プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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暑い日が続きます今日この頃。いかがでしょうか



わたくしは水着スカーレットが育成キャラではなかったので財政破綻せずに済みましたわ



危ない所でした



スペちゃんマルゼンさんは石の限り回しましたが、ダメでしたわ。涙を呑んで眠りますわ



あと今回も大概長いですわ




暑中見舞い


飛べない白い鳥

「では各自気を付けて作業に入るようにな。解散」

 

「「「はーい」」」

 

 

 エアグルーヴの号令で各自がテーブルに散っていく。

 

 宿泊施設傍の屋外に建てられた吹き抜けの炊事場。柱で支えられた大きな屋根の下にいくつかのテーブルとそれぞれに対し1つのかまどが用意されており、大勢で野外炊飯を楽しむ為の設備だ。

 

 普段練習後の食事はスタッフが用意してくれるが休息日の夕食はレクリエーションも兼ねて何人かでグループを組み、それぞれ作りたい料理を作る。かまどくらいしかないのであまり本格的な料理はできないだろうが、だからこそ各自の発想や工夫が試されるという訳だ。普通の学生でいうところの修学旅行や林間学校も兼ねている夏合宿なので、これも立派な教育の一環と言う訳だね

 

 

 僕の役割としてはテーブルからテーブルに渡り歩き、皆がケガなくあるいは衛生的に問題なく調理できているかを確認する事にある。僕は最初にエアグルーヴとネイチャ達が作業をしているテーブルへと移った。無言でかまどの火を調節しているタイシンの邪魔をしないよう静かに歩きながらテーブルへ目を向ければ、何人かがこちらに気付かず忙しそうに作業に当たっていた。声をかける前に少し小腹が空いていた僕は懐からマイ箸を取り出し___

 

 

「こらっ。やめんかみっともない」

 

 

 箸を握った僕の手は作業に集中していた筈のエアグルーヴの優しいチョップによりぺしっと撃ち落された。蚊も殺せないような優しい一撃ではあったが、僕の心は少々傷ついた。みっともないとは一体どういうことだろうか。もしかしたら彼女は勘違いをしているのかもしれない

 

 

「やぁエアグルーヴ。これはだね」

 

「これは衛生上に問題が無いかの確認だ、などと言う気か?」

 

「___ふむ。言おうとしているね」

 

「はぁ……であれば食べて確認するのはおかしいだろう」

 

「ふーむ。まさに君の言う通りだ。うっかりしていたよ。まあ少しお腹が空いていてね。うん、申し訳ない」

 

「まったく。その肉はまだ火を通しただけで味付けが済んでいない。味見をするにしても後にしろ」

 

「ならその時を楽しみにさせてもらうよ。それで今日の君達の献立は?」

 

「アタシ達はカレーだよ。ほら大和サン、らっきょうならたくさんあるからどうぞ」

 

「ありがとうネイチャ。いただくことにするよ」

 

 ネイチャが差し出した小皿を受け取り、空腹を紛らわせるため白い粒をいくつか口に放り込む。あまり皆の邪魔をするなよ、とエアグルーヴの注意を背中で聞き流しながら僕は隣のテーブルへ移動する事にした。そちらではセイウンスカイとお馴染み仲良し同級生グループ達が力を合わせて何かを作っていた

 

 

「やぁみんな。君達は何を作って……いやほんとに何を作ってるんだい?」

 

「船頭多くしてなんとやらって感じですねー」

 

 スカイはこちらを見ないまま、まな板の上にある魚の首を包丁で叩き落した

 

「まあ作るの自体は多分お鍋。何味にするかをまだ揉めてます。ハイ」

 

 スカイが肩をすくめて視線をかまどの傍にやる。僕もつられてそちらを見れば、エルコンドルパサーとグラスワンダーが鍋を挟んでにらみ合っていた

 

「激辛!激辛洋風鍋にしまショー!」

 

