夏休みっぽいイメージを浮かべながら眠りにつくととても楽しい夢を見る事ができます!しかし目が覚めた時の反動がとても強く、心の弱い方はショックで起き上がれないかもしれません!
酒だよ酒。社会人の夏休みはこの黄金の泡の中にしかねーんだよ
解説さんが!解説さんがダメに!なんとかしてくれミキリハッシャマン!そんなこんなで夏合宿回が続きます!!
『枕が変わると眠れない』という言葉があるが、つまり裏を返せば愛用の枕さえあればどこででも眠れるということだ。僕はそれをまさに実感している。ムーンシャインのトレーナー用に用意された会議室のソファーに横になり学園から持ち込んだ枕に頭を預け、心地よい眠りを楽しんでいた。
勘違いして欲しくはないけれど、ちゃんとした宿泊用の部屋も用意してもらっている。ただそこはあまりに居心地が良すぎてただでさえ少ない仕事に対してのやる気が全て消滅してしまう恐れがあったのだ。なのでこの部屋に荷物を持ち込んで合宿期間を乗り切る事にしたという訳だ
「おじさんおじさんおじさん!起きて起きて!」
「……やあテイオー。おはよう」
「うん、オハヨー!」
まあいくら使い慣れた枕があったとしても意味がない時もある。例えば元気いっぱいのウマ娘に叩き起こされた時なんかは
「つかぬことを伺うけれど、今は何時だい?窓の外は真っ暗に見えるけど」
「4時だね」
「午前4時かい?」
「午前4時だね」
今回のお話のタイトルを読み返してみると『大和サブのささやかな休日』と確かに書かれている。つまりきっとこれは夢なのだろう。そうあって欲しい。そうあってくれ。せめて日の出までは僕を寝かせて欲しい
胸を張っているトウカイテイオーの格好は黒の長袖のアンダーシャツの上から白いTシャツを重ね着している。下も長袖のジャージだ。何故真夏なのに長袖なのか?それは手に持った虫網と虫かごを見れば容易に推測が立つ。恐らく彼女は虫取りに行きたいのだろう
「うん、虫刺され対策に長袖とはいい心がけだね。足元は暗いだろうから気を付けるんだよ?」
「えーなんで他人事なのさ。おじさんも行こうよ!大人の付き添い無しで夜中に出歩いちゃだめだってカイチョーに言われちゃったんだよー」
「素敵なお散歩にお誘いいただけるのは光栄だけど、君には轟トレーナーがいるじゃないか。彼を誘えばいい」
「こんな時間に起こしたら怒られちゃうじゃん」
何言ってんの?と呆れた顔をする。確かにこの時間に叩き起こされて怒らない人間はいない。彼女はしっかり常識を理解している。何故僕にはそれを適応してくれないのかという疑問が1つ残った訳だけど、まあ彼女の中でもしかしたら僕は同級生の友達くらいの認識なのだろう。ふむ、それはそれで嫌ではないな。僕は眠い頭を持ち上げて彼女と向かい合った
「ねぇ行こうよ。付き合ってくれるのおじさんだけなんだよ。ねーねー」
「いいとも。夏の明け方を出歩くのは久しぶりだ。楽しみにさせてもらうよ」
シャツの上から薄手の上着を羽織り会議室の電気を消して廊下に出ると、目の前の壁にもたれかかるようにしてスペシャルウィークが立っていた。テイオーに似た格好をして手には虫網を持たされているが、その目は半分白目を剥いており完全に寝落ち寸前だ。テイオーは彼女に駆け寄って激しく肩を揺らす
「コラスペちゃん!こんなとこで寝ちゃダメだよ!」
「ふがっ、寝てません!あ、大和さんおはようございます。」
「やあおはようスペ。眠いなら寝ておいで。テイオーには僕が付き添うから大丈夫だよ」
「いいえ大丈夫です!テイオーさんのお誘いを断るわけにはいきませんから!」
「やれやれテイオー、パワハラかい?先輩とはいえよくないなぁ……こういうのは」
「ウェー違うよ!いや確かに誘ったんだけどさ、無理はしないでいいよってボク言ったもん!」
