でもお風呂の温度は高めにして入るのが好きですわ
みなさまはどうでしょうか
暑中見舞い
海と山に囲まれた自然豊かな土地に作られたリゾート型研修施設〈スペースロッジ神浜〉。金に物を言わせて自然を切り開き、広大な土地にいくつもの豪華な宿泊施設とレース場を模したトレーニングコース。トレセン学園の生徒達を受け入れるのに適した環境が整っている
早朝学園を発ったバスに揺られること数時間、ようやくせまっ苦しい座席から解放されたウオッカは眠い目をこすりながら大きく伸びをし、雄大な自然の空気を肺一杯に取り込んだ。都会ではギラギラと照り付けるだけだった不快な日差しも、ここでは爽やかな風のおかげか随分マシに思えた
「へっ。ここが今日から俺達の修行の場って事か。くーっ!なんかやる気出てくるよな!なあスカーレット!」
「ふんっ。そ……そうね」
「あん?」
一緒にバスから降りて来た友人に声をかけるも、彼女はそっぽを向いたままだ。返事も適当で棒読み。張り合いのない態度に不満を覚えたウオッカはスカーレットの前に回り込むと腕組みをしながら睨みつけた
「おいなんだよ、気合足りてねーんじゃねえのか?」
「はぁ?そんなことないわよ!私もぉおっwwwダメwwwこっち見ないでwww」
「は!?何がおもしれーんだよ、俺は真面目に___」
ウオッカはそこでぐっと口を閉じて隣を向いた。するとこちらをちらちらと見ていたクラスメイト達が自分を見るなり全力で顔を逸らしたではないか。その肩は不自然な程揺れている。ウオッカは嫌な予感が浮かび、自分の顔を手でぺたぺたと触りながらお腹を抱えてうずくまっているスカーレットに迫る
「おいスカーレット。お前、手鏡持ってるよな?」
「んんっ。ごめん、今はちょっと持ってないわ。いやホント」
「こっち向いて俺の目を見ろ」
「……ふふっ!」
「おいスカーレットォ!目を見ろっつったよな!なんで今俺のおでこ見たんだ!?俺の顔になんか書いたな!?」
「あははははっ!違う違う、アタシじゃないって!違うの!やめなさいって!あははは!」
スカーレットの肩を掴んでぐいぐいと振り回すが、彼女はげらげらと笑うだけだ。ウオッカは怒りで顔を赤くしながら周りのクラスメイト達に詰め寄る
「誰だよ!?つかなんて書いた!?」
「いやいや私じゃないって。知らない知らない!」
「あたしも知らなーい。でも水性ペンだから大丈夫だよ。知らないけど」
「知ってんじゃねーか!くっそー……!覚えてろよオマエら!」
「はぁ……ふぅ……あーおかしい……。ほらウオッカ、ウエットティッシュあげるから。これで拭きなさいよ」
「おう。……つか見てたんなら止めろよ。隣の席だろ」
「バカみたいに大口開けて寝てるアンタが悪いのよ」
「しょーがねーだろ。なんか昨日あんまり寝れなかったんだよ」
「遠足前日の小学生じゃないの」
「うるせぇよ!お前だって何回も荷物のチェックしてたろ。妙にそわそわしてて情けねーったらありゃしねえぜ!」
「してないわよ!」
(まーたケンカだよ)
(バスの座席も自由なのに自然と隣同士に座る辺り、仲良いんだか悪いんだか)
そんな事を考えながらクラスメイト達は慣れた様子で言い合いを始めた2人を宥めると、荷物を持ち教師の誘導に従って移動を開始した
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「夏合宿は遊びではありません。……いえ、失礼。楽しむな、と言っているのではありません。しかし地に足がついていなければ成長では無くケガへと繋がります。そこで、皆さんには今一度自分達の立場というものを再確認していただきたい」