「エル、和風にしましょう。用意された具材は洋風の味付けがあいません。あとあなたは最近辛い物ばかり食べすぎです!」

 

「やですやです!スペちゃんも辛いのがいいですよね!?」

 

「いや私は食べられればなんでも。量があれば」

 

「スペちゃんがお腹を空かせすぎて感情を失ってマース!?」

 

 スカイとテーブルを挟んで並び立つキングヘイローとハルウララもまな板を前に何やら騒いでいる

 

「うんしょ、うんしょ。固いなぁ」

 

「ウララさん!?あぶなっ、危ない!そんな持ち方では指を切るでしょう!もう、いいかしら!?こうですこう!猫の手!」

 

「にゃーん」

 

「そうです。……いや猫の手で野菜を支えるのっ!猫の手を顔の前で構えたまま包丁を振り下ろしても意味がないでしょうが!」

 

 わいわいと騒ぐ同級生達を眺めながらスカイはせっせと自分の作業を進めている。

 

「……まあ、ここで私がボケ入れると私達の班だけ未完成になりそうだから真面目にやってるんだよ。私偉いよねー」

 

「キチンと状況を把握してボケキャラと真面目キャラを使い分けられる君の思慮深さは好きだよ、スカイ」

 

 はいはいと手を振って魚のエラを取る作業に戻ったスカイを置いて僕は他のテーブルへ視線を走らせた。そういえばスカーレットとウオッカは誰と組んでいるんだったかな。彼女達は1年生だし、もしかしたら不慣れからの事故が起きているかもしれない

 

 

「野菜全部切れたわよ」

 

「お、はえーな。んじゃちょっと火の番変わってくれ。」

 

 テキパキと動く2人を見つめながら椅子に座っているのは高等部の2人、コットンルルとワンモアダイブだ。彼女達は何もせず椅子の上で正座している。よく解らない状況に僕は困惑しながらも2人に話しかけた

 

「やあ2人共。何もしないのかい?」

 

「何もしない、をしてるんだよぉ。大和サブ」

 

「そう。私達は何もしない事で2人の役に立っているんだ。……まあ暗に『頼むから座っててくれ』って頼まれたんだけどね」

 

「ダイブはほんと不器用だからねぇ」

 

「先に指切ったのはお前だろルルっ!」

 

「わたしのミスを見て学べないダイブの方がバカなんだよねぇ!」

 

「なーにを偉そうにしやがってこのやろう!」

 

 

 取っ組み合いを始める2人の指先は絆創膏が何枚も巻かれている。まだ作業を始めてそれ程時間は経っていない筈だが。作業の手を止めて仲裁に入ろうとするスカーレット達を制し、僕はなんとか2人を宥める事に成功した

 

 

 

_____________________

 

 

 

「本当にいい夜だ。焚き火からしか得る事の出来ない温かみというものがあるとは思わないかい?マスター」

 

「それには同意する。たまにはこのような時間も必要だ」

 

 ステンレスの火ばさみで新たな薪を掴み、静かに燃える火にそっとくべる。炎に包まれた薪は少しずつ黒く焦げて行き、新たな火種へとなりゆるゆると炎をあげる。僕とマスター(ミホノブルボンのトレーナー。本名は益田君である)は缶ビールを煽りながら静かにそれを見つめた。既に1つを残して全てのグループが料理を完成させており、みな思い思いのテーブルに散らばってそれらを食している

 

 そして最後の1グループ、最後まで方針があっちいってこっちいって大変そうだったスカイ達のグループの料理が完成したようだった。疲れた様子のスカイが小皿を手に持って慎重にこちらへと歩いて来ると僕の横に座った

 

「はいよ大和さん。遅れましたがセイちゃん達特製和風ちょい辛洋風鍋です」

 

「うん、ありが___うん?なるほど?」

 