スペシャルウィークは根っからの真面目で友達思いな性格だ。他の誰も付き合わないテイオーを可哀想に思いせめて自分だけは付き合ってあげなければと使命感に燃えているのかと思った。でも彼女自身、結構楽しみにしているのかもしれない。それであれば止めるのではなく、できるだけ補助をしてあげればいいだろう。僕はそう思った
玄関ロビーで近くの森を軽く散策してくる事を受付の女性に告げて僕達は外に出た。まだ太陽は出ていないものの空は闇の中に淡い光を僅かに混ぜたような紺色へと染まっており、灯りを使わずとも歩くのに支障は無い程度には明るくなっていた
昨夜のうちにいくつかの木にはちみつを塗りたくっておいたらしい。先行するテイオーの案内についていくと、成程あちらこちらに虫が集まっている。僕はそれほど虫は苦手ではないがこの様子は見る者がみれば顔をしかめるだろう。
ああ、確かエアグルーヴなんかは虫が嫌いだったっけな。昔花壇の管理をしている時目の前に現れたカマキリにびっくりして本気の悲鳴を上げ周囲に居た友人達にケガでもしたのかと心配されたものの、虫に驚いただけだと言い出せずもごもごしているという面白おかしい事になっていることがあった
まあこの話は秘密にしておこう。絶対に蒸し返すな、と厳重に釘を刺されている。……『ムシ』かえすな、とね。虫だけにね。うん、僕も少し眠いものだから変な事を考え付いてしまった
「あー、確かにエアグルーヴは虫苦手だもんね。うひひ~カブトいっぱいとれたら枕元に置いといてやろっと」
「ふむ。そんなことしたら砂浜に埋められてスイカ割りのスイカ役をやらされるだろうね」
「冗談だってば。……うーん、いるにはいるけどちっちゃいカブトしかいないなぁ。スペちゃーんそっちはー?」
「はいっ!一匹大きいの捕まえましたー!」
嬉しそうな声を上げながらでっかいクワガタを手に持ったスペシャルウィークが走り寄って来て、僕が持っている虫かごにその子を入れた。プラスチック越しに観察すると、実に見事なクワガタがしゃきしゃきと顎を動かしている。久しく目にする機会は無かったが、こうしてみると僕の中に残る少年心が呼び覚まされるようだ
それから1時間程粘って遂にテイオーのお眼鏡に叶うサイズのカブトムシを捕獲する事が出来た。テイオーは誇らしげにかごを覗き込んでいる
「うーんいいツノだ……。まさに三冠ウマ娘に相応しいカブトと言わざるを得ない……」
「まさに三冠カブトムシですね!テイオーさん!」
「なるほどスペちゃん良い事言うねぇ!」
はしゃぐ2人のよく解らない会話を聞きながら僕達は建物へ向けてぶらぶらと歩いた。東の空では黄金の光が空の黒を押しのけながら顔を出している。眩しい光に目を細めながら、テイオーとスペはうーんと大きく伸びをした。
「いやー眠いねぇ。帰ったらご飯の時間まで寝ようっと」
「テイオーさん、虫かごどうしましょう?」
「とりあえず部屋に置いとこうよ。あとで土とか木の枝とか拾ってお家を作ってあげよーよ」
「了解ですっ。あ、大和さん!朝早くからありがとうございました!」
「ありがとねーおじさん!あとで海で遊ぼ―ね!」
ばいばーいと手を振って2人は上階の自分達の部屋へ戻って行った。僕はそれを見送ってから自分の部屋へと戻ろうとしたのだが、丁度すれ違うようにしてライスとタイシンが上から降りてきた。僕の姿を見たライスが明るい笑顔でとてとてと駆け寄ってくる
「お兄様、おはようっ」
「ああ、おはようライス。タイシンもおはよう。早いね2人共」
「ん、おはよ」
短パンのポケットに手を突っ込んだタイシンが挨拶を返してくれる。2人共半袖短パンの軽装だが、スニーカーを履いていて外を出歩ける恰好をしている。今日は休息日という事で走るのは控えるよう指示が出ている筈だけど、散歩だろうか?そう尋ねるとライスは楽しそうに頷いた
「目が覚めちゃったからタイシンさんと朝ごはんの前にお散歩に行こうって話になったの。お兄様も一緒に行こ?」
「ああいいとも。お邪魔でなければね」
