本来この子はちょっとした賑やかし程度のつもりで登場したウマ娘なのですけれど、わたくしの中で好感度上がりすぎてメイン回を書いてしまいました
GⅠに出場もできないウマ娘の方が圧倒的に多いという事を考えると、一度こういうお話も書いてみたいなと思った次第でございます
よければ読んでいただければと思いますわ
自分がウマ娘として〈終わった〉のはいつだろう
それなりの自信を持って入学したものの、自分は『その他大勢』の側だと気付いた時?
デビュー戦で躓いて、それから何度も負けて。そして負ける度に悔しいという感情が薄れていった時だろうか
トレーナーが退職してチームが解散になって、同室のワンモアダイブと2人学園に放り出された時には悲しむ前に自分の情けなさを笑ってしまう程だった
まあ、色々ある。事あるごとに打ちのめされてきた
『君は君だ。らしく在ればいい。ウマ娘らしく、競技者らしく。そういったレッテルが重荷だというのなら捨ててしまえばいい。君は〈コットンルル〉らしくあればいいのさ』
そう言われた時、私は色んな重たい物を捨てる事が出来た。それから私は私だと胸張って好き勝手、やりたいようにやってきた。それでいいんだよっていっぱい褒めてもらえた
だから今日の結果がどうであろうと、私は私だ。だけど___
「ケリをつけなきゃあね。それでも私、ウマ娘だもん」
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「そういう訳で私、今日で引退するねぇ」
「「「は?」」」
更衣室を兼ねた共同の控室の真ん中で、胸を張ってそう宣言したルルに視線が集中する。注目を浴びて鼻高々なルルの態度からは一片の暗さも感じられない。本心を隠して明るく振る舞っているのではなく、本当にそうなのだろうと他のウマ娘達は理解した
「……なんでそれ今言った?」
シューズの紐を調節していた葦毛のウマ娘レールカノンの手の中から靴紐がふわりと床に落ちた。彼女は結び直すのもやめて目を丸くしてルルに視線を向ける
「いやなんでって、私の引退って驚愕の新事実に調子を崩してもらえるかなぁって」
「自分の引退を臆面も無くネタにして私達の調子を落とそうとしてる……!?」
「なんてあくどいんだ……!これが中央ウマ娘のやり方!?」
「つかなんで引退なんすか!?ケガとかしたって話なかったでしょ!」
口々に告げるウマ娘達の中には中央トレセン学園ではなく地方のトレセン学園に通っているウマ娘の姿も混ざっている。今まで様々な地方レース場でルルと何度も鎬を削り合った顔見知り達であり、それなりに情報のやり取りもしていた。そんな彼女達も今の今まで知らされていない事だった
「ケガって訳じゃないよぉ。まあほら、私も長い事やってきてそろそろ頭打ちだなぁって自覚はあるからさ」
ルルはけらけらと笑った。言っておいてなんだったが、実力も人望もさほど無い自分の引退などあまり大きな衝撃など与えないだろうと解っていた。ただ間違ってもしんみりされては困るので、冗談めかして言えるタイミングを探りこうなったのだ。あんま気にしないでよ、とルルは明るく言ってのけるが何故か部屋がシンと静まり返っている
ん?と不思議に思ってみんなの顔を見ると、どうも自分の後ろを見ているらしかった。ルルはくるりと振り返り後ろに立っているウマ娘が誰かを知りぎょっとした
「……ルルちゃんもう走るのやめちゃうの?」
(しまった!今日ウララも一緒に走るんだった!)