 よく解らないが取り合えず一口食べてみた。じっくり茹でられて原型を留めていない何か(恐らく白菜か大根)が口の中で弾けた。めっちゃくちゃ熱い。僕は思わず吐き出しそうになる自分を全力で押し殺し、なんでもないような表情で静かに飲み込んだ後ビールで消化してどこか不安そうなスカイに感想を述べた

 

「___最高に美味しいよ。君達の頑張りが詰まっているのが一口で解った。まさにシメに相応しい優しくも斬新で愛のある料理だ」

 

「ほんと?あーよかった。失敗したかと思っちゃった。大和さんが大丈夫っていうんなら私も食べよっかなー。……ブェアッ」

 

 

 あ、と声をかけるまもなく僕のお皿から何か(多分肉団子かロールキャベツ)をつまみ上げて口に放り込んだスカイが口を抑えてうずくまった。僕が差し出した水の入ったコップを受け取って大慌てで口に注ぎ込んだスカイが頬を赤くしながら大きく息を吐いた

 

「えなにこれ!?新手の兵器!?美味しい美味しくない以前にめちゃくちゃ熱いし辛いんだけど!ちょい辛ってレベルじゃなくない!?大和さん教えてくれないと困るんだけどな!?」

 

「いや僕は美味しいと感じたんだけどね。なにより君の愛が詰まっている」

 

「いや詰まってるのは煮えたぎった出汁なんだけど。やー失敗しちゃったなぁ、大和さん無理に食べないでいいよ?正直あんまり美味しくないでしょ」

 

「ふふ、君と友人達がみんなに楽しんでもらおうと一生懸命心を込めて作ったものなんだからね。それだけで史上のごちそうさ」

 

「……まあセイちゃんは別に愛情なんていれてないけど大和さんが勝手に思う分にはいいんじゃないですかねぇ」

 

「まあごらんなさいなスペさん」

 

「なんですかなキングちゃん」

 

「照れておられますわよスカイさんが」

 

「照れておられますねぇセイちゃんが」

 

「あー聞こえない聞こえない。グルーヴ先輩の所のカレーもらってこよっと」

 

 スカイはすっと席を立ってエアグルーヴ達が作ったカレーの入った鍋の置いてあるテーブルまで走り去っていった。もう少し彼女の耳が赤くなっていく様子を見ていたかったものだけど、まあしょうがない。僕は空になった小皿をテーブルに置く

 

「あまり彼女等をからかうなよ。子供を甘い言葉で誑かすのは大人の振る舞いではない」

 

「おいおいマスター。僕は嘘は言わないし軽い気持ちで愛を語らない。まさしく本心だよ。君だって担当ウマ娘を愛しているだろう?」

 

「……」

 

「マスター。何故口を噤むのでしょうか?羞恥ですか?それとも否定ですか?どちらなのですか?」

 

 マスターの横に座っていたブルボンが首を回して彼の方を真っすぐに向くと無機質な声でやや早口に追及をかける

 

「ブルボン。何故手首を掴む」

 

「脈拍を計測してあなたの心理状況を分析します」

 

「ブルボン。こういうのは、あれだ。誰かが聞いているような所でする話では無いだろう」

 

「他人に聞かれると困る話なのですか?」

 

「大和。お前のせいで追い込まれている。手を貸せ」

 

「君が下手にはぐらかすからだろう。思いは秘めてばかりでは腐ってしまうよ?キャンプファイヤーで愛の告白……うん、ロマンチックじゃないか。学生の時を思い出さないかい?そういえば君も高校の時クラスの女子に___」

 

「それ以上口にするなよお前!」

 

「大和サブトレーナー、話を続けてください。もしくはマスターあなたから直接聞きたい話です。詳細を知る権利が私にはあります」

 

「待て……!待ってくれ!一度クールダウンだブルボン!」

 

「私は今恐ろしい程に冷静です。マスター」

 

「お兄様、ブルボンさんのトレーナーさんと同級生だったの?」

 

「そうだよ。死ぬ程弱味を握っているんだ」

 