再び外へ出て先程の森では無く海辺を歩く。煌めく海面は一枚のビロードのように波打ちながら美しく輝いていた
「アンタ朝から何してたの?テイオーとスペ虫あみ持ってたけどアレと一緒だったの?」
「ああ。大きなカブトムシとクワガタを一匹ずつね。上々の戦果だったよ」
「元気だねあの子ら……」
呆れるように、それでも楽しそうに呟いたタイシンは足元の小石を拾って海へぽいっと放り投げた。ぽしゃんと間抜けな音を立てて小石は海へ沈む。ライスも真似して小石を拾おうとしたが、目に止まったのは小さなうずまき貝。薄い桃色のそれを手にして興味深げに見つめているとその中からやどかりがぬっと姿を現した。
ライスは小さな悲鳴を上げて貝殻を取り落とすと僕の身体に縋りついて来る。可愛らしい事だが、その時丁度僕も綺麗な石を拾おうと屈んでいたところだったのだ。つまり残念な事に、僕は彼女に吹っ飛ばされるように輝く朝の海へ身体を投げ出す事になった訳だ
「あー!?お兄様ぁー!ご、ごご、ごめんなさいぃぃぃ……!」
「やあライス、お気になさらず。ポケットは空だし、僕は泳ぐのは好きだ」
「あーあ……。大丈夫?」
「いやおかまいなくタイシン。せっかくずぶぬれだ、ちょっと涼んでいくよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい!ライス、悪い子だー!」
何を思ったかライスも僕の横に身を投げ出すようにしてざっぱーんと派手な音と共に海へ突っ込んだ。ずぶぬれになって身を起こした彼女はふるふると顔を振ると僕の方を向いて遠慮がちに笑う
「これで五分五分……だね?」
「確かにその通りだねライス。一緒に朝の海水浴を楽しもうじゃないか」
「うん!お兄様!バカンスだね!」
「タイシン君も一緒にどうかな?」
「は?……さっさと帰るよバカんズ2人。朝ごはんまでに風呂入って着替えてきなよ」
手を取り合って海を楽しもうとしていた僕とライスだったが、タイシンに引きずられるようにして建物へ戻る事になった
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ああ、今日はいい天気だ。夏の砂浜には香ばしい匂いが漂っている。日差しで砂が焼かれ、それが潮風と混ざり合う事で産まれる独特の匂いは遠い子供の頃の記憶を蘇らせる。そんな懐かしさに浸りながら飲むビールはきっと格別だろう。楽しそうに遊ぶ少女達の様子を眺めながらであれば格別だ
「……なによ」
僕の目の前に立つ彼女は腕を腰に当ててフンと胸を張っているが、視線はちらちらと落ち着かない。自分の持つ魅力に自信はあるがそれ以上に気恥ずかしさが勝つのだろう。彼女は顔を僅かに赤くさせながら耳をぴこぴこ動かしている。僕は一度太陽を見上げた。真夏の太陽の持つ熱量は人を狂わせ破滅させる。それを魅力的と歓迎するか、災害と忌避してしまうかは各々の自由だろう
「つまり何が言いたいのかと言うと、だ」
「……」
「1番だ。スカーレット、君が1番だよ。間違いなくね。太陽など比べるに値しない程に美しく情熱的で、何より未だ未完成であり可能性に満ちている。ああ……素敵だよ。心からそう思う」
「~~~そうっ!まあ当たり前だけど、ありがとっ!」
青のビキニ水着。胸周りをふわふわとした水色のフレアで彩っている。彼女のスタイルは言うまでもなく……言うまでも無い。いやほんと。細かく描写すると逮捕されるかもしれない。彼女が去年まで小学生だった、などと言って信じる人間は少ないだろう。彼女の魅力に関してこれ以上述べるのはやめよう。ただ、1つ。美しいのだ。それだけが伝わればいい筈だからね
「勿論ウオッカもよく似合っているよ。君の求めるカッコよさが上手く出ていると思うよ」
「おう、サンキュな。あんま解んねーからスカーレットが選んだんだけど、まあ悪くねーな。動きやすいし」