きょとんとした顔で呆然と突っ立っているウララの傍に駆け寄ってルルは必死に頭を捻った。しかしなんにも言葉が見つからず、そうこうしている内にウララの顔が少しずつ曇っていく。尻尾が垂れ下がり、視線がずーんと床の方へ沈んでいった。その様子を見ていた他の出走者達が全員ウララの周りに集まって行く
「お前ェー!ウララちゃんを悲しませやがってルル!許せねぇ!」
「ウララちゃんを弄んで楽しいか!?この子は楽しく明るく走らせてあげなきゃならねえだろうが!?」
「中央ウマ娘の中でも断トツに汚い!中央ピンクダートウマ娘の心が淀んだ方!」
「あまりに酷いよぉ!いじめかなぁ!?」
「いいから励ましなさいって!」
ルルはどうするかうんうんと迷った挙句、ウララの頭に遠慮がちにポンと手を乗っけるといつものようにへらっと笑って彼女の顔を下から覗き込む
「あんま気にしないでいつも通りにやろうよぉ、ウララ。今日こそ重賞1着だーって笑ってたじゃん」
「でもルルちゃん……」
「走る時は全力でだよ、ウララ。最後に本気で勝負しようよ。ね?」
「……うんっ。ウララ、頑張るから!ルルちゃんも頑張ろうね!」
ぐっと決意を固めたウララに真っすぐ見つめられてルルも素直に頷いた。係員がドアを叩き、レースの準備が整った事が知らされる。遂にその時が来たのだ
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GⅠなどが開催される大きなレース場とは違う少々こじんまりとした作りではあるが、活気自体は決して負けず劣らず。色褪せた観客席に詰めかけたファン達は思い思いの方法で出走準備をしているウマ娘に声援を送っている。初めて地方レース場を訪れたスカーレットとウオッカは興味深げに辺りを見渡していた
「凄い人の入りね……」
「ダートレースって俺のちっちゃい頃はあんまり人気無いイメージだったけど、こうしてみると全然そんなことないよな」
「色んな子が頑張った結果だね。一時期日本のダートは『芝で勝てないウマ娘が集まる場所』なんて揶揄されていたけどその評価は完全に撤回されたといえるだろう。砂には砂のやり方がありそこにしか咲かない華があると皆が気付いた訳だ。それに今日はルルの応援団の人達も来てくれている。活気があるのも納得だね」
大和の視線の先にはピンクをトレードマークにした応援グッズで身を固めた一団が映っていた。ファンクラブに入っているファンだけが閲覧できるSNSを通して、コットンルルの引退は1ヶ月ほど前に彼等には知らされていた。決して口外しないようにと念を押されていたのもあって、その情報が外に漏れる事は無かった
今日がルルの引退レースになるとチームに発表されたのは今日の朝。先に現地入りする為早朝に合宿場を発っていたルルと大和を追いかけるようにかけつけたムーンシャインの面々は、レース開始直前になりようやく観客席へと姿を見せた大和サブをひっ捕らえて椅子に座らせて事情説明を求めて、そして今に至る
「……」
「ダイブ。いい加減機嫌を直してくれないかな。彼女の気持ちも解るだろう?」
「ムリ。私に止めさせてくれなかったんだから」
「君に止められたら心が揺らぐ。ルルはそう言ってたんだ」
ギロリと睨みつける視線を真っすぐ受け止めて大和は真面目な表情でそう答えた。苛立ちをどう口にしていいか解らないダイブの耳が後ろにぺたんと倒れ、その手の中でスチール缶がぐしゃりと握りつぶされた
「ルルがもし迷っているというのなら僕は止めただろう。ただ彼女は僕に決心を告げに来たんだ。であれば僕は彼女のやりたいようにやらせてあげるしかないんだよ」
「解ってるよ。でもアイツ、私には何の相談もしなかったんだ!それに私も同室なのに気付けなかったんだ……」
「それも仕方ないだろう。彼女は君に気付かれないよう振る舞う為、普段は自分の引退について忘れていたんだからね」
「ごめん、なんて?」
「僕もよく解らないけど、確かに僕が先週声をかけるまで彼女は自分が引退する事を本気で忘れていたよ。無意識化では覚えていたのか練習は一生懸命やってたけど」
「バカすぎるでしょ。いやバカなのかな?また違う何かなのかな?わかんなくなってきたから後で一発シバいて聞き出すわ。……はぁ。ウオッカ。スカーレット。まあ見てやってね。あいつバカだし、あなた達が目指すような1番のウマ娘とは程遠いけど……これまでずっと頑張って来た、私の友達なんだ」