「お互い様だろうが貴様……!」

 

「僕はこれ以上評価が下がって困るものはない。果たして君はどうかな」

 

「お前ほんと……!この野郎!」

 

 

 とまあその後しばらく和気あいあいと楽しい談笑を行った訳だが、ふと見てみるとスカーレットとウオッカが何やら落ち着かない様子で視線を交わしているのに気付いた

 

「どうしたんだい2人共?……ああ、彼女が気になるのか」

 

「あ、トレーナー。そうなのよ。話しかけたいんだけどタイミングが掴めなくて」

 

 

 2人の視線を辿れば、成程彼女は黙々と食事を続けており馴染みの無い者からすれば確かに近寄りがたい雰囲気を発しているというのは解る。僕は席を立って彼女の傍に近寄った

 

 

「やぁレイヴン。海には姿を見せなかったね」

 

「……誰も起こしに来なかったからさっきまで寝ていたの。ずっと寝ていたからお腹が空いちゃったわ……」

 

 彼女はスプーンを置いて顔を上げ、鈴を鳴らす様な声で返事を返してくれる。喉の調子はすっかり良くなったらしく、今はウオッカ達が作ったチーズリゾットをもぐもぐと平らげた所だった

 

「彼女達が君の事を知りたがっている。レイヴン、少し話してあげてもらえるかな」

 

 レイヴンがすっと顔を上げると、何人かのウマ娘達の視線がそちらへ集まったのが手に取るように解った。彼女の事を気にしているのはスカーレット達だけではなかったらしい

 

「……そういえば去年の合宿は私は不参加だったし、殆ど学園には出ないから私の事を知らない子も多いのかしら」

 

 彼女の問いかけに静まり返ったテーブルに座る半分程のウマ娘達が頷く。流石にムーンシャインのメンバーは皆レイヴンの事は知っているが、他所のチームの子達はまあ仕方ないだろう。彼女は己の事を語るのを躊躇わないがそもそも彼女と話す機会を持つウマ娘はとても少ないのだから

 

 

「さてまずは……新入りの2人へ改めての挨拶ね。それぞれ、相当できると聞いているわ。期待している」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「うん。……後は何を喋ればいいのかしら。私はムーンシャインの練習メニューを担当している。あと見ての通りとても可愛い。美人。あとかしこい。声も良い。他に質問があれば……どうぞ?」

 

 

 空気がもやもやしてきた。まあ彼女の事を深く知らない子からすれば突っ込み辛い雰囲気だろう。葦毛と呼ばれる白い頭髪を持つウマ娘達の中でも抜きんでて『白』を強くイメ―ジさせる、ホワイトレイヴンはそういうウマ娘だ。長い髪の先は光に溶けるように朧気で、しなやかな手足に纏う石膏像のような白い肌は焚き火のオレンジ色を浴びて淡く光って見える。

 

 長身でスレンダーながらもあどけなさを感じさせる振る舞いは異性同性問わず関心を集め、何もかもを見通すような輝く青い瞳を見た物は無意識に気圧される

 

 

「あの、寝る前にネットの過去のレースデータとかを調べたんですけど……ホワイトレイヴンさんの出走歴を1つも見つけられなかったんです」

 

 スカーレットは困惑した様に口火を切った。レイヴンは何でもないように言葉を返す

 

「それはそうでしょうね。私は生まれつき身体が弱くてずっと入院していたから。私はこれまで一度もレースというものを走った事が無いわ」

 

「そう……なんですか」

 

 シンと空気が静まり返った

 

「ウマ娘にはこういう在り方もある。私は生まれた瞬間から見目麗しく聡明だったけれど、その分身体が弱かった。神は二物を与えないとはよく言うけれど、私はまさにそれを体現したようなウマ娘だったの。

 

 ただ勘違いして欲しく無いけれど、私は走れない事に絶望していない。人生に悲観していないし、己に失望もしていない。既に夢は叶えたもの」

 