身体を動かしやすくする事を前提に、上半身はピッチリとした黒のラッシュガード風の水着。下半身もパンツタイプの黒で合わせ一本入った白いラインがカッコよさのポイントなのだろう。自慢げにうっすら割れた腹筋を僕に見せてくれた
その後2人は浜辺で行われているビーチバレーの試合に混ざる為に去って行った。僕は砂浜に立てたパラソルの下でごろりと椅子に寝転がりその様子を眺める。全てが上手く回り、順調だった。
「ちょいと大和サンや」
「はいさいネイチャ。どうしたんだい?」
「あたしもさぁ。先程僭越ながら水着の感想をお伺いした訳ですよ。その際仰ったお言葉覚えてます?」
「さて、どうだろう。僕の心から湧き上がる感情を即興で言語化したからね。言葉を繰り返すのは難しいかもしれない。ただ、君を魅力的だと思った事に違いはないさ。可愛いよ」
「ふーん。あ、ライス先輩。ちょっとこっち」
「うん、なぁに?」
黒いドレスを模した水着を来たライスが砂浜をサンダルで踏みしめながらこちらへ駆けて来る。ネイチャがライスの大きな黒い耳に口を寄せて何事かを囁いた。ライスはふんふんと小さく頷くと目を細めながら両手を前で合わせて、甘えるような声で僕に話しかけて来た
「お兄様。ライスの水着、どうかな?」
「ああ、よく似合っているよ。黒い布地の中に青い花の柄が薄く編み込んであるのがいい。君の為に作られたような水着だね。ビーチに現れた小さなお姫様といったところだ。ああ、素晴らしいよライス」
「ありがとうお兄様!それじゃあ、ネイチャちゃんとどっちが似合ってるかな?」
2人は並んで僕を見つめて来る。ネイチャの水着は上下に分かれたシンプルなフィットネス水着の上からカラフルな薄手のTシャツを着て腰口をおしゃれに結んでいる。いつもの耳飾りは外しているのがなんとも新鮮だ
「ふむ?どちらが、というのはやぶさかだね。君達に優劣をつけようなどといった考え自体が僕には浮かばないよ」
「でもスカーレットちゃんは一番なんだよね……。ライスもネイチャちゃんもお兄様の一番じゃないんだね」
「さっきは美しさに優劣は付けられないとか言ってたよねぇ?でもスカーレットにはあっさりお熱な訳だ。まあでっかいもんねぇ色々と」
突き刺すような言葉が飛んでくる。僕は思わず両手を挙げた
「ライス。ネイチャ。何度も言うように僕は宝物に順列を付けるような無粋な事はしない。ルビーとサファイアの美しさに優劣が無いように、あるいはカレーライスとラーメンに順位が付けられないようにね」
僕は自信たっぷりにそう言ってのけたのだけど、2人は「ふーん」と言うとそれ以上何も言わない。ひりひりとした空気が漂う
「解ったよ、解った。確かに僕はカレーライスとラーメンならちょっとだけラーメンの方が好きだ。でも君達はカレーでもラーメンでもない。ただ1人のウマ娘、ナイスネイチャとライスシャワーだ。僕がどれだけダイワスカーレットを愛したとしても君達への愛が減る事はないよ。2人共僕の大切な友人であり、可愛らしい少女だとも」
再びふーん、と返事が返ってくる。しかし不機嫌な様子では無かった。2人のしっぽはゆるゆると揺れている
夏の日差しがじりじりと照り付けていた。ふと視線を遠くへやると、ビーチバレーを楽しんでいるスカーレット達が手を振っている。どうやら僕を参加させる気らしい。申し訳ないがウマ娘達の全力ビーチバレーは加わるには少しハードルが高い。気付かないフリをしようと再び椅子に寝転がるが、ライスとネイチャが僕の手を取って立ち上がらせた
「おっと?」
「ま、たまにはいいんでない?」
「お兄様、遊ぼ遊ぼ!」
「うーむ。手加減を頼むよ」
とても楽しそうな彼女達に水を差す訳にもいかず、僕は微笑んで覚悟を決めた
※セイウンスカイちゃんは去年同級生の前で大和サブに水着姿を褒め倒されたのがトラウマなので用心して姿を見せに来てくれません
※ホワイトレイヴンさんは飲み過ぎで部屋で潰れてます
※一回で夏休暇回が終わらなかったので次回にも続きます