溜息を付いてダイブは椅子に座り直した。視線の先にはゲート前で準備をしているピンクの髪のウマ娘。その小さな先輩がどういったレースをするのか、最初で最後の応援になるスカーレットとウオッカはごくりと唾を飲んだ
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『GⅢコンパイルステークス。1400m右回り。砂と夢が舞う真夏のダートコースに並ぶは14人のウマ娘。1番人気は1枠1番レールカノン。このレースで入着を果たせば秋のGⅠ、JBCレディスクラシックの出走条件を満たすとあってか気合も十分です。
2番人気は5枠9番コットンルル。彼女は今日のこのレースをもってトゥインクルシリーズからの引退を宣言しております。多くのファンの姿が観客席に見られますね。
じっと影で耐えてから最後に一瞬の爆発力を見せるロマンある走り、可愛げのある外見に見合わない過激で大胆な言動で多くのファンや競争相手をかき乱す様子から桃色ハリケーンの2つ名で呼ばれて長年親しまれてきました。彼女の引退は本当に惜しまれるものですね』
「ええー。紹介の仕方なーんか悪意あるよねぇ」
「事実じゃないの」
ゲート前、身体をほぐすルルの何気ない言葉に隣から刺々しくひりひりした返事が矢のように返ってくる。なんだか先程から皆の視線が妙に厳しく、なんか怒ってるんじゃないかなぁとルルはうっすら感じていたが、考えても解らない。隣のゲートに入ろうとしていたミルパスに直球で探りを入れてみる事にした
「ねえなんか皆怒ってない?」
「ブチギレてるわよ。あんた解らせてあげるからね」
「何を!?」
「まだ引退してる場合じゃないって事よ」
ミルパスはあっかんべー、とばかりに舌を出してゲートへ入って行った。困惑するルルは反対側の隣のゲートに入ろうとしていたヒガシカブラヤの方を振り返り同じ質問を投げかけてみることにした
「ねえカブちゃん。なんか皆怒って___」
「お前私に負けたら引退とか認めないから」
「え、じゃあ頑張って勝とうかなぁ」
「は?お前勝ち逃げとか許すと思ってんのか?そんなことしたら中央トレセン学園にカチコミかけてでも再戦してもらうからな?」
「詰んだんだけどぉ!?」
フン、と鼻息を荒く背を向けてゲートに入って行く。ルルはやれやれと肩をすくめて大きく深呼吸をするとぐるりとレース場を見渡した。敷き詰められた土と砂、忙しなく動き回るスタッフ。途切れ途切れに飛んでくる歓声と実況音声。見あげる空はレース場の外で見るよりずっと鮮やかに感じられる
こうしたレース場でしか感じられないものがルルは好きだった。しかしそれはこうして選手としてレース場に立たないと感じる事は出来ないのだろう。つまりこれが最後になるという訳だ。それに気付いたルルは少し寂しい気持ちになりながらゲートに入る
あとはいつもと同じだ。浅く呼吸をして重心を落とす。身体からゆるりと力を抜く事を意識すればそれがルルにとってのベストの準備体勢である。弾ける音と同時にゲートが開かれ、横一戦にウマ娘達が駆け出した
ルルは少しだけゆっくりとスタートした。最後方のスタートに観客席の一部から小さな悲鳴のようなものが上がった。彼女の普段の走りを知っているものからすればそれが良い物では無いように思えたのだろう
しかしルルはなんてことないようにすいすいと集団をすり抜けながら前へ前へと順位を上げて行き、そうしながらも周りを見る余裕がある。皆顔を引き締めて全力で走っている。誰もが懸命に勝利だけを目指していた
(……ああ。終わったんだなぁ私)
レースは楽しい。用意した手札を全て使っての駆け引き、それを土壇場でひっくり返す瞬間の判断と精神力。共に走る皆の熱い思いが振動を通して伝わってきて、それに共鳴する事で得られる特別な興奮がある
しかしもうルルはレースから緊張感を感じられない。傍観者でしかない。どこまでも勝敗が他人事のようで、心が揺られない。14人の中でただ1人、コットンルルだけがもう競技者として完全に終わっているのだ
(ただ、この瞬間。最後の最後だけは……みんなと一緒の気持ちで走らなきゃ!)
『ぐるぐると入れ替わる激しい先頭争いを制し、砂塵を巻き上げながらハナに立ったのは8番ミルパス!9番コットンルルがするりとその影へ入り込む!いつもの位置だ!