 

 澄ました顔は歪まない。彼女の言葉は真実だ。彼女は何も悔んでいない。己の成り立ちも、ここに至るまでの過程も。彼女はずっと無い物をねだらず、現実と向き合い続けてきた

 

 

「……私が今まで姿を見せなかったのはこれが理由。一度もレースに勝ったことの無いウマ娘の指示を聞きたい子は少ないから。だから私は黙ってメニューを提出するだけ。それを受け入れてくれた子の所には顔を出す。卑屈だと思うだろうけど、これは私の弱さ。……儚く、美しい少女特有の打たれ弱さね」

 

 

 焚き火の爆ぜる音がぱちぱちと心地よく耳に響く。彼女と初めて話す者は皆真剣に聞いているのだろう。

 

 

 引退したウマ娘がトレーナーをやるというのはとても難しい。これは長い歴史を見ても明らかな事で、トレセン学園を見渡しても人間とウマ娘のトレーナー比率は9対1くらいだろう

 

 

 生来ウマ娘は同種間での競争本能が強い。友人として仲良くする分には問題ないが、レースが絡めば皆その本能を隠せない。レースで大きな結果を残していないウマ娘がどれだけ正しい指示を出したとしても反感を買いやすいのだ

 

 仮にシンボリルドルフがトレーナー職についたならば、どんなウマ娘も盲目的に従うだろう。だがそれは彼女が『圧倒的な結果を残している』という前提があるからだ。ああ、勿論特別に優秀で人格者であるルドルフなら例え出生を隠し名を変えて活動したとしても僕なんかよりずっと優秀なトレーナーとして名を残すだろうけれど

 

 

 身体能力で劣る人間のトレーナーとウマ娘の関係が成立するのは難しく見えるが、意外とそうでもないのだ。ウマ娘という種は人間という種に対して本能的に好意を持ちやすいし、逆も然りなのだ。そうでなければ似た姿形で中身の出力が違う二つの種族がここまで親密で平等な関係を保ったまま長く寄り添う事は不可能だっただろう

 

 ただ指導となれば流石に簡単ではない。国が認めているトレーナー資格が何故必要なのかというとウマ娘達からの『納得』を得る為だ。資格がある人間なのだから言う事を聞くべきなのだいう納得、これがなにより大切なのだ

 

 そしてそこをスタートとして、『縁』であったり『相性』であったり様々な要素から信頼関係を作り上げていく。しかし『自分のトレーナーは大した結果を残せていないウマ娘だ』という要素が入り込むと、そもそものスタートの時点で躓きやすい。ウマ娘は同種間での競争本能がとても強い故に、非常に納得を得辛いのだ。

 

 

 そんな風に思いを巡らせていた僕の思考をぶった斬ったのはスカーレットとウオッカの言葉だった。2人は迷いの無い視線で胸を張って断言してみせた

 

 

「レイヴンサブトレーナー。私、あなたのメニューで強くなれたって実感が持ててます。だからあなたにどんな事情があったとしても……あなたの指示をこれからも信じます。」

 

「俺もですよ。しんどくって、でも面白い。ウマ娘の事をホントによく見てくれてる人が組んでくれてるメニューなんだって、ずっと思ってました。だからずっと礼を言いたかったんです。……本当にありがとうございました!あと、これからもお願いします!それだけです」

 

 まっすぐな2つの視線を受けたレイヴンは彫刻のような顔を僅かに綻ばせて、笑った

 

「……ありがとう。そう言ってもらえるなら、私も今まで生きて来た甲斐があったわ。もし私があなた達がお酒を飲める歳になるまで生きていられたら……その時、祝杯を共にあげましょう」

 

 そういってレイヴンは机の上にあるビール瓶を手に取り、辺りをきょろきょろ見渡した。どうも栓抜きが欲しいらしい。しかしすぐに面倒になったのか素手でその蓋を引きちぎってコップになみなみと注ぐ。辺りからの視線がちょっと変な空気になっているのを察したのか、彼女は小さく首を傾げる

