は良かれと思ってした事なのだ。すれ違ってしまったが、悪意があった訳では無い。失格かどうかは置いておくとして、まだ聞きたいことは残っていた
「あまりテイオーに練習をさせてないそうですね。遂にあなたもサボリ癖が?」
「今はあれ以上は駄目だ」
彼は呻くようにそう言って苛立ち気にジョッキを乱暴に机に置いた。苛立っているというより、何か不安な事でもあるのだろう。額を手で揉むようにしながら言葉を続ける
「三冠に挑戦している時とは事情が違う。あん時は何をやらせればあいつが成長するのか手に取るように解ったし、それに俺は逆らわなかった。だが今のテイオーには調整程度の練習しかさせてねえ。勝ちきれない原因はあいつも解ってるだろう、ああ練習不足だ。ただ……ダメなんだ。今、アイツをこれ以上速く走らせたら終わっちまう。そんな気がしてならなくて、こんな事になっちまったんだよ」
春の天皇賞も、宝塚記念も。それだけを勝たせる為のプランも用意していたのだろう。ただ彼はそうしなかった。優秀なトレーナと評される者達は、皆共通してウマ娘のケガに敏感だ。
雰囲気を本能で察知できるとか、超能力的な閃きだとか色々言われているが、とにかくそういう話がある。だから彼の言い分は気のせいと切って捨てるべきものではない
トウカイテイオーの物語は、瞬間で燃え尽きる儚い物ではないと解釈したのだろう。だからテイオーの負けん気を削ぐような接し方で、彼女が無茶をできないように仕向けたとでもいうことだろうか。まあしかしテイオーとは話してあげるべきだったのだ。それだけは確かだろう
「スパルタから方針転換をするのはご自由です。でもスペシャルウィークには変わらず熱血なのにテイオーにはあんなあからさまだ。そりゃ拗れますよ」
「……」
「直接言ってやればいい。君が心配だ、今は無理をさせたくないんだ。それだけでいいでしょう」
「……スズカの時と一緒だ。俺がストッパーにならなきゃならんのに、才能がある奴を見ると夢中になりすぎちまう。反省を活かして立ち回ろうとしたら、今度は大切な教え子を泣かせる始末だ。情けないが、解らなくなってきた」
「ふむ。指導者には二通りあると思います。ゴールで待つ者と、一緒にスタートラインに立ってあげる者。僕は勿論後者です。ぐずってる子の手を取って、さあこんな道があるよ、安心してと手を振って見送る。あなたは前者だ。高みに立って、ここまで来いと激励する。強い子があなたに惹かれるのも解りますよ」
「俺達は、あいつらと一緒に走ってやるべきなんじゃないのか?」
「驚きだ。あなたウマ娘と一緒に走れるんですか?」
「そりゃあ……まあ、無理だわな」
「でしょう?どちらかなんですよ僕達は。待つか、見送るか。僕達がその役目をしっかりこなさなければ、ウマ娘達が道に迷ってしまう。あなたは変わらずいればいいんじゃないですか」
「……」
「まあお考えは色々あると思います。でも今のままだと消化不良を持て余したテイオーがこっそり目の届かない所で無茶して怪我しますよ。出来る範囲で、しっかりかまってあげてください。僕に被害が出てます。」
「……全く、俺もバカな男だ。まさかお前みたいなのに諭されるなんてよ」
「ほんとですよ。反省してください。僕に人間性で指導されるとか成人男性として心底恥ずべきことですよ。未来あるウマ娘を指導する立場にある人間だという自覚は無いんですか?」
「ちげえんだわ。そういうノリが欲しいんじゃねえんだわ。ここはな?俺がちょっと捻くれた感じでお前の事褒めてんだから『はは、あなたも厳しい事を言いますね』ぐらいの感じで返してくれればいいんだって。お前が一気に攻勢に出るタイミングじゃねえんだよ!」
「ちょっと酔いが回って来たんでよく解らないですね。……あ、それよりこれ。どうぞ」
「あ?なんだこれ。お前のスマホか?」
「テイオーと通話、繋がってます」
「いつから!!!」
「ビール1杯目頼んだ時からですね」
「最初から!!!!!」
悲鳴を上げるおっさんにスマホを押し付けた。耳を近づけなくても解るぐらい、テイオーがぎゃんぎゃん騒いでいるのが解る。隣で通話を始めた2人を他所に、僕はぐいっと酒を飲み干すと店員さんを呼び新たな注文を告げる。労働の汗を流した後に飲むお酒は2倍美味しい。さらにそれが他人の金で味わえるものだとすればさらに10倍美味しい。つまり美味しさは200倍になるという訳だ。そう、お察しの通り僕は暗算が得意である
僕は隣から聞こえて来るこっぱずかしいセリフを聞こえないフリをしながら……いや、実はこっそり録音している。後でもし割り勘だなんて言われたらこれをチラつかせてやるつもりなんだ。
何はともあれ、彼らは無事元通りの関係性に戻るだろう。それをただ今は祝う事にしようかな
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「ちょっ、おじさん!かくまってよぉ!トレーナーがー!」
「逃がさねえぞテイオー!練習だ練習ゥ!脚の負担が低くて、ケガしにくい身体も作れるメチャクチャキツイのを考えてきてやったぞ!今日は絶対泣かせてやるからな!」
「そこまで求めてないよー!!!」
やれやれ。彼らのドタバタに巻き込まれるのはもうこりごりだよ
「……トレーナー。あんたなにやってんの?」
「あれだよ。こうして黒い板に穴開けて顔出してると、ほら。ギャグアニメの落ちみたいな演出に見えないかな?」
「……見えるわね」
そういう訳で、まあ無事に落ちがついたという訳だ。僕とスカーレットは引きずられていくトウカイテイオーを見送った
「レース出たがるから走らせてはやりたいけど、勝てる為のトレーニング続けてたらなんかケガしそうだな・・・現状維持で様子見させたい。勝てるか微妙だけど、今は経験を積むだけで我慢して欲しい。」
「なんかトレーニングも緩いし、ガンガン来てくれないし放っておかれてる気がして嫌だな」
これだけの話です。ちなみにテイオーは有マで負けた際に『無敗』の夢は破れていますが、それでも三冠をストレートで取れたのとこれからの王冠を増やす事に燃えているのであまり引きずっていません。高い壁を乗り越える事にやりがいを感じている、ぐらいのメンタル面という設定です
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