ただ後方集団も彼女の好きにはさせじと怒涛のスパート!10番ヒガシカブラヤが並ぶように先頭へ!負けじと2番レイドティンクルも上がってくる!おおっとここで3番ハルウララ!懸命に後方から上がって来ていたハルウララが先頭集団へ混ざりに来ました!』
「ううう~!おりゃー!」
懸命に手足を振り回しながらちょっとずつちょっとずつ前へ上がってくる。順位が上がる度に歓声をあげているのは彼女のおっかけ応援団だろう
コットンルルから見て、ハルウララというウマ娘はストレートに表現するなら『へぼ』だった。トレセン学園に入ってくる子達はどの子もある程度の実力を持っているか、そうでなくても磨けば光るものを感じさせる走りをする。しかしウララだけは全くの別だった。思わず目を奪われる程に遅い。これまでまともな指導など一度も受けた事がないのであろうとすぐに推察できる程にめちゃくちゃなフォーム。戦術度外視のがむしゃらなだけの走りだった
彼女をスカウトすると決めた野々原トレーナーは周りから猛反対を喰らい、あまりにウララを失礼に扱う他のトレーナー達にブチギレて掴みかかって投げ飛ばしたなんて話も出ていた。それくらい彼女の弱さは周知されていたのだ
しかし彼女にはとっておきがあった。負けても凹まない。諦めない。前を向くことを止めない。大層な義務感や鋼鉄の使命感を持っていた訳では無い。ただレースが好きで好きで、一着を取ってもっと楽しくなりたい。真っすぐにそれだけを目指していた。何度負けても、1度も勝てなくても。曇る事無く走り続ける彼女の明るさに惹かれていく人達の気持ちはルルにだって痛い程理解出来た
それはレースから去って行くウマ娘達が捨てて来た物だ。敗者である自分を上手に受け入れられず、常に言い訳を探し、そして最後にはレースを嫌いになる。そんな未来に怯える彼女達からすればハルウララの在り方は残酷な程に理想的だった
(そんなウララと最後に走れるなんて私は運が良いねぇほんと。追い越してってね、私なんかさ!)
『最終コーナーに差し掛かり1番レールカノンがすーっと前へ!ぐんぐん加速して行きます!最後の直線で彼女は強い!しかし9番コットンルルもそれは知っている!いつのまにやら彼女の後方に控えていましたコットンルル!最後に一花咲かせて欲しい!』
「いけぇ!ルルー!やってみせろよッ!できるんだろー!」
歓声をかき分けて届いたやかましい声はワンモアダイブだろう。すぐに感情が表に出る彼女の声は泣きそうなのを隠そうともしないふにゃふにゃした鼻声になっている。スパートをかけようとしている時に笑かさないでよ、とルルはにやつきながら地を蹴って風よけに利用していたレールカノンの横に並んだ
(ここまで運んでくれてありがとねぇカノン!)
(はっ!遊んでやるよルル!)
『並んだ並んだ最後の駆け引き!コットンルルが出るかレールカノン抑えるか!
しかしハルウララがここでッ!やってきたのはハルウララ!砂ぼこりを舞い上げてぐんぐん伸びますハルウララ!並ぶか!並ぶか!並んでいる!後ろとの差は1バ身離したか!
先頭はどうか、誰が先頭だ!僅かにコットンルル!いやレールカノンが譲らない!譲れない!だがしかしハルウララ大きく跳ねた!そのままゴールだハルウララ!
ハルウララが1着!重賞GⅢレースを制しましたハルウララ!満面の笑顔です!2着はアタマ差でレールカノン!3着にはコットンルル!桃色のバトンが次の世代に渡りました!』
身体に溜まった熱気を長い一息で吐き出した。それに乗って自分の中に残っていた僅かばかりの悔いが消えていくのを感じたルルは誰ともなし大きく頷いて空を見上げた。もう空の色は特別な鮮やかさを放ってはいなかった
「終わったかぁ。まあ、いい結果だったねぇ。のわぁ!」
横からぶっ飛ばされるような勢いで抱き着かれてルルの視界いっぱいにぽよんとした胸が押し付けられた。自分より背の高いレールカノンに抱き着かれた事を理解したルルは彼女の背中をぽんぽんと叩いてやる
「ありがとねぇカノン。全力でやってくれて」
「辞めるなよ……!また私と走れよ!」
「ありがとねぇ。あんたみたいなのに泣いて引き留められるなんて、これ以上は無いって感じで嬉しいねぇ。でもちょっと汗臭い」
「この野郎……!」
視界を横に向ければハルウララがぐっと唇を結んでこちらを見ていた。手招きをすると彼女もいっしょになって飛び込んでルルの腰に抱き着いてきた