 

「……なに?」

 

「いえ、その。お体が悪いと聞いたので」

 

 遠慮がちなスカーレットの言葉にレイヴンは更に首を傾げる

 

「……ビールは身体に良い。これは科学的に証明されてるわ。それにビンの蓋程度なら病弱な私の握力でもちぎれるわ」

 

「あの、そう……ですか」

 

 スカーレット達の視線がこちらへと一斉に飛んでくる。まあ言いたいことは解るよ。僕はため息をつくと彼女が無駄にしんみりさせた空気をさっさと終わらせる事にした

 

「彼女はすっかり完治してるし、この間の定期健診でも『あと100年生きるんじゃないすかね』と主治医さんに言われた程度に健康だ。タキオンの薬が無駄に効きすぎたせいか、最近では無駄に元気になってしまった。だから遠慮しなくていいよ。昔はともかく今の彼女は都合の良いときだけ病弱アピールをする普通のウマ娘だ。従兄弟の僕が保証する」

 

「……」

 

「そんな目で見ないでくれレイヴン。楽しい夏合宿にあまり重い話もないだろう」

 

「……今から2話ほど続けて私のシリアス回想をぶち込もうと思ったのだけれど」

 

「それはまた別の機会にね」

 

 彼女は大変不服そうな顔で、僕が差し出したコップにビールを注いでくれた。僕達がかちんとコップを打ち合わせる頃には場の空気は完全に元に戻っていた

 

 

________________________

 

 

 

『ホワイトレイヴン』

 

 生涯戦績0戦0勝。走れなかったウマ娘

 

 7歳まで入院生活、10歳まで1人で歩く事もままならずといった状態の生活を送り初めてレース場へ観戦に行く事ができたのは13歳の頃。これまでの人生で一度も全力で走った事が無く、またこれからも無い。彼女曰く、自分の役割はそれではないからとの事

 

 『コジマ症候群』はウマ娘が1万人に1人の割合で発症する難病で、10歳まで生き延びた症例はこれまで1つも無い。しかしレイヴンはなんか生き延び、なんか彼女の闘病生活のデータから治療法が確立されることになった。彼女曰く、まあそんな事もあるわねとの事

 

 物心ついた頃から周囲が悲観しすぎているというのもあってか本人は変に割り切った楽観思考であり、自らが絶世の美少女である事に気付いた時なんかには『まあこんだけ美しいのだから早死にするのもしゃーなしねw』と冗談半分に口にして両親と兄弟に泣くまで怒られた

 

 入院生活の間に山ほどレース映像や解説動画を見ており知識は高く、更に見ただけでウマ娘の適性や身体の状態を見抜くことができる等トレーナーとしての資質に恵まれている。退院後は祖父である泡斎の紹介もあり大和より少し早くトレセン学園にトレーナーとして就任した

 

 幼い頃によくお見舞いに来てくれた従兄弟とかつて交わした『元気に大人になってたくさんの友達と夜通しバカ騒ぎをする』という夢は現在進行形で叶い続けており、今は教え子達にケガ無く夢を叶えてもらう事を新たな目標として日夜頑張っている

 

 

 

 

 




ホワイトレイヴンは大和サブの幼い頃から1番身近にいたウマ娘でもあります


彼がウマ娘達には楽しくやりたいように走って欲しいと願うようになった根幹には彼女の存在があったりなかったりするのかもしれませんね……どうなんでしょうかね……



※あとレイヴンさんはこの作品を書く前にいくつか考えていた作品の主人公ウマ娘の候補だった子です。緑色に発光しながら音速で移動する伝説のウマ娘……みたいになりかけました

※※それと誤字報告ほんと助かってます。僕のチェック能力はぼろぼろです。全部残業が悪いんです
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