凛とした声が響く。石畳が敷かれた広場でトレセン学園中等部の1年生達はクラス毎に綺麗に整列し、静かに話を聞いていた。学年主任の高橋先生は流れる汗を気にも留めず、厳しい表情でぐるりと学生達を見渡した。彼女はトレーナー資格は持たないが、ウマ娘達の学園生活がより良いものになるよう尽力しているベテランの女教師だ
トレセン学園の生徒達は個性的だが、礼儀知らずではない。こちらが紳士的な対応をすれば誠実な態度で返してくれる。その信念を持っている高橋は、決して高圧的にならない態度で丁寧に言葉を紡ぐ
「この宿泊施設は、トレセン学園が貸切っています。皆さんが利用するであろう練習場所も、全て貸し切りです。トラブルを避ける為です。一般の利用者はいませんが、この1か月半の間には様々な取材や見学の方々がいらっしゃいます。そんな方々から見れば、あなた達は『トレセン学園所属のウマ娘』なのです。
皆さんは未だデビューも果たしておらず、自分の事など誰も見ていないと思っているのかもしれません。しかしその認識は今日を以て捨てなさい。誇りあるトレセン学園の生徒であると胸を張って、全力で取り組んでいただきたく思います。よろしいですね?」
「「「はいっ!」」」
一糸乱れぬ力強い返事が広場を埋め尽くした。学年主任は満足そうに小さく頷き、話を再開した
「今日はこれから各自の宿泊施設へ移ってもらい、荷物の整理をしてもらいます。どの建物にどのチームが宿泊するかは事前に配った資料に書いてある通りです。
その後チームで行動するウマ娘は各チームリーダーの指示に従ってください。未所属の子は荷物を置いて1時間後にまたここへ集合して下さい。その後の行動を指示します。今日はあくまで移動日という事で恐らくどのチームも練習は行いませんが、それでも気を抜きすぎないように。
前日からこの施設に移動して、あなた達の為に準備を行ってくださっているトレーナーさん方も大勢いらっしゃいます。彼らの期待を裏切らないよう、節度ある行動を___」
その時、広場に面して建てられた建物の1つ。学園スタッフ達が宿泊していると説明された施設の自動ドアが開き、アロハシャツを着た数人の人間達が姿を見せた。手にはサーフボードやビーチボールを持っている彼等は談笑しながら歩いていたが、目の前に1年生と学年主任がいる事に気付くとぴたっと動きを止めて素早くUターンして建物へと戻って行った
「___ごほん。皆さん、話を続けます」
「一般のお客さんっていないんじゃなかったけ?」
「ホテルのスタッフさんかな……?」
「いや、ウチ見たことあるよ。あれ確かどっかのトレーナーさんだ。」
「静 か に」
シン、と空気が凍る。学年主任は1つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。しかし開きっぱなしの自動ドアの向こうから聞こえて来る騒がしい声を、ウマ娘の素晴らしい聴力はばっちりと聞き取ってしまう
「ちょちょ、もう1年生着いてるじゃん!誰だよまだワンチャン遊べる時間あるとか言ったヤツは!」
「良い波来てたのに……。でも怒られそうだし、戻って着替えとく?どうする?」
「裏口から出ればワンチャン!ワンチャンある!サーフィンしたい!!どうせ明日から休みなく働くんだから!!!遊びたい!!!!!」
「まだ諦めないその姿勢、頭が下がるな……。俺も同行し___」
ウイーン、という電子音と共にドアが閉まった。広場には風が吹き抜ける音とセミの鳴き声だけが響く
学年主任は静かに額に手を当てて少しの間黙り込むと、何もなかったかのように再び話し始めた。学生達は額に青筋を浮かべている学年主任の機嫌をこれ以上損なわない為にも、非常に大人しく静かに話を聞くことにした