「ウララすごいねぇ。速くなってるとは思ってたけど、もう私よりずっと速くなったんだねぇ」
「ううぅ~。ルルちゃーん!寂しいよぉ……!」
「なんかウララが泣いてるの見ると心が痛くなっちゃうなぁ……引退するのやめようかな」
「お前!私は軽く流したクセにこの野郎!そういうとこが嫌いなんだよ!」
レールカノンは流れるようにルルの腰に手を回し、抵抗も許さず担ぎ上げた。こうなると身長で負けるルルになすすべは無い。そのままルルは駆け寄って来たウマ娘達にお神輿のように担がれてレース場をぐるぐると周回する羽目になった
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「あー負けちゃったねぇ」
「ああ。勝てなかったね」
「でもいい走りだったでしょぉ?」
「掛け値なしにね。最高だったよルル」
選手用の控室から外へと繋がる廊下を歩くルルはスッキリとした顔だった。だから彼女の選択は間違っていないのだろう
「満足した。出し切った。ちゃんとそう思えたから……。だから大和サブも気にしないでね」
彼女が言葉を切って、僕の腕に顔をこすりつけるようにしてもたれかかってきた。よろめく彼女を支えるように歩調を合わせながら、僕は一度だけ尋ねる事にした
「悔いはないのかい?」
「GⅠにも出たかったしファル子ちゃんにも一回くらい勝ちたかったし、色々出来なかったことはあるよ。でももういいんだぁ。私のレースはもうここまで。いいんだよこれで」
「そうかい」
「でも、ちゃんと明日からも『コットンルル』として頑張ってくからさ。それなら大和サブも安心でしょ?」
「ああ。安心だよ」
僕と出会ってからもしばらくの間道を見失って全てに投げやりになっていたルルと2人で立てた目標は『胸を張って終われるように頑張る』だった。彼女は心から満足している。燃え尽きて消えそうな気配ではなく、達成感と明日への希望に満ちている事が見て取れた。であれば、僕も自分のこれまでの仕事に胸を張る事ができる。
僕が心から安心した事を伝えると満足したようで、ルルは最後にぐいぐいと僕の腕で顔を拭くとするりと離れて、辿り着いた選手用の通路から外へ繋がる扉を勢いよく開いて外へ出た
「あ!出て来た!ちょっとルル先輩どういうことなんですかー。聞いてませんよアタシ達は」
「おいルルお前!私に相談も無いとはいい度胸じゃ___」
ルルは素早いステップでこちらへ戻ってくるとパタンとドアを閉じた
「大和サブ。幅跳びしよう」
「高飛びって言いたいのかな」
「そうそれ!」
「残念だけど出口はここだけなんだルル。お外へどうぞ」
「ボコされるかもしれないよぉ……!」
「少なくともこの後のウイニングライブまでは大丈夫だと思うよ。その後は君次第だね」
というかそもそも隠すからこうなるのだ。相談してちゃんと話し合えば皆ルルの気持ちを尊重してくれただろうに。でも隠したいと言ったのはルルだから、ここは甘んじて受け入れて欲しい。深呼吸をして決意を固めたらしいルルは再び扉に手をかけ、僕の方を振り返ると真剣な顔で
「後輩2人に伝えて欲しいの。私は諦めたけど、2人は諦めないでね。1番になることを。……ってね」
カッコつけた感じでそう言い放つと彼女は外へ飛び出していった。待ち構えていたファンとチームメイトに出迎えられて悲鳴とも笑い声とも区別がつかない奇声が飛んでくる
揉みくちゃにされて泣きながら笑っているルル達を少しの間見守ってからするりと外へ出る。からりと晴れた夏空はいつもと変わらず気持ちの良い青さで満ちていた
コットンルルとワンモアダイブは、名無しのモブから名前付きの設定を背負ったキャラに昇格したオリキャラです。諦めきれない程度に勝ち、自信を持てる程は勝てない。トレセン学園に多くひしめくその他大勢のモブの中でちょっと目立つ子、という立ち位置です
メイン回を書く予定は無かったのですが、こういった子達がどういう風に去って行くのかなという妄想を抑えきれず投稿させていただいたお話です
中等部の間に一勝もできずに去って行くウマ娘もめちゃ多いのかな……とか考えて悲しくなっていましたが、メイショウドトウちゃんのストーリーで本格化どうこうの設定があることを知りました。アプリ版でも高等部からデビューする子も多いですし、中等部の間はトレーニングだけ、という子も結構多いのかもですね