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ムーンシャインのメンバー達は荷物を宿泊部屋に置くと建物内の会議室に集合してミーティングを行っていた。しかし会議室にはムーンシャインのメンバーだけでなく、同じ建物に宿泊する他のチームのウマ娘やトレーナーの姿もあった。どれもムーンシャインと縁がある顔見知りのトレーナ達で、効率よく助け合いながら合宿を行おうと言う共通の意志の下に集っていた
「___という訳で、同じ施設を利用する者同士協力してよりよい合宿を作り上げましょう。以上で私の挨拶を終わります」
ぺこりと頭を下げて女性トレーナーが挨拶を締めくくる。ぱちぱちと拍手が送られ、次に挨拶するべき者に視線が集中する。視線を受けて立ち上がった若い男性トレーナーが自己紹介をするのを聞きながら、スカーレットは何気なく視線を走らせた
「……?」
スカーレットはその時ようやく気付いたのだが、トレーナー達が並んでいる列の一番端には大和が座っている。しかしその1つ手前の席に、見覚えの無いウマ娘が1人座っていたのだ。透き通るような白い髪と白い肌が病的なまでの儚さを演出しており、髪の間から見える切れ長の瞳は青く光っているようであった。
初めて彼女を見る者は様々な物を連想するが、抱く印象自体は同じである。ただ、美しいと。そう感じるのだ
銀色の光の線を束ねた立体映像でも見せられているようで、本当にそこにあるものなのか確信が持てない。幻想的な雰囲気を持つウマ娘にスカーレットは一時視線を奪われてしまった。次のトレーナーが挨拶を終え拍手を受けるのと同時に我に返り、隣に座るセイウンスカイに小さな声で質問した
「あの、スカイ先輩……」
「んー?ああ、そっか。スカーレットとウオッカはまだ顔合わせた事ないんだっけ。多分自己紹介してくれると思うよ」
遂に彼女に順番が回った。ふわりと音も無く椅子から立ち上がった彼女は、しかし何も語らずぐるりと視線を這わせると小さく頭を下げて再び椅子に座ってしまった。拍手をするべきか困惑する学生達を他所に、最後の1人である大和がのんびりとした動きで椅子から立ち上がった
「ああ、失礼。彼女___ああ、初めて会う人もいるだろうが、彼女はムーンシャインのサブトレーナーであるホワイトレイヴンだ。以降お見知りおきを。彼女は素っ気ないのではなく、本当は皆に色々な想いを語りたいと思っているんだ。しかし少し事情があってね……。今、話す事が出来ないんだ」
大和は一度言葉を切って言うか言わないか迷っている様子だった。彼女と初対面のウマ娘達は、彼女が抱える深い事情を聞き逃さないようにと姿勢を正して神妙な態度を取る
「実は、昨夜前日入りしていたトレーナー達で浜辺で打ち上げを行ったんだけどね。そこでちょっと騒ぎ過ぎたせいで、彼女声が枯れてしまったんだ。また元気に喋れるようになったら改めて挨拶をさせるから、今日は勘弁して欲しい。その分僕が喋らせてもらうよ」
白い髪を持つウマ娘、ホワイトレイヴンは気まずそうに顔を下に向けた。彼女と初対面のウマ娘達の中で『神秘的な白銀のオーラを持つウマ娘』から『なんかちょっとアレなウマ娘』に評価が下方修正された
「さて。各トレーナーの皆様方がお熱い語りを披露してくれた手前僕も何かしら長々と喋らねばと台本を用意してきたのだけど___失礼、どこかに置いてきてしまったらしい。だから適当に思い付くことを喋ろうかな」
くすくすとした笑い声が部屋に零れる。先ほどまでの緊張感が薄れ、部屋はどこかゆるりとした空気に変わっていた。大和も小さく笑うと、いつもの調子でゆっくりと話し出した
「僕の事を知らない子はいるかな?いたら手を挙げて欲しい。……ああ、大丈夫そうだね。うん、僕も皆の事は知っている。だから挨拶は止そう。
さて。この夏合宿、得るものは多いだろう。流した汗と涙の数だけ君達は強くなれる。そうなれるよう各トレーナー方が頑張ってくれるからね。ただ……忘れてはならないのは、君達は学生である事。そしてこの時期は、本来夏休みだという事だ。つまり君達は頑張るのと同じくらい遊ばないといけない訳だ」
やれやれ、と言った空気が横に並んで座るトレーナー達から立ち昇る。しかし誰も口を挟まず椅子に座ったままだ。安心したように大和は胸を撫で下ろした
「ふむ。怒られなかったから話を続けようかな。……ああ、1年生の皆が『この期に及んでまたそれか』って顔をするのもよくわかるよ。ただね、明日からの生活は君達にとって本当に過酷なものなんだ。実際毎年何人かは脱走者が出るからね、この合宿は」
誰かが息を呑んだ音がした。大和はいつの間にか笑顔を消し、それなりに真面目な顔で言い聞かせるように話をしていた
「夏合宿は素晴らしい取り組みだよ。学生の身分である事を忘れ、本当に練習だけに意識を集中できてしまう。しかしあまりに自分と向き合えてしまうばかりに、自分が次に進める者なのか、ここで終わってしまう者なのかが洗い出されてしまう。真面目に打ち込んでいたばかりに、耐えられなくなって逃げてしまう子もいるんだ
成長の為と自分を追い込んで練習をする子もたくさんいる。ただ、逃げ場のない厳しい環境は君達を意図せぬ深さまで追い込んでいくんだ。これで壁を越えられればいい。でも壁に当たってそのまま……終わってしまった子もいる。どれだけ目を光らせているつもりでも、そういった子が出てしまう年もある」
彼が穏やかな口調でそう言ったのを聞いて、初めて合宿を経験する何人かのウマ娘達が肩をびくりと震わせた。過去に思う所があるのか、少し目を伏せたウマ娘とトレーナーも居た
「……さて。僕が話した事の意味は察してもらえたかな。つまりまあ、思いっきり入れ込んで打ち込んでもらうのはいいんだけど、やりすぎはよくない。だからしんどくて逃げたくなったら僕の所に来て欲しい。サボらせてあげるからね。だから安心して限界まで潜ってくれ。溺れないように見ていてあげるのがこの横に座っているトレーナーの皆様方の仕事だ。学園に居る時と変わらず、安心して任せてくれればいい。彼等に。彼等にね?」
言葉を切って、大和はぐるりと視線をめぐらせた。いやお前も頑張れよ、と厳しい視線が横に座るトレーナー陣から飛んでくることなど毛ほども気にしないといった晴れやかな表情で彼は大きく1度手を叩いた
「少し怖い話になったかな。でもこれを頭に置いておいてくれたら、君達はこの夏合宿をとっても楽しめる筈なんだ。……さあ!合宿を始めようか」
ぱっと手を開くと、そこにはいつのまにかクラッカーが握られていた。白い紐を引くとぱすんと景気の良い音を立ててカラフルなテープが飛び出した。少し遅れて、ぱちぱちぱちと賑やかな拍手が彼に応えた
大きく成長しようと息巻くウマ娘もいる
自らの事は後回しに、後進を育てる事に集中するウマ娘もいる
リゾート施設を満喫し、遊ぶ事に重点を置いたウマ娘もいる
そしてこの夏を最後と決めているウマ娘もいる
様々な想いが込められた夏合宿の幕が開いた
合宿の練習も始まってないのに1話終わっちゃった!大丈夫かな!尺!
ホワイトレイヴンさんは未だ登場していなかったもう1人のサブトレーナーさんです。練習メニューとか考えてくれてるオリジナルウマ娘です。学生ではなく、成人してます。詳しくは次回以降です
ヒシアマさんとフジさんのガチャ来ましたね!どうでしたか!私は駄目でした!
あ、ゴールドシチーさんは10連1回で引けました(笑)
次回!スカーレットとウオッカ、遂にレース練習解禁!さらに水着回